18回安全基準委員会(CSS)会合出席報告 平成 - 原子力規制委員会

第79回原子力安全委員会
資
料
第
3
18回安全基準委員会(CSS)会合出席報告
平成 17年12月26日
報告者:原子力安全・保安院
原子力安全基盤機構
審議官
阿部
清治
参与
秋本
成一
月日:平成 17 年 11 月 28 日(月)∼29 日(火)
場所:IAEA ウイーン本部、C7Ⅳ
参加者:アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル(2 名)、カナダ、中国、チェコ、デンマ
ーク、エジプト、フランス(3名)、ドイツ、インド、イスラエル、日本(6名)、韓国、パキ
スタン、ロシア(2名)、スペイン(2 名)、スエーデン、スイス(2 名)、英国(2名)、米国(2 名)、
(計 21 カ国)
EC、OECD/NEA、ICRP、AdSec(4組織)、NUSSC, WASSC, TRANSSC(3委員会)
IAEA:谷口次長、Brockman 部長、他約15名
討議内容
1.DS298:統合安全基本原則
従来 IAEA の安全基本原則(Safety Fundamentals)は、原子力施設、放射線防護、廃
棄物分野の 3 つの分野それぞれにおいて作成されていた。これを、輸送関係も含めて一つ
の統合安全基本原則にまとめる 10 年来の構想が、この数年の活発な検討を経て最終段階に
来ている。今次会合では事務局より統合安全基本原則に係るこれまでの経緯と今後の見通
しが報告された。
前回6月の CSS 会合時には、12 か条の原則からなるドラフト 15 に対する加盟国コメン
トが求められている段階であり、これに対し我が国は、ドラフト 15 は放射線防護の原則に
偏っていて、原子力施設にとって重要な原則が欠けているので追加すべきこと等を国コメ
ントとして送ってあった。
各国からのコメントを反映した新ドラフトは本年 9 月に各加盟国と CSS 下の各委員会に
配布され、11 月 18 日を期限としてコメントが求められた。新ドラフトは、原則の数が 12
から 10 に絞られ、より上位の原則をまとめたものになっている。このような反映の仕方は、
我が国のコメントをそのまま受け容れたものではないが、各分野に共通の高次の安全原則
をバランスよくまとめたものになっており、かつ、今後改訂が予定されている放射線防護
に関する基本安全基準(BSS:Basic Safety Standards)に比して明瞭に上位概念であると
見受けられた。このため我が国は、詳細については数多くの指摘を行ったものの、基本的
には支持するとの意見を送ってあった。
号
会合での議論も、詳細に異論はあっても全体として前向きの意見が多く、コンセンサス
が得られる方向に向いていた。日本も、詳細については既に多くの修正案を送ってあるが
基本的に現在のドラフトの構成を支持するとコメントした。RASSC 議長からも、全体をカ
バーする統合基本原則に 100%のコンセンサスを得るのは本来難しいものであり、異論も残
ると思うが、既に多くの議論を踏まえての終結段階に来ており、RASSC としては次の委員
会で纏めたいとの発言があった。
なお、統合安全基本原則は、BSS と同様、IAEA 以外の国際機関と共同で作成すべきと
の意見があり、事務局からはその方向で検討中であるとの回答があった。
2.BSS(放射線防護に関する基本安全基準)
BSS は IAEA 安全基準の中で放射線防護分野の要件(Requirements)としての位置にあ
る。前回の CSS 会合では RASSC 議長から BSS 改訂に関する考え方の説明があったが、今
回会合ではその後の経過と対応の説明があった。
RASSC は前回 CSS 会合において、BSS はその改訂作業を始める前に、まず改訂が必要
かどうかのレビューを行うべきとし、レビューだけを 2006 年末以前に終了するとの方針を
示していた。しかし、その後 IAEA 事務局及び RASSC 議長の間で、レビューと改訂とを
完全に切り離すことはできないとの合意に達し、基本的な DPP(安全基準作成計画書)と
作業計画書を来年 6 月の CSS 会合に提出し、11 月の CSS 会合には詳細報告書と拡張 DPP
を提出する方針にしたとの説明があった。
RASSC では 10 月会合時に作業計画書概要を作成したが、IAEA 事務局はその後これを
ベースに作業計画を作成し、最初に行うべきことを具体的に定めた。即ち、関係機関との
合同事務局の立ち上げ、コメント掲載等のための非公開ウェブサイトの設定、ICRP 新勧告
作成に対する協力、UNSCER への協力依頼、技術会合の開催、主要課題に係る現状説明書
の作成等である。CSS 会合ではこのような方針が異論なく承認された。
3.主要政策課題
(1)安全性とセキュリティへの対応
安全性とセキュリティを安全基準の中で一緒に扱うことの是非については、前回の CSS
会合から大きく変わってはいない。即ち、安全基準で扱うセキュリティ関連事項は安全性
にも関連する一般的事項に限定するという考え方である。
米国からは、安全性とセキュリティはお互いに不即不離の関係にあり、一般的事項に留
めるのには反対であるとコメントがあり、英国が同調した。一方仏国(議長)からは、安
全性の透明性を考慮すれば安全関連事項とセキュリティ関連事項は分けて扱うのが適切と
の対立意見があった。日本は従来同様、セキュリティの重要性は重々認識しているが、こ
こでは CSS として何をすべきかとの観点で議論すべきであるとコメントした。谷口次長は
次回会合で更に議論したいとした。
(2)安全ガイドと TECDOC 及び Safety Report の関係
安全ガイド(Safety Guide)の下に位置する TECDOC 等の文書は、従来その区分の考え
方が明確になっていなかったが、事務局では以下のような方向で議論しているとの紹介が
あった。即ち、安全ガイドは規制上の要件を具現するためのベスト・プラクチスまたはグ
ッド・プラクチスを、国際的合意を得て記載したもの。TECDOC はそのままで規制要件を
具現するものでなく、安全ガイドの作成又は改訂に有用な技術要素であり、暫定的文書で
ある。Safety Report は解析的情報としての報告書である。
日本からは、文書の区分については IAEA の提案を支持するとし、また、安全ガイドに
は積極的に複数のグッド・プラクチスを記載すべきであるとコメントした。
(3)WASSC 文書の体系
WASSC 議長から、IAEA 安全基準体系の中で、WASSC に関連する文書が多岐にわたる
ため、要件文書と安全ガイドがどのように関連しているかを整理したとの報告があった。
また、廃棄物管理で使われる用語が明確にされた。
これに関連して英国から、廃棄物では「処分(Disposal)」という言葉が使われているが、
この言葉のイメージは公衆とのコミュニケーションに悪影響を及ぼすものであり、
「制度的
管理(Institutional Control)」により責任を持って管理するという意味で、
「長期管理(Long
Term Management)」という言葉を使った方が良いのでないかとの意見があった。WASSC
議長は賛同せず、オーストラリアからは、安全基本原則にある「将来の世代に負担を残さ
ない」という原則に矛盾するのでないかと意見があった。意見は収束しなかったが、全文
書を書き換える負担も大きいことを勘案し、現行のまま「処分」という言葉を使うことと
した。
(4)グロッサリ
グロッサリの改訂状況が紹介された。5 年前に Version 1.0 が作成され、今年の 2 月に
IAEA のウェブサイトに Version 1.1 がのせられた。これに対して 2 月から 9 月にかけて広
くコメントを募集し、そのコメントを反映した Version 1.2 を作成し現在 pdf ファイルでウ
ェブサイトにのせ、また公用の 6 カ国語への翻訳を開始したところである。
(5)安全基準改訂手続きでの Major Change と Minor Change の区分
前回 CSS 会合で NUSSC から、Minor Change については安全基準文書承認手続きを簡
略化するために Major Change と Minor Change を区分することが提案されたが、他の下
部委員会及び CSS の検討で、いずれにしても CSS で承認するプロセスが避けられないので
こうした区分は不要であるとの見解が出され、NUSSC 議長も同意した。
4.安全基準審議
(1)DS105:原子力・放射線緊急時への対応
事務局より、原子力・放射線緊急時への対応に係る安全ガイドの改訂版ドラフトについ
ての説明があった。
本安全ガイドの Version 7.0 までは UPZ(Urgent Protective Action Panning Zone:緊
急防護措置計画区域)が広く設定されていたことと、食物制限計画区域も半径 300kmと非
常に大きな数値が設定されていたため、日本から不必要に広すぎるとのコメントを出し、
19 回 NUSSC 席上及びその後の IAEA との折衝により、今回示された Version 8.0 では前
者は 5∼30km、食物制限計画区域については記載なしとなった。今回の会合では、この問
題に関しては一切議論がなかった。その他幾つか議論はあったが、本安全ガイドは提案ど
おり承認された。
(2)DS332:行為終了時の敷地規制管理解除
本安全ガイドは、他のガイドと共に、廃止措置要件 WS-R-2 を具体化するものである。
原子力発電所だけでなく全ての原子力・放射線利用施設を対象とし、クリーンナップなど、
廃止措置の最終段階に対応する。既に加盟国コメントを経て合意されたものであったが、
今回 CSS 会合では米国等から幾つか修正案が出された。しかし、議長より、現行の記述は
should 表現であってフレキシビリティがあることから、このままでよいのではないかとの
意見が示され、米国もこれを受け入れて、本ガイドは承認された。
(3)DS338 及び DS339:マネジメント・システムに共通の要件及び安全ガイド
DS338 及び DS339 は、あらゆる原子力・放射線利用に係るマネジメント・システムに共
通の要件及び安全ガイドである。これに対しては、我が国はコンサルタント会合にも参加
するなど、その作成及び検討の過程で随時我が国の意見を反映させてきた。他の国も同様
であったようで、特に大きなコメントはなく承認された。
オーストリアからは、元々DS338 と DS339 は1冊だったものが最終的に分冊になった理
由について質問があった。議長から、IAEA 安全基準の本来の体系に合わせて分冊にしたと
の説明があり、了承された。
(4)DS292:放射性廃棄物の貯蔵
本安全ガイドについては、CSS 提出時の名称は「放射性廃棄物の安全貯蔵(Safe Storage)
であったが、WASSC 議長から、改めて見直してみると Safe という言葉をわざわざ使わな
くても良いと思うとコメントがあり、単に「放射性廃棄物の貯蔵(Storage)」とすること
になった。この名称変更だけで、本安全ガイドは承認された。
5.DPP(安全基準作成計画書)審議
(1)安全評価関係安全基準 DPP
事務局から、安全評価(IAEA 安全基準体系の中でテーマ別分野に属する)に関する安全
基準作成全体計画の説明があった。IAEA には原子力発電所の安全評価に関する文書は数多
くあるが、現在ドラフト作成作業が進行中の要件文書以外、基準としての文書はないため、
今回この分野における一連の安全ガイドを作成しようとするものである。これらの安全ガ
イドは、全ての原子力・放射線利用分野をカバーすべきものであるが、とりあえずは原子
力発電所を主たる対象として、可能なものから作成して行くとの方針が示された。
次いで個別の安全ガイド4件についての DPP が説明されたが、我が国等のコメントによ
り以下の結果となった。
・ DS384:原子炉事故のソースターム評価:立地評価用にソースタームを想定する方法に
ついての文書か、レベル2PSA でソースタームを定量化する方法についての文書かが明
瞭でない等、十分整理がなされていないので、非承認
・ DS395:原子炉事故に対する計算コードの V&V:Green light
・ DS394:原子炉のレベル1PSA の手法及び適用:Green light
・ DS393:原子炉のレベル2PSA の手法及び適用:Green light
ここで Green light とは、今次 CSS では直ちに承認するとはしないが、更にブラシアップ
したものを NUSSC に提出し、NUSSC 議長に承認の判断を任せることである。
(2)廃棄物関係安全基準 DPP
以下の DPP が承認された
・DS352:自然発生放射性物質(NORM)を含む廃棄物の管理
・DS355:放射性廃棄処理施設の安全評価
・DS390:放射性廃棄物の分類
・DS356:浅地処分施設
(3)放射線防護関係安全基準 DPP
以下の DPP が承認された。
・DS399:電離放射線の医療使用上の安全
・DS400:自然線源からの電離放射線に対する公衆の防護
(4)研究炉関係安全基準 DPP
以下の DPP が承認された。
・DS396:研究炉の安全評価及び安全解析書の準備
・DS397:研究炉の使用と改造における安全
6.所感
(1)分野ごとの安全基本原則をまとめて統合安全基本原則を作る構想は最終段階に入っ
ている。前回 CSS 会合で議論したドラフトは、原子力発電所も放射線源の一つとする考え
をベースにした RASSC 中心の案であったが、今回のドラフトは各分野にバランスのとれた
ものとなり、CSS でも各国及び RASSC を含めての各委員会から強い反対はなかった。今
回ドラフトをベースに最終案が纏まるのではないかと期待される。
(2)BSS は、1994 年に作成されて以降の知見を取り入れることと IAEA 安全基準の体系
に合わせることを目指して改訂することになっていたが、前回 CSS 会合では RASSC より
これに消極的な意見が示されていた。今回の CSS 会合では RASSC 議長から改訂を積極的
に推進する方向が示され、今後の進展が期待できる状況になった。
(3)高レベル廃棄物処分に関しては、施設閉鎖後も制度的管理が必要ということは既に
CSS で合意済みであるが、今回会合での議論には相変わらず廃棄物処分関係者と施設関係
者の間での考え方の違いが表れている。わが国では余裕震度処分や高レベル廃棄物地層処
分が計画段階にあり、今後国際的議論も参考にして安全確保の論理や安全審査のあり方に
ついて合意形成を図る必要がある。
(4)緊急時対応に関しては、我が国からのコメントも反映した安全ガイドが作成された。
今後は本ガイドを参考にして我が国の緊急時対応策を一層国際基準に適合したものにして
いくことが期待される。
(5)DPP の審議では安全評価に関する安全ガイドが、原子力発電所を対象としたもの 4
件、廃棄物処理施設を対象としたもの 1 件と、数多く提出された。現在これらの上位とな
る安全評価についての共通要件文書の作成が進められており、我が国も積極的にドラフト
作成に参加する計画である。そこでは、確率論的安全評価を規制にどう活用していくかが
重要な検討課題となると思われる。
(6)今回の CSS 会合では、統合安全原則、BSS、緊急時対応、マネジメント・システム
と、幾つも重要な検討項目があったが、事前に国内において十分な組織的検討がなされた
こと、そうした検討の結果は国コメントとして事務局に送付し、それは概ね反映されてい
たこと、マネジメント・システムについては我が国からコンサルタント会合に参加して必
要な改訂をしたことから、会合の場において我が国が強く主張すべき事項は残っていなか
った。会合参加者として国内関係者の労に謝意を表したい。