関西算数授業研究会通信 教材研究の進め方~こんな立体の体積はどう求める?~ 追手門学院小学校 戸田 常雄 1.教材研究とは? 我々教員は、授業を行うときに児童が自ら主体的に学習に取り組み、かつ効率的に学習効果が得られるよ うにしなければならない。そのために教材研究を行い、指導者が教材について理解を深める必要がある。そ こで今回、この講座をするにあたって、自分なりに教材研究の進め方について考えた。 まずは、以下の通り、授業を組み立てる際に考えるべきことをまとめた。 ①なぜ,教えるのか。 (指導目的) 児童が学習する事柄には、必ず目的がある。これを見失っては本末転倒であるが、研究を進めれば進める ほど、いろいろと学ばせたいことが出てきて、本来の目的からずれてしまうことがある。そうなってしまわ ないように目的は常に意識し、その目的を達成できるように方策を練っていくべきである。 ②何を教えるのか。(指導内容) 算数はスパイラル学習と言われるように単元間のつながりが大きな意味を持つ。一つひとつの単元目標を きちんと達成していくことが大変重要である。そこで、指導内容をきちんと把握し、正しく児童につかませ なければならない。そのために指導者は、その教材だけを研究するのではなく、学習の系統性や前後関係を しっかりと理解しておく必要がある。 ③どのように教えるのか。 (指導方法) 同じ食材を使って同じ料理を作っても、調理の仕方で味は大きく変わる。教材も同じでどのように教える かで、児童の理解には大きな差が生まれる。児童が面白いな、考えてみたいなと思うような興味付けや導入、 そして能動的に考えることができるような提示の仕方や展開をしなければならない。そこで、指導案はもち ろんのこと、発問計画や板書計画が必要となる。 2.教科書会社6社を比較してみる 教科書は大変よくできている。学習の系統性はもちろんのこと、一つひとつの数値についても十分吟味さ れ、意味を持って提示されている。 教科書を教えるのではなく、教科書で教える。若いときに先輩の先生によく言われた言葉である。そこで、 私は教材研究を深めるときには必ず算数の教科書会社6社のものを全て比較している。そうすることで、新 しい考え方をみつけられたり、問題点を見出すことができたり、また新しいアイデアの発想へと繋がってく るからである。そこで今回は以下のことについて注目して6社比較を行った。 ・導入の仕方は? ・数値は? ・どんな立体を取り扱っている? ★立体の体積における各社の導入比較(50音順) <学校図書> 底面の形・・・・底辺7cm、高さ4cmの直角三角形 立体の高さ・・・3cm 立体の種類・・・三角柱 <教育出版> 底面の形・・・・底辺5cm、高さ2cmの三角形 立体の高さ・・・4cm 立体の種類・・・三角柱 <啓林館> 底面の形・・・・底辺4cm、高さ3cmの直角三角形 立体の高さ・・・5cm 立体の種類・・・三角柱 <大日本図書> 底面の形・・・・底辺6cm、高さ4cmの平行四辺形 立体の高さ・・・3cm 立体の種類・・・四角柱 <東京書籍> 底面の形・・・・底辺6cm、高さ4cmの三角形 立体の高さ・・・5cm 立体の種類・・・三角柱 <日本文教出版> 底面の形・・・・底辺3cm、高さ4cmの直角三角形 立体の高さ・・・5cm 立体の種類・・・三角柱 教科書会社各社を比較をして分かるのは、6社中5社が三角柱から導入しているということである。基本的に は、直方体の体積は既習事項であるので、それを半分にして三角柱の体積をもとめることができるという流れが 多い。 また、数値については、3~7cmの比較的小さいものを使っている。単元の導入であるので、計算を複雑に せず、考え方を身につけ易いよう、計算は簡単になっている。 3.授業をつくる ・取り扱うのは下の立体の体積を求めるという授業 ①なぜ,この問題を教えるのか(指導目的)について ・どう繋がってきて,何に繋がる? <前後関係> 4年 直方体と立方体 ●箱の見取り図,展開図 面積 ●長方形,正方形の面積 ●面と面,辺と辺,面と辺 の関係 5年 体積 面積 ●三角形,四角形の面積 ●直方体,立方体の体積 円と正多角形 ●円周と直径の関係 6年 立体の体積 円の面積 ●角柱の体積 ●円の面積 ●円柱の体積 中学 柱体,錐体,球の表面積と体積 上記のように、体積の学習は面積の学習と大きな関係がある。そこで、改めて体積の学習を見直すと、面積 では台形を扱い、求積までしているのに対して、体積では台形を底面とするものはほとんど扱っていない。 また、中学校の入試問題を見ていると、円柱を斜めに切った形の体積を求める問題がでてくる。先行学習を している子は、同じものを2つくっつけて体積を求めて半分にすればよいと答える。しかし、それ以外にもや り方は多くあり、その考え方の多様性こそが図形や立体の面白さである。 ②この問題の何を教えるのか。 (指導内容) 台形の面積を求める学習をする理由は、求め方の多様性にあると私は捉えている。だからこそ、求められた ら良いということではなく、どのような工夫をすることで求められたかに重きをおきたい。また、立体におい ても既習の内容を組み合わせて底面の形が台形の柱体の体積を求めることができるということに気づかせた い。 ③どのように教えるのか。 (指導方法) まず上記のように、この立体の体積を求める面白さはその多様性である。そこで、児童にはこの立体が描い てある紙を配り、思いつく限りの工夫をかき込ませた。そして、それを前に提示するときに同じ考えのものは 全て持ってこさせた。そのことにより、自分と同じ考えの人がどれくらいいるのかが分かる。またそのことが 他の人が考えつかない工夫を探そうという動機となった。 そして、出てきた考えを円柱を斜めに切ったものでもできるのかということで発展させた。幾つかはできる のに、幾つかはできないというところに児童は不思議さともどかしさと面白さを感じていた。 4.指導略案 ・学 年 第6学年 ・単 元 名 立体の体積 ・単元の目標 柱体(角柱・円柱)の体積の求め方を考え,それを用いることができる。 ・本時の目標 斜めに切られた柱体の体積を工夫して求めることができる。 ・本時の展開 児 童 の 活 動 指 導 上 の 留 意 点 準 備 物 (めあて)斜めに切られた柱体の体積を求めよう。 1. (発問1)斜めに切られた四角角柱の体積を求めましょう。 ・斜めに切られた四角柱の体積を ・学習プリントに,どのように工夫を 斜めに切った四 求めるために,どのように工夫を したのか分かるように図を書きこませ 角柱の立体 すればよいか考える。 る。 書き込み用プリ <予想される工夫> ント(四角柱) ①四角柱と三角柱に分ける。 ②台形の側面を底面と考え,台形の四 角柱と見る。 ③高さ12cmの四角柱として体積を 出してから,三角柱の部分を引く。 ④同じ立体をくっつけ,高さ20cm の四角柱の体積を求め,2で割る。 ⑤6cmの部分を半分に切って,2つ になった立体を合わせる。 ⑥5cmの部分を半分に切って,2つ になった立体を合わせる。 ⑦上部2cmを切り分け,回転させて 合わせ,高さ10cmの四角柱にす る。 2.体積を求め,発表する。 ・同じ工夫のものはプリントを重ねて 提示する。 ・それぞれの工夫について式を確認さ せる。 ・複雑化しているだけのものは工夫と みなさない。 3. (発問2)斜めに切られた円柱の体積を求めましょう。 ・斜めに切られた円柱の体積を求 ・体積を求めるために,1.の場合の める。 工夫が応用できることに気づかせる。 ント(円柱) (円柱の場合でもできる工夫は④~ ⑦) 書き込み用プリ ・発表をする。 ・同じ考えのプリントは重ねて提示す る。 4.まとめる ・まとめ ななめに切られた角柱や円柱の体積 も工夫を すれば求めることがで き る。 ・ふりかえりを書かせる 〈板書〉
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