糸球体腎炎におけるβ1インテグリンの発現の変化の検討

岡 山 医 誌(1995)
107,
195∼204
糸球 体 腎 炎 にお け るβ1インテ グ リンの発 現 の変 化 の検 討
岡 山 大 学 医 学 部 第 三 内 科 学 教 室(指
柏
谷
忠
words:
緒
β1イン テ グ リ ン,フ
受 稿)
ィ ブ ロ ネ クチ ン, IgA腎
症,膜
性 腎症
合 体 が 沈 着 す る 機 序 に,フ
言
ィ ブ ロ ネ ク チ ン と β1
イ ンテ グ リンの結合 が関 与す る可能性 が 示唆 さ
イ ン テ グ リン は 細 胞 膜 上 に 発 現 し,コ
ンや ラ ミニ ン,フ
田善 介 教 授)
俊
(平成7年3月20日
Key
導:太
ラー ゲ
れ て い る が,直
ィブ ロ ネ クチ ン な どの 細 胞 外
IgA腎
マ トリ ッ ク ス分 子 と結 合 す る こ とに よ り細 胞 と
30∼40%を
細 胞 外 基 質 の 接 着 に 関 与 す る受 容 体 で あ る1)2).
IgAを
接 的 な証 明 は な さ れ て い な い.
症 は,本
占 め,糸
邦 で は原 発 性 糸 球 体 腎 炎 の
球 体 メサ ン ギ ウ ム 領 域 へ の
主 体 と す る免 疫 複 合 体 の 沈 着 と,メ サ ン
イ ン テ グ リ ン は α鎖 と β鎖 に よ っ て構 成 され る
ギ ウ ム 細 胞 の 増 殖,メ
ヘ テ ロ ダ イマ ー で あ り,共 通 す る β鎖 に よ っ て
特 徴 とす る疾 患 で あ る.一
数 種 の サ ブ フ ァ ミ リー に 分 類 さ れ る2)-9). β1イ
係 蹄 壁 へ の 免 疫 複 合 体 の 沈 着 と糸 球 体 基 底 膜 の
ン テ グ リ ンは コ ラ ー ゲ ン,ラ
肥 厚 を特 徴 とす る疾 患 で あ り,メ サ ン ギ ウ ム 細
ミニ ン,フ
ィブ ロ
サ ンギ ウム基 質の 増加 を
方膜性 腎症 は 糸球体
ネ クチ ン 等 を リガ ン ドと し,広 範 な 細 胞 に 分 布
胞 の 増 殖 お よ び 基 質 の 増 加 は 認 め ら れ な い.糸
して い る.イ
球 体 腎 炎 の 進 展 過 程 に お け る イ ン テ グ リ ンの 役
ン テ グ リ ン は 発 見 当 初 は 細 胞 と細
胞 外 基 質 の 接 着 を 仲 介 す る こ とに よ り,組 織 の
割 を 明 らか に す る 目的 で,病 態 の 異 な るIgA腎
構 築 に 関 与 す る静 的 な 機 能 を持 つ と考 え ら れ て
症 及 び 膜 性 腎 症 患 者 の 腎 生 検 組 織 に お け る β1イ
い た が,そ
ン テ グ リ ンの 発 現 の 変 化 を,そ
の 後 の 研 究 に よ り,リ ガ ン ド と結 合
の リ ガ ン ドの ひ
す る こ とに よ り細 胞 内 情 報 伝 達 経 路 を 介 して 細
とつ で あ る フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 局 在 と と も に,
胞 の 遊 走 や 貪 食 等 の 機 能 を誘 導 す る こ とが 明 ら
間接 蛍光 抗体 法 お よび免疫 電子 顕微 鏡 を用 いて
か に さ れ た10)11).
比 較 検 討 を お こ な っ た.
腎 糸 球 体 は メサ ン ギ ウ ム 細 胞,糸
胞,内
球体 上 皮細
材 料
皮 細 胞 及 び ボ ウ マ ン嚢 上 皮 細 胞 か らな る
細 胞 成 分 と,糸 球 体 基 底 膜,メ
1.
サ ンギ ウム基質
対象
1988年4月
及 び ボ ウ マ ン 嚢 基 底 膜 か ら な る細 胞 外 基 質 に よ
と 方 法
よ り1993年3月
まで の5年
間に岡
っ て 構 成 さ れ て い る.糸 球 体 の 細 胞 外 基 質 は Ⅳ
山 大 学 医 学 部 第三 内科 学 教 室 お よ び 関 連 病 院 に
型 コ ラー ゲ ン,ラ
お い て 腎 生 検 を 施 行 したIgA腎
ミニ ン,フ
ィ ブ ロ ネ ク チ ン,
プ ロ テ オ グ リカ ン等 に よ っ て構 成 さ れ て お り,
組 織,膜
性 腎 症 患 者9例
細 胞 は こ れ らの 基 質 分 子 と結 合 して 存 在 して い
た 対 照 と して,
る.糸 球 体 腎 炎 に お い て は,糸
腎 の 正 常 部 分 を 用 い た.全
合 体 の 沈 着,メ
球体 へ の免疫 複
サ ンギ ウム細 胞の 増殖 と ともに
症 患 者22例 の 腎
の 腎 組 織 を用 い た.ま
5例 の 腎 ・尿 管 腫 瘍 に よ る 摘 出
例 蛍光 抗体 法 に よ る
観 察 を お こ な い,こ の う ちIgA腎
症5例,膜
腎症3例,対
近 年IgA腎
つ い て は 免 疫 電 子 顕 微 鏡 に て 観 察 をお こ な っ た.
症 患 者 の 血 中 免 疫 複 合 体 内 に, IgA
照 と して の 正 常 ヒ ト腎 組 織4例
性
基 質 の 増 加 が お こ る こ とが 知 られ て い る.ま た,
とフ ィ ブ ロ ネ クチ ン の 複 合 体 が 存 在 す る こ と が
な お,こ れ ら の 腎 組 織 の 組 織 学 的 診 断 は, HE染
報 告 さ れ12), IgA腎
色 ・PAS染
症 にお いて糸球 体 に免疫 複
195
色 ・PAM染
色 ・Masson染
に
色 を用 い
196 柏
谷
た 光 学 顕 微 鏡,電
子 顕 微 鏡 に よ る観 察 及 び ヒ ト
IgG,
Clq,
IgA,
IgM,
C3,フ
ィ ブ リ ノー ゲ ン
忠
俊
表 IgA腎 症 と膜 性 腎症 患者 の 糸球 体 内の 抗 フ ィブ
ロネ クチ ン抗 体 及 び抗 β1イン テ グ リン抗 体 に よ
る蛍 光 染 色 強 度
に 対 す る ウ サ ギ ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体(Cappel
Research
Products.
Durham,
USA)を
用いた
蛍 光 抗 体 法 に よ りお こ な っ た。
2.
間接 蛍光 抗体 法
腎 組 織 を採 取 し た 後 に 直 ち に ドラ イ ア イ ス ー
ア セ トン で 冷 却 したn-ヘ
キサ ン に よ っ て 急 速 凍
結 し,ク リオ ス タ ッ トを用 い て4μmの
を 作 製 し た.凍
凍 結 切片
+:
弱陽性
++:
中等 度 陽 性
ン 抗 体(Telios
そ し て リン 酸 緩 衝 液 に て5分
ブ ロ ネ ク チ ン 抗 体(Advence
し, FITC標
間 ず つ 計3回
識 抗 ウ サ ギIgG抗
Products.)に
せ た 後,リ
洗浄
Japan)を,二
体(Cappel
て 室 温 で30分 間 反 応 さ
ン酸 緩 衝 液 に て5分
間 ず つ 計3回
浄 し,蛍 光 顕 微 鏡(Olympus,
Tokyo,
洗
弱 陽 性(+),中
3.
等 度 陽 性(++),強
体(Amersham
shire,
15nm金
UK),
酸 緩 衝 液(pH
定 し,エ
K4M
1.
-20℃
取 直 後 に0.05%グ
ル ター ル ア ル
ラ ホ ル ム ア ル デ ヒ ドを含 む リ ン
7.4)に
よ っ て4℃
(Chemische
Waldkraiburg,
に て30分 間 固
Werke
FRG)に
に て24時 間 ,続
な っ た.ブ
CA,
Tokyo,
識 ヤ ギ抗
Buckingham
コ ロ イ ド標 識 ヤ ギ 抗 ウ サ
体(Amersham
Co.)を
用 い た.
果
正常 腎組 織
間 接 蛍 光 抗 体 法 に よ る 検 討 で は,正
Lowi
GmbH.
常 腎糸球
体 で は, β1イ ン テ グ リン は,メ サ ン ギ ウ ム 領 域,
糸 球 体 係 蹄 壁,お
れ た.強
よ び ボ ウマ ン 嚢 上 皮 に 染 色 さ
拡 大 で観 察 す る と,糸 球 体 係 蹄 壁 が 二
重 線 状 に 観 察 さ れ た.ま
タ ノー ル 系 列 で 脱 水 し た後Lowicryl
resin
Co.,
結
免疫 電 子顕微 鏡
腎 組 織 を,採
サ ギ抗 フ ィ
Co.,
陽 性(+++)
階 に 評 価 した.
デ ヒ ド,0.1%パ
USA),ウ
次 抗 体 と し てFITC標
ウ サ ギIgG抗
ギIgG抗
Japan)
Co., CA,
に て 観 察 を行 っ た.糸 球 体 内 の 蛍 光 染 色 強 度 を,
の3段
強陽性
結 切 片 を 風 乾 後 リン 酸 緩 衝 液 に
て 洗 浄 し,一 次 抗 体 に て 室 温 で30分 間 反 応 さ せ,
Research
+++:
た フ ィ ブ ロ ネ クチ ン は
主 に メ サ ン ギ ウ ム 領 域 に 染 色 さ れ,係
包 埋 し,紫 外 線 重 合 を
蹄 壁,ボ
ウ マ ン嚢 に も弱 く染 色 さ れ た(表,図1a,
b).
い て 常 温 に て24時 間 お こ
免 疫 電 顕 に よ る検 討 で は, β1イ ン テ グ リン の
ロ ッ ク を ウ ル トラ マ イ ク ロ トー ム を
発 現 を 示 す 金 コ ロ イ ド粒 子 は 糸 球 体 上 皮 細 胞 お
用 い て60nmの
厚 さに 薄 切 して 切 片 を作 製 した.
よ び 内 皮 細 胞 の 基 底 膜 面 お よ び メサ ン ギ ウ ム 細
こ の 切 片 を一 次 抗 体 の 非 特 異 的 反 応 を防 ぐた め,
胞 膜 表 面 に観 察 さ れ た(図2a).フ
前 もっ て0.25%
bovine
チ ン は 主 に メサ ンギ ウ ム基 質 内 に 観 察 さ れ た(図
を含 む0.01Mト
リス 緩 衝 液(TBS,
serum
albumin
(BSA)
2b).
pH 8.2)に
30分 間 反 応 させ た 後 に,一 次 抗 体 に 室 温 に て4
時 間 反 応 させ, 0.1%BSAを
8.2)を 用 い て5分
nm金
加 え たTBS
間 ず つ 計3回
(pH
洗 浄 し,次 に15
コ ロ イ ド標 識 抗 ウ サ ギIgG抗
体 に4時
間
反 応 させ た 後,さ らに0.1%
BSA添
8.2)に て5分
洗 浄 し, 24時 間 常 温
間 ず つ 計3回
加TBS
に て 乾 燥 させ た 後,酢 酸 ウ ラ ニ ー ル に て2分
クエ ン酸 鉛 に て1分
(pH
間,
間 二重染 色 を行 い透過 電 子
顕 微 鏡(日 立H 300)に
よ り75KVで
ィブ ロネ ク
観 察 をお こ
な っ た13).
な お,一 次 抗 体 と し て ウ サ ギ 抗 β1イ ン テ グ リ
2.
IgA腎 症
間 接 蛍 光 抗 体 法 で は, β1イ ン テ グ リ ン は,メ
サ ン ギ ウ ム 領 域,糸
球体 係 蹄壁 お よびボ ウマ ン
嚢 上 皮 に 染 色 され,正
常 糸 球 体 に 比 べ て,拡
大
し た メサ ン ギ ウ ム領 域 に 蛍 光 が 強 く観 察 され た.
フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン は 拡 大 した メサ ン ギ ウ ム 領 域
に 正 常 糸 球 体 に 比 し て 強 く染 色 さ れ た(表,図
1c,
d).な
おIgA腎
ギ ウ ム 領 域 にIgA(図1e)お
症 で は 拡 大 し た メサ ン
よ びC3(図1f)
が 強 く染 色 さ れ て い る.
透 過 型 電 顕 に よ る観 察 で はIgA腎
症 では増 加
β1イ ン テ グ リン お よ び フ ィ ブ ロ ネ ク チ ンの 局 在 し た メ サ ン ギ ウ ム 基 質 内 にelectron
deposit
(EDD)を
お り, electron dense deposit
dense
認 め た(図3).
部 分 に も局 在 して い た.ま
免 疫 電 顕 で は, β1イ ン テ グ リ ン は メサ ン ギ ウ
正 常 腎 お よ びIgA腎
C3の
局 在(間
(a):正
接す る
フ ィブ ロネ クチ ン は拡 大 し た メサ ン ギ ウ ム 基 質
症 に お け る β1イ ン テ グ リ ン,フ
ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 局 在 とIgA腎
症 に お け るIgA,
接 蛍 光 抗 体 法)
常 腎 糸 球 体 で は, β1イ ン テ グ リ ン は,メ
察 さ れ る.
(EDD)と
た上皮 細 胞お よ び内
皮 細 胞 の 基 底 膜 面 に も存 在 して い た(図4a).
ム 細 胞 表 面 に 正 常 糸球 体 に 比 べ て 多 く発 現 して
図1 197
(×400).
(b):正
ボ ウ マ ン 嚢 に 観 察 さ れ る.
サ ン ギ ウ ム 領 域(矢
印),糸
球 体 係 蹄 壁(小
常 腎 糸 球 体 で は フ ィブ ロ ネ ク チ ン は メ サ ン ギ ウ ム 領 域(矢
(×400).
(c):
IgA腎
症 で は β1イ ン テ グ リ ン は,メ
矢 印)に
印),係
観
蹄 壁,
サ ン ギ ウ ム 領 域,糸
球 体 係 蹄 壁 お よ び ボ ウ マ ン 嚢 上 皮 に 観 察 さ れ,正 常 糸 球 体 と 比 較 し て メサ ン ギ ウ ム 領 域 の 染 色 が 増 強 し て
い る(矢
印),
(×400).
(d):
ギ ウ ム 領 域 に 強 く 染 色 さ れ る.
着 を 認 め る. (×400).
(f):
IgA腎
(×400).
IgA腎
症 で は フ ィブ ロ ネ クチ ン は 正 常 糸 球 体 と比 べ て 拡 大 し た メ サ ン
(e):
IgA腎
症 で は 拡 大 し た メ サ ン ギ ウ ム 領 域 にIgAの
症 で は 拡 大 し た メ サ ン ギ ウ ム 領 域 にC3の
沈
沈 着 を 認 め る. (×400).
198 図2 柏
谷
忠
俊
金 コ ロ イ ド粒 子 を用 い た 免 疫 電 子 顕 微 鏡 で の 正 常 腎 に お け る β1イ ン テ グ リ ン,フ
(a):正
常 腎 組 織 で は β1イ ン テ グ リ ン が 主 と し て 糸 球 体 上 皮 細 胞,内
ィブ ロネ クチ ンの 局 在
皮細 胞の 基 底 膜 面 お よ び メサ ンギ
ウ ム 細 胞 表 面 に 観 察 さ れ る(矢 印) .
(b):正
常 腎組 織 で は フ ィブ ロネ クチ ンは 主 と して メサ ン ギ ウム
MC:ノ
サ ン ギ ウ ム 細 胞, MM:メ
サ ン ギ ウ ム 基 質, Ep:上
皮細胞.
基 質 内 に 観 察 さ れ る.
β1イ ン テ グ リ ン お よ び フ ィ ブ ロ ネ クチ ン の 局 在 お よ び メ サ ン ギ ウ ム 基 質 内 のEDD内
に も局 在
199
あ る細 胞 外 基 質 の 情 報 を細 胞 内 部 へ 伝 達 す る機
が 認 め ら れ た(図4b).
能 を も っ て い る14). β1イン テ グ リンはVLA
3.
late antigen)と
膜性 腎症
蛍 光 抗 体 法 で は, β1イ ン テ グ リ ン は メサ ン ギ
ン,フ
も 呼 ば れ,コ
ラ ー ゲ ン,ラ
(very
ミニ
ィ ブ ロ ネ ク チ ン 等 の 細 胞 外 基 質 を リガ ン
ウム 領 域,係
蹄 壁,ボ
ウマ ン嚢 上皮 細胞 に 存在
ドとす る.腎 組 織 に お け る イ ン テ グ リン の 発 現
し て い た.フ
ィ ブ ロ ネ クチ ン は 正 常 腎 と同 様 に
に 関 して は,こ れ ま で に い くつ か の 報 告 が あ る.
主 に メサ ン ギ ウ ム 領 域 に 存 在 し て い た.正
球 体 と比 較 して,両
常糸
Kerjaschkiら
者の 蛍光 染 色強 度 には変 化
皮 細 胞,内
皮 細 胞,メ
サ ン ギ ウ ム 細 胞,ボ
ウマ
ン嚢 上 皮 細 胞 に 存 在 す る こ とを 報 告 した15). Kor
免 疫 電 顕 で は β1イ ン テ グ リ ンは メサ ン ギ ウ ム
皮細 胞 お よび 内皮 細胞 の基 底 膜面
に 存 在 して い た.フ
トの 腎 組 織 を用 い た 免 疫 組
織 学 的 検 討 に よ り, β1イ ン テ グ リ ン が 糸 球 体 上
は認 め られ な か っ た(表).
細 胞 表 面,上
は,ヒ
honenら
ィ ブ ロ ネ クチ ン は 正 常 腎 と
は さ らに 詳 細 に 検 討 し, VLA-1
β1)が メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 に, VLA-3
(α1
(α3β1)が
同様 に メサ ン ギ ウ ム 基 質 に 存 在 し て い た が,上
糸 球 体 上 皮 細 胞,ボ
皮 下 のEDD内
面 に, αVβ3イ ン テ グ リン が 糸 球 体 上 皮 細 胞,内
に は 局 在 が 認 め ら れ な か っ た.
考
皮 細 胞,メ
察
ウマ ン嚢 上 皮 細 胞 の 基 底 膜
サ ン ギ ウ ム 細 胞,ボ
ウマ ン嚢上 皮細
胞 に 発 現 して い る こ と を報 告 した16)17).槇野 らは,
イ ン テ グ リ ン は 細 胞 膜 貫 通 蛋 白 で あ り,細 胞
正 常 ヒ ト糸 球 体 に お け る β1イン テ グ リン の 発 現
内 の テ イ リン,ビ ン キ ュ リン, α ア クチ ニ ン な ど
を蛍 光 抗 体 法 を用 い て 検 討 し,ほ ぼ 同様 の 結 果
の物 質 を介 して 細 胞 骨 格 に 結 合 して お り,組 織
を報 告 して い る18)19).今回 の 免 疫 電 顕 に よ る検 討
構 築 に 重 要 な 役 割 を 果 た す と と もに 細 胞 表 面 に
の 結 果,正
図3 IgA腎
症 患 者 の 糸球 体 の電 子 顕微 鏡 像
IgA腎
症 で は メ サ ン ギ ウ ム 基 質 内 にelectron
上 皮 細 胞,
Ed:内
皮 細 胞,
US:尿
路 腔,
dense
CL:血
depositを
管 内 腔,
D:
常 ヒ ト腎 組 織 で は 糸 球 体 の メサ ン ギ
認 め る.
electron
MC:メ
dense
サ ン ギ ウ ム 細 胞, Ep:
deposit.
200 図4 柏
谷
忠
俊
金 コ ロ イ ド粒 子 を 用 い た 免 疫 電 子 顕 微 鏡 で のIgA腎
症 に お け る β1イ ン テ グ リ ン,フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 局 在
(a):
IgA腎
症 で は β1イ ン テ グ リン は メサ ンギ ウ ム 細 胞 表 面 に 正 常 糸 球 体 に 比 べ て 多 く発 現 し, electron dense
depositと 接 す る部 分 に 局 在 して い る(矢 印) .
(b):
IgA腎 症 で は フ ィ ブ ロ ネ クチ ンは 拡 大 し た メサ ン ギ
ウ ム 基 質 お よ び メ サ ン ギ ウ ム 基 質 内 のelectron
dense deposit内
部 に局在 が 認め られ る.
MC:メ
サンギ
ウ ム 細 胞,
MM:メ
サ ン ギ ウ ム 基 質.
Ep:上
皮 細 胞,
GBM:糸
球 体 基 底 膜,
D:
electron
dense
deposit .
β1イ ン テ グ リン お よ び フ ィ ブ ロ ネ クチ ン の 局 在 ウ ム 細 胞,糸
球 体 上 皮 細 胞,内
皮 細胞 及 び ボウ
201
ン の 発 現 に 変 化 は 認 め られ な か っ た.免
疫電 顕
マ ン嚢 上 皮 細 胞 の 細 胞 膜 の 細 胞 外 基 質 に 接 す る
に よ っ て も β1イ ン テ グ リン の 発 現 の 変 化 は 認 め
部 位 に β1イ ン テ グ リ ン の 発 現 が 認 め ら れ,こ れ
られ ず,上
らの 細 胞 に 発 現 す る イ ン テ グ リン は 組 織 中 に お
ィ ブ ロ ネ クチ ン の 存 在 は 認 め な か っ た.ま
い て細 胞 外 基 質 と結 合 して い る と考 え ら れ た .
こ れ ま で の 報 告 で も膜 性 腎 症 の 免 疫 複 合 体 内 に
IgA腎
症 患 者 の 糸 球 体 に は,メ
サ ン ギウム領
皮 下 に 沈 着 した 免 疫 複 合 体 内 に は フ
た,
細 胞 外 基 質 成 分 が 含 まれ て い る とい う報 告 は な
域へ の免 疫複 合体 の沈 着 とメサ ン ギウム細 胞の
い.従
増 殖 お よ び メ サ ン ギ ウ ム 基 質 の 増 加 が 認 め られ
着 に β1イ ン テ グ リンが 関 与 す る可 能 性 は 少 な い
る.今
と考 え られ た.
回 の 検 討 の 結 果, IgA腎
症 患者 の糸球 体
って,膜
性 腎症 に お け る免 疫 複 合 体 の 沈
で は メサ ン ギ ウ ム 細 胞 に お け る β1イン テ グ リン
の 発 現 の 増 加 を認 め,免
結
疫 電 顕 に よ り,免 疫 複
合 体 と接 す る メサ ン ギ ウ ム 細 胞 の 細 胞 膜 表 面 に
IgA腎
論
症 と膜 性 腎 症 の 発 症,進
展 にお け る イ
β1イ ン テ グ リン が 発 現 して い る こ とが 確 認 され
ン テ グ リン の 役 割 を明 らか に す るた め に β1イ ン
た.最
テ グ リン と そ の リガ ン ドで あ る フ ィ ブ ロ ネ クチ
近IgA腎
症 患 者 の 血 液 中 にIgAと
フィ
プ ロ ネ クチ ン の 複 合 体 が 存 在 す る こ と が 報 告 さ
ンの 発 現 を 間 接 蛍 光 抗 体 法 お よ び 免 疫 電 子 顕 微
れ て い る12).ま たBarnesら
鏡 に て 検 討 した. β1イ ン テ グ リン は 正 常 糸球 体
は, in vitroに
お
い て培 養 メサ ン ギ ウ ム 細 胞 が 血 小 板 由 来 の フ ィ
で は メサ ン ギ ウ ム 細 胞,糸
グ ロ ネ クチ ン に 反 応 して 遊 走 し,合 成RGDペ
細 胞,そ
プ チ ドを 用 い て イ ン テ グ リ ン とフ ィ ブ ロ ネ ク チ
さ れ た.メ
ンの 結 合 を 阻 害 す る こ と に よ り,こ の 遊 走 が 阻
を 示 すIgA腎
止 さ れ る こ と を示 した20).ま たCosioら
ロ ネ クチ ンは メサ ン ギ ウ ム 基 質 に 発 現 が 増 加 し,
は,培
養 メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 が フ ィ ブ ロ ネ クチ ン を コー
球 体 上 皮 細 胞,内
皮
して ボ ウマ ン嚢 上 皮 細 胞 の 表 面 に観 察
ま たEDD周
サ ン ギ ウ ム 細 胞 の 増 殖 と基 質 の 増 加
症 で は β1イ ン テ グ リン と フ ィ ブ
囲 に β1イ ン テ グ リ ン の 局 在 が み ら
ト した ビ ー ズ を α5β1イン テ グ リン を介 して 貪 食
れ た.膜
す る こ と を 示 した21).こ れ ら のin vitroに お け
異 は み られ な か っ た.以 上 の結 果 よ り β1イ ン テ
る結 果 と,今 回 の 我 々 の 結 果 か ら, IgA-フ
グ リン は 糸 球 体 の 構 築 を維 持 す る役 割 を 果 た す
ィブ
性 腎 症 で は 正 常 腎 と比 較 して 局 在 に 差
ロ ネ クチ ン 複 合 体 が メサ ンギ ウム 細 胞 の β1イン
と と も に, IgA腎
テ グ リ ン を 介 して メサ ン ギ ウ ム 細 胞 と結 合 して
メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 の 増 殖,基
糸 球 体 の メ サ ン ギ ウ ム 領 域 に 沈 着 す る こ とが 示
役 割 を果 た して い る こ とが 示 唆 さ れ た.
症 に お け る免 疫 複 合 体 の 沈 着,
質 の増加 に 重要 な
唆 され た.ま た 沈 着 した フ ィ ブ ロネ クチ ン と β1
イ ン テ グ リ ンの 結 合 に よ っ て,メ
胞 の 遊 走 が 促 進 さ れ,メ
サ ンギ ウム細
サ ン ギウム細 胞に よ る
免 疫 複 合 体 の 貪 食 が お こ る可 能 性 が 示 さ れ た.
膜 性 腎 症 は 糸 球 体 上 皮 細 胞 と基 底 膜 の 間 へ の
免 疫 複 合 体 の 沈 着 を特 徴 とす る疾 患 で あ り,IgA
腎 症 に 見 られ る よ う な メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 増 殖 や
基 質 の 増 加 は 認 め ら れ な い.膜
性 腎症患 者の 糸
球 体 で は,正 常 糸 球 体 に 比 較 し て β1イ ン テ グ リ
文
1) Hynes RO: Integrins:
導,御 校 閲 を賜 りま した恩 師 太 田善 介教 授 に 深甚 の
謝 意 を捧 げ ます と共 に,終 始 懇切 な御指 導,御 鞭 撻
を頂 き ま した槇 野博 史助 教 授,四 方 賢一 講 師 に深 謝
致 します.
なお 本論 文 の 要 旨 は第34回 日本 腎 臓学 会 総 会(岡
山)お よ び第35回 日 本腎 臓学 会 総 会(横 浜)に て 発
表 した.
献
A family of cell surface receptors.
2) Ruoslahti E and Pierschbacher
(1987) 238, 491-497.
最 後 に 稿 を終 え るに あ た り,本 研 究 に 際 して御 指
Cell (1987) 48, 549-554.
MD: New perspectives in cell adhesion:
RGD and integrins.
Science
202 3)
柏
Helmer
ME,
cell
(1987)
4)
Kramer
5)
Staatz
and
Chem
and
use
8)
in
105,
Lanquino
9)
human
R,
with
a
Carter
family:
Characterization
molecular
collagen
WG
weight
of
five
β subunit.
receptor
and
Santoro
on
SA:
adhesion
of
cells
Wayner
laminin
multiple
processing
360,
J
distinct
Biol
Chem
human
melanoma
cells.
J
of
The
membrane
platelets
to
glycoprotein
collagen.
J Cell
Biol
cell
unique
adhesion
α and
receptors
common
for
collagen
β subunits.
and
J Cell
Biol
HD,
JL,
E:
of
WT
a
Engvall
E
Biol
(1989)
109,
F:
Laminin
and
Ruoslahti
E:
Endothelial
cells
2455-2462.
receptor
Allen
and
on
platelets
isolation
receptor.
Yamada
in cell
109,
Identification
fibronectin
and
Roles
mediates
J Cell
Ruoslahti
Chen
(1989)
Goodwin
WG,
Hogervorst
expected
SS,
antibodies:
family
and
and
properties
Biol
Carter
in
the
integrin
487-489.
MD
J Cell
E,
receptor.
PW
Yamada
monoclonal
receptor
KR,
(1988)
SK,
Gresham
integrin
Identification
Modderman
organization.
11)
protein
130,000
Mg++-dependent
fibrosarcoma
Pierschbacher
Akiyama
EA,
the
WG:
as
A,
Nature
with
Wayner
Gehlsen
glycoprotein
10)
of
mediates
Carter
α2 β1 integrins
Sonennberg
Pytela
Identification
VLA
1873-1884.
LR,
VLA-6.
The
common
1917-1924.
EA
fibronectin
7)
with
俊
4686-4688.
SM,
complex
108,
(1987)
L:
a
N:
264,
Rajpara
(VLA-2)
(1989)
Schwartz
each
Marks
(1989)
W,
Wayner
and
忠
3300-3309.
RH
Ia-IIa
C
heterodimers
262,
Biol
6)
Huang
surface
谷
KM:
adhesion,
Cell
Analysis
migration.
of
a
(1985)
140Kd
40,
of
fibronectin
matrix
assembly
cell
surface
191-198.
receptor
and
function
cytoskeletal
863-875.
PM,
Anderson
DC
Arg-Gly-Asp-stimulated
and
Brown
neutrophil
EJ:
A
novel
phagocytosis.
member
J Cell
the
Biol
integrin
(1989)
108,
1935-1943.
12)
Cederpholm
in
13)
BO,
patients
Makino
Wieslander
with
H,
14)
15)
17)
Circulating
Proc
Haramoto
T,
Versatility,
Acad
Shikata
matrices
microscopy.
complexes
Natl
K,
Invest
modulation,
USA
K,
signaling
in
and
68,
85,
Ota
nephropathy
(1993)
IgA
(1988)
Hironaka
in diabetic
Lab
containing
Sci
Z
and
fibronectin
4865-4870.
and
revealed
Yashpal
by
high
SK:
resolution
45-55.
cell
adhesion.
Cell
A,
Hillemanns
P
(1992)
69,
11
.
Kerjaschi
A
16)
Integrins:
G:
extracellular
immunoelectron
RO:
-25
of
Bygren
nephropathy.
Y,
changes
and
Hynes
IgA
Yamasaki
Ultrastructural
scanning
J and
primary
D,
Ojha
β1-integrin
for
Ylanne
J,
M,
and
kidney.
adult
cally
M,
Susani
recepter
Korhonen
Korhonen
PP,
Horvat
fibronectin
Laitinen
Lab
Invest
Ylanne
expressed
M,
J,
Binder
in human
L
and
(1990)
Laitinen
in distinct
R,
segments
kidney
Virtanen
62,
L
S,
Hovorka
glomeruli.
I:
Distribution
Am
of
J Pathol
β1 and
and
(1989)
Pytela
134,
β3 integrins
R:
481-489
in human
.
fetal
616-625.
and
Virtanen
I:
of developing
The
and
α1-6 subunit
adult
human
of
integrins
nephron.
are
J Cell
characteristi
Biol
(1990)
111,
1245-1254.
18)
Makino
H,
vitronectin
19)
20)
Makino
H,
in the
renal
Barnes
J
products.
Shikata
receptor
Shikata
K,
K,
Am
Hevey
J Pathol
Jpn
KA:
S,
Wada
glomerulus.
Morioka
glomerulus.
and
Morioka
in the
S,
J Nephrol
Glomerular
(1991)
138,
J
and
Connect
Wada
J and
(1993)
mesangial
859-866.
Ota
Z:
Tissue
Ota
35,
Localization
(1992)
Z:
23,
Expression
of
fibronectin
receptor
and
71-76.
of
the
VLA
family
of
integrins
19-21.
cell
migration.
Responce
to
platelet
secretory
β1イ ン テ グ リ ン お よ び フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 局 在 21) Cosio FG,
Sedmak
kidney and human
DD
and Nahman
mesangial
NS
Jr: Cellular receptors for matrix proteins in normal
cells. Kidney
Int (1990) 38, 886-895.
203
human
204 柏
Expression
of
β1
谷
integrin
忠
and
in patients
fibronectin
with
of Internal
University
Okayama
Integrins
are
cells
nents
and
we
β1 integrin,
an
in
indirect
endothelial
of
IgA
nephropathy
may
play
nephropathy.
an
adhesion
examined
the
To
the
glomeruli
cells
expressed
and
in
the
of
IgA
and
immunoelectron
surface
epithelial
proliferation
and
of
cells,
of
the
fibronectin,
and
mesangial
cells
in
the
which
glomerulus
and
increase
study
control
area
matrix
and
a
in
increase.
also
extracellular
ligand
using
glomerular
normal
in
is
glomer
of
nephropathy
mesangial
mesangial
the
compo
of
membranous
cells,
in
interaction
cellular
progression
microscopic
of
increased
and
composed
in
nephropathy
the
adhesion
is
integrins
β1 integrin
was
mesangial
of
and
construction
mediate
glomerulus
role
capsullar
fibronectin
mesangial
role
proliferation
on
Bowman's
and
showing
important
with
study
was
β1 integrin
of
patients
Z. Ota)
which
renal
the
expression
in
Prof.
The
clarify
Medicine,
Medical School,
molecules
matrix.
matrix.
β1 integrin
expression
immunecomplex,
of
immunofluorescence
antibodies.
cells,
family
extracellular
extracellular
ulonephritis,
by
a
and
glomeruli
700, Japan
(Director:
between
the
KASHITANI
Department
Okayama
in
glomerulonephritis
Tadatoshi
Third
俊
in
the
specific
epithelial
glomeruli.
The
patients
with
β1 integrin
deposition
matrix
of
in
IgA