食事とがん ―食生活を見直す5分間― 毎日欠かすことのできない食事。 食事がもたらす健康へのリスクについて 正しく知って欲しい事実があります。 執筆: 笹月 静 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 公益 がんになりや やす すい食事とは? 毎日とる食事。特に成長期は体そのものを作 甘いものの食べ過ぎで糖尿病になったという るためにも欠かせません。体を作るもとになっ 話を聞いたことありますか?塩辛いものが好き たり、活動のためのエネルギーを生み出したり、 だと血圧が高くなるとか。毎日の食事が病気と 体調を整えたり、食事はとても大切です。家庭 も関係するなら、がんになりやすい食事やがん で出されるごはんや学校の給食、当たり前のよ になりにくい食事もきっとあるはずですね。 うに食べているけれど、きっと健康を考えて様々 これを食べていれば絶対がんにならないとい な工夫がされているはず。もし、ある1日、好 う特定の食品はありません。けれど、普段口に きなように食事をしていいと言われたら何を食 しているもので、気を付けることができること べますか?1日だけでなく、これからずっと好 はたくさんあります。 きなものを食べていいと言われたら? 2 3 食塩・高 高塩 塩分食品 食塩のとりすぎは高血圧、さらには循環器 (心臓や脳血管)の病気につながることはよく 9-18%、みそ汁:0.5-1.2%、干し魚:1-10%]な どがあります(図1)。 知られています。しかしそれだけではなく、が 中高年者を対象にした長期の追跡研究で、食 ん(特に胃がん)のリスクも上げてしまいま 塩中のナトリウムや塩蔵品とがん・脳卒中の関 す。塩分濃度が高い食品にはたとえば[つけも 係を示すデータがあります(図2) 。塩蔵品の摂 の:1-10%、いくらやしおから:10-11%、みそ: 取量が少ないグループに比べて、摂取量が最も 図1 多いグループでは胃がんのリスクが 1.46 倍か 食品と塩分 ら 2.24 倍にもなります。いっぽう、ナトリウ ム自体は胃がんとの関連ははっきりしません。 トータルとしての塩分量より、胃の粘膜に特に 塩分濃度が高い食品が直接作用して、胃がんに 漬物: 1-10% 干魚: 1-10% なりやすくなるようです。一方、脳卒中ではナ トリウムがリスクとなっていました。 図2 塩蔵魚卵: 10% ︵最少摂取群のリスクを1とする︶ 塩蔵魚介類: 11% ナトリウム・塩蔵食品摂取量と胃がん・脳卒中リスク 3.0 2.24 2.24 2.5 1.66 2.0 1.5 1.46 1.07 1.0 0.5 傾向性 p=0.64 p<0.01 p=0.12 p<0.01 p=0.03 ナトリウム 漬 物 塩蔵魚や干物 たらこ等魚卵 ナトリウム 0.0 胃がん みそ汁: 0.5‒1.2% 4 みそ: 9‒18% 1.21 1.21 脳卒中 (出典 :Takachi R et al. Am J Clin Nutr 2010.91.456-464) 5 野菜 果物 果物は好きな人でも、野菜は苦手なものが1 つくらいはあるかもしれません。嫌いなものを もリスク要因として知られています。ピロリ菌 が関係するのは胃の中でも下の方のがんなので、 無理して多くとる必要はありませんが、野菜・ 果物不足だとがんのリスクが高まるというデー 胃がんのできる部位別にみてみると、男性にお いてピロリ菌が関係する下の方の胃がんでは野 タがあります。国内の4つのコホート研究を統 合した 19 万人の研究によると、野菜・果物とも、 全体としては胃がんのリスクをはっきり下げる 菜をとるグループほどリスクが低いことが分か りました(図4) 。この他にも、肺がんや食道が んなどが野菜・果物をとることによってリスク というものではありませんでした(図3) 。胃が の低下が期待されるものとしてあげられます。 んというと、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染 図3 野菜・果物と胃がんのリスク -19 万人の統合データより - 男 性 野菜 1.50 果物 1.50 P for Trend:0.13 1.00 1.00 0.50 0.50 P for Trend:0.21 図4 0.00 野菜 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 1.00 0.95 0.96 0.94 0.89 0.00 果物 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 1.00 0.89 0.89 0.83 0.92 野菜と部位別の胃がんのリスク -19 万人の統合データより 1.30 女 性 1.50 2.00 果物 1.50 P for Trend:0.40 1.00 1.00 0.50 0.50 リスク 野菜 P for Trend:0.14 1.00 0.00 0.00 野菜 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 1.00 0.76 0.82 0.92 0.83 0.00 果物 1.00 1.00 0.90 0.94 0.86 0.78 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 1.00 1.30 1.30 1.43 1.48 0.13 1.00 0.85 0.81 0.68 0.82 1.00 0.90 0.94 0.86 0.78 0.02 摂取量 Q1 低→ Q5 高 (出典 :Shimazu T et al. Ann. Oncol. 2014.25.1228-33) 6 1.48 1.43 1.30 7MVY;YLUK 摂取量 Q1 低→ Q5 高 (出典 :Shimazu T et al. Ann. Oncol. 2014.25.1228-33) 7 熱い飲 食物 食 また、食べ物や飲み物を熱いままとると、食 道の炎症や食道がんのリスクが高まることが分 かっています。熱いものは少し冷ましてからと るのが良いですね。 ルシウムなどがあります。 極端なとりすぎや不足に偏ることなく、バラ ンスの良い食事を心がけたいものです。 また、食事だけから栄養を十分に偏りなくと また、欧米のデータでは大腸がんのリスクを ることが難しい場合に、サプリメントなどをと 上げることが確実とされている赤肉(牛肉や豚 る人もいます。残念ながら、サプリメントによっ 肉)や加工肉(ハム・ベーコン・ソーセージなど) てがんのリスクが下がるという根拠はありませ もとりすぎには注意が必要です。 ん。バランスの悪い食事が何日か続いても、た 一方、確実性はまだ十分とは言えませんが、 とえば1週間の間で取り戻せるよう意識するな がんに予防的である可能性があるものとしては ど、長いスパンで食事をとらえ、無理なく楽し 大豆・イソフラボン、魚、緑茶、コーヒー、カ める食生活を目指したいですね。 ᄢ⣺߇ࠎߩ ࠬࠢࠍߍࠆ㘩ຠ ⿒⡺㧒‐⡺߿⽋⡺㧓 ടᎿ⡺ 㧒ࡂࡓࡌࠦࡦ ࠰ࠫߥߤ㧓 8 ߇ࠎߦ੍㒐⊛ߢࠆ น⢻ᕈ߇ࠆ㘩ຠ ✛⨥ 㝼 ࠦࡅ ࠞ࡞ࠪ࠙ࡓ 9 メモ ߎߩࡄࡦࡈ࠶࠻ࠍᚻߦߒߡߊࠇߚ ߥߚߦવ߃ߚߎߣ߇ࠅ߹ߔ がんには長い間の生活習慣が関わって います。 子供のころにおぼえた味や身についた 習慣を大人になって修正するのは思って いるより難しいかもしれません。 よく言われる「好き嫌いなく何でも食 べる」ことや「ゆっくりよくかんで食べ る」ことは、少しでも野菜をとることや 素材の味を味わい、うす味でもおいしく 食べられるようにとの知恵が含まれてい るのかもしれません。 10 11
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