第9回 精神科医療従事者自殺予防研修 効果測定結果 1. 研修参加者のプロフィール 研修参加者は 75 名であり、研修前後で回答の得られた 54 名を分析の対象とした。 研修ツールや教材の効果を、自殺予防に関する知識、自殺対応への自信、自殺予防への否定態度、そ してスキルに着目し、研修前後での変化を調査した。続いてそれらの結果について報告する。 1 2. 自殺予防に関する知識 研修の各講師に依頼して自殺予防に関する知識を問う項目を作成した。項目は以下のとおりである。 1)自殺をほのめかす人は、本当は自殺しない。 2)死にたい気持ちがあるかどうかを訊ねるべきなのは、医師だけだ。 3)WHO(世界保健機関)のメンタルヘルス・アクションプラン 2013-2020 の原則となる考え方は「自殺 予防はみんなの仕事」である。 4)警察庁が公表している自殺統計において、2007 年以降全国的に自殺の原因・動機として最も多いの は健康問題である 5)精神疾患において自殺の危険の高い時期として、入院直後、退院直後がある。 6)自殺念慮の告白をされた場合には、相手に「死んではいけない」と明確に伝える必要がある。 7)リストカットは演技的・操作的な行動であるので、心理療法家は関心を持ったりするのはできるだけ 控えるべきである。 8)少量の過量服薬やリストカットといった医学的障害が軽症であっても、援助者は、自傷もしくは自殺 未遂した直後の患者に接する際「死にたい気持ち」を確認する。 9)自殺念慮のある人を多職種チームで支援する際、チームの構成メンバーは、自殺対策の専門家に限定 されるべきである。 10)病院内で自殺が起こったら、できる限り多くの職員・患者に一堂に会してもらい、事態を説明する。 * 1,2,3,6,7,9,10 が誤った知識、4,5,8 が正しい知識である これらの 10 つの知識ごとに研修前後の正答率を比較したところ研修によって正答率が増加した項目が 7 つみられた。 (図 1) 1 2 3 4 5 研修前 6 研修後 7 8 9 10 0% 20% 40% 60% 80% 100% 図1 自殺予防の知識に関する研修効果(正答率) 2 3. 自殺予防に対する自信 自殺予防に対する自信について、5 段階(1=「全くそう思わない」から、5=「強くそう思う」 )で尋 ねた。項目例を以下に示す。 1. 自殺に傾いた人の話を、支持的に傾聴できる。 2. 自殺を実行する計画についてたずねることができる。 3. 自殺の危険性を適切に評価できる。 4. 自殺に傾いた人を適切に社会資源につなぐことができる。他 6 項目 これらの項目に対する印象は、自殺対策に取り組む自信をあらわしている。 各項目の総和を研修前後で比較したところ、研修前の平均 33.38 に対し、研修後の平均 38.70 であり、 統計的な有意差があったことから、研修によって自殺予防に対する自信が向上したといえる。 (図 2) 40 38.70 35 30 33.38 25 20 15 10 5 0 研修前 研修後 図 2 自殺予防に対する自信についての平均得点 3 4. 自殺予防に対する否定的態度 日本語版 ASP(川島他, 2013)を用いて、自殺予防に対する否定的な態度について研修前後での変化 を調べた。項目例を以下に示す。 1. 自殺の問題にこれ以上取り組めといわれるのは腹立たしい。 2. 私に自殺予防に取り組む責任はない。 3. 本当に自殺しようとする人は、誰にもそのことを告げない。 4. 人から自殺予防についてのアドバイスをされても、批判されているようで、受け入れる気になれない。 他 10 項目。 各項目の総和を研修前後で比較したところ、研修前の平均 29.41 に対し、研修後の平均 28.33 であり、 研修によって自殺予防に対する否定的態度が緩和されたといえる。(図 3) 35 30 25 29.41 28.33 20 15 10 5 0 研修前 研修後 図 3 自殺予防に対する否定的態度についての平均得点 4 5. 自殺の危機に介入するスキル 日本語版 SIRI 短縮版(川島他, 2010)を用いて、自殺の危機に介入するスキルの研修前後での変化を 調べた。なお、得点が低いほどスキルが高いことを意味する。 結果、研修前の平均得点は 17.08、研修後は 14.14 と、統計的な有意差があったことから、研修によっ てスキルが向上したといえる。 (図 4) 25 20 15 17.08 14.14 10 5 0 研修前 研修後 図 4 自殺の危機介入スキルについての平均得点 5 6.内容満足度・理解度 研修の各プログラムに対して、内容満足度(回答項目;4. 大変満足、3. 満足、2. 不足、1. 大変不足) 、 理解度(回答項目;4.よく理解できた、3.理解できた、2.あまり理解できなかった、1.理解できなかった) を受講者に尋ねた( 「グループディスカッション」については内容満足度のみ)。 内容満足度の全体平均は 3.31、各プログラムの評価の平均得点は 2.88~3.8 であった。このことから どのプログラムについても受講者の満足度は概ね高かったといえる。 理解度の全体平均は 3.34、各プログラムの評価の平均得点は 3.02~3.66 であった。このことからどの プログラムについても受講者の理解度は概ね高かったといえる。 4 3 3.31 3.34 満足度 理解度 2 1 図 5 内容満足度・理解度の平均得点 6 ご意見・ご要望など(抜粋) 素晴らしい研修をありがとうございました。医療者として自殺予防について理解を深めることがで きました。今回学んだことを病棟にも反映していきたいと思いました。 参加してみて、自治体の自殺予防対策の取り組みは、思った内容ではなかった。医療機関で細やか に対応されていること、自殺予防対策センターで事後対応の助言を行っていることも知ることがで きた。地域での取り組みについて、 (話しが伺える)研修の機会があるといいと感じた。ありがとう ございました。 2日目のディスカッションですが、せっかくいろいろな職種の方が参加されていたので、職種別に 分けるのではなく、全体でグループ分けをして欲しかったです。地域と医療機関では、スピード感 が違うと思いますが、だからこそ、退院された後、地域に何を望まれるのか、医療機関としてのご 意見をお聞きしたかったです。2日間とても有意義な研修でした。ありがとうございました。 最終のGWで、精神科医療における自殺とその予防として、行政側だけでなく医療側の課題や役割 を聞くことができ、今後行政側として取り組むべき課題や役割について考える機会となりました。 限られた時間なので難しいですが、GWの時間がもう少し全体的に長いとより一層学びが深まるの ではないかと思いました。有意義な研修ありがとうございました。 うつ病学会で自殺予防研修会に参加し、今回の研修会に参加させていただきました。より深く学べ たと自分なりに評価しております。今回は精神科病院に入院している事例でしたが、色々な事例を 研修させていただきましたことを感謝しております。多種多様な部署、多職種でのグループワーク は有意義でした。それに加えて同職種でのグループワークもあると…とより深められたのでは?と 感じております。ステップアップ研修も検討していただければ幸いです。 自身の知識のブラッシュアップと自身の臨床の振り返りとなり、良い機会でした。都心から遠い会 場なことが少々残念でしたが、プログラム構成等大変満足のゆく研修となりました。ありがとうご ざいました。 とても勉強になる研修でした。今年度で自殺の基金は終わりになる(国からの 10 割補助)ところで すが、今後の事業にどう活かせるか、どう事業を進めていくか考えていきたいと思います。 2日間大変勉強になりました。ありがとうございました。自殺したいと思っている人の変化に気付 くアンテナの感度を医療スタッフ全体で高めていく必要性を感じました。 実際の相談で役立つ知識を多く得ることができた。自殺につながるリスクの高い症状や行動がある と分かったので、相談者が自殺してしまう危険性についても留意しながら、相談援助に従事してい きたいと思う。 現場では、自傷→自殺企図し実行してしまうことが多いです。現場のスタッフ向けの自殺予防も行 って頂けると嬉しいです。 自殺予防への意識が高まり、もっと学習を深めて臨床に活かしたいと思いました。病棟に帰り、研 修内容を共有したことで、病棟全体でも自殺予防への関心が高まり、行動レベルでマニュアルを作 成することになりました。ありがとうございました。 このような研修の機会を設けて下さいまして、誠にありがとうございました。目から鱗が落ちるよ うなお話もあり、とても勉強になりました。 自殺についての統計など基本的なことから改めて学ぶ良い機会になりました。職場に持ち帰り、知 識を広めることから自殺予防に関わっていければ良いなと思います。ありがとうございました。 全体としては満足のいく研修だった。9/16 のAMについては、もう少しまとめてもよいかと思った。 一般的になってしまうのでアルコールに関しては、もう少し突っ込んだ話を期待していた。被災地 のため、アルコール問題は深刻で、かつ専門機関がなく、かつ遠い。自殺との関連も大きい。先進 的な事例等の紹介が欲しい。久里浜の研修には、参加しにくい。 自殺について大変勉強になりました。どのように捉え、患者さんと向き合うか、もう一度見つめ直 すきっかけとなりました。ありがとうございました。今年、うつ病学会に行った時、 10Essentials,ver1.0 というものに出会いました。まずは気付く、傾聴するなど 10 の必ず注意して みなければいけない項目を上げているのがありました。その紹介もあるとよいかとも思いました。 7
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