Title 熱依存性ゲル化マイトマイシンCの家兎眼濾過手術に対す る効果 1) Mitomycin C dissolved in a reversible thermosetting gel: target tissue concentrations in the rabbit eye 2) 熱依存性ゲ ル化マイトマイシンCの家兎眼濾過手術に対する効果( 内容 の要旨(Summary) ) Author(s) 一圓, 公治 Report No.(Doctoral Degree) 博士(医学)乙 第1223号 Issue Date 1999-11-17 Type 博士論文 Version URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/15051 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 氏 名(本籍) 学位 囲 一 博 の種類 治(滋賀県) 公 士(医学) 学位授与番号 乙第1223 学位壬受与目付 平成11年11月17 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 学位論文題目 熱依存性ゲル化マイトマイシンCの家兎眼濾過手術に対する効果 号 C 1)Mitomycin 日 disso]vedin the COnCentrationsin a reversibIe rabbit thermosetting gel:target tissue eye 2)熟依存性ゲル化マイトマイシンCの家兎眼濾過手術に対する効果 審 査 委 員 (主査)教授 北 澤 克 明 (副査)教授 植 松 俊 彦 論 文 内 容 片 教授 の 要 桐 義 博 旨(1) 近年,線維柱帯切除術などの緑内障濾過手術の眼圧コントロール率向上の目的で線維芽細胞増殖阻害薬であるマイトマイ シンC(以下,MMC)の術中投与が一般化している。しかしながら,MMCは翼状片手術後の補助薬物としての経験から, その過剰投与により,強膜軟化症などの重篤な副作用の発生が知られている。また,現在緑内障術中に行われている投与法 では,MMCがスポンジから放出された後スポンジ内にはMMCは83.2%が残有しており,さらに,その放出量のばらつきの 大きいことが知られてる。こうしたことから,より少ない投与量で,定量性の高いMMC投与法が望まれる。 今回の研究の目的はMMCの投与法を変更することにより定量性の高いMMC投与が可能か否かを検討することである。熱 依存性ゲル化剤にMMCを含有させた製剤を作成し,家兎眼において,眼組織移行量を測定し,従来の投与方法と比較検討 した。この熟依存性ゲル化剤は温度変化でゲルからゾル化する薬剤であり,低温では粘性はごく低く,体温付近の温度で急 速にゲル化する性質を有している。 実験方法 実験動物には体重2kg前後の白色家兎30匹60眼を用いた。ゲル化剤配合MMCを2.2FLg/mi,29FLg/ml,280JLg/mlの3濃度 作成し,これらをただちに氷水上に置き十分ゲル化した後,0.1miを26ゲージ針にて家兎の上耳側の結膜下に注射した。投 与後0.5時間,1時間,2時間,4時間,24時間に注射部の10mmxlOmmの結膜及び強膜を採取し,ただちに-80℃にて冷凍保存 した後,HPLC法により組織中の残留MMC濃度を測定した。各濃度,各時間につき4眼を対象とした。 今回の実験のコントロールとして,当科に以前行ったMMC水溶液を用いた同様の実験のデータを用いた。その際のMMC の投与方法は現在臨床で行われている方法に準じたものであり,結膜切開後MMCを200FLg含有するスポンジ片を5分間留 置した後大量の生理食塩水により洗浄を行った。 結果 ゲル化MMC投与眼における結膜及び強膜濃度は0.5時間をピークとし急速に減少し,いずれも24時間では検出されなかった。 組織内濃度は投与量に依存し2.9FLg投与時の結膜,強膜濃度はコントロールとしたスポンジを用いたMMC200pg投与眼の それとほぼ一致した。 次に組織濃度変化を指数モデルにあてはめ結膜及び強膜の時定数及び半減期計算した。半減期は結膜および強膜のいずれ もコントロールであるMMC水溶液200〟g投与眼とはぼ同等であった。 濃度変化の曲線下面積(AUC)は結膜及び強膜のAUCは0.22FLg投与群ではそれぞれ0.40pg h/g,0.11pg h/g,2.9FLg投与 群ではそれぞれ3.2FLgh/g,0.80JLgh/g,28FLg投与群ではそれぞれ57.OFLgh/g,22.42FLgh/gであった。 考 接 熱依存性ゲル化剤は眼組織に対して毒性が無く,低温では粘性はごく低く,体温付近の温度で急速にゲル化する性質を有 している。そのため,ゲルに含有したMMCは結膜下注射することにより,より長時間結膜下に残存し,MMC含有水溶液を 結膜下注射したときよりも標的組織におけるMMC濃度は高濃度となる。 スポンジを介してのMMC200FLg投与洗浄時では結膜および強膜のAUCはそれぞれ5.18FLg h/g,0.67fLg h/gであり,ゲ ル化剤配合MMC2.9FLg投与群のAUCはそれらの62%および120%となり現在の臨床での投与法とほぼ同等であり,ゲル化 剤で結膜下注射することによりMMCは従来の方法の約70倍の組織移行が認められることとなった。 以上から熱依存性ゲル化剤に融解することでより少量のMMCで標的組織のMMC濃度が得られることが判明した。 論 文 内 容 の 要 旨(2) 論文(1)では,マイトマイシンC(以下MMC)の投与法を改良する目的で,新しく開発された熱依存性ゲル化剤を配合 したMMCの家兎邑鋸こおける眼組織移行量を検討し,熱依存性ゲル化剤を使用することで現在臨床で用いられているMMC の1/70の投与量で現在のスポンジ法とほぼ同程度の組醜濃度が得られ,標的器官への薬物の移行が良好であることが明ら -101- かとなった。 今回の研究の目的は,家兎眼においてこの熱依存性ゲル化MMC(以下ゲル化MMC)の濾過手術に対する効果を眼圧お よび嬉過胞形状の観察することにより検討することである。 実験方法 実験動物として体重2kg前後の白色家兎を用いた。対象を6群に分類し,ゲル化MMC群を3群に,各々0.3iLg,3.O pg, 30pgを投与した。また,他の3群はMMCを含まないゲル化剤群,MMC30pg含有水溶液群,および無処置群とした。各 群とも6匹12眼,総計36匹72眼を対象とした。 ゲル化MMC群ではゲル化MMCを氷水上で水溶液とした後,0.1mlを30G針で家兎の上耳側の結膜下に注射した。24時 間後に結膜下注射した部位に管錐術を施行した。MMCを含まないゲル化剤群では同様に,ゲル化剤0.1mlを結膜下庄射し, また,MMC30JJg含有水溶液群ではMMC水溶液0.1mlを結膜下注射した後24時間後に手術を行った。無処置群では,術 前の結膜下注射は行わなかった。 術軌術後1i乳2週,4週に眼圧測定,前眼部撮影,超音波生体顕微鏡(ultrasound biomicrography,以下,UBM)によ る濾過胞の観察を行い,濾過胞の高さはUBM画像で測定し,各群の術前眼圧(対照)と術後眼圧,および,各過の無処置 群(対照)と薬剤処置群の濾過胞の高さを比較検討した。 結 果 MMC処置群では他群に比較してより術後胞状で血管に乏しい濾過胞が観察され,ゲル化MMC処置群では3.OFLg投与群, 30pg投与群およびMMC30FLg含有水溶液群において術前と比較して4週まで有意に眼圧は下降した。また,0.3 群,ゲル基剤群および無処置群では眼圧下降は認められなかった。嬉過胞の高さはゲル化MMC処置群は3.O FLg投与 fLg投与群,30 〃g投与群において無処置群と比較して2週まで有意に高い濾過胞が存在していた。0.3/上g投与群では濾過胞は2週以降存 在しなかった。無処置群の濾過胞は前眼部の観察およびUBMの画像上も経過中はとんど存在しなかった。 考 接 今回の研究ではすでに有効性の確認されているMMCを利用し,安全性と定量性の向上をめざして濾過手術予定部位に術 前にMMCを投与する方法を試みた。また,より標的部位すなわち濾過手術予定部位だけにMMCを投与するために勲依存 性ゲル化剤をMMCの担体として用いた。 論文(1)においてゲル化MMCは1/70の投与量で現在のスポンジ法とほぼ同程度の組織濃度が得られ,標的器官への薬 物の移行が良好であることが明らかとなった。今回用いたMMCは0.3′J臥3.0〟g,30〟gの3種類で,これは論文(1)と ばば同量のMMCを使用しており,3.O FLg,30FLgの投与量で従来のスポンジによる投与法と同程度の効果があったためで ある。 今回の実験ではUBMにより濾過胞の存在の定量的な観察を行い,その結果,ゲル化MMC処置群では3.O FLg投与群, 30 〃g投与群ともに無処置群に比較して長期間濾過胞は高く存在することが確認された。また,これらの群は術後有意に眼 圧は下降した。このことから,熱依存性ゲル化剤を担体とするMMC投与法は従来の投与法と同等の濾過効果を得ることが でき,かつ熱依存性ゲル化剤を用いることによりMMCの総投与量を減少させる可能性があると考えられた。 今回の実験ではMMC30FLg含有水溶液群においても,ゲル化MMC3.O FLgと30FLg投与群と同様に眼圧下降および濾過 胞の形成が良好であった。しかしながら,水溶液の結膜下注射はゲルに比較して結膜下に広範囲に広がるため標的部位以外 にもMMCが作用する可能性がある。論文(1)でゲル化MMC2.9FLg投与群がMMC20fLg投与群の結膜下注射よりも初 期濃度が同等であるにもかかわらず0.5時間と24時間の問のArea under the curveが高いことから,MMC結膜下注射が広 範囲に広がっていることが示唆される。また,MMCの家兎毛様体への細胞毒性は,MMC投与直下の毛様体色素上皮の病 理学的変化は対側に比し投与側に強く,濃度依存性であったと報告がり,これらのことからMMCの眼内毒性を考慮すると より狭い範囲に作用するゲル化剤がより適切であると思われる。 線維芽細胞増殖阻害薬を併用した緑内障濾過手術では,術後その濾過胞は乏血管性の壁の薄い濾過胞が生じることが多い が,今回の実験のように術前に線維芽細胞増殖阻害薬を投与しても濾過胞の性状はほぼ同等であることが明らかになった。 近年線維芽細胞増殖阻害薬を併用して緑内障濾過手術後晩期感染症の発生の危惧も示唆されており,線椎芽細胞増殖阻害薬 の眼組織への安全性をさらに確立しなければならないが,今回示したようにその投与量の減少により安全性を高めることが できると期待される。以上から熱依存性ゲル化剤配合MMCはMMCの新しい投与法として検討するに値すると思われる。 論文審査の結果の要旨 申請者一囲公治はt緑内障濾過手術における熱依存性ゲル化剤配合マイトマイシンCの有用性について検討した。その結 果,熱依存性ゲル化剤を利用することによりマイトマイシンCの投与量を減少させ限組織への安全性を高めることができる ことを明らかにした。 本研究の成果は,緑内障治療とくに緑内障濾過手術の進歩に寄与するところ大であると認められる。 [主論文公表誌] 1)Mitomycin i997年 CdissoIvedin BritishJournalof thermosetting gel:target areversible Ophthalmology 81(1):72∼75 2)熱依存性ゲル化マイトマイシンCの家兎眼濾過手術に対する効果 1999年 日本眼科学会雑誌103(4):277∼281 -102- tissueconcentrationsin therabbit eye
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