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「保育内容(環境)」学習指導書
「保育内容(環境)Ⅱ」使用テキスト
●「事例で学ぶ保育内容〈領域〉環境」
(株)萌文書林/無藤 隆 監修・福元真由美 編者代表
はじめに
本科目は、保育内容の5領域(健康、人間関係、環境、言葉、表現)の中の「環
境」の領域を学ぶ科目である。
テキストで学ぶ前に、『幼稚園教育要領』『保育所保育指針』を一通り読んだ
上で、領域「環境」に関する位置づけや、他の領域との関連性を念頭に入れて、
学んでいってほしい。
テキストは、カラー写真を多用しており、事例が充実している。各事例を読
みながら、この事例では保育者はどのように援助したらよいのか、環境構成は
どのようにしておけばよいのか、イメージを持ち考えながら読み進めていって
ほしい。各章末にある「この章で学んだこと」を参考にして、章ごとに学んだ
ことを振り返ったり、自分の考えた保育実践と照らし合わせて学習するとよい
だろう。
また、テキストだけでなく、自分自身が幼児期に体験した保育環境における
エピソードや、実習などで接した子どもたちの様子を思い返したり、他の参考
文献などを参考にしたりして、子どもと環境についての理解を深めていってほ
しい。
テキストでの学習を通して、子どもの学びや育ちのために、保育者がどのよ
うな役割を果たしていけばよいのか、環境は子どもにどのような作用をするの
かを考え、自分自身の保育に活かせる糸口になればと考える。
本科目の概要
以下に、章ごとに学んでほしいポイントや各章の概要をまとめておく。テキ
ストと合わせて、参考にして学んでほしい。
─1─
第1章 幼児教育の基本
本章は、幼児教育の基本的な考え方をまとめた章である。領域「環境」だけ
にとどまらず、幼児教育、保育の基本的な考えや保育者の役割について言及し
ている。
本章では、幼児教育の基本的な考えを押さえることや、子どもにとって環境
が持つ意味について考えてほしい。保育環境の意義や社会的役割、保育者とし
ての援助の方法など、理論的な知識を身につけ、実際の幼児教育や保育に取り
入れられるように考えていくことは重要である。本章をとおして、保育者のさ
まざまな役割についてもここで押さえてほしい。また、他の領域(健康、人間
関係、表現、言葉)との関連性も踏まえて、総合的な幼児教育や保育に対する
考え方を身につけていってほしい。
第2章 子どもの育ちと領域「環境」
本章は、領域「環境」に関して理論的に構成した章である。第1章を踏まえた
上で、子どもの育ちと環境の関連性について考えていく。
本章では、まず子どもの発達における環境の重要性について考えてほしい。ブ
ロンフェンブレンナーは4つの環境システムの考え方を示している。このような
環境の捉え方もあることもここでは押さえておきたい。また、子どもがどのよう
に環境とかかわっているのか、保育のなかの子どもの学びの基礎となるあり方と
して、P.40 で無藤の「学びの 3 つのモード論」を引用している。このような考
えも踏まえ、子どもが様々なものとのかかわりをとおして、多くの経験をし、心
を豊かにしていくことを捉えてほしい。子どもが自発的に行動することで、多
くの経験をし、学んでいくことを押さえておくとよいだろう。テキストでは、ア
フォーダンスの考え方を参考にして書かれている記述がある。本章の P.44 でア
フォーダンスについて捉え、
以後の章の学習に役立ててほしい。また、
自然、
もの、
人、
社会的文化的な環境など、
「環境」にもさまざまな捉え方があることを踏まえ、
子どもを取り巻く環境について、身近にどのようなものがあるのか、具体的に考
え、それらがどのような作用をしているのかを考察できるようにしてほしい。
─2─
第3章 自然に親しみ、植物や生き物に触れる
本章では、子どもたちが自然の中で体験することや学んでいることを事例か
ら学んでいく。
本章では、子どもが自然にどのように出会っているのかを踏まえた上で、自
然に関する環境構成について言及している。事例 3−2 では、年齢ごとに同じ環
境にいても、年齢や発達に沿った保育内容を提示することで、異なった学びに
導くことができることや、保護者の保育における協力や参加のあり方を押さえ
てほしい。
自然を取り入れることで、どのようなことを子どもが気づき、どのような思
いを育むことができるのか、自然環境と子どもの育ちについて捉え、水遊びや
雪遊びなど季節に応じた体験のできる保育を考えることが重要である。また、
動物の飼育をしたり、植物の栽培をすることで、子どもがどのような思いを抱
くのか、特に、事例 3−17 にあるような命にかかわる教育との関連も考えてほ
しい。
P.72 の「この章で学んだこと」の自然にかかわる保育をする上での5つの留
意事項を押さえておくとよいだろう。本章を通して、自然環境を取り入れて、
どのような保育が展開できるのか、また、どのような援助をすることで子ども
の学びを発展させることができるのかを考え、実践する一助にしてほしい。
第4章 ものや道具にかかわって遊ぶ
本章では、子どもたちが様々なものや道具と出会う中で、どのような学びが
あるのかをエピソードから捉えていく。
事例 4−1、事例 4−3 では、保育者のかかわり方や言葉かけ、道具の準備の違
いで子どもの遊びの広がりが捉えられる。このように、子どもの思いを受け止
めながら、子どもの動きを認めて、適切に道具などを調整し遊びの展開を援助
したり、言葉をかけてイメージを広げたりすることが保育者の役割であること
を学んでほしい。
身近なものに触れて、工夫して使うことも子どもにとって重要である。事例
─3─
4 − 4 のはさみのエピソードのように、子どもがはさみで紙を切ることができ
なくても、保育者はそれを子どもが楽しみとしていることに気づき受け止め、
「切
る」ことを援助することも大切である。事例 4−6 や事例 4−8 では、牛乳パッ
クやパネルなどありふれたものが子どもの遊び道具になることを捉えてほしい。
また、子どもたちがその取り組む友達の様子から、各自の遊びが発展し学びに
つながったり、仲間関係が親密になり、他者と一緒に過ごす心地よさになって
いることもここでは押さえておくとよいだろう。
一連の事例を通して、遊びの中で、子どもたちが様々な法則性に気づき、工
夫して遊ぶことで遊びが広がり、多くのことを学んでいることにも着目してほ
しい。子どもは様々なものや道具を使って、遊びを展開する。子どもの道具の
使い方、遊び方に対して、保育者は安全面に配慮しながらも柔軟に捉え、援助
していくことが重要である。
第5章 文字や標識、数量や図形に関心をもつ
本章では、子どもが文字や標識、数量や図形に関心をもつには、どのような
環境構成をするとよいのか、どのような配慮が必要なのかを事例を見ながら考
えていく。
子どもたちは環境の中で、文字や標識、数量や図形に出会っている。子ども
たちはその出会いの中から、事例 5−3 のように文字を捉え、友達とのかかわり
の接点にしたり、事例 5−12 のようにごっこ遊びに文字や数字を取り入れたり
していることがわかる。また、量をはかったり、比べたり、図形に触れることで、
子どもたちが自然と、文字や標識、数量や図形に興味を持ち、遊びや生活に活
かしたり、法則性を導き出しているといえよう。
教育的に文字や数字などを教えるのではなく、日々の生活や体験の中で、子
どもたちが自然にそれらとかかわりを持ち、様々なことに気づき、遊びの中に
取り入れていけるように、保育者は工夫して環境構成をすることが重要である。
─4─
第6章 遊びや生活の情報に興味をもち、地域に親しむ
本章では、身近な環境における情報や地域とのかかわりなどを事例を通して
捉えていく。
子どもの興味関心を理解し、環境を構成し、保育を実践していくことは重要
である。事例 6−4 や事例 6−5 にあるように、保育者が子どもの興味関心を持っ
ていること、気づいたこと、発見したことに共感し、時にそれを他の子どもた
ちに伝えたり、共有するなど、子ども同士をつないだり、その気づきを友達に
促すことも重要な役割である。
子どもたちは、友達や養育者、保育者の他にもマスメディアや地域の情報など、
保育環境以外で得た情報を遊びに活かしている。保育者は、子どもたちが得て
いる情報や思いを汲み取り、事例 6−7 や事例 6−8 のように、文字を書いたり
言葉かけをして、子どもの遊びが広がる援助ができるように配慮していくこと
が重要である。また、クラス間交流、異年齢児との交流や幼小連携など、クラ
ス以外の子どもと接する機会を作って、一緒に活動を行うことも大切である。
一連の事例にあるように地域に親しんだり、日本の文化や異なる文化に関し
て興味関心が持てるように保育計画を立案し、様々な機会を設けることも保育
者の役割である。地域の祭りに参加したり、公共の施設に訪問するなど、様々
な人や場所に出会う機会を作ることで、子どもの社会性を促すことにつながる
といえよう。常に日本の伝統行事を理解したり、地域の情報なども収集してお
くことが大切である。
家庭との連携を深めるために、養育者と常に口頭や掲示物、配布物を利用し
て連絡事項や子どもの様子を知らせることで保育に対する理解を促すことも保
育者の重要な役割だといえよう。また、季節や節目に応じた保育行事に参加す
る機会を設けるなどして、家庭との連携をしていくことも重要である。
─5─
第7章 子どもと環境のかかわりをとらえる視点
本章では、子どもがどのように環境とかかわっているのか、様々な視点から
見ていく。
これまでの章で見てきたように、子どもたちは保育環境の中で、様々な経験
をし、興味関心を抱き、主体的に活動をしている。その際に、保育者が適切な
援助をすることで、子どもの世界は大きく広がっていくことに留意して子ども
とかかわっていってほしい。
事例 7−5 では、色水づくりをしている子どもに対して、保育者は共感を示し、
言葉をかけつつも見守る姿勢をとっている。このように、子どもの遊びを気に
かけながら見守ることも大切な援助方法である。子どもが自ら気づき、発見す
る過程も大切にしたいものである。
一方で、事例 7−7 のように、保育者自らが子どもの遊びの中に入って行き、
泥だんご作りのうまい子をお手本にしながら、遊びを広げていくことも重要で
ある。保育者が子どもと一緒に遊びや活動をすることで、安心感を与え、遊び
を通して子どもたちをつないでいく役割を果たすことも大切である。また、子
どもたちの得意分野に関して関心を払い、時には特定の子どもを他の子どもた
ちのモデルや “ 先生 ” として、保育者が働きかけ保育を展開することも重要で
ある。
保育者が常に子どもの活動や興味関心に注意を払い、時に見守ったり、遊び
や活動の中に入っていくなど、柔軟に子どもの援助をしていくことも大きな役
割だといえよう。
第8章 幼児教育の現代的課題と領域「環境」
本章は、子どもの育ちと学びを理解する視点を再検討するとともに、現代の
幼児教育の課題について捉える章である。
子どもたちがどのような育ちをしているのかを捉えた上で、子どもと自然、
もの、人、出来事をつなぐことは保育者の大きな役割である。子どもが様々な
ことに興味関心を持ち、活動を誘発していけるように常に何らかのねらいや考
─6─
えを持って環境を構成し、教材を準備しておきたいものである。そして、発達や
季節感を考慮しながらも、子どもの活動や遊びの展開に応じて、準備物の種類、
数、配置など、柔軟に工夫することが必要である。また、子どもたちの興味関心
に応じて、子どもたち自身が環境を考え、遊びや活動に必要なものを選んだり、
工夫できるように環境を整備しておくことも重要である。
保育者は、保育、育児にかかわる現代的な課題についても理解しておく必要
がある。少子化やライフスタイルの変化、都市化の問題など、現代社会が抱え
る問題が保育や育児の問題にも大きく作用している。また、地域によって、待
機児童の問題や育児の環境にまつわる問題は異なっていると考えられる。保育
者は、地域における育児・保育の問題を捉えたり、近隣の保育所・幼稚園にお
ける保育の動向を学んだり、研修会に参加したり、保育に関する本を読むなど、
常に新しい情報を取り入れ、保育に活かしていってほしい。
養育者のよき育児の相談相手としての役割を担ったり、地域や家庭との連携
役として機能することも社会からは期待されていることも認識しておきたい。
また、海外の保育などにも興味関心を持ち、新しい情報を得ていくことも必要
である。
おわりに
これまで環境における保育者の役割や子どもにとっての環境の意義について
学んできた。保育者は、環境の中で子どもは育つことを念頭に入れて、計画的
に保育を実践してほしい。また、子どもたちが気づいたり、発見することで、様々
な学びを得ていることに目を向け、多くの経験ができるように、保育者はねら
いを持って環境構成をすることが重要である。
保育者は、子どもと向き合い、子どもの思いを捉え、共感することが大切で
ある。そして、時に見守ったり、言葉かけなどをしながら、子どもの興味関心
を促し、遊びを広げることが保育者の重要な役割だといえよう。また、環境に
関して、季節感や発達、地域性なども考慮しつつ、子どもの活動や遊びを見な
がら、常に工夫し、配慮することが重要である。また、子どもの個人差や個性
を鑑みて、1人1人に沿った適切な援助をしたり、子どもが主体的に試行錯誤
─7─
して自分にとって楽しい環境を作ることができるように支援していくことも必
要であろう。
子どもの興味関心を促すような環境を構成する前提として、常に保育環境の
安全性に留意し、清潔に整備しておくことも大切である。また、子どもにとって、
居心地のよい環境作りに関しても留意しておきたいことである。子どもたちに
とって、保育者が安心や信頼のできる人的環境であることも心にとどめて保育
を実践することも重要である。
保育所・幼稚園は現代社会において、家庭や地域との連携という意味でも大
きな役割を期待されている。養育者の家庭環境や地域社会について、関心を持ち、
適切な援助や連携を果たせるように心がけてほしい。
テキストでは、領域「環境」に関する歴史や保育計画に関する記述がほとん
ど見られなかった。また、3歳以下の事例も取り上げられていなかった。この
ような点に関して、次頁に挙げる参考文献やテキストに掲載されている参考文
献などを読み、理解を深めてもらいたい。
リポート作成と試験に関する留意点
本科目の評価は、リポートと試験によってなされる。リポートに関しては、
本科目の総論的な位置づけであり、試験は「幼稚園教育要領」や「保育所保育
指針」に基づいた各論的な位置づけになっている。テキストだけにとどまらず、
次頁に挙げる参考文献などを参照しながら、具体的に論述してほしい。また、
できるだけ具体的な援助の方法や環境構成を挙げながら、あなたの考えを述べ
てもらいたい。
─8─
参考文献
『保育内容 子どもと環境 ― 基本と実践事例 ― 第二版』田尻由美子・無藤隆(編著)2006
『演習 保育内容 環境』柴崎正行(編著)建帛社 2009
『最新保育講座9 保育内容「環境」』柴崎正行・若月芳浩(編著)ミネルヴァ書房 2009
『新保育シリーズ 保育内容 環境』柴崎正行・赤石元子(編著)光生館 2009
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