How Smart, Connected Products Are Transforming Competition

「接続機能を持つスマート製品」
が変える
IoT時代の競争戦略
今日、多くの製品にセンサーやハードウェア、ソフトウェア等々が搭
載されている。これら「接続機能を持つスマート製品」がさまざま
な事業機会をもたらしつつある。この事象の説明に「モノのインター
ネット」という言葉が登場したが、これは適切ではないと筆者らは
言う。これらの製品の先進性はインターネットではなく、
「モノ」の本
質が変化している点にある。本稿では、これらスマート製品が引き
起こす革命を分析し、それが戦略と業務運営に及ぼす意味合いを
探る。なお、この論稿は、近々続編が予定されている。
How Smart,
Connected Products
Are Transforming
Competition
ハーバード・ビジネス・スクール ユニバーシティ・プロフェッサー
マイケル E. ポーター
Michael E. Porter
PTC 社長兼CEO
ジェームズ E. ヘプルマン
James E. Heppelmann
有賀裕子/訳
“How Smart, Connected Products Are Transforming Competition,” HBR, November 2014.
©2014 Harvard Business School Publishing Corporation.
ARTWORK: Chris Labrooy
Braun, Toaster
3 Diamond Harvard Business Review April 2015
April 2015 Diamond Harvard Business Review 2
レージ、マイクロプロセッサー、ソフトウェ
ではハードウェア、センサー、データ・スト
品や電気部品だけで構成されていたが、最近
情報技術︵IT︶は製品に革命的変化を及
ぼしている。製品といえば、かつては機械部
刷新する必要に迫られている。
ため、企業は社内の活動ほぼすべてを再考、
ューチェーンも飛躍的な変化を遂げつつある
いく。製品の本質が変容するのに伴い、バリ
などが実現する機会が、右肩上がりで増えて
製品間の従来の垣根を超えたケイパビリティ
を果たすべきか。
界の領域拡大に応じて企業はどういった役割
事業パートナーとの関係をどう見直すか。業
活用、管理するか。販売チャネルなど従来の
慎重な扱いを要する││膨大なデータをどう
か。これら製品が生み出す新しい││そして
のではなく、
﹁モノ﹂の本質が変化している
的かというと、理由はインターネットにある
い。接続機能を持つスマート製品がなぜ画期
にせよ、単に情報を伝達する仕組みにすぎな
ネットは、人をつなぐにせよ、モノをつなぐ
という呼称はさほど有益ではない。インター
が持つ意味合いを理解するうえでは、Io T
接続の普及というネットワーク化の恩恵によ
機器の小型化の目覚ましい進展、ワイヤレス
契機に企業の垣根を超えて業務プロセスの標
となって、生産性が劇的に向上した。これを
の新規データを収集・分析できたことが一因
活動を自動化した。各活動において膨大な量
資源計画︶などバリューチェーン上の個々の
AD︵コンピュータ支援設計︶
、MRP︵製造
一九六〇年代から七〇年代にかけてのIT
化の第一波は、注文処理、経費の支払い、C
接続機能を持つスマート製品は、多くの企業
を塗り替え、まったく新しい産業を生み出す。
新たな機会と脅威にさらす。また、業界地図
これらかつてないタイプの製品は業界構造
と競争のあり方を変容させ、企業を競争上の
も、それら製品を生産する過程では、製品設
このようなよりよい最新製品によって、経
済の生産性は三たび急上昇するだろう。しか
関する膨大なデータを基に実現している。
の多くは、こうした新たな製品の利用状況に
と性能が目覚ましく向上している。その改善
トウェアを稼働させることで、製品の機能性
タを収集、分析してアプリケーション・ソフ
が登場した。しかし、この事象あるいはそれ
ト﹂
︵Io T
に光を当てるために、
﹁モノのインターネッ
接続機能を持つスマート製品の増大を受け
て、それが意味するであろう新たな事業機会
ータを内蔵し、しかもクラウド上で製品デー
できるようになったため、ITを起爆剤とし
一九八〇年代と九〇年代には、インターネ
ットが誕生してどこからでも低コストで接続
をきっかけに、バリューチェーンに端を発す
方がまたも変わると考えられる。するとこれ
性が生まれるため、バリューチェーンのあり
アナリティクス
た変革の第二波が訪れた。こうして、社外の
る生産性向上の波がいま一度起きるだろう。
︶は、処理能力の向上や
connected products
れら﹁接続機能を持つスマート製品﹂
︵
点にある。接続機能を持つスマート製品の機
準化が進み、各社は独自戦略を維持しながら
計、マーケティング、製造、アフターサービ
smart,
能や性能の増大とそれが生み出すデータこそ
いかに業務のIT化による恩恵を享受するか、
スの変革が起き、製品データの 解 析 やセキ
︶という言葉
internet of things
が、競争の新時代の到来を告げているのだ。
というジレンマに直面した。
納入業者、販売チャネル、顧客を巻き込み、
したがって、ITを起爆剤とする変革は未曽
製品自体はおおむね従来のままだった。
だし、バリューチェーンの変革は起きても、
これら二次に及ぶ変革により、経済全体と
して大幅な生産性向上と成長が実現した。た
自体と同じく、高い接続性を備えたスマート
ぎた危うい見方である。インターネットそれ
﹁Io Tはすべてを変える﹂と
一部には、
いう意見もあるが、これは物事を単純化しす
ュリティ確保といった新しい業務活動の必要
地理的制約をも乗り越えて、多数の業務活動
有の規模に達し、前二回を凌ぐほどのイノベ
に起きつつある競争状況の変化に目を向けな
本稿、さらにHBR誌上で近く発表予定の
続編では、接続機能を持つスマート製品が引
間の調整と統合が行えるようになった。たと
ーション、生産性向上、経済成長を引き起こ
くてはいけない。
き起こす革命を分析し、それが戦略と業務運
えば、世界各地に分散したサプライチェーン
す可能性がある。
変革が起きようとしている。今日的なITの
性が映し出されている。しかし、競争のルー
ITを起点とする
競争の第三波
登場以前、製品は機械部品で成り立ち、バリ
そして現在、第三波の下、ITは製品その
ものに不可欠な存在となりつつある。製品に
ルや競争優位は従来と変わりない。企業が接
ITはこの五〇年間に二回、競争と戦略の
あり方を激変させた。そしていま、第三次の
ューチェーン上の諸活動は書類に基づく手作
センサー、プロセッサー、ソフトウェア、接
続機能を持つスマート製品の世界を泳いでい
製品にも、最新の数あるテクノロジーの可能
業と口頭でのコミュニケーションによって行
続機能を組み込み、つまり、事実上コンピュ
︵注2︶
営に及ぼす意味合いを探る。
の緊密な連携が可能になったのである。
︵注1︶
企業はテクノロジーそれ自体だけでなく、現
組み合わせた、複雑な代物になっている。こ
ア、接続部品を数え切れないほどのやり方で
接続機能を持つスマート製品を活用すると、 この種の製品は、戦略面で数々の新しい選
新たな機能性、信頼性や稼働率の格段の向上、 択肢をもたらす。価値をどう創造、確保する
に、
﹁自社の事業は何だろうか﹂という根本
James E. Heppelmann
って実現し、競争の新時代の幕開けをもたら
マサチューセッツ州を拠点とするソフトウェア
会社PTCの社長兼CEO。同社はメーカー
を対象に製品の開発、運用、サービス業
務の支援を行っている。
的な問いを突きつけるだろう。
Michael E. Porter
した。
ハーバード・ビジネス・スクールのウィリア
ム・ローレンス司教記念講座ユニバーシテ
ィ・プロフェッサー。
われていた。
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5 Diamond Harvard Business Review April 2015
﹁モノ﹂
の本質が
変化し始めている
|特集|IoTの衝撃
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
くうえでは、それらルールをこれまで以上に
よく理解することが求められる。
タイヤ、バッテリーなどがこれに当たる。
スマートな要素に相当するのはセンサー、
マイクロプロセッサー、データ・ストレージ、
制御装置、ソフトウェア、そして通常は、組
るためのポート、アンテナ、プロトコルを指
す。接続形態には以下の三つがあり、これら
は併存可能である。
ーフェースを介して利用者、メーカー、
一対一 個別製品がポートなどのインタ
ーフェースである。自動車の例では、エンジ
他製品とつながる。自動車が診断用機器
ン・コントロール・ユニット、ABS︵アン
に接続されるような場合である。
み込みOSと洗練度の高いユーザー・インタ
、自動ワ
チロック・ブレーキング・システム︶
接続機能を持つ
スマート製品とは何か
接続機能を持つスマート製品は、①物理的
要素、②﹁スマート﹂な構成要素、③接続機
イパー付き水滴感知式ウィンドシールド、タ
によって高められるばかりか、その一部は製
める。スマート要素の性能や価値は接続機能
ート﹂な要素は物理的要素の性能や価値を高
の機器であっても、ソフトウェアの働き次第
ェアに取って代わっている。あるいは、同一
によっては、ソフトウェアが一部のハードウ
ッチパネル・ディスプレーなどがある。製品
アップグレードの遠隔実施を目的として、
多くは、性能のモニタリング、サービス、
たとえば、テスラモーターズ製自動車の
時に、連続的あるいは断続的に接続する。
一対多 中枢システムが多数の製品に同
能という三つの柱で成り立っている。
﹁スマ
品外でも発揮可能になる。この結果、価値増
製造元が運用する同一システムに接続さ
備え、機器の移動に対応して基地局を切り換
多対多 複数の製品が、種類が異なる数
れる。
で性能に何段階もの開きが生じる場合がある。
大の好循環が生じる。
接続機能とは具体的には、製品を有線ない
物理的要素とは機械部品と電気部品を指す。 し無線通信を介してインターネットに接続す
自動車を例に取ると、エンジン・ブロック、
通して、待ち時間を五〇%も短縮している。
多くの製品、さらには外部のデータ源に
からのITサポートなしに単独でアドレスを
タともつながっている。自動耕運機が正
相互に接続するほか、地理位置情報デー
所の温度変化を分析できる。こうして電力会
タイム・データ、たとえば変圧器や二次発電
うかを問わない︶から得られる大量のリアル
電装置、変換装置、配電装置︵ABB製かど
しい技術インフラを築く必要に迫られる︵図
ロジー・スタック﹂と呼ばれる、まったく新
接続機能を持つスマート製品に対応するに
は、企業はいくつもの階層から成る﹁テクノ
えるハンドオーバーを簡素化し、機器が外部
接続する。さまざまな種類の農業機械が、
エネルギー業界では、電力会社がABBの
スマート・グリッド技術を用いて、多様な発
確な深さと間隔で土中に窒素肥料を注入
社の制御センターは、過負荷の可能性を察知
。
表1﹁新しいテクノロジー・スタック﹂を参照︶
農業システムを調節、最適化するために
し、後続の種蒔き機が注入箇所にじかに
して、停電を未然に防ぐための調整が可能に
その構成要素は以下の通りである。
高い機能性を実現するには、三種類すべて
の接続形態が必要となる。
と湿度を基に速度を制御するほか、各使用者
てきたことを自動的に検知して作動し、温度
ファンの天井ファンは、だれかが部屋に入っ
ウェア・アプリケーション、OS。
❶製品内蔵の改良型ハードウェア、ソフト
要求できるようになっている。
トウモロコシの種を蒔いていく。
なる。消費財業界の事例もある。ビッグアス
接続機能は二重の役割を果たす。第一に、
製品と、その動作環境、製造元、利用者、他
ド﹂上に展開することができる。一例として、
を物理的な機器の外、すなわち﹁製品クラウ
面で実現可能にしたのである。センサーやバ
接続機能のあるスマート製品を技術、経済両
では、なぜいまなのかというと、テクノロ
ジー分野の数々のイノベーションが融合して、
ンジンと 解 析 プラットフォーム、製品
るためのプラットフォーム、ルール・エ
ス、アプリケーション・ソフトを開発す
ア。ここには、製品データのデータベー
の好みを認識してそれに合わせる。
ボーズの最新Wi Fiシステムには、製品
ッテリーの性能、小型化、省エネ性といった
に未搭載のスマート製品アプリケーショ
の製品やシステムとの情報交換を可能にする。
クラウド上のスマートフォン向けアプリケー
面でのブレークスルー。コンピュータの内蔵
ンが搭載されている。
製品クラウド、すなわちメーカーあるい
❷
サード・パーティ
は第三者のサーバー上で動くソフトウェ
ションを活用して、インターネット経由で音
化を実現する、非常にコンパクトで低コスト
接続機能を持つスマート製品は、製造セク
ター全体で増加している。重工業の事例とし
能にするツール類。ビッグデータ解析。そし
ヤレス接続。ソフトウェアの迅速な開発を可
務ソフトウェア・パッケージ︺
、CRMシス
を他の業務システム︵ERP︹統合型業
第二に、接続機能があると、製品機能の一部
楽ストリーミングを楽しむための仕組みが備
のプロセッサーとデータ記憶装置。安価な接
ては、シンドラーグループのPORT技術が
て、三四〇兆の一兆倍の一兆倍ものアドレス
テム︹顧客関係管理システム︺など︶に引
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7 Diamond Harvard Business Review April 2015
アナリティクス
わっている。
ある。この技術は、エレベーターの需要パタ
空間を有する、新しいIPv 6プロトコル。
き継ぐためのツール。
続ポートとどこでもつながる低使用料のワイ
ーン予測、目的階への最短所要時間の算出、
IPv 6プロトコルは、高いセキュリティを
❸ ID認証とセキュリティ。
❹ 外部のデータ源とのゲートウェイ。
❺ 接続機能を持つスマート製品のデータ
利用者を迅速に運ぶのに適した号機の手配を
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IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
これらのうち③④⑤はテクノロジー・スタ
ックの全階層に対応する。
この技術によって実現するのは、製品アプ
リケーションの迅速な開発・運用だけではな
い。長期的変化を示すかつてなかった種類の
膨大なデータが製品内外で生み出されるかも
しれず、それらの収集・分析、共有も可能に
なるのだ。接続機能を持つスマート製品向け
にテクノロジー・スタックを開発、支援して
いくには、多大な投資に加えて、ソフトウェ
ア開発、システム・エンジニアリング、デー
タ解析、オンライン・セキュリティ分野の専
門性など、多様な最新技能が求められる。こ
れら技能は、製造を本業とする企業にはまず
備わっていない。
接続機能を持つスマート製品は
何ができるのか
インテリジェント性と接続機能の恩恵によ
って、製品にまったく新しい機能や性能を持
たせることができる。それらはモニタリング、
制御、最適化、自律性の四種類に分かれ、一
つの製品が四種類すべてを備える場合もあり
うる︵図表2﹁接続機能を持つスマート製品の
。各機能はそれ自体
ケイパビリティ﹂を参照︶
が有用であると同時に、次のレベルの土台と
しての役割も果たす。たとえば、モニタリン
|図表1|新しいテクノロジー・スタック
接続機能を持つスマート製品に対応するには、企業はまったく新しい技術インフラを構築、支援しなくては
ならない。この「テクノロジー・スタック」は、新しい製品ハードウェア、組み込みソフトウェア、接続機能、
遠隔サーバー上で稼働するソフトウェアを搭載した製品クラウド、一群のセキュリティ・ツール、外部の情報
源とのゲートウェイ、業務システムとの統合機能から成る。
製品クラウド
スマート製品のアプリケーション
遠隔サーバー上に常駐して、製品機能のモニタリン
グ、制御、最適化、自律的運用を管理するアプリケ
ーション・ソフト
アナリティクス
ルール/ 解 析エンジン
ルール、ビジネス・ロジック、ビッグデータ解析の
ためのエンジン。製品の運用に関わったり、製品に
ついての新しい知見を引き出したりするアルゴリズ
ムを搭載。
アプリケーション・プラットフォーム
アプリケーションの開発・実行環境。データ・アク
セス、ビジュアル化、ランタイム・ツールを活かし
て、接続機能を持つ事業用スマート・アプリケーシ
ョンの迅速な開発を支援する。
|図表2|接続機能を持つスマート製品のケイパビリティ
接続機能を持つスマート製品のケイパビリティは、①モニタリング、②制御、③最
適化、④自律性の4種類に分けられ、各機能は前段階の機能を前提としている。
たとえば、制御を行うためにはモニタリング機能が欠かせない。
ID管理と
セキュリティ機能
自律性
Autonomy
最適化
Optimization
制御
Control
外部の情報源との
ゲートウェイ
気象、交通、商品・エ
ネルギー価格、ソーシ
ャル・メディア、地図
など、製品機能に活用
できる情報を外部から
取り込むためのゲート
ウェイ
業務システムとの統合
接続機能を持つスマー
ト製品から得られるデ
ータを主な業務システ
ム(ERP、CRM、PLM)と
統合するためのツール
接続機能
モニタリング
Monitoring
1
2
3
4
センサーと外部のデータ源を活
かして、以下を総合的にモニタ
リングする。
製品ないし製品クラウドに搭載し
たソフトウェアによって以下を実
現する。
モニタリング機能と制御機能を
基に、アルゴリズムにより、以下
の目的のために製品の稼働と使
用を最適化する。
モニタリング、制御、最適化を
組み合わせて以下を実現する。
▶ 製品の状態
▶ 製品機能の制御
▶ 製品性能の向上
▶ 製品の自動運用
▶ 外部環境
▶ ユーザー・エクスペリエンスの
▶ 予防的な診断、サービス、
▶ 他の製品やシステムとの
▶ 製品の稼働、利用状況
ユーザー認証とアクセ
ス許可のほか、製品、
接続機能、製品クラウ
ドといった各階層のセ
キュリティ確保を担う
ツール
製品データのデータベース
製品のリアルタイム・データと過去データの集約、
正規化、管理を可能にするビッグデータ・データベ
ース・システム
パーソナル化
修理
製品
自動的な連携
▶ 自動による製品の改良と
モニタリング機能は、異変が生
じた場合の警告や通知にも役
立つ。
ネットワーク通信
製品とクラウドの間の通信を実現するプロトコル
パーソナル化
▶ 自己診断と修理
製品ソフトウェア
組み込みOS、搭載アプリケーション、改良型ユー
ザー・インターフェース、製品制御部品
製品ハードウェア
従来の機械部品、電気部品を補完する組み込みセン
サー、プロセッサー、接続用ポート/アンテナ
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IoT時代の競争戦略
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|特集|IoTの衝撃
ばなくてはいけない。
争上のポジショニングを決定づける機能を選
各企業は、顧客に価値をもたらし、自社の競
グ機能は制御、最適化、自律性の土台になる。
定し、限界濃度に達する三〇分前に患者と医
センサーを介して組織間質液の血糖濃度を測
ジタル血糖測定器は、患者の皮下に留置した
加価値創造の柱である。メドトロニックのデ
ロイヤルフィリップスのライティング事業
部の色相照明システムは、スマートフォンを
との関わりを制御、パーソナライズできる。
と、利用者もさまざまな新しいやり方で製品
イズをも可能にする。この同じ技術を活かす
師に警報を出すことにより、適切な措置を可
て利用者などに対する注意喚起も可能だ。さ
る。データを基に、環境や性能の変化につい
稼働状況、外部環境のモニタリングを実現す
接続機能を持つスマート製品は、センサー
と外部からのデータを使って、製品の状態、
ている。あわせて、国境をまたぐ複数の鉱山
予測に役立つサービス指標をモニタリングし
にある全機械の稼働状況、安全指標、今後の
メーカー、ジョイ・グローバルは、地下深く
遠隔地に散在する複数の製品をモニタリン
グ対象にすることもできる。採掘機械の主力
トフォンで確認して、中に入れることも可能
使うと、自宅への訪問者を外出先からスマー
接続機能付きスマート製品︿ドアボット﹀を
もできる。玄関の呼び鈴と鍵を組み合わせた
くしていく、といった指示を出しておくこと
したら赤色を点滅させる、夜間は少しずつ暗
使って電源のオン、オフを切り替えることが
らに、メーカーや顧客はモニタリング機能を
で稼働状況をモニタリングして、比較に役立
である。
能にしている。
活かして製品の稼働の特性や履歴を追跡し、
てている。
モニタリング
実際の使われ方をよりよく理解できる。
制御
サービスに向かわせることにより、初回での
任の技術者に適切な部品を持たせてアフター
用パターン分析によって実現する。また、適
場セグメンテーションは、顧客種別ごとの利
ばオーバースペックを防ぐうえで役立つ。市
くなりすぎたらバルブを閉める﹂
﹁駐車場ビル内
指示を出す働きをする︵たとえば﹁圧力が高
に変化した場合、それに対応するよう製品に
ムは、状況や環境があらかじめ指定した通り
ルゴリズムによって制御できる。アルゴリズ
接続機能を持つスマート製品は、製品機器
あるいは製品クラウド上の遠隔コマンドやア
スを適用して、産出量、稼働率、効率を劇的
過去のデータにアルゴリズムやアナリティク
接続機能を持つスマート製品は、現在および
多くは、以前ならば不可能だったものである。
による製品性能の最適化が可能になる。その
制御する機能と組み合わせると、数々の方法
接続機能を持つスマート製品がもたらす潤
沢なモニタリング・データを、製品の働きを
最適化
できる。あるいはあらかじめ、侵入者を検知
このデータは製品設計、市場セグメンテー
ション、アフターサービスにとって重要な意
修理完了率が高まる。このほかにも、データ
の交通量が一定水準に達したら、天井の照明を
味合いを持つ。製品設計に関しては、たとえ
をモニタリングすると、保証条件を満たして
に向上させることができる。風力発電の例で
転するたびに最寄りの超小型制御装置が各
。
点ける︹あるいは消す︺
﹂など︶
組み込みソフトウェアや製品クラウドによ
る製品制御は、かつてはコストに見合わない
回転翼を調節している。そのうえ各風車に対
ブ レ ー ド
は、風力を最大化する狙いから、風車が一回
か不可能だった、大胆な製品性能のカスタマ
いるかどうかがわかったり、利用率が高いた
め容量増強が必要だといった新たな販売機会
が見えてきたりする。
医療機器などの例では、モニタリングは付
合に、先回りをしてメインテナンスを実施し
故障や機能停止のおそれが差し迫っている場
ービスの最適化が可能になる。具体的には、
製品の状態や製品制御機能をリアルタイム
でモニタリングしてデータを取得すると、サ
ボット︿ルンバ﹀のようなものを考えてみる
って掃除をする、アイロボット製のお掃除ロ
より、さまざまな形状の部屋で床の状態を探
例としては、センサーとソフトウェアの力に
が備わる。自律性を備えた製品の最も素朴な
かつては夢でしかなかったような高い自律性
モニタリング、制御、最適化の各機能が結
びつくと、接続機能を持つスマート製品に、
派遣される。
人間の介在が必要な場合には地下に技術者が
状況や不具合の有無は常時モニタリングされ、
下深くで自律的に作動する。採掘機械の稼働
地上にある鉱床管制センターの監視の下、地
ーバルの︿ロングウォール・システムズ﹀は、
視するだけになる。一例としてジョイ・グロ
役割は、個々の製品ではなく、製品群やシス
たり、遠隔で修理を行ったりして、不稼働時
とよい。より洗練された製品は、環境がどう
自律性
間や修理担当者の派遣回数を減らすのである。
なっているかを把握し、必要な修理内容を自
して、それ自体の発電成果を高めるだけでな
たとえ現地修理が必要であっても、故障箇所、
己診断し、利用者の嗜好に対応する。製品の
た後、可能であれば遠隔操作で修理する。遠
機能不全が見つかると、まずは状態を見極め
故障の兆候がないかを探っている。ATMに
一例としてディーボルドは、多くの自社製
ATM︵現金自動預け払い機︶を監視して、
が増大するにつれて向上し、電力会社は時の
ルギー効率は、スマート・メーターの接続数
的に高まっていく。たとえば、電力網のエネ
価値は、接続する製品が増えるにつれて飛躍
高い自律性を備えた製品は、他の製品やシ
ステムとの連携も容易である。これら機能の
やがて製品は完全な自律性を手に入れる。
みずからの稼働状況と環境︵関係する他製品
接続機能を持つスマート製品が業界の競争
業界構造の変化
テム全体の稼働状況をモニタリングないし監
必要部品、修理方法について事前に情報を入
自律性が向上すると、操作者が不要になる例
く、近くの風車の効率を妨げないように調節
手していれば、サービス・コストは低減し、
が増えるだけでなく、危険な環境下での安全
隔での修理ができない場合は、詳細な診断内
経過とともに需要パターンをよりよく理解し
を加えることもできる。
最初の一回で修理が完了する比率は高まるだ
性が高まり、遠隔地での操業がしやすくなる。
容や推奨修理法を知らせたうえで技術者を派
て対応力を高める。
を迎えると、接続機能を持つスマート製品の
の活動状況ほか︶に関するデータを基にアル
April 2015 Diamond Harvard Business Review 10
11 Diamond Harvard Business Review April 2015
ろう。
遣するのだが、その際には必要となる部品を
多くと同様、ディーボルドのATMもまた
ゴリズムを作動させたり、他製品との通信能
持たせることも多い。やがて機能拡充の時期
更 新 される。これは往々にして、ソフトウ
力をうまく発揮したりするのである。人間の
アップデート
ェアを使って遠隔で行われる。
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
状況や収益性にどう作用するかを知るには、
フ ァ イ ブ・
業界構造への影響を吟味しなくてはならない。
フ ォ ー ス
ど の 業 界 に お い て も、競 争 状 況 は 五 つ の
競争要因、すなわち①買い手の交渉力、②既
存企業同士の競争の性質と熾烈さ、③新規参
入者の脅威、④代替品や代替サービスの脅威、
⑤サプライヤーの交渉力によって決まる。こ
れら五つの要因の構成と強さの度合いが相ま
って、業界の競争状況と既存企業の平均的な
収益性を決定づける。
新規技術や顧客ニーズなどの影響で五つの
要因が変化すると、業界構造にも変化が及ぶ。
と考えられる。
う。その影響を最も強く受けるのは製造業だ
と同様、多くの業界の構造を激変させるだろ
ターネットを起爆剤とした過去のIT化の波
はまた、顧客との関係性をひときわ深めるき
手腕が高まる。接続機能を持つスマート製品
値を引き出し、付加価値サービスを拡充する
カスタマイズ、価格設定を通してよりよく価
がわかると、顧客セグメンテーション、製品
格だけではなくなる。製品の実際の使われ方
の機会を劇的に拡大するため、競争の軸は価
能になるため、利益が増大する。以上の諸要
者への依存度を下げ、中抜きすることさえ可
恩恵により、サービス業務の提携先や流通業
る。さらに、接続機能を持つスマート製品の
プライヤーに乗り換える際のコストは上昇す
利用データを入手すると、買い手が新たなサ
っかけにもなる。豊富な時系列データや製品
買い手の交渉力
接続機能を持つスマート製品は製品差別化
開発に伴う初期費用の増大、製品設計の複雑
化、テクノロジー・スタック︵信頼性の高い
接続機能、堅牢なデータ・ストレージ、アナリ
は、直接の顧客である機体メーカーに対する
終顧客にじかに提供できる態勢にある。これ
る可能性を持つ。また、特定の市場セグメン
たらし、既存企業同士の競争のあり方を変え
接続機能を持つスマート製品は、差別化や
付加価値サービス提供の新たな方法を多数も
圧力への耐性が低い。
に販売数を押し上げようとするため、値下げ
業界では、各社が固定費負担を吸収するため
。固定費の高い
ジー・スタック﹂を再び参照︶
ティクス、セキュリティなど︶の開発に伴う多
交渉力の強化につながる。たとえば、何百も
トに合わせた製品やサービスを提供したり、
具体例を示したい。ゼネラル・エレクトリ
ック︵GE︶のアビエーション︵航空︶事業
のエンジン・センサーから得られる情報を活
さらに踏み込んで個別顧客向けにカスタマイ
接続機能を持つスマート製品の機能や性能
の飛躍的拡大を受けて、各社はライバルに負
大な固定費である︵図表1﹁新しいテクノロ
かすと、GEと航空会社はエンジン性能の期
ズしたりして、いっそうの差別化や正味価格
方、機体メーカーへの影響力を強めている。
ながりを活かしてともに差別化を推進する一
を減らした。GEは、航空会社との緊密なつ
いう操縦プロセスの変更を行い、燃料使用量
果を基に、着陸時の下げ翼の位置を改めると
ボールの速度、スピン、インパクト・エリア
新製品︿Play ピュアドライブ﹀をテコに、
リップ部分にセンサーと通信機能を内蔵した
るバボラの事例を紹介したい。バボラは、グ
ラケットと関連製品を一四〇年前から製造す
た 価 値 提 案 の機会をも生み出す。テニス・
そのうえ、製品それ自体だけでなく、貴重
なデータの提供やサービスの拡充などを含め
カーはこれまで、競合関係にはなかった。と
庭用照明、娯楽用AV機器、エアコンのメー
するおそれがある。具体例を挙げるなら、家
み込まれた場合も、既存企業間の競争は激化
なお、詳しくは後述するが、接続機能を持
つスマート製品が包括的な製品システムに組
けじと製品の特徴や機能を増やす一方、性能
もっとも、接続機能を持つスマート製品は
買い手の交渉力を高める役割をも果たす。製
をスマートフォン向けアプリで把握・分析し
ころが現在ではいずれも、家庭内のさまざま
部門は現在、以前よりも多くのサービスを最
待値と実測値との乖離を探り出して、最適化
の向上を図ることにも寄与する。
品の実際の性能をよりよく理解する機会を買
てプレーの改善に役立てるサービスを提供し
支援に頼る度合いを減らせると気づくかもし
する。接続機能を持つスマート製品のコスト
以上のような、競争の主軸が価格以外に移
る傾向に関しては、それを弱める要因も存在
接続機能を持つスマート製品分野への新規
新規参入者の脅威
り出そうとして、しのぎを削っている。
コネクテッド・ホームという新しい分野に乗
な製品をつないでインテリジェント化する、
し、業界の収益性を圧迫する。
能性がある。この動きはコスト上昇をもたら
向上を価格に転嫁するのを控えようとする可
い手にもたらし、メーカー同士を競わせるこ
ている。
れない。なお、
﹁製品のサービス化﹂を目指
構造が変化し、固定費が上昇して変動費が低
バリュー・プロポジション
とを可能にするのだ。買い手はまた、製品の
すビジネスモデルや共有サービス︵後述︶の
下しているのだ。その原因は、ソフトウェア
使用データを入手すれば、メーカーの助言や
下では、製品の買い切り制度と比べて乗り換
航空は、GEによる燃料使用データの分析結
を図ることができる。イタリアのアリタリア
既存企業同士の競争
えコストが低くなり、買い手の交渉力が増す
新規参入者の
脅威
因により、買い手の交渉力をかわしたり、削
接続機能を持つスマート製品は、業界構造を変化させるだろ
う。
フ ァ イ ブ・
それら変 化の意 義を理 解するための枠 組 みとして、5つの
フ ォ ー ス
競争要因が役立つはずだ。
可能性がある。
フ ァ イ ブ ・ フ ォ ー ス
いだりしやすくなる。
接続機能を持つスマート製品の普及は、イン
買い手の交渉力
既存企業同士の
競争の性質と
熾烈さ
サプライヤーの
交渉力
April 2015 Diamond Harvard Business Review 12
13 Diamond Harvard Business Review April 2015
|図表3|業界の競争状況を決定づける5つの競争要因
代替品や代替
サービスの脅威
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
参入者は、複雑な製品設計、埋め込み技術、
複数の階層から成る最新のITインフラにか
かる高い固定費をはじめとして、大きな障壁
に直面する。サーモフィッシャーサイエンテ
ィフィックが提供する、
︿Tru De fen
der FTi﹀という化学物質分析器を例
灌漑
灌漑アプリケーション
ー
現場センサー
に取りたい。これは、スマート製品に接続機
播種最適化
播種
アプリケーション
耕運機
能を付加して、危険な環境下で化学物質を検
知・分析して結果を顧客に送信するとともに、
人や機械の除染完了を待たずに悪影響の緩和
への着手を可能にするものだ。サーモフィッ
シャーサイエンティフィックは、高いセキュ
リティの下で製品データを取得、分析、蓄積
し、それを社内と顧客の両方に配信するため
に、製品クラウドを完備する必要があった。
これは大がかりな取り組みだった。
製品の定義を広げると、新規参入の障壁を
さらに高めることができる。バイオトロニッ
クという医療機器メーカーの場合、創業当初
に製造していたのはスタンドアローン型のペ
ースメーカーやインスリン・ポンプである。
それが現在では、接続機能を持つスマート製
品を扱っている。たとえば、家庭向け健康モ
ニタリング・システムをデータ処理センター
と組み合わせて提供し、医師が遠隔から患者
の使用機器や臨床状態を確認できるようにし
ている。
俊敏な既存企業が製品データを収集・蓄積
して、それを基に製品やサービスを改善した
り、アフターサービスを刷新したりすること
により、貴重な先行者利益を手に入れた場合
にも、参入障壁は高まる。接続機能を持つス
マート製品は、買い手のロイヤルティや乗り
換えコストを高めるため、新規参入はいっそ
う難しくなる。
ただし、既存企業の強みや資産を無効にす
る、あるいは超えるような接続機能付きスマ
ート製品には、参入障壁を低くする働きがあ
る。しかも既存企業は、ハードウェアに依拠
する強みや、従来からの収益性の高い部品、
サービス事業を守りたいがために、接続機能
を持つスマート製品の可能性を十分に活かす
ことに二の足を踏むかもしれない。これが新
規参入者につけ入るすきを与える。
一例として、農家向けサービス事業を展開
するオンファームは、製品を持たずして、農
業機械メーカーとうまく渡り合っている。各
種農業機械のデータを収集して農家のよりよ
い判断に寄与すれば、みずから機械を製造す
る必要はまったくない。ホーム・オートメー
ション業界では、統合型ソリューション・プ
農家経営
データベース
デー
種蒔き機
種子
種
データベース
デ
播種最適化
システム
農家管理
システム
農業機械
システム
農家同士の
連携
農業機械
システム
気象データ・
アプリケーション
気象データ・
システム
降雨量、湿度、
温度のセンサー
製品
April 2015 Diamond Harvard Business Review 14
15 Diamond Harvard Business Review April 2015
接続機能を持つスマート製品
System of systems
複合システム
5
Product system
接続機能を持つスマート製品のケイパビリティ増大に伴い、業界内の競争状況が変化するほか
事業領域が拡大する。これは、競争の基本が個々の製品から、関連性の強い製品から成る製
品システム、さらには多数の製品システムの複合体へと移行するのに伴って起きる。たとえばトラ
クター・メーカーは、気づいたら農業オートメーション業界で競争しているかもしれない。
気象予報
気象予
天気図
気図
Smart product
製品システム
4
Smart, connected product
3
スマート製品
2
Product
1
ロバイダーのクレストロン・エレクトロニク
スが、充実したユーザー・インターフェース
を備えた複合型の専用ホーム・システムを提
供した。製品を柱に事業を行う企業は、従来
とは異なる斬新な企業からも挑戦を受けてい
|図表4|業界の事業領域の変遷
トラクター
灌漑
システム
灌漑地域
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
スを開始したのだ。
シンプルなコネクテッド・ホーム管理サービ
る。アップルが最近、スマートフォンによる
など既存の自動車メーカーも、それぞれ︿リ
、BMW、トヨタ自動車
モーターズ︵GM︶
自動車を持つ必要はなくなるため、ゼネラル
ビスを提供している。このサービスを使うと
支払代金が製品コスト全体に占める比率は
減らすこともできる。既存サプライヤーへの
に合わせられるため、物理的な部品の種類を
製品の物理的特性を変えなくても顧客ニーズ
ある。さらにソフトウェアの力を借りると、
量や睡眠パターンなどさまざまな種類の健康
のウェアラブル型フィットネス機器は、活動
能を取り込んでしまうのだ。フィットビット
可能性を持つがゆえに、旧来製品の機能や性
その半面、多くの業界において新しいタイ
プの代替の脅威をも生み出している。大きな
と収益性を押し上げる役割を果たしうる。
替サービスの脅威を低減させ、業界の成長性
車共有サービスは、自転車購入の代替になる
人が増える可能性もある。利便性の高い自転
の必要がないなら自転車を使おう﹂と考える
車を持つ必要性は低くなるが、
﹁購入や保管
ら、共有サービスがあると都会の住民が自転
いの料金を徴収する仕組みである。当然なが
おき、利用状況をモニタリングして時間見合
トフォン・アプリで場所を探せるようにして
ドッキング・ステーションを設けて、スマー
メーカーにとって従来は必須ではなかったが、
これら企業が持つ人材や手腕は、たいていの
おいても巨大で他を圧倒する企業も含まれる。
グル、アップル、AT&Tのように、本業に
部分の提供企業である。そのなかには、グー
ス、さらにはテクノロジー・スタックの他の
みOS、データ・ストレージ、アナリティク
センサー、ソフトウェア、接続機能、組み込
なかった強力なサプライヤーの登場を促す。
しかし、接続機能を持つスマート製品はと
もすると、メーカーがこれまで必要としてい
ーの交渉力は衰えていくだろう。
往々にして低下し、それに伴ってサプライヤ
レーライド﹀
︿ドライブナウ﹀
︿ダッシュ﹀と
代替品や代替サービスの脅威
いった名称で共有サービスに参入している。
接続機能を持つスマート製品は、旧来の代
自転車の共有サービスも各都市で続々と登
替品よりも優れた性能、カスタマイズの機会、
場している。自転車を借りたり返したりする
関連データを記録でき、ランニング・ウォッ
ばかりか、自動車など都市部における各種通
顧客価値を提供することにより、代替品や代
チや歩数計といった既存製品に代わる役割を
現在では製品差別化のコスト低減に欠かせな
体の大きな部分を占めたり、メーカーの利幅
イヤーは強い交渉力を発揮して、製品価値全
いものになりつつある。これら新たなサプラ
勤手段の代替にもなるかもしれない。
サプライヤーの交渉力
果たす。
接続機能を持つスマート製品が可能にする
ビジネスモデルは、製品の全般的な需要を減
らし、所有に代わる形態を生み出す。たとえ
から成る生態系にアプリケーション開発を促
験をもたらす一方、多数のソフトウェア企業
︵相手ブランド製造︶企業には、優れた顧客経
して旗揚げした団体である。自動車のOEM
必要な場所ですぐに自動車を利用できるサー
共有サービスも製品のサービス化の一形態
である。たとえばジップカーは、必要な時に
で製品を使用できる。
デルの下では、顧客は従量料金を支払うだけ
品の機能は、他の関連製品群に最適化される。
を取り込みながら、拡大していく。個々の製
い基本ニーズに応えるようないくつもの製品
もある。業界の競争領域は、全体として幅広
けでなく、業界の定義そのものを広げる場合
ソフトウェアに取って代わられるおそれさえ
的な部品はありきたりなものとなり、やがて
の価値が相対的に大きくなるにつれて、物理
物理的なものよりもスマート部品や接続機能
配分を変えつつある。製品の構成要素のうち、
械から複数の機械を統合したシステムへと、
の性能最適化へと重点を移してきた。個別機
性能最適化から、現場に配置された機械全体
は、ジョイ・グローバルが個々の採掘機械の
ら最適化へと移行しているのだ。採掘業界で
がある。つまり、業界の軸足は機械の製造か
ンドロイド﹀を自動車に搭載することを目指
ィ、現代自動車などが先頃、グーグルの︿ア
AA︶である。GM、本田技研工業、アウデ
こうした新種のサプライヤーの好例はオー
プン・オートモーティブ・アライアンス︵O
を縮めたりすることができる。
すような、安定した組み込みOSを世に出す
接続機能を持つスマート農業機械、たとえば
業界の枠組みが拡大しているのである。
接続機能を持つスマート製品は、サプライ
ヤーとの従来の関係性を揺さぶり、交渉力の
のに必要な専門性などなかった。OEM企業
トラクター、耕運機、種蒔き機を連携させる
ば、
﹁製品のサービス化﹂というビジネスモ
のサプライヤーに対する影響力は、従来と比
と、全体としての性能がいっそう向上する可
もっとも、業界の枠組みは製品システムか
ら、システムのシステム、すなわち﹁システ
ヒュンダイ
べて大幅に弱まった。グーグルのようなサプ
能性がある。
エコシステム
ライヤーは、多大な経営資源や専門性を持つ
︵一例として、消費者はスマートフォン、音楽、
数々の関連アプリケーションを擁するのだ
くなる。メーカーはいまや、全体として最適
能へと移行し、競争の主体は農家だけではな
このように、競争の基盤は個別製品の機能
性から、幅広い製品を統合したシステムの性
スマート・シティなどがこれに当たる。
スマート・ビルディング、スマート・ホーム、
の関連情報を連携、最適化することであり、
ている。つまり、個々の製品システムと外部
ムの複合体﹂へとさらに拡大する傾向を強め
アプリケーションとの同期機能を持つ自動車を
な成果を発揮できるよう、互いに接続する一
一例としてディア・アンド・カンパニーと
だけでなく、強大な消費者向けブランドと
。
好むかもしれない︶
連の農業機械と関連サービスを提供する用意
ジョイ・グローバルの〈ロング・ウォール・
システム〉のような接続機能を持つスマ
ートな採掘機械は、自律的に他の機器
と連携して効果的な採掘を進める。
接続機能を持つスマート製品のテクノロジ
ー・スタックに関わる新規サプライヤーは、
最終利用者とつながり、製品利用データを入
手できる立場を背景に、より大きな影響力を
手に入れるかもしれない。GEとアリタリア
Joy Global
April 2015 Diamond Harvard Business Review 16
17 Diamond Harvard Business Review April 2015
航空の事例でも見たように、製品利用データ
を入手したサプライヤーは、最終利用者に新
しいサービスを提供する機会をも得る。
業界間の新しい境界と
﹁システムの複合体﹂
接続機能を持つスマート製品の強力な機能
や性能は、業界内の競争状況を塗り替えるだ
ジョイ・グローバル
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
AGCOは、農場の収益全般を向上させる狙
平均よりも高い収益性と成長性を享受できる。
テム、土壌・滋養源、さらには天候、穀物価
いくつもの製品を展開する企業がさまざまな
第二に、事業領域が拡大している業界では
再編圧力の高まりが予想される。その場合、
り入れることが欠かせない。具体的には、最
は、バリューチェーン全体に最良の慣行を取
うである。
格、商品先物の情報をもつなぐ取り組みを始
システムを対象に製品性能を最適化できるの
先端の製品テクノロジー、生産機械、そして、
競争優位の拠り所は業務効果︵ operational
めている。スマート・ホームもまた、照明、
に対して、単一製品しか持たない企業は競争
セールス手法、ITソリューション、サプラ
いから、農業機械だけに留まらず、灌漑シス
冷暖房空調設備、娯楽機器、セキュリティ装
上不利な立場に置かれるだろう。
ベスト・プラクティス
︶である。業務効果を高めるに
effectiveness
置など数々の製品システムから成り立ってい
ディア・アンド・カンパニー、AGCO、
ジョイ・グローバルなど一部の企業は、所属
適な立場にあるといえそうだ。
価値のかなりの部分を手に入れるうえで、最
ムの複合体化﹂を推進してそこから得られる
に最も大きな影響を及ぼす企業は、
﹁システ
られる場合もあるだろう。つまり、製品その
れるのだ。その際には﹁脱製品化﹂戦略が取
二分に引き出す機会をつかみ取る、と予想さ
スマート製品から付加価値創造の可能性を十
ト・プールもない企業が、接続機能を持った
競争手法に囚われず、守るべきプロフィッ
第三に、重要な新規参入企業が現れる可能
性が高い。従来の製品定義やすでに確立した
ながる例は稀である。
だろうから、業務効果が持続的な優位性につ
ト・プラクティスを導入して追い上げてくる
取るだろう。ところが競合他社も同様のベス
ない限り、コストと品質で競合他社に後れを
えず新しいベスト・プラクティスを取り入れ
業務効果は競争に参加するために最低限必
要なものである。高い業務効果を発揮してた
イチェーン管理法をそろえるのだ。
業界の事業領域を意図的に広げ、再定義しよ
ものではなく製品同士をつなぐシステムを、
る。製品や設計を通してシステム全体の性能
うとしている。他社は、新たな競争相手、新
主な競争優位の源泉と位置づけるのだ。
業務効果の向上に留まらずさらに前進する
には、自社ならではの戦略的ポジショニング
を明確にしなくてはならない。業務効果がそ
つのない業務遂行を指すのに対して、戦略的
接続機能を持つスマート製品が業界構造に
及ぼす正味の影響は、業界ごとに異なるだろ
競争優位を獲得するには、差別化を通して上
競争の基本教義はここにも当てはまるだろう。
業界構造が変化するなか、企業はどうすれ
ば持続的な競争優位を獲得できるのだろうか。
わないかも判断する必要がある。
が欠かせず、何を行うかだけでなく、何を行
くてはならない。戦略を決めるには取捨選択
独自の価値をもたらすか、その方法を選ばな
接続機能を持つスマート製品と
競争優位
たな競争基盤、まったく新しい幅広いケイパ
ビリティが必要となるこの動きを、脅威と受
け止めるかもしれない。適応できない企業は、
既存製品の陳腐化に直面したり、システム統
うが、鮮明な傾向もあるようだ。第一に、製
乗せ価格を実現するか、ライバル企業よりも
ポジショニングは他社と違うやり方をするこ
品利用データを早期に収集・蓄積すると、参
コストを低く抑えるかのどちらか、あるいは
合化を推進する企業にOEM製品を納める立
入障壁を高めるばかりか先行者利益が得られ
両面作戦を敢行するのだ。こうすれば、業界
開発プロセスもまた、完成間近あるいは販売
れらの専門性は十分に培われていない。製品
接続機能を持つスマート製品が業務効果の
新たな基準を打ち立てている影響で、
﹁ベス
とを意味する。狙い定めた顧客にいかにして
るため、多くの業界が統合化の波に洗われそ
の変化は戦略判断にじかに跳ね返る。
場に追いやられたりするかもしれない。
ト・プラクティス﹂と認められるためのハー
ドルは格段に高くなっている。製品を提供す
接続機能を持つスマート製品は、数々の新
しい設計原則を必要とする。カスタマイズは
り、ハードウェアの新バージョンが完成する
フトウェアでは開発スピードがまったく異な
後に速やかに効率よく設計を変更できるよう、
るだろう。ただし、この変化の波にさらされ
ソフトウェアに任せて、ハードウェアを規格
までの間に、それに対応するソフトウェアの
製品設計
ているのは製品だけではない。すでに述べた
化するための設計。パーソナル化を可能にす
開発チームは一〇回も反復開発を行うため、
る企業は例外なく、スマート性と接続機能を
通り、接続機能を持つスマート製品の普及は、
る設計。頻繁なアップグレードを助ける力を
会社としては両者のスピード調整をして整合
改める必要があるだろう。ハードウェアとソ
バリューチェーンのそこかしこで新しいベス
備えさせるための設計。予測サービス、改良
どう製品に持たせるかを決める必要に迫られ
ト・プラクティスを生み出すのである。
を取る必要があるだろう。
設計⋮⋮。
型サービス、遠隔サービスの実現に寄与する
接続機能を持つスマート製品がバリューチ
ェーンに及ぼす意味合いについては、本稿の
アフターサービス
製品のハードウェア、電子装置、ソフトウ
ェア、OS、接続機能を支える部品を統合す
続編で詳述する予定である︵囲み﹁競争への
。ここでは、この種の製
影響の概略﹂を参照︶
接続機能を持つスマート製品は、予防的な
メインテナンスやサービス生産性の大幅改善
April 2015 Diamond Harvard Business Review 18
19 Diamond Harvard Business Review April 2015
るには、システム・エンジニアリングと、ソ
(PTCは世界で2万8000社超と取引があり、そのうちの
何社もが本稿に登場する)
品が製品設計、サービス、マーケティング、
本稿では、接続機能を持つスマート製品
が業界構造や事業領域に及ぼす影響を吟
味し、企業が直面する新たな戦略的判断
について議論する。今後発表する予定の
続編では、バリューチェーンへの影響と
組織上の課題を取り上げる。
に役立つ。故障・不具合やその兆候の発見に
4
接続機能を持つスマート製品に
対応するという決断が組織に及
ぼす意味合い、および実行成果
を左右する課題は何か。
フトウェアのアジャイル開発手法についての
3
これら製品の登場を受けて、競
争優位を獲得するためにはどの
ような種類の戦略的判断を新た
に下す必要があるか。
人材開発、セキュリティに及ぼす影響に焦点
2
この種の製品は、バリューチェ
ーンの構成や競争に欠かせない
もろもろの事業活動をどう左右
するか。
つながる製品データを活かして、適切なタイ
1
接続機能を持つスマート製品の
普及は、業界とその事業領域に
どのような影響を及ぼすか。
専門性が不可欠だが、多くのメーカーではこ
我々は本稿と続編において、接続機能
を持つスマート製品が多くの業界で競
争状況をどう変容させているかを探って
いく。そもそもの論点として、各企業は
次の4点を自問しなくてはならない。
を絞り、手短に説明したい。これら社内業務
競争への影響の概略
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
ミングで現地修理、そして時には遠隔修理を
行うには、サービス組織やサービス提供プロ
セスの刷新が求められる。製品の利用状況と
性能についてのリアルタイム・データは、現
場への人員派遣コストの大幅低減と、スペア
部品の在庫管理の大幅な効率向上を可能にす
る。製品の一部や部品が壊れそうだという警
告が早めに出ると、故障や不稼働を防ぎ、よ
り効率的な稼働に寄与する。製品の使用状況
や性能に関するデータがもたらす知見を製品
設計に活かせば、将来の故障と調査・修理の
必要性を減らすことができる。製品利用デー
タはまた、顧客からの修理依頼やクレームが
保証条件に沿うかどうかを検証して、保証契
設定することができる。この手法が最も功を
それら技能の多くは需要が大きい。これまで
技能を持った人材の採用がとりわけ急務だが、
須条件や課題が生まれている。数々の新しい
て、人材開発面でもかつてないほど重要な必
のである。
上のサービス業務の大幅な変化につながるも
るのだ。これらはすべて、サプライチェーン
か、配置数を減らせば、修理作業は単純化す
改良をも促す。壊れやすい部品を簡素化する
れる。製品仕様データは﹁サービス設計﹂の
アップグレードはソフトウェアによって行わ
わゆるグラス・コックピットがあり、修理や
なく、液晶︵LCD︶ディスプレーが並ぶい
空機には、かつての電気式、機械式計器では
節減できる場合もある、一例として最近の航
従来の部品を﹁ソフトウェア部品﹂に替え
ることにより、アフターサービスのコストを
映するはずである。また一〇の選択肢は相互
するほか、それぞれの会社に特有の状況を反
とがわかった。いずれもトレードオフを内包
業は一〇の新しい戦略の選択肢に直面するこ
持つスマート製品が普及した状況下では、企
値のより大きな部分を手にできるよう価格を
とサービスの組み合わせを考え出し、その価
に向けていっそう大きな価値をもたらす製品
方法で市場をセグメント化し、各セグメント
ータ解析ツールを用いると、より洗練された
果的に顧客に伝えたりすることができる。デ
ジショニングを改めたり、製品価値をより効
顧客に価値をもたらすかがわかり、製品のポ
ータを蓄積・分析すると、製品がいかにして
新しい慣行や技能が求められる。製品使用デ
ができるが、そのためにはマーケティングの
接続機能を持つスマート製品により、企業
は顧客とかつてない種類の関係性を築くこと
らない。
たらす製品特性がどれか、見極めなくてはな
まずは、コストの割に大きな価値を顧客にも
能は、どのようにして決めるべきだろうか。
接続機能を持つスマート製品の登場を受け
とができる。
ウェアの機能だけで何段階にも切り替えるこ
たが、現在では同一エンジンの馬力をソフト
力の異なる何種類ものエンジンを製造してい
まざまな顧客セグメントに対応するために馬
い。ディア・アンド・カンパニーは以前、さ
ることができる場合である。具体例を挙げた
迅速に手際よく製品をセグメントに特化させ
ウェアに手を入れて、わずかな限界コストで
マーケティング
機械エンジニアが中心だったエンジニアリン
依存関係にある。各社が選んだ選択肢は互い
器は製品寿命が非常に長く信頼性も高いため、
奏するのは、
︵ハードウェアではなく︶ソフト
グ部門は、ソフトウェア開発、システム・エ
を高め合い、自社の戦略的ポジショニング全
コストに見合う料金をこの機能のために支払
付加するに留めている。ところが産業用の給
Oスミスは、一部の機種にオプションとして
おうとする家庭はわずかである。このためA
AOスミスは家庭向け給湯器を対象に、作
動不良の監視・通知機能を開発したが、給湯
人材開発
ンジニアリング、製品クラウド、ビッグデー
般にまとまりと独自性をもたらさなくてはな
接続機能を持つスマート製品の機能
湯器やボイラーに関しては、このような機能
ステムとの安全な相互接続である。このため
製品テクノロジー・スタックと他の企業内シ
き来するデータの保護、製品不正利用の防止、
ーションを追加するための限界コストがえて
と考えるかもしれない。センサーやアプリケ
企業はできる限り多くの機能を盛り込みたい
接続機能を持つスマート製品の実現により、
製品が備えうる機能や特性は劇的に拡大する。
給湯器の例でもそうだが、接続機能を持つ
スマート製品に新機能を追加するためのコス
く普及しつつあるのだ。
価値がコストと比べて大きく、この機能は広
遂行できないため、遠隔による監視や運用の
や特性のうち、どれを追求するか
には、新たな認証プロセス、製品データの安
して低く、製品クラウドなどのインフラのコ
トは、次第に低減していく傾向がある点に留
の利用率は高く、なおも上昇している。法人
全な保管、製品データと顧客データのハッキ
ストがおおむね一定であるのだから、なおさ
顧客は往々にして、熱源や湯がないと業務を
ング防止、アクセス権限の設定と管理、製品
意してほしい。このため、どの機能を提供す
るかを決める際には、コストと価値の比較に
第二に、特徴や機能の価値は市場セグメン
トごとに異なるため、どのセグメントに狙い
常に立ち返らなくてはならない。
能の搭載を各社が競うようになると、戦略の
クトリックは、ビルディング向け製品や統合
てくるはずだ。一例としてシュナイダーエレ
を定めるかによって提供機能の選択は異なっ
接続機能を持つスマート製品に盛り込む機
しまう。
差別化がぼやけ、ゼロサム型の競争に陥って
にもたらすとは限らない。しかも、特性や機
しかし、多くの新機能を提供できるからと
いって、それらがコストを上回る価値を顧客
らだろう。
いは、製品を出入りするデータや製品間を行
接続機能を持つスマート製品は水も漏らさ
ぬセキュリティ管理の必要性を生む。その狙
セキュリティ
タ解析といった分野の人材を補強しなくては
約違反を特定するうえでも役立つ。
修理の必要が生じたテスラ製の自動車
は、自動的に修理用のソフトウェアのダウ
ンロードを要請するか、必要とあれば、
「テスラの修理工場への移送サービスを
依頼しますか」というメッセージとともに持
ち主に通知を発する。
らない。
Tesla
ならない。
テスラモーターズ
自体のハッキングや不正利用からの保護が必
要になるだろう。
戦略への意味合い
競争優位の土台を成すのは、結局のところ
戦略である。我々の研究からは、接続機能を
April 2015 Diamond Harvard Business Review 20
21 Diamond Harvard Business Review April 2015
1
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
型ビル管理ソリューションの提供に付随して、
電気・ガスの消費量ほか、ビルの稼働状況を
示す大量のデータを収集している。ある顧客
セグメントに向けては、ソリューションの一
信量を減らし、繊細なデータや機密データが
クラウド上のアプリケーションへのデータ送
製品とクラウドにそれぞれどれくら
送信中に漏洩するリスクを小さくできる。
トソーシング・ソリューションを望む顧客セ
ビスを提供している。ただし、全面的なアウ
費などのコスト節減アドバイスといったサー
は両方かを判断しなくてはならない。考慮す
、製品クラウドに搭載するか、あるい
する︶
組み込むか︵この場合は各製品のコストが上昇
製品にどのような特徴を持たせるかを決め
たら、各機能を実現するための技術を製品に
第三に、企業は自社の競争優位の強化につ
ながる機能や特徴を製品に取り入れるべきで
ェアは製品そのものに組み込んでおく必要が
原子力発電所の安全停止機能のように短い
レスポンス時間が求められる場合、ソフトウ
ターフェースを活かせる可能性もある。
定性のあるスマートフォンのような既存イン
顧客経験を実現できるほか、使いやすくて安
ラウドを利用したほうが、はるかに充実した
上に持っておくのが最も望ましいだろう。ク
ユーザー・インターフェースが複雑で頻繁
に変わる場合、インターフェースはクラウド
ユーザー・インターフェースの性質
載している。
を含むさまざまな機能を製品クラウド上に搭
り組みを速やかに開始できるよう、接続機能
汚染データを即時に転送して除染に向けた取
危険地帯や汚染地域で使う製品であるため、
すでに紹介したように、サーモフィッシャ
ーサイエンティフィックの化学物質検知器は、
よって危険やコストを軽減できる。
遠隔地や危険地帯で製品を稼働させる企業
は、製品クラウド上に機能を搭載することに
製品の使用場所
いの機能性を持たせるべきか
グメントに対しては、シュナイダーエレクト
べき要素はコスト以外にもいくつもある。
環として遠隔による機器の監視・警告、光熱
リックみずから機器の遠隔管理を引き受け、
顧客のために電気・ガスの消費を最小限に抑
ある。ハイエンド戦略に基づき競争を展開し
ある。これには、接続機能の障害や接続速度
レスポンス時間
ているなら、豊富な機能を盛り込むことによ
の低下によって対応が遅れるリスクを減らす、
え込む。
ってよりいっそうの差別化を図れる場合が多
という意味合いもある。
させる必要がある。
ABSのように完全にオートメーション化
された製品には通常、かなりの機能性を備え
オートメーション
い。かたや低コスト戦略を掲げる企業は、製
品の主なパフォーマンスを左右したり、運用
コストを低減させたりする、最も基本的な機
能だけを搭載する道を選ぶかもしれない。A
Oスミスは、
︿ロッキンヴァー﹀給湯器ライ
ンに関して徹底した差別化戦略を採用し、主
力製品にはスマート製品ならではの数々の特
徴を標準装備している。これとは対照的に高
製品にソフトウェアを組み込んでおくと、
ネットワークの可用性への依存や、製品から
で固めることである。主なインターフェース
クラウド上にアプリケーションとインター
フェースを常駐させておくと、製品の変更や
製品やサービスのアップグレード頻度
フェースは往々にして複雑になりすぎて利用
は独自仕様とし、非公開を原則とする。たと
ネットワークの可用性、信頼性、
セキュリティ
者の反発を招き、やがて、電源のオン/オフ
えば、GEが自社製の航空機エンジンから得
級腕時計メーカーのロレックスは、接続機能
アップグレードを自動で簡単に実行できる。
をはじめとする一般的な機能のインターフェ
る稼働データは、そのエンジンを利用する航
やスマート機能での競争には加わらない決断
家庭用オーディオ機器メーカーで接続機能
付きスマート製品の草分けでもあるソノスは、
ースは簡単で使いやすいものへと回帰してい
空会社にしか提供されない。他方、開放的な
を下した。
利便性、充実した楽曲ラインアップ、使いや
くだろう。
開放的なシステムと閉鎖的なシステ
まざまなメーカーのものを集めてソリューシ
テム全体をつなぐプラットフォームとも、さ
器そのものの物理的設計は単純化できる。ス
品から成るシステムである例も少なくない。
接続機能を持つスマート製品は、多様な機
能性とサービスを伴い、それ自体が複数の製
ンを開発できる。
第三者でもそれを基に新しいアプリケーショ
されているか、仕様が公開されているため、
ョンを構築できる。この場合、システムの各
ム、どちらを追求すべきか
システムの最終利用者は、個々の製品、シス
すさを重視し、クラウド上の機能を活かして
﹁デジタル時代にふさわしく家庭用オーディ
オ機器を再発明する﹂ことを目指している。
ソノスのワイヤレス・オーディオ・システム
は、音楽ソースとユーザー・インターフェー
マートフォンで操作するポータブル機器は、
閉鎖的なシステムを提供する狙いは、接続機
閉鎖的なシステムの提供企業は、システム
部分のユーザー・インターフェースは標準化
アンプとスピーカーだけで構成されている。
能を持つスマート製品のシステムを自社製品
スの両方をクラウド上に置いているため、機
ソノスは﹁家庭向けオーディオ市場に風穴を
スマートな風力タービンがネットワー
クで結ばれれば、近くの風車の効
率に対する影響を最小限に留める
ため、ソフトウェアが各風車の回転
翼ブレードを調節している。
開ける﹂という熱い思いで、この製品を開発
風力発電
した。
そのために諦めたものもある。ワイヤレス
通信によるストリーミング配信では、根っか
らのオーディオ・ファンが求める音質は実現
できないのだ。ボーズのような競合他社は、
ソノスとは違う判断と取捨選択を通して、差
別化による競争優位を守ろうとするだろう。
我々の見通しでは、接続機能を持つスマー
ト製品が進化するにつれて、人間と機械のイ
ンターフェース︵HMI︶は製品からクラウ
ドへさらに移行していくだろう。ところが、
それらインターフェースの操作は複雑さを増
していくと考えられる。ユーザー・インター
Wind
Turbine
April 2015 Diamond Harvard Business Review 22
23 Diamond Harvard Business Review April 2015
2
3
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
のあらゆる要素を制御して互いに最適化を図
り、競争優位を手に入れることができる。技
ーをうまく使いこなす場合である。
応させるにはライセンス契約を結ばなくては
制限されるか、そのシステムに自社製品を対
製造する企業は、閉鎖的なシステムの利用を
ることができる。システムの一部要素だけを
と製品クラウドの開発の方向性も制御し続け
防ぐだけの影響力は持っていない。そのため、
かし、二社とも、病院が他社製品を選ぶのを
ムを構築して、病院に売り込めるだろう。し
業パートナーの機器だけで医療用画像システ
閉鎖的なアプローチを選び、自社あるいは事
療用画像機器のリーディング企業であるなら、
仮にロイヤルフィリップスのヘルスケア部
門かGEのヘルスケア部門のどちらかが、医
ならない。閉鎖的なアプローチを取ると、自
両社の医療用画像システムのプラットフォー
術とデータを自社の管理下に置くほか、製品
社のシステムを事実上の標準にして、最大限
ムには、他社製品とのインターフェースが備
デファクト・スタンダード
の価値を手にする可能性が開かれる。
わっている。
閉鎖的なシステムを構築するには多大な投
資が欠かせず、この手法が最も奏功するのは、
一〇〇%開放的なシステムには、だれでも
参加したり、インターフェースを持ったりす
Babolat
バボラの〈Playピュアドライブ〉は、テニ
ス・ラケッ
トのグリップ部分にセンサーと接
続機能を内蔵し、ボールの速度、スピン、
インパクト・エリアをスマートフォン向けアプ
リで把握・分析して、ユーザーがプレー
の改善に役立てられるようにしている。
照明システムの有用性を高め、売上増につな
アプリケーションが提供された。これが色相
ウェア開発者によってたちどころに何十もの
ーフェースを公表したため、独立系のソフト
また、アプリケーション開発のためのインタ
リが付属していた。ロイヤルフィリップスは
調節するための簡単なスマートフォン・アプ
ステムには当初から、各電球の色調や照度を
成されるシステムの全構成要素のサプライヤ
景にして、接続機能を持つスマート製品で構
アプローチを取るのは次第に困難になってい
肢の乏しさは顧客離れを招くため、閉鎖的な
ている。時とともに技術が普及すると、選択
客だけを対象により充実した機能性を提供し
準のインターフェースに対応したうえで、顧
器業界で採用されており、メーカーは業界標
チも考えられる。この手法はたとえば医療機
機能のみを開放するハイブリッド型アプロー
リップスのライティング事業部の色相照明シ
ることができる。一例として、ロイヤルフィ
右する力と先行者利益を手に入れる。他社に
しやすい。くわえて、技術開発の方向性を左
製品の特徴や機能性、データを思いのままに
接続機能を持つスマート製品を内製する企
業は、重要な技能とインフラを社内に持ち、
んでいる。
多数は、両方を思慮深く組み合わせる道を選
我々の研究によると、成功している企業の大
次々と開発され、システムのイノベーション
とインフラすべてを内製すべきか、
接続機能を持つスマート製品の機能
フ・イメルトは最近、
﹁事業会社はすべてソ
成されていないが、GE会長兼CEOのジェ
のメーカーではソフトウェア技能は十分に育
争優位の維持に役立つ。たとえば、たいてい
も足早に進む。デファクト・スタンダードの
それともベンダーや事業パートナー
地位を得るのも夢ではないが、一社が利益を
フトウェア企業になるだろう﹂と発言した。
独占するわけにはいかない。
閉鎖的なアプローチは、個別の製品システ
ムには適用できるが、システムの複合体には
しっくりしない例が多い。ワールプールは、
﹁家電分野に強いだけでは、コネクテッド・
接続機能を持つスマート製品向けにテクノ
ロジー・スタックを開発するには、メーカー
にとって概して馴染みの薄い専門技能、技術、
それら技能の多くは稀少である半面、需要は
ホーム分野のリーディング企業にはなれな
い﹂と悟っている。家電製品ばかりか、オー
大きい。
と、なぜこの言葉に真実味があるのか、なぜ
ソフトウェア開発力を自前で持つことが重要
なのかが鮮明になる。
マート農業機械のソリューションを主に内製
インフラに多大な投資をしなくてはならない。 先駆者のAGCOとディア・アンド・カン
パニーはともに、上記のような理由から、ス
トメーション化された照明、冷暖房空調、娯
ョン・システムにすぐに接続できるように家
い﹂と、既存の多様なホーム・オートメーシ
社製品の機能にだけは、他社の介入を許すま
があるからだ。そこでワールプールは、
﹁自
か、それとも最善の既製ソリューションのラ
ついて、独自ソリューションを注文開発する
部のパートナーに委託する場合は、各階層に
ーに委託するか、決めなくてはいけない。外
企業は、どのテクノロジー階層を自社で開
発、維持し、どれをサプライヤーやパートナ
ノロジー・スタック全体を構築するのは、難
もっとも、過去二回のIT化ブームの際と
同様に、接続機能を持つスマート製品のテク
大規模なソフトウェア開発センターを設けた。
たぐ戦略性を持った機能を内製するために、
する道を選んだ。GEは、事業ユニットをま
電製品を設計している。
第三の選択肢として、全体ではなく一部の
易度、技能、時間、コストの面で負担が大き
イセンスを取得するか、判断が求められる。
楽、セキュリティといった機器をつなぐ必要
接続機能を持つスマート製品の性質に鑑みる
に外注すべきか
協力者が現れるため、アプリケーションが
はない学習効果が短期間に得られ、それが競
Ralph Lauren
くだろう。
ラルフ・ローレン
がった。開放的アプローチの下では、多数の
一社が業界で支配的な地位にあり、それを背
バボラ
2015年に発売予定のラルフ・ローレンの
〈ポロ・テック・シャツ〉は、カロリー消費
量、歩行距離、運動強度、心拍数等々
のデータを着用者のモバイル機器に送る
ことができる。
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How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
いため、階層ごとに分業することになる。イ
開発︶といった分野に関しては、たいていの
す。十分な費用対効果を持つデータ種別を見
必要もあるかもしれず、煩雑さとコストが増
上にどう寄与するか。バリューチェーンの効
企業は努力して十分なケイパビリティを自前
この判断は時の経過とともに進化していく
だろう。接続機能を持つスマート製品技術の
率向上に具体的にどう役立つか。大がかりな
ンテルがマイクロプロセッサーに、オラクル
ー・スタックの一部要素に特化するスタート
初期段階では、優れた力量を持つ頼れるサプ
製品システムの長期的な稼働状況を理解、改
極めるには、以下の諸点を検討しなくてはな
アップ企業がすでに登場しており、顧客数の
ライヤーが限られるため、企業は一般に内製
善する助けになるか。データから最大限の効
で持ち続けるのが望ましい。
多さがそれら企業の技術投資を支えている。
あるいは委託開発を余儀なくされてきた。と
果を引き出すには収集頻度をどれくらいにす
がデータベースにそれぞれ特化したように、
内製の道を選ぶ先行者は、
﹁追いつかれない
は言うものの、複雑な設定がいらない接続ソ
べきか、また、保管期間はどの程度が望まし
から、付加価値の取り分を増やすよう要求さ
ところで、外注化は新たなコストを生む可
能性がある。サプライヤーや事業パートナー
このため、内製によって最先端を走り続ける
の一流ベンダーがすでに登場してきている。
ォーム、すぐに使えるデータ解析ツールなど
ならない。収集するデータが、慎重な扱いを
危険性とそれに伴うコストも考慮しなくては
あわせて、各種データに関して、製品の安
定性、セキュリティ、プライバシーを損なう
らない。各種データは、機能性の具体的な向
だろう﹂と慢心して、結局は開発スケジュー
リューションと製品クラウド、セキュリティ
いか。
れるかもしれないのだ。事業パートナーに頼
のは難しくなり、先行者利益が逆に足かせに
要する度合いの低いものであればあるほど、
接続機能を持つスマート製品のテクノロジ
ルに遅れを来しかねない。
万全の高性能アプリケーション・プラットフ
る企業はまた、差別化の能力がいずれ衰える
なりかねない。
製品やサービスの価値を最大化する
自体にデータを蓄積することにより、データ
高いセキュリティが求められる場合は、製品
陳腐化しそうな階層やあまりに進歩が速そう
な機会を生むテクノロジー階層を特定して、
し、データ収集にはセンサーが欠かせず、こ
品データが土台としての役割を果たす。しか
接続機能を持つスマート製品の分野で価値
を創造して競争優位を獲得するうえでは、製
とか、サービス料金を最低限に抑えるといっ
も左右される。製品性能の優位性で勝負する
どういった種類のデータを収集・分析しよ
うとするかは、その企業のポジショニングに
析する必要があるか
必要があるだろう︵セキュリティに関しては
を守り、送受信に付随するリスクを軽減する
には、どういったデータを確保、分
破損や送受信の中断に伴うリスクは小さい。
ほか、全般的な製品設計戦略の策定、イノベ
ーション・マネジメント、適切なベンダー選
定に必要な社内の専門性を培って維持してい
く能力をも失っていく。
﹁内製か外注か﹂という判断を下すには、製
品に関する知見や競争優位を手に入れ、将来
な階層は外部委託の対象とすべきである。具
れがコスト増をもたらす。データの送信、保
た点を重視する戦略を取っているなら、一般
。
続編で詳述する︶
体的には、機器設計、ユーザー・インターフ
管、セキュリティ確保、分析にも同様にコス
のイノベーションを実現するうえで最も大き
ェース、システム・エンジニアリング、デー
には、リアルタイムで活用できる﹁即効性の
の完全な帰属権を求める場合もあれば、共有
ート製品で成り立つシステムは、保有する全
なるだろう。たとえば、接続機能を持つスマ
合によっては他社製品のデータさえも対象に
ータの収集・分析に注力する必要があり、場
製品システムの主導権を握ろうとする企業
は、多数の製品や外部環境に関する広範なデ
ートな航空機エンジンから送信されるデータ
性もある。一例として、接続機能を持つスマ
用状況に関するデータは顧客に帰属する可能
る。製品の所有者がメーカーであっても、利
らない。カギを握るのはデータの帰属先であ
クセス権をどう管理するかを決めなくてはな
どのデータを収集・分析するかが固まった
ら、データを使う権利をどう確保するか、ア
を高めようとする業界横断的な取り組みは、
といったやり方がある。データ収集の透明性
書きをする、理解しにくい定型表現を用いる、
に定める、読めないような小さな文字で注意
タをめぐる権利については、合意文書で詳細
勢を取るかも、決めなくてはならない。デー
の収集・利用の透明性に関してどういった姿
販売権など、さまざまな形態がある。データ
どう管理するか
データをめぐる権利をどう定めるかについ
ては、いくつもの選択肢がある。製品データ
トがかかる。データに関する権利を入手する
製品データの使用権とアクセス権を
タ解析、RAD︵ラピッド・アプリケーション
ある﹂データを豊富に集めなくてはならない。
これは、風力発電機やジェット・エンジンの
ように、不稼働時間が大きな痛手になる、複
を主張する場合もあるだろう。利用権も、N
車両のために、各地の交通データ、気象デー
をめぐっては、エンジンの製造元、機体の製
萌芽こそ見られるものの、データの開示と帰
雑で高価な製品について特に重要である。
タ、燃料価格データを収集する必要があるか
造元、あるいは機体を保有・運航する航空会
属についての基準設定は今後の課題である。
DA︵機密保持契約︶で定める権利、共有権、
もしれない。
社、いずれが正当な帰属先だろうか。
メドトロニックの埋め込み型デジタル
血糖測定器は、ワイヤレスでモニタ
ー機器に接続しており、注意を要
する血糖値レベルに達したら患者
に警報を出すことができる。
データ収集にまつわる判断は戦略に応じて
異なる。省エネ推進と電気代削減のリーディ
Medtronic
ング企業を目指すネストは、製品使用状況と
電力網全体のピーク需要に関して膨大なデー
タを収集し、それを基に︿ラッシュアワー・
リワード﹀という取り組みを始めた。ピーク
需要時には、一般世帯のエアコンを対象に温
度自動調節器の設定温度を上げて電力消費量
を減らし、需要がピークを迎える前に家のな
かを冷やしておくのである。ネストは、電力
会社との提携を通して電力関連のデータを確
保し、顧客データと統合している。このため、
ネストの顧客は電力会社から割引や払い戻し
を受けられるほか、需要のピーク時には電力
使用量を減らせるのだ。
メドトロニック
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How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
顧客や製品の使用者も意見を述べたいだろ
う。最近では、自分が使う製品のデータ共有
十分に活かされずに終わるおそれがある。
ずイノベーションが滞って、データの恩恵が
のせいで製品の利用状況の理解が十分に進ま
プライヤーのアクセス権を制限した場合、そ
。ただし、サ
の設置場所情報は対象外とする︶
性能に関する情報の提供を受けるのだ︵部品
てデータ共有の枠組みを設け、部品の状態や
くは生まれると予想している。企業はこの潮
たいまよりも厳密な枠組みと方法が、ゆくゆ
護するために、関連諸権利の管理を目的とし
品のデータにまつわる知的財産権を定義・保
少ない。我々は、接続機能を持つスマート製
品データを収集でき、利用上の制約も非常に
顧客の承認を得た企業は、ありとあらゆる製
の規約承認が一般的になっている。こうして
広い同意を得る、
﹁クリック・スルー﹂形式
今日では、接続機能を持つスマート製品の
初回使用時に、製品データの収集について幅
働上の問題や故障の診断、時には遠隔での修
ーは必要性が小さくなる。そのうえ、製品稼
ができるため、流通チャネルの事業パートナ
接続機能を持つスマート製品を活用すると、
顧客とじかにつながり、関係性を深めること
すだろう。どのデータを収集するか、どう管
に強い意欲を持つ顧客もいる。一例としてフ
流の先を行くべきだ。とりわけ、価値創造を
理まで自社できるため、サービス分野のパー
を出すようになるだろう。
ィットビットは、個人のフィットネス情報を
促すために何としても収集する必要のあるデ
トナーへの依存度も低下する。中間業者の役
流通チャネルやサービス網の一部ま
慮を怠ってはならない。
存在するセキュリティ上のリスクについて考
理するかという事業判断の一環として、常に
収集してソーシャル・メディア経由で共有す
ータに関しては。
データの使用権とアクセス権に関してはも
う一つ選択肢がある。部品メーカーと協力し
ることを、価値提案の一部として提示してい
修理の必要性を検知した場合、自動的にソフ
さ﹂をもたらしている。テスラ製の自動車は
に顧客に﹁新車を購入したようなすがすがし
験の向上を図るほか、アップグレードのたび
信網経由でアップグレードし、頻繁に顧客経
係性も深まっている。車載ソフトウェアを通
修理代金が自社の懐に入るほか、顧客との関
得をするかの判断に加わり、さまざまな要求
タを収集すべきか、どうそれを使い、だれが
と、消費者は積極的な姿勢を強め、どのデー
ーン全体でどれだけの価値を持つかに気づく
あるだろう。それらのデータがバリューチェ
同を促すには、明快な価値提案を示す必要が
顧客に製品利用状況などのデータ共有への賛
ないが、データ共有を嫌がる人もいるだろう。
タカー代金の適用を受けようとするかもしれ
ンタカー会社と共有して、低い保険料やレン
身の運転習慣に関するデータを保険会社やレ
わけではない。同様に、慎重な運転者は、自
性を提供する再販業者や販売チャネルと、緊
幅広い製品ラインや地域に根差した深い専門
お客先への訪問が欠かせない。しかも顧客は、
し、ある種のサービスを提供するにはいまな
モノは配送、そして時には設置を必要とする
定以内であることが必要であるか望ましい。
中抜きは間違いなく有利だが、大多数の業
界では依然として、顧客との物理的距離が一
任であるかにかかわらず深刻な結果をもたら
てきわめて重要であり、管理違反はだれの責
も、データの管理能力はすべての業界におい
共有するためにインフラを整備した。もっと
し、特定の相手、つまり患者の主治医とだけ
を、高いセキュリティを確保したうえで収集
の電池の状態といった患者に関係するデータ
ロニックは、不整脈の発生やペースメーカー
準が法令によって定められている。バイオト
タへのアクセス権やセキュリティに関する基
る。このような業界の多くではすでに、デー
データの慎重な管理も、特に医療機器のよ
うな規制の厳しい業界では必須だと考えられ
ーとつき合っているかによるところが大きい。
ないのだ。
の諸機能に多大な投資が必要になるかもしれ
在庫、インフラといったバリューチェーン上
ある。初期コストがかさむほか、販売、物流、
などを始めるのは、ハードルが高い可能性が
る。修理への第三者の関与もなくしたため、
可能になり、顧客満足度も大きく向上してい
支払ってもらうなど、シンプルな価格設定が
により、代理店での価格交渉を省いて正価を
い、自動車業界の現状に風穴を開けた。これ
一例としてテスラモーターズは、従来のよ
うな代理店網を介さずに消費者への直販を行
出せるだろう。
顧客に啓蒙することで、ロイヤルティを引き
ンド認知度を高め、製品価値をより直接的に
これまでよりも顧客ニーズをよく知り、ブラ
益率を引き上げる余地が生まれる。くわえて、
たは全部を中抜きすべきだろうか
トウェアによる遠隔修理を要請するか、
﹁テ
密なつながりを持っているかもしれない。貴
事業パートナーは、製品をただ流通させるだ
タイミングを計りすぎて遅きに失する
のらりくらりしていると、その間に新規参入者が足場
を築き、データの収集と分析に乗り出し、学習効果を
上げ始める。
社内のケイパビリティを過大評価する
接続機能を持つスマート製品の分野に参入するには、
バリューチェーン全体で新たな技術、技能、業務プロ
セスが必要となるだろう(例:ビッグデータ解析、シス
テム・エンジニアリング、アプリケーション開発など)
。
どれを社内で培い、どれを新規の事業パートナーに任
せるべきか、現実的な判断を下すことが肝要である。
販売やサービスを担う事業パートナーを中
抜きすべきかどうかは、どういったパートナ
を自社に取り込み、直販や自前でのサービス
割を最小限に抑えると、収益を上乗せして利
スラの修理工場への移送サービスを依頼しま
重なチャネル・パートナーの役割を奪うと、
けだろうか、それとも現場の研修やサービス
る。ただしすべての顧客がデータ共有を望む
すか﹂というメッセージとともに持ち主に通
事業パートナーを大切にする戦略を持つ競合
接続機能を持つスマート製品は、価値創造と事
業成長の新しい機会をいくつももたらす。ただし、
それら機会をつかみ取ろうとすると、課題にもぶ
つかるだろう。以下に、最大級の戦略的リスクを
挙げる。
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29 Diamond Harvard Business Review April 2015
7
知を発する。テスラは先頃、
﹃コンシューマ
サービスを土台とするビジネスモデルを掲げる企業は、
彗星のように現れて、競争状況や業界間の境界を変え
てしまいかねない。
に欠かせない存在だろうか。パートナーの業
ネットにつながるスマート製品(接続機能や組み込み
他社にそれらパートナーが流れかねない。そ
ソフトウェアを備えた製品)を提供する企業や、成果や
ー・リポート﹄誌の顧客満足度調査で第一位
新たな競争の脅威を予測し損なう
務活動のうち、接続機能を持つスマート製品
新しい機能が実現するからといって、顧客から見ては
っきりした価値があるとは限らない。改良型の機能や
オプションを追加していくと、コストや使い勝手の複
雑さがアダとなっていずれは収益性が低下しかねない。
のうえ、事業パートナーが果たしていた役割
「対価を払おう」
と思ってもらえない機能性
を追加してしまう
に輝いた。
避けるべき失敗
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
ろうか。
つながっていることを、顧客は知っているだ
関係はもはや必要ではなく、余計なコストに
しているだろうか。既存チャネルとの従来の
か。顧客は中間業者を中抜きする意義を理解
による代行が可能なものは何%くらいだろう
がもたらす便益は、メーカーが手にする。
減︵省エネ効果など︶とサービス効率の向上
場合、製品性能の向上による運用コストの低
いするのではなく、継続的に使用料を支払う
引き受ける形態。顧客が最初に代金を一括払
を徴取し、運用とサービスのコストはすべて
移動性の低い製品にまで広がってきている。
サービス提供企業︵ジップカーやハブウェイ
車︶を借りるだけでよく、他の責任はすべて
な時に使用料を払って製品︵自動車や自転
的利用を重視したモデルである。顧客は必要
製品のサービス化の変形ともいえる製品共
有サービスは、時々しか使わない製品の効率
責任を負い、保証対象外の不稼働時間、故障、
に伴うサービス・コストや使用コストの負担
点を置いてきた。以後、買い手は製品の所有
メーカーは従来、モノを生産、販売して所
有権を買い手に移転し、利益を得ることに重
にこのモデルに代えて製品のサービス化に乗
ンセンティブが働きにくいおそれがある。仮
耐久性、修理のしやすさを高めようというイ
のビジネスモデルの下では、製品の信頼性、
サービス契約から潤沢な利益を得ており、こ
てワールプールは現在、スペア部品の販売と
ているメーカーは、要注意である。一例とし
さらには往々にしてきわめて潤沢な利益を得
の稼働条件を保証して製品を売ることを意味
保証契約込みの販売とは、稼働率など、一定
たしたならその恩恵をより多く享受できる。
業務を他社に取られずに済み、効率向上を果
サービス契約を結べば、メーカーはサービス
約込みで製品を販売するような場合である。
ービス契約込み、あるいは稼働条件の保証契
ることもできる。具体的には、保証契約やサ
製品のサービス化と従来の売り切り形態を
両極として、ハイブリッド・モデルを追求す
など︶が負う。共有サービスは住宅のような
接続機能を持つスマート製品はメーカーに
ジレンマをもたらす。特に、寿命の長い複雑
ビジネスモデルを手直しすべきだろ
欠陥のリスクを引き受ける。
り出し、製品の所有権を自社に残して顧客か
する。この場合、製品の所有権は顧客に移る
な製品を提供して、そこから多大な売上げ、
この長年のビジネスモデルを激変させるき
っかけになるのが、接続機能を持つスマート
ら使用料だけを徴収するようになったら、経
が、製品を十分に稼働させる責任とそれにま
うか
製品である。メーカーは、製品データの活用
済インセンティブは逆転するだろう。
を得るタイプの新規事業に乗り出す
製品データを第三者に販売して利益
つわるリスクはメーカーが負う。
や、故障を予測、減少、修復する能力を背景
製品のサービス化の収益性は、価格設定と
契約条件によって決まり、それは交渉力によ
に、製品性能を制御してサービスを最適化す
るための、かつてない能力を手にしている。
るところが大きい。メーカーが製品のサービ
合とは違い、契約期間の終了後は他社に乗り
これをテコに、利益を得るための多様な新し
が従来通り製品を所有しながら、格段に高い
換えることができるかもしれず、買い手の交
ス化を推進すると、顧客は製品を所有する場
サービス効率を享受する形態。あるいは、製
渉力が高まる可能性がある︵エレベーターの
いビジネスモデルの可能性が開かれる。顧客
品のサービス化によって、メーカーが製品の
。
ような簡単に取り換えが利かない製品は別だが︶
べきだろうか
接続機能を持つスマート製品の提供企業は、
そこから取得・蓄積したデータが従来の顧客
製品システムやシステムの複合体が登場す
ると、事業の範囲をどうするかについて少な
くとも二つの戦略的選択肢が生まれる。第一
に、関連製品を提供したり、システムの複合
たとえば、部品の性能データは、サプライ
ヤーにとって貴重かもしれない。多数の車両
組み込まれるかもしれない。業界の領域拡大
したシステム、あるいはシステムの複合体に
製品は、関連する製品同士をつないで最適化
界の領域を広げる役割をも果たす。特徴ある
接続機能を持つスマート製品は、既存製品
のあり方を変えるだけでなく、往々にして業
大きな事業機会をつかみ取ろうとして、関
連の製品分野に参入したいという誘惑に駆ら
。
限らない︶
プラットフォーム全体の構築、制御を担うとは
ームの提供を目指すべきかどうか︵ただし、
二に、関連製品と情報をつなぐプラットフォ
事業の範囲を拡大すべきだろうか
所有権を保持しながら顧客から定期的に料金
だけでなく、他者にとっても価値があると気
づくかもしれない。さらに、製品最適化のた
めに自社が必要とするデータのほか、他者に
とって価値あるデータを取得するのも一案だ
の走行条件や遅延に関するデータは、他の運
とは、何十年も前からの業界リーダーが新し
れるかもしれないが、それにはリスクがつき
体の他領域に進出したりすべきかどうか。第
転者、物流システムの運用者、道路補修チー
い分野での補助的な役割を増していくことを
ものであるし、新しいケイパビリティも必要
Sonos
ソノスのワイヤレス・オーディオ・シス
テムは、ユーザー・インターフェース
をクラウド上に置いているため、ユ
ーザーはスマートフォンだけでポータ
ブル機器を操作することができる。
と発展する可能性を秘めている。
の役に立つかもしれない。
繰り返しになるが、製品データから新たな
価値を引き出す方法を選ぶ際には、主要顧客
が示しそうな反応を度外視するわけにいかな
い。データがどう利用されようと気にしない
顧客もいるかもしれないが、プライバシーと
データ再利用に神経を尖らす顧客もいるだろ
う。製品提供元としては、顧客の反発を買わ
ずに貴重なデータを第三者に提供する仕組み
を、見つけ出す必要があるだろう。たとえば、
個別の顧客のデータを売るのではなく、利用
者を特定できないようにしたり、多数の顧客
のデータをまとめたりしたうえで、購入パタ
ーン、運転習慣、ガソリン使用量のデータを
販売するやり方もあるだろう。
ソノス
新規サービス、いやそれどころか新規事業へ
ムにとって有益かもしれない。運転状況のデ
意味する。
と悟るかもしれない。いずれにせよ、これは
9
ータは、運送業者やタクシー会社、保険会社
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April 2015 Diamond Harvard Business Review 30
31 Diamond Harvard Business Review April 2015
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How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略
|特集|IoTの衝撃
とされる。参入前に明快な価値提案を見つけ
なくてはいけない。関連製品群の共同設計に
よってシステムの最適化を図り、性能を大幅
に高める機会があるなら、製品範囲の拡大は
きわめて魅力的な選択肢だろう。他方、個々
の製品設計に依存せずに最適化が図れる場合
は、自社の製品構成を変えずに、他社の関連
製品と自由に接続できるようにするとよい。
成否を決めるのは、従来の製品設計よりもむ
しろシステム・エンジニアリングである。
採掘機械メーカーのジョイ・グローバルの
ように、製品システム全体の運用と性能を支
えるような製品︵およびそれに関係する技術ケ
い﹂と映るだろう。
るには、ケイパビリティと信頼性が足りな
顧客の目には﹁幅広いシステムの提供を任せ
さほど重要ではない製品を提供する企業は、
搬するトラックなど、システム全体にとって
適な立場にある。地下から採掘した鉱物を運
品分野に参入してシステム統合を担うのに最
ムが適しており、製品をいっさい持たない企
である。後者にはオープン・プラットフォー
トフォームを構築するのが、きわめて合理的
周辺の製品分野に事業を拡大して独自プラッ
た、
﹁製品以外の最適化﹂か。前者の場合は、
外部の情報とをつなぐアルゴリズムを活用し
それとも、製品自体には手をつけず、製品と
性を取ることによる、
﹁製品の最適化﹂か。
携がうまくいくように個々の製品設計の整合
によってもたらされるかである。製品間の連
要とするため、キャリアは進出を見合わせて
空調とはまったく異なるケイパビリティを必
ートメーションを支える他の製品は、冷暖房
ション・システムの一部である。ホーム・オ
冷暖房空調設備は幅広いホーム・オートメー
トフォームで製品同士を結んでいる。ただし、
フィニティ﹀という冷暖房システムのプラッ
に、各製品の設計の足並みをそろえ、
︿イン
きた。製品システムの性能を最適化するため
調設備の設計を一〇〇年にわたって革新して
ンプ、加熱器、通風機など、各種の冷暖房空
イパビリティ︶を提供する企業は、周辺の製
は、関連するいくつかの論点によって決まる。
業がプラットフォームを提供する場合もあり
製品システムやシステムの複合体をつなぐ
技術プラットフォームを開発すべきかどうか
第一に、製品の設計・製造に求められるもの
きた。むしろ、自社の冷暖房空調設備をシス
いつ訪れてもけっして早すぎることはない。
ィニティ﹀にインターフェースを設けている。
他社の模倣ではなく、実現性の高い自社なら
過去一〇年間は、社内コストの低減、慎重な
投資、収益性の向上、M&A︵企業の合併・
買収︶の増加、経済の大部分におけるイノベ
ーションの停滞などが見られた。この結果、
問い直す必要があるだろう。
況の下、多くの企業は主な使命と価値提案を
同士がコミュニケーションと協働を続ける状
や多様性が増大し、各ネットワーク内で製品
重点を移行してきた。製品ネットワークの数
ってきた頃に、接続機能を持つスマート製品
化の効果がほぼ出尽くして生産性の向上が鈍
すると考えられるのだ。つまり、過去のIT
留まりそうもない。経済全般の軌道にも作用
揺るがすだろう。ただし、影響はそれだけに
の変化はおよそあらゆる業界を直接、間接に
争領域それ自体をも変容させている。これら
接続機能を持つスマート製品は、顧客価値
の創造方法、企業間競争のあり方、そして競
の実現、データ保護、進歩を妨げる活動︵テ
せるとともに、基準づくり、イノベーション
ための技能をあらゆる階層の労働者に備えさ
界と政府が歩調を合わせて、この潮流に乗る
うとして果敢に動かなくてはならない。産業
る。そのためには、企業がチャンスをつかも
接続機能を持つスマート製品の力を活かせ
ば、以上のような状況を打破できるはずであ
より大きな事業機会
ではの価値提案を示すほかないはずだ。
必要になるが、それらを確保できるかどうか。
キャリア・コーポレーションが格好の事例
である。この会社は加熱炉、エアコン、熱ポ
もう一つの重要な論点は、製品の最適化が何
なお、接続機能を持つスマート製品の影響
で業界の事業領域と競争の範囲が広がると、
多くの企業が自社の目標を再考する必要に迫
られるだろう。重点は、従来の製品定義に縛
られずに、幅広いニーズを満たすことに移っ
企業は戦略の各側面について明確な判断を
下すと同時に、各判断が互いに整合性を持ち
がITをテコとした生産性向上の新時代を開
スラに対する自動車ディーラーの政治的な反対
雇用増の鈍化、賃金・生活水準の上昇幅の縮
相乗効果を発揮するよう、配慮しなくてはな
き、企業、顧客、さらにはグローバル経済に
活動など︶の排除などに必要な決まりや規制
てきている。一例としてトレインは、冷暖房
らない。一例として、製品システムのリーデ
寄与するだろう。
の懐疑、事業活動への支持低下を招いた。
小、経済機会への期待感の減少、資本主義へ
ィング企業を目指すなら、周辺の製品分野に
ーフェースを設けて、他社のシステムやプラ
性をそろえ、透明性の高いオープン・インタ
部分だけに注力するなら、最高の機能性や特
に培うだろう。対照的に、製品システムの一
全体に関わるケイパビリティを社内に集中的
を大々的に収集し、テクノロジー・スタック
活用することが可能になると考えられる。
信頼性を格段に向上させ、あますところなく
護しながら、製品の効用、効率性、安全性、
ルギー、水、原材料など稀少な天然資源を保
に高めるだろう。多くの分野において、エネ
個人が抱える数々のニーズへの対応力を劇的
このIT化の第三波は、製品の機能性や性
能を段階的に引き上げるだけでなく、法人や
力を再び活性化させたなら、よりよい世界の
バル経済のテクノロジー・リーダーとしての
アメリカがこの技術の新潮流に乗り、グロー
な恩恵を手に入れることができる立場にある。
つスマート製品の分野をリードして、圧倒的
アメリカは、基幹技術、数々の必要技能、
主な裾野産業の強みを背景に、接続機能を持
に、合意する必要がある。
ットフォームにすぐに組み込んで貴重な役割
に新たな息吹を吹き込むだろう。
実現に貢献しながら、アメリカン・ドリーム
を果たせるような製品を提供する必要がある
参入して設計の整合を図り、製品利用データ
空調設備の製造から高性能ビルの快適化へと
テムの複合体に組み込めるように、
︿インフ
うる。
ロイヤルフィリップスのライティング事業部
の色相照明システムは、スマートフォンを
使って電源のオン、オフを切り替えること
ができる。あるいはあらかじめ、侵入者を
検知したら赤色を点滅させる、夜間は少
しずつ暗く
していく、といったプログラムにし
ておくこともできる。
とは大きく異なる、IT分野の技能と技術が
Philips Lighting
こうした長足のイノベーションと経済成長、
ひいては繁栄を伴う成長への回帰の機会は、
だろう。結局のところ、競争に勝ち残るには、
April 2015 Diamond Harvard Business Review 32
33 Diamond Harvard Business Review April 2015
ロイヤルフィリップス
【注】
1)
HBR1985年7月号に掲載のマイケル・ポーターとビクター・ミラーの
論文を参照(邦訳「
[新訳]ITと競争優位」DHBR2011年6月号)
。
2)
HBR2001年3月号に掲載のマイケル・ポーターの論文を参照(邦訳
「
[新訳]戦略とインターネット」DHBR2011年6月号)
。
How Smart, Connected Products Are Transforming Competition
IoT時代の競争戦略