特集 地域活性化の推進−交流と連携による未来の地域づくりに向けて− 空き家を地域おこしの拠点に整備 ほそ ざわ けい いち 細 澤 恵 一* 人口減少時代を迎え、中山間地域での空き家問題は年々深刻化している。地域課題の解決に向けて、自 らの地域を維持していくための手段として、集落内の空き家を活用した「田舎暮らし」を体験できる交流 拠点を整備し、地域外との交流を通じた「地域コミュニティの維持」の取組みを紹介する。 1.はじめに 2.地域の課題 小谷村は長野県の最西北端に位置し、北アルプス 小谷村は急峻な峡谷型の地形であることから村内 連峰の雄大な自然を背景に栂池高原・白馬乗鞍温泉・ には54もの集落(行政区)が存在し、それぞれの 白馬コルチナの3つの大きなスキー場をもち、2つ 集落における世帯数は90世帯から1桁までさまざ の国立公園においては栂池自然園や雨飾山、白馬大 まである。過疎・高齢化が進む中で地域ごとの多種 池や鎌池といった山岳・湖沼と緑豊かな森林がある。 多様な課題に対する行政の支援が求められており、 さらには小谷温泉・姫川温泉をはじめとする歴史・ 平成24年度からは「地域おこし協力隊員・集落支 湯量ともに豊富な11の温泉など、観光資源に恵ま 援員」を4つの地域に配置し、「地域づくり応援団」 れた村である。 として住民とともに地域課題の解決に向けた取組み つがいけ を進めてきた。 ◦大網集落の課題 大網集落においても過疎・高齢化が進み、人口が 昭和40年代と比較し平成28年では41世帯・75人と 1/ 3以下となり、地域課題を解決するために「北 小谷北部地域づくり応援団(地域おこし協力隊+集 落支援員)」を配置した地域である。 写真-1 点在する集落 小谷村は自然に恵まれている中山間地域=過疎・ 網栃もちの会」が、地域伝統食「栃もちの製造・販 売」に取り組んでいたが、高齢化や施設の老朽化等に 高齢化地域という図式を象徴する地域であり、少子 より継続できず平成23年より休止状態となっていた。 高齢化・人口減少が進み、このままでは集落機能の そこで役場特産推進室と北小谷北部地域づくり応 維持・存続に大きな影響を与えかねない。そこで、 援団では、休止している栃もち製造・販売の再活動 地域活性化のための新たな地域おこし策や地域資源 のための栃もち工場と、他の集落で実績のあった空 の利活用を戦略的に実施し、ハード・ソフト両面に き家を活用した農山村体験交流施設の併設を大網集 わたる総合的な移住・定住促進施策の推進が求めら 落に働きかけた。これは、大網集落の食文化伝承と雇 れている。 用の場・若者の定住促進を図ることを目指し、地域づ *長野県 小谷村 特産推進室 特産推進係長 0261-82-2589 36 大網集落では、これまで集落内の女性による「大 月刊建設16−11 くりの拠点となる施設を整備しようとしたものである。 3.施設整備に向けて 体験交流施設への改修による空き家の活用【長野県小谷村】 空き家となっている築150年以上の古民家を村が取得し、農業や田舎暮らしの体験交流 施設として整備。農業生産組合が管理・運営を行っている。 施設整備・運営の検討にあたり、地元住民・地域 づくり応援団・行政で組織する実行委員会を立ち上 げ、リノベーションする空き家の選定、施設の基本 理念、施設の具体的な活用方法について、古民家改 修の実績がある建築士のアドバイスもいただき検討 を重ね、約半年かけて施設整備計画をまとめた。 大網の地域づくりの核となる施設をつくろう 年をとっても、若者でも、子育て中でも、誰もが大網で働ける・・・そういったところ がほしい・・・皆が笑顔で、大網でこれからも暮らし続け、ふるさとを守り続けるた めに・・・ 改修前 改修後 図-2 平成 24 年度に整備した伊折農山村体験交流施設 ⑵ 地域内の合意形成 過疎・高齢化が進む小谷村において、大網集落も 大網体験交流施設の整備 ・空き家を地域の資源としてとらえ活用 ・施設の概要(案) 農山村体験交流施設 もち工場 漬物工場 直売所 農家レストラン 図-1 大網集落の施設整備計画 ⑴ 社会資本整備総合交付金の活用 小谷村では平成23年度より社会資本整備総合交 例外ではなく集落の若者が地域外へ流出していたが、 平成元年に世界33カ国以上にネットワークを持つ 非営利の冒険教育機関「日本アウトワード・バウン ド協会(OBS)」の日本校が大網集落に開校され、 10年程前から大網集落に愛着を持ったOBが集落に 定住するといった新たな動きにつながっている。ま た北小谷北部地域づくり応援団には20代の地域お こし協力隊員と集落支援員を配置し、集落に在住す る若者とともに地域文化の伝承など若者視点の地域 おこしが始まった。 付金【長野県地域住宅等整備計画】に基づく「空き 施設整備計画の話合いの中で、集落・地域の合意 家再生等推進事業」を活用し、平成24年度に①廃 形成が図られたが、これらの新たな動きや農山村体 業したホテルを村営住宅(栂池地区) 、②古民家を 験交流施設を拠点とした地域づくりとともに、高齢 農山村体験交流施設(伊折地区)に整備した経過が 者や地域の住民と、若者や移住者の信頼関係を深め ある。 るため平成26〜27年度に実施した長野県補助事業 全国的な空き家対策の問題は小谷村においても同 の「集落〝再熱〟実施モデル地区支援事業」をきっ 様であり、本事業において実施した空き家の利活用 かけに、現在も「むらのこしプロジェクト むらの は村内外にインパクトを与えるものとなり、空き家 しるべ」として地域づくりに取り組んでいる。 を「地域資源」として捉えるきっかけづくりができ たのではないかと考えている。 ⑶ 運営主体の形成 平成24年度伊折集落で整備した農山村体験交流施 施設整備計画の話合いで、農山村体験交流施設の 設については、施設整備後は指定管理者として地元 運営を集落に定住したOBSのOB 4人による任意団 農業生産組合が運営しており、年間を通した農作業・ 体「くらして」が担うこととなり、 「くらして」のメン 生活体験交流イベントが行われている。大網集落の バーを中心に集落・行政の話合いが進んだ。 ケースにおいても、伊折集落の取組みを参考に同事 業を活用し平成25年度に整備を行うこととなった。 月刊建設16−11 37 4.農山村体験交流施設の活用 農山村体験交流施設の愛称を集落・地域から募集 し、 「つちのいえ」を愛称とした。「つちのいえ」に は、 「 「土」をはじめとする自然の力をたくさん感じ られ、大網の人にとっても外から来る人にとっても 何かの気づきや学びを得て、 「種をまき」「根をはり」 「成長する」場所・自然とともに生きる暮らしをこ こから発信していきたい」という思いが込められて 写真-3 つちのいえ竣工式 いる。 なっているとともに、SNS等による情報発信、交流 イベントなどにより大網集落に関心を持った人たち の来訪や移住、地域出身者のUターンなど移住・交 流促進にも寄与している。 5.おわりに 小谷村で行っている地域住民と連携した空き家の 利活用はまだ始まったばかりである。経済性を考え ると、新たに新築する方が良いケースも多々あるが、 空き家を「地域資源」と捉えたときに、経済性だけ では片付けられない「地域の誇り」の部分も重要な 観点として検討に加えていく必要があるのではない だろうか。 行政主導の地域おこしには限界があり、小谷村総 合戦略 ※ で掲げる小谷村の目指すべき姿「地域コ ミュニティの維持」を実現するには、それぞれの地 域に居住する住民が『自分事』として地域おこしに 写真-2 大網農山村体験交流施設 つちのいえ ⑴「つちのいえ」の活用 平成26年6月に竣工した「つちのいえ」は指定 参加してもらう必要がある。行政の役割は、地域お こしのプレイヤーになるのではなく、住民にプレイ ヤーになってもらうための仕組みづくりが重要なの ではないかと考える。 管理者として「くらして」が運営し、栃もちの製造・ 空き家を地域資源と考えた時、小谷村内にはまだ 販売やワークショップなどによる村外者との交流イ まだ活用できる地域資源=空き家が存在する。小谷 ベント、地域内イベント(お茶会)などを行ってい 村では地域住民の合意形成を図りながら、これから る。平成27年度末には延べ1,100人以上が施設を利 も地域資源である空き家を活用した「むらのこし」 用し、大網集落の地域づくりの拠点と雇用の場に に取り組んでいきたい。 【用語解説】 ※小谷村総合戦略……国が策定した「まち・ひと・しごと 創生総合戦略」の基本的考え方や政策5原則を基に、 小谷村人口ビジョン で掲げた将来展望(2060 年人口 1,800 人)を踏まえ、総合計画のうち特に必要な課題へ分野横断的に取 り組む「戦略的」な行動計画 38 月刊建設16−11
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