[SRA ポスター賞受賞記念] リスク・パス・ファインダー: リスクシナリオ発見

SURE: Shizuoka University REpository
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【SRAポスター賞受賞記念】 リスク・パス・ファインダ
ー : リスクシナリオ発見支援のためのツール
前田, 恭伸
日本リスク研究学会誌. 17(2), p. 13-18
2007-09
http://hdl.handle.net/10297/2071
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(c)日本リスク研究学会
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【SRA ポスター賞受賞記念】
リスク・パス・ファインダー:リスクシナリオ発見支援のためのツール
Risk Path Finder: A tool for supporting discovery of risk scenarios
前田
恭伸 *
Yasunobu MAEDA
Abstract.
A prototype of Risk Path Finder, a tool for supporting
discovery of scenario of emergence of new risks, was developed. It
visualizes relationships in a large number of terms and documents and
enables users to find causal paths from the sources to risk events. Food
safety risks are dealt with in this prototype. Over 300,000 documents
about food safety risks are collected from WWW by using
GoogleWebAPIs. For handling the documents, the system utilizes GETA,
the generic engine for transposable association, and DualNAVI, A
user-interface for text retrieval by using GETA.
Key Words: food safety, risk scenario, early warning, GETA,
DualNAVI
1.はじめに
科学や技術の発達に伴い、これまでわれわれの
社会が経験してこなかったような新たなリスクが
生まれてきている(池田, 2004; Renn, 2002)。例え
ば遺伝子組み換え作物、ナノマテリアル、電磁場
の健康影響などがこのようなリスクにあたるだろ
う。本研究では、このような新規リスクへの対応
を支援するものとして、新規リスク発生のシナリ
オの発見を支援するシステム「リスク・パス・フ
ァインダー(リスク経路探索支援システム)」
(前
田, 2006; Maeda, 2006)のプロトタイプを開発した。
シ ス テ ム の 基 本 的 な ア イ デ ィ ア は 、 P.
Wiedemann の ”Risk detection in environmental
health” (2002)に基づいている。Wiedemann らはこ
の研究のなかで、リスクを”knows risks”, “unclear
risks”, “new risk fields”の3つに分類している。も
しあるリスクが既知で、またその証拠が明確であ
れば、そのリスクは known risks に分類される。も
しそのリスクが既知でも証拠が不明確であれば、
*
それは unclear risk である。一方、もしあるリスク
がまだ人々に知られていないのであれば、それは
new risk fields のひとつである。本研究はこの new
risk fields に焦点を置いている。Wiedemann (2002)
によれば、known risks や unclear risks を発見する
ためには、モニタリングや調査という手法が適し
ている。一方 new risk fields の特定は、基本的には
定性的手法、特にシナリオ技術に基づくものにな
る。言い換えるなら、新たなリスクの発生を見つ
け出せるかどうかということは、その発生のシナ
リオ、つまりどのような原因からどのような経路
を経てリスク事象にいたるのかということを、見
出せるかどうかにかかっているということだ。
Known risk?
y
Proven evidence?
n
n
Figure 1.
y
Known risks
Unclear risks
New risk fields
Three categories of risks
静岡大学工学部システム工学科(Department of Systems Engineering, Shizuoka University)
本研究で提案するシステムは、ユーザが、新た
なリスク発生の原因から結果までの因果的経路に
ついて気付きを得ることを支援するように設計さ
れている。 その考えは次のようなものである。も
し新規リスクについてまったく手がかりの情報が
無いのであれば、手の打ちようは無い。しかし、
リスク事象発生の因果的経路について部分的でも
情報があれば、その情報を他の情報と組み合わせ
ることで、原因から結果までの経路のヒントを示
すことはできるかもしれない。例えば図2のよう
な状況を考える。
B
C
A
結果 D
Figure 2.
Causal path of a risk
この図はあるリスクについての因果的経路を図
式化したものである。この図は、原因Aから事象
B、事象Cを経て結果Dに至るような経路を示し
ている。もしリスクマネージャがこの全ての経路
を認識していれば、問題は起きないだろう。しか
しもし彼/彼女が、例えば経路BCに気づいてい
なければ、たとえ経路ABと経路CDについて知
識を持っていたとしても、リスク事象D発生の可
能性を低く見積もってしまうだろう。
このような状況のなかで、リスクマネージャに
対して、経路情報AB,BC,CDの組み合わせ
として経路ABCDの可能性を示すことができた
なら、リスクマネージャの気づきを促すことにな
るかもしれない。これが、本システムの基本的発
想である。
実際に、リスク事象発生の因果的経路を見出せ
なかったがために、防げるリスクを防げなかった
問題が少なからずあるのではないだろうか。例え
ば、2005 年 1 月には、広島県内の特別養護老人ホ
ームでノロウイルスの集団感染があり、そのうち
7名が死亡するという事件があった(厚生労働省,
2005)。ノロウイルスは、病院等のリスク管理者に
とっては、それなりに知られたリスク要因である。
しかし、特別養護老人ホームは 2000 年度の介護保
険制度発足とともに新しく制度化された施設だ。
この新しいリスク管理の現場において、ノロウイ
ルスという既知のリスクへの対策がうまく認知さ
れなかったことが、このような事態を招いた原因
かもしれない。
あるいは、過去の事例からの類推で、新たなリ
スクの発生に気づくこともあるだろう。例えばナ
ノ粒子である。なぜナノ粒子のリスクが注目され
ているかというと、ひとつの理由は質量あたりの
表面積が非常に大きいことにある。質量あたり表
面積が大きいことで、化学的反応性が非常に高ま
るのではないかと懸念されているのだ。これは既
知の、ナノスケールより大きな微粒子(たとえば
ミクロンスケール)のリスクから類推できること
だ。つまり「微粒子は反応性が高い」という既知
の知識に「ナノ粒子」という新たな知識が結合す
ることで、
「ナノ粒子によるリスク」という新たな
リスクシナリオが推定されたことになる。
このような、ばらばらな知識の断片の相互関係
を示すことで、リスクシナリオへの気づきを支援
しようというのがこのシステムの考え方である。
2.リスク・パス・ファインダー
リスク・パス・ファインダーは、食品安全リス
クのための早期警告支援システムのサブシステム
として構築された(Maeda, 2006)。この早期警告支
援システムは、ふたつのサブシステムから構成さ
Clearinghouse for
Food Safety Risks
Surrounding data
Risk Path Finder
Center data
Users
Figure 3. Early warning support system for food safety risks
Figure 4. Risk Path Finder
れる。ひとつは食品安全リスクに関するクリアリ
ングハウスで、もうひとつがリスク・パス・ファ
インダーである(図3)
。前者は WWW から獲得
した約 6500 件の食品安全リスクに係る文献デー
タベースであり、後者は、その 6500 件を含む、約
35 万件の WWW 文書について、その相互関係を
視覚的に表示するシステムである。このリスク・
パス・ファインダーというツールは、文書間の相
互関係を視覚的にユーザに示すことによって、文
書の山に埋もれた、リスク事象の原因から結果ま
での因果的経路について、ユーザの気づきを促す
ことを意図して設計された。
リスク・パス・ファインダーは、大量の文書デ
ータの相互関係を扱うために、汎用連想検索エン
ジ ン GETA (Generic Engine for Transposable
Association) (高野, 2007)を利用し、また GETA の
検索結果を可視化するために DualNAVI(Takano,
2000; 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析セン
ター, 2007)という GETA のためのユーザインタフ
ェースを用いている。図4はリスク・パス・ファ
インダーにおける DualNAVI のユーザインタフェ
ース画面である。画面上部のテキストボックスに
ひとつないしそれ以上のキーワードを入力すると、
左の画面には入力された語を含む文書の URL が
表示され、右側には、それら文書に含まれる特徴
的な単語によるネットワーク図が表示される。こ
のネットワークを特徴語グラフと呼ぶ。この図に
おいて、出現頻度の高い語ほど上部に配置され、
共起度、すなわち同じ文書に同時に出現する頻度
の高い語のペアは、線で結ばれる。つまりこの
DualNAVI のインタフェースは、指定した語を含
む文書の相互関係とそれら文書に含まれる単語間
の相互関係を同時に視覚的に表示してくれる。
リスク・パス・ファインダーの検索対象とする
文書はWWWから収集した。文書の収集には検索
エンジン Google のアプリケーション・プログラミ
ン グ ・ イ ン タ フ ェ ー ス (API) で あ る 、
GoogleWebAPIs (Google, 2005)を利用し、Google の
機能を利用して収集した。表1にあるような 65
個のキーワードを用いて食品安全に関する文書を
自動的に収集するプログラムを作成し、2004 年 12
月から 2005 年 1 月にかけて文書収集を行った。こ
れにより、およそ 36 万件の食品安全リスクに関す
る文書を収集することができた。リスク・パス・
ファインダーは、この文書集合の要素の相互関係
を表示する。
Table 1. Keywords for retrieving documents
カテゴリー
リスク分析
サブカテゴリー
リスクアセスメント
リスクアセスメント
リスク評価
健康影響評価
安全性評価
リスクマネジメント
リスクマネジメント
リスク管理
費用便益分析
費用対効果
リスク
リスク
コミュニケーション
コミュニケーション
生物学的ハザード
病原性細菌類
耐性菌、抗菌剤耐性
ウイルス
カビ類
寄生虫
プリオン
O157
サルモネラ菌
有害微生物
カンピロバクター
ノロウイルス
アレルギー
化学的ハザード
残留農薬・殺虫剤
残留動物用医薬品
食品添加物
着色料
生物学的要因
食品
化学的要因
新技術
製造工程
動物衛生
消費者情報
キーワード
動物衛生
暴露評価
汚染物質
アクリルアミド
ダイオキシン
PCB
水銀
飼料添加物
保存料
抗酸化剤
カビ毒
生物濃縮
遺伝子組み換え食品
栄養補助食品
サプリメント
保健機能食品
人工甘味料
Sweetener
食品照射
製造工程
製造プロセス
輸送
貯蔵
調理
狂牛病
BSE
冷蔵
高病原性
鳥インフルエンザ
食品安全のサイト
食品安全
回収の情報
食品回収
食品表示
食品表示
Figure 5. Example: Bird flu (1)
3.実行例
ここではリスク・パス・ファインダーの実行例
をひとつ示す。これは、ヨーロッパにおける鳥イ
ンフルエンザに関する例である。図5は、リスク・
パス・ファインダーに「ヨーロッパ」
「渡り鳥」と
いうふたつの単語を入力したときの出力結果であ
る。画面左側にはこのふたつの単語を含む文書が
リストアップされ、右側にはそれら文書に含まれ
る単語の特徴語グラフが表示されている。この特
徴語グラフのうち、
「人間」
「中国」
「感染」という
3つの単語を選んでリスク・パス・ファインダー
に再検索を指示すると、図6のような画面になる。
この画面において左側の文書リストの上から2番
目にある文書を表示したのが図7である。ここに
は鳥インフルエンザに関するFAOの注意呼びか
けが記されている。これは「ヨーロッパ」という
単語と「鳥インフルエンザ」の関連を示唆するも
のではないだろうか。ここで、このシステムが検
索対象とする文書を収集したのは 2005 年 1 月まで
であったということを、強調しておきたい。つま
り実際にヨーロッパで鳥インフルエンザが見つか
った時点のおよそ半年前のデータから、このよう
な経路を示唆することができたのである。
4.おわりに
リスクシナリオの発見を支援するツールとして
リスク・パス・ファインダーを開発した。ただ、
現在はこのシステムは停止している。ユーザイン
タフェースの DualNAVI のライセンスが切れたか
らである。DualNAVI は㈱日立製作所の製品であ
り、使用はそのライセンスに制約を受ける。そこ
で現在、ライセンスの制約を受けない、新たなユ
ーザインタフェース(図 8)を持つリスク・パス・
ファインダーの開発を検討している。
謝辞
DualNAVI の利用については㈱日立製作所の丹羽
芳樹氏にご協力をいただいた。またこの研究は文
部科学省科学研究費基盤研究(A)(1)(課題番号
16203019)の支援を受けている。
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R+D-Project 200 61 218/09, Research Center Jülich
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Figure 7. Example: Bird flu (3)
Figure 8. Image of new Risk Path Finder