車両タイヤによるゼロギャップ無線電力伝送 Zero - 豊橋技術科学大学

車両タイヤによるゼロギャップ無線電力伝送
Zero-Gap Wireless Power Transfer Exploiting Vehicle Tires
○鈴木 良輝 2,鳥井 俊宏 1,水谷 豊 2,杉浦 貴光 2,坂井 尚貴 3,上原 秀幸 4,大平 孝 4
Yoshiki Suzuki, Toshihiro Torii, Takamitsu Sugiura,
Naoki Sakai, Hideyuki Uehara, and Takashi Ohira
豊橋技術科学大学 電気電子工学課程 1 電気・電子情報工学専攻 2
電子・情報工学専攻 3,電気・電子情報工学系 4 Dept. of Electrical and Electronic Information Engineering, Toyohashi University of Technology
〒441-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘 1-1
1-1 Hibarigaoka,Tempaku,Toyohashi, Aichi 441-8580 Japan
TEL: 0532-44-6825 Fax:0532-44-6757 E-mail: [email protected]
1 . ま え が き
環境問題およびエネルギー問題の対策として
電気自動車(EV)が注目されている.しかし,
EV は,ガソリンに比べてエネルギー密度が小さ
いバッテリーを用いるために,航続距離が短い,
充電時間が長いという問題点が存在する.
そこで,走行中の電気自動車への無線電力伝
送が提案されている[1]-[6].しかし,現在提案さ
れている方式は,走行中の電気自動車の位置ず
れによる伝送効率の低下が大きいという問題点
が存在する.
本論文では,この問題点を解決した走行中の
EV への無線電力伝送技術である, EVER
(Electric Vehicle on Electrified Roadway:電化道
路電気自動車)を提案する.さらに,EVER の原
理実証実験として,自動車模型実験および自動
車タイヤを用いた電力伝送実験を行う.
2 . 電 化 道 路 電 気 自 動 車 ( EVER)
EVER は走行中の電気自動車への無線電力伝送
技術である.図 1 にそのシステム構成を示す.
高周波インバータと電極板を路面下に埋め込み,
電気自動車タイヤ内のスチールベルト間がコン
デンサと等価となることを用いる.このような
タイヤやアスファルト(誘電体)を介した結合
を誘電結合と呼ぶ.電極板,スチールベルト間
に流れる高周波電流によって電力伝送を行う.
EV へ給電された高周波電力は整流回路により直
流へ変換され,直流モーターへ供給される.
本方式のメリットは次の 2 点である.1 点目は,
走行中の車両の位置ずれに強い電力伝送が可能
な点である.なぜならば,電極板が埋設された
アスファルトがタイヤに常に接しており,走行
中でも誘電結合を維持できるためである.2 点目
は,周囲への電界漏洩が少ないことが期待でき
る点である.一般的な電気自動車への無線電力
伝送は,路面下の送電器から電気自動車底部の
DC Motor
Tire(Rubber) Capacitor
Steel belt!
!
!
Rectifier
Asphalt
Tire
Steel belt
Matching!
circuit
Metal!
plate
Matching!
circuit
=
Asphalt
Metal plate
Tire
Asphalt(Road surface layer)
Metal plate
RF inverter
図 1 想定する EVER システム構成
受電器までの間にエアギャップが存在する.し
かし,本方式は電極板-スチールベルト間にエア
ギャップが存在しない「ゼロギャップ」無線電
力伝送である.代わりに,タイヤやアスファル
トなどの誘電体を介するため,電界の閉じ込め
効果が期待できるからである.また,電極板へ
の入力を差動入力とすることで,いっそう周囲
への電界漏洩低減を図ることができる.
3 . EVER ミ ニ チ ュ ア モ デ ル 実 証 実 験
EVER による電力伝送の原理実証実験としてミ
ニチュアモデル実験,自動車タイヤ実験の 2 種
類の実験を行った.
ミニチュアモデル実験では,模型自動車を電
極板上に配置し,電極板-スチールベルト間で高
効率電力伝送が可能であることを確認した.製
作した模型自動車および電極板を図 2 に示す.
電極板-スチールベルト間の S パラメータを測定
し,高効率電力伝送を実現するインピーダンス
整合回路を設計・試作した. 電極板-スチールベ
ルト間の電力伝送効率の測定結果を図 3 に示す.
測定結果より,周波数 52MHz において,電力伝
送効率 76%を達成していることが分かる.点線
で示す最大有能効率(Maximum Available
Efficiency : MAE)は式(1),(2)で定義され,電力伝
送効率の理論限界を示す.
2
MAE = K !
2
K=
(1)
K ! 1 2
1 ! S11 ! S22 + S11S22 ! S12 S21
2
2 S12 S21
(2)
Tire
電力伝送効率測定値は MAE に近く,整合回路に
より効率が最大化されている.
Matching!
Circuit
Tire
Matching!
Circuit
Steel belt
Wheel!
(Aluminum)
Steel belt
Metal plate
Matching!
Circuit
Matching!
Circuit
Balun
Balun
RF input(#1)
RF input(#1)
Front
Side
図 4 自動車タイヤ実験の実験系
図 2 製作した模型自動車と電極板
自動車タイヤ実験においては,自動車タイヤ
を介して,50W の電力伝送が可能であることを
確認した.実験系を図 4 に示す.今回はスチー
ルベルトではなく,簡易的にアルミホイールで
受電した.アルミホイールはスチールベルトと
誘電結合しているため,受電が可能であると考
えた.50W の電力を入力したところ,図 5 に示
すように 60W 型電球の点灯に成功した.
Power transmission
efficiency [%] 4.むすび
本研究では,走行中電気自動車への給電シス
テム EVER を提案し,原理実証実験を行った.
EVER ではタイヤを利用した誘電結合によるゼロ
ギャップ無線電力伝送を行う.故に,走行中の
EV の位置ずれに強い電力伝送が可能である.ま
た,周囲への電界漏洩が少ないことが期待され
る.実証実験では,ミニチュアモデル実験によ
り高効率電力伝送を達成し,自動車タイヤ実験
では 50W の電力伝送が可能であることを示した.
EVER の実現に向けて,ゼロギャップ無線電力伝
送は有効な方式であることを確認した.
90
MAE 80
70
Measurement 60
50
51
52
53
54
Frequency [MHz] 図 3 ミニチュアモデルの電力効率測定結果
55
図 5 自動車タイヤ実験の様子
参考文献
[1] 西川和廣, 電気自動車(EV)普及が広げ
る道路インフラの可能性への期待, 土木
学会論説,Feb. 2011.
[2] 阿部茂,金子裕良, 非接触給電技術,
電学誌,vol. 128,no. 12,pp. 796-799,2008.
[3] 加々見友弘,松下隼人,岩堀大希,桑原義
彦, 走行中の模型電気自動車へのワイヤ
レス給電デモシステム, 信学技報,
WPT2010-20, pp. 37-42, Sep. 2010.
[4] J. Huh, S. Lee, C. Perk, G.H. Cho, and C.T. Rim,
“Narrow-Width Inductive Power Transfer System
for Online Electrical Vehicle, ” IEEE Trans. Power
Electron., vol. 26, no. 12, Dec. 2011.
[5] Y. Suzuki, T. Sugiura, N. Sakai, M. Hanazawa, and
T. Ohira, “Dielectric Coupling from Electrified
Roadway to Steel-Belt Tires Characterized for
Miniature Model Car Running Demonstration, ”
IEEE MTT-S, IMWS-IWPT2012, pp. 35-38,
Kyoto, May 2012.
[6] 大平孝, 走行中タイヤ内スチールベルト
で集電する電化道路電気自動車, ワイヤ
レス・テクノロジ・パーク,横浜,July 2012.