参考資料2 - 原子力規制委員会

参考資料2
リスクの考え方を導入するための論点・課題について
平成22年1月29日
原子力安全委員会事務局
0.「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(以下、「安全評
価審査指針」という。)において、運転時の異常な過渡変化(以下、「異常
な過渡」という。)、事故は、下記のように定義されている。
一方、ICRP2007年勧告は、潜在被ばくを「計画された操作手順
からの逸脱や事故による、被ばくが生じることは合理的に予想できるが、
起こることが計画されていない被ばく」と定義している。
以上を踏まえ、異常な過渡、事故の際の被ばくを「潜在被ばく」と考え
てよいか?
【異常な過渡】 原子炉の運転中において、原子炉施設の寿命期間中に予想され
る機器の単一の故障若しくは誤動作又は運転員の単一の誤操作、
及びこれらと類似の頻度で発生すると予想される外乱によって
生ずる異常な状態に至る事象
【事故】
「運転時の異常な過渡変化」を超える異常な状態であって、発
生する頻度はまれであるが、発生した場合は原子炉施設からの
放射性物質の放出の可能性があり、原子炉施設の安全性を評価
する観点から想定する必要のある事象
1.
安全評価審査指針における放射線防護に関する判断基準については、
「周
辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと。
」とされて
いる。この判断基準は、他の判断基準の記載と異なり、放射線による被ば
くに対してリスクの考え方が取り入れられていると考えて良いか。
【異常な過渡に対する判断基準】
(1) 最小限界熱流束比又は最小限界出力比が許容限界値以上であること。
(2) 燃料被覆管は機械的に破損しないこと。
(3) 燃料エンタルピは許容限界値以下であること。
(4) 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力の 1.1 倍以下
であること
【事故に対する判断基準】
(1) 炉心は著しい損傷に至ることなく、かつ、十分な冷却が可能であること。
(2) 燃料エンタルピは制限値を超えないこと。
(3) 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力の 1.2 倍以下
であること。
(4) 原子炉格納容器バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力以下であること。
(5) 周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと。
2.
異常な過渡、事故を想定するにあたって発生頻度が考慮されているが、
現行の安全審査指針類は決定論的安全評価を基本とする体系となっている
と考えられる。その中で、放射線防護についてのみ、確率論的な考え方を
取り入れることは可能か?
1
3.リスク拘束値に基づく事象の発生頻度と線量の設定について
・ 安全評価審査指針の解説において、異常な過渡、事故の発生頻度について
「原子炉施設の寿命期間中に1回以上発生する可能性がある」「発生する
頻度はより低い」と記載されている。この発生頻度をどのように設定すれ
ばよいか。
・ 事象の発生頻度については、確率論的安全評価(PSA)に基づき設定さ
れると考えられるが、モデル、機器故障率等に係る知識ベースに起因する
不確かさをどのように考慮するか。(別添1)
・ 発生頻度の極めて小さい事象に対しては高線量値となると考えられるが、
その場合、確定的影響の発生についてどのように考えるか。
また、基準とする線量値が実効線量で 100mSv を越える場合についてどの
ように考えるか。
・ 発生頻度の高い事象に対しては低線量値となることが考えられるが、LN
Tモデルを前提とするリスク評価を行うのが適当と考えて良いか。また、
低線量値の下限について、線量限度 1mSv との関係をどのように考えるか。
4.リスク拘束値と安全目標との関係
環境に放散された放射性物質による健康影響を評価するレベル3PSAに
おいては、事故シナリオ毎に計算される放射線被ばくによる死亡リスクとそ
の発生頻度を掛け合わせ、それらの総和として得られる死亡リスクが、安全
目標と比較される。
一方、リスク拘束値に対しては、単一の事故シナリオにおける被ばく線量
と当該事故シナリオの発生頻度から計算される死亡リスクが比較される。
安全目標とリスク拘束値は同様に死亡リスクとして定義されるが、その比
較対象は、複数の事故シナリオにおけるリスクの和、単独事故シナリオにお
けるリスクと異なることになる。この点について、どのように考え方が整理
できるか。(別添2)
また、リスク拘束値と安全目標のリスク水準が異なることとなる場合、両
者の関係をどのように考えればよいか。
5.発生事故あたり5mSv の判断基準について、安全評価審査指針の解説には、
以下のとおり記載されている。
ICRPの 1990 年勧告によれば、公衆の被ばくに対する年実効線量限
度として、1mSv を勧告しているが、特殊な状況においては、5年間に
わたる平均が年当たり1mSv を超えなければ、単一年にこれよりも高い
実効線量が許されることもありうるとなっている。これは平常時の放射
線被ばくについての考え方であるが、これを発生頻度が小さい「事故」
の場合にも適用することとし、周辺公衆の実効線量の評価値が発生事故
当たり5mSv を超えなければ「リスク」は小さいと判断する。
この考え方は、発生頻度に応じて基準となる線量を決めたものと解釈して
よいか。(別添3)
2
(別添1)
事象の発生頻度の設定における
不確かさについて
安全目標専門部会報告
・ 定量的なリスク評価の結果には、一般に少なからず不確かさが伴
う。これは、リスク評価の際の機器の誤動作や誤操作の発生確率
の入力データや事故進展過程、事故影響発生過程に不確定性が
あるからである。1)
・ 発電炉を対象とするPSAにおいては、一般的には施設内に発生
する設備の故障や誤操作を起因とする内部事象のPSAに比較して、
地震等の自然現象に起因する外部事象のPSAでは、施設へのイン
パクトの大きさとその発生頻度の関係を評価するハザード評価に
必要な知識の不足等のため、より大きい不確実さが伴うとされてい
る。また、これらのPSAについてはまだ適用の経験が限られており、
今後、評価実績の積み重ねが必要とされる技術である。2)
1
出典:1)安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ(平成15年12月安全目標専門部会)
2)発電用軽水型原子炉施設の性能目標について-安全目標案に対応する性能目標について-(平成18年3月安全目標専門部会)
ICRP Pub.64(潜在被ばくの防護:概念的枠組み)
・ 決定論的評価方法にも確率論的評価方法にも限界と不確実性とがある。これらの評価における不
確実性には、以下のようないくつかの原因がある:
- 起因事象またはシナリオの選択および特定の不完全さ
- 共通原因故障を含む複雑な技術システムの相互依存のモデル化の不完全さ
- 事故シーケンスにおいて起こる多くのプロセスのように、実験的あるいは経験的データがほとんど
得られない、通常のプロセス制御以外の複雑なプロセスのモデル化の不適切さ
- とくに委任の誤りの取扱いに関しての人間信頼度解析の分野における不完全さと不確実性
- 専門家の判断をおもな基礎とした評価に関連する不確実性
- ソフトウェアの信頼性
- 安全に対する各人の態度と安全確保への管理者の関与(すなわち、“セイフティカルチャー”)に関連
する不確実性
・ しかし、このような不確実性が存在するからといって、潜在被ばくに対する防護体系の設計と実施の
際に利用しうる最良の道具として決定論的方法及び確率論的方法の使用を排除すべきではない。最
後に、ここで議論されたアプローチに基づくリスク評価は、実際の事故の頻度あるいは期待される影
響の予測に用いることのできる、正確な評価ではないことに注意すべきである。むしろそれらは、安全
システムと安全管理の質を解析し、安全の改善が最も適切な領域を特定することによって、安全性を
評価する現在利用可能な最良の方法を代表するものである。これらの評価によって、安全の適切さ
に対する確信が深められる。
2
出典:ICRP Pub.64(潜在被ばくの防護:概念的枠組み)77, 78段落(ICRP, 1993).
(別添2)
安全目標及びF-C曲線(FrequencyConsequence Curve)の設定等について
アメリカにおける安全目標
安全目標(健康目標値:Quantitative Health Objectives(QHOs))
・原子炉事故による原子炉施設周辺の個人の即時死亡リスクが、その他の事故
によるリスクの合計の0.1%を超えないこと。
・原子炉の運転による敷地外の個人のがん死亡リスクが、その他の原因によるが
ん死亡リスクの合計の0.1%を超えないこと。
※ この値を超えるリスクの付加が直ちに重大なリスクの付加を意味するわけで
はなく、施設が近傍にあるからといって人々が特別な懸念を抱かずに済むほど
に低い水準。1)
→ NUREG-1860(将来炉の審査に向けて検討されている基準案)(以下、「基準案」とい
う。)におけるF-C曲線を設定する上で考慮されている。
出典:NUREG-1860 Feasibility Study for a Risk-Informed and Performance-Based Regulatory Structure for Future Plant
Licensing, Volumes 1 and 2(U.S.NRC, 2007).
1)安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ(平成15年12月安全目標専門部会)
1
アメリカ(基準案)におけるF-C曲線設定の背景
背 景
○ 規制対象の拡大
現行の規制(10CFR50)は軽水炉指向の規制内容となっているが、今後は軽水炉以外
の多様な原子炉についても規制する可能性を考慮。
○ 技術的目標の設定
今後の規制を検討する際に①リスク情報の活用、②パフォーマンスベース、③深層防護
の導入、④柔軟性の確保、の4つの技術的目標を設定。
○ 安全目標(健康目標値)への適合
全ての事故事象を統合した統一的なリスクに対し、NRCが1986年に設定した安全目標
で定義された健康目標値を満足していることの確認。
○ 現行の確率論的リスク評価の問題点
現行の軽水炉の確率論的リスク評価は、CDF(炉心損傷頻度)またはLERF(大規模早
期放出頻度)のような事象で代表されるが、これらは軽水炉特有で、あらゆる原子炉に対
して適用可能なものではないこと、また、リスクは全ての頻度における事象について考慮
する必要があるため、CDFやLERFといった事象のみでは十分なリスク評価ができない。
軽水炉も含めたあらゆる原子炉に対して、設計許可段階で確率論的リスク評価を用いて軽
微な事象から重大事故までのあらゆる事故事象のリスクを考慮するため、F-C曲線を設定
出典:NUREG-1860 Feasibility Study for a Risk-Informed and Performance-Based Regulatory Structure for Future Plant Licensing,
Volumes 1 and 2 (U.S.NRC, 2007).
2
アメリカ(基準案)におけるF-C曲線設定について
1.E+00
10 CFR 50 App I のALARA線量として5mrem/y
1.E-01
容認できない領域
発生頻度(年あたり)
1.E-02
10 CFR 20 の公衆の線量限度として100mrem/y
1.E-03
EPA防護活動ガイドラインにオフサイト活動のトリガーとして1rem/event
1.E-04
容認できる領域
10 CFR 100の立地基準として25rem/event
1.E-05
早期健康影響のトリガーとして50rem
1.E-06
1.E-07
0.001
早期致死しきい値を超える線量範囲
300-400rem以上では早期致死がかなり起こり得る
500rem以上では非常に高い確率で早期致死が起こる
0.01
0.1
1
線量(rem)
10
100
1000
図 アメリカ(基準案)におけるF-C曲線
・ 現行の連邦規制(10CFR)に記載された各種線量限度等から設定
・ 高線量域においては、早期健康影響(確定的影響)、早期致死を考慮
・ 安全目標への適合性を判断するための性能目標の設定は今後の検討課題
出典:NUREG-1860 Feasibility Study for a Risk-Informed and Performance-Based Regulatory Structure for Future Plant Licensing,
Volumes 1 and 2 (U.S.NRC, 2007).
3
イギリスにおける安全目標
安全目標
・公衆の個人に広く受容されるリスクレベルとして、年あたり100万分の1未満
※ 人間の寿命が100歳程度とした場合の寿命期間中の年間死亡リスクを100分
の1とすると、100万分の1というリスクは、寿命期間中の年間死亡リスクと比較
して非常に小さい。
※ また、公衆の個人に対するリスクレベルが100万分の1である領域は「我慢で
きる領域」と呼ばれており、この範囲にあるリスクが受け入れられるためには、
リスクを合理的に実行可能な限り低くする努力がなされていると判断できること
が必要とされている。
→ 安全規制における許認可プロセスを定める保健安全執行部(HSE:Health and Safety
Executive)が定めた安全評価原則(SAP:Safety Assessment Principles)(以下、「安
全評価原則」という。)において、公衆の個人リスクについての基本安全目標値(BSO:
Basic Safety Objective)は1年当たり1×10-6と設定されている。1)
4
出典:安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ(平成15年12月安全目標専門部会)
1)安全評価原則(SAP)2006年版(保健安全執行部(HSE))
イギリスの安全評価原則について
安全評価原則の基本的な条件:
・ ALARP(as low as reasonably practicable)の原則(リスクは合理的に実行可能
な限り出来るだけ低くしなければならない)
安全評価原則の規制対象:
・ 原子炉の他、研究炉や核燃料貯蔵施設、放射性廃棄物貯蔵施設なども全て含
んでいる。
線量の制限値(基本安全制限値(BSL:Basic Safety Limit)と基本安全目標値
(BSO)):
・ BSLは線量限度。
・ BSOは線量目標値であり、これを超えてはいけないというわけではないが、超
える場合はその理由をALARPの原則から審査することになる。
事故による公衆の個人リスク:
・ BSOは1年当たり1×10-6(数値目標や法定限度の基本となるR2P2
(Reducing Risk, Protecting people)で広く許容しているレベルと無理なく一致)
・ BSLは1年当たり1×10-4(社会がより広く関心をもつのは一年当たり1万人に
5
出典:安全評価原則(SAP)2006年版(保健安全執行部(HSE))
1)
一人の頻度 )
1)Reducing Risk, Protecting people HSE’s decision-making process(HSE, 2001)
イギリスの安全評価原則における頻度及び線量目標の設定について
1.E+00
基本安全制限値(BSL)
基本安全目標値(BSO)
①
1.E-01
②
発生頻度(年あたり)
1.E-02
③ 事故当たり年間実効線量:10~100mSv、
発生頻度(BSL:10-2、BSO:10-4)
→ 数kmにおける食品使用制限、遮蔽または
安定ヨウ素の使用、サイト近傍の即時避難の
考慮
④
1.E-04
1.E-05
1.E-06
1.E-07
0.1
1
10
① 事故当たり年間実効線量:0.1~1mSv、
発生頻度(BSL:1、BSO:10-2)
→ サイト近傍で生産される食品使用制限考慮
② 事故当たり年間実効線量:1~10mSv、
発生頻度(BSL:10-1、BSO:10-3)
→ 食品使用制限、サイト近傍での遮蔽又は安
定ヨウ素使用の考慮
③
1.E-03
個別施設の事故に対する敷地外の個人を対象
100
1000
10000
④ 事故当たり年間実効線量:100~1000mSv、
発生頻度(BSL:10-3、BSO:10-5)
→ 食品使用制限の拡大、広範囲に及ぶ遮蔽
または安定ヨウ素の使用、サイト近傍即時避
難の実施
線量(mSv)
図 イギリスの安全評価原則における個別施設の事故に対する
頻度及び線量目標(敷地外の個人)
6
出典:安全評価原則(SAP)2006年版(保健安全執行部(HSE))
我が国における安全目標案
安全目標:
国の安全規制活動が事業者に対してどの程度発生確率の低いリスクまで管理を求めている
のかという、原子力利用活動に対して求めるリスクの抑制の程度を定量的に明らかにするもの
定性的目標案
・ 原子力利用活動に伴って放射線の放射や原子力施設から放出される放射性物質の放
散により公衆の健康被害が発生する可能性は、公衆の日常生活に伴う健康リスクを有意
には増加させない水準に抑制されるべき
定量的目標案
・ 原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによる、施設の敷地境界付近の公衆の個
人の平均急性死亡リスクは、年あたり百万分の1程度を超えないように抑制されるべき
・ 原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによって生じ得るがんによる、施設からある
距離にある公衆の個人の平均死亡リスクは、年あたり百万分の1程度を超えないように
抑制されるべき
※ 定量的目標案の「リスクは年あたり百万分の1程度を超えないように抑制されるべき」については、「原子力施設の設
計・建設・運転においては、リスクが年あたり百万分の1を超えないように合理的に実行可能な限りの対策が計画・実施
されるべき」ことを要求している。
※ 定量的目標案のそれぞれの指標について、急性死亡リスクは、不慮の事故による死亡率の0.3%程度、がん死亡リス
クはがんによる死亡率の0.05%になっており、日常生活に伴うリスクに比べ十分に低いレベル。また、死亡率の都道府
県毎の平均値や死亡率の時間的及び地域的ばらつきの大きさに比べても十分小さな値。
7
出典:安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ(平成15年12月安全目標専門部会)
我が国における安全目標案に対応する性能目標
性能目標:
安全目標への適合性を判断するための補助的な目標
原子炉施設の運転等の安全確保には多重防護の考え方が採用されていることを踏まえ、原子
炉施設の外側の層の防護機能を適切に仮定することによって、重大な事故や事象の発生確
率を安全目標に対応する性能目標として定める。
・ 発電炉の特性に着目した指標を選定
・ 定量的安全目標と同様に、事故による影響発生の可能性の原因として、機器のランダムな
故障や運転・保守要員の人的ミス等により発生する内的事象と、地震及び津波・洪水や航空
機落下等による外的事象の両者を検討の対象とする(意図的な人為事象は対象外) 。
○ リスクの源となる炉心に内蔵される放射性物質の放出をもたらす炉心損傷の発生確率
炉心損傷頻度(CDF:Core Damage Frequency):10-4/年程度
○ 原子炉格納容器等の発電炉の最外層の防護機能が確保されていれば、環境への放射
性物質の放出を極めて低いレベルに抑制することが可能であることから、格納容器の防
護機能喪失の年当たりの発生確率
格納容器機能喪失頻度(CFF:Containment Failure Frequency):10-5/年程度
両方が同時に満足されることを発電炉に関する性能目標の適用の条件とする。
※ CDFは、炉心の健全性を評価するレベル1PSAの結果から、炉心損傷に至る事故シーケンスの頻度を積算する。
※ CFFは、格納容器の放射性物質の閉じ込め機能の健全性及びソースタームを評価するレベル2PSAの結果から、
格納容器喪失に至る事故シーケンスの発生頻度を積算する。
8
出典:発電用軽水型原子炉施設の性能目標について-安全目標案に対応する性能目標について-(平成18年3月安全目標専門部会)
(別添3)
事故時における判断基準について
ICRPにおける公衆被ばくに対する線量限度の変遷について
・ ICRP1977年勧告では、公衆の構成員の実効線量当量限度は、生涯平均
1mSv/年が原則であるが、最大の線量当量を仮定する決定グループに対して
5mSv/年を認めていた。1)
・ 1985年パリ声明で公衆の構成員に関する主たる実効線量当量限度の値を
1mSv/年と定めた。また、補助的限度として生涯平均で1mSv/年を超えない限り
数年にわたって5mSv/年を用いてよいとした。2)
・ 1990年勧告では、公衆の被ばくに関する実効線量限度は1mSv/年とするが、
特殊な状況においては、5年間にわたる平均が1mSv/年を超えなければ、単一
年にこれよりも高い実効線量が許されることもあり得るとしている。3)
出典:1)ICRP Pub.26(1977年勧告)119段落(ICRP, 1977). 1
2)Annuals of ICRP Vol.15, No.3(ICRP, 1985).
3)ICRP Pub.60(1990年勧告)192段落(ICRP, 1990).
安全評価審査指針による基準「発生事故当たり5mSv」について
・ 安全評価審査指針における事故時において「周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくの
リスクを与えないこと」を判断するための基準:5mSv
・ 安全評価審査指針における「著しい放射線被ばくのリスク」についての解説は、以下のとおり変更されてきている。
(※下線部は事務局により追加)
→ 平成13年改訂で年間5mSvの補助的線量限度が撤廃されたICRP1990年勧告の記載を採用。
昭和53年9月29日
安全評価審査指針策定
(原子力委員会決定)
平成元年3月27日
ICRP新勧告反映に伴う安全審
査指針類の改訂について
(原子力安全委員会決定)
平成2年8月30日
安全評価審査指針策定
(原子力安全委員会決定)
平成13年3月29日
ICRP1990年勧告の原子力安
全委員会安全審査指針類への
取入れに係る検討結果につい
て(原子力安全委員会決定)
ICRPによれば、公衆に対する
年間の全身被曝線量として、
0.5レムを勧告しているので、こ
れを発生頻度が小さい事故の
評価にも適用することとしたが、
周辺公衆の全身被曝線量の評
価値は発生事故当り0.5レムを
超えなければ「リスク」は小さい
と判断する。
ICRPによれば、公衆に対する
年間の実効線量当量の主たる
限度として1mSvを勧告してい
るが、生涯にわたる平均の年実
効線量当量が1mSvを超えない
限り、年間5mSvという補助的
線量限度を数年間にわたって用
いることが許されるとしている。
従って、これを発生頻度が小さ
い「事故」の場合にも適用するこ
ととしたが、周辺公衆の実効線
量当量の評価値が発生事故当
たり5mSvを超えなければ、「リ
スク」は小さいと判断する。
ICRPによれば、公衆に対する
年間の実効線量当量の主たる
限度として1mSvを勧告してい
るが、生涯にわたる平均の年実
効線量当量が1mSvを超えない
限り、年間5mSvという補助的
線量限度を数年間にわたって用
いることが許されるとしている。
これは、平常時の放射線被ばく
についての考え方であるが、こ
れを発生頻度が小さい「事故」
の場合にも適用することとし、周
辺公衆の実効線量当量の評価
値が発生事故当たり5mSvを超
えなければ、「リスク」は小さいと
判断する。なお、発生頻度が極
めて小さい事故に対しては、実
効線量当量の評価値が上記の
値をある程度超えてもその「リス
ク」は小さいと判断できる。
ICRPの1990年勧告によれば、
公衆の被ばくに対する年実効線
量限度として、1mSvを勧告して
いるが、特殊な状況においては、
5年間にわたる平均が年当たり
1mSvを超えなければ、単一年
にこれよりも高い実効線量が許
容されることもありうるとなって
いる。これは平常時の放射線被
ばくについての考え方であるが、
これを発生頻度が小さい「事故」
の場合にも適用することとし、周
辺公衆の実効線量の評価値が
発生事故当たり5mSvを超えな
ければ「リスク」は小さいと判断
する。なお、発生頻度が極めて
小さい事故に対しては、実効線
量の評価値が上記の値をある
2
程度超えてもその「リスク」は小
さいと判断できる。