2014 年 GRESB 調査結果 - 不動産証券化協会

Business
Trend
2014 年 GRESB 調査結果
~不動産業界における
サステナビリティ組込みの
進展と課題~
堀江 隆一
CSR デザイン環境投資顧問株式会社
代表取締役社長
高木 智子
CSR デザイン環境投資顧問株式会社
コンサルタント
1.はじめに
いることを明確に表すと同時に、今
ABP
( 世界第 3 位の規模 )の運用機
後の課題も示している。
関)
やPGGM
(オランダのヘルスケア
関連の年金基金)などであり、世界
GRESB
(グローバル不動産サステ
ナビリティ・ベンチマーク)
調査も本
2. 責任投資( ESG 投資 )
とGRESB
年で 5回目
( 日本市場では実質的に
58
第 2 位のノルウェー政府年金基金な
ども国連責任投資原則の署名機関
であると同時にGRESB のメンバー
4 回目)
となり、海外だけでなく日本
GRESBは欧州の公的年金基金
においても次第に定着してきたよう
を中心とする不動産投資家が開発
これらの年金基金の不動産投資
に感じる。本稿では、まず GRESB
した不 動産ポートフォリオ・会社
は 20 ~30 年の長期投資を原則とす
が 誕 生した背 景にある責任 投 資
( ファンド)単位のサステナビリティ
るため、今後の各国における環境
( ESG 投資)
の考え方とその日本へ
指標だが、この背景には、投資の世
規制の強化やテナントのグリーンビ
の波及について説明し 、続いて本
界において環境・社会・ガバナンス
ルの選好により、不動産市場が中
年の調査結果を昨年との比較や日
( ESG )配慮を進めるべきとの責任
長期的には環境性能により二極化
本とグローバルの比較を中心に報
投資の考え方がある。GRESB の創
するであろうと考えている。従って、
告する。本年調査の結果は、国内
設メンバーは、国連責任投資原則
環境配慮は不動産価値や不動産会
外の不動産業界においてサステナ
に署名し 、責任投資を積極的に推
社の株主価値の維持・向上に不可欠
ビリティの組込みが大きく進展して
進するAPG
( オランダ公 務員年金
であるとの確信のもと、GRESB の
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.22
。
である
(図表1、2)
2014 年 GRESB 調査結果
~不動産業界におけるサステナビリティ組込みの進展と課題~
調査結果を投資判断や投資家との
図表1 世界の年金基金の「国連責任投資原則 」署名状況
年金基金
対話のツールとして積極的に活用し
ている。
前述のようにGRESBは欧州の年
金基金により創設されたが、その
後、北米・豪州など他地域の年金基
金、生命保険会社、投資信託運用
機関などを含む 50 社近い投資家メ
ンバーに活用されるようになり
( 図表
2 )、日本の不動産会社やJ-REIT
などの海 外 IRにおいてもGRESB
が話題に上ることが増えていると聞
国
1 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 日本
総資産額
(米ドル )
12,920 億ドル
署名
状況
―
2 ノルウェー政府年金基金
ノルウェー
7,126 億ドル
署名
3 ABP(オランダ公務員年金 )
オランダ
3,729 億ドル
署名
4 National Pension
韓国
3,685 億ドル
署名
5 Federal Retirement Thrift
米国
3,257 億ドル
―
米国
2,448 億ドル
署名
7 地方公務員共済組合連合会
日本
2,014 億ドル
―
8 Central Provident Fund
シンガポール
1,884 億ドル
―
9 カナダ年金制度投資委員会
カナダ
1,844 億ドル
署名
10 National Social Security
中国
1,775 億ドル
―
6
CalPERS
(カリフォルニア州職員退職年金基金 )
(出典:平成 26 年第 2 回経済財政諮問会議資料 )
)
く。また、本年10月に日本政策投
資銀行
( DBJ )
が我が国から初めて
図表 2 GRESB の投資家メンバー
投資家メンバーとして加盟したこと
は、GRESB の捉え方が「海外投資
家による先進的な考え方」から「 国
内でも活用される指標」に変わって
いく契機になりそうである。
さらに、本 年2月に公 表された
「 責任ある機関投資家」の諸原則
《日本版スチュワードシップコード》
をGPIFなどの公的年金基金を含
む160もの機関投資家が受入れた
ことは、不動産を含む責任投資が
日本で普及していく大きな潮流につ
ながるものと期待される。スチュ
ワードシップコードの本質は、長期
投資家が投資先の持続的発展のた
めに対話を行っていくことと言え、
対話の中身には ESG の要素が含ま
れていくものと考えられるからであ
出典: GRESB ホームページ
る。なお本年10月下旬には、GPIF
が QUICK、MSCI ESGリサーチ、
J-REITの投資口を含む)などの比
Ernst & Young の3 社にESGとス
率を高めていくに伴い、投資判断に
チュワードシップコードに関する調
は何らかESG の要素が組み込まれ
査業務を委託したことが公表され
ていくものと予想される。
3. 2014 年調査結果の概要
続いて、本年の GRESB 調査結果
につき、主にグローバルと日本・
た。今後 GPIF が運用資産におけ
J-REITの比較、および昨年と今年
る株 式
(不 動 産 会 社 の 株 式 や
の比較の観点で分析し 、サステナビ
November-December 2014
59
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Trend
リティに関する取組みの進展と課題
図表 3 GRESB 調査参加者数の推移
を考察する。
2009 年
グローバル
3.1 調査参加者数と全体的な結果
図表 3 のとおり、調査参加者数は
2011 年
2012 年
198
340
455
543
637
0
20
24
29
31
J-REIT
0
5
8
14
17
出典:参考文献 2 )、4 )などより筆者が作成
図表 4 日本の GRESB 調査参加者の結果分布
100
に増加した。日本の中では上場会
90
の初参加など新規参加 4 社を含む
17 社となり、時価総額ベースでは
48%が参加するに至った。過去 5
年間の推移でも参加者数は毎年増
加を続けており、2 回目の2011年と
マネジメントと方針 (MP)
社
( J-REITを含む)が 4 社 増の20
社、内 J-REITは住居セクターから
80
グローバル平均
(2014)
グ
ローバル平均
(2013)
70
60
50
J-REIT平均
(2014)
J-REIT平均
(2013)
40
日本平均
(2014)
日本平均
(2013)
30
20
比較すると、参加者数はグローバル
10
で1.9 倍、日本で1.6 倍、J-REIT で
0
は 3.4 倍となっている
( 初回の2009
J-REIT
その他
0
10
20
30
40
50
60
なお、一部の参加者は新規開発
にのみ従事しており、主として既存
ポートフォリオの運用状況を評価す
るGRESBスコアの算出対象にはな
70
80
90
100
実行と計測 (IM)
年は日本からの参加者がなかった
ため2 回目と比較)
。
2014 年
日本
グローバルでは昨年から約100 増え
637へ 、日本からは 2 増え31へ着実
2013 年
出典:参考文献 2 )、4 )より筆者が作成
図表 5 グローバルと日本 、J-REITの分野別スコア比較
グローバル
平均
69 (69)
日本
平均
70 (46)
J-REIT
平均
75 (59)
2 ポリシーと開示
57 (53)
57 (31)
59 (33)
分野
1 マネジメント
3 リスクと機会
60 (58)
60 (53)
75 (62)
らないため、この後の諸分析におけ
4 モニタリングと環境管理システム
53 (46)
58 (37)
61 (40)
る母数は、グローバル:617、日本:
5 パフォーマンス指標
31 (25)
33 (28)
40 (36)
6 グリーンビル認証
30 (28)
17 (13)
21 (16)
7 ステークホルダーとの関係構築
47 (45)
42 (30)
46 (39)
47 (43)
48 (34)
50 (41)
28 、J-REIT:17となっている
(日本の
内訳は、ディベロッパー:3 、J-REIT:
合計点
17、私募ファンド:8 )
。
出典:参考文献 2 )、4 )より筆者が作成
GRESB のスコアは「マネジメント
と方 針」
( MP )、
「 実 行と 計 測 」
60
ター」の評価を獲得し 、昨年の 4 社、
分野別に比較すると
(図表 5 )、日
( IM )
の2 軸とそれらを加重平均し
5 社からそれぞれ増加した。グリー
本平均 、J-REIT平均は、全ての分
た合計点により表されるが、本年調
ンスターの比率はグローバルでも昨
野で昨年からスコアが上昇し 、特に
査において日本平均、J-REIT平均
年の22%から37%に上昇したが 、
「マネジメント」、
「ポリシーと開示」、
は昨年から大幅に向上し、合計点で
日本 、J-REITにおける比率もそれ
「 モニタリングと環境管理システム」
グローバル平均を上回る結果となっ
ぞれ17%から29%、29%から41%と
の各分野ではグローバル平均以上
。また、J-REIT 7 社
た
( 図表 4 、5 )
向上しており、日本の不動産業界に
のスコアとなった。一方、昨年から
を含む日本の8 社が MP、IM共に
おけるサステナビリティに関する取
の 改 善 は見られ るもの の日 本 、
優れているとされる「 グリーンス
組みの進展を表している。
J-REIT が依然としてグローバル平
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.22
2014 年 GRESB 調査結果
~不動産業界におけるサステナビリティ組込みの進展と課題~
均を下回っているのは、
「グリーンビ
図表 6 サステナビリティ目標の設定と開示
ル認証 」
( 省エネルギー格 付を含
グローバル
む)と「 ステークホルダーとの関係
日本
構築」
( テナントとの協働を含む)
の2分野であり、これらの分野に今
J-REIT
0%
後の主な改善余地が見られるようで
3.2.1 マネジメント
40%
目標設定あり
ある。
3.2 分野別比較
20%
60%
80%
100%
目標設定を開示
出典:参考文献 2 )より筆者が作成
図表 7 サステナビリティ・パフォーマンスの開示状況
「 マネジメント」は、サステナビリ
グローバル
ティに関する目標の設定や、サステ
日本
ナビリティを推進する社内体制など
J-REIT
0%
を評価する分野である。グローバ
20%
40%
アニュアルレポートでの開示
ル平均が 昨年と同スコア
( 69 )で
60%
80%
100%
うち、
国際基準に準拠
あったのに対し 、日本 、J-REITの
出典:参考文献 2 )より筆者が作成
取組みは昨年から大幅に進展した
(日本:46 →70 、J-REIT:59 →75 )
。
回答し 、
「取締役会メンバー」と「シ
に関する開示については、昨年は日
図表 6 に示すように、グローバル
ニアマネジメント」
( 部長クラス)が
本、
J-REITの約 30%が「開示なし」
では 88%、日本 、J-REIT ではほぼ
約 4 割ずつであるグローバルの回答
であったが、本年はグループでの開
100%が何らかのサステナビリティ
を上回った。日本からは大手ディベ
示が回答可能になったこともあり、
目標を制定している。ただし 、目標
ロッパーの参加者がまだ少ないた
ほぼ全社が「 開示あり」となった。
を制定している参加者の中でそれ
め 、J-REITや私募ファンド運用会
開示方法としては、
「 ウェブサイトに
を開示している割合については、グ
社など比較的少人数の会社におい
おける専用セクション」が日本 、
ロ ーバ ル の 72% に 対し 、日 本 、
て、現状できる限りのサステナビリ
J-REITの約 90%で見られ 、
「アニュ
J-REITはそれぞれ 56%、59%とや
ティ推進体制を取っている様子が
アルレポート」
( 資産運用報告書を
や低く、目標の開示が今後の課題
窺える。
含む)もそれぞれ71%、82%の高比
の一つと言える。
次に、
「サステナビリティに関する
率となった。ただし 、
「アニュアルレ
3.2.2 ポリシーと開示
ポート」で開示している参加者のう
目標を執行する責任者」について
「ポリシーと開示」
の分野では、サ
ち、
「開示はGRI等の国際基準に準
は、日本 、J-REITの100%が「社内
ステナビリティに関する開示やポリ
拠している」との回答は、グローバ
の兼務の担当者」と回答し 、
「専任
シーの制定状況を評 価している。
ルで 61%だったのに対し 、日本では
の担当者」を配置している例は稀
昨年のスコアは、日本
( 31)、
J-REIT
20%、J-REIT では14%であった
(図
であったが、グローバルでは 59%が
( 33 )
ともにグローバル
( 53 )
に及ば
表7 )
。日本 、J-REITの参加者 が
「 専任の担当者」と回答した。反
なか った が 、本 年 はグローバル
開示に積極的な姿勢を示している
面、
「 サステナビリティに関する最
( 57 )がほぼ 横這いだったのに対
ことは評価すべきである一方、今後
終的な決定権限者」については、日
し 、日本は 57、J-REITは 59 へと急
は開示内容の一層の充実と国際基
本 、J-REIT では 8 割以上が代表取
伸し 、肩を並べる結果となった。
準に準拠した開示が検討課題とな
締役を含む「 取締役会メンバー」と
サステナビリティ・パフォーマンス
ろう。
November-December 2014
61
Business
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次に環境ポリシーの制定状況
(図
表 8 )については、
「 ポリシーなし」
との回答が昨年から減少し
( 日本:
38%→14% 、J-REIT:29%→24%)、
ポリシーを制定している参加者がさ
らに増加した。
「 エネルギー消費/
管理 」についてのポリシーを制定し
ているのは、グローバルの85%に対
して日本 が 86%、J-REIT が 76%、
「温室効果ガス
( GHG )
排出 /管理 」
についてはグローバルの 72%に対し
て日本 71%、J-REIT 65%と概ね同
水準となった。一方、
「 水消費/管
理 」および「廃棄物管理 」について
ポ リシ ー を 制 定して い る日 本 、
図表 8 環境ポリシーの制定状況
エネルギー
GHG
水
廃棄物
グローバル
(2013)
グローバル
(2014)
気候変動
日本
(2013)
日本
(2014)
J-REIT
(2013)
J-REIT
(2014)
ポリシーなし
0%
20%
40%
60%
80%
100%
出典:参考文献 2 )、4 )より筆者が作成
J-REITの参加者の比率は、グロー
バルと比較するとやや低い。さらに
大きな差が出たのは「 気候変動対
策」に関するポリシーで、グローバ
ル の 48% に 対 して 日 本 で32%、
J-REIT では6%にとどまった。海外
では、気候変動が「緩和」と「適応」
図表 9 サステナビリティ・リスク評価の実施項目
(新規投資物件)
エネルギー使用の効率性
水使用の効率性
建物の安全性・資材
グリーンビル認証と省エネ格付
の両面において大きなリスクとして
環境
認識されているのに対し 、日本にお
気候
いては関心が CO2 排出削減による
気候変動
「 緩和」に限定され 、一定の気候変
社会経済
動・温暖化は不可避との前提のもと
法規制
でそれに「適応」する対策が遅れて
リスク評価なし
0%
20%
グローバル
いるとの懸念が一部で示されてい
注1
る 。
3.2.3 リスクと機会
( 53 )、J-REIT
( 62 )は概ねグロー
40% 60% 80% 100%
日本 出典:参考文献
J-REIT 2 )より筆者が作成
に関し
ビリティ・リスク評価
(図表9)
「リスクと機会」の分野では、サス
バル並み
( 58 )の評価であったが、
ては、我が国ではエンジニアリング・
テナビリティ・リスク評価や省エネな
今年はJ-REIT平均が 75に向上し 、
レポート
( ER )の取得によるリスク
どの具体的な施策の実施状況が評
取組みに一層の進展が見られた。
評価が一般化していることもあり、
価され る。 昨 年 に おいても日本
新規投資物件に対するサステナ
「 建物の安 全 性と資材」、
「環境」
注1
河口真理子氏「地球規模の経済リスクとしての気候変動問題」を参照(大和総研 環境・社会・ガバナンス(ESG)ESG レポート(2014 年 7 月 28 日)
: http://www.dir.co.jp/research/report/esg/esg-report/20140728_008795.html)
62
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.22
2014 年 GRESB 調査結果
~不動産業界におけるサステナビリティ組込みの進展と課題~
(土壌汚染等)
などのリスクについて
図表10 データ管理システムで採用している項目
は日本 、J-REITともに実施率が 8 割
エネルギー消費/管理
を超え、グローバル平均を上回っ
水消費/管理
た。 他方、昨 年に引き続き日本 、
GHG排出/管理
J-REITの実施率が低かったのは、
廃棄物管理
「 エネルギー使用の効率性 」、
「グ
リーンビル認証と省エネルギー格
冷媒
その他
0%
付」などの項目となった。米国にお
20%
40%
グローバル
いて「エナジースター」を活用したエ
60%
日本
80%
100%
J-REIT
出出典:参考文献 2 )より筆者が作成
ネルギー使 用の 効 率性のベンチ
マーキングが標準的な慣行となって
いるように、我が国においても、本
分析を行い
( Check )、実績が目標
なった。データ管理システムの基準
年開始された「建築物省エネルギー
と乖離する場合には対策を実行する
への準拠や第三者検証・認証の有無
性能表示制度
( BELS )
」などの普及
( Act )いわゆる「 PDCAサイクル」
については、前述のEMS の場合と
とともに、
「 エネルギー使用の効率
によって目標管理を実施していく体
異なり、日本 、J-REITはグローバル
性 」や「 グリーンビル認証と省エネ
系を言う。本年調査結果によれば、
と同 水 準
( いず れも40 ~ 50% 程
ルギー格付」の評価が次第に定着
EMS の 活 用 に つ い て は 日 本 、
度 )となった。これは、日本では省
していくものと予想される。
J-REIT でも導入が進み 、グローバ
エネ法や東京都環境確保条例によ
ルとほぼ同水準の 40%強が「 EMS
る報告などが普及しているためと思
ク評価の実施については、全般的
を使用している」との回答になった。
われる。
に日本 、J-REIT がグローバルを上
ただし 、EMSを導入している参加
なお、エネルギーや水の消費量に
回った。
者のうち、ISO14001に代表される
ついてのモニタリング
(請求書による
国際的な基 準の採用や第三者検
消費量確認など )については、日
3.2.4 モニタリングと
証・認証の実施については、グロー
本 、J-REITの参加者のほぼ 100%
バルでは 79%の高率であったのに
が実施しており、グローバル平均
なお、既存投資物件に対するリス
環境管理システム
( EMS )
「 モニタリングと環境管理システ
ム」は、環境管理システムやデータ
対し 、日本では 33%、J-REIT では
( 80%台)
を上回っている。
14%にとどまった。
管理システムの導入状況、およびエ
EMS の重要なパーツとして、実績
ネルギー消費量などのモニタリング
把 握 や 予実 分 析をサポートする
「 パフォーマンス指標 」の分野で
状況が評価される分野で、この分
「 データ管理システム」の採用
( 図表
は、エネルギー消費量、GHG 排出
野においても日本 、J-REITの取組
10 )
については、
「 エネルギー消費/
量、水消費量、廃棄物量につき、
みが大きく進展した。日本平均は
管理 」
( 70%台)、
「 水消費/管理 」
データの床面積ベースでの把握率 、
37から58 へ 、J-REIT平 均は40 か
( 70%前後 )、
「 GHG 排 出 /管 理 」
消費量などの対前年比削減率 、削
ら61へ昨年からスコアが向上し 、
( 50%前後)
ではグローバルと日本・
減目標の設定状況などを評価する。
グローバル平均
( 53 )を超える結果
J-REITの間で大差はなく、
「 廃棄
グローバル、日本ともに昨年より
となった。
物管理 」は日本全体で見るとグロー
データ取得率
( 何らかのデータを報
「 環境管理システム
( EMS )
」と
バルと遜色ないもののJ-REITの実
告する参加者の割合)が上昇したこ
は、環 境 に関 する目標を設 定し
施率がやや低い
( グローバル・日本
ともあり、スコアが若干向上した
(グ
( Plan )、実績を把握し
( Do )、予実
は40%台、J-REITは 24% )結果と
ローバル:25 →31、日本:28 →33 )
。
3.2.5 パフォーマンス指標
November-December 2014
63
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エネルギー消費量データの取得
図表11 パフォーマンス指標のデータ取得率
率は、グローバルで 74%から82%
エネルギー消費量
へ 、 日 本 で 69 % か ら89 % へ 、
GHG排出量
J-REIT で 93%から100%へといず
水消費量
れも上昇した。エネルギー消費量、
0%
GHG 排出量、水消費量のいずれの
20%
40%
グローバル
データ取得率もグローバルより日本
60%
日本
100%となったのは素晴らしい結果
エネルギー消費量
GHG排出量
ロ ー バ ル )に 見 る と、オ フィス
水消費量
( 80% )や ショッピングセンター
廃棄物
(リサイクル率等)
最も改善したのは住居セクターで、
0%
昨年の51%から65%となった。
( 46%)
とグローバル
( 45% )
はほぼ
20%
40%
グローバル
エネルギー消費量の長期削減目
標に関しては
(図表12 )、昨年は日本
J-REIT
図表12 長期削減目標の設定
。セクター別
(グ
と言えよう
(図表11 )
( 79% )のデータ取得率が高いが、
100%
出典:参考文献 2 )より筆者が作成
の方がやや高く、特にJ-REIT でエ
ネルギーと水のデータ取 得 率が
80%
60%
日本
80%
100%
J-REIT
出典:参考文献 2 )より筆者が作成
図表13 グリーンビル認証・省エネルギー格付の取得
横 並び であった が 、本 年 は日本
新築ビルのグリーンビル認証
( 61%)がグローバル
( 43%)を上回
既存ビルのグリーンビル認証
り、中でもJ-REIT では 76%に上っ
省エネルギー格付
た。ただし 、エネルギー消費量の削
0%
減目標を設定している参加者におけ
20%
グローバル
る目標の開示率は、グローバルの
40%
日本
60%
80%
100%
J-REIT
出典:参考文献 2 )より筆者が作成
72%に対し日本は47%、J-REIT で
は46%にとどまっており、数値目標
の開示がグローバルほどには浸透し
水や廃棄物に関しては同様の法令
ル平均
( 30 )を大幅に下回っている
ていないことがわかる。また、日本
上の目標値がないことが要因と考え
唯一の分野である。
ではエネルギー( 61% )に続いて
られる。
ンビル認証を取得している参加者の
GHG
( 46% )も目標設 定率が 高い
が、水
( 29%)、廃棄物
( 18%)
では
かなり目標設定率が下がるのに対
64
図表13 のとおり、総合的なグリー
3.2.6 グリーンビル認証
「グリーンビル認証 」の分野では、
比率は、新築ビルでは日本
( 39% )、
J-REIT
( 41%)
はグローバル
( 44% )
し 、グローバルではGHG( 35%)、
CASBEE 、LEEDなどの「総合的な
をや や下 回るが 、既 存ビルでは
水
( 31%)、廃棄物
( 26%)の間でそ
グリーンビル認証 」と、エネルギー
J-REIT
( 59%)を中心にグローバル
こまでの差は見られない。日本で
性能に特化した「 省エネルギー格
( 30% )を上回った。本年に入って
は省エネ法上のエネルギー削減目
付」の取得状況を評価する。この
からの CASBEE- 不動産の認証取
標や東京都環境確保条例上の CO2
分野は、日本平均
( 17 )、J-REIT平
得は、ほぼ全件が GRESB 調査に
排出削減目標が浸透している一方、
均
( 21 )が昨年に引き続きグローバ
参加しているJ-REITによることも、
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.22
2014 年 GRESB 調査結果
~不動産業界におけるサステナビリティ組込みの進展と課題~
J-REITを中心に既存ビル認証取得
図表14 賃貸借契約におけるグリーンリース条項
(グローバルの回答)
の動きが進展していることを裏付け
消費量データの共有
ている。ただし 、既存ビル認証の
テナント工事における省エネ・環境要件
床面積のカバレッジ率は、グローバ
グリーンビル認証に関する情報共有
ルの35%に対して、日本 、J-REIT
は共に 27%とやや低く、今後さらに
省エネ格付に関する正確な情報提供義務
消費量の目標値の共有
その他
認証取得が進む余地があることを
0%
20%
40%
60%
80%
示唆している。
省エネルギー格付については
(図
表13 )、日本にはこれまで該当する
制度がほとんどなかったため、これ
を取得している参加者の割合はグ
ローバ ル
( 65% )と 比 べ て日 本 、
J-REIT で は 非 常 に 低 い
( 日 本:
100%
出典:参考文献1
図表15 サプライヤー等に対するサステナビリティ要件の設置
外部のPM/AM会社
外部の請負業者
外部のサービス提供者
外部のサプライヤー
0%
11% 、J-REIT:18%)
。ただし 、国土
20%
グローバル
交 通 省のガイドラインに 基 づく
BELSや東京都のカーボン・レポート
40%
60%
日本
80%
100%
J-REIT
出典:参考文献 2 )より筆者が作成
制度の開始により、来年以降は大幅
会の設置 (
」グローバル:54% 、日本:
( 64% )、
「 グリーンビル認証に関す
46%、J-REIT:47%)については若
る情報共有
( すなわち、グリーンビ
干、
「 サステナビリティに関する意識
ル認証取得・維持における情報提供
を醸成するイベントの実施 (
」グロー
。
の協力)
」
( 53% )
が多い
(図表14 )
は、
「 従 業員 」、
「 テナント」、
「 PM
バル:40% 、日本:21%、J-REIT:
日本 、J-REITの先進事例では、
「省
会社・サプライヤー」、
「地域・コミュニ
29%)については相当程度グローバ
エネ改修コストのテナントによる分
ティ」とのサステナビリティ推進に向
ルを下回っている。
担 」、および「 省エネ改修を行った
な改善の余地がある。
3.2.7 ステークホルダーとの関係構築
「ステークホルダーとの関係構築」
けた関係構築を評価する分野であ
こうしたテナントとの協働関係を
場合の原状回復義務の免除」が挙
る。日本
( 42 )、J-REIT
( 46 )
のスコ
賃貸借契約に組込む「グリーンリー
げられた。グリーンリースが普及し
アは昨年から向上し 、グローバル
ス」の実施については、その差がさ
ている豪州などでは、政府や業界
( 47 )にほぼ追いついたが、テナン
らに明確になり、
「 標準的な賃貸借
団体が主導したグリーンリースのひ
トとサプライヤー関連の取組みにつ
契約にグリーンリース条項を組込ん
な形やガイドラインの策定が原動力
いては、引き続き改善余地が見られ
でいる」と回答した参加者は、グ
となったが、我が国でも国土交通省
る。
ローバルでは43%に上ったが 、日
が主催する環境不動産普及促進検
「 テナント関与プログラム」におけ
本 、J-REIT からは先進的な事例が
討委員会において「 日本版グリーン
る「 エネルギー消費などについての
2~ 3 件報告されるにとどまった。
リース」のひな形が策定されており、
テナントへのフィードバック・情報提
グリーンリース条項の中身としては、
今後、導入の動きが広まることが期
供 」に つ い て は、日 本
( 50% )、
グローバルでは「電気・ガス・水等の
待される。
J-REIT
(47%)
はグローバル
( 46% )
消費量データの共有」
( 77%)、次
外部の「 PM/AM会社 」、
「 サプ
とほぼ同水準だったが、
「 テナント
いで「 テナント工事におけるエネル
ライヤー」などに向けたサステナビリ
とのサステナビリティに関する協議
ギー効率や環境配慮に関する要件」
ティ要件の設置
( 図表15 )に関して
November-December 2014
65
Business
Trend
は、
「 PM/AM会社 」については日
ポーター( 旧 称:サポート・メン
れ 、今後はポートフォリオ・会社レベ
本
( 57% )、J-REIT
( 71%)
がグロー
バー)
)
。調査参加者の平均スコア
ルでの環境配慮と株価などの関係
バル
( 47%)を上回った。一方、
「請
においても、日本 、J-REIT では全
についても調査・研究が進んでいく
負業者」、
「サービス提供者」を含む
分野において評価が向上し 、合計
ものと考えられる。
それ以外の「 サプライヤー」につい
点でグローバル平均を超えるまでに
ての要件の設置は、グローバルが
なった。
50%前後であるのに対し 、日本 、
不動産価値の向上
(賃料上昇 、入居
GRESB のミッションは、世界の
率向上など)に結び付くとの検証結
J-REIT では 30%前 後にとどまっ
不動産セクターのサステナビリティ・
果が依然として乏しいが、現在、国
た。サプライチェーン全体における
パフォーマンスの透明性を高めるこ
土交通省のワーキング・グループなど
サステナビリティ配慮は近年注目が
と、ならびに、サステナビリティ・パ
で相関分析がなされているとのこと
高まっており、可能な範囲で
「グリー
フォーマンスを評価・改善することに
であり、結果の公 表が 待たれる。
ン調達 」を推進していくことが今後
より株主価値の向上を図ることにあ
これまでは、認証されたグリーンビ
の検討課題となろう。
る。前者を実現するためには、参加
ルの件数が少ないことがこうした分
者が報告するデータの信頼性を国
析を困難にしている一因で、
「グリー
内外の基準準拠や第三者検証の普
ンビルが少ないから経済性との関
及などにより高めることが必要であ
連性を検証できない」、
「経済性との
不動産セクターにおけるサステナ
り、ま た、評 価 機 関 と し て の
関連性が明確でないからグリーンビ
ビリティの組込みには着実な進展
GRESBによるデータ検証・スコアリ
ルが増えない」という「鶏と卵」の関
が見られる。GRESB のメンバーは
ングの体制についても今後充実が
係が生じていた。 本 年の GRESB
昨年より約 50 社、調査参加者は約
図られる方向である。後者について
調査でも日本のスコアがグローバル
100 社増加しており、調査参加者の
は、既に各国で個別不動産の環境
平均に及ばなかった「 グリーンビル
平均スコアも毎年着実に向上してい
性能と不動産価値の関係の分析が
認証 」
(
「 省エネルギー格付」を含
る。日本からの参加者もJ-REITを
なされているが、本年10月にLEED
む)については、我が国でも制度の
中心に毎年増加していると共に、本
などの認 証機 関であるGBCI( グ
新設や普及の兆しが見られるところ
年10月には投資家メンバーにDBJ
リーンビルディング 認 証機 関 )と
であり、グリーンビルの普及と共に、
が、サポーターに一般社団法人 日
GRESBが合併したことにより、個
環境性能の不動産価値への反映が
本サステナブル建築協会
( JSBC )
が
別不動産とポートフォリオ・会社レベ
明確になっていくことを大いに期待
加わった
( ARESは 2012 年からサ
ルのデータベースの連携が推進さ
したい。
4. まとめ
参考文献
1)2014 年 GRESB 調査レポート
2)2014 年 GRESB 調査日本市場データ(非公開 )
3)2013 年 GRESB 調査レポート
4)2013 年 GRESB 調査日本市場データ(非公開 )
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日本では、不動産の環境性能が
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.22
2014 年 GRESB 調査結果
~不動産業界におけるサステナビリティ組込みの進展と課題~
「環境不動産 」に関する PRI 日本ネットワーク不動産ワーキンググループ・
UNEP FI 不動産ワーキンググループ 合同会合のご案内
この度 、PRI 日本ネットワーク不動産ワーキンググループおよび UNEP FI(国連環境計画 金融イニシア
ティブ )不動産ワーキンググループが会合を共催し 、サステナビリティ評価指標と省エネ改修についての
報告書に関する講演 、およびグローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク(GRESB)2014 年調
査結果に関する講演を行わさせて頂きます。今回の共催に伴い 、PRI 日本ネットワークおよび UNEP FI
署名機関に加え 、外部関係者にもご参加いただく予定ですので 、ご興味のある方はぜひお申し込みくだ
さい 。
記
日 時: 2014 年 12 月 18 日(木 )14 時 ~ 16 時 ( 受付開始 13 時 40 分より )
会 場: 三井住友信託銀行株式会社 5 階 A 会議室
住 所: 〒 100-8233 東京都千代田区丸ノ内 1-4-1
お 問 合 先: PRI 事務局 日本ネットワーク [email protected]
締
切 り:2014 年 12 月 10 日(水 )
申 込 方 法: 次のリンクから御申込下さい http://dotmailer-surveys.com/b51pce4d-1710lsc4
リンクにアクセスできない場合は 、御社名 、役職名 、御名前 、電話番号 、電子メールアドレスを明記の上
[email protected] までメールでお申込み下さい 。
ほりえ りゅういち
たかぎ ともこ
不動産投資運用の環境・サステナビリティ配慮
に係る助言や環境不動産に関する公的な調査業
務を行う CSR デザイン環境投資顧問株式会社の
代表取締役社長。以前は日本興業銀行、メリル
リンチ証券、ドイツ証券に合計 22 年間勤務し、
ドイツ証券ではマネージング・ディレクターと
して再生可能エネルギーファンド等を含むスト
ラクチャード・ファイナンス業務を統括。東京
CSR デザイン環境投資顧問株式会社 コンサル
タント。2007 年より国土交通省国土技術政策
総合研究所にて建築環境政策の分析等に従事。
2013 年、CSR デザイン環境投資顧問株式会社
に入社し、環境不動産の国内外制度や GRESB
調査に関するコンサルティングなどを行う。東
京大学大学院(建築学)およびロンドン・ス
クール・オブ・エコノミクス(都市計画学)に
大学法学部卒、カリフォルニア大学バークレー
校 MBA、LEED AP、CASBEE 不動産評価員、
桜美林大学大学院非常勤講師、国土交通省「環
境不動産普及促進検討委員会」委員・ワーキン
ググループ長、環境省「グリーン投資促進のた
めの情報開示及び評価の在り方に関する検討会」
委員、国連責任投資原則 (PRI) 日本ネットワー
ク不動産ワーキンググループ議長など。
て修士号取得。博士(工学、東京大学大学院)
。
LEED Green Associate、CASBEE 不動産評
価員。日本建築学会地球環境委員会「サステナ
ブル評価指標小委員会」委員。一般社団法人グ
リーンビルディングジャパン「運営委員会」委員。
November-December 2014
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