高圧力封じ切りcwCO2レーザーの利得 (388) 昭和55年3月 レーザーオリジナル 1 高圧力封じ切りcwCO2レーザーの利得 柴山耕三郎*・永井治彦*・永井昭夫* (1979年12月3日 受理) Small−signal Gain ofHigh Pressure Sealed−off cwCO2Lase:r. Kouzaburo SIBAYAMA悉Haruhiko NAGAI*and Akio NAGAI* (Received December 3,1979) Small−signal gain of a transversely excited gas−tr&nsport CO21aser was measured as a function of species and ratios of gas mixture.Buffer gases of N2,He,CO and Ar were studled under sealed−off conditions operating at pressures of250 Torr and350Torr. Maximum gωn was obtained when the laser gas composition was CO:CO2:N2:He:Ar=0.5: 1.513:5:5. Lαck o£N20r He causes a substantial decreace insmall−signalgain in thegas mixture ofCO,CO2,N2αnd He。 It is shown that Ar is more effective than He to enhance small−signal gain. Small−slgnal gain is not so affected by an additlon of a small amount of CO. The addition of CO makes a glow dlscharge stable but the addition of Ar tends to make it unstable. これに対して,著者らがこれから述べようと 1.まえがき グロー放電領域内を高速でレーザー媒質を通 するCO2レーザー装置はレーザー媒質ガスの圧 力を約250torr∼350torrと高く設定し,放電 過させながらレーザー発振をおこなわせる横方 部におけるレーザー媒質の質量流量を大きくし 向励起ガス循環型CO2レーザー装置において, レーザー媒質として通常用いられているCO2, 間約100時間)を実現したものである。1〉また, N2,Heの他にCOおよびArを用いて小信号 グロー放電の維持を容易にするためCOを新た て装置の小型化とガスの封じ切り(封じ切り時 利得(以下利得と略す。),を測定したので報告 に添加している。 する。 さらに,従来余り顧みられなかったArをHe CO2レーザー装置に沿いて一番多く普及して いるのはガス圧力30torr程度の低圧力でCO2, N・,Heの三種ガスを適当な組成比に設定して 発振させ,使用したガスの一部を常時新しいガ の代りに使って高い利得を得たので,CO、分子 の励起緩和過程におけるArの果たす役割につ いても触れる。 スと交換しながら所定の出力を得ている型のも のである。 2.実験装置 実験に使用したCO・レーザー装置の概略図を *三菱電機(株〉応用機器研究所(〒661兵庫県尼崎市南清水中野80) *Products Development Laboratory,Mitsubishi Electric Co.,Ltd., }Iyogo 661) 一46一 (Minamishimizu,Amagasaki, レ ザ 研究 第8巻第2号 ザービームをFig・1のグロー放電部へ紙面に 垂直な方向から導き,流れの方向に沿って走査 An◎de (Cu》 ⇒ Fb轡direc?ioハ、 (38a) 鵜1〈/Gb騨dischorge Co曾h{x短plo曾e する。入射プローブレーザービームの放電部に おける増幅の度合を測定することにより,グロ ・!〆(A匪20ゴ \ Co循ode(納o》 ー放電部における利得の値と分布を求める。利 得g・は次のように表わされる。 /2/Heo曾 exchonger 8・・一1n(1/1・)/Z (1) ただし,1・は入射ビームの強度,1は放電部 を通過して増幅されたビームの強度,Zは有効 放電部長さ,をそれぞれ表わしている。 轡⑧ 3.1 レーザーガスの初期組成 利得とガス組成との関連を調べるためにCO・ を基準にしてCOをCO、の1/2(モル比,以 下同様)添加し,更にN・とHeの量をその和が Fig.1 Schematic dlagram o{the gas transport sealed−off CO21aser which is operated CO2の約20倍程度になるように添加して,CO− CO・一N2−He四種混合ガスの初期組成とする。 for the pressure from250Torr to 350 Torr. Fig.1に示す。図において,発振軸は紙面に垂 レーザー媒質ガスを封じ切りで動作させる場合, 直であり,流れ軸は左右,放電軸は上下で三軸 グロー放電内で次の反応によりCO・の解離がお 直交となっている。レーザー媒質ガスは送風機 こり により循環されており,グロー放電部における 流速は約30m/sである。陽極は無酸素銅の平板, 1 CO2→CO十一〇2 (2) 2 陰極はモリブデンの棒でそれぞれできている。 02を発生する。そして発生した02はグロー放 陰陽極間の間隔は1.1cm,陰極本数は23本,陰 電を著しく不安定にするので21,0,の発生を抑 極間の間隔は0.8cm,有効放電部長さは18.4cm えるためにCOを添加している。COの添加に である。このほかに,ガラス管でできた同軸型 より,予想どおり放電は安定になる傾向を示す21 のプローブレーザー装置があり,グレーティン が,利得は後述するように幾分減少の傾向を示 グを用いてP(20)線の発振をおこない利得の 測定に供している。このプローブレーザー装置 の出力は約1W,レーザービームの直径は約7 す。 【nm(1/eZ)である。 3.実験 実験の手順は次のとおりである。油回転ポン プを使ってCO2レーザー装置を真空に引き, 0.04torr程度になったところで油回転ポンプ を止めレーザー媒質ガスを導入して所定の圧力 に設定し,封じ切る。その後,送風機によりレ Fig.2はCO:CO2の比を0.5:1に固定し て,N2とHeの組成比(ただし,和は一定)の みを変化させて利得を測定したものである。図 によれば,レーザー媒質ガス中にHeがないCO :CO2:N2=0.5:1:19のときや同様にN2 がないCO:CO2:He=0.5:1:19のときが, 当然のことながら利得は低いことが分る。これ は,HeがないときはCO、の下位準位の緩和作 用が,またN・がないときは上位準位への励起 作用が,それぞれ大きく欠けているからだと考 ーザー媒質ガスを高速で循環させながら陰陽極 えられる。また,最大の利得は上位準位への励 間に直流電圧を印加し,グロー放電を生成させ 起と下位準位の緩和のバランスからCO:CO2 る。プローブレーザー装置から発生されるレー N2:He=0.5:1:3:16のときに得られている。 一47一 昭和55年3月 高圧力封じ切りc、v CO2レーザーの利得 (.390) Q6 Q6 Q5 0、5 Q4 04 1 「 E o ぷQ3 Q3 一 E o /( ぷQ3 c に o σ o O、2 o Q2 一 ニ ’6 Ql o Dischσrge curre所 α5A Dischorgecurren曾Q5A O o 器 Gospressure550■◎rr GGs pressure 250Torr Ql Q2酵 ノ ,ε O,1 O O Q25 σ5 a75 100 02468101214博擾39 閥2 19 17 15 15 11 9 7 5 3 10 He Mixture ro曾io of CO Variati・ns()fgainexl)re讐edintheunit Fig.3 Mixture rqtio of N20r 卜絶 CO=CO2:N2+He=O。5:1319 ()f %cm『量and %cm’I k、v I as a func tion o蚕mixture ratlo ofCO. Fig.2 Vari妓tiQnofg&h1αs菰functi()nofmixture 7rhe abscissa shows the mlxture ratk) r&tio ofN20r He. ofCOwhenalasergas ismixedas CO :CO2 :N2 :He=x : 1 : 3 : 16. In thiS CaSe, X denOteS the miXtUre ratio of CO. 3.2 CO組成比の検討 3.1で見い出した適当な組成CO:CO2:N2: 6 He−0.5:1:3:16をもとに,CO組成のみ 70 を変化させて利得との対応をみたのがF孟g。3で 5 ある。また,そのときの放電電圧およびガス温 度をFig.4に示す。 レ Fig.3によれば、COの添加を多くするにつ }4 一 ど ⑪ oo れて利得が減少していることが分る。また,CO = の の添加は安定な放電が維持される限り少ない方 :》3 3 占 が良いこと,CO2の0∼O.25倍程度のCOを 5 添加すると高い単位電力当りの利得を得ること .望2 0 がで’きること,などが分る。 1 』/ 40c 309 3 0 20 o’明’”αfhes?σr才ofdischqrge Gos pressure 350τorr Dischαrgecurreu量 0,5A 圧Vsと放電開始直後の電圧11・との比11・/1/・は ε 50し ∈ と …… ㊧一〇fteronehourdischαrge Fig.4によれば,COの添加を多くする方が 放電開始後1時間以ヒ経過して平衡に達した電 lO OO O.25 0.5 075 曾。O 0 小さくなっていることが分る。グロー放電の放 電維持電圧が変化するのは,CO・の解離の結果 Mix勧re rotio of CO CO;CO2;N2:He=x:1:3:16 グロー放電のインピーダンスが上昇するためで あると推測できる。したがって,COの添加を 6Q Fig.4 多くするにつれて放電維特電圧の変化率V。ハ1。 が小さくなるということは,(2)式の解離反応の 一48一 Variati()ns of disci、arge voltage and gas しemaperatureasafunctlonofmixture ratio ofCO. 第8巻第2号 (3911 ザ 研究 レ 生成が少なくなることを示していて,所期の目 06 的どおりCOが働らいているものと考えられる。 一方,放電部後方において熱電対により測定さ 0,5 O,3 れたレーザー媒質ガス温度が示されているが, この温度は当然ながら平衡時の放電電圧と同一 の傾向を示している。また,後で触れるように 利得はガス温度に対する依存性を持っているの で,利得を議論するときにはガス温度を考慮し T E Q ぷ マ 障 乙/ O,4 ∫ 8∈ o ぷ O,2一 0.3 .…i c なければならない。 o o o o 3.3 Arの添加 レーザー媒質ガスの一つとしてHeの代りに O,2 Gos pressure 250Torr Dischorge curren曾 0。5A O,1 0,1 Arを用いる。ArはHeと同じ希ガス元素であ るが,CO2レーザー発振の機構に関して,どう 00 いう役割を果しているのか十分には研究されて of %cm−1哉nd % cm司 k、v−I as a func ti(川 of 星nixture ratio of Ar. 6 ないので,Ar以外の組成比をCO:CO2:N2 −0.5二1:3としArの組成比のみを変化さ せて利得を測定する。結果をFig.5および 一→ 5 レ Fig.6に示す。Fig.5とFig.2とを比較する oo 9 2 600 望 3 Φ ③ Lロ 5 .望2 0 減少の傾向を示している。一方,単位電力当り 80 G 70ξし と てもほとんど増大せず,それ以上増加させると 90 5 4 ① と,Arを用いた方がHeの場合よりも高い利得 が得られていることが分る。また,Fig,5によ れば電力で規格化していない利得はArの組成 比を4から10(約50%から70%)まで増加させ 』 お α ∈ の 50← 8 0 40 ㊤。一〇f曾er one hour dischαrge の利得はArの組成比を増加させるにつれて増 大する傾向を示し,CO:CO2:N2:Ar−0.5 1:3:10の近傍で最大値に達したのち,徐 1 o一・一・o曾曾he s曾or↑ of dischdrge Gos pr⑤ssu四 250T◎rr 以schorgecurreu曾 (瓦5A OO 々に減少している。これは,Fig.6に示してい 度が示されている。図によれば,COとCO2の Variatiollsofg&i1、exl)ressedhltheq監1it Fig.5 合放電の安定のために特にCOの添加が欠かせ る放電電圧がArの組成比を増加させるにつれ て減少するためである。Fig.6にはo.5Aの放 電電流を維持するための放電電圧およびガス温 O Mix曾ure rαio of Ar CO:CO2;N2=Ar書05:1:5:X いない状態である。明らかなことはArを用い ると,放電のインピーダンスが上がりグロー放 電を安定に維持することがHeの場合よりも困 難になるということである。また,Arを使う場 4 6 8 10 !2 14 4 6 8 10 12 30 O l4 Mixture rαio of Ar CO:CO2;N2:Ar=Q5=1:3:X Fig.6 Variations of出scharge voltage alld gas temi)era−tureasαfunctlon()fmixture rati《)of、へr. 組成比が一定なので,放電平衡時の電圧玉なと 放電開始直後の電圧11・との比V。ハ1・もほぼ一 離反応の生成が電圧上昇の主原因であることを 定になっているのが分る。このことも(2)式の解 裏づけている。また,放電電力にほぼ比例して 一49一 高圧力封じ切りcw CO・レーザーの利得 (392) 06 どう変化するかを,Fig.3の場合と同様に測定 した。結果をFig.7およびFig.8に示す。 04 σ“\ o\。 _ 04 1E o 詳 昭和55年3月 /0送、 一〇,3 .9 0 0 0.2 Fig・7はFig・3のCO2とN2,HeにCOを添 し加した場合と良く似ていて,電力で規格化して マ 障 ヱ いない利得はCOの添加を増加するにっれて直 線的に減少し,単位電力当りの利得はガス温度 ぷ を考慮するとCO:CO2:N2:Ar−0∼0.5: 丁 ∈ o Q3 ⊆ o o Gospressure250Tbrr O.1 Dischorge curren曾O,5A % O.5 1,0 3.4 ArとHeの併用 従来の四種混合ガスをArとHeを用いた五 O 種混合ガスヘ変える。 3.3のArを用いた実験 Fig.7 Variations of gain expressed ln the unit of % cmq and % cm一I k w碗 as a func tion o壬mlxture ratio of CO. により,組成比がCO:CO2:N2:Ar−0.5: 1:3:10の場合は他の組成比の場合よりも高 い単位電力当りの利得を示すことが分った。そ こで,上の組成比に近い組成比として,CO: 6 5又、∠二二二= この図にもFig.4との類似性がみられる。 Q2 Mlx曾ure rαio of CO CO;CO2:N2:Ar=Xl:1:3;IO ム 1:3:10で最大値を示している。Fig.8はガ ス温度と放電電圧の変化の様子を示している。 CO2:N2=0.5:L5:3に設定してArとHe の和が10(約70%)になるようにArとHeの 90 80 組成比を変える。Arのみだうた場合に比べて 髪 一4 0 ひ o お δ 70ξし Heを加えると,顕著な現象としてグロー放電 06 o、 82 里 コ 60右 藪 50垂 2 o∼〇 ㊨一・of強ro騎ehourdi6chorge Q5 93 聾 δ 醐閣一一胴一噂一一繭一一扁一一繭一一● 一 O−o曾愉es曾or量ofd繍rge 1 の維持が容易になる。 8 0 40 04 て ^Q 7§ Go5伊髄騨e250而rr Di3chor9曾 c㈱n曾 α5A O一一〇軸 30 訳Q3 婁 毛 Q3§ .…≡ % Q5 10 8 O .∈ Q2 Mix?ure ro曾io of CO COICO l麗3AF■:t:3:10 O.1 o o Q2 Fig.8 Var latlons of discharge voltage and gas temperature as a function of mixture ratio of CO. % 24 6 810%, ガス温度が上昇している様子が分る。 Mix曾ure 『o価◎ of Ar (》r H陰 上記の如くして求めたArを用いる場合の適 CO=COゴN2;Ar+Hle雰Q5:1.533:10 1086420He 当な組成CO:CO,:N,:Ar=0.5:1:3: F麻9 Variatlonsofgalnexpressedintheunit of % cm一巳and % cm一見 k w『I as a func tion 10をもとに,CO組成のみを変化させて利得が 一50一 of mlxture ratio of Ar or He. 丁払e sum of Ar and He ls fixed lO. 第8巻第2号 6 一 5 β 54 2 器 準位のCO・分子数の差が少なくなり,利得が減 少する。 80 0,6 709 轟 22 島 一 δ ⑧一”o彌ro価o枷rdl蜘聯 Q5 9 602 9 a 50墓 ← の 菊8 ^O。4 T き レα髄鵬r曾留61蜘rgo 曾 GG略網蝕柵 250伽r 晦㎝r酬↑ 0.5A §Q3 30 .⊆ o o Q2 鮎 0 節 246810Ar 8 6 4 2 0 He Gos騨sure350Tbrr 鰯ix禰e rO↑ioofAr or融 CO;CO圏:麗3:Ar+H晦3Q53¶,533310 Fig.10 (393) 位準位のCO・分子数が増加し,上位準位と下位 90 篁3 研究 レ ザ o,1 Variations of dlsch&rge voltage and gas temperature as a functlon of mlxture ratio of Ar or He. OO 20 40 60 80 100 Gos?emperoture(。C》 Fig.9は上述のようにArとHeの和が常時 10(全ガス中の約70%)になるように変化させ Dischorge curren曾Q5A CO3CO2;N2:He8Q531:3η6 Variatlon of gain as a function of gas Fig.11 tempe ra tu re. たときの利得の変化を示したものである。Ar 06 とHeが等量のとき,すなわちCO:CO2:N, O∼O一・一・_。_。_ :Ar:He=0.5:1.5:3:5:5のときに 一番高い利得が得られていることが分る。また, Heを添加しないCO=CO2:N2:Ar=0.5: L5:3:10の場合の方が,Arを添加しな いCO:CO2:N2:He=0.5:1.5:3:10の 場合よりも高い利得を示している。Fig.10は 放電電圧とレーザー媒質ガスの温度を示してい る。図によれば,当然のことながら,放電電力 O,5 (O,4 T …i △_一△ 、△∼△∼△_△_ §Q3 .…≡ o o O,2 に比例してガス温度が上昇している。 4.検討 Gos pressure 250Tbrr Disch繭ecurren曾Q5A O…・CO2:N2=Ar3い31℃ 4.1利得のガス温度依存性 O.1 △一CO2:N2:H睡3 い3:憾 Fig。11は利得のガス温度依存性を示す図で, レーザーガス温度が上昇するにつれて利得が減 %102030405060 少している様子が分る。図によれば,レーザー 媒質ガス温度が50℃上昇すると利得の減少は 0.07%cm−1で1℃当りL4×10『3%cm−1程度 DischGrge†ime(mirし) Fig.12 の減少になっている。ガス温度が上昇すると下 一51一 Varlationofgainasafunctionof discharge time. (394) 4.2利得の経時変化 高圧力封じ切りcw CO2レーザーの利得 昭和55年3月 著な働らきはCO・の解離を少なくして,解離に 解離するCO・の量に対する目安を得るために 際して生じる0・を減少させることにより,グロ COを添加しない三種ガスCO2:N2:Ar−1 3:10お・よびCO2:N2:He−1:3:16の ー放電を安定にしていることであるといえる。 Arに関しては,Heの場合程十分には研究さ 二通りの場合にっき,利得の経時変化を測定し れていないのが10」1・12現状である。文献9・131によ た。結果をFig.12に示す。 図によれば,いずれの場合も利得の経時変化は れば,ArにはCO・分子の下位準位の緩和を促 進する働きはほとんどないといわれている。こ の情報を基に,Arを用いた場合の高利得を説 明しようとすれば,Arは上位準位にあるCO・ 分子数を実効的に増加させる役割をもっている とみなさなければならない。そうであれば,グ 少ない。Fig.3やFig。7によれば,添加される COの量が増加するにつれて利得も少しづっ減 少しているので,経時変化が少なく利得が余り 減少しないということは,解離の結果生成する COの量も少ないであろうこどを示している。 ロー放電中でAr分子と電子とが衝突すること すでに述べたように,解離に際して生じる0・は極 で電子のエネルギー分布が2.3eV近傍**で最大 めて少量でも放電を不安定にするので,利得よ 値をとるようになり,その結果N・を効率良くそ りもむしろ放電の安定性の方がCO・の解離から 単に検討する。 の第1準位から第8準位までに励起すると考え るのが自然である。そして励起されたN・分子 はCO,分子との衡突によりそのエネルギーを CO・分子へ与え,上位準位に存在するCO・分子 を増大させる。上述したように,Arに下位準 位の分子数を減少させる働きが少なく,上位準 窒素N・はレーザーの上位準位の分子数増大 位の分子数を間接的に増大させているのみだと にのみ大きく寄与し,下位準位の緩和には余り は諸説5がある。最有力な説7一として,N2とは逆 すれば,その役割はN2に似ている。一方,He のような希ガス元素は下位準位の緩和に有効な ことが分っているので,同じく希ガス元素であ に上位準位の分子数増大には有効ではないが, るArも下位準位の緩和に有効ではないかと推 下位準位の緩和を促進する働きがあるといわれ 論することも可能であろう。なぜなら,Fig。3 ている。COに関しても次のような説がある。 ると,COは上位準位の分子数増大にも有効で とFig.7との極めて良い類似性やFig.12の経 時変化の類似性などをみると,Arの役割がN・ の援護作用とのみ考えるよりは,Heの代役と あるし,下位準位の緩和にも有効であるといわ しても働いているという風にも考えられるから 受ける影響は大きいものと考えられる。 4.3各種ガスの役割 実験に用いた各種添加ガスの役割にっいて簡 有効ではないことがわっている。4㌧5Heに関して まずCO2−COの系におけるCheoの研究8によ れている。一方,co2やCQ以外にもN2やHe である。このArの役割の詳細に関しては,今 が存在する系では,COは下位準位の緩和に対 後の研究により更に明らかにされることを期待 して非常に有効であるにもかかわらず,衝突に する。 より励起状態のN2からエネルギーを奪うので, 実質的にCO2上位準位の分子数を減少させ,利 5.あとがき 得の向上には効かないともいわれている。41この ほかにもCO2−CO−N2の系ではC Oの振舞は N2と似ていて,少量のCOを添加しても系のレ ーザー作用には何の影響も与えないともいわれ ている。9一レーザー作用に大きな影響を与えない のはわれわれの実験の場合も同様*で,COの顕 *この報告では触れていないが,少量のCOを添加 しても,利得のみでなく出力にも大きな影響を与え ない。 **電子は電子エネルギーが約1.5eV−3・5eVのとき のみN,を上位準位へ励起することが分っている。5 そして,このときの衡突断面積のピーク値は電子エ ネルギーが約2.3eVのときに得られている。 一52一 第8巻第2号 レーザ 一研究 (395) 横方向励起ガス循環型CO・レーザー装置に通 さ姶ごに本研究を遂行するに当り,種々御指 常余り用いないCOやArを用いて,しかもレ 導いただきました当研究所秋葉稔光博士および ーザー媒質ガスの排気交換をしない封じ切りで 得られたデータについて御討議いただきました 菱井正夫氏に深く感謝いたします。 利得を測定したので報告した。また,利得の測 定結果を用いて,COやArの果している役割 参考文献 についても検討した。 結果を簡単にまとめると次のようになる。 1)永井冶彦,永井昭夫,秋葉稔光:応用物理,47 11)CO.2とN≧およびHeまたはArを適当な組 成比に設定し,レーザー媒質と1、て用いる場合 (1978) 578. において,COを少量添加しても利得は余り変 わらない。また,COの添加によりグロー放電 は安定になる傾向を示し,特に封じ切り動作で 2)柴山耕三郎,菱井正夫,永井冶彦,永井昭夫,秋 葉稔光=第25回応用物理学会学術講演会予稿集(1978), 2喫D4. 3)柴山耕三郎,永井冶彦,永井昭夫二第27回応用物 理学会学術講演会(1980)発表予定 4)稲場文男,霜田光一他編:レーザーハンドブック (朝倉書店,1973)p 120. 5)P.K.Cheo:Lasers 3 (Marcel Dekker,1971) p141. は,ン放電の安定上COの添加は欠かせない。 (2ルーザー媒質ガスの組成比がCO:CO2: N2:He:Ar−0.5:1.5:3:5:5のとき, 最大の利得が得られた・ (3)ArとHeを比較すると,Arを用いる場合 の方がHeを用いる場合よりも高い利得が得ら れる。 (4〉Arを用いてもHe以上の利得が得られてい るので,高価なHeを用いなくてもArを使用 することにより,CO2レーザー装置を運転でき る。’41ただ,ArはHeよりも熱伝導率が悪く, グロー放電の安定な維持が難しいので,冷却効 率が悪く放電維持電圧の高い同軸ガラス管型の CO2レーザー装置には向かないものと思われる。 6)清水文子:応用物理,45(1976)18. 7〉A.」.Demaria 二Proc.iEEE, 61 (1973)731. 8)P.K.Cheo :IEEE J.Quantum Electron.,QE・4 (1968) 587 . g)R。L.Taylor a織d S.Bitterman :ReV.mod. Phys.,41(1969)26. 10)C.K.N.Patel,P.K.Tlen and J.H.McFee:ApPL Phys.Letters,7(1965)290. ll)H.Hara and S.Nakao :Jpn.J.AppL Phys. 17 (1978) 971 . 12)H.Hara,S.Nakao and A.Fujisawa :Opt. Commun.,27(1978)415 13)N.N.Sobolev and V.V.Sokovikov :Soviet Physics→ETPLetters,5(1967)122,transl. P99 14)柴山耕三郎,永井冶彦,永井昭夫:第4C回応用物 理学会学術講演会予稿集(1979),2&C1. 一53一
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