アフリカの言語動態および都市言語に関する研究の動向 - 香川大学

香 川 大 学 経 済 論 叢
第
巻 第
号
年
月
−
研究ノート
アフリカの言語動態および都市言語に関する研究の動向
―― 日本のアフリカニストの業績を中心に ――
品 川
大
輔
!
.は じ め に
世紀以降の,一般言語学的方法論に基づいたアフリカ言語研究においては,世
"
界の言語の 割を占めようという多様な個別言語の記述研究,ならびにそれを基盤と
した比較研究あるいは類型論的研究が,その本流を担ってきた。記述の対象となる言
語の系統上の位置づけについては,大枠としては Greenberg(
)の示すいわゆる
#
四大語族(ニジェール・コンゴ Niger-Congo,ナイル・サハラ Nilo-Saharan,アフロ
アジア Afroasiatic,コイサン Khoisan)のいずれかに分類され,さらに語族内の下位の
(
) 本稿は,日本アフリカ学会設立 周年を記念して編纂される『アフリカ学事典(仮)』
(
年出版予定)の項目「アフリカの都市言語」
(品川,準備中)を執筆する過程で参
照した先行研究文献を整理し,紹介するものである。同事典の全体を貫く趣旨は,ここ
半世紀における日本人を中心としたアフリカ研究の成果を紹介し,これからのアフリカ
研究への手引きとなるような最新の学術情報を提示する,というものである。したがっ
て,そのための資料ノートにあたる本稿も,主に日本のアフリカニストによる研究業績
に焦点を当てている。また同項目においては,筆者がここ数年考察を加えてきたナイロ
ビの都市若者言語シェン語(Sheng)に関する研究の紹介に多くを割いたが,本稿は,
紙幅の関係で十分に扱えなかったこの分野における日本のアフリカニストの業績の整
理,紹介に重点を置く。
( ) 世界的な言語情報のオンライン・データベース Ethnologue の最新版(Lewis et al.
)
によれば,世界の言語数 , に対してアフリカの言語総数として , という数字が
挙げられている。ただし,同データベースは,一言語の方言的変種にすぎないようなも
のまでを「言語」としてカウントする(つまり数が大きく出てしまう)傾向が広く指摘
されており,その点には注意が必要である。
( ) 正確には,Greenberg
(
)
は Congo-Kordofanian という名称を用いているが,Greenberg
の流れを汲むその後の系統論では,通常 Niger-Congo の名称で呼ばれる。
−236−
香川大学経済論叢
分岐関係(語派,語群等)
は,主要な記述研究や比較言語学的研究の成果を踏まえて,
しかるべき系統上の位置を与えるという形で整理されてきた。つまり,このようにし
て得られた系統上の見取り図は,諸言語が分岐した結果としての布置関係を静態的に
捉えたものと言ってよい。
しかし実際の言語変化の過程は,そのように単線的・静態的ではない。実際,地理
的に隣接する言語間の動態的な接触によって,
(極端な場合であれば)言語系統を同
じくしない言語同士が共通する言語特徴を有するに至るというような,いわゆる言語
連合(独 Sprachebund)に相当する現象が,アフリカにも様々な地域で(そして,音
韻,形態,統語等のさまざまなレベルで)確認されている。これは,そもそもアフリ
カ大陸にしか分布しない,もしくはアフリカ大陸に顕著に認められる言語特徴につい
ても言えることで,例えば吸着音(click sound)音素の存在などは,コイサン語族の
みにとどまらず,近隣のングニ系バンツー諸語(ニジェール・コンゴ語族)にも確認
されることなどは広く知られている。こういったことは,アフリカ諸語の歴史的変遷
を考えるうえで,言語接触を典型とする動態的な言語現象に関する研究の重要性を雄
弁に物語るものである。
数多の民族語を抱える豊かな言語的多様性と,歴史的にも,また
世紀の現代に
おいてもさまざまな形の言語接触が繰り返されている言語動態。この二点は,アフリ
カ大陸が,世界の他地域と言語環境の面で一線を画する顕著な指標であると言ってよ
い。その意味で,言語動態に関する研究は,アフリカをフィールドとする言語研究であ
ればこそ重要な位置を占めるべきであるが,
(多様な個別言語の記述研究がアフリカ
言語学の王道を歩んできた一方で)あくまでも傍流に位置づけられるきらいをなしと
しなかった。しかし近年になって,アフリカ言語学の「本流」においても,アフリカ
を言語領域(linguistic area)
−これは伝統的な用語で言えば,ほぼ上述の言語連合に相
当する−として捉えるという,動態的なアプローチが注目を集めつつある。このよう
な昨今の研究動向を踏まえて,本稿では,文化人類学等言語学周辺領域のものも含め,
言語動態,さらにはその顕著に現代的な実現形態である都市言語に関するいくつかの
重要な先行研究を拾い出し,整理,紹介することを目的とする。その際,注 に示し
た事情もあり,日本のアフリカニストによる成果を中心に取りあげることとする。
アフリカの言語動態および都市言語に関する研究の動向
−237−
.アフリカの言語動態概観
日本のアフリカ諸語研究は,黎明期から今日に至るまで,言語音の精緻な観察を基
盤に音韻組織を明らかにし,それを土台に形態論,統語論レベルの文法現象を詳細に
分析するという記述言語学の方法に基づく,個別言語(民族語)の実証的記述研究が
その主流を占めてきた。大陸で話される , (Maho
)とも , (Lewis et al.
)を超えるとも言われる民族語のうち,とくに未記述言語を対象に体系的な文法
記述を行うというこの研究方針は,人間言語の普遍的原理の解明を究極的な目標とす
!
る一般言語学における必然的な学問的要請によるものと言ってよい。
一方でアフリカは,多様な民族集団が共存し,ときにさまざまな形の接触,衝突,
融合の歴史を繰り返してきた舞台でもある。そのような状況,つまり民族集団の接触
が起これば,当然そこには言語接触(language contact)が生じることになる。そのダ
イナミズムは,ある言語を消滅(その言語の話者集団の側から見れば,言語交替
language shift)に追いやることもあれば,新たな言語(接触言語 contact language)が
生じる契機にもなった。植民地期以降はこの接触の舞台にヨーロッパの言語が加わ
り,さまざまなピジン(pidgin)およびクリオール(creole)言語が生み出された。さ
らに宗主国からの独立を果たした
年代以降,都市への急激な人口流入に象徴さ
れる都市化(urbanization)の進展に伴い,公用語としての政治的威信を保つヨーロッ
パ諸語,地域共通語や広域共通語(lingua franca,)
,そしてさまざまな民族語が接触
"
し,混合言語(syncretic language)的な性質を持つ都市言語(urban language)が各地
で生み出されている。
(
(
) この流れにある,いわば伝統的なアフリカ諸語研究の概観を眺望する大部の概説とし
て清水(
)がある。これは,少なくとも当時の日本及び世界のアフリカ諸語研究の
到達点を示す集大成であり,現在でもこの分野の基本的なリファレンス資料になってい
る。
) Dimmendaal(
)等を参照。日本語で混合言語と訳される用語には mixed language
があるが,語彙借用まで含めれば,mixed「ではない」言語の存在を想定することは非
現実的であり,この用語は現在では通常回避される。また,syncretic language とほとん
ど同義の用語に Myers-Scotton(
)の言う split language があるが,これは,文法基盤
を提供する言語と語彙供給言語が「分かれている」ことから付けられた名称である。
−238−
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.言語動態に関する研究
繰り返し述べているように,
現代アフリカの言語環境は,
その多言語性−多言語状況
(multilingualism)
−によって特徴づけられる。ここで,多言語状況と呼ばれるものには,
二つの論理的には異なる相が可能であることを確認しておく。梶(
a)の用語を
用いれば,この二つはそれぞれ「水平的多言語使用」と「垂直的多言語使用」に相当
する。水平的多言語使用とは,
「一つの地域社会,あるいは国において,いくつもの
言語が平面上に並んで話されている状態」
(ibid. :
)のことであり,これは,これ
まで述べてきた多様な民族語を抱える多言語世界という相を指すものである。もう一
!
方の垂直的多言語使用とは,
「部族語,地域共通語(≒国語)
,公用語というふうに,
言語が層をなし,人々は状況に応じてこれらの言語を使い分けている」(ibid. :
)という状況を指す。例えば梶(
にとるならば,
−
b)に挙げられているコンゴ民主共和国を例
以上の部族語(民族語)
,地域共通語として機能する つの国語
(コンゴ語,リンガラ語,スワヒリ語,ルバ語)
,さらに公用語としてのフランス語が
重層的に存在し,かつ人々がそれらの言語を(すべてではないにせよ)使用し分けて
いるという状況である。つまり,この垂直的多言語使用という用語は,社会的に重層
的な多言語分布という側面と,個人の重層的多言語使用という側面を包含しているわ
けであるが,社会言語学の用語では,前者を社会的多言語状況
(social multilingualism)
,
後者を個人的多言語状況(individual multilingualism)と呼ぶことがある。
いずれにせよ,現代アフリカの多言語状況は,水平的多言語使用も,垂直的多言語
"
使用もともに顕著であるというのが,少なくともその一般的な姿である。
. 現代アフリカにおける垂直的多言語状況
現代アフリカにおける垂直的多言語状況に見られる動態力学を捉える論考に宮本
(
) 現地民族集団(ethnic group)の共有する言語を指して「部族語」の名称が用いられて
おり,この文脈では「民族語」と置き換えて差し支えない。しかし,梶が「部族」とい
う用語を採用するのは,人類学者富川盛道が提唱した(
「民族本位制」に対する)「部族
本位制」というアフリカ社会の構成原理を念頭に置いてのことである。この点の詳細に
ついては梶(
a)を参照のこと。
アフリカの言語動態および都市言語に関する研究の動向
(
−239−
)がある。同論文は,諸言語の起源とその文化(宗教)的な背景による つの
類型(アフロ・エスニック語:圧倒的多数の民族語,アフロ・イスラミック語:イス
ラムと強い結びつきのある広域共通語,アフロ・ウェスタン語:後述のピジン・クリ
オール系諸言語やアフリカにおいて独自の変化を遂げたヨーロッパ語,ウェスタ
ン語:ヨーロッパ語)を立て,アフリカの多言語状況に対して「生態学的」なアプロ
ーチを試みている。また,多言語状況の現状をフィールドの内部から浮き彫りにす
る試みとして梶・砂野(
)
,さらにヨーロッパ発の理 念 と し て の 多 言 語 主 義
(multilingualism)の受容が問題化する場の検討を行った論考として砂野(
)が挙
げられる。
. 言語接触・言語交替
多言語状況においては,何らかの形で言語接触が生じることになる。尤も,個人的
多言語使用はアフリカの多言語状況における顕著な特徴であり,とりわけ地域共通語
など媒介言語が存在し,民族語の使用領域(domain あるいは register 言語使用域)が
確保されていれば,それぞれの民族語は共存しうる(ゆえに水平的多言語使用が成立
する)
。しかし,そのような条件を欠く場合や,著しい民族的な同化が生じた場合は,
最終的に言語交替(language shift,すなわち接触状況にある言語の一方の消滅)に至
ることがある。この分野の重要文献としてまず挙げるべきは,東アフリカにおける言
語交替の多様な事例とその理論的問題を扱った Brenzinger(
(
)に所収の諸篇や
田(
)であるが,
田編
)が具体的な事例をとおしてアフリカにおける言
語交替のプロセスを詳らかにしている。
(
) もちろん例外はある。水平的多言語使用の例外としては,ルワンダやブルンジのよう
なケースで,それぞれ民族語としてはルワンダ語(Kinyarwanda)
,ルンジ語(Kirundi)
のみが話されている。また垂直的多言語使用の例外としては,いくつかの都市において
その都市の主要言語のみしか話さない単一言語話者がいたり,あるいは他民族との交渉
が限定的な民族集団に,民族語モノリンガルという人々がしばしば見出されるといった
ことである。
−240−
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. ピジン・クリオール
媒介言語を欠く場合の言語接触のいまひとつの帰結は,新たな媒介言語が誕生する
というものである。接触する言語同士が相互に影響を与えることで生じる「第 の言
語」は,集団間のコミュニケーション手段としてのピジンと,それが集団内のコミュ
ニケーションにも用いられるようになり母語話者を獲得したクリオールとに大別され
る。アフリカに限らず,この分野のグローバルな見取り図は西江雅之の浩瀚な研究に
よって得ることができるが,とくにアフリカにおけるピジン・クリオール諸語の具体
的な形式特徴については西江(
)にまとめられた論考に多くの重要な知見が盛り
込まれている。また,カボ・ベルデやギニア・ビサウで話されるポルトガル語語彙系
クリオール語(kriolu)については,市之瀬(
)が,その政治的・歴史的な背景を
中心に論じている。さらに,アラビア語系クリオールに関しては,ジュバ・アラビア
語(Juba Arabic)に関する研究が興味深い。
世紀初頭,スーダン征討を企むオス
マン朝トルコの軍隊に徴兵された南部スーダン出自の人々が発達させたピジンに起源
を持つというこの言語については,高階(
(
)に言語学的な概説があるほか,栗本
)が,政治的混迷を深めていた(独立前の)南部スーダンにおいて,この言語
が果たしうる社会政治的な役割と可能性について論じている。近年では仲尾(
Nakao
,
)による詳細な記述研究がある。
.都市言語に関する研究
このように言語接触がもたらす現象にはさまざまなものがあるが,典型的な多言語
状況下にある都市という環境では,多様な言語的出自を持つ都市民のコミュニケー
ションの営みから生み出された言語変種,すなわち都市言語が生じることがある。都
市言語の成立要因は,Beck(
)の用語を用いれば,都市的環境における人口の密
集化(densification)と,出自を異にするさまざまな民族集団の混在化(heterogenization)
に求められる。
都市で生きること,あるいは都市を生きるということ(
“doing the city”
, Beck[ibid. :
]
)は,民族的出自とは異なる都市民としてのアイデンティティ形成を促す。言語
(使用)行為がアイデンティティの表現行為(cf.“acts of identity”
, Le Page and Tabouret
アフリカの言語動態および都市言語に関する研究の動向
-Keller(
−241−
)
)でもあることを踏まえれば,ここに,たとえ「同じ」言語であって
も,都市固有の変種が生じる可能性が理解できよう。ケニア内陸部で広く話されるピ
ジン・スワヒリ語(Kenyan
Pidgin
Swahili)のなかでも,「ナイロビ・スワヒリ語
(Nairobi Swahili,KiNairobi)
」が固有の言語変種として理解されていることなどは,
その一例と言ってよい。
一方で,あらゆる都市が独自の都市言語を発達させてきたわけではないという点に
も注意が必要である。Beck(ibid. :
)によれば,ラゴス(およびナイジェリアの諸
都市)
,アジスアベバ(エチオピア)
,カンパラ(ウガンダ)といった都市がそれに該
当するようであるが,むしろそのような都市における言語変種の様相の再検討や,独
自の都市言語の発達が制約される環境要因の分析というのも,興味深い研究につなが
る可能性があろう。
. 都市言語の分類
このような都市言語を,Beck(ibid. :
)は次のような類型に分類している。まず,
その歴史的な成立過程から,植民都市形成期以前の,主に交易拠点となる都市におい
て発達した「伝統的都市言語(
“old”urban
languages,以下 OUL)
」と,アフリカ諸
国の独立後の,各国内における自立的な都市化の過程で成立した「新興都市言語(new
urban languages,以下 NUL)
」の つに分けられる。そして後者のうち,とくに若者
世代の使用によって特徴づけられるものを「都市若者言語(urban youth languages,
以下 UYL)
」と呼んでいる。以下では,文献での言及が比較的多い OUL と UYL に関
する研究を紹介していく。ちなみに,UYL に位置付けられない NUL には,ルサカ
(ザ
ンビア)
の都市ベンバ語
(Town Bemba)
や,ハラレ
(ジンバブエ)
のハラレ語
(ChiHarare)
といったものがある。
. 伝統的都市言語(OUL)
OUL は,典型的には交易都市における商業活動の仲介者たち(middlemen)が,そ
の発達に貢献した言語であり,具体的には西アフリカのハウサ語(Hausa)
,ヨルバ語
(Yoruba)
,コンゴのリンガラ語(Lingala)
,そして,東アフリカではインド洋交易の
−242−
香川大学経済論叢
拠点都市で発達したスワヒリ語がまさに該当する。ただ,それらを都市言語という文
脈で扱った研究はさほど多くないようである。
ハウサ語およびヨルバ語のナイジェリアにおける社会言語学的状況および歴史的な
発展過程については塩田(
)の概説がある。また同論文には,特定の都市を特徴
づける言語ではないものの,ギニア湾岸に広く流通する
「西アフリカ英語クリオール」
の一変種に位置づけられるというナイジェリアピジン英語(Nigerian Pidgin English)
についても歴史的背景を踏まえた解説がある。リンガラ語および旧ザイール東部(と
りわけ民族混交の著しかったシャバ州の銅山地域)で発達したスワヒリ語変種キン
グァナ語(Kingwana)については,それぞれ梶(
)
,梶(
)に言語学的な解
説がある。さらにスワヒリ語に関しては,近年注目されているダルエスサラーム(タ
ンザニア)の都市変種 Lugha ya Mitaani(
「ストリートの言語」の意)について,Reuster
-Jahn and Kießling(
)や Abe(
)といった研究があるが,これは以下の UYL
のカテゴリーに含まれるべきものである。
. 都市若者言語(UYL)
アフリカにおける UYL 研究の全体的な展望を示す論考として Kiessling and Mous
(
)をまず挙げることができる。同論文に指摘のある UYL の基本特徴として重
要な点は,ⅰ)(ピジン・クリオールとは異なり)コミュニケーション媒介となる(都
市)言語が用意されている環境で,それを基盤に発達した変種であること,ⅱ)外来
の語彙や文法要素(供給元はヨーロッパ語でも民族語でもありうる)の導入,また意
味拡張や音位置換(metathesis)等の意識的な形式操作(conscious manipulation)が顕
著であること,そして,ことアフリカの UYL に特徴的な点として,ⅲ)
(都市名等
を用いた呼称ではなく)独自の言語名を持つことを挙げている。現代アフリカにおけ
る代表的な UYL としては,アビジャン(コートジボワール)のヌシ語(Nouchi)
,ヤ
ウンデ等(カメルーン)のカムフラングレ語(Camfranglais)
,ブラザビール(コンゴ
共和国)およびキンシャサ(コンゴ民主共和国)のインドゥビル語(Indoubil)
,ヨハ
,ナイロビ(ケニア)のシェ
ネスブルク(南ア)の(イス)ツァムト語(
(Is)camto)
ン語(Sheng)等が挙げられる。
アフリカの言語動態および都市言語に関する研究の動向
これらのうち,ヌシ語については,鈴木(
−243−
)に具体的な言語形式が紹介されて
おり,とりわけ使用文脈をふまえた意味分析が興味深い。シェン語については,その
成立過程や使用の実際や社会的機能に関する動態が,小馬徹の一連の研究(小馬
,
,
等)に鮮やかに描かれている。またシェン語の言語形式レベルの
分析は拙稿(Shinagawa
,
)に示した。
.近年の研究動向と今後の展望
アフリカにおける言語動態研究および都市言語に関する研究について,世界的な視
点も含めて近年の動向,また今後の展望として示し得ることは,次の 点である。
点目は,冒頭に言及したように,言語動態に関する研究は,近年,言語学プロパ
ーの領域でもプレゼンスが高まっているということである。Heine and Nurse(
)
に代表される「言語領域としてのアフリカ(Africa as a linguistic area)
」という,地理
的な言語接触の影響を重視した研究枠組みや,Hombert and Philippson(
)等によ
る,系統不明な言語(language isolates)に焦点を当ててアフリカの語族分類そのもの
を再検討するという試みなどは,アフリカ比較言語学に一大転換点をもたらす可能性
がある。
点目は,都市言語研究が,アフリカ言語研究の近年の潮流を担いつつあるという
点である。
年 月にケープタウン大学をホスト校として,このテーマでの国際
!
会議が開催されるなど,近年にわかに活気立っている印象がある。
最後に,都市言語を動態として,あるいは都市空間における生活実践として把捉し
ようとする近年の研究動向を考慮すれば,とりわけ都市人類学や都市社会学といった
分野との領域横断的な協働が不可欠になるという点である。そして,こういった学際
的なアプローチこそが,日本のアフリカ研究の伝統であり真骨頂でもあることを思え
ば,日本のアフリカニストによるこの分野への世界的な貢献が大きく期待されるので
ある。
(
) The African Urban and Youth Language Conference
www.auyl
.co.za/index.php/home)も参照。
.
会議のウェブサイト(http ://
−244−
香川大学経済論叢
参 照 文 献
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