特 集 ステント療法最前線 薬剤コーティングステント 長谷部光泉1),橋本 統1),中塚 誠之1),松本 一宏1) 島田 厚2),吉村 博邦2),栗林 幸夫1) 慶應義塾大学病院 放射線診断科1) 北里大学医学部 胸部外科2) Drug-eluting Stents in Vascular Intervention 1)Department of Diagnostic Radiology, Keio University School of Medicine 2)Department of Thoracic-Cardiovascular Surgery, Kitasato University School of Medicine Terumitsu Hasebe, M.D.,1)Subaru Hashimoto, M.D.,1)Seishi Nakatsuka, M.D.,1) Kazuhiro Matsumoto, M.D.,1)Atsushi Shimada, M.D., 2) Hirokuni Yoshimura, M.D.,2)and Sachio Kuribayashi, M.D.1) Summary In-stent restenosis remains the major limitation of vascular stenting. The arterial response to injury is the basis for restenosis. The stent prevents remodeling but enhances intimal hyperplasia, which is principally responsible for in-stent restenosis. Morphology after coronary stenting demonstrates thrombus formation NICHIDOKU-IHO Vol. 48 No. 3 85–96 (2003) and acute inflammation early after deployment, with subsequent neointimal growth. The rationale for the most recent approaches to restenosis arises from the similarity between tumor-cell growth and the benign tissue proliferation that characterizes intimal hyperplasia. Several immunosuppressants (e.g., sirolimus) and antiproliferative drugs (e.g., paclitaxel) have been tested for their potential to inhibit restenosis, with the novel strategy of administrating the drug via a coated stent platform. Increasing focus has recently been directed toward the different parameters of drug-eluting stents—stent design, deliveryvehicle materials, and drug properties—and the manner in which each of these elements may affect the function of the stents. Stent-based local delivery is an attractive therapeutic option because stent coatings can optimize the surface properties of metallic devices and serve as a vehicle for local delivery. The RAVEL (randomized comparison of a sirolimus-eluting stent with a standard stent for coronary revascularization) and the SIRIUS [the United States (US) multicenter, randomized, double-blind study of sirolimus-eluting stent in de-novo coronary lesions], using a sirolimus eluting stent, report substantial reductions in clinical restenosis with drug-eluting stents compared with bare stents. The FDA (Food and Drug Administration of the United States Department of Health and Human Services) approved the CYPHER TM Sirolimus-eluting Coronary Stent in April 2003. CYPHER TM is now the first drug-eluting stent to be approved in the US to help reduce restenosis in the coronary artery. Paclitaxel-eluting stents also seem promising for the management of restenosis. There have been several trials involving the ASPECT (Asian Paclitaxel-eluting Stent Clinical Trial) and TAXUS (polymer-based paclitaxel-eluting stent) programs. Clinical TAXUS trials are now ongoing in the US. The ultimate choice of which drug-eluting stent to use and when will be determined by a combination of factors: further long-term efficacy and safety trial results, availability, cost, operator preference, and specific aspects of stent suitability for different subsets of lesions. Overall, drug-eluting stents appear to represent a major advance in the field of vascular intervention and promise to extend the application and effectiveness of percutaneous interventions to a wider patient population. This article will focus on the data for the most promising compounds that are now undergoing clinical trial. 日獨医報 第48巻 第 3 号 435–446(2003) 85(435) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 ト留置や長い狭窄部位等の治療の難しい部位へのステン はじめに ト留置術が増えるとともに、ステント留置後の再狭窄の 経 皮 的 血 管 形 成 術( p e r c u t a n e o u s t r a n s l u m i n a l 絶対数も増えている。 angioplasty:PTA)、ステント留置術は冠動脈および末 再狭窄は血管壁の損傷に対する生物学的な局所の反応 梢血管の狭窄病変に対する標準的治療法として確立され そのものと考えられる(response to injury)。バルーン てきている。ただし、PTA後の再狭窄(restenosis)やス を局所で膨らますことにより、血管内皮は引きはがさ テント留置後の再狭窄(ステント内再狭窄:i n - s t e n t れ、そして血管中膜がストレッチされる。この損傷の治 restenosis:ISR)については、いまだ解決できない問題 癒過程として、細胞レベルでは炎症期、肉芽形成期、血 として臨床上重大な問題となっている。 管再構築期(remodeling:リモデリング)の 3 つの過程 ステント内再狭窄の原因は複雑な機序が挙げられる。 が起こりうる。炎症期は、血小板と成長因子(growth 再狭窄防止の戦略として、遺伝子治療を含めた薬物治 factor)の活性化、肉芽形成期には血管平滑筋細胞およ 療、血管内放射線治療についても研究が進められている び線維芽細胞の遊走と増殖、リモデリング期には細胞外 が決定的な戦略は完全には確立されていない。現在まで マトリックスでのプロテオグリカンおよびコラーゲンの のステントの主流は、ステンレススチール(SUS316Lな 合成がなされる2)。マクロでのイベントとしては、バル ど)やナイチノール合金製の金属ステントである。ステ ーンPTA直後に起きる弾性反跳(elastic recoil)、その後 ント留置の根本的な問題は、ステントそれ自体が生体に 起こる血管のリモデリングおよび内膜新生が挙げられ とって「異物」であることにほかならない。その一方、金 る。初期のelastic recoilはステント留置により解消され 属ステントは、血管狭窄病変の治療を考えるうえで、非 るが、内膜新生は依然として問題になる。内膜新生は局 常に重要な位置を占めている。この矛盾を解決すること 所において、以下のような一連のイベントが細胞および が、再狭窄予防の重要なポイントとなりうる。 分子レベルで次々と誘導されていく。まずは損傷局所に 以上を踏まえたうえで、現在のステント開発には 2 つ おいて血小板の凝集、白血球の浸潤が起きる。そしてそ のカテゴリーが存在する。ひとつは今回、本稿にて中心 の信号を受け取った細胞表面のレセプターを介して、信 的に取り上げる「薬剤コーティングステント (薬剤徐放性 号が細胞核内に伝達され、その結果として平滑筋の遊 ステント)」 である。これは、ステント表面から再狭窄抑 走・増殖、細胞外マトリックスの増生、再内皮化がなさ 制が期待できる薬剤を直接徐放し、いわゆる“active”に れていく(図 1)。 血管壁へと働きかけるステントである。もうひとつは、 近年の報告によると3)、ヒト冠動脈のステント施行部 ステント表面を生体適合性膜でコーティングし、生体に 位では、経皮的冠動脈形成術(percutaneous translumi- 異物としての認識を下げさせるような試みである。この nal coronary angioplasty:PTCA)に比べて、“金属ステ 試みは、現在人工臓器の開発、生体工学の分野において ント”という異物留置による血管内皮細胞の傷害が起こ も同様の研究が進められており応用範囲が広い。 るため、同じインターベンションであるPTCAに比べ、 本稿では、最近欧米での臨床治験が進んでいる「薬剤 より多くかつ遷延化した血栓形成がもたらされる。ステ コーティングステント」について概説する。 ントワイヤー周囲の第一反応として、まずステントワイ ヤー周囲の血栓形成が起こり、ステントワイヤー周囲の 再狭窄のメカニズム 過度の血栓形成が新生毛細血管の増殖とマクロファージ の集積を促進し、さらにマクロファージなどから産生さ ステント使用により、狭窄性病変に対する血管内腔の れる増殖因子がその後の過度な平滑筋細胞の遊走・増殖 保持に優れた成績をあげてきているが、それでもなおス をもたらし、結果的に高度の新生内膜増殖を引き起こし テント内再狭窄は臨床上大きな問題となっている。特 ていることがわかってきた。以上のような知見より、ス に、冠動脈領域においては、バルーン拡張術(PTA) に比 テントの抗血栓性・生体適合性を改善することは、ステ して、ステント留置術の長期成績が良好であることが大 ント内再狭窄防止の第一段階として最も重要なステップ 1) 規模な臨床試験にて証明されている 。ただし、ステン であると考えられる。さらに引き続き起こる平滑筋細胞 ト留置の数が増えるとともに、また細径血管へのステン の遊走・増殖抑制が次のステップとなる。 86(436) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 図 1 再狭窄のメカニズムおよび再狭窄防止の戦略 臨床的な場面を考慮すると、内膜新生およびステント 狭窄病変に対するPTAおよびステント留置は、現在の治 内再狭窄は、患者の条件(遺伝的な体質や糖尿病の有無 療のスタンダードとなっており必要不可欠なものであ など)、病変部位の条件(血管径、長さ、壁の石灰化の程 る。 度やプラークの部位など) 、そして手技上の条件 (血管損 ステントの素材の選択およびステント表面をコーティ 傷の程度、残存する内膜剥離の有無、ステントの数、最 ングすることにより抗血栓化・生体適合化を改善するこ 小ステント径、面積など)に依存する。患者の条件は変 とは、再狭窄のメカニズムの第一段階を防ぐためには非 えようがないであろう。病変部位の条件については、慎 常に重要なポイントとなる。抗血栓性を改善し、生体が 重な適応の選択が重要と考えられる。また、動脈硬化な 異物とみなさないような理想的なステント作成を追究す どに対する薬物治療・再狭窄に対する薬物治療などの試 ることにより、それに引き続く新生内膜の形成を抑制で みが多くなされてきているが、いまだゴールド・スタン きる可能性がある。しかしながら、PTA、ステント留置 ダードは決定されていない。手技上の条件については、 後に必発する血管平滑筋細胞の活性増殖をより積極的に ステント留置の熟練の度合いおよびステントそれ自体の 治療する方法が考慮されてきた。さまざまな薬剤が、全 性質に依存するところが大きいと考える。 身投与あるいは局所投与されてきたが、決定的な薬剤は 見つかっていない。この原因としては、局所で薬剤の有 薬剤コーティングステントの必要性 効濃度が保たれていないことや、投与期間が短かったこ とだと考えられている。局所に投与するカテーテルに伴 上記「再狭窄のメカニズム」の項で述べたとおり、血管 った血管損傷の影響も指摘されている。 87(437) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 これらの欠点を補うためには、ステント表面から局所 離 さ れ た 自 然 の 大 環 状( m a c r o c y c l i c )、 親 油 性 に徐放されるようなstent-based drug delivery system (lipophilic)ラクトン(lactone)であり、免疫抑制効果を (D D S)の開発が必要となってきた。歴史的には最初 持ったマクロライド系の弱い抗生物質である。この薬剤 は、単にステント表面に薬剤を塗布する方法がとられた は、1999年にFDA(米国食品医薬品局保健・人的サービ が、それだけでは局所に薬剤が長期間とどまることがで ス局:Food and Drug Administration of the United きずあまり効果が得られなかった。そのため、ステント States Department of Health and Human Services)に 表面に直接薬剤をコーティングする方法ではなく、高分 より移植腎拒絶反応の予防のための免疫抑制剤 子材料をDDS基材として薬剤を含浸させ、表面にコー (macrocyclic immunosuppressive agent:Rapamune ® 、 ティングする方法が開発されてきた。理想的なDDS基 Wyeth Pharmaceutical社製)として承認された。 材の条件としては、① 大量の薬剤を含浸できる、② 薬 ラパマイシンは細胞内でFK506(免疫抑制剤:タクロ 剤の徐放速度をコントロールできる、③ 徐放の速度 リムス)が結合する細胞内レセプターとして知られてい は、体温・PHなど生態環境に左右されない、④ 薬剤徐 るFK506結合蛋白(FKBP 12:FK506 binding protein 12) 放の際に組織反応(炎症)を伴わない、⑤ 薬剤徐放に伴 を介在して作用する。ラパマイシンは、哺乳類 う基材の変化が起こらない、⑥ 薬剤徐放中および徐放 ( m a m m a l i a n )の 細 胞 内 で は ラ パ マ イ シ ン 標 的 蛋 白 後の基材は、過剰な割線や組織反応を誘発させない、⑦ (mTOR)と呼ばれる酵素を抑制する。mTORの抑制は、 コーティングはステントの変形にも追従し剥離しないこ 蛋白調節酵素P27を上昇させるとともに、サイクリン依 とが必要である。 存性キナーゼ 4 / サイクリンD複合体(CDK4/cyclin 以上の条件をクリアするようなコーティングステント D)、サイクリン依存性キナーゼ 2 / サイクリンE複合体 の開発が重要となってくる。今後、数∼10年の間に、 (CDK2/cyclin E)、リボソームS6キナーゼのリン酸化な 再狭窄率10%以下を目指し、生体適合化ステントある ど細胞周期をつかさどる蛋白の活動性低下を引き起こ いはDDS化(コーティング)ステントが開発されてくる す。このような経路を経て、ラパマイシンは細胞周期の と予想される。 G1期からS期への移行部分を抑制し、細胞増殖を抑制す る。また、平滑筋細胞の遊走・増殖を抑制することも知 臨床試験が行われている薬剤コーティングス テント られている(図 4)。 CYPHER TM ラパマイシン徐放性ステントの基材とし ては316 LS(stainless steel)を使用し、コーティング基 薬剤コーティングステントの候補となる薬剤は非常に 材のポリマーとしては、polyethylenevinylacetate 多く挙げられる(表 1)。今まで、臨床試験において局所 (PEVA) およびpolybutylmethacrylate(PBMA) を1:1で 投与および全身投与が再狭窄にネガティブと判断された 混合した素材を用いている(ラパマイシンはコーティン 薬剤も、stent-based DDSと組み合わせることにより、 グ素材の30%の重量を占める)。このステントに関して 効果が得られるものも生まれてくる可能性がある。本稿 は、大規模臨床試験にて極めて良好な成績が報告されて においては、現在までにすでに開発され臨床的な治験が おり、最近の学会でも話題となっている。 開始されている薬剤コーティングステントについて概説 Marie Claude Moriceら 5)は、狭心症患者の未治療冠 する。 動脈狭窄(単一、原発性病変、狭窄長2.5∼3.5mm)に対 しシロリムス徐放性ステントあるいはコーティングして 1 . ラ パ マ イ シ ン[ R a p a m y c i n( s i r o l i m u s ): いないステントを比較するための無作為化二重盲検比較 R a p a m y c i n - c o a t e d B x V E L O C I T Y TM s t e n t 臨床試験(Randomized Study with the Sirolimus-coated (= CYPHER TM drug-eluting stent)] ( Cordis社 製、図 2) Bx VELOCITY Balloon-expandable Stent in the Treatment of Patients with de novo Native Coronary Artery 4) ラパマイシン (図 3) ( シロリムス:C 51 H 79 NO 13 )は Lesions:RAVEL)を初めて報告した。この試験は、19 1970年代にイースター島(もともとRapa-Nuiと呼ばれる 施設(欧州、中南米)、228人の患者を対象としている。 島)の微生物Streptomyces hygroscopicusより抽出・分 主要エンドポイントは、ステント内後期内腔減少(治療 88(438) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 表 1 コーティング薬剤の候補 1. Antiplatelet agent Compound Action (1) Aspirin Cyclo-oxygenase inhibition (2) Dipiridamole Phosphodiesterase inhibition (3) Ticlopidine Blocks interaction between platelet receptors, fibrinogen, and von Willebrand factors (4) c7E3 Monoclonal antibody to the glycoprotein IIb/IIIa receptor (5) Integrelin Competitive glycoprotein IIb/IIIa receptor inhibition (6) MK-852, MK383 (7) RO-44-9883 2. Antithrombin agents Compound Action (1) Heparin Antithrombin III cofactor (2) Low molecular weight heparin (LMWH) Inhibition of factory Xa by antithrombin III (3) R-Hiruidin Selective thrombin inhibition (4) Hirulog Synthetic direct thrombin inhibitor (5) Argatroban, efegartan Synthetic competitive thrombin inhibitor (6) Tick anticoagulant peptide Specific thrombin inhibitor (7) Ppack Inversible thrombin inhibitor 3. Antiproliferative agent Compound Action (1) Angiopeptin Somatostatin analog (2) Ciprostene Prostacyclin analog (3) Calcium blocker Inhibition of slow calcium channels (4) Colchicin Antiproliferative and migration inhibition (5) Cyclosporine Immunosupressive, intracellular growth signal inhibition (6) Cytarabine Antineoplastic, DNA synthesis inhibition (7) Fusion proteins Toxin-bounded growth factor (8) Iloprost Prostacyclin analog (9) Ketaserine Serotonin antagonist (10) Prednisone Steroid hormone (11) Trapidil Platelet-derived growth factor inhibitor (12) Paclitaxel Antineoplastic effect (microtubule depolymerisation) 4. Immunosuppressant (1) Sirolimus (Rapamycin) (2) Tranilast (3) Dexamathasone (4) Tacrolimus (FK506) (5) ABT-578 (rapamycin analogue) 89(439) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 OH O H CH3 CH3 O OH O H O CH3 CH3 CH3 O O H N CH3 CH3 O CH3 H O O HO O H3C CH3 図 2 Rapamaycinの構造 直後の最小内腔直径と 6 カ月後の最小内腔直径の差)と 図3 CYPHER TM ステント表面の走査電子顕微鏡 像(SEM):血栓がつきにくい. した。副次的エンドポイントには、内腔直径のうちステ ント内狭窄が占める割合(%)および再狭窄(50%以上の 内腔狭窄)率を含めた。1、6、12カ月後の死亡、心筋梗 塞、経皮的または外科的血行再建からなる複合臨床エン ドポイントを解析した。6 カ月後、平均[Ȁ 標準偏差 (standard deviation:SD)]後期内腔減少として示され る新生内膜増殖の程度は、シロリムスステント群(−0.01 Ȁ 0.33mm)の方が、標準ステント群(0.80 Ȁ 0.53mm) よりも有意に低かった(p < 0.001) ( 表 2)。内腔直径の 50%以上の再狭窄 (再狭窄) を示した患者は、シロリムス ステント群では驚くべきことに 0%であったが、標準ス テント群では26.6%であった(p < 0.001) ( 表 2)。ステ ント血栓症は発生しなかった。最長 1 年間の追跡調査期 間中、主要心臓イベント発生の頻度は、シロリムスステ ント群で 5.8%、標準ステント群で28.8%であった(p < 0.001)。この差は、全面的に、標準ステント群の方が標 図 4 細胞レベルにおける再狭窄メカニズムおよび薬剤の作用部位 的血管の血行再建実施率が高かったことによるものであ った。また、その後発表されたこれらの患者のサブグル ープ(15名)についての 2 年後の血管造影および血管内 米国大規模臨床治験the multicenter, randomized, 視鏡の経過観察結果によると、新生内膜抑制効果が持続 double-blind study of sirolimus-eluting balloon-expand- 6) していることが報告されている 。 able stent in the treatment of patients with de novo ワシントンD.C.(2002年 9 月24日)−米国の臨床治験 native coronary-artery lesions(SIRIUS)4、7)の最終的な 担当医師らは、第14回Transcatheter Cardiovascular 治 験 結 果 を 報 告 し た( h t t p : / / w w w . c o r d i s . c o m / Therapeutics( TCT 2002)シンポジウムにおいて、9 月 press_03.asp?press/)。この結果は、同ステントが冠動 24日「CYPHER 90(440) TM 」シロリムス徐放性ステントに関する 脈疾患患者において新規冠動脈病変の再狭窄を著しく減 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 表 2 CYPHERTMおよびTAXUSTMの主な臨床試験結果 (6 カ月1)あるいは8 カ月2).Drugeluting stents vs. uncoated stents evaluated by angiography) 臨床試験 後期内腔減少(mm) 再狭窄率(> 50%) (患者) ステント −0.01±0.33*1 0.17±0.42*1 0%*1 vs. 26.6% 3.2%*1 vs. 35.4% CYPHERTM TAXUS I 0.36±0.48*2 0%*3 vs. 10.0% TAXUSTM TAXUS II-SR1) 0.31±0.38* 0.30±0.39*4 5.5%* vs. 20.1% 8.6%*6 vs. 23.8% TAXUSTM RAVEL1) SIRIUS2) 1) 1) TAXUS II-MR 4 5 CYPHERTM TAXUSTM *1: p < 0.001, *2: p = 0.008, *3: p = 0.112, *4: p < 0.0001, *5: p = 0.0004, *6: p = 0.001 少させることができる性能を再度証明することとなっ た。SIRIUS試験はJohnson & Johnson Cordis社により Sirolimus群(n = 349) 米国内の医療施設5 3カ所で患者1,058名(1,101例の患 通常ステント群(n = 353) 者が無作為に登録され、43 例の脱落例を除き、533例 p < 0.001 がシロリムス徐放性ステント群、525例が非コーティン 35.4 p < 0.001 36.3 グのBx VELOCITY TM 冠動脈ステント使用対照群に割り 付け)について行われた無作為化二重盲検比較臨床試験 である。前述のRAVEL試験では18mmのステント 1 本 (%) 91% 75% の使用のみ認められていたが、SIRIUS試験ではステン 8.9 ト 2 本までの使用が認められた。そのため、病変長は RAVEL試験の平均9.56mmからSIRIUS試験では 14.4mmと長くなっていた。実際に留置されたステント 数は平均1.4本で、2 つのステントがオーバーラップし 3.2 ステント内 セグメント内 て留置が行われたのは全体の28.5%であった。一方で血 管径はRAVEL試験の2.6mmからSIRIUS試験では 図 5 SIRIUS試験:再狭窄率 2.78mmと大きくなっていた。SIRIUS試験の被検者に は、糖尿病(24.6%)、長い病変(平均14.4mm)、高脂血 症(73.6%)、高血圧(67.7%)、多枝病変を有する患者 ス徐放性ステント群で有意に低かった(p < 0.001) (図 (41.6%)、過去に経皮的冠動脈インターベンション治 5、表 2)。RAVEL試験のように再狭窄率 0%ではなか 療、あるいは冠動脈バイパス術(34.2%)を受けた患者な ったものの、著明な新生内膜抑制効果が証明された。ス どの再狭窄のリスクが非常に高い患者が多数含まれてお テントエッジも含めたステント内再狭窄の評価(図 6)で り、このような病変に対してもCYPHER TM の有効性が は、再狭窄率8.9%(対照群:36.3%)とやや高値を示し 示された。 た。これは近位部エッジに再狭窄を呈する例が5.8%と ステント内の評価では、経過観察時(術後 8 カ月)の やや多かったことによるが、近位部エッジの再狭窄は対 最小血管径(minimal luminal diameter:MLD)はシロ 照群でも8.1%に認められた。これは冠動脈内放射線治 リムス徐放性ステント群2.50mm、対照群1.68mmとシ 療後にみられるいわゆるエッジエフェクトとは異なるも ロ リ ム ス 徐 放 性 ス テ ン ト 群 で 有 意 に 大 き く( p < ので、薬剤徐放性ステントによる悪影響というよりは、 0.001) 、遠隔期内径損失はシロリムス徐放性ステント群 むしろ、薬剤の効果が近位端にまで及ばないことによる 0.17mm、対照群1.00mmとシロリムス徐放性ステント ものと推察する。病変内再狭窄の危険因子としては対照 群で有意に小さかった(p < 0.001)。再狭窄率はシロリ 血管径、病変長、糖尿病の有無が重要であり、これはシ ムス徐放性ステント群3.2%、対照群35.4%とシロリム ロリムス徐放性ステント群でも対照群でも同様であっ 91(441) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 このステントの問題点は、高価格ということが挙げら れる。欧州では2002年 4 月の市販後も保険償還が認め られなかったため、公的保険しか持たない患者は本ステ ントを使用することが困難であった。今後、欧米での高 価格が維持されれば、いずれ日本で導入される際にもさ まざまな問題点が考えられる。 2 . パク リ タ キ セ ル[ P a c l i t a x e( l T a x o l ): N I R x T M paclitaxel-coated conformer coronary stent (= TAXUS TM drug-eluting stent)] (Boston Sci図 6 ステント内再狭窄模式図 entific社製) パクリタキセル(タキソール)7)は、イチイ科の植物 (学名:Taxus baccata)の針葉または小枝から抽出され た。シロリムス徐放性ステント群の病変内再狭窄率は全 る10-デアセチルバッカチンIIIを原料として半合成され 体の8.9%に対して、径2.3mm以下の小血管で18.6%、 た抗悪性腫瘍剤であり、日本では1992年以来乳癌に対 糖尿病例で17.6%であり、再狭窄の絶滅のために、これ する治療薬として認可されている。 らの病変への対策の重要性が示唆される。今後の対策と 近年、細胞骨格を形成する蛋白質である微小管は、抗 して手技的な面からは、ステント外のエッジへのバルー 癌剤の標的として注目され、その重要性が認識されるよ ンによる損傷を極力少なくすること、エッジの病変を十 うになってきた。古くはビンカアルカロイド、最近では 分に薬剤溶出性ステントでカバーすること、ステントエ ドセタキセルやパクリタキセルなどのタキソイド系抗癌 ッジまで十分に拡散するような薬剤の開発、などが望ま 剤などが微小管を標的とする抗癌剤として知られてい れる。 る。微小管はチューブリンという物質により構成されて 臨床的なエンドポイントについては、死亡(シロリム おり、Ͱ、ͱの 2 つのサブユニットがあり、これが二量 ス徐放性ステント群0.9%、対照群0.6%)や心筋梗塞(シ 体を形成している。細胞質微小管は分裂期間の細胞で、 ロリムス徐放性ステント群2.8%、対照群3.2%)といっ 中心体から細胞膜に向けて多数放射状に伸びており、細 たハードエンドポイントについては両群間で全く差がな 胞質内に微小管のネットワークを形成している。その生 か っ た 。 標 的 病 変 部 再 血 行 再 建( t a r g e t l e s i o n 理的機能は細胞内小器官の分布の決定、細胞形態の規 revascularization:TLR)の頻度はシロリムス徐放性ス 定、細胞内輸送のレールとしての機能、さらに分裂期 テント群4.1%、対照群16.6%とシロリムス徐放性ステ (M期)での紡錘体微小管の形成などで、細胞分裂におい ント群で有意に低く、この結果、主要エンドポイントで て中心的な役割を果たしている。また微小管は神経細胞 ある標的血管事故(target vessel failure:TVF)はシロ 軸索中に豊富に存在し、軸索内輸送に重要な役割を果た リムス徐放性ステント群8.6%、対照群21.0%とシロリ している。このように微小管は細胞にとって極めて重要 ムス徐放性ステント群において良好であった。ステント な構成成分である。 血栓症もシロリムス徐放性ステント群0.4%、対照群 本剤は、微小管蛋白重合を促進することにより微小管 0.8%と問題を認めなかった(術後抗血小板療法を 3 カ月 の安定化・過剰形成を引き起こし、微小管の脱重合を起 間施行した)。 こりにくくし、その結果、細胞分裂を阻害して抗腫瘍活 このSIRIUS試験の結果を踏まえて、FDAは、2003年 性を発揮する抗悪性腫瘍剤である。細胞周期において 4 月に、CYPHER TM薬剤徐放性ステントの正式認可を発 は、主にG 2 / M 期を阻害し、その効果を発揮する(図 表したばかりである。これは米国では初めて認可された 4)。また、本剤は血管平滑筋細胞においても細胞の遊 冠動脈狭窄病変に対する薬剤徐放性ステントとなった 走・増殖を阻害することが証明されている。 (ø2.5∼3.5mm、8、13、18、23、28、33mmのライン アップ)。 92(442) パクリタキセル徐放性ステントの基材としては「1.ラ パマイシン」と同様に316 LSが用いられている。コーテ 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 ィング基材としては、Boston Scientific社が独自に開発 TM したTranslute (hydrocarbon-based elastomer)が用い 8) ている。結果的には、TAXUS II のみで、パクリタキセ ル徐放性ステントの有効性が示された。この 2 つの臨床 られている 。 試験は、パクリタキセルの安全性や有効性を示すのに興 現在まで、いくつかの臨床治験が欧米で行われてきて 味深い報告ではあるが、それ以上に、ステントから薬剤 おり、さらに現在も治験進行中である。TAXUS I試験 を徐放する方法論、つまりstent-based DDSが再狭窄予 8) (safety trial) では、61人の患者についてコーティング 防に重要な役割を担っていることを示唆している。以上 ステント(1 . 0 Ȑ g / m m 2 )あるいはコーティングなしの の 2 つの試験を簡単に概説する。 NIR ® ステントにて、無作為抽出試験がなされている。 TAXUS II試験は、コーティングにポリマーを使用し 6 カ月後の再狭窄率はコーティング群で 0%、コーティ た、溶出速度の異なる低速度薬剤徐放(slow-release)タ ングなし群では10%と良好な成績をあげている。ステン イ プ( S R 群 : 1 3 1 例 )と 中 速 度 薬 剤 徐 放( m o d e r a t e - ト内後期内腔減少は、0.36 Ȁ 0.48mm(対照群0.71 Ȁ release)タイプ(MR群:135例)の 2 種類のTAXUS TM ス 0.48mm)であった(表 2)。さらに、大規模な臨床治験 テントと、通常ステント(NIR ® ステント) ( 対照群270 Asian Paclitaxel-Eluting Stent Clinical Trial(ASPECT試 例、うちSR対照群:136例、MR対照群:134例)を比較 9) 験) においては、177人の患者に対し、高濃度(3.1Ȑg/ 2 2 した多施設無作為化二重盲検試験である。ステント径は mm )、低濃度(1.3Ȑg/mm )のコーティング群、コーテ 3mmあるいは3.5mm、ステント長は15mmであった。パ ィングなしの 3 群についての検討がなされている。6 カ クリタキセルの投与量は 1Ȑg/mm 2 paclitaxel/unit of 月の再狭窄率は、おのおの、4%、12%、27%となり、 stent surface area(85Ȑg per 15mm ステント) であった。 パクリタキセル徐放性ステントの効果が濃度依存性であ MR群は、最初の10日間にSR群の 8 倍量の薬剤を徐放 ることを示唆する結果となった 10) 。 11) するようなシステムとなっている。一次エンドポイント については、15カ国38施設536名の は 6 カ月後の血管内超音波によるステント内再狭窄率 患者が参加する二重盲検臨床試験で、TAXUS溶出冠動 (ステント内新生内膜体積)とし、SR群 vs. SR対照群は 脈ステントの安全性および有効性が評価された。この試 おのおの、7.8% vs. 23.2%(p < 0.0001)であり、MR群 験では、新しい冠動脈病変部がみられる標準的なリスク vs. MR対照群は、7.8% vs. 20.5% (p < 0.0001) となり、 の患者を 2 つの連続コホートに分け、それぞれ異なる徐 両パクリタキセル群で有意に低値となっていた。今回報 放速度のステントを用いて評価された。この試験につい 告された12カ月後の主要心事故(major adverse cardiac ては、第52回米国心臓病学会(American College of events:MACE;死亡、心筋梗塞、TLR、冠動脈バイパ Cardiology:ACC 2003、Chicago)にてその報告がなさ ス グ ラ フ ト )発 生 率 は 、 S R 群 1 0 . 9 %( S R 対 照 群 2 2 . 0 れ、2003年 8 月号のCirculationにてもその詳細が報告 %)、MR群9.9%(MR対照群21.4%)であった。TLR率 されたばかりである。ACC 2003においては、同様の薬 はそれぞれSR群4.7%(SR対照群12.9%)、MR群3.8% 剤を使用しているが異なるコーティング方法を使用した (MR対照群16.0%)と、ともに両パクリタキセル群で有 ステント使用による大規模臨床試験A Randomized 意に低値であり、6 カ月後の成績に比べて、格差は拡大 Comparison of Paclitaxel-Coated ACHIEVE™ していた。ステント内後期内腔減少は0.31 Ȁ 0.35mmで Drug Eluting Coronary Stent System Versus TAXUS Iとほぼ同様の成績であった。6 カ月後の血管造 PENTA™ Coronary Stent (bare metallic stent) 影および血管内超音波による患者の再狭窄(> 50%)率 in the treatment of de novo lesions in native coronary は、全セグメント内での解析ではSR群5.5%(SR対照群 arteries(DELIVER試験、unpublished)についての報告 20.1%)、MR群8.6%(MR対照群23.8%)でいずれも有 もなされた。この 2 つの試験においては両者で使用して 意に薬剤徐放性ステントが優れていた(表 2)。また、 いる薬剤は全く同じパクリタキセルではあるが、コーテ SR群、MR群ともに、6 カ月の再狭窄率、MACE発生 ィング方法が異なっている。TAXUS IIではポリマー使 率、TLR率に差はなかった。これは、SRシステムを使 用型ステントを用いている。一方、DELIVER試験にお 用しても十分な有効薬剤濃度が局所で得られていること いては、パクリタキセルをステント表面に吸着させ、緩 を示唆する。ハイリスク患者(糖尿病) や、より複雑な病 TM 変(細径、長い病変、ステント内再狭窄)については、こ TAXUS II試験 徐に溶出させるACHIEVE ステント(Guidant)を用い 93(443) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 の両者のシステムの差は明確となっておらずさらなる評 売のための承認申請に向け、冠動脈の初発狭窄病変に対 価が必要である。 するパクリタキセルslow-releaseタイプステントの安全 DELIVER試験は、冠動脈の初発狭窄病変に対する通 常ステント(PENTA TM stent、Guidant社製)とステント TM 性および有効性を評価するために行っている試験であ る。この試験は、患者の登録が2002年 7 月までに完了 ステント し(1,324患者、米国74施設)、9 カ月間の経過観察が行 (3Ȑg/mm )留置を1,043例で比較したものである。1 次 われている。その詳細は、2003年 9 月11日に開催の第 評価項目の 9 カ月後のTVF発生率は、対照群14.5%、 15回TCT 2003にて発表される予定となっている(2003 パクリタキセル群11.9%、再狭窄率も22.4%対16.7% 年 8 月執筆時点)。TAXUS試験の初期においては、ベ と、ともに有意差は認められなかった(ACC 2003よ ー ス と な る ス テ ン ト は N I R x TM C o n f o r m e r ス テ ン ト 表面に吸着させ緩徐に溶出させるACHIEVE 2 り)。 TAXUS III試験 (closed cellタイプ)が用いられていたが、TAXUS IVに 12) は、欧州の 2 施設で28人が参加し おいては、open cellタイプのTAXUS TM Express 2TM ステ た試験である。この試験は、TAXUS I、IIよりもさらに ントが用いられている。 リスクが高い冠動脈ステント内再狭窄(長さ3 0 m m 以 TAXUS V試験は、TAXUS IV臨床試験の延長線上に 下、50∼99%再狭窄、径 3∼3.5mm + 客観的な虚血の あり、冠動脈の初発狭窄病変、特に血管が細い患者、病 証拠ある患者)に対するパクリタキセル徐放性ステント 変部が長く複数のステントを重ねて留置する必要がある (TAXUS IIで使用されたslow-releaseタイプ)の安全性 患者など、高リスクの患者を対象に実施されている。 および有用性についての検討がなされた。エンドポイン 2003年 3 月より、患者登録を開始しており1,108患者、 トは、6 カ月および12カ月後の臨床情報収集および 6 カ 病変最長46mmの患者に対して径2.25∼4.0mmの 月後の血管内超音波、血管造影による評価とした。結果 TAXUS TM Express 2TM ステントを用い、その有効性を確 は、6 カ月、12カ月の時点での死亡・Q波心筋梗塞を認 認する試験となっている。試験の一次エンドポイントは めなかった。6 カ月、12カ月時点でのMACEの発生率は 9 カ月後の標的血管再建術(target vessel revasculari- ともに29%(7 例)であった。TLR率は、6 カ月、12カ月 zation:TVR)率とされている。また、ステント内再狭 ともに21.4%(6 例)であった。6 カ月時点での血管造影 窄に対する、TAXUS TM Express 2TM ステント留置試験の での再狭窄率は16%(4 例)であった。うち 1 例で晩期 患者登録も2003年 4 月より開始されている(528例)。こ に完全血管閉塞が生じた。残りの 3 例は、パクリタキセ の試験は血管内放射線治療との無作為抽出比較試験とな ルが直接作用しない部分(1 例:ステント遠位端での解 っている。 離、2 例:2 つの離れて留置されたパクリタキセル徐放 さらに、TAXUS VI試験が開始されている。この試 性ステントの間)での再狭窄が認められた。抗血小板薬 験は、高いリスクを伴いかつ複雑で長い冠動脈疾患(18 のクロピドグレルが術後 6 カ月間投与されているもの ∼40mm)がみられる44施設の448名の患者を対象とし の、亜急性ステント血栓化は12カ月時点で 1 例も認め た臨床試験である。この試験は、長い病変部に対する られなかった。ステント内の後期内腔減少(late loss)と moderate-releaseタイプステント(TAXUS IIで使用され して示される新生内膜増殖の程度は、0.54mm(Ȁ 0.51) たMRタイプのもの:MR- TAXUS TM Express 2TM )の安 であり、文献的に報告されているステント内再狭窄の平 全性および有効性を確立することを目的としている。 均後期内腔減少(0.9∼1.4mm程度)に比して少ない値を また、複数のステントが用いられ、その評価は 9 カ月 示している。1 個のステントのみを使用した群の平均後 のTVRに予定されている。2003年 5 月、欧州最大の心 期内腔減少は0.36mmでさらに良い値を示している。こ 臓インターベンション学会であるThe Paris Course on れは、TAXUS IでSRシステムのTAXUS TM ステントで Revascularization(EuroPCR)においてBoston Scientific 初発冠動脈狭窄病変を治療した群に認められた0.35mm 社は、TAXUS VIの30日間の安全性データを発表して に肉薄する値である。この試験によりステント内再狭窄 いる。この臨床試験では、参加した患者がAとBの 2 つ に対しても、TAXUS TM ステント留置は安全かつ有効で のグループに分けられており、患者がいずれのグループ ある可能性が示唆された。 に属しているのかは 9 カ月の評価まで公表されない。患 TAXUS VI試験は、Boston Scientific社が米国での販 者の構成と、ベースラインの病変部の特徴、手技の施行 94(444) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 表 3 その他に行われている薬剤コーティングステント臨床試験 (冠動脈狭窄病変.現在中止あるいは休止と なっているものを除く) 試験名 PRESENT 薬剤 薬剤の種類 スポンサー Tacrolimus 免疫抑制剤・マクロライド系 JOMED STRIDE Dexamethasone ステロイド剤 Biocompatibles/Abbott FUTURE Everolimus 免疫抑制剤,抗増殖性 Guidant ABT-578 ラパマイシン類似化合物 Medtronic 17ͱ-Estradiol ステロイド剤 Biocompatibles/Biopolymerix ENDEAVOR EASTER 結果は、2 つのグループ間でかなりの一致がみられた。 おわりに 30日間のMACE率はグループAでは5.3%、グループB では7.3%であった。この結果は、多枝病変、平均長が 以上、現在の再狭窄病変に対するインターベンション 21mm以上の病変部など、参加している患者の高リスク の中でも近年最も注目されている「薬剤コーティングス の特徴と一致している。また、約35%の患者が複数の テント」について概説した。今回はその中でも現在最も ステントの留置を必要とした。この 9 カ月のデータは 注目されているCYPHER TM およびTAXUS TM の大規模臨 2003年の秋以降に発表される予定である(2003年 8 月執 床試験の結果を中心に述べた。両者ともに、6 カ月時点 筆時点)。先にも述べたが、TAXUS試験の初期におい での再狭窄率はいずれも10%以下で良好な成績を示し TM Conformerステ ている。また、後期内腔減少についてみてみると、両者 ント(closed cellタイプ)が用いられていたが、TAXUS ともに対照群に比して有意に薬剤徐放性ステント群の方 IV以降においては、「より優れている」 とされるopen cell が小さな値を呈している(表 2)。これに関しては、 ては、ベースとなるステントはNIRx ステントが用いられてい CYPHER TM の方が、TAXUS TM よりも若干優れている。 る。ステントデザインの変更は、再狭窄を考えるうえで 2003年度、いち早くFDAに認可されたCYPHER TM およ 非常に大きな要素となる。もともと再狭窄率が軽減され び今後認可される可能性が高いTAXUS TM は、コストの ると考えられるステントデザインを使用していることか 問題がクリアできるならば、急速にその適応は拡大する ら、今後の臨床試験においてコーティングステント群と であろう。ただし、真価は留置後 5 年後ぐらいをみない の有意差がでるのか、open cellタイプになったことで薬 とわからないであろう。また、本稿にては触れなかった 剤が血管壁に触れる面積が少なくならないか、などさま が、血管内放射線治療との有効性の差、併用なども検討 ざまな問題が憂慮されるところである。FDAもその審 されるべき問題であろう。 査に苦慮するかもしれない。本ステントは現在FDAに パクリタキセル徐放性ステントの項で示したように、 申請書類を提出し、審査中とのことである。今後の動向 DELIVER試験およびTAXUS II試験の結果は非常に興味 が注目される。長期的な成績をみてみないと両者の真価 深い。この 2 つのステントは、薬剤の種類および投与量 を評価することは困難であろう。 は同様のものを用いている。しかしながら、DELIVER タイプのTAXUS TM Express 2TM 試験では、薬剤をステントに直接吹き付ける方法をと 臨床試験が行われている他の薬剤コーティン グステント り、TAXUS IIではポリマーに薬剤を含浸させる方法を とっている。つまりデリバリーシステムが薬の有効性と 同様に重要な役割を担っていることが示唆される。この 表 3 に示されるように、いくつかの臨床試験が行われ 13) TM TM ことは、過去の臨床試験にて、薬剤を局所に投与するカ より テーテルを使った大規模臨床試験で無効とされた薬剤で やや遅く始まった試験でありその安全性・効果は確立さ も、投与方法、デリバリーシステムを変えることによっ れていない。今後の報告が待たれる。 て有効性が認められる可能性があるということが推察で ている 。これらは、CYPHER およびTAXUS きる。薬剤の有効性については、以前から動物実験と人 95(445) 日獨医報 第48巻 第 3 号 2003 体での試験に解離が認められることが示唆されている が、その理由としては、種間での薬剤有効性の違いのほ か、局所での有効濃度が維持されているのか、どのくら いの期間薬剤が局所にとどまっているのか、ステントに Circulation 98: 224–233, 1998 4)Duda SH, Poerner TC, Wiesinger B, et al: Drug-eluting stents: potential applications for peripheral arterial occlusive disease. J Vasc Interv Radiol 14: 291–301, 2003 5)Morice MC, Serruys PW, Sousa JE, et al: A randomized よる血管損傷程度はどうか、など再度検討すべき問題を comparison of a sirolimus-eluting stent with a standard stent 含んでいるように思われる。 for coronary revascularization. N Engl J Med 346: 1773– 今後さまざまな「特効薬」と呼ぶべき薬剤が登場する可 能性は十二分に考えられる。しかし、その度に違った投 与方法、違ったコーティング方法を臨床試験で試してい たのでは、膨大な時間が必要とされるし、開発コストも 高くなる。再度、stent-based DDSの詳細な検討・新規 開発、またゴールドスタンダードの確立は非常に重要な 研究課題と考えられる。 将来の展望としては、遺伝子治療薬を含めた新しい薬 1780, 2002 6)Degertekin M, Serruys PW, Foley DP, et al: Persistent inhibition of neointimal hyperplasia after sirolimus-eluting stent implantation: long-term (up to 2 years) clinical, angiographic, and intravascular ultrasound follow-up. Circulation 106: 1610–1613, 2002 7) Bennett MR: In-stent stenosis: pathology and implications for the development of drug eluting stents. Heart 89: 218– 224, 2003 8)Grube E, Silber S, Hauptmann KE, et al: TAXUS I: six- 剤とコーティング技術(生分解性ポリマーや複数薬剤の and twelve-month results from a randomized, double-blind コーティングなど)のコンビネーションなど、さまざま trial on a slow-release paclitaxel-eluting stent for de novo な展望が考慮される。また、再狭窄の完全防止は、臨床 上でも非常にインパクトがあるが、医療経済全体の費用 効果も期待されるであろう。今後の進展が非常に興味深 い分野である。 coronary lesions. Circulation 107: 38–42, 2003 9)Hong MK, Mintz GS, Lee CW, et al: Paclitaxel coating reduces in-stent intimal hyperplasia in human coronary arteries: a serial volumetric intravascular ultrasound analysis from the Asian Paclitaxel-Eluting Stent Clinical Trial (ASPECT). Circulation 107: 517–520, 2003 10)Hofma SH, van Beusekom HM, Serruys PW, et al: Recent 【参考文献】 1)Serruys PW, de Jaegere P, Kiemeneij F, et al: A compari- developments in coated stents. Curr Interv Cardiol Rep 3: 28–36, 2001 son of balloon-expandable-stent implantation with balloon 11)Colombo A, Drzewiecki J, Banning A, et al: Randomized angioplasty in patients with coronary artery disease. study to assess the effectiveness of slow- and moderate- Benestent Study Group. N Engl J Med 331: 489–495, 1994 release polymer-based paclitaxel-eluting stents for coro- 2)Forrester JS, Fishbein M, Helfant R, et al: A paradigm for nary artery lesions. Circulation 108: 788–794, 2003 restenosis based on cell biology: clues for the development 12)Tanabe K, Serruys PW, Grube E, et al: TAXUS III Trial: of new preventive therapies. J Am Coll Cardiol 17: 758– in-stent restenosis treated with stent-based delivery of 769, 1991 paclitaxel incorporated in a slow-release polymer formu- 3)Komatsu R, Ueda M, Naruko T, et al: Neointimal tissue response at sites of coronary stenting in humans: macroscopic, histological, and immunohistochemical analyses. 96(446) lation. Circulation 107: 559–564, 2003 13) Regar E, Sianos G, Serruys PW: Stent development and local drug delivery. Br Med Bull 59: 227–248, 2001
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