先端研究紹介

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自然界に無い新たな反射面:メタ・サーフェス
情報 ・ メディア工学専攻 教授 堀 俊 和
▪メタ ・ サーフェスとは?
メタマテリアルと呼ばれる自然界に存在しない新
たな人工媒質構造の研究が進められています。理論
的に検討されたのは 1960 年代にさかのぼりますが、
2001 年になって「左手系媒質」と呼ばれる構造が実
現され、一躍、注目されることとなりました。
<完全磁気導体特性>
通常の媒質が「右手系媒質」と呼ばれ、電磁波のポ
インティングベクトルと波数ベクトルが同じ方向を向
板に電磁波が入射すると位相が 180°回転して反射さ
くのに対して、
「左手系媒質」は誘電率と透磁率が同
れるのに対し、AMC はある周波数において、入射す
時に負の値を持ち、加えて屈折率も負の値となる媒質
る電磁波を位相回転 0°で反射する完全磁気導体(Per-
で、波数ベクトルが反対方向を向くという性質を有し
fect Magnetic Conductor:PMC) 特 性 を 持 つ 人
ています。
工媒質です。
これに対して、反射係数や表面波の伝搬振幅を制御
これらの人工媒質の構造および材料の電気定数を制
できる平面構造を「メタ・サーフェス」と呼んでおり、
御することにより、電磁波の伝搬特性を制御すること
メタマテリアルのひとつに分類されています。メタ・
ができることから、各用途への応用研究開発が盛んに
サーフェスには、電磁バンドギャップ構造、人工磁気
なってきています。また、AMC については、完全磁
導体、等が含まれます。
気導体特性だけではなく、反射波の位相を自由に制御
電磁バンドギャップ構造は、EBG(Electromag-
できることから、任意の反射位相を持つメタ・サーフ
netic Band Gap)と呼ばれており、下図に示すよう
ェスの実現が可能となっています。
に、ある周波数の電磁波を通さない性質を持つ人工
媒質です。他方、人工磁気導体は、AMC(Artificial
Magnetic Conductor)と呼ばれ、1999 年に Sievenpiper により提案されています。通常の金属反射
▪メタ ・ サーフェスは、どんな構造?
メタ・サーフェスとして、いろいろな構造が提案さ
れていますが、実用の際の簡便さを考慮して、周波数
選択板(Frequency Selective Surface: FSS)と地
板(Ground plane)からなる簡易な構造のメタ・サ
ーフェスの設計法を提案しました。FSS は、ある周波
数の電磁波を透過あるいは反射する空間フィルタであ
り、低域通過特性、高域通過特性、帯域通過特性、帯
域阻止特性を持つ FSS に分類されます。次図に示し
たものは帯域阻止特性を持つ FSS を用いた例を示し
<電磁バンドギャップ特性>
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ています。これらのフィルタ特性をもつ FSS を所望
の特性に応じて選択し、所望の特性を持つようにパラ
メータを選ぶことにより、任意の反射位相を持つ簡易
なメタ・サーフェスの実現が可能になりました。
▪メタ ・ サーフェスは何に使える?
AMC は、入射する電磁波を位相回転 0°で反射す
るため、反射板として用いるとき、従来の金属反射板
点を有しています。このことから、アンテナをはじめ
として、AMC を反射板として用いることが検討され
ています。
また、任意の反射位相を持つメタ・サーフェスの実
現により、所望の特性を持つメタ・サーフェスを組み
合わせた特異な反射面の構成が可能となりました。こ
<周波数選択板の構造例>
れにより、メタ・スペース(meta-space:超伝搬空
間)を構成することができ、下図に示すように、電磁
波の反射方向を制御して、対象とする空間での電波伝
搬環境の改善が可能となりました。さらに、メタ・サ
ーフェスを用いて、円偏波-直線偏波変換反射板など
の特異な反射面の構成が可能であり、新たな適用領域
の拡大が期待されています。
<任意の方向に反射可能>
<電磁波の反射方向を制御して、伝搬環境の改善が可能>
<直線偏波の入射波を円偏波に変換して反射可能>
福井大学先端研究紹介 21
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に比べてコンパクトかつ低姿勢な構成が可能となる利