TOP INTERVIEW 大子製菓協業組合代表理事菊きく池ち寛かん一いちつい最近の事ですが、観光地の外れに小さなパン屋があり、そこで作る自然酵母を使ったパンは美味しいと、マスコミで紹介されました。後日、そのお店に行ってみると、買えるパンは一つもありません。奥にあった沢山のパンを指差して、「それは」と聞くと「予約分です」との返事。こんな商売でよいのかと、いささか疑問に感じました｡そんな折、茨城県北部の産業振興を牽引する「グリーンふるさと振興機構」を訪問した際に、新しい名産品が生まれましたとの情報を得て、どんな商品かと興味が湧きました。そこで今月は、茨城県大子町で看板商品であるチーズケーキに加え、新しい名産品と紹介された「常陸大黒蒸し羊羹」を製造販売する、大子町にある大子製菓協業組合を訪問して、菊池寛一代表理事から創業と変遷、新商品の開発の経緯、菓子業界の変化及び今後の課題と展望をお伺いしました。聞き手当社社長稲葉伸一株式会社よりメリットの多い組合組織御社は協業組合ですので、先ずは設立経緯からお聞かせください｡菊池私の先々代が、昭和36年に大子地区で製菓業を営んでいた４人と出資し合って「大子製菓協同組合」を設立しています。当時の製菓業は家内工業ですから朝は早いし、労働条件も厳しかった。若い働き手を定着させるためには大同団結して労働環境を改善し、機械化して生産性も高めようという事で、協同組合にしたようです。 10年ほど続きましたが、協同組ロールケーキや蒸し羊羹が売れています！﹁常陸大黒﹂を商品化したトップインタビュー 1 TOP INTERVIEW 代表理事になられたのはいつごろですか。菊池私が代表理事になったのは、平成15年３月です。初代がいて、トップインタビューに出資者の３人が脱退していきました。その後、新たなメンバーを加えて組織を協業組合に変更し、昭和46年１月に事業が認可されて現在に至っています｡ご質問の裏には、なぜ株式会社 2 乳を使うことが判りました。それを作ってみようとなりましす。平成15年２月に父が亡くなり職人がいません。たまたま当社にましたので、専務をしていた私がきていた問屋さんが、「私は以前水代表理事になりました｡10年前から戸の洋菓子店に勤めていたことが今の仕事をしていましたので、事あります。私でよければアドバイ業承継はスムーズにいきました。スをしますよ」と言ってくれました。そして、チーズケーキづくり昭和56年の設備投資がもたらした洋菓子づくり組合案内を拝見しますと、高度化資金を幾度となく導入されて工場を建設されています。経営戦略の変化などをお聞かせください。菊池のかなと思いますが、中小企業者成８年に高度化資金を取り入れてが連携して、または共同で経営基いますが、最後の借り入れ時に店盤の強化や環境改善に取り組むた舗「麻呂宇土」を新設しました｡昭和36年、46年、56年、平当社は長い間、和菓子を作って、ためには、組合組織でなければなしかも卸専門でありました。昭和らないからです｡ 56年５月に高度化資金を調達してそれ以外にも、組合にしておくていくと、チーズケーキが結構牛たが、当組合には洋菓子を作れるにしないのかといった思いもあるめの茨城県の高度化資金を借りるどんなものがあるだろうかと調べ父が二代目、そして私が三代目で菊池理事長合特有の問題が起きて、昭和45年持ち帰って、牛乳を使うお菓子は最新鋭の機械を導入したのですが、の勉強が始まりました｡チーズケーキは全国菓子大博覧会で副総裁賞を受賞するが、店舗が出来るまで地元でも知られず和菓子業界では、一品でも良い商品があると、それだけで商売が出来るそうです。ところが洋菓子は、お客様の目移りが激しく商品寿命も短いそうです。そこで目先を変えるために新商品の開発が必要なのだそうですが、そういったご苦労はいかがでしたか。メリットがありますので、変更せひょんな事から洋菓子を作るよう菊池ずに今日まできました。になりました。命も長いですが、確かに洋菓子の株式会社より組合の方がメリットはあるというお話ですが、具体的にはどんな場面ですか｡菊池生協さんと取引する際には、キッカケは、導入した機械の性それらは共に短いです。和菓子が能が良すぎて、菓子の生産が一日１週間程度持つのに対し、洋菓子１万個から１万２千個も出来てしはせいぜい２日、しかも保管してまい、それだけ作ると１週間は間おくために冷蔵庫が必要です。に合うために、機械と職人が月に協業組合であった方が親近感を持 22日も遊んでしまうようになりまっていただけるようです｡反対にデした。メリットだと感じるのは、相手に和菓子は賞味期間も商品寿そこで、遊んでいる機械を動かよっては“組合組織ですか”と、す仕事はないかと探し始めたときなんとなく不安視されることがあに、先代が酪農組合の代表とお会ります。ですから、製造は組合がいして、その方から「牛乳が生産行って、販売は株式会社で行う形過剰で余っているので、牛乳を菓態もよいようです。子づくりに生かせないか」と相談を持ちかけられました。その話を商品 TOP INTERVIEW 当時の冷蔵庫と言いますと、機械のサイズが小さいため量が入ら昭和60年に10坪の直営店を工場の傍にオープンしました。ず、ならばいっその事、チーズケこの年は「つくば科学万博」がーキを冷凍にしてみようとなりまありましたので、商品のアンテナした。冷凍にすれば遠隔地まで運ショップでもいいくらいの気持ちべますし、型崩れも起こしません。でオープンしたところ、ものの見決め手は味が変わりませんので、事に当たって、直営販売にも本腰冷凍して販売することにしました｡を入れなければならなくなりまし冷凍技術について冷凍機メーカた｡ーに相談しますと、瞬間的に凍ら売上はその後も右肩上がりで推せる方法が良いという事で、マイ移しましたので、平成５年に新しナス30度になる冷凍機を購入し、い場所に土地を買い、平成８年に菓子冷凍業の免許も取って、平成現在の店舗を新設しました｡ですか 57年の秋から本格的にチーズケーら、和菓子作りでしかも卸のみで観光客は激減し、それに伴い当社キづくりを始めました｡あった商売から、洋菓子も作っての売上も更に減少することとなり店舗販売もする経営に大きく転換ました。ご指摘のような問題があることも判ってきましたので、１∼２年してきました。は、いろいろな種類のチーズを使って試作をしました。そして３年目の昭和59年３月に開かれた「第 20回全国菓子大博覧会」にチーズケーキを出品しましたところ、初回出品でなんと副総裁賞の栄誉を 3つの過剰と売上減少で経営難に経営はずっと順風満帆で来られたのでしょうか。稲葉社長その時、どのような対策を打たれたのでしょうか。菊池高度化資金の関連もあってその金融機関に経営改善計画の策定をお願いし、それを元に財務面の改善に取り組みました｡新店舗をオープンして３年直ぐに製品と原材料の在庫削減間は売上も計画以上になりましたに取り掛かり、どんどん減らしまが、４年目の平成11年から減少すした。固定経費では人件費の削減るようになりました。平成12、13 です。当時従業員は50人もいまし当初の販路は福島県内の問年も減少が続き、加えて設備投資たが、売上が上向いたら改善する屋のみでしたが、そこから茨城県の返済が始まったために急速に経事にして３割カットを行いました｡内の食品業者や一般小売店、みや営が悪化しました｡戴くことが出来ました。その受賞によって変わってきたことはございましたか｡菊池げ物店等に卸されていきました。やがて水戸市方面にも販売されるようになってから“大子で作られるチーズケーキが美味しい”といった事が新聞で紹介されるようになりました。それ以降、若いお客様が買いに来てくれるようにな菊池平成不況に入った後、平成７年頃に景気が少し良くなり、その後また景気が落ち込み、しかも長く厳しい状況になりましたので、そのあたりで計画が狂ったということですね｡トップインタビュー解雇はしなかったのですか｡菊池従業員は全て地元の人ですから、辞めてくれとは言えませんでした｡それは理事長さんの哲学ですか。菊池同業他社の場合は、人事担りました。ただ、問題がありまし菊池そうなのです。景気はもう当者がいます。当組合ではそんなた｡多くの方が、“当組合のお店が大丈夫だろうと思って設備投資に部署もありませんから自分でやら見当たらず、買わずに帰ってきま GOサインを出したところ、平成11 なければなりません。それに、従した”とか、“大子から通勤してい年から怪しくなってきて、そこに業員の親を知っていますし、親戚る人に、買ってきてもらいました” 追い討ちをかけたのが同年９月にまで判っていますので、辞めさせといった声が聞こえてきましたの起きた東海村JCOでの臨界事故でる事は出来ませんでした｡幸い、で、これではいけないと思って、す。あの事故によって大子町への「主人が転勤するので辞めます」と 3 TOP INTERVIEW 言ってくる人や、自然退職者が出な商品としては、「こんにゃく大将」長が見込める分野ですので、ネッたりして、50人を35人まで減らすという商品があります。これは大ト販売専用の商品開発を進めていことが出来ました｡子のこんにゃく粉を使ったコンニる所です。変動費的な営業経費などはどうなされました。菊池トップインタビュー結構ケチケチになりました。募して名づけています。最近では、地元の豆乳を使用しもっともっと販路が広がっていくということですね。た「まめくうか（豆食菓）」。そし菊池使っていない場所の電気を消すにて新品種開発された常陸大黒（ひ売れ筋である「常陸大黒蒸し羊羹」始まって、ガソリンを節約するたたちおおぐろ）という花豆を使っと常陸大黒を入れた「ロールケーめに無駄な走行はしないとか、埼た「常陸大黒蒸し羊羹」「ロールケキ」は、あくまでも直営店の「麻玉や千葉等の遠方に配送していたーキ」「どら焼き」等があります。呂宇土」のみで販売することにし部分は外部に委託しました。それこうした地元食材を使うこだわています｡分かりやすく言えば、他によって配送費は、半分以下になりを大事にしてきましたし、これの小売店に卸さないということでりました。からも堅持してまいります。そうす。お客様にはご足労でも大子のすることによって地元の名産品と店舗までお越しいただいて、お買して、認められるようになるのでい上げいただくことにしています。はないでしょうか。ホームページからのネット販売も人の整理や経費の削減に関しては、どちら様も一番ご苦労されているところです。どのくらい続けられました。菊池丸５年です。但し、全部の経費を削減したのではなく、お金をかけた部分もあります。店舗の外から見える場所にはお金をかけました。ここをケチるとお客様に 4 ャクゼリーでして、名前を一般公来てもらえなくなります。削減する部分は、見えない裏の部分です。 “ここを徹底してやればできるんだ” という自信がつきました。そうし当社の方針としては、今の行っていますが、優先すべきは店新商品は限定生産・生産販売チーズケーキのようにブランド化した商品は、地元で消費されるよりも外で消費されることの方が多くなるのではないでしょうか。御社のホームページを拝見しますと、すでにその体制が整っています。ネット販売の現頭にお越しになるお客様です。それはどのような理由からですか。菊池原料である「常陸大黒」は生産が限られており、豆の収穫量が少ないからです。それに、当社の羊羹の生産能力もあまり大きくないからです。豆の絶対数が少ない中で、豆の状はいかがでしょうか。手当てはどうなさっておられるた取り組みによって漸く暗くて長菊池いトンネルの出口も見えるようにリアは全国を対象にしていますが、なりました。現状では県内含め関東近辺からの菊池注文が大多数です。これからの成て全農いばらきルートで調達してそうですね。ネット販売エ地元食材を使ってこそ、地元の名産品になれるのですか。「常陸大黒」の流通は、全います。大子地区で収穫された豆も一旦全農に買い上げられ、そこから製菓業者や飲食店などに販売昭和51年に天皇陛下がお買い上されます｡げになられたお菓子がございます｡商品開発におけるこだわり量の確保は出来るんですか。はございますか。菊池量の確保は出来ます。翻って菊池「久慈の清流」という和菓子言えば、量が確保できる範囲でしかを天皇陛下にお買い上げいただきまお菓子は作れません。どこかに大量した｡和菓子ですが、材料にバターに納めてしまったら、それで終わっを加えて洋風に仕上げています。てしまいますので、限定生産、限定チーズケーキの後に開発した主工場内販売にならざるを得ません。 TOP INTERVIEW 生産者の作付面積が増えるということはあるのでしょうか。菊池まうとインパクトが弱いので、羊から、将来的にはもう一ヶ所ぐらい羹の上に並べてみました。そして、出店してみたいと思っています。豆の黒とのバランスを考えて下はあると思いますが、「常陸大白にしました。豆を羊羹の上に並今年の１月に水戸の京成百貨店さんで開催された「漫遊いばら黒」の栽培は難しく、しかも大子、べ、下の色を白にして、練り羊羹里美、御前山などの寒暖の差があでは豆の味と柔らかさが生きませる土地でしか栽培が出来ないようんから、蒸し羊羹にしました。こです｡それと茨城県の開発新品種とうして出来あがった商品は、見た菊池して豆の流通が厳しく管理されて目の良さに加えて上品な甘さと食しています｡本当は地下の県産品売いますので、短期間で大きく増え感がいい具合に仕上がりました。り場で販売している商品以外にもることはないとみています。「グリーンふるさと振興機構」から商品化の勧め新製品を開発するキッカケをお聞かせください。菊池「グリーンふるさと振興機 “大きい豆だなぁ”という印象でした。半年後に豆が届きましたので、早速煮て食べてみますと、光沢はあるし、味も美味しかったです。それに黒大豆に比べてポリフェノールの一種アントシアニンが３倍いましたよね｡茨城の物産展には必ず出店この商品を「グリーンふるさと他の商品をスポット的にでも置か振興機構」が主催した平成17年度せていただけるとありがたいのでの新商品開発コンペに出品したとすが、スペースの関係でそれも出ころ、優秀であると認められまし来ません。ですから、単発的なイた。また翌年の「2006年いばらきベントにも積極的に参加しているデザインセレクション」＊にも選ば訳です。そういう意味から今回のれて、茨城県の名産品の一つに加取材は大変ありがたいことだと感えられました。じています｡観光客を増やす役割を果たすためにも商品開発が重要最後に今後の展望をお聞きします。今後の商品開発と販路開拓についてご支障のない範囲でお聞かせください。ろいろな施設が整備されています。しかしながらそれら一つ一つが遠く離れており、それらを結び付ける仕組みも不十分なため、お客様が回遊せずに帰っています。観光客の町内回遊を高める役割を当組合の店舗と商品が担えるようにな多く含まれているという事ですか菊池ら、これは物になると感じて商品と「ヤマトホームコンビニエンス」に喜ばれる商品を作らなければな化に取り組みました、のルート、直営店と当組合でのネりません。そうした新たな使命感ット販売になると思います｡を持って、これからも新商品開発豆の黒さと大きさを際立たせる為には、豆を商品の中に入れてし販路に関しては、卸ルート収益的には直販が一番良い訳でするためには、もっともっとお客様にチャレンジしてまいります。＊１「いばらきデザインセレクション」とは、デザインへの社会的関心が高まるなか、デザインを積極的に活用することで優れた成果をあげている製品等を「デザインセレクション」として選定し、その企業活動にスポットを当てることで、デザインを通した企業の事業展開を啓発・推進しようとする試み。会社概要ＴＯＰＩＮＴＥＲＶＩＥＷ大子製菓協業組合直販店「麻呂宇土」代表理事菊池寛一住所電話事業内容設立出資金年商従業員トップインタビュー大子町を訪れる観光客は多くい構」から商品化の依頼がありました。「常陸大黒」を目にしたとききの味と技展」にも出店されて茨城県久慈郡大子町池田 728 0295 − 79 − 1235 菓子製造販売 1971 年１月 4,000 万円 3.5 億円 35 名 5