長崎の今後の展望について 九州旅客鉄道株式会社長崎支社長 深田康弘

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長崎の今後の展望について
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長崎の今後の展望について
九州旅客鉄道株式会社
長崎支社長 深 田 康 弘
昭和54年 日本国有鉄道大分鉄道管理局入社
昭和62年 九州旅客鉄道株式会社入社
平成20年 開発部事業課長
平成21年 企画部企画課長
平成23年 サービス事業部長
平成26年 企画部長
平成27年 長崎支社長(現職)
1.はじめに
向性が示される予定であり、大きな変化を遂
げようとしております。
平成28年は、1月の大雪に始まり、4月の
特に長崎本線連続立体交差事業や長崎駅周
熊本地震や梅雨から夏にかけての大雨・台風
辺再開発事業は、5年前に大分地区で先行し
と自然災害の多い一年でありました。特に甚
て同様の事業が完了しており、この先行事例
大な被害であった熊本・大分の皆さまには、
も参考にしながら、事業が進められることに
いち早く震災から復興を遂げられるようお祈
なろうかと思います。しかしながら大分地区
り申し上げます。
と異なり長崎地区の最大のポテンシャルは新
そのような中、長崎デスティネーション
幹線の開業を控えていることです。
キャンペーンや KISS MY NAGASAKI キャ
新幹線が今後のまちづくりや長崎の未来へ
ンペーンを通し、長崎の魅力を改めて発掘す
もたらす影響は大変大きく、注目に値する事
る機会を頂戴し、知られざる長崎の魅力を発
業であると考えております。
信することにも繋がりました。関係者の方々
本稿では、これらの事業、開発について、
にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
現在の進捗状況を中心にご紹介いたします。
さて当社は、平成28年10月に悲願であった
株式上場を果たすことができました。また今
年は、4月に会社発足30周年という大きな節
2.連続立体交差事業について
目を迎えます。長崎地区においても、長崎高
長崎本線の浦上駅付近から長崎駅まで約
架・九州新幹線工事が更に進捗し、諫早・長
2.4kmを高架化する事業であり、平成20年12
崎駅周辺再開発の姿が見え始め、初夏には九
月に都市計画決定、平成22年2月に連続立体
州新幹線西九州ルートの今後の運行方式の方
交差事業の基本協定を締結しました。これに
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伴い長崎駅構内の車両基地機能は早岐駅構内
へ移転され、平成26年3月に工事が完了しま
した。また、車両基地移転に併せ、早岐駅駅
前広場整備および東西の市街地を繋ぐ連絡通
路整備が実施されると共に、こ線橋と連絡通
路を接続する位置に駅舎を2階化して改築す
る工事を実施し、平成26年10月に連絡通路と
新駅舎が供用開始されました。
浦上駅付近から長崎駅付近は平成28年3月
に仮線への切替を行い、浦上駅は仮設の駅
舎・ホームにて供用中です。また平成28年9
月には浦上駅の地下通路の完成に伴い、こ線
仮線切替後の浦上駅
橋が撤去されました。平成29年3月には、お
客さまの利便性向上のために浦上駅ホームに
アクセス可能なエレベーターが設置される予
定です。
平成28年度からは高架橋本体工事にも着手
しています。長崎駅部は九州新幹線西九州
ルートの建設工事と同時に進められるため、
長崎駅周辺完成イメージ(資料:長崎県)
長崎本線連続立体交差事業(資料:長崎県)
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長崎の今後の展望について
新幹線の建設主体である鉄道・運輸機構と施
長崎駅周辺開発計画地の敷地面積は、高架
工調整を行いながら鋭意施工しています。
下を含め約4.8万平方メートルであります。
長崎駅は、在来線の高架化に伴い現駅舎部分
3.長崎駅周辺開発について
などが空き、新駅舎は現在地から西側に約
150メートル移動します。具体的な計画はこ
長崎駅周辺では、九州新幹線西九州ルート
れからですが、平成28年8月末に九州新幹線
が平成34年度の開業を控えています。また、
西九州ルートを見据えて長崎県と締結した包
在来線の高架化事業や土地区画整理事業等の
括的連携協定締結式で紹介させていただいた
都市基盤整備、今年の秋に完成を控えた長崎
ように、在来線の高架化、新駅の建設に伴っ
県庁や長崎県警本部庁舎の建設も進められる
て生じた新たなスペースを有効活用して駅ビ
など、駅周辺のまちづくりが進められています。
ルを拡張する予定です。商業施設、オフィス、
JR九州ではこれまでに、アミュプラザ長崎、
ホテルを中心に検討し、長崎のランドマーク
JR九州ホテル長崎(ともに平成12年開業)の
となるような開発を目指したいと考えており
開発を実施し、今後も駅周辺のまちづくりと
ます。
併せ、新たに生み出される自社用地を最大限
活用して、駅周辺の活性化を図っていきます。
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4.九州新幹線西九州ルートについて
(2)経緯
昭和60年に環境影響評価のために当時の国
(1)路線の概要
鉄が公表したルートは佐世保市を経由するも
九州新幹線西九州ルートは、全国新幹線鉄
のでありましたが、平成3年にこれを見直し、
道整備法に基づき昭和48年11月に整備計画が
当面博多から武雄温泉までは在来線を活用し、
決定された福岡市・長崎市間の路線です。平
武雄温泉から新大村までをほぼ直線とし長崎
成28年9月現在、武雄温泉・長崎間の約67km
に至るスーパー特急方式とする案が採用され
で建設が進められており、武雄温泉、嬉野温
ました。
泉(仮称)、新大村(仮称)、諫早、長崎の5
その後、平成16年12月の政府・与党合わせ
駅が設けられる予定です。
で、武雄温泉・諌早間は沿線自治体との調整
が整った場合に着工し、軌間可変電車(フリー
ゲージトレイン)方式による整備を目指すこ
ととされました。
平成19年12月、佐賀県・長崎県・JR九州
の間で、並行在来線(長崎本線肥前山口・諫
早間)を経営分離せず上下分離し、同区間の
鉄道施設を両県に譲渡、開業後20年間当社が
運行を維持することで合意し(三者基本合
意)、平成20年3月に武雄温泉・諫早間の工
事に着工しました。
平成23年12月には、政府・与党による整備
新幹線問題検討会議において、「建設中の武
・工事延長 武雄温泉・長崎間 約67km
雄温泉・諫早間と新たな区間である諫早・長
・時間短縮効果 武雄温泉での対面乗換方
崎間を、一体的な事業(肥前山口・武雄温泉
式により博多・長崎間1時間26分
(▲22分、国土交通省試算)
(凡例)
間の複線化事業を含む。
)として扱い、軌間
可変電車方式(標準軌)により整備する」方
針が示され、平成24年6月、武雄温泉・長崎
九州新幹線西九州ルート
間の工事に着工し、概ね10年後に完成するこ
上下分離区間(運行はJR九州、
ととされました。
鉄道施設は佐賀県・長崎県へ譲渡)
並行して、鉄道・運輸機構によりフリーゲー
ジトレインの技術開発が進められていますが、
平成26年12月、耐久走行試験において車軸に
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長崎の今後の展望について
磨耗が認められ、試験を一時休止して原因を
間変換、在来線を繰り返し走行する耐久試験
追究した結果、平成27年12月、国土交通省が
を実施」し、保全性・経済性の分析・検証を
フリーゲージトレインの量産車導入が平成34
行う計画です。
年度に間に合わないことを発表したことを受
けて、平成28年3月、与党プロジェクトチー
(2)安全性の確立について
ム西九州ルート検討委員会、佐賀県、長崎県、
FGTの開発については、安全性の確立が
JR九州、鉄道・運輸機構、国土交通省の6
第一と考えています。評価委員会においては、
者間で、対面乗換方式により開業することで
「車軸の摩耗対策」及び「高速走行安全性」
合意しました。
について耐久走行試験に移行する条件は満た
対面乗換方式とは、博多・武雄温泉間の在
されていないと評価されました。これらの課
来線特急列車と、武雄温泉・長崎間の新幹線
題に対する対策は、鉄道事業者として安全運
車両とを、武雄温泉駅の同一ホームで乗り換
行を担う責任を全うする観点から、営業運転
える方式のことです。国土交通省は、この方
に耐え得るレベルまで確立する必要があると
式により、博多・長崎間の所要時間は在来線
考えております。
特急に比べ約22分短縮されるとしています。
また、平成28年8月には、九州新幹線西九
(3)保全性・経済性について
州ルートの開業効果の最大化を図ることを目
FGTは軌間変換の実現のために特有の部
的に、地元との十分な連携を図るべく、佐賀
品を使用するとともに、これらの部品の交換
県・長崎県とそれぞれ包括的連携協定を締結
のためには台車解体を必要とします。また、
いたしました。
車軸の摩耗という不具合に伴い、評価委員会
において、車軸の摩耗管理に関する限界値や
5.フリーゲージトレインについて
手法が示されました。安全を確保し得る部品
の検査・交換周期の評価や摩耗管理などの
(1)開発概要
FGTの保全性については、先述したとおり
フリーゲージトレインの開発は、国土交通
営業運転に耐え得るレベルまで確立する必要
省の指導のもと、整備新幹線建設推進高度化
があります。
等事業の一環として鉄道・運輸機構が行って
また、本委員会では平成28年2月に表明し
おり、JR九州は三代目となる新試験車両の
たとおり、FGTは地上設備も含めた保守点
設計・製作及び走行試験を受託しています。
検、部品交換、及び車体価格が経済的かつ現
新試験車両は、軽量化・長編成化を図った4
実的であることが重要です。評価委員会で報
両1ユニットの全電動車であり、軌間可変技
告されたFGTのコストは弊社としては、営
術評価委員会で求められている「新幹線、軌
業車を想定すると相当程度高いコストである
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と考えており、西九州ルートへの導入には更
なるコスト低減を図る必要があります。
6.おわりに
九州新幹線西九州ルートは、九州新幹線鹿
(4)弊社としての取り組み
児島ルートと並ぶ基幹路線であり、その整備
本年初夏の評価委員会における耐久走行試
により西九州地域の高速交通ネットワークが
験の移行の判断は、FGT開発の重要な判断
充実し、九州島内の都市間交流が更に活発と
ポイントと捉えています。この判断にあたっ
なります。
ては、先に述べた安全性・保全性の課題が、
また、本事業を通し、新たな長崎のまちづく
鉄道事業者として責任を持って安全運行を担
りが推進され、長崎の新たな顔が生まれます。
い得る形で解決し、同時に経済性の課題も解
当社としては引き続き、九州新幹線西九州
決することについて見通しが立っている必要
ルートの事業を円滑に進めるため、国土交通
があります。
省をはじめ、沿線自治体、そして建設主体で
このような前提に立って、弊社としては検
ある鉄道・運輸機構のお力添えをいただきな
証走行の実務を担うとともに、評価委員会に
がら、営業主体としてより良い方法になるよ
おいて示されたコスト低減策について、開発
うに努めて参りたいと考えております。
主体である鉄道・運輸機構と共に検討して参
ります。
フリーゲージトレイン
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