生きた細胞内での単一分子ナノ計測 ~ミオシンモーターを“追う”~ 生きた

生きた細胞内での単一分子ナノ計測
~ミオシンモーターを“追う”~
東北大学工学部情報知能システム総合学科
鑓水 大和
王 子超
東北大学大学院医工学研究科 神崎研究室
(病態ナノシステム医工学)
ミオシン(Myosin)とは
• 細胞内のアクチンフィラメント上を移動する
モータータンパク質
• ミオシンVbは細胞内の小胞輸送を担う
小胞
C末端
アクチンフィラメント
脚部
N末端
従来の生細胞内ライブイメージング
有機蛍光分子や蛍光タンパク(GFPなど)を用いた
ライブセルイメージング
欠点
• 蛍光の褪色が激しい
• 一分子単位の可視化
は困難
蛍光タンパク質(LifeAct Venus)の褪色の様子
量子ドット(無機材料)を使用
量子ドットを用いた単一分子計測
量子ドットを用いたライブセルイメージング
• 無機ナノ材料(半導体コア)
コア(半導体、セレン化カドミウム)
シェル(硫化亜鉛)
• 極めて明るく褪色しない
ポリマー
• 安定した蛍光
コーティング
生体分子
• 一分子単位での標識が可能
15-20nm
• 極めてシャープな
蛍光スペクトル
• 量子ドットの蛍光強度
は蛍光タンパク質の
数百倍
Qdot® Nanocrystal Technology Overview (http://www.lifetechnologies.com)より引用、改変
量子ドットによる蛍光標識の問題点
• 任意の分子への特異的な
結合能を持たない
• 細胞膜を透過する能力が
ない
細胞
タグタンパク質による
結合能の獲得
エレクトロポレーション法
による細胞内導入
先行研究: 膜タンパク質の
一分子計測(小胞輸送)
ビオチン
Qdotストレプトアビジン
トランスフェリン受容体
トランスフェリン
Qdot-トランスフェリン複合体
• エンドサイトーシスを利用した量子ドットの
細胞内への取り込み
• 細胞質タンパク質に対しても適用したい
第2回・第3回サイエンス・インカレにて同研究室・品川が発表
細胞内分子を単一分子計測するには
ミオシンVb遺伝子
タグタンパク質による分子との
結合
エレクトロポレーションによる
量子ドット・ベクター導入
HaloTag融合ミオシンVb
発現ベクター(遺伝子)
HaloTag 発現
遺伝子
HaloTag融合ミオシンVb
C末端についた
HaloTag
または
ミオシンVの発現・量子ドット
との結合
共焦点レーザー顕微鏡による
観察・解析
N末端についた
HaloTag ligand- QD655
HaloTag
ミオシンVbと量子ドットに
タグタンパク質を結合させることに
より特異的な結合能を獲得
細胞内分子を単一分子計測するには
発現ベクター
タグタンパク質による分子との
結合
HaloTag ligand -QD655
溶液
エレクトロポレーションによる
量子ドット・ベクター導入
ミオシンVの発現・量子ドット
との結合
共焦点レーザー顕微鏡による
観察・解析
細胞質
細胞表面に電気パルスをかけることに
より細胞膜に微少な穴を空ける
細胞内分子を単一分子計測するには
タグタンパク質による分子との
結合
エレクトロポレーションによる
量子ドット・ベクター導入
ミオシンVの発現・量子ドット
との結合
共焦点レーザー顕微鏡による
観察・解析
細胞表面に電気パルスをかけることに
より細胞膜に微少な穴を空ける
細胞内分子を単一分子計測するには
タグタンパク質による分子との
結合
エレクトロポレーションによる
量子ドット・ベクター導入
ミオシンVの発現・量子ドット
との結合
共焦点レーザー顕微鏡による
観察・解析
細胞表面に電気パルスをかけることに
より細胞膜に微少な穴を空ける
細胞内に発現ベクター・量子ドットを
導入することができる
細胞内分子を単一分子計測するには
タグタンパク質による分子との
結合
エレクトロポレーションによる
量子ドット・ベクター導入
ミオシンVの発現・量子ドット
との結合
共焦点レーザー顕微鏡による
観察・解析
• 一日静置後、細胞の回復と共に
細胞内に入ったベクターにより
HaloTag融合ミオシンVbが発現
細胞内分子を単一分子計測するには
タグタンパク質による分子との
結合
エレクトロポレーションによる
量子ドット・ベクター導入
ミオシンVの発現・量子ドット
との結合
共焦点レーザー顕微鏡による
観察・解析
• 一日静置後、細胞の回復と共に
細胞内に入ったベクターにより
HaloTag融合ミオシンVbが発現
• 細胞質中のHaloTag ligand-QD655
と結合
細胞内分子を単一分子計測するには
タグタンパク質による分子との
結合
エレクトロポレーションによる
量子ドット・ベクター導入
共焦点レーザー顕微鏡(OLYMPUS FV-1000)
対物レンズ60倍、2秒ごとに100枚で200秒間撮影
輝点追跡ソフトウェアによる解析
ミオシンVの発現・量子ドット
との結合
輝度
輝度
共焦点レーザー顕微鏡による
観察・解析
各輝点の速度、MSDを算出
ミオシンVbの単一分子計測
• 顕微鏡による1分子ごとの動態の観察
– 量子ドットのみを導入した細胞
– ミオシンVbN末端にHaloTagが発現する細胞
– ミオシンVbC末端にHaloTagが発現する細胞
ベクターなし(量子ドットのみ)
• ソフトウェアによる解析
– 各輝点の平均速度
– 各輝点の平均二乗変位
(MSD; Mean Square Displacement)
ベクターあり(N末端)
ベクターあり(N末端、C末端)の細胞の
輝点追跡については、特異的な運動を
しているとみられる輝点のみを採用
ベクターあり(C末端)
発現ベクターの有無による輝点の動きの違い
ベクターなし
(量子ドットのみ導入)
ベクターあり
(HaloTag-ミオシンVの
N末端に量子ドットが結合)
HaloTag融合ミオシンVb発現ベクターを導入した細胞には
直線運動を行っている輝点が見られる
発現ベクターの有無による輝点の動きの違い
ベクターなし
(量子ドットのみ導入)
ベクターあり
(HaloTag-ミオシンVの
N末端に量子ドットが結合)
他の輝点とは異なる、特異的な運動
HaloTag融合ミオシンVb発現ベクターを導入した細胞には
直線運動を行っている輝点が見られる
発現ベクターの有無による輝点の動きの違い
ベクターなし
(量子ドットのみ導入)
ベクターあり
(HaloTag-ミオシンVの
N末端に量子ドットが結合)
HaloTag融合ミオシンVb発現ベクターを導入した細胞には
直線運動を行っている輝点が見られる
発現ベクターの有無による輝点の動きの違い
ベクターあり
ベクターなし
(量子ドットのみ導入)
(HaloTag-ミオシンVの
N末端に量子ドットが結合)
輝点の速度: 0.12 ±0.09 [μm/s]
輝点の速度: 0.13 ±0.09 [μm/s]
2D MSD (μm^2)
6
MSD[μm^2]
MSD[μm^2]
2D MSD (μm^2)
4
2
0
0
5
10
時間 [s]
15
6
4
2
0
0
5
10
時間[s]
15
直線運動中のミオシンVbは速く動く
各条件における全輝点の
累積速度分布
100%
ベクターなし
累積頻度
80%
C末端
60%
N末端
輝点の速度分布が
右へシフト
→ 速く動いている
40%
20%
0%
0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
速度 [μm/s]
条件
平均速度
[μm/s]
計測した
輝点の数
(データ数)
なし
0.104 ± 0.001
156 (2536)
N末端
0.207 ± 0.021
8 (85)
C末端
0.226 ± 0.020
8 (118)
T検定:
輝点群の速度分布について、
N末端・C末端ともにベクターなしの
輝点群の速度について有意差あり
ミオシンVと結びついたと思われる輝点は速く動いている
ミオシンVbの運動を定量的に評価する
各条件における全輝点のMSDの平均
10
9
平均二乗変位 [μm^2]
8
C末端
6
V: 能動輸送速度 D: 拡散係数 C ∶ ノイズ
条件
能動輸送
7
𝐌𝐒𝐃 𝐧∆𝒕 ≅ 𝑽∆𝒕 𝟐 + 𝟒𝑫∆𝒕+ 𝑪
5
能動輸送速度 [μm/s]
なし
0.036 (ほぼ無い)
N末端
0.160
C末端
0.192
4
N末端
3
2
拡散のみ
1
ベクターなし
0
0
2
4
6
時間 [s]
8
10
12
“走っている”ミオシンと
思われる輝点は解析的にも
能動的に移動している
まとめ: 細胞内分子の一分子標識法の確立
• タグタンパク質による
結合能の獲得
• エレクトロポレーション法
による細胞内導入
によって量子ドットによる問題点を克服し
細胞質内に存在する任意のタンパク質の一分子標識を
成功させた
まとめ: モータータンパク質の追跡
量子ドットによる一分子計測を行うことによって、
ミオシンVbが生細胞内で直線的に“走っている”
様子を観察した
数学・物理的な観点からミオシンの運動をより精密に
捉えることができた
今後の展開
• 計測・解析方法のさらなる改良
– 輝点追跡方法や数学的解析手法の検討
• 様々な実験による
生命現象の新しい理解
– 細胞への刺激などによる運動の変化
– 他のタンパク質への適用
New
Technology
New
Concept
量子ドットにHaloTag ligandを結合させる

アミノ基への標識
+
Qdot-amine
HaloTag succinimidyl
ester (O2) ligand
HaloTag ligand-Qdot

スルフヒドリル(チオール)基への標識
HaloTag ligand
計測したい
タンパク質
HaloTag
Modified from www.promega.com and www.lifetechnologies.com
調製したHaloTag ligand-QDのHaloTagとの結合
HaloTag-14-3-3で形質転換した大腸菌の可溶画分
ボイル(あり・なし)
HaloTag ligand-QDを添加
0.5%アガロースゲルにて電気泳動
蛍光検出
非変性HaloTag-14-3-3存在下で泳動度の変化
→HaloTag ligand-QDとの結合を反映?
それぞれの物質の分子量・サイズ




ミオシンVb: およそ200kDa
HaloTag: 25kDa
HaloTag ligand: 数百
量子ドット(Qdot)のサイズ:
10~20nm (GFPと同程度)