新生ストラテジーノート 第 164 号 2014 年 9 月 4 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 中国の証券化市場はアジア最大になるのか 英文メディアの報道と韓国金融監督院の調査を読み比べてみる 「中国の証券化市場は、韓国を追い抜き、日本を除くアジアで最大の規模になった」 1と Wall Street Journal は 9 月 2 日付けで報じた。この報道記事によると、中国における証券化商品の 発行額は今年(2014 年)既に 197 億米ドルに達しており、韓国を上回っているというのだ。 この記事には、中国と韓国における証券化商品の年次発行額を示す棒グラフが掲載されてい る。今年(2014 年)の発行実績として、中国については、記事本文に書いてある通り、棒グラフの 高さは US$ 20 billion (200 億ドル)をやや下回っており、韓国のそれは、 US$ 10 billion を 大きく下回っている。記事本文では、情報源が “Deallogic” であると示している。また、昨年 (2013 年)実績については、韓国は US$ 30 billion (300 億ドル)を大幅に下回る高さの棒グ ラフで示している。 この記事を読んで、筆者は、強い違和感を覚えた。韓国の証券化市場は、昨年(2013 年)実績 で発行額は 50 兆ウォン―500 億ドル―を上回っており 2、中国はいうまでもなく、日本をも凌駕す るアジア最大の規模ではないのだろうか。そういう疑問がわいてきたからだ。果たして中国の証券 化市場は冒頭で言及した新聞記事にあるように、既に韓国を凌駕したのであろうか。もしそうだと すれば、既に日本をも凌駕したのであろうか。 1 Wall Street Journal, China Securitization Surge Raises Concerns—China's Asset-Securitization Boom Prompts Worries About Possible Risks, September 2, 2014 http://online.wsj.com/articles/china-securitization-market-surge-triggers-concer ns-1409693537 2 韓国金融監督院の英文のリリース(2014 年 1 月 22 日付け)によると、2013 年の証券化商品 の発行額は 51.3 兆ウォン(KRW 51.3 trillion)であった。 Financial Supervisory Service, 2013 Issuance of Asset-Backed Securities, 2014-01-22 http://english.fss.or.kr/fss/en/media/release/view.jsp?bbsid=1289277491315&c ategory=null&idx=1390368299829&num=816 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 韓国金融監督院調べでは、2013 年の発行実績は 51.3 兆ウォン(約 500 億ドル) 韓国では、同国の資産流動化法に基づく証券化取引について、監督機関である金融監督院 (FSS)が集約し、定期的に実績を公表している。韓国語では、個別案件の情報を含む極めて詳し い情報を、英文でも発行額程度の要旨を発表しているのである。金融監督院が今年 7 月 23 日に 公表した 2014 年上半期発行実績 3によると、発行額は 17.4 兆ウォンと、昨年同期比 35%もの 大幅減となった。しかし、17.4 兆ウォン(約 170 億ドル)とはいえ、冒頭で言及した Wall Street Journal の記事に掲載されていた “2014 YTD” とする棒グラフに比べ、約 2 倍である。しかも、 17.4 兆ウォンとは、2014 年 1 月から 6 月までの半年間に発行された韓国の「資産流動化証券」 (자산유동화증권)の発行総額である。 韓国の証券化商品の発行額については、金融監督院による調査の他に、格付会社のレポート も参考になる。韓国信用評価(Korea Investors Service)(KIS)によると、2013 年の発行額は 103.1 兆ウォン(うち ABCP が 60.1 兆ウォン)であった 4。KIS の調査結果が FSS による発行額 に比べ(ABCP を除いたうえで)やや大きいのは、資産流動化法に基づく「資産流動化証券」には 該当しないシンセティック型の証券化商品が一部含まれていることが原因として考えられる。また、 いっぽうで、KIS は、韓国の格付会社による格付けが確認できるもののみを対象としたとしており、 クロスボーダー取引が漏れている可能性がある。 今年は韓国の発行市場はペースダウンしているようだが、果たして今年中に中国の証券化市 場が韓国を凌駕する規模にまで拡大するかは、疑問である。 (調査部長 江川 由紀雄) 3 英文 Issuance of Asset-Backed Securities, First Half 2014 http://english.fss.or.kr/fss/en/media/release/view.jsp?bbsid=1289277491315&c ategory=null&idx=1406073751044&num=873 韓国語 (분석보고서)2014 상반기 자산유동화증권 발행실적 분석 http://www.fss.or.kr/fss/kr/bbs/view.jsp?url=/fss/kr/1207396958322&bbsid=12 07396958322&idx=1406075721682&num=151 韓国語による詳細情報 (Excel ファイル) http://www.fss.or.kr/fss/kr/bbs/view.jsp?url=/fss/kr/1207396958322&bbsid=12 07396958322&idx=1406075849840&num=152 4 2013 년 자산유동화증권 시장 분석 및 2014 년 전망 http://m.newswire.co.kr/newsRead.php?no=733115 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 設立年月 :平成 12 年 12 月 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 著作権表示 © 2014 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
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