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(2) 第三者による不法行為と損害賠償請求権の併存(応用)
ア 第三者が抵当目的物を侵害した場合、抵当権者の金銭的救済としては、①抵当権者
固有の加害者に対する損害賠償請求権(709条)を行使する方法と、②所有者の加害者
に対する損害賠償請求権(709条)に物上代位(372条、304条)する方法が考えられ
る。抵当権者にはいずれの請求が認められるのかが問題である。
イ この点、物上代位によって被担保債権は保全されうるとして②の請求のみ認められ
るとする見解もある。しかし、物上代位は差押え等の面倒な手続を要するから、より
簡便な①も認める実益がある。
したがって、抵当権者にはいずれの請求も認められると解する。
抵当権者
①
第三者
(侵害者)
物上代位
(304条)
②
所有者
解説 第三者による不法行為
第三者が抵当目的物を侵害した場合、①抵当権者の加害者に対する損害賠償請求権
(709条)と、②所有者の加害者に対する損害賠償請求権(709条)が発生する。そこ
で、抵当権者としては①の方法と②に物上代位(372条、304条)する方法が考えられ
る。
通説は、②物上代位は差押え等の面倒な手続を要することから、抵当権者に①②い
ずれの請求も認める。これにより、賠償金による担保物の修復や、抵当権者の物上代
位を通して担保力の原状回復に近い効果を実現しうる。
なお、加害者は、二重払いをする必要はなく、いずれかの請求権に対して支払えば
その限度で免責される(不真正連帯債務)。
解説 第三者による不法行為(応用)
第三者に対する損害賠償請求の可否
所有者は損害賠償請求できる。抵当権者も出来るのか?
結論:第三者に対しては抵当権侵害による損害賠償請求は認めないが、それ以外に
ついては抵当権侵害による損害賠償請求を認める。
所有者の有する損害賠償請求権に物上代位できる=「損害」が無いと言える。侵
害者が所有者自身だとこの構成が使えないので抵当権者の損害賠償請求を認める。
3 .期限の利益の喪失
債務者が担保目的物を滅失・損傷させ、またはこの価値を減少させたときは、債務者
は期限の利益を失う(137条2号)。
期限の利益を喪失する結果、抵当権者は弁済期が到来したものとして直ちに全債務の
弁済を請求することができ、弁済しないときは抵当権を実行することができる。
4 .増担保請求
抵当権が抵当権設定者によって侵害された場合、抵当権者に増担保請求権が認められ
るかが問題である。
抵当権者を保護する見地から、信義則上、増担保請求権を認めるべきである。なぜ
なら、抵当権設定者には抵当目的物の価値を維持する義務があり、抵当権者もかかる
請求を認めることで満足することができるからである。
解説 増担保請求
抵当権者は、抵当権の実行よりも、増担保を請求して金銭貸借関係を維持すること
を望む場合も多い。そこで、通説は、抵当権侵害の場合の救済策として抵当権者に増
担保請求権を認める(旧民法も認めていた)。もっとも、銀行取引においては必ず増
担保請求を認める特約を結んでいるので、この議論の実益はない。
第6章抵当権
第 3 節 抵当権の効力の範囲
抵当権が及ぶ範囲として、付加一体物(370条)、分離物について考えよう。抵当権
が及ぶことは、物権的請求権などの救済が認められる前提となり、また抵当権実行の対
象になる。
民法第370条(抵当権の効力の及ぶ範囲)
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下
「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定
行為に別段の定めがある場合及び第424条の規定により債権者が債務者の行為を
取り消すことができる場合は、この限りでない。
1 .付加一体物(370条)
(1) 民法370条本文の意味(内容)
抵当権の効力は、目的たる不動産に付加してこれと一体をなす物に及ぶ( 3 7 0 条本
文)。
この抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲を「付加一体物」あるいは「付加物」という。
これは、抵当権が設定者に目的物の使用収益を残しつつ、目的物の全交換価値を支配
する物権であることに鑑み、経済的に一体をなし不動産の価値を維持または高める附属
物に抵当権の効力を及ぼす趣旨である。フランス民法に起源がある。
ア 「付加一体物」と付合物
370条の付加一体物に付合物(242条本文)が含まれることは争いない
イ 「付加一体物」と従物
3 7 0条の付加一体物に従物を含むか。この問題は、抵当権設定後の従物に抵当権の
効力が及ぶかに影響する。
3 7 0条の付加一体物には、経済的に主物と一体をなす従物も含まれると解する。な
ぜなら、①370条は、抵当権が設定者に目的物の使用収益権を残しつつ、目的物の全交
換価値を支配する物権であることに鑑み、経済的に一体をなし不動産の価値を維持ま
たは高める附属物に抵当権の効力を及ぼす趣旨であるし、②3 7 0条の母法であるフラ
ンス民法は従物概念をもたず、当然に含まれる扱いだからである。
したがって、主物に設定した抵当権の効力は、その抵当権設定時に存在した従物は
もちろん、設定後に従属した従物に対しても及ぶと解する。
このように解することは、金融の円滑を促進し、実際上の運用としても妥当であ
る。
「付加一体物」とは(判例)
付合物 242条
従物 87条2項
「付加一体物」とは(通説)
設定後の従物に及ばない 87条2項の趣旨
(判例) =合理的意思解釈
87条2項説
設定後の従物にも及ぶ (通説)
87条2項の趣旨
=法律的運命は同じ
370条説
(通説)
設定後の従物にも及ぶ
87条2項の趣旨
=合理的意思解釈
解説 「付合物」と「従物」
民法では「付加一体物」類似の概念として「付合物」( 2 4 2 条)と「従物」( 8 7
条)がある。「付合物」とは、不動産に結合することによって物としての独立性を失
うものであるが、「従物」は、主物の経済的効用を助けるが、あくまで主物とは別個
独立の物である。例えば、家庭用クーラーのように簡単に取外しができる物であれば
建物の従物であるが、ペチカのように建物を取り壊さなければ取外しができない物
は、建物の付合物である。
解説 付加一体物の範囲
370条の付加一体物に従物が含まれるか。また、抵当権設定後の従物に抵当権の効
力が及ぶか(例えば、建物抵当権設定後に畳・家庭用クーラーを設置したとき抵当権
の効力が及ぶか)。
a 判例
判例は、370条の付加一体物には従物は含まれないとし、87条2項を根拠として
従物に抵当権の効力が及ぶと解する(大連判大8.3.15)。この見解では、抵当権
の設定行為を8 7条2項の「処分」にあたると説明し、抵当権の効力は抵当権設定
後に附属せられた従物には及ばないことになる。
もっとも、最判昭44.3.28は、抵当権設定当時の従物への効力を認め大審院の立
場を承継しつつも、370条を援用して従物への効力の対抗要件は抵当権設定登記に
よって具備されると判断した。この判決は、従物に対する効力がいかなる条項に
よって基礎づけられるのか明言していない。しかしその根拠も370条に求めている
のではないかと評価されている。
[批判]
これでは金融の円滑を害するから妥当でない。現在の下級審も、抵当権の効力
は抵当権設定後の従物にも及ぶとする。
b 学説
学説においては抵当権の効力は従物にも及ぶと解するのが支配的である。
(ア)少数説(柚木)
370条の付加一体物には従物は含まないとしながら、87条2項の「処分」と
は抵当権の設定から実行まで全体をさすとして、抵当権の設定後の従物にも抵
当権の効力が及ぶとする。
[批判]
87条2項は「処分」時の当事者の合理的意思解釈に基づいて従物も主物の処分に
従わせる趣旨であり、「処分」は抵当権の設定のみ含まれると解すべきである(判
例・通説)。
(イ)通説
370条の母法であるフランス民法が従物概念をもたないことから、370条の
付加一体物を不動産の所有者がその便益のためにこれに付従せしめたすべての
動産をいうと解し、従物も含まれるとする。
判例 最判平2.4.19
判旨:地下タンク、ノンスペース型計量機、洗車機などの諸設備は、建物の従物で
あり、ガソリンスタンド店舗である建物に設定された抵当権の効力が及ぶ。
コメント:本判決は、抵当目的不動産の価値よりも従物のほうが価値が高い場合
(本件では4倍程度した)にも抵当権の効力が及ぶとした。仮に370条で従物
にも抵当権の効力が及ぶと解すると、特約で抵当権の効力を除外しておかな
いと、付加一体物として、当然に抵当権の効力が及んでしまう(高価な重物
論を想起せよ)。高価な従物事例を、3 7 0条で処理する際には、①黙示の特
約を認定する(3 7 0条但書)、②信義則で調整する、③付加一体物に含まれ
ないと制限解釈をする、などになろうか。
(2) 抵当権が及ばない場合(例外)
抵当権の効力は、抵当権の目的たる不動産(抵当不動産)と別個独立の物には及ばな
い(例えば、抵当土地に対して建物−370条本文、立木法上の立木など)。
① 権原の付合(242条ただし書)
② 当事者の意思による除外(370条ただし書)
③ 詐害行為(370条ただし書)
④ 債務不履行前の果実(371条)
ア 目的物の所有者以外の者が権原に基づいて付加した物には抵当権の効力は及ばない
(242条ただし書)。例えば、賃借権者がその利用権に基づいて目的不動産に付加した
立木などである(権原または物に対抗力が必要である)。
イ 当事者が設定行為によってとくに抵当権の目的物から除外した物にも抵当権の効力
は及ばない(370条ただし書)。ただし、登記しなければ第三者に対抗できない(不登
法88条)。
ウ 債務者が他の債権者を害することを知って抵当目的物に付加した物にも抵当権の効
力は及ばない(370条ただし書、424条)。
エ 債務不履行前の果実にも抵当権の効力は及ばない(371条)。抵当権は設定者の使用
収益権を認めるからである。
天然果実には抵当権は及ばない。
債務不履行前
法定果実には抵当権は及ぶ。
債務不履行後
天然果実・法廷果実とも抵当権は及ぶ ( 3 7 1
条)。
解説 民法371条
(ア) 371条は、被担保債権について不履行があったときは、その後の果実に抵当権の
効力が及ぶとしている(平成15年改正)。民事執行法の改正によって、抵当権の
実行について、①担保不動産の競売のほかに、②抵当不動産の占有管理を管理人
に移して果実を被担保債権に充当する方法(担保不動産収益執行制度、民事執行
法180条2号)を新設したため、民法371条も改定した。
(イ)債務不履行前の「果実」の範囲については争いがある。
この点、天然果実のみを意味し、賃料などの法定果実を含まないものと解す
る。なぜなら、①371条は、付加一体物に関する370条を前提にし、抵当権設定者
の収益権を保護する見地から、付加一体物である果実については抵当権の効力が
及ばないことを規定したものであるところ、法定果実は文理上付加して一体をな
す「物」とは言い難いからである(判例)。
また、②法定果実である賃料は物上代位の客体とされる(304条)から、371条
による抵当権者の利益を考慮する必要はないからである。
2 .分離物に対する抵当権の追及効
(1) 問題の所在
抵当目的物から分離した物に抵当権の効力(これを追及効という)が及ぶか。分離し
た物は動産であり、抵当権の目的から外れるようにも見えるが、抵当権の効力は目的物
全体に及んでいたのだから分離すると直ちに効力が及ばないとすることもできない。他
方、分離物を取得した第三者の取引の安全も考慮する必要がある。
(2) 我妻説
〔事例〕Aが抵当山林から立木が伐採された場合に、その立木(伐木)に抵当権の
効力が及ぶか。伐木が抵当地上に存在する場合と抵当地から搬出された場合とで
異なるか。 もともと立木には、土地の一部または付加一体物(370条)として抵当権の効力が及ん
でいた。そして、伐採された立木(伐木)に抵当権の効力が及ぶかは、抵当権者の期待
と、第三者の利益を調和する観点から、①抵当地上に存在する伐木と②抵当地から搬出
された伐木とに分けて考えるべきである。
搬出・引渡し
第三者
(1)
(2)
ア 抵当地上に存在する伐木
立木は伐採され動産になっても、抵当権の効力が及ぶと解する。なぜなら、抵当権は
目的物全部を支配する物権であるから、分離された物についても支配は及んでいるから
である。しかも、伐木がいまだ抵当地上に存在する場合には、抵当権登記の公示の衣
裳に包まれているから、対抗力も肯定してよい。
したがって、抵当権に基づき伐木の搬出差止請求ができる。
イ 抵当地から搬出された伐木
抵当地から伐木が搬出された場合には、伐木は抵当地との場所的関係を失い、抵当
権登記の公示の効力は及ばなくなるから、抵当権の対抗力は失われる。とすれば、抵
当権者と第三者の関係は対抗関係(178条)に立つと解すべきである。
したがって、伐木が搬出され、第三者が伐木の引渡しを受けた場合には、第三者は伐
木につき抵当権の付かない完全な所有権を取得する。その反射的効果として抵当権の効
力は失われるから、抵当権に基づき伐木の返還請求はできない。
抵当地上
抵当地から搬出
第三者に引渡し
我妻
追及効あり ○
対抗力あり ○
追及効あり ○
対抗力なし ×
追及効なし ×
対抗力なし × (178条)
星野
追及効あり ○
対抗力あり ○
追及効あり ○
対抗力あり ○
第三者は善意取得(192条)で
保護 △
解説 分離物に対する追及効
①伐木は動産であるが、これに抵当権の効力が及ぶ根拠は何か、②どの段階で抵当
権の効力が及ばなくなるか、第三者(取引の安全)との調整をいかに図るかが問題と
なっている。
判例には、抵当権による伐木禁止を認めたものがあるが(大判昭7.4.20)、搬出後
については不明である。
まず、①伐木に抵当権の効力が及ぶ根拠であるが、抵当権は目的物全部を支配する
物権であるから、分離物についても抵当権登記により公示されるから追及効が及ぶと
説明すべきである(公示説−我妻)。これに対し、370条の付加一体物にあたるとする
説、3 0 4条の物上代位によるとする説がある。しかし、分離物はもはや付加一体物と
は言い難いし、分離物は価値変形物ではないから物上代位の対象とも言い難い。
次に、②抵当権の効力が及ばなくなる段階であるが、抵当権登記により公示は及ば
なくなり、伐木という動産の対抗要件で決すべきであり(178条)、第三者は引渡しに
より保護されると解すべきである(我妻)。これに対し、工場抵当法の考え方を導入
し、第三者が即時取得(1 9 2条)しない限り、伐木の所有権を取得できないとする説
もある。
この見解では、第三者は善意無過失で現実の引渡しを受けなければ保護されないこ
とになる。