∼デザイン考察

∼デザイン考察
文章:栗原賢一
アがある。大抵のスイングドアは両側に取っ手が
機械音痴と呼ばれる人たちがいる。高機能な家
ついていて、片側には「押す」反対側には「引
電製品やコンピュータ等が彼らの敵だろう。彼ら
プログラムとライブラリを
く」と書かれている。こう書いておけば押すのか
は機械音痴であることを自分のせいだと考えてし
マクロファイルは存在しません。
引くのか分かるというわけだ。これは一見良さそ
まう人が多い。しかしそうではないと考える人が
うなデザインに見える。しかし、ノーマンさんに
いる。Donald A. Norman である。彼は「THE
言わせれば「押す」、「引く」などの「説明書き」
PSYCHOLOGY OF EVERYDAY THINGS(邦題:
さえ本当はいらないというのだ。つまり扉の片方
誰のためのデザイン?)
」という本(以下、POET)
にはプレート(押すことしか出来ない)、反対側
の中で、使いやすいもののあり方について論じて
には取っ手をつける。そして、取っ手の側から反
いる。
対側にプレートがあると見えるようにしておけ
インストールしただけでは、
ば、もうこの扉に説明書きはいらない。この例の
ように、操作を限定させ、システム全体を目に見
ノーマンさんによると機械音痴の人がうまく機
械を扱えないのはその機械のデザインが悪くて使
えるようにすれば、より直感的に理解可能なデザ
インにすることができる。
いにくいというのだ。実はこの話は機械に限った
ことではない。ホテルにありそうな洒落た蛇口
(押し下げるのか、上げるのか、はたまた回すの
現代、一般の人にとって生活で必要なほとんど
か)や、ぴかぴかのガラス扉(押すのか、引くの
のものはお金を出して買わねばならない。だから
か)など、日常には試行錯誤してしまうものが多
誰だって、使いにくいものは買いたくない。しか
くある。しかしこれらのものもうまくデザインし
し多くの家電製品や、使いやすいとうたわれてい
てやれば間違うことなく操作できるというのだ。
るパソコンはまだまだ難しい。
例を挙げてみよう。図1aの蛇口を見て欲し
ノーマンさんはPOET の最後に言っている。
「よ
い。これを見てどう動かせば水が出ると考えるだ
いデザインをした人には心の中で賞をおくろう。
ろうか? 多くの人は取っ手を押し下げるか、押
よいデザインをしてくれなかった人には厳しい批
し上げるだろう。しかし、この形の蛇口で左右に
判をしよう。
」ノーマンさんのPOETが出版された
回すものを、私は見たことがある。左右に回すの
のは 1988 年のことである。もう 10 年以上が経っ
なら、図1bの蛇口の方が自然な形ではないだろ
た。おそらく88 年当時よりはもののデザインにつ
うか。これらは簡単な例だがいい教訓になると思
いて関心が高くなったのではないかと思う。しか
う。つまり、ものの形はどうやって操作するのか
し、いまだに世の中には使いにくいものであふれ
を教えてくれるのだ。
ている。だからデザイナーはもっと使いやすさを
次は一見良さそうだがもっといいデザインがあ
考え、ユーザーはもっと批判をしなくてはいけな
るのだという例。よくコンビニなどにスイングド
い。機械音痴の人は自分が悪いと思うのではなく
て、自分が分からない操作があればそれをちゃん
a
b
とデザイナー(作った会社)にフィードバックし
なくてはいけない。
POET には実に多くのことが書かれている。デ
ザインに興味がある人はぜひ、そうでなくても将
図1
1
来、物作りをしそうな人にも読んでもらいたい。
Vol.42