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NIMS 賞受賞者にハラルド・ローゼ教授(独ウルム大学)ら 3 名が決定
~電子顕微鏡用の収差補正装置の開発と普及に対する貢献を評価~
平成 27 年 4 月 27 日
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
概 要
国立研究開発法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝(以下、NIMS)
)は、本年度の NIMS
賞受賞者を下記の 3 名に決定いたしました。
《受賞者》
ハラルド・ローゼ教授
マキシミリアン・ハイダー教授
クヌート・ウルバン教授
(ウルム大学)
(カールスルーエ工科大学) (ユーリッヒ研究センター)
《受賞理由》
電子顕微鏡用収差補正装置の理論検討・装置開発・材料応用と普及
ローゼ教授ら 3 名は、電子顕微鏡の収差(ボケやゆがみ)を補正する装置を開発し、それまではっ
きりと見ることが不可能であった界面や欠陥を鮮明に観察することを可能にしました。また、原子
位置を正確に捉えることを可能にすることで、材料の性質と原子の配列との関係を議論することを
可能とし、その後の材料科学研究に大きな影響を与えた点などが高く評価されました。受賞セレモ
ニーおよび受賞記念講演は、7 月 14 日(火)~16 日(木)の 3 日間、つくば国際会議場(エポカ
ルつくば)にて開催される NIMS コンファレンスにおいて行われる予定です。
【NIMS 賞】
NIMS では、毎年 7 月に開催される NIMS コンファレンスに合わせて、物質・材料に関わる科学技術にお
いて優れた業績を残された研究者に NIMS 賞を授与しています。NIMS コンファレンスのテーマに沿って世
界各国のトップ科学者から候補者をノミネートし、中立な立場の有識者で構成された委員会により厳正に最終
選考を行っています。
【NIMS コンファレンス】
世界最先端の研究者を招き、材料科学・ナノテクノロジー・環境・エネルギー関連の様々な問題を議論し、
最新の研究成果を発表する国際会議「NIMS コンファレンス」を開催しています。第 12 回目となる平成 27
年度は“最先端計測が切り拓くマテリアルイノベーション”を主題とし、7 月 14 日(火)~7 月 16 日(木)
の 3 日間、つくば国際会議場にて開催します。
第 12 回 NIMS コンファレンス 公式ウェブサイト
http://www.nims.go.jp/nimsconf/2015/
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NIMS コンファレンス 2015
2015 年 NIMS 賞受賞者
Prof. Harald Rose (Senior Guest Professor of University of Ulm)
Prof. Maximilian Haider (Honorary Professor of Karlsruhe Institute of Technology (KIT) , Senior Advisor of
Corrected Electron Optical Systems (CEOS) GmbH)
Prof. Knut Wolf Urban (Jülich Aachen Research Alliance (JARA) Senior (Distinguished) Professor of
Peter Gruenberg Institute (PGI-5), Research Centre Juelich)
(1)研究分野:
材料の極微小領域の評価技術の開発。電子顕微鏡に関係する電子光学理論、装置開発、および材
料評価への応用。
(2)研究成果の名称:
電子顕微鏡用収差補正装置の理論検討・装置開発・材料応用と普及
(3)研究成果の概要
球面収差補正装置の理論検討・装置開発・材料応用
電子顕微鏡では、光学顕微鏡で用いるガラスレンズの代わりに、磁界によって電子を曲げる事でレ
ンズを構成している。しかし 1936 年に Otto Scherzer は、通常の磁界によるレンズにはかならず正
の収差があり、平行な電子ビームを一点に集める事が出来ない事を証明した。それ以降、様々な方
法で収差を克服する努力が 50 年以上も続けられてきた。多くの困難を乗り越え、収差を補正し高分
解能化できる収差補正装置(コレクター)の開発に成功したのが、1990 年に Maximilian Haider 教
授、Harald Rose 教授、Knut Wolf Urban 教授らが始めた研究プロジェクトである。当時は収差補正
装置による分解能向上の試みは学会の主流では必ずしもなかった。Rose 教授が専門とする電子光学
理論によって電子軌道と収差の計算を行うことで電子光学素子の形状と配置を決定し、Haider 教授
が実際の収差補正装置と調整するためのソフトウエア等の開発を行い、Urban 教授が材料と電子顕
微鏡観察の専門家として、開発された収差補正装置による材料観察への応用を果たし、その威力を
世界に知らしめた。このプロジェクトの成功によって、それまで収差の影響ではっきりと見ること
が不可能であった界面や欠陥を鮮明に観察することが可能となったほか、原子位置を正確に捉える
ことも可能となった。
収差補正電子顕微鏡の学術界・産業界への普及
収差補正技術は Haider 教授の率いる CEOS 社(独)によって、電子顕微鏡メーカーの高性能電子顕
微鏡に実装され、世界中に販売されている。収差補正装置の基本構造である多極子レンズと転送レ
ンズを組み合わせた方式は Rose-Haider 式とも呼ばれている。開発当初透過電子顕微鏡(TEM)に搭載
された収差補正装置は、その後発展した電子線を細く収束したプローブを用いる走査透過電子顕微
鏡法(STEM)でも用いられ、今では高分解能像だけにとどまらず、原子一つ一つを識別して分析す
ることが可能となっている。これらは収差補正装置の開発と普及のおかげであり、世界の材料研究
に与えた影響は計り知れない。最近では代表的な収差である球面収差のみならず、色収差について
も補正装置を実現しており、現在もなお研究が進められている。
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【NIMS コンファレンス】
NIMS では、世界最先端の研究者を招き、材料科学・ナノテクノロジー・環境・エネルギー関連
の様々な問題を議論し、最新の研究成果を発表する国際会議「NIMS コンファレンス」を開催して
います。第 12 回目となる平成 27 年度は“最先端計測が切り拓くマテリアルイノベーション”を主
題として開催されます。
二次電池などのエネルギー材料、光触媒などの環境材料、次世代の情報通信材料、省エネルギー
を実現する構造材料など、社会ニーズに応える先進材料の有用な機能を担うのは、表界面や材料内
部の構造、組成、組織などの材料特性であり、それらを解明し新たなイノベーションを切り拓くた
めには世界最先端レベルの計測が必要です。材料の新規機能が発現するメカニズムを原子レベルや
マルチスケールで計測し、高度なデータ処理技術や計算科学を駆使することで、材料イノベーショ
ンをさらに加速できる可能性があります。
この会議では最先端計測手法として、電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡、放射光X線計測、中性
子計測、固体NMR、環境エネルギー材料のオペランド計測、および先端計測を基盤としたマテリ
アルインフォマティクスをとりあげます。これらの計測技術の最新の研究成果や、革新的材料の創
出を目指した最新の計測結果が発表されます。国内外の第一線で活躍している著名研究者による基
調講演をはじめ、上記の課題を議論するテクニカルセッションが開かれます。
【NIMS 賞】
本コンファレンスでは、物質・材料に関わる科学技術において優れた業績を残された研究者に
NIMS 賞を授与しております。今回の最先端計測のテーマに沿って世界各国のトップ科学者から 40
名の候補者をノミネートし、中立な立場の有識者で構成された委員会により厳正に最終選考を行っ
た結果、電子顕微鏡用収差補正装置の開発と普及に多大なる貢献をされている、ウルム大学のハラ
ルド・ローゼ教授(Prof. Harald Rose)
、カールスルーエ工科大学のマキシミリアン・ハイダー教授(Prof.
Maximilian Haider)、ユーリッヒ研究センターのクヌート・ウルバン教授(Prof. Knut Wolf Urban)の 3
氏に受賞者が決定いたしました。電子顕微鏡で原子レベルの観察と分析を可能にするためのブレー
クスルーとなった収差補正装置の理論、装置開発と材料開発への応用が、委員会にて特に高く評価
されました。NIMS コンファレンスにおける受賞セレモニーの後、受賞記念講演が行われる予定で
す。
用語説明
1) Otto Scherzer (1909-1982)
電子顕微鏡の理論研究の先駆者であり、元ダルムシュタット工科大学(独)の教授。電子顕微鏡で
高い分解能を得るための最適条件を提案し、それは現在 Scherzer(シェルツァー)条件と呼ば
れている。今回の NIMS 賞受賞者の一人である Rose 教授は、大学時代に Scherzer 教授の薫陶
を受けている。
2) 電子顕微鏡
光学顕微鏡で使う光ではなく電子を使って、極微小領域を観察する装置。電子顕微鏡で用いる
電子の波長は光の波長と比べて5 桁程度短いため、
原子レベルの高い空間分解能で観察できる。
試料を透過した電子を多段のレンズで拡大する透過電子顕微鏡(TEM)や、レンズを使って小さ
な領域に電子を収束し走査しながら画像を観察する走査透過電子顕微鏡(STEM)などがある。
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3) 収差(aberration)
顕微鏡で使うレンズの不完全性。収差が無ければ平行な光や電子は一点に収束し、ぼけの無い
完全な画像が観察できるが、実際には収差があるため画像がぼけてしまい分解能が低下する。
収差には様々な種類があり、典型的な収差には球面収差(レンズの周辺を通った電子の収束が
ぼける)や、色収差(異なるエネルギーの電子の焦点がずれる)などがある。
4) 収差補正装置(aberration corrector)
電子顕微鏡の収差補正装置には、現在多くの方式が提案され実用化されている。今回の NIMS
受賞者により提案された、Rose-Haider 方式の球面収差補正装置の場合には、多極子レンズの
一種である 6 極子レンズ 2 つと 4 つ以上の磁界レンズとを組み合わせることにより、球面収差
やそのほかの多数の収差が補正される。実際に使用するためには、数多くの収差係数をその場
で実測することが必要で、ソフトウエア制御されたシステムで画像観察と収差計測を繰り返し
行うことで、初めて収差が補正できる。
本件に関するお問い合わせ先
(NIMS 賞および NIMS コンファレンス 2015 に関すること)
〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1
国立研究開発法人物質・材料研究機構
外部連携部門 学術連携室 学術交流チーム
八月朔日 早苗
TEL:029-859-2890 FAX:029-859-2161
E-mail: [email protected]
(報道に関すること)
国立研究開発法人物質・材料研究機構
企画部門広報室
TEL:029-859-2026
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