【課題】脂質代謝異常を正常化するための治療剤の提供。

JP 2006-160757 A 2006.6.22
(57)【 要 約 】 ( 修 正 有 )
【課題】脂質代謝異常を正常化するための治療剤の提供。
【 解 決 手 段 】 ヒ ト 線 維 芽 細 胞 由 来 の 公 知 蛋 白 質 で あ る T C F − II( ア ミ ノ 酸 数 : 7 2 3 個
、非還元下での分子量78,000±2,000、又は74,000±2,000)を有
効成分とする脂質代謝異常の治療剤。
【効果】レシチン−コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性上昇効果
および胆汁鬱滞により引き起こされる高トリアシルグリセロール血症の治療効果がある。
【選択図】なし
(2)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
T C F − IIを 有 効 成 分 と す る 、 L C A T 活 性 上 昇 剤 。
【請求項2】
T C F − IIを 有 効 成 分 と す る 、 胆 汁 鬱 滞 に よ り 引 き 起 こ さ れ る 高 ト リ ア シ ル グ リ セ ロ ー ル
血症の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本 発 明 は 、 T C F − IIを 有 効 成 分 と す る 脂 質 代 謝 異 常 治 療 剤 に 関 す る 。
10
本発明は、糖尿病、甲状腺および副腎機能不全等の内分泌疾患、慢性代謝性疾患、ネフ
ローゼを含む慢性腎臓疾患および尿毒症、癌、悪液質、制癌剤の副作用、消化器(肝およ
び膵機能を含む)障害等を原因とした、高コレステロール血症、低脂質血症、低HDL血
症等の脂質代謝異常の治療剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の60%以上が高血圧、動脈硬化、糖尿病などの成人病のために命を失っ
ている。一般に成人病は内分泌機能や脂質代謝機能の減退などの内的要因が主要な役割を
演じているが、それらの調節機構は未だ不明な点が多い。現在考えられている高脂血症治
療剤を作用機序別に分けてみるとコレステロールや胆汁酸の吸収阻害、コレステロール合
20
成阻害、超低比重リポ蛋白(VLDL)の代謝に対する影響を介して作用する高脂血症治
療剤に分類される。高比重リポ蛋白(HDL)−コレステロールの低下を伴う高脂血症は
、動脈硬化性疾患である虚血性心疾患、高血圧、虚血性脳障害などの重要なリスクファク
ターとなっている。高脂血症治療剤の薬効については単に血清脂質を下げるばかりでなく
、高脂血症の増悪要因であるHDL−コレステロールの低下やレシチン−コレステロール
アシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性の低下した状態を改善し、代謝過程の停滞を
除去することで、高脂血症から動脈硬化性疾患への進展を防ぐことが分かってきた。
【0003】
しかしながら脂質代謝を合目的に改善する脂質代謝改善剤は現在開発されていない。現
在、臨床で用いられる脂質代謝異常に関する治療薬として、高脂血症には3−ヒドロキシ
30
−3−メチル−グルタリル−CoA(HMG−CoA)還元酵素を阻害するプラバスタチ
ンナトリウムや血清脂質清澄化作用を有するクロフィブラート等、又、低脂血症には高カ
ロリー輸液等の栄養補給が挙げられるが、原発疾患に限らず症状に応じた別々の治療剤が
使われており、脂質及び糖質代謝に関連した内分泌機能異常等による両者のバランス異常
による脂質代謝異常を改善及び/又は治療する薬剤は無かった。糖尿病では種々の成因の
結果として、インスリンとグルカゴンのバランス、膵機能を含む内分泌機能の障害により
肝臓、脂肪、筋肉、皮膚、腎臓などの代謝に異常が生じ、病態を示している。脂肪組織の
役割はエネルギーが過剰のときは脂質として貯蔵し、必要に応じて脂肪を分解しエネルギ
ー源として体内に供給することである。糖尿病ではインスリンの欠乏およびグルカゴンの
過剰があるために、脂肪組織では合成が阻害され、分解が促進される。即ちインスリン作
40
用の低下により脂肪細胞のブドウ糖摂取は減少するので、α−グリセロリン酸、NADH
、NADPHの産生は減少し、脂肪酸の合成、再エステル化が減少する。一方、インスリ
ンの欠乏およびグルカゴンの増加はホルモン感受性リパーゼの活性を上昇させて脂肪を分
解させる。また、脂肪肝の発症機序は肝におけるトリグリセリド合成及びVLDLの合成
・分泌のいずれかの過程で障害が生じることにより発症すると考えられる。
【0004】
具体的には肝における脂肪酸合成の促進、末梢脂肪組織から肝への脂肪酸動員の増加、
肝における脂肪酸酸化能の低下、肝でのリポ蛋白の合成・分泌の低下等が考えられる。例
えば、肥満に伴う脂肪肝では末梢脂肪組織量の増大により末梢脂肪組織からの脂肪酸動員
が増加している。最近では、内臓脂肪蓄積による門脈血中脂肪酸の増加と脂肪肝発生の関
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(3)
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連 が 注 目 さ れ て い る 。 ま た 、 肝 に お け る 脂 肪 酸 の de novo合 成 の 律 速 酵 素 で あ る ア セ チ ル
CoAカルボキシラーゼ活性が肥満症で上昇しており、肝での脂肪酸合成の亢進が示唆さ
れている。一方、肥満症では、末梢脂肪組織でのインスリン抵抗性の増大を代償するため
、高インスリン血症が招来される。正常インスリン分泌を示す肥満症に比較し、高インス
リン血症を伴う肥満症に脂肪肝が高率に合併することが知られている。このように、糖と
脂質の連動する代謝異常に対し、血中で脂質を運搬する血清リポ蛋白の合成を促し脂質の
組成への転送や代謝を改善する作用、エステル化に関わるLCAT活性を増加させ、遊離
コレステロールレベルを下げHDL−コレステロールレベルを増加させる作用、胆汁排泄
を促進させ血清脂質レベルを低下させる作用、肝細胞に蓄積したトリグリセリドの汲み出
しを促進し脂肪肝をも改善する統合的脂質代謝改善薬は存在していなかった。
10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況に鑑み、本発明者らは糖と脂質の連動する代謝異常に対する治療剤につ
い て 鋭 意 研 究 し た 結 果 、 T C F − IIが 脂 質 代 謝 に お い て 、 血 中 で 脂 質 を 運 搬 す る 血 清 リ ポ
蛋白の脂質の組成への転送や代謝と特異的に関係していることを見出した。すなわち、そ
の合成障害、エステル化に関わるLCAT活性の低下、及びそれらに伴うHDLの減少が
高脂血症、動脈硬化症等の脂質代謝異常を伴う成人病のリスクファクターとして重要視さ
れ て お り 、 こ れ ら に 対 し T C F − IIが i n v i v o に お い て 強 力 な L C A T の 上 昇 作
用と低HDL血症の改善効果を示し、さらに血清リポ蛋白を増加させることにより脂質の
20
転送を促進し血清脂質レベルを正常化させることを見出した。従って、本発明はTCF−
IIを 有 効 成 分 と す る 脂 質 代 謝 異 常 を 正 常 化 す る 効 果 を 有 す る 治 療 剤 を 提 供 す る こ と を 課 題
とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本 発 明 は 、 T C F − IIを 有 効 成 分 と す る 脂 質 代 謝 異 常 治 療 剤 に 関 す る 。 本 発 明 は 、 糖 尿
病、甲状腺および副腎機能不全等の内分泌疾患、慢性代謝性疾患、ネフローゼを含む慢性
腎臓疾患および尿毒症、癌、悪液質、制癌剤の副作用、消化器(肝および膵機能を含む)
障害等を原因とした脂質代謝異常の治療剤として有用である。このような脂質代謝異常症
としては、高コレステロール血症、低脂血症あるいは低HDL血症などを挙げることがで
30
きる。また、高脂血症、胆汁鬱血により生ずる高脂血症を挙げることができる。さらに、
高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール増加、レシチンコレステロールアシルトランス
フェラーゼ(LCAT)活性の促進、肝臓からのトリアシルグリセロール排泄促進、胆汁
排泄促進等のために用いることもできる。
【0007】
本 発 明 の 有 効 成 分 で あ る T C F − IIは 、 ヒ ト 線 維 芽 細 胞 由 来 の 公 知 の 蛋 白 質 で あ り 、 ヒ
ト線維芽細胞由来のものは下記の特性を有する。
i) 分子量(SDS電気泳動法)
非 還 元 下 : 78,000± 2,000 又 は 74,000± 2,000
還 元 下 : 52,000± 2,000 ( 共 通 バ ン ド A )
40
30,000± 2,000 ( バ ン ド B )
26,000± 2000( バ ン ド C )
ii) 等 電 点 : 7.4 ∼ 8.6
iii)ア ミ ノ 酸 : 723 個
上 記 T C F − IIは 、 ヒ ト 線 維 芽 細 胞 培 養 液 を 濃 縮 し イ オ ン 交 換 体 に 吸 着 さ せ 、 そ の 溶 出
液をアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製する方法(WO90/10651号
公報)、或いは遺伝子工学的手法(WO92/01053号公報)によって得られる。
【0008】
本 発 明 の 有 効 成 分 で あ る T C F − IIは 、 線 維 芽 細 胞 由 来 の も の を 用 い る こ と が 可 能 で あ
り、又、WO90/10651号公報に記載された遺伝子配列に基づいて、微生物や他の
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細胞により遺伝子組換え操作により生産されたものでもよい。又、WO92/01053
号公報に開示された遺伝子工学的手法により得られたものを用いてもよい。この時、宿主
細胞又は微生物の違いによる糖鎖の異なったものや、糖鎖の結合していないものであって
も使用可能である。しかし、糖鎖は生体内の代謝速度に関係しているため、糖鎖の結合し
て い る も の を 用 い る こ と が 望 ま し い 。 こ れ ら の 方 法 に よ り 得 ら れ た T C F − IIは 、 通 常 の
単離精製法によってさらに濃縮、精製することができる。例えば、有機溶媒による沈殿法
、塩析、ゲル濾過、モノクローナル抗体を用いたアフィニティークロマト、電気泳動法等
が挙げられる。モノクローナル抗体を用いたアフィニティークロマトによる精製は、特開
平5−97号公報に開示されているモノクローナル抗体を用いて精製することができる。
得 ら れ た 精 製 T C F − IIは 、 凍 結 乾 燥 或 い は 凍 結 保 存 す る こ と が で き る 。
10
【0009】
本発明の脂質及び糖質代謝異常治療剤は、注射剤として静脈、筋肉内、及び皮下より投
与することができる。これらの製剤は公知の製剤学的製法に準じ製造され、必要に応じp
H調整剤、緩衝剤、安定化剤等を添加することができる。本発明の製剤を患者に投与する
場合、投与患者の症状の程度、健康状態、年齢、体重等の条件によって異なり、特に限定
さ れ な い が 、 成 人 1 日 当 た り 精 製 T C F − IIと し て 0 . 6 m g ∼ 6 0 0 m g 、 好 ま し く
は 6mg∼ 60mg を含有する製剤を1日1回若しくはそれ以上投与すれば良い。
【発明の効果】
【0010】
本 発 明 に よ り 、 T C F − IIを 有 効 成 分 と す る 脂 質 代 謝 異 常 の 治 療 剤 が 提 供 さ れ る 。 本 発
20
明治療剤は、高血清脂質を低下させ、低脂血症を正常化させる作用を有する。又、脂肪肝
を改善する効果を有している。
[実 施 例 ]
【0011】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。しかし、これらは単に例示するの
みであり、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
T C F − IIの 精 製
W O 9 0 / 1 0 6 5 1 号 公 報 に 開 示 さ れ た 方 法 及 び 東 尾 ら の 方 法 ( Higashio,K. et al,
30
B.B.R.C., vol.170, pp397-404 (1990))に 準 じ て 細 胞 を 培 養 し 、 精 製 T C F − IIを 得 た 。
ヒト繊維芽細胞IMR−90(ATCC CCL 186)細胞を5%仔牛血清を含むD
MEM培地100mlをいれたローラーボトルに3×10
6
個移植し、0.5∼2回転
/分の回転速度で回転させながら7日間培養を続けた。総細胞数が1×10
7 個になっ
たところでトリプシンにより細胞を剥離し細胞をボトル底面に集め、5∼9メッシュのセ
ラミック100g(東芝セラミック社製)を殺菌して投入し、24時間静置して培養した
。その後、上記培養液を500ml加え、培養を継続した。7∼10日ごとに培地を全量
回収し、新鮮培地を補給した。このようにして2ヵ月間生産を継続し、ローラーボトル一
本当たり4lの培養液を回収した。このようにして得た培養液当たりの比活性は32μ/
mlであった。培養液750lをメンブランフィルター(MW6000カット;アミコン
40
社製)処理によりUF濃縮し、CMセファデックスC−50(ファルマシア社製)、Co
nAセファロース(ファルマシア社製)、MonoSカラム(ファルマシア社製)、ヘパ
リンセファロース(ファルマシア社製)による5段階のクロマト精製を行い、精製TCF
− IIを 得 た 。
【実施例2】
【0013】
遺 伝 子 組 換 T C F − IIの 生 産
W O 9 2 / 0 1 0 5 3 号 公 報 に 開 示 さ れ た 方 法 に 従 い 、 T C F − II遺 伝 子 を 組 み 込 ん だ
細 胞 を 培 養 し 、 精 製 T C F − IIを 得 た 。 形 質 転 換 ナ マ ル ワ ( N a m a l w a ) 細 胞 を 培 養
し、培養液20lを得た。この培養液をCM−セファデックスC−50クロマト(ファル
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マシア社製)、Con−AセファロースCL−6Bクロマト(ファルマシア社製)、Mo
noSカラム(ファルマシア社製)を装着したHPLCの順に処理を行い、約11mgの
活 性 T C F − IIを 得 た 。
【実施例3】
【0014】
T C F − II製 剤 の 製 造
前 記 実 施 例 2 に よ り 得 ら れ た 遺 伝 子 組 換 え T C F − IIの 注 射 剤 の 製 造 例 を 示 す 。
(1) T C F − II 2 0 μ g
ヒト血清アルブミン 100mg
上記組成をpH7.0の0.01Mリン酸緩衝液(PBS)に溶解し全量を20mlに
10
調製し、滅菌後バイアル瓶に2mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【0015】
(2) T C F − II 4 0 μ g
ツイーン80 1mg
ヒト血清アルブミン 100mg
上記組成を注射用生理食塩水に溶解し全量を20mlに調製し、滅菌後バイアル瓶に2
mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【0016】
(3) T C F − II 2 0 μ g
ツイーン80 2mg
20
ソルビトール 4g
上記組成をpH7.0の0.01M PBSに溶解し全量を20mlに調製し、滅菌後
バイアル瓶に2mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【0017】
(4) T C F − II 4 0 μ g
ツイーン80 1mg
グリシン 2g
上記組成を注射用生理食塩水に溶解し全量を20mlに調製し、滅菌後バイアル瓶に2
mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【0018】
30
(5) T C F − II 4 0 μ g
ツイーン80 1mg
ソルビトール 2g
グリシン 1g
上記組成を注射用生理食塩水に溶解し全量を20mlに調製し、滅菌後バイアル瓶に2
mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【0019】
(6) T C F − II 2 0 μ g
ソルビトール 4g
ヒト血清アルブミン 50mg
40
上記組成をpH7.0の0.01M PBSに溶解し全量を20mlに調製し、滅菌後
バイアル瓶に2mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【0020】
(7) T C F − II 4 0 μ g
グリシン 2g
ヒト血清アルブミン 50mg
上記組成を注射用生理食塩水に溶解し全量を20mlに調製し、滅菌後バイアル瓶に2
mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【0021】
(8) T C F − II 4 0 μ g
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(6)
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ヒト血清アルブミン 50mg
上記組成をpH7.0の0.01M PBSに溶解し全量を20mlに調製し、滅菌後
バイアル瓶に2mlづつ分注したものを凍結乾燥後密封した。
【実施例4】
【0022】
正 常 ラ ッ ト に 対 す る T C F − IIの リ ポ タ ン パ ク 質 分 泌 促 進 作 用 と 血 中 レ シ チ ン − コ レ ス
テロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性上昇作用
8 週 齢 の W i s t a r 系 雄 ラ ッ ト ( 3 0 0 g 、 一 群 5 匹 ) に 対 し 、 T C F − IIを 5 0 0
μg/kgの用量で1日2回(1000μg/kg/day)、及び対照群として溶媒の
みを4日間静脈内に投与した。試験5日目に各群のラットをエーテル麻酔下で後大静脈よ
10
り採血して血清を採取し、リポタンパク質の分画を行った。リポタンパク質の分画は、先
ずWilsonらの方法( Clin.Chem., vol.20, p394 (1
974))に従ってVLDL画分を分離し、次にGibez らの方法( J.Lipi
d.Res., vol.23, p1206 (1982) )に従ってHDL2 画
分及びHDL3 画分を分離した。これらの操作の模式図を図1及び図2に示す。これら
の画分に含まれるトリアシルグリセロール濃度を、トリグリセライドE−テストワコー(
和光純薬工業社製)を用いて測定した。その結果を図3に示す。さらにHDL3 、HD
L2 画分に含まれる遊離コレステロール(F−Chol)及び総コレステロール濃度を
遊離コレステロールE−テストワコー、コレステロールE−テストワコー(和光純薬工業
社製)を用いてそれぞれ測定した。又、求められた値より計算式(〔総コレステロール濃
20
度〕−〔遊離コレステロール濃度〕)を用いてエステル化コレステロール(E−Chol
)濃度を求めた。又、同時に後大静脈より採血したEDTA加血液より血漿を採取し、G
lomset−Wright法(Methods in Enzymology,vol
.15,p543(1969))に従って血中LCAT活性を測定した。これらの結果を
図4に示す。
【0023】
こ の 結 果 、 溶 媒 投 与 群 に 比 べ て T C F − II投 与 群 で は V L D L 画 分 中 の ト リ ア シ ル グ リ
セ ロ ー ル 濃 度 が 顕 著 に 増 加 し た ( 図 3 ) 。 こ れ よ り 、 T C F − IIは 肝 臓 か ら の V L D L 分
泌を促進し、肝組織から血中へのトリアシルグリセロールの移行をもたらすことが示され
た 。 又 、 T C F − II投 与 群 で は 血 中 L C A T 活 性 が 有 意 に 上 昇 す る と と も に H D L 2 、
30
HDL3 画分中のコレステロール、特にエステル化コレステロール濃度が有意に増加し
た ( 図 4 ) 。 こ の こ と か ら 、 T C F − IIは 肝 臓 か ら の L C A T 分 泌 を 促 進 し 、 そ れ に よ っ
てHDLの生成が起こることが示された。
【実施例5】
【0024】
ア ル コ ー ル 性 脂 肪 肝 ラ ッ ト に 対 す る T C F − IIの 肝 組 織 ト リ ア シ ル グ リ セ ロ ー ル 含 量 低
下作用
Liber ら の 方 法 に ( Trans.assoc.Am.Physician., vol.76, p289 (1963)) に 従 っ て コ ン
トロール食摂取群及びアルコール食摂取群に与える液体飼料を作成し、7週齢のWist
ar系雄ラット(280g、一群10∼13匹)に対し100ml/dayで5週間にわ
40
た り 摂 食 さ せ た 。 T C F − IIは ア ル コ ー ル 食 摂 取 群 に 対 し て ア ル コ ー ル 食 摂 取 開 始 4 週 間
後より50及び500μg/kgの用量で1日2回(100及び1000μg/kg/d
ay)7日間静脈内に投与した。投与スケジュールを図5に示す。8日目に試験ラットを
解剖し肝臓を摘出した。肝組織をクロロホルム/メタノール(2:1)で抽出し、組織中
のトリアシルグリセロール、リン脂質及び総コレステロール含量をトリグリセライドE−
テストワコー、リン脂質C−テストワコー、コレステロールE−テストワコー(和光純薬
工業社製)を用いてそれぞれ測定した。この結果を図6に示す。
【0025】
この結果、コントロール食摂取群に比べてアルコール食摂取溶媒投与群では肝組織中の
トリアシルグリセロール含量が有意に増加し(図6)、顕著な脂肪肝が認められた。これ
50
(7)
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に 対 し て 、 ア ル コ ー ル 食 摂 取 T C F − II投 与 群 で は 用 量 依 存 的 な 血 清 脂 質 の 上 昇 及 び 肝 組
織中のトリアシルグリセロール含量の低下がみられた(図6)。このことから、肝臓から
の 脂 質 分 泌 増 加 に よ る T C F − IIの 脂 肪 肝 改 善 効 果 が 示 さ れ た 。
【実施例6】
【0026】
α−ナフチルイソチオシアネート(ANIT)胆汁鬱滞肝障害ラットに対するTCF−
IIの 血 清 コ レ ス テ ロ ー ル 濃 度 低 下 作 用
7週齢のWistar系雄ラット(280g、一群10匹)にα−ナフチルイソチオシ
ア ネ ー ト ( A N I T ) を 1 0 0 m g / k g の 用 量 で 経 口 投 与 し た 。 T C F − IIは A N I T
投与直後より50、150、500及び1500μg/kgの用量で1日2回(100、
10
300、1000及び3000μg/kg/day)3日間静脈内に投与した。4日目に
エーテル麻酔下で後大静脈より採血して血清を採取し、日立7150型自動分析装置によ
り血清アルブミン、トリアシルグリセロール、遊離コレステロール及び総コレステロール
濃度を測定した。結果を図7に示す。
【0027】
この結果、正常ラットに比べてANIT肝障害ラット溶媒投与群では血清トリアシルグ
リセロール、遊離コレステロール及び総コレステロール濃度が有意に増加した。これに対
し て A N I T 肝 障 害 ラ ッ ト T C F − II投 与 群 で は 用 量 依 存 的 に 血 清 ア ル ブ ミ ン 濃 度 が 上 昇
するとともに、血清トリアシルグリセロール、総コレステロール及び遊離コレステロール
濃 度 の 低 下 が み ら れ た 。 こ の こ と か ら 、 T C F − IIの 胆 汁 鬱 滞 に 伴 う 高 脂 血 症 の 改 善 効 果
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が確認された。
【実施例7】
【0028】
正 常 イ ヌ に 対 す る T C F − IIの 血 中 L C A T 活 性 上 昇 作 用
ビ ー グ ル 犬 ( 雌 雄 、 1 ∼ 5 才 、 1 0 k g 前 後 、 一 群 5 匹 ) に T C F − IIを 5 0 、 1 5 0
、500μg/kgの用量で1日2回(100、300及び1000μg/kg/day
) 7 日 間 静 脈 内 に 投 与 し た 。 投 与 ス ケ ジ ュ ー ル を 図 8 に 示 す 。 T C F − II投 与 開 始 前 及 び
投 与 中 に 前 肢 静 脈 か ら 採 血 し 、 E D T A を 添 加 し て 血 漿 を 分 離 し 、 Glomset-Wright法 ( Me
thods in Enzymology, vol.15, p543 (1969)) に 従 っ て 血 中 L C A T 活 性 を 測 定 し た 。 結
果を図9に示す。
30
こ の 結 果 、 T C F − II投 与 に よ っ て 、 正 常 イ ヌ の 血 中 L C A T 活 性 が 有 意 に 上 昇 し 、 血
中の脂質代謝が促進されていることが確認された。
【実施例8】
【0029】
ジ メ チ ル ニ ト ロ ソ ア ミ ン ( D M N ) 肝 硬 変 ラ ッ ト に 対 す る T C F − IIの コ レ ス テ ロ ー ル
エステルおよびHDLコレステロール上昇作用
8週齢のWistar系雄ラット(300g)にジメチルニトロソアミン(DMN)を
毎週火、水、木曜日に10μl/kgの用量で4週間にわたり腹腔内投与した。TCF−
IIは D M N 初 回 投 与 時 よ り 5 、 5 0 及 び 5 0 0 μ g / k g の 用 量 で 1 日 2 回 ( 1 0 、 1 0
0及び1000μg/kg/day)28日間静脈内に投与した。投与スケジュールを図
40
10に示す。29日目にエーテル麻酔下で後大静脈より採血して血清を採取し、日立71
50型自動分析装置により血糖値、血清HDLコレステロール、遊離コレステロール及び
総コレステロール濃度を測定した。又、求められた値より計算式(〔総コレステロール濃
度〕−〔遊離コレステロール濃度〕)を用いてエステル化コレステロール濃度を求めた。
血清コレステロール濃度の測定結果を図11に示す。
【0030】
この結果、正常ラットに比べてDMN肝硬変ラット溶媒投与群では血中LCAT活性の
低下により血清HDLコレステロール、エステル化コレステロール濃度が有意に減少し、
逆に遊離コレステロール濃度が有意に増加した。これに対して、DMN肝硬変ラットTC
F − II投 与 群 で は 用 量 依 存 的 な H D L コ レ ス テ ロ ー ル 、 エ ス テ ル 化 コ レ ス テ ロ ー ル 濃 度 の
50
(8)
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上昇及び遊離コレステロール濃度の低下がみられた(図11)。このことから、TCF−
IIの 肝 硬 変 に 伴 う 低 脂 血 症 及 び 低 H D L 血 症 の 改 善 効 果 が 確 認 さ れ た 。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例4における、血清VLDL画分の分画方法を示す。
【図2】実施例4における、血清HDL画分及びHDL3画分の分画方法を示す。
【図3】実施例4における、各リポタンパク分画中の血清トリアシルグリセロール濃度を
示す。
【図4】実施例4における、HDL2及びHDL3画分血清エステル型コレステロール濃度
、HDL2及びHDL3画分血清遊離コレステロール濃度及び血中LCAT活性を示す。
10
【図5】実施例5における、投与スケジュールを示す。
【図6】実施例5における、組織及び血清中のトリアシルグリセロール、リン脂質及び総
コレステロール含量を示す。
【図7】実施例6における、血清アルブミン、HDLコレステロール、遊離コレステロー
ル及び総コレステロール濃度を示す。
【図8】実施例7における、投与スケジュールを示す。
【図9】実施例7における、血中LCAT活性を示す。
【図10】実施例8における、投与スケジュールを示す。
【図11】実施例8における、血清HDLコレステロール、遊離コレステロール及び総コ
レステロール濃度を示す。
【図1】
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【図2】
(9)
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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(10)
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
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(11)
【図11】
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(12)
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(72)発明者 藤瀬 暢彰
栃木県下都賀郡石橋町石橋223−2 石橋ハイツ201号
(72)発明者 升永 博明
栃木県下都賀郡壬生町駅東町25−9
(72)発明者 東尾 侃二
埼玉県川越市山田1769−10
Fターム(参考) 4C084 AA02 AA03 BA05 BA22 BA44 CA18 CA53 DB54 MA16 MA66
NA14 ZC332 ZC752