NGN 時代の 法人ソリューションビジネス - エンタープライズICT総合誌

エンタープライズIT総合誌 月刊ビジネスコミューニケーション(Webサイトへ)
をどう闘うか
新連載 第3回
NGN 時代の
法人ソリューションビジネス
通常の技術論ではなく、最も重要
いかにバリューチェーン全体にわた
な顧客の視点から NGN 時代をどう
って経営を最適化するか、という点
アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク本部
NTT統括エグゼクティブ
パートナー
闘うか、をテーマにした本連載。今
が好調企業とそうでない企業の差に
冨永 孝
回は通信事業者にとってこれからの
なって表れている。
法人ソリューションビジネスはどう
アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク本部
同マネージャ
金均
そもそも、情報システムでいかに
する一方、全体の情報流通を促進す
経営を最適化していくか、という考
る PF や統合パッケージでシステム
え は 、 1 9 8 0 年 代 に M I S
と経営をつないできたといえる。ま
(Management Information System)
た、そのアーキテクチャもホストシ
が提唱されたときからあったもので
ステムからクライアント/サーバ、
「IT 革命」が流行語大賞を受賞し
目新しいものではない。しかし、こ
そして Web アプリケーション・
てから早6年、この間 ICT を取り巻
の古くて新しいテーマは常にソリュ
SOA へと進化することで、ますま
く環境は大きく変化した。企業にと
ーションベンダーの挑むべきテーマ
す早くなる経営環境の変化に企業が
っても ICT の位置付けはますます重
として最優先のものとなっている。
対応する手段を提供してきたといえ
あるべきか、考えてみたい。
法人ソリューションビジネスの
追求すべきテーマ
要性を増している。図1の経済産業
従来ソリューションベンダーは部
省の調査結果をみてほしい。業況の
分強化と全体連携・統合・ PF 化を
この間、通信事業者も強みである
良い企業ほど、企業における ICT 活
組み合わせることで、このテーマに
NW をベースに、NI ・ SI へとソリ
用のステージが高いことがわかる。
挑んできた。ベストプラクティスに
ューションビジネスを拡大してきた
つまり、企業が業績をあげるには、
基づき標準化/パッケージ化したソ
わけだが、システムがオープン化し
いかに経営に ICT をうまく活用する
リューションで CRM や SCM、
ネットワークとの連携を強める中、
か、が重要であり、そのなかでも、
FPM、HRM といった各業務を強化
これは適切な戦略であった。実際、
0%
ステージ4
20%
40%
50.0%
60%
80%
30.0%
100%
20.0%
単一企業組織を超えて、ITにより、最適なバリューチェーンを
構成する共同体全体の最適化を実現している企業群
ステージ3
29.2%
22.2%
36.1%
12.5%
ITを理解する経営者により、企業組織全体におけるプロセスの最適
化を行い、高効率経営と顧客価値の増大を実現している企業群
ステージ2 18.1% 16.0%
44.3%
21.6%
ITの活用により、部門ごとの効率化を実現している企業群
ステージ1 6.3% 21.9%
46.9%
25.0%
単にITを導入しただけで、その活用がなされていない企業群
上向き
上向き
横ばい
悪化
将来不透明
(出典:情報化白書2004「企業のIT化ステージ別業況」
(経済産業省))
78
るだろう。
セキュリティリスク管理・
内部統制の強化
意思決定・判断の質的向上
447
326
439
171
407
441
経営・業務のスピードアップ
業務プロセスの
省力化・効率化
営業・販売力の向上
売上向上・経営
高度化に向けた
取組みへの期待
が高まっている
大幅ダウン
687
331
305
246
顧客満足度の向上
全社的な知識・知恵の
結集・活用
104
262
231
214
124
134
製品・サービス品質の向上
0
200
今後2∼3年で効果を出したい
現時点で効果が出ている
1番目に効果が大きいもの=3点、
2番目
=2点、
3番目=1点で点数化した合計値
400
600
800点
(出典:日経情報ストラテジー2007/3月号「有力企業441社CIO調査」)
ICT活用のステージが高い企業程、業況がよい
ユーザーの期待は省力化から意思決定・企業価値向上へ
図 1 経営戦略と ICT 活用ステージの関連性
図 2 ユーザー企業の ICT 投資への期待効果の変化
ビジネスコミュニケーション
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新連載 第3回
NGN 時代の法人ソリューションビジネス
音声とデータの融合や IT マネジメ
個人個人と正面から向き合い、迅速
ーションをコーディネートしてい
ントサービスの分野における通信事
に最適サービスを提供していく企業
く、それがこれからのソリューショ
業者の位置付けは、当時と比べると
が生き残る時代になるだろう。
ンベンダーの姿なのである。
はるかに大きなものになっている。
ソリューションベンダーとしても、
コネクティングエンジンがこれからの
法人ソリューションビジネスを実現
しかし、NGN時代を控え、ユーザ
この経営の質的変化を見逃してはな
ー企業の経営環境にパラダイムシフ
らない。ユーザー企業が本気になっ
トが起きようとしている今、法人ソ
てサプライヤー側の供給の論理から、
リューションビジネスについても新
顧客個人個人の視点にたったビジネ
れからの法人ソリューションビジネ
たな闘い方が必要だ。通信事業者も、
スモデルへ経営を再構築しようとし
スを展開していけばよいのか― 。
NGN がもたらす変化を活かしなが
ている今、ソリューションベンダー
そのヒントはコネクティングエンジ
ら、新たなソリューションビジネス
もソリューション提供の発想を転換
ンにある。
を構築していかなければならない。
していく必要がある。社会全体が個
図3「ソリューションビジネスに
人主導・消費者主導へ変わっていく
おける従来とこれからのバリューチ
中、直接の顧客であるユーザー企業
ェーン」を見てほしい。従来のバリ
だけでなく、その先の消費者まで見
ューチェーンは、コネクティングエ
図2の有力企業 CIOへの調査結果
据えたソリューションを提案・提供
ンジンがなく、各コンポーネントが
をみてほしい。ユーザー企業の期待が、
していくことが必要だ。BtoB発想か
NW や IT インフラ上で連携してい
業務の省力化・効率化から、意思決定
らBtoBtoC発想へ、
「ユーザー企業に
るに過ぎなかった。その結果、通信
の質や営業販売力/顧客満足度の向上
最適なパッケージ/プロダクトを提
事業者としても、法人顧客やサービ
といった経営視点・顧客視点の施策へ
供する」というベンダー発想から、
スサプライヤーにネットワークやイ
ユーザー企業が直面する
経営環境のパラダイムシフト
では、通信事業者はどのようにこ
移ってきているのがわかる。これは何
「エンドユーザーを見据え、ICTの専
ンフラを提供するに留まり、ソリュ
を意味しているのか―。アンケート
門家としてユーザー企業とともに最
ーションビジネスの中核であるアプ
の表面的な結果だけを捉えてはいけな
適なビジネスのあり方を考える」と
リケーションやコンサルティングの
い。我々はこの裏にはユーザー企業が
いうパートナー型の発想へ、転換し
領域までなかなかビジネスを拡大で
直面する経営環境のパラダイムシフト
ていく必要があるだろう。
きなかった、というのが現状であろ
があると考えている。
ユーザー企業の事業価値を高める
う。しかし、これからはコネクティ
前回連載で、インターネットによ
べく、ユーザー企業の先のエンドユ
ングエンジンの「ポータル」「共通
り情報の主導権が企業から消費者に
ーザーを見据え、最適な ICT ソリュ
PF」「ワンストップサービスオペレ
移りつつあることを述べた。その結
従来のバリューチェーン
これから(NGN時代)のバリューチェーン
果、個人と企業の力関係は大きく変
ネスの主導権を個人が握る時代にな
るのである。従来企業は大企業化に
よる生産設備の効率化や大規模なマ
スマーケティングにより企業主導の
ビジネスを展開してきた。しかし、
これからは消費者をマスとして捉え
る企業はもはや生き残れず、消費者
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Content
Content
Content
わろうとしている。これからはビジ
•コンテンツ
制作/提供
Context
Network
/IT Infra Device
Operational
Services
サ
プサ
ラー
イビ
ヤス
ー
Network
/IT Infra
Connecting
Engine
Device
Context
Device
コンサルティング
ポータル
コーディネート
共通PF
ワンストップオペレーション
•NWにアクセス
可能な機器
︵
法
人顧
/客
個
人
︶
Operational
Services
• 情報流通を支える
アプリサービス/業務サポート
図 3 ソリューションビジネスにおける従来とこれからのバリューチェーン
79
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をどう闘うか
ーション」の 3 要素を活用すること
けでなく、ビジネスモデルの成功事
への通知機能をベースに、運行管理
で、ユーザー企業へのコンサルティ
例やマーケット動向の知見提供とい
アプリケーションを構築、オンデマ
ングやサービスサプライヤーとユー
った観点からも、ユーザー企業を支
ンドサービスとして提供しているの
ザー企業の仲介、最適ソリューショ
援できるようになる。
である。
ンのコーディネートなどが可能にな
実際にそれら知見がどこまでユー
このような SaaS の拡大は通信事
っていく。サービスサプライヤーと
ザー企業へのコンサルティングに寄
業者にとってチャンスである。情報
ユーザー企業、そして個人(消費者)
与するのか未知数の部分もあるが、
システムと NW が融合・一体化した
をつなぐハブとして、BtoBtoC 発
コネクティングエンジンから得られ
サービスとして提供される流れの
想のソリューションビジネスが可能
る知見を活かし、少しずつでも各社
中、今まで以上に通信事業者がソリ
になるのである。
のビジネスモデル構築を支援してい
ューションサービスを展開する素地
①ポータルがマーケットを見据えた
コンサルティングを可能にする
くことで、NGN 時代の成功モデル
が生まれてくるだろう。通信事業者
のノウハウが蓄積でき、経営視点で
自 身 が SDP( Service Delivery
のアドバイスも可能になっていくの
Platform)などによる新たなサー
っかり浸透した今、情報収集だけで
ではないだろうか。
ビスを開発・提供していくだけでな
なく、購買行動やコミュニティなど
②サービスサプライヤーと
ユーザー企業をつなぐ共通 PF
く、
「オープン」
「コラボレーション」
インターネットが個人の生活にす
あらゆる生活行動がインターネット
上で行なわれている。そして、その
足取りはログとしてコネクティング
という N G N のコンセプトに基づ
き、サードベンダーとの協業を志向
そして、通信事業者にとっての2
つめのチャンスは共通 PF にある。
することで、サービス展開の可能性
エンジンに蓄積される。つまりコネ
NGN は単なる IP ベースの NW で
は広がっていく。NGN の成功には
クティングエンジンを解析すること
はない。電話や Web アクセス、企
サービスサプライヤーの協力・拡大
で、消費者一人ひとりがどのような
業 NW に留まらず、「認証」「課金」
が不可欠な中、いかにユーザーにサ
ことに興味・関心を持ち、結果とし
「帯域制御」等の機能を提供する、
ービスを提供したいサービスサプラ
て何を購入したのか、把握すること
いわば巨大な情報システム基盤とい
イヤーと、そのサービスを本業に活
ができるようになるのである。通信
うべきものだ。この NGN の登場に
かしたいユーザー企業を、通信事業
事業者は、そういった解析の仕組み
より、従来各企業が個別に構築・所
者が結びつけていくか、が NGN 自
をもつことで、今何が売れているの
有していた情報システムが、NGN
体の成否を握るともいえるだろう。
か、誰がその商品を欲しているのか、
上で連携・展開されるオープンなオ
NGN 事業者として、そして認
といったことに留まらず、今どうい
ンデマンドサービスとして利用され
証・課金・帯域制御などシステム基
ったビジネスモデルが成功している
ていく可能性がある。いわゆる
本機能を提供する事業者として、こ
のか、失敗しているモデルは何か、 「SaaS(Software as a Service)」
れからはユーザー企業やサービスサ
といったことも把握できるようにな
と呼ばれるソリューションの拡大で
プライヤーから意見を求められる機
るだろう。
ある。
会が増えてくる。その際、いかにユ
こういった知見は、顧客視点でビ
例えば、米国アリゴ社では、大手
ーザー企業の立場で最適なソリュー
ジネスを再構築しようとしているユ
通信事業者のスプリント・ネクステ
ションを提案しつつ、サービスサプ
ーザー企業にとって非常に有用だろ
ルと協業し、トラックなどの運行管
ライヤー・通信事業者それぞれが発
う。通信事業者は、コネクティング
理サービスをオンライン上で提供し
展できる共通 PF の枠組みを創り上
エンジンを活用することで、NW や
ている。スプリント・ネクステルが
げていくのか、それが通信事業者に
NI ・ SI といった技術的観点からだ
提供する携帯端末の位置情報や端末
問われているのである。
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NGN 時代の法人ソリューションビジネス
③ソリューションをオーガナイズする ワンストップサービスオペレーション
そして最後に忘れてはならないの
が、ワンストップサービスオペレー
ションの思想である。
ワードに進められているが、通信事
技術仕様のみを公開し、サービス内
業者は今一度、その真の意味を噛み
容についてはサービスサプライヤー
締めるべきだ。
に丸投げするようなオープンではな
現在の NGNの議論をみていると、
く、技術仕様や責任範囲について明
オープンかクローズか、といった二律
確な境界線を示しながらも、バリュ
SaaSなどの拡大とともに、これか
背反の議論が多いように感じる。しか
ーチェーン全体を俯瞰し、マーケッ
らはマルチサービス/マルチベンダ
し通信事業者は、そういった二元論に
トの発展のため協力していく、そう
ーの傾向がますます加速していく。
陥ることなく、本質的な意味で「オー
いった新しい通信事業者の姿を示し
複数ベンダーのサービスを連携させ、
プン」
「コラボレーション」を追求し
ていくことが必要なのである。
一つのソリューションを構築する、
た第三の道を追及すべきである。ブロ
クローズからオープン/コラボレー
といったことが当たり前になってい
ードバンド・ユビキタス社会を創造す
ションへ、この新たなパラダイムシフ
くだろう。しかし、それらがうまく
るというビジョンの下、ビジネス拡大
トへ向け、まずは通信事業者自身が変
機能しなくなった時、誰が対応して
からNGN社会の創造へと視野を広げ
わる必要がある。恒久的に守るべき価
くれるのか。故障原因をトータルで
たとき、これからの仕事の進め方とは
値観とマインドチェンジすべき価値観
切り分けられるユーザー企業などほ
どうあるべきか、オープン/コラボレ
を見極め、自らのアイデンティティを
んの一握りしかいない。ユーザー企
ーションとは何を意味するのか、改め
保ちながら、新たな仕事の進め方を体
業はサービスサプライヤー全てに連
て見つめ直す必要があるだろう。従
現していく、それが今通信事業者に課
絡し、混乱の末ようやく対処する、
来の顧客囲い込みや自前 NW による
せられた試練なのである。
といった事態になりかねない。
品質保証といったクローズなコンセ
来るべきNGN時代は、NWやシス
これはユーザー企業にとって非常
プトに囚われることなく、業界発展
テムがオープンにつながるだけでは
に不便である。マルチサービス/マ
のために担うべき役割は何か、自ら
なく、企業間のビジネスもオープン
ルチベンダーの時代だからこそ、誰
のビジネスとして展開すべき領域は
に繋がっていく時代であると想像す
かが責任を持ってトータルで顧客対
どこか、顧客への責任として保証す
る。それは法人ソリューションビジ
応にあたることが不可欠なのだ。そ
べきことは何か、サービスサプライ
ネスについても例外ではないだろう。
してその役割は、サービスサプライ
ヤーと協力すべき領域はどこか、バ
通信事業者が、その先導役として、
ヤーとユーザー企業をNWと共通PF
リューチェーン全体を俯瞰し、マー
NGNがもたらす新たなパラダイムシ
でつなぐ通信事業者こそ適任ではな
ケット創造という視点から改めて問
フトを体現し、マーケットリーダー
いだろうか。サービスサプライヤー
い直していく必要がある。
として、自らの法人ソリューション
の各種サービスをワンストップでコ
NGNの成功にはかつてのインター
ーディネートし、シームレスに運用
ネットブームのような社会的なムー
していく、それが通信事業者の目指
ブメントが必要だ。今後サービスサ
すべき NGN 時代のソリューション
プライヤーと連携していくなかで、
ビジネスモデルではないだろうか。
自社の権益しか考えない魑魅魍魎た
アクセンチュア株式会社
る企業と協力が必要な場面もあろう。
通信・ハイテク本部
NTT 統括エグゼクティブパートナー
冨永 孝
[email protected]
同マネージャ
金均
[email protected]
NGN 社会を牽引するリーダーとして
NGN の拡大に向けては、これか
しかし通信事業者は、マーケットリ
ーダーとして、虚心坦懐にその資質
らが正念場である。NGN は「オー
を目利きし、業界全体をつなぐべく、
プン」「コラボレーション」をキー
各企業を支援していくことが必要だ。
ビジネスコミュニケーション
2007 Vol.44 No.3
ビジネスとマーケットの双方の発展
に寄与していくことを願っている。
お問い合せ先
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