CdTe検出器の分解能向上 - Kyoto University High

高エネルギー分解能
CdTe検出器の開発
日本物理学会第65回年次大会@岡山大学
2010年3月23日
京大理,東大理A
木河達也,市川温子,中家剛,横山将志A
1
CdTe検出器とは
CdTeを半導体素子として用いた半導体検出器
CdTeの性質
半導体
バンドギャップ 電子易動度 ホール易動度 密度
(eV)
(cm2/V/s)
(cm2/V/s)
(g/cm3)
Ge
0.67
3800
1900
5.33
Si
1.11
1400
500
2.33
CdTe
1.47
1100
100
5.85
CdTe検出器の特徴
長所
 放射線→電気信号への変換効率がよい。(半導体検出器としての性質)
 放射線吸収率が高い。(原子番号と密度が高いため)
 常温で使うことができる。(バンドギャップが大きいため)
短所
 半導体検出器としてはエネルギー分解能が低い。
(バンドギャップが大きいため、ホールの易動度が低いため)
2
CdTe検出器で可能な研究

Neutrino-less Double
Beta Decayの探索
CdTe自身がダブルベータ崩壊核。
β+崩壊なので陽電子が電子と対消滅して
出た2γとのコインシデンスをとることでバッ
クグラウンドを除去できる。

Axionの探索
125Teから放出されたaxionをCdTe検出器
でresonant absorptionにより、吸収する。
125Teが放出するγはnon-resonant shieldで
除去する。
e  Ni (A,Z)  Nf (A,Z - 2)  e (2 e )
γ
125Te
axion
いずれもエネルギー分解能の向上が必須。
CdTe
3
ホールのトラッピング
荷電粒子
CdTe
ホール
陰極



+ -電子
+ -
+ -
陽極
電子の易動度は十分に高いので、どこで電子・ホール対生成が起きても
ほぼすべての電子は陽極までドリフトする。
ホールの易動度は低いので、電子・ホール対生成が起きた場所が陰極
から遠いと、ドリフト中に多くのホールが捕獲されてしまう。
信号の大きさが、生成された電子・ホール対の数だけでなく、生成の場所
にも依存してしまうので、エネルギー分解能が悪くなる。
4
CdTe検出器の大型化




CdTe検出器は一部で市販されているが、ホールのトラッピングを少なくす
るために小型化したもの(厚さ~2mmまで)しかない。
小型のCdTe検出器では十分なefficiencyが得られない。
小型のCdTe検出器で、エネルギーの高い粒子を検出しようとすると、検
出器内で止まらないものが多くなる。→エネルギーが正確に測れない。
大型のCdTe検出器でホールのトラッピングの影響を補う技術が必要。
電子のエネルギーとCdTe内での飛程の関係
5
解決策




信号の立ち上がり時の波形を見れば、反応が起きた場所がわかるかもしれない。
反応が起きた場所がわかれば信号の大きさに補正をかけることができる。
反応が起きた場所に依存しない高エネルギー分解能のCdTe検出器ができる。
加えて反応が起きた場所の情報も得られる。
CdTe検出器からの信号をPreAmpを通してFADCで読み出し、ホールのドリフト時間を
求め、パルスハイトに補正を試みた。
DAQ
(立ち上がり時の波形をみたいのでMain Ampには通さない。)
PC
コントロール
データ取得
セットアップ

CdTe検出器(CdTe505050)
クリアパルス社製,特注品,オーミック型
素子のサイズ:5mm×5mm×5mm

PreAmp(580K)
クリアパルス社製,電荷有感型
時定数:60μs,gain:約11倍

Flash ADC(V1724)
CAEN社製, sampling rate:100MHz
dynamic range:-2V~2V,resolution:14bit
Bias supply
400V
CdTe505050
(特注品)
PreAmp
FADC
Bias
電気信号
CdTe detector
γ (662keV)
137Cs
線源
6
FADC counts
FADCでとった波形
Drift
time
Pulse height ホールの効果
PreAmpによるダンプ
電子(+ホール)の効果
電子の効果が大きいもの
(反応が陰極付近で起きた)
ドリフト時間が短い
Time(s)
FADC counts
FADC counts
Time(s)
ホールの効果が大きいもの
(反応が陽極付近で起きた)
ドリフト時間が長い
Time(s)
7
プリアンプの改造

プリアンプによるダンプの効果が大きい。
プリアンプを改造し時定数を60μsから600μsにのばした。
FADC counts

2.2nF
↓
22nF
1μF
220kΩ
↓
75kΩ
Drift
time
10kΩ
22kΩ
Time(s)
プリアンプ改造後の波形


PreAmpによるダンプによる効果が小さくなっている。
ホール収集後もわずかに電圧が上がり続けている。
→ホールのトラップ後に一部でデトラッピングが起きているのではないか。
8
(今まではプリアンプのダンプのせいで見えなかった。)

エネルギーの補正
ドリフト時間からパルスハイトに補正をかけてエネルギーを算出した。
# of counts
パルスハイトの分布
エネルギーの分布
# of counts
100
50
ドリフト時間による
エネルギー補正
400 Pulse height (FADC counts)
400
Pulse height (FADC counts)
パルスハイトとドリフト時間
Energy(keV)
8

エネルギーとドリフト時間
700
1000

Energy(keV)
Drift time(μs)
8
Drift time(μs)
ドリフト時間が長くなるとパルスハイトが小さくなり、それが原因でエネルギーの分
解能が悪くなっていることがわかる。
9
補正により光電効果によるピークがきれいに見えるようになる。(FWHM:2.0%)
低温、高温での測定




冷却することによって、ノイズが減り、分解能がさらに良くなるかもしれない。
各温度でのCdTe検出器の振る舞いを知りたい。
液体窒素で冷やすことで-90℃から0℃までの温度でのデータをとった。
恒温槽で0℃から30℃までの温度でのデータをとった。
液体窒素
信号用
プリアンプ電源
ハイボル
白金測温計
空気
チューブ
線源(137Cs)
プリアンプ CdTe
窒素
チューブ
10
Temperature(℃)



Pedestal RMS (FADC counts)
温度とPedestalのMeanの関係
Pedestal RMS (FADC counts)
Pedestal mean (FADC counts)
温度とノイズ
温度とPedestalのRMSの関係
Temperature(℃)
温度と2μs間でのPedestalのRMSの関係
液体窒素での冷却下
恒温槽による温度制御下
Temperature(℃)
全体での低周波のノイズはpedestalの補正をすれば測定には影響を与えない。
2μs間で見える高周波のノイズは測定に効いてくる。
11
温度を下げればノイズは小さくなる。
FADC counts
-90℃
-70℃
-60℃
-50℃
0℃ (液体窒素で冷却下)
(恒温槽での温度制御下)
-20℃
-10℃
-30℃
-80℃
10℃
30℃
20℃
0℃ -40℃
Time (s)
温度による波形の変化





Mean drift time (s)
温度とドリフト時間
液体窒素での冷却下
恒温槽による温度制御下
Temperature (℃)
温度と平均ドリフト時間の関係
波形をみると液体窒素での冷却の測定での0℃~-60℃くらいまで温度が下がるとホールの易
動度が下がっていることがわかる。
-70℃以下ではホールの移動の効果がまともに見えない。
恒温槽での0℃~30℃までの測定では波形を見ても、ホールの移動度の変化はわからない。
-30℃~0℃では温度が上がると平均ドリフト時間が上がっていることがわかる。(-40℃以下は
ホールの移動の効果が小さくドリフト時間が正確に出せない。)
0℃~30℃では温度とドリフト時間に明確な相関が見られない。
実際の測定では0℃~10℃で最も分解能が良くなった。
12
エネルギー分解能

半導体検出器のエネルギー分解能はキャリア統計による効果、電荷収
集の効果、電子回路雑音による効果から影響を受ける。
WT  WD  WX  WE
2
2
2
2
WT :トータルの分解能
WD : キャリアの統計による
影響
WX : 電荷収集の影響
WE : 電子回路雑音による影 響
WD  (2.35) FE
2
2
F :ファノ因子
 : バンドギャップ
E : 放射線エネルギー
WT  14.3(kev)
エネルギー分布より導出
WD  1.28(keV)
計算式より導出
WE  5.23(keV)
テストパルス入力により導出
 WX  13.2(keV)
依然として電荷収集による影響が大きい
13
まとめ


現在のセットアップ、解析方法だと0℃~10℃で最も分解能が
良くなった。
ドリフト時間からパルスハイトに補正をすることにより、5mm
角のCdTe検出器で662keVのγ線に対しFWHM2.0%のエネ
ルギー分解能を得ることに成功した。
今後の予定



10mm角のCdTe検出器の製作について業者と調整中。
Monte Carloシミュレーションにより、CdTe素子内での電子、
ホールの振る舞いを理解し、CdTe素子の形状を最適化。
CdZnTeでCoplanar grid techniqueによって達成されている
FWHM:1.6%のエネルギー分解能を超えることを目標にさら
14
なる分解能の向上を目指す。
Backup
15
プリアンプ改造前
エネルギーの分布
# of counts
# of counts
パルスハイトの分布
ドリフト時間による
エネルギー補正
Pulse height (FADC counts)
Energy(keV)
エネルギーとドリフト時間
Energy(keV)
Pulse height (FADC counts)
パルスハイトとドリフト時間
Drift time(μs)

Drift time(μs)
補正により光電効果によるピークがきれいに見えるようになるがエネルギー分解
能はPreAmpの改造後と比べると低い。(FWHM:2.7%)
16
素子内部の電場
電圧差400Vの場合
極板
極板
5mm
2.5mm
5mm
CdTe
CdTe
5mm
極板
17
極板
半導体検出器からの信号の式
電子による信号
NeVe
Q e (t ) 
t
2
d
Nex0
Q e (t ) 
d

x0d 
 0  t 

V

e


 x0d


 t 
 Ve

ホールによる信号
t : 電離後の経過時間
e : 電子の易動度
h : ホールの易動度
d : 半導体の厚さ
x 0 : 電離が起きた場所 (陽極からの距離 )
  ホールの寿命
V : 印加電圧
NeVh
d2
t 

1

exp





NeVh 
 d ( d  x 0) 


Qh(t ) 
1

exp
2

d
Vh


Qh(t ) 
N : 電離された対の数

d ( d  x 0) 
 0  t 

Vh 

 d ( d  x 0) 

 t 
 Vh

足し合わせた信号
Q(t ) 
NeV 
 t 



et  h 1  exp
 
2 
d 
 

Q(t ) 
Ne 
Vh 
 t 
 x 0 
1  exp  
d 
d 
 

x0d 
 0  t 

Ve 

 x0d
d ( d  x 0) 


t 
Vh 
 Ve
Q(t ) 
Ne 
Vh
 x0 
d 
d
 d ( d  x 0) 

 t 
 Vh


 d ( d  x 0)  
1  exp
 
Vh


18
Coplanar grid technique

半導体素子の陽極側に電圧の異なる2つの電極を配置する。

ホールのドリフトや陽極付近に来るまでの電子のドリフトによる効果は両方の陽極に同じよ
うにあらわれる。
陽極付近から電圧が高い方の陽極までのドリフトによる効果は2つの電極で異なる。


一方の陽極からの信号から他方の陽極の信号を引けばホールの影響を受けない電子の
数だけに比例した情報が得られる。
半導体
陰極
陽極2
陽極1
+ -
CH1(high bias)
CH2(low bias)
CH2-CH1
陽極1
ガード電極
陽極2
19
陽極の構造
CdTe素子、電極構造の写真
各陽極からの信号