最 優 秀 賞 (中央大会奨励賞) 忘れられない一つの出会い 「びっくりした。 」 と言いました。私は 「お前、店のおばさんの指を見て驚いたか。 」 食事を終えて店から出ると、父が らないような、なんともいえない空気が流れていたのを覚えています。 二年 平 野 亜 弥 視線を読まれないためになのか、テーブルに置いてあった新聞を読み出しました。場を繕わなければな と言いました。その指を見て私の表情は一瞬変わったと思いますが、店のテレビに見入りました。父も、 「とんかつ定食を二つお願いします。 」 がないほど指が変形していたからです。父は平然と お店のおばさんがお茶を出してくれたのですが、両手の指を見て私は驚きました。今までに見たこと 中学一年生の夏、父と一緒にとんかつ屋さんに行った時のことです。 春日部市立武里中学校 ︵ 中 央 大 会 法 務 省 人 権 擁 護 局 長 賞 ︶ と答えました。父は 「人間は、自分と異なる者を見た時、どうしても驚くことがある。俺は幼稚園の遠足で横浜に行って、 初めて黒人に会って驚いたことがある。 」 と話し出しました。外国人に毎日のように会う現代から考えると、幼い父の驚きにびっくりしました。 父はさらに続けました。 「今みたいに外国人がいる時代じゃないから俺は驚いた。あたりまえになれば驚かなくなる。さっきの 店のおばさんのことだって同じだ。あれは、何かの病気のせいだと思う。もしかしたらハンセン病かもし れないな。人生、いろんな人と出会う。何があっても、あたりまえのことだと思えば何でもないことだ。 」 私には、父の言っていることが簡単なことなのか難しいことなのかよくわからなかったのですが、どん な人に会ってもあたりまえに接することが大事なんだ、と納得しました。 それから数週間して、私と父は再びそのとんかつ屋さんに行きました。父が 「どうしてももう一度連れて行きたい。 」 と言ったからです。 今度こそ普通に接しようと思うのですが、普通に接するってどういうことなのか、これはとても難し いことでした。しかしおばさんは私たちのことを覚えていてくれて、私たちが話しかける前に、おばさ んから色々と話しをしてくれました。 なんでも、若い頃から鍼灸の治療を受けていたらしく、昔は針の殺菌が不十分でウイルスに感染し、 関節リウマチを患ってしまったとの話でした。関節リウマチが進行して指の関節が変形し、今では茶碗 を持ってくるしかお店の手伝いができないそうです。そういうやりとりをしているうちにおばさんの指 がまったく気にならなくなり、いつの間にか自然な会話ができるようになりました。父がもう一度連れ てきてくれた意味がわかりました。 私は、だれにでもあたりまえに接することの大切さがよくわかりました。そしてそれに欠かせないこ とは、相手に関心と敬意をもって、自分から話をする気持ちを持つことだと思います。そのためにはふ だんから、わからないことを聞いたり調べたりすることも必要だと思います。この作文を書くにあたっ てハンセン病についてDVDで学びましたが、そこには、苦痛に耐えてきた患者さんの姿がありました。 ハンセン病と診断されただけで、療養所に強制的に隔離され、家族と離れ離れにされてしまう。まるで 犯罪者に対する終身禁固刑です。私たちが誤って歩いてしまった道だと感じました。逆境に耐えてきた 患者さんの記憶、この大切な記憶を失ってはいけないのです。ハンセン病に対する正しい知識と患者さ んたちの苦痛の記憶を私たち若い世代が共有することが大切だと思いました。 私はこれからも色々な人に出会うでしょうが、とんかつ屋のおばさんとの出会い、そして父の教えを 大切に心にしまって、人と接していきたいです。
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