地盤工学会 北海道支部 技術報告集 第 5 0 号 平成 22 年2 月 於 札 幌 市 異なる養生条件下でのセメント改良泥炭の強度発現傾向 寒地土木研究所 正会員 ○橋本 聖 寒地土木研究所 国際会員 西本 聡 寒地土木研究所 国際会員 林 宏親 1.まえがき セメントによる改良地盤の強度増加に影響する要素としては,土質,養生温度,セメントの種類や添加率,撹 拌方法などが挙げられるが,冬期に構築される改良地盤の強度増加は養生温度に大きく依存することが考えられ る.過去に,中層混合処理工法で施工された改良地盤を調査したところ,改良地盤表面部の強度が著しく低下す る事例が顕在化した.この要因として,定性的ではあるが,外気温(養生温度)の影響が考えられる 1) . 2)3)4)5) 一方,過去の研究では養生温度が 20℃よりも低い場合,養生温度 20℃の発現強度より低くなる ことや, 6) 0℃以下になると強度の発現が期待できない ,との報告がされている.これらの一連の研究成果からは,セメン ト改良土の養生温度が強度発現に与える影響,特に,強度発現に必要な具体的な養生温度が示されているが,養 生温度を一定とした実験条件である.ところが,実際の現場条件は外気温が絶えず変動している.特に冬期にお いてはプラスとマイナスの気温が時間帯によって大きく変動していることが多く,このような養生条件下と得ら れる強度は一定温度の養生条件とは異なる可能性がある,と推測される. そこで,一定の養生温度条件と養生温度を変動させた条件において,セメントで改良した泥炭(以後、セメン ト改良土)の強度発現の傾向を各種試験で整理したので,過年度の試験(以降,既存)と合わせて報告する. 2. 実験概要 2-1 実験試料および配合条件 改良対象土は当別町蕨岱で採取した泥炭で ある.表-1に改良対象土の土質試験結果を 示す.なお,既存の土質試験結果は一昨年, 幌延町で採取された泥炭に対して実施したも のである. 表-1 試料名 土粒子の密度 ρs 自然含水比 Wn 強熱減量 Li 改良材 添加量 ※ 練混ぜ直後の含水比 W3 改良対象土の土質特性 今回(泥炭:当別町蕨岱) 既存(泥炭:幌延) 1.580 650 91 1.854 550 66 3 (g/cm ) (%) (%) セメント系固化材(高有機質用)セメント系固化材(高有機質用) 40 156 (%) (%) 40 141 ※ 添加量は試料の湿潤重量比との値である。 供試体は中層混合処理による地盤改良を想定し,泥炭に含まれている灌木類の遺体を 19mm フルイで除去した 試料と,試料の湿潤重量比 40%の改良材を粉体のままホバートミキサーで撹拌,混合して,φ=50mm,H=100mm の プ ラ ス チ ッ ク モ ー ル ド を 用 い て 地 盤 工 学 会 基 準 「 安 定 処 理 土 の 締 固 め を し な い 供 試 体 作 製 方 法 」 ( JGS 0821-2000) 7)に基づき作製した.改良材はセメント系固化材(高有機質土用)を使用し,セメントと改良対象土 の混合時間は同基準に準拠して 10 分とした.なお,既存の試験も今回と同様の配合条件,方法である 8). 2-2 養生条件 0 6 温度と,0~-10℃の変動養生温度(以降,変動 A),5~-5℃ 4 の変動養生温度(以降,変動 B)の計 8 パターン(図-1) 2 である.ここで,変動 A は釧路の 1 月における各時間の平 均温度を再現したものであり,変動 B は変動 A の各時間温 度を 5℃上昇させた養生条件である.過年度の養生条件は 一定養生温度 20,5,0, -5, -20℃である. 養生温度(℃) 今回の養生条件は 20,10,5,0,-5,-10℃の一定養生 6 時間(時) 9 12 15 -4 変動B -6 ージして 15 時に養生を開始した.なお,20℃は地盤工学会 -10 基準「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に基づ -12 養生スタート15時 変動A 図-1 変動パターンの養生温度 Strength appearance tendency to cement treated peat under different curing temperature −9− 21 -2 -8 Hijiri HASHIMOTO, Satoshi NISHIMOTO, Hirochika HAYASHI (Civil Engineering Research Institute for Cold Region,PWRI) 18 0 各養生条件ともに,日中に地盤改良を実施するのをイメ く養生温度である. 3 24 2-3 表-2 調査項目 各養生温度の試験項目 表-2に各養生温度の試験項目を示す.7 養生温度(℃) -20 -10 -5 0 5 10 20 一軸圧縮試験 ○ ● ◎ ◎ ◎ ● ◎ ● ● 特性は,所定の期間養生した供試体に対して 細孔径分布試験 ○ ● ● ● ● ● ● 含水比試験,土の湿潤密度試験,土の一軸圧 偏光顕微鏡 日,28日材齢のセメント改良土の物理・力学 縮試験より,セメント改良土の骨格構造の変 X線回折 ● ○ ● ○ ● ● ● ● ● ● ● ◎ ● ● ○:既存のみ実施,●今回のみ実施,◎既存・今回ともに実施 化ついては,水銀圧入法による細孔径分布試 変動A 変動B -10℃ -5℃ 0℃ 5℃ 10℃ 20℃ -20℃(既存) -5℃(既存) 0℃(既存) 5℃(既存) 20℃(既存) 160 験 9)より求めた. 150 水銀圧入法による細孔径分布試験とは,材料に対して段階 圧入圧力から間隙の体積量と直径を測定する試験である.な お,養生温度0,-5,-10℃および変動A,変動Bの供試体は凍 140 含水比(%) 的に圧力を増加しながら水銀を圧入し,圧入した水銀の量と 結による強度増加が想定されるため,試験前日に5℃で解凍し 130 120 110 100 てから試験を実施した.さらに,青色染料の樹脂(以降、ブル 90 ーレジン)をセメント改良土の間隙に浸み込ませた薄片を作 80 製し,偏光顕微鏡により間隙状況の把握 10)を試みた. 1 10 100 養生日数(day) 薄片の作成手順および観察方法は,セメント改良土をあら かじめ乾燥させ,それを容器に入れてから真空状態にし,ブ カッターで切断,切断面を研磨して薄片に貼り付けて,偏光 顕微鏡で観察した.また,養生温度の違いによる生成物の変 化を確認するためにX線回折試験 11)を実施した. 1.35 湿潤密度(g/cm3 ) 覆う.一定の圧力を加え,セメント改良土を封入した樹脂を 1.30 1.25 1.20 1.15 3.試験結果 1.10 物理・力学特性 1 10 100 養生日数(day) 図-2にセメント改良土の物理特性(含水比と湿潤密度)の 図-2 経時変化を,図-3に7日,28日材齢の各養生温度と養生温度 13) は,恒温・恒湿条件で室内配合試験を実施 した場合,含水比と湿潤密度といった物理的特性は,28 日材 齢程度ではほとんど変化していない,と報告している. 今回と既存の試験結果において,養生日数の増加に伴う湿 qu7(n℃)/qu7(20℃) 係を示す. 潤密度の変化は,池上,林らと同様,ほとんど確認されなか 0.8 0.6 0.4 0.2 しているため,供試体内部の含水比にばらつきが生じたため 1 養生の約 6 割の強度増加が期待できることが示された.一方, 養生温度 0℃の強度比では強度増加に差が生じた.今回と既 存の泥炭の物理特性の違いは含水比と強熱減量であるが,能 登 14) は含水比および強熱減量が多いと,改良効果を阻害する 有機物の一つであるビチューメンの含有率も増加し,セメン −10− qu28(n℃)/qu28(20℃) 1.2 生温度 5℃の強度比は,城戸ら 8)が指摘しているとおり,20℃ 7日材齢 変動A -30 変動B -25 -20 いたセメント改良土は粘土などと比較して含水比を多く含有 が 5℃以上だと強度発現が認められる.また,28 日材齢で養 今回 既存 1 にともなって含水比が大きくばらついた.これは,泥炭を用 養生温度と強度比の関係では,経時変化によって養生温度 物理特性の経時変化 0 った.ただし,養生日数と含水比の関係は,養生日数の経過 と考えられる. 1000 1.2 20℃の一軸圧縮強さを基準とした強度比(以下,強度比)の関 池上 12),林ら 1000 変動A 変動B -10℃ -5℃ 0℃ 5℃ 10℃ 20℃ -20℃(既存) -5℃(既存) 0℃(既存) 5℃(既存) 20℃(既存) 1.40 ルーレジンで容器内のセメント改良土全体をブルーレジンで 3-1 変動A 変動B -10 -5 0 養生温度(℃) 5 10 20 -20 -10 -5 0 養生温度(℃) 5 10 20 今回 既存 0.8 0.6 0.4 0.2 28日材齢 0 変動A -30 変動B -25 図-3 養生温度と養生温度 20℃の一軸圧 縮強さを基準とした強度比の関係 ト改良土の一軸圧縮強さが低下することを指摘している.定性的ではあるが,養生温度のほかにこれらの要因が 強度発現に影響した可能性がある.一方,養生温度が-5℃以下の強度比は明らかに強度発現が認められない.0℃ から氷点下へ養生温度が変化する変動 A も同様である.ただし,養生温度が 5℃から 7 時間後に氷点下に変化す る変動 B では,若干の強度増加が確認できるものの,養生温度 0℃の強度比とほぼ同程度あった. 3-2 細孔径分布試験 高野ら 15) ,池上ら 12)や林ら 13) は,異なるセメント添加量におけるセメント改良土の経時的な骨格構造の変化を 水銀圧入法による細孔径分布試験を用いて調査しており,経時的に強度が増加すればセメント改良土の間隙は微 細化する,と報告している.既存と今回の実験は同一のセメント添加量ではあるが,養生温度の違いによって強 度増加に差が生じることから,既往研究と同様にセメント改良土の骨格構造の違いを評価できると考えられる. 図-4は各材齢のそれぞれの養生条件における細孔径分布の経時変化を示す(今回のみ).細孔径分布とは,間 隙の細孔径(直径)に対して,その径を有している間隙の細孔量(容積)を示したものである.7 日材齢では, 養生温度 20℃を除くすべての養生温度において,細孔径が 1μm 以上の細孔量が多く分布している.一方,28 日 材齢では養生温度 5℃の細孔径のピークが 1μm 以下へ移行しているが,それ以外の養生条件では 7 日材齢と同 様に細孔径 1μm 以上の細孔量が多く分布している.これは,養生温度 5℃では,時間の経過とともにセメント 水和反応によって反応生成物が間隙を充填し,骨格構造が密に変化していく課程と捉えることができるが,氷点 下の養生条件では大きな変化が生じていないことを示している.なお,養生温度 20℃では 7 日材齢で 1μm 以下 に卓越した細孔量が確認されており,早期にセメント水和物が生成されたと考えられる. 骨格構造と強度の関係については,総細孔量と中央孔径値を用いて一軸圧縮強さとの関係を整理した.ここで, 総細孔量とは細孔径分布試験から得られた間隙の全容積,であり,中央孔径値とは,総細孔量に対する各細孔量 曲線において,累積細孔量百分率が 50%となる細孔径で定義される(粒径加積曲線での D50 と同じ考え方). 図-5に既存と今回の実験で得られた総細孔量と一軸圧縮強さの関係(28 日材齢)を示す.図より,総細孔量 の大小が養生温度条件や一軸圧縮強さに深く関連していることがわかる.総細孔量が 900mm3/ g を下回った場合 0.1 1 10 細孔径(直径) (μm) 100 図-4 1000 3500 変動A 変動B -10℃ 0℃ 5℃ 20℃ -20℃(既存) -5℃(既存) 20℃(既存) 3000 2500 2000 1500 28日材齢 500 一軸圧縮強さqu28(kN/m 2 ) 一軸圧縮強さqu28(kN/m 2 ) 100 細孔径分布の経時変化 3500 1000 変動A 変動B -10℃ 0℃ 5℃ 20℃ 細孔量 (mm3/g) 100 90 80 70 60 50 28日材齢 40 30 20 10 0 0.001 0.01 0.1 1 10 1000 細孔径(直径) (μm) 変動A 変動B -10℃ 0℃ 5℃ 20℃ 細孔量 (mm3/g) 100 90 80 70 60 50 7日材齢 40 30 20 10 0 0.001 0.01 変動A 変動B -10℃ 0℃ 5℃ 20℃ -20℃(既存) -5℃(既存) 20℃(既存) 3000 2500 2000 1500 1000 28日材齢 500 0 0 500 1000 1500 2000 0.0 1.0 3 3.0 4.0 中央孔径値(直径)(μm) 総細孔量(mm /g) 図-5 2.0 図-6 総細孔量と一軸圧縮強さの関係 −11− 中央孔径値と一軸圧縮強さ 5.0 では一軸圧縮強さが大きくなる傾向にあり,養生温度が 5℃以上の場合に該当する.一方,総細孔量が 900mm3/g を上回った場合では,変動 A,B を含む養生温度 5,20℃以外の養生温度であり,強度発現が期待できないことが 示されている. 図-6に既存と今回の実験で得られた中央孔径値と一軸圧縮強さの関係(28 日材齢)を示す.総細孔量と一軸 圧縮強さの関係と同様に,中央孔径値の大小が養生温度条件や一軸圧縮強さと密接に関係している.中央孔径値 が 0.4μm を下回った場合では強度発現が大きくなる傾向にあり,養生温度が 5℃以上の場合に該当する.一方, 総細孔量と同様に,変動 A,B を含む養生温度 5,20℃以外の養生温度では中央孔径値が 0.4μm 以上に分布してお り,養生温度が 5℃以上の一軸圧縮強さと比較して非常に小さく,特に,中央孔径値が 2μm 以上ではほとんど 一軸圧縮強さが期待できない. 林らは 13)骨格構造(総細孔量と中央孔径値)の指標と一軸圧縮強さの間には,総細孔量および中央孔径値の増 加にともなう強度の低下が定性的に認められるとして,骨格構造の変化がセメント改良土の強度発現の主要な要 因の一つとして考えることができる,としている.既存と今回の実験(同一のセメント配合量で養生条件が異な る)で得られた総細孔量,中央孔径値と一軸圧縮強さ(28 日材齢)については,林らが述べているのと同様に, セメント改良土における構造の密実化と強度増加の関係が認められた. 3-3 偏光顕微鏡観察 過去の研究において,電子顕微鏡によってセメント水和物の生成具合を確認した事例は数多くある 6),8) .しか し,これらが撮影される倍率は 3,500~7,500 倍と非常に精緻なレベルであり,エトリンガイトの生成状況が確認 できるが,セメント改良土に存在する間隙の状況を直接観察するには適当ではない.地質学の分野では岩石の組 織や鉱物の種類,間隙の有無などを把握するために,岩石薄片を作製して偏光顕微鏡による観察 16)が行われてお り,セメント改良土でも間隙の存在を把握できるか試行的に実施した. 図-7は各養生温度(28 日材齢)の試料を偏光顕微鏡により撮影した写真である.養生温度 0,5,20℃では白 抜きの部分が間隙である.20℃では薄片の端部での撮影であり,なおかつ泥炭に含まれていた繊維が薄片製作時 に欠落したために大きな空隙が残った.しかし,この空隙以外をみると養生 0,5℃に存在する円形の間隙が無く, 構造の密実化が図られているといえよう.一方,-10℃,変動A,変動 B は養生温度 0,5℃に存在する円形の間 隙のほかに筋状の間隙が多数存在しており,養生温度の違いによる間隙の差が明瞭である. 20℃ 5℃ 0℃ -10℃ 変動 A 変動 B 図-7 3-4 各養生温度における偏光顕微鏡撮影 X線回折 X線回折法による分析は,粘土鉱物のもつ結晶構造に基づいたもので,その目的は粘土鉱物の同定と含有量の 測定 11) であり,セメント系固化材で泥炭を改良した場合では,改良効果(エトリンガイトの生成)を把握するこ とが可能である.ここでは,今回実施した 6 種類の養生条件における 28 日材齢の各試料に対して,2θ=2°~65° −12− の範囲で回折図面を測定した.図-8に各養生温度で得られた回折図形を示す.縦軸 I はピーク強度を示し,試料 に回折X線を照射した角度によって,試料に含まれるそれぞれの鉱物の結晶状態に応じたピーク強度が出現する. 17) エトリンガイトのピーク強度は 2θ=9°,16°では,特にその存在を顕著に示す .ピーク強度はそれを示す物質 の存在量に比例するが,エトリンガイトのような混合物の場合には単一の物質との反射強度を直接比較してその 存在量を求めることはできない.ただし,相対的(ここでは,養生温度ごと)に各物質の存在量を評価すること が可能である.グラフに記載されている Et はエトリンガイト,Cal は方解石,Anh は硬石膏,を示す. 養生温度 5℃,20℃では,エトリンガイトのピーク強度は卓越しているが硬石膏の存在は確認されない.これ は,硬石膏が水和反応によってエトリンガイト結晶に変化したためである.一方,養生温度 0℃,-10℃,変動A, 変動 B は養生温度が低いためにエトリンガイトの生成量が少なく,養生温度-10℃ではエトリンガイトが確認され なかった.しかし,変動 B のエトリンガイトのピーク強度は養生温度 0℃のそれよりやや反応が大きかった.こ れは,養生温度がプラスとマイナスを交互に繰り返す中で,多少の水和反応が生じていることが推測される. 図-9に各材齢におけるエトリンガイトのピーク強度(2θ=9°)と一軸圧縮強さの関係を示す.ここで,ピーク 強度が大きければ相対的にエトリンガイトの含有量は多いと判定される.図より,7 日,28 日材齢のピーク強度 I(Counts) I(Counts) が 100 より少なければ一軸圧縮強さが非常に小さな値であったが,100 以上であれば一軸圧縮強さが期待できる 500 400 Et 300 Cal Et 20℃ Cal 500 200 100 100 0 10 20 30 40 50 60 θ-2θ(度) 500 Anh Cal 400 300 200 Et 100 0 I(Counts) I(Counts) Et 5℃ Cal 0 0 0℃ 10 30 40 50 Anh Cal 400 300 Et 200 Et 20 60 θ-2θ(度) 500 変動 B Et 100 0 0 10 20 30 40 50 60 θ-2θ(度) 500 400 Anh Cal 変動 A 300 200 Et 100 0 I(Counts) 0 I(Counts) Et 300 200 10 20 500 30 40 50 60 θ-2θ(度) Anh 400 -10℃ Cal 300 200 Et 100 0 0 0 10 20 30 図-8 40 50 2500 2000 1500 7日材齢 0 0 10 20 30 40 50 60 θ-2θ(度) 100 200 300 ピーク強度 I(counts) 図-9 3500 2 変動A 変動B -10℃ 0℃ 5℃ 20℃ -20℃(既存) -5℃(既存) 20℃(既存) 3000 500 一軸圧縮強さqu28(kN/m ) 3500 1000 0 60 θ-2θ(度) X線回折による安定処理土のセメント鉱物の分析結果(28 日材齢) 2 一軸圧縮強さqu7(kN/m ) Cal 400 400 変動A 変動B -10℃ 0℃ 5℃ 20℃ -20℃(既存) -5℃(既存) 20℃(既存) 3000 2500 2000 1500 1000 28日材齢 500 0 0 100 200 300 ピーク強度 I(counts) エトリンガイトのピーク強度と一軸圧縮強さの関係(2θ=9°) −13− 400 ことがわかった.一般に,回折X線の強度の再現性は良好ではないので,分析結果は目安程度 18) とされているが, 既存および今回のデータを整理した結果,具体的なピーク強度と一軸圧縮強さに相関性があるといえる. 4.まとめ 本報告では,一定の養生温度条件と養生温度を変動させた条件において,セメント改良土の強度発現の傾向に ついて様々な角度から整理した.その結果,養生温度が 5℃以上で経時変化によって細孔径が 1μm 以下へピー クが移行した.また,総細孔量で 900mm3/g 以下,中央孔径値で 0.4μm 以下,エトリンガイトのピーク強度が 100 以上であれば強度発現が期待できる知見を得た.今回の試験結果であり泥炭すべてに該当するものではないが, 強度発現に必要な養生温度が一軸圧縮強さだけではなく,セメント改良土内に存在する間隙およびセメント水和 物(エトリンガイト)の具体的な数値からも明らかになった.また,試行的に実施した偏光顕微鏡観察ならびに X線回折試験の結果から,各養生温度で生じた間隙状況の観察,各養生条件におけるエトリンガイトの生成具合を 評価することができた. 今回,実際の現場条件を想定して養生温度を変動させる試験を実施したが,いずれも明確な強度増加が期待で きなかった.養生初期において温度が変動する場合,強度発現に必要な(変動)養生温度と時間の関係を把握す ることが今後の課題である.なお,今回の試験において,養生温度 0℃,変動 B では経時変化による強度増加が 若干,確認されており,長期的には強度が増加する可能性がある.本試験における長期的な強度発現傾向ならび に骨格構造の経時変化を追跡調査により明らかにしたい. 【参考文献】 1) 橋本聖・西本聡・林宏親:トレンチャー式撹拌工法による改良強度のばらつきについて, 第 7 回地盤改良シ ンポジウム論文集, pp.81-84, 2006. 2) 馬場崎亮一・寺師昌明・鈴木健夫・前川淳・川村政史・深沢栄造:安定処理土の強度に及ぼす影響因子, セ メント系安定処理土に関するシンポジウム, pp.20-41, 1996. 3) 榎並昭・吉野学・日比野信一・高橋守男・秋谷健二:ソイルセメントコラムの原位置温度測定及び養生温度 の強度に及ぼす影響, 第 20 回土質工学研究発表会講演集, pp.1737-1740, 1985. 4) 堀内澄夫・伊藤益光・森田哲士・吉原重紀:低温度下におけるセメント混合土の強度発現性, 第 19 回土質工 学研究発表会講演集, pp.1609-1610, 1984. 5) 細谷芳巳・牧原依夫・木幡行宏・奈須徹夫・日比義彦・荻野拓哉:セメント系改良材による現場改良土の品 質評価, セメント系安定処理土に関するシンポジウム, pp.42-56, 1996. 6) 社団法人セメント協会:セメント系固化材による地盤改良マニュアル第 3 版, pp.40~41, 2003. 7) 社団法人地盤工学会:土質試験の方法と解説-第 1 回改訂版-, pp.308~316, 2000. 8) 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