である.抵抗の抵抗値はいずれも等しいとする.これを Bridg-It 盤面の電気回路表現と呼ぶ.先手が線分を引く時は, 連結ゲームの電気回路表現による解析 対応する抵抗を銅線で置き換え,抵抗値を 0 にする(短絡). 後手が線分を引く時は,引いた線分と交わる回路上の抵抗を 切断し,抵抗値を無限大にする(除去). 図 2(右)は後手の Analysis on a connection game 引きうる線分を模したもので,後手が線分を引くときに短絡, in electrical circuit representation 先手が線分を引くときに除去を行う [1]. 制度設計理論(経済学)プログラム 11_14830 滝田潤 Jun Takita 指導教員 松井知己 Adviser Tomomi Matsui 本研究では,ボードゲーム,とりわけ連結ゲームと呼ばれる クラスのゲームに対する数理的解析を試みる. D. Gale によっ て発明された Bridg-It という連結ゲームには,C. Shannon によ る電気回路を用いたプレイマシンが製作され,先手プレイヤー として優れた実力を見せた.本研究では,この電気回路の抵抗 値を変えることによりプレイヤーの強さを調整し,Bridg-It を 図 2. プレイヤーが引きうる線分に基づく電気回路 遊戯として再構成することを試みる. Shannon のプレイマシンが取る戦略は,電気回路上で最も 1. Bridg-It 電圧が大きい抵抗部分を見つけて短絡するというものである. Bridg-It はボード上の点をつないでどちらが先に勝利条件を 二つ以上の抵抗部分が同じ電圧を示したならば,ランダムに 満たすか競いあう,二人用のボードゲームである.Bridg-It 盤 一つを選択する.ゲームの進行した状態を図 3 に示す. 先手 面を図 1 に示す.二人のプレイヤーは先手と後手に分かれ,先 が一様抵抗の抵抗回路モデルであるとき,任意の初手に対し 手は隣り合った黒い点をつなぐ線分を,縦方向または横方向に て後手の必勝手順が存在することが知られている [2]. 引く.先手の勝利条件は,盤の左右を連結する経路を得ること である.後手は隣り合った白い点をつなぐ線分を,縦方向また は横方向に引く.後手の勝利条件は,盤の上下を連結する経路 を得ることである.線分を引く際,対戦相手が引いた線分に重 なり合う線分を引いてはならない.引ける線分は,交互に 1 本ずつである. 棋譜では先手の手は大文字と数字の組,後手 の手は小文字と数字の組で表す.終了状態に 2 本線で示した手 は F4,1 本線の手は b6 と呼ぶ. 図 3. 電気回路表現でのゲームの進行 Shannon のモデルでは抵抗値が一様であるため,最大電圧 が生じる抵抗部分と最大電流値を示す抵抗は一致する.しか し本研究のモデルでは抵抗値を個別に変動させるため,電圧 図 1. Bridg-It 盤面と,終了状態の例(黒の勝利) と電流値のどちらを採用するかで,プレイマシンの挙動が変 化する.本研究では電流値を採用した. Bridg-It のプレイマシンとして初めて登場したのが,1951 年に C. Shannon により製作された抵抗回路モデルである. Shannon はこのゲームを鳥かご (Bird cage) の名で呼んでいた. 2. 抵抗回路モデルの実装 抵抗回路モデルの実装は C++で行った.目的は抵抗回路モ このプレイマシンが搭載するヒューリスティックは先手プレ デル同士の対戦を行った場合の棋譜を全通り生成し,勝率計 イヤーとして,最善ではないものの優れた実力を見せたとい 算を行うことである. う. 概念図を図 4 に示す.Bridg-It 盤面を模した電気回路を先手, 以下抵抗回路モデルを記述する.図 2(左)は Bridg-It の盤 後手の抵抗配置に基づいてそれぞれ生成し,これを初期状態 面上で先手が引きうる線分を模して,電気回路を作ったもの とする.先手番ならば,先手の抵抗回路をもとに,オームの 法則及びキルヒホッフの法則より連立 1 次方程式を立式し, 表 5. 先手(行)に対する後手(列)の勝率 各頂点の電位及び各抵抗の電流値を求める.これより最大電 流値を持つ抵抗を見つけ候補集合とする.候補集合から枝を 一つ選び,対応する先手の抵抗回路の抵抗を短絡,後手の抵 抗回路の抵抗を除去する.後手についても同様である. 表 6. 先手の初手を E5 に固定したときの後手の勝率 図 4. プログラムの概念図 候補が複数存在する場合は分枝が生じるが,この処理は再 帰的に行う.各盤面の候補集合からまだ選ばれていない抵抗 を選ぶという方法で,深さ優先探索を行う.図 4 の各ノード に後手の勝率を示した.各ノードの勝率は,終了状態(葉ノ ード)では 0(先手勝利)または 1(後手勝利)とし,それ以 外のノードでは子ノードの勝率の平均を取ることで計算でき 4. る. まとめ VH 比モデルの勝率は初手によって大きく変動し,初手を 3. 計算実験 ランダムとする条件下ではどのモデルが強いかについて明確 Bridge-It において,連結すれば勝ちとなる盤面の方向を連 な構造を明らかにすることが出来なかった.人間のプレイヤ 結方向と呼ぶとき,連結方向の線分は残りの線分よりも短絡 ーが後手の立場で VH 比モデルに挑戦する場合,強さを調整 する優先度が高いと言える.実際,Shannon の一様抵抗モデ するには以下の手続きが望ましい. ルでは,初手は連結方向の枝からランダムに一つを選び短絡 初手,先手は連結方向の枝からランダムに取る.その初 する.そこで,枝を連結方向の枝集合𝐸! と残りの枝集合𝐸! に 手からの勝率を参照し,強いプレイヤーが好まれれば後手 二分し,e ∈ 𝐸! に抵抗値𝑟! を,e ∈ 𝐸! に抵抗値𝑟! を配置するモ の勝率が低いところ,弱いプレイヤーが好まれれば後手の デルを考案した.これを VH 比モデルと呼ぶ.枝集合𝐸! に配 勝率が高いところの抵抗配置を採用する. 置する抵抗値を𝑟! , 𝐸! に配置する抵抗値を𝑟! とし,VH 比を 今後の課題としては,プレイマシン同士で算出できる勝率 p = 𝑟! /𝑟! で定義する.VH 比を変動させた時のプレイマシン が,どの程度人間と戦ったときの強さを反映しているか分析 の性質の変化は以下の通りである. するということが挙げられる.また,VH 比以外のモデル構 ・ p < 1 連結方向の優先度が低いモデル 築も課題の一つである. ・ p = 1 一様抵抗モデル ・ p > 1 連結方向の優先度が高いモデル 表 5 は,先手・後手ともに 0.5~1.9 の範囲で VH 比を変化さ せたときのシミュレーション結果である.一様抵抗モデル同士 5. 参考文献 [1] M. Gardner, The 2nd Scientific American Book of Mathematical Puzzles and Diversions, Simon & Schuster, Manhattan, NY, 1961. の対戦では後手が必ず負けてしまう.しかし,VH 比を 1.5 以 [2] T. Fischer, ``Bridg-It Beating Shannon's Analog Heuristic,'' 上に上げた場合,変化が見られる. Technical report, Friedrich Schiller University Jena: Faculty of 後手が勝つことの出来るのは先手が初手 E5 を取る場合の みである.その場合の後手の勝率を表 6 に示す. Mathematics and Computer Science, 2009.
© Copyright 2024 ExpyDoc