分裂文 A ナノハ B ダについての考察

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分裂文AナノハBダについての考察
熊井, 浩子
静岡大学国際交流センター紀要. 5, p. 1-19
2011-03-30
http://doi.org/10.14945/00006607
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静 岡大学 国際交流 セ ンター紀要
第 5号
分裂文Aナ ノハ Bダ につ いて の考察
熊
井
浩
子
【
要 旨】
ハ
日本語名詞述語文 の類型 とAナ ノ Bダ で表 わ され るナ分裂文 を比 較 し、 そ の置 き換 え
可能性及 びナ分裂文 の意味や機能 を考察 した。 そ の結果、前項 の節 らしさが 明確 な場合 ほ
どナ分裂文 にな りやす い こと、 Aで な い ものやBで な い もの との対比 とい う条件 の もとに、
役割・ 値解釈 の同定文 や倒置同一 性文 との近接 が 見 られ る こ と、 ABが 単 な る帰属・ 同一
の関係 で はな く隣接関係 であ る場合 の倒置指定文 の場合 にナ分裂文 にな りやす い ことなど
がわか った。 また、 Aが 形容詞 的 な意 味 や機能 を もつ場合 に もナ分裂文 にな りやす い。 こ
れにはAが 後項名詞句 とメ トニ ミー的関係 で あ る場合 も含 まれ る。 さ らに、 Aが 最 上 級 ま
たは何 らか の意味 で限定 された範 囲 を表 わす名詞句 である場合、 あ るい は後件 が疑 問詞 で
ある場合 な ど、特 に後件 がなんで あ るかが焦点 とな る場合 に もナ分裂文 にな りやす い。 こ
うした性質 か らナ分裂文 は見 出 しな どに も多 く用 い られて い るが、単 にAハ Bダ と述 べ る
場合 に比 べ 、 Aや Bと の対比 によ リイ ンパ ク トの強 い表現 とな る ことが この文型 を用 い る
最大 の動機 であると言 えよ う。
【キ ー ワー ド】 ナ分裂文
名詞述語文
意味
機能
対比
1.は じめに
初級 の 日本語教科書 と して 国内外 で広 く使 われて い る Fみ んなの 日本語』 で は、 38課 で
いわゆる分裂文 を学習す る。 この課 の文法解説書 で は(1)の よ うに動詞、 イ形容詞・ ナ形容
詞 および名詞 の接続 の し方 が説明 されて い るが、 この うち、 ナ形容詞 と名詞 について は、
plain formの 「 だ」 が「 な」 に替 わ ると書 かれて い る。 この名詞 の接続 の し方 は、 26課
で学習す る「 んで す」 や次 の39課 で学習 す る「 ので」 と同様 とな る。
V
tヽ
plain form
一
adj
な―
adi
plain form
N
-//--.>-fg
のは
Nで す
(2) This pattern is used when a noun representing a thing,a person,a place,
etc., is replaced with の and then taken up as the topic of the sentence.In
examples ⑬ and ⑭ ,(中 略)the speaker gives related information in the
latter half of the sentence.(こ の文型 は、物 や人、場所 などを表す名詞 が「 の」
-1-
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に置 き換 え られ、文 の主題 として取 り上 げ られた もので ある。例 えば、⑬ と⑭ の例
で は (中 略)、 話者 は文 の後半 でそ の主題 に関連 した情報 を提示す る。訳、筆者 )
また、 ここで は(2)の よ うに物 や人 や場所 などを表 す名詞 が ノに替 わ って、文 の トピ ック
にな り、話 し手 がそれに関連す る情報 を文 の後半 で述 べ る場合 の文型 であると説明 されて
い る。 しか し、 名詞 が ノに置 き換 え られた とい う説 明 は必 ず しも正 しくな く、 (3)の よ う
に名詞 を想定 しに くい例 もある。
(3)私 が彼女 に会 ったの は偶然 だ。
(4)?私 が彼女 に会 った理 由 は偶然 だ。
幅)?私 が彼女 に会 った き っか けは偶然 だ。
この文型 で用 い られ るノは ノの前 の節 を名詞化 す る ノで あ るとと らえ るのが適 当 であろ
う。 一 方 (6)の ノは名詞 の替 わ りに用 い られ る代名詞 の ノで あ る。 この二つの ノは一 見 して
区別 がで きな い場合 もあるが、働 きは異 な ってい る。本稿 で扱 うの は名詞化 の機能 を もつ
前者 の ノで あ る。
(6)私 が食 べ たの はあま りお い しくなか った。
これ らの解説 によると、名詞 の場合 には「 ∼/→ ∼な」 とな り、 (7)の よ うに「病気 だ」
は「病気 な の は」 となることにな る。 しか し、名詞 によ って は(8)の よ うにNナ ノハ にす る
と不 自然 にな る もの もあ る。 (9)で は、 ナ ノのな いNハ だ けの形 が 自然 になる。 このよ うな
事情 もあ ってか、 38課 で は例文 や説明、練習 に も名詞接続 の形 は取 り上 げ られて い ない。
(7)病 気 な の は私 じゃあ りません。 タ ンさんです。
(8)*山 田さんなの は私 じゃあ りません。 あの人 です。
(9)山 田 さん は私 じゃあ りません。 あ の人 です。
で は、 どのよ うな場合 にNナ ノハ にな り、 どのよ うな場合 にNナ ノハ が不 自然 にな るの
であろ うか。本稿 で は、 このよ うなNナ ノハNダ となる場合 の分裂文 をナ分裂文 と仮称 し、
文 の類型 との関係 を明 らか にす るとともに、書籍 やイ ンター ネ ッ ト、実際 の会話 などか ら
収集 した用例 を基 に前項 や後項 の特徴 や関係、及 び文 の意味・ 機能 について考察 して い く。
そ の 際、 ナ分裂文 の前項 の名詞句 をA、 後項 の名詞句 をBと し、 Aナ ノハBダ で表 す こと
にす る。
2.名 詞述語文 と分裂文
2.1 名詞述語文 一考察 のポイ ン トー
2.1.1
名詞 述語文 の類型
日本語 には、 ハ または ガ とい う助詞 と コ ピュ ラ、 ダか らな る、 Aハ Bダ およびAガ Bダ
とい う 2種 類 の名詞述語文 が存在す る。 この名詞述語文 を砂川 (2009)は コ ピュ ラ文 と呼
び、は
0の よ うに、同定文 と記述文 に分 け る。同定文 とは「 あ る役割 の値 を特定 の指示対象
によ って 同定 す る文」 であ り、記述文 とは「 ある対象 の属性 を記述す る文」 である。前者
の同定文 はさ らに① か ら④ の 4つ 、後者 の記述文 はさ らに⑤⑥⑦ の 3つ に分類 され る。 こ
の うち、本稿 で取 り上 げるの は、①役割・ 値解釈 と③同一認 定解釈 の同定文、及 び⑤ 一 般
の記述文 にあた るAハ Bダ である。
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① の ような同定文 は「 今 日の当番 にだれかが当 た って い ること」 を前提 として、「 その
だれかが私 であること」 を主張す るものであ り、 いわゆる②指定文「私 が今 日の当番 だ」
に言 い換 えることができる。 このよ うな同定文 では、述語名詞句「私」 が もっとも高 い情
報価値 を有 して い ることか ら、砂川 はこれを「 後方焦点文」 と呼 ぶ。砂川 によれば、 この
後方焦点文 は、聞 き手 が予想 しうる情報 を前項「 ∼は」 で示 して、後項「 ∼ だ」 で予測 で
きない新情報 を導入 し、 その新 たな情報 がそれ以 降談話主題 として引 き継 がれてい く用法
が圧倒的に多 い。
③ はある指示対象 と別 の指示対象 が同一であることを示す文 である。 この タイプの同定
文 は「倒置同定文」 と呼 ばれる こともあ り、④「 あの時 の太郎君 が この人 だ」 と言 い換 え
が可能 である。⑤ はいわゆる措定文 で、 Aの 性質 0属 性 などをBで 表 して い る。 このよ う
な名詞述語文 の うち、Aナ ノハBダ で言 い換 え られやす いの はどの類型であろうか。
CO
コピュラ文 の分類注
1
⑩
ラ文 の種類
ヽ
― 「 ∼ は∼ だ」
同定文 一―
T一 役割・ 値解釈・I―
`ヽ
ヽ「 ∼が∼だ」
│
「 ∼は∼だ」
一同一認定解釈ヽ
_二
`
`
` ∼が∼だ
」
「
L‐
l―
記述文 ―
一一 般 の記述文―
一一―「 ∼ は∼だ」
一―
―現象描写文 タイプ ーー「 ∼が∼だ」
一修辞 的描写文 タイプー‐
「 ∼ が ∼ だ」
今 日の当番 は私 だ。①
私 が今 日の当番 だ。②
この人 はあの時 の太郎君 だ。③
あの時 の太郎君 が この人 だ。④
私 は学 生 だ。⑤
信号 が赤 だ。⑥
これが とんだ ペ テ ン師 だ った。⑦
2.1.2
名詞旬 の表す意味機 能 と名詞 述語文 の類型
今 田 (2008)は 、西 山 (2003)の コ ピュ ラ文 の分類 を基 に名詞句 の表す意 味機能 と名詞
述語 文 の類 型 の間 にはある一 定 の依存関係 が認 め られ ると して、 それぞれ の文 の タイプで
生起 可能 な名詞句 の意味機能 につ いて考察 して い る。 それをまとめたのが、下 のCDか らは
Э
である。措定文・ 倒置指定文・ 倒置同定文 はそれぞれ砂川 (2005)の ⑤ 一 般 の記述文、①
役割・ 値解釈 の同定文、③ 同一 認定解釈 の同定文 にほぼ対 応 す ると思 われ る。
CD
措定文
02
倒置指定文 [役 割 ](変 項名詞句 )は [個 体 /種/役 割]
例 .幹 事 は田 中 だ (同 上 )
[個 体 /種 /役 割]
は [種 /役 割 ](叙 述名詞句 )だ 。
例 。 あ いつ は馬鹿 だ (例 文 は西 山)
だ。
aD
倒置同定文 [個 体 /種/役 割 ] は [種 /役 割 ](叙 述名詞句 )だ 。
例 。 こいつは山田村長 の次男 だ (同 上 )
今 田によれば、措定文 で用 い られ る述 語名詞句 は対象 の属す る範 疇 や属性、性質 を表す
ため、種 や役割 を表す名詞 を用 い る ことはで きるが、個体 は用 い る ことがで きな い。 一 方、
倒置指定文 は主語 に役割 を表す名詞句 が生 起 し、 述語 に個体、種、役割 を表す名詞句 が用
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い られ る。 これ は、 この タイ プの文 の主語 である名詞句 が変項名詞句 であ り、 ある内包的
な概念 に対 し、 そ の外延 を結 びつ ける機能 を持 って い る ことか ら、内包的概念 でな い個体
あ るい は外延 を列挙 で きな い種 で は この条件 を満 たす ことがで きな い ことによる。
倒置同定文 は、措定文 が対象 に属性 を与 え る機能 を持 つの に対 し、属性 を与 え ることに
よ って、未 同定 の対象 を同定 す るとい う機能 を持 つ とい う違 いが あ るが、措定文同様、 主
語 に個体、種、役 割 を表す名詞句、述語 には種 や役割 を表す名詞句 が生起 し、対象 と範疇・
属性 の 関係 を表す とされ る。 ただ し、 aO CDは ぁ る指示対象 と別 の指示対象 が 同一 で あ る
ことを示 す倒 置同定文 であるが、述語名詞句 は個人 である。 この ことか ら、倒置同定文 の
中 には個体 を述 語名詞句 に とる場合 もあ るよ うに思 われ る。
l141 この人 はあ の時 の太郎君は だ。 (例 文 は砂川、下線・ 注 は筆者 )
は
, あのキ ャプテ ンは村 上個人です よ0(例 文 は今 田、下線・ 注 は筆者)
また、 この 3つ の類 型以外 の名詞 述語文 である倒置同一 性文 に生起す る名詞句 について
今 田 は触 れて いないが、以下 の例 か らもわか るよ うに、 主語・ 述語 どち らに も個体、種、
役割 が生起で きるよ うであ る。
uO ジキ ル博士個人はハ イ ド氏 lE Aだ 。 (例 文 は今 田、下線・ 注 は筆者)
は
つ ハ リネ ズ ミ種はヤ マ アラ シ種だo(同 上 )
CO 日本 の首相御 は総 理大臣倒 だ。
このよ うな名詞 述語文 の特徴 はナ分裂文 ではどの よ うに現 れ るのであろ うか。
2.1.3
名詞 述語文 の意味論的・ 機能論的分析
さ らに今 日 (2009)は 、名詞 述語文 の意味論的・ 機能論的分析 を行 っている。今 田 によ
れば名詞述語文「 Xは Yだ 」 は意 味論 的構造 に関 して言 えば、 二 つの要素 Xと Yが 何 らか
の関係 にあ るのだ とい う ことを意味 し、表 され る関係 は09の よ うに非常 に多様 であ るとさ
れ る。
こ
9a.帰 属関係
b.同 一 関係
ウサギは草食動物 だ。
明 けの明星 は宵 の明星 だ。
この部屋 の温度 は19度 だ。
d.隣 接関係
僕 はウナギだ。 (料 理 を注 文す る場面 で)
帰属 関係 や 同一 関係 の名詞述語文 と役割 ―値関係 の名詞述語文 の違 い は、後者 がXの 存
在 を前提 と し、 それがなんであるかを述 べ る文 であ るのに対 し、前者 はXの 存在 を前提 と
c。
役割 ―値関係
して い な い ことで ある とい う。 また、 隣接関係 とは、 Aと Bの 関係 が帰属・ 同一 または役
割 一値関係 と解釈 で きな い多様 な関係 を表す名詞 述語文 であ る。 このよ うな文 で は、 Aと
Bの 関係 によ ってNナ にな りやす いか ど うかが決 ま って くるので あろ うか。 このよ うな点
も考察す る必要 があ る。
2.2
分裂文
砂川 (2007)は 、主語 が節 で構成 され、述語 がその節 か ら取 り出 された特定 の成文 によ っ
て構成 され る名詞述語文 を分裂文 と し、「 ∼ ノハ ∼ ダ」 のよ うなハ分裂文 と「 ∼ ノガ∼ ダ」
のよ うな ガ分裂文 とに分 けた うえで、分裂文 の機能 には、
「 焦点提示機能」 と「 特 立提示
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機能」 があ るとす る。
「 特 立提 示機能」 が ガ分裂文 の み に見 られ る機能 であ るの に対 し、
「 焦点提示機能」 はハ分裂文・ ガ文裂文 いず れ に も認 め られ、前提命 題 で欠 けて い る情報
を提供 す る ことによ り、話者 と聞 き手 の間 の情報 の差 を埋 める機能 である。 ただ し、 ハ分
裂文 の場合 に見 られ る焦点提示機能 はガ分裂文 とは異 な り、前提命題 に欠 けて い る情報
「 X」 は何 か とい う問 い に対 して「 X」 は「 Y」 であ ると特定す ることによ り、 そ の問 いに
答 えを与 え る機能 であ る。例 えば、 0090は 、 それぞれ0つ 0)で 表 され るよ うな前提 と主 張
によ って成 り立 って い る。即 ち、 ハ分裂文 は変項 Xを 含 む命題 が主 語、述語部分 が焦点 と
な ってお り、焦点情報 を提示す ることでその変項 Xに 値 を割 り振 る機能 を果 た して い るの
であ る。 当然 ハ分裂文 の焦点 は述語「 ∼ ダ」 の部分 にあ る。
00 そ の時現 れた の は一 匹 の熊 だ った。 (例 文 は砂川 )
Oll 前提 :そ の時Xが 現 れた こと
主 張 :そ のXが 一 匹 の熊 であ ること
Ca
それで は、 日本 はどうだ ろ うか。 /冷 戦後 の世界 へ の対 応 に もっ とも出遅 れたの
は日本 である。 (例 文 は砂川。「 /」 は段落 の切 れ 目。注 は砂川 )
前提 :日 本 はXで ある こと
主張 :そ のXが「 (日 本 が)冷 戦後 の世界への対応 にもっとも出遅 れた」 であること
このよ うなハ 分裂文 にお ける変項 Xの 値 に対す る問 いの立 て方 には「 Xは なにか」「 Xは
IЭ
どれか」 な どのよ うな特定 の指示対象 を求 める ものだ けでな く、
「 Xは なぜか」「 Xは なに
が起 こってか らか」 のよ うな、原因 や理 由、契機 に関す る問 いや「 Xは 何度 目か」 の よ う
に生起 の回数 を求 める問 いな ど様 々 な問 いが可能 とな り、 その答 えが焦点 である述語部 に
表 され る。 ハ分裂文 が20の よ うに、述語 に「 ∼ ため」「 ∼おか げ」
「 ∼か ら」 などの従属節
が用 い られ る傾向が特 に強 いの は、 このよ うな談話機能 による ものであるとされ る。 また、
特 に以 降 の談話 で主題 となる重 要 な内容 に聞 き手 の注意 を集 めたい場合 や、談話 の展開 の
中 で特定 の指示対象 を特 に強調 した い場合 といった談話語用論 的 な条件 が整 った ときに述
注2と され る そ して この
語名詞 に格助詞 を用 い る ことが で きる
。
分裂文 の述語 の示す指示
、
対象 が後続談話 の主題 として語 り継 がれて い く可能性 が高 い と砂川 は考察す る。
Cの
人里 に熊 が現 れた の は、森 に食料 が不足 して い るためだ。 (例 文 は砂川 )
OD*人 里 に熊 が現 れた のが、森 に食料 が不足 して い るためだ。 (例 文 は砂川)
砂川 はナ分裂文 につ いて特 に触 れて いないが、 当然 このAナ ノハBダ で表 わ され るナ分
裂文 も分裂文 の一 つ であ り、上記 の性質 を有 して い る こ とになる。
ここで注意 しなければな らな いの は、分裂文 は「 主語 が節 で構成 され、述語 がそ の節 か
ら取 り出 された特定 の成文 によ って構成 され る」 (下 線筆者 )と い う ことで あ る。即 ち、
仮 に表面 的 に実現 して いる ものがNナ ノハ であ って も、 ノの前 は、名詞 で はな く、 あ くま
で節 で あ るとい う ことで あ る。先 に触 れた『 みんな の 日本語』 の解説 で、単 な るNで はな
く、
「 N∼ /→ ∼ な」 とな って い るの もそ の ためであ ると考 え られ る。 20は 2つ で示 したよ
うに、 Xガ 最大手 メ ー カ ーlAlデ アル ことを前提 と し、 そ のXが ××(Blで あ る ことを示 して
い るわ けであ る。 Aナ ノハ が28の よ うに Aデ アル ノハ に言 い換 え られた り、 29の よ うに A
ダ ッタ ノハ にな った りす る こと もあ るの はそ の証拠 であ ると言 え る。
00
日本 の最大手 メ ー カ ーなのは勿論 ×× (会 社名 )な のです が (後 略)#注
-5-
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[[Xi日 本 の最大手 メ ー カ ーだ]sの ]NPは
2つ
[×
×i]NPだ
98
日本 の最大手 メ ー カ ーであ るの は勿論 ×× (会 社名 )な のです が (後 略)
99 『 ラー メ ン××』系 で一 番 デ カ盛 りだ ったの は ××× らしい ?#
それ故、 Aナ ノハ だ けでな く、他 の補語 が実現 して い る場合 には、名詞 の意 味内容 を問
わず、 Nナ の形 にな る。例 えば00の もとの文 はODで あ り、節 が ノによ って名詞化 されて い
る。 この文 の構造 は00の よ うに表 され る。
00 ××× (メ ー カ ー名 )が 激安 な の は携帯 オ ー ク シ ョン#
00 × X× は携帯 オ ー ク シ ョンが/で 激安 だ。
00 [[× ××がXi激 安 だ]sの ]NPは [携 帯 オ ー ク シ ョンi]NPだ
このよ うな例 には、 ほか にOЭ か らODの よ うな ものが あ る。 いずれ もAナ ノハ をAハ に変
え ると00か ら00の よ うに、 やや据 わ りが悪 くなる。
00 ジキル氏 と同一 人物 なの は誰 か ?
00
00
和菓子 自体 が うさぎなの は この 2つ 位 なんだ けど#
妹 が学生 な の は田 中 さんだ。
00?ジ キ ル氏 と同一 人物 は誰 か ?
00?和 菓子 自体 が うさぎは この 2つ 位 なんだけど
00?妹 が学生 は田中 さんだ。
もちろん補語 が省略 されて い る場合 もあるが、例 えば09は 、「 私 が」 を補 ってみ るとに0
のよ うに節 であ る ことは明 らかである。
09
もう一 つ疑問 なの は、 ×××君 (名 前 )の 存在 で す。 #
に0 もう一 つ (私 が)疑 問 な の は、 ×××君 の存在 で す。
また、に
Эのよ うに副詞 的成分 が つ くと1421に 比 べ て節 らしさが増 し、 Nナ ノハ が よ り自然
にな る場合 もある。
にゆ 司会 は田 中 さんだ。
に
D 司会 なの は田中 さんだ。
に
9 今回司会 なの は田中 さんだ。
このよ うに、他 の補語 との共起や副詞的成分 の付加 などによ って、前項 が節 らしさを保 っ
ている場合 にはナ分裂文 が 自然 である ことが わか る。
さ らに、 デ ー タを収集 して気 が つ くの は、 Aナ ノハ Bダ カ ラダ、 あ るい はAナ ノハ Bマ
デダや、 Aナ ノハ Bノ 後 ダのよ うに、名詞 の あ とに格助詞 や 時、場所、 理 由 な どを表 す接
続表現 を伴 う例 が 多 く見 られ る ことだ。 この こと自体 はナ分裂文 に限 らず、 140の よ うに一
『 中級 日本語』
般 の分裂文 に も観察 され る現象 である ことは砂川 も指摘 して い る。例 えば、
で も、 5課 でにDの よ うに、「 てか ら/後 /時/途 中」 のよ うな後続表現 とと もに用 い られ
る例 が紹介 されて い るが、 Nダ の用法 は取 り上 げ られて い な い。
に
の 人里 に熊 が現 れたの は、森 に食料 が不足 して い るためだ。 (例 文 は砂川 )
に
, 北海道 で春 らしい季節 を迎 え るの は、 五 月 にな ってか らであ る。 (例 文 は『 中級
日本語 』)
特 にナ分裂文 の場合、 Aナ ノハ Bダ の用例 がなかなか見 つ か らな いの に比 べ 、 Aナ ノハ
-6-
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Bダ カ ラダなどの形 の用例 は比 較 的採取 しやす い こ とか らも、前者 に比 べ て使用頻度 が高
いの で はな いか と予測 され る。 これ は、 このよ うな分裂文 は、 Aナ ノハ また はAデ ア ル ノ
ハ以外 で は表 せ な い ことによ ると思 われ る。多 くのAナ ノハBダ は、 多少据 わ りは悪 くて
もナ ノを省略 してAハ Bダ にす る ことが可能 で あ る。 それ故敢 えてAナ ノハ にす るにはそ
れな りの必然性 が要求 され る。 しか し、 Bが 格助詞 や 時 な どの接続表現 を伴 う場合 には、
単 な るAハ で はな く、 引用符「 」、 “"な どを つ けて、「 いわゆ るN」 の よ うな形 にす る
場合 を除 けば、 Aナ ノハ また はAデ アル ノハ の形以外 は と りに くい。 つ ま り、 Aナ ノハ が
選択 され る必然性 が高 い とい うことで ある。
は0 夜型 なのは社会 に対 す る罪悪感 か らだ よ#
140 モバ イル コ ンテ ンツ事業 な どを展 開す る メデ ィアイ ンデ ックス は、無料 で投函 で
きる年賀 はが き「 tipoca(テ ィポカ)」 の受付 を 開始 した。 無料 な の は広告 が入 る
ためだ。 #注
4
に0
(私 が)学 生 なの は明 日までだ。
それ故、 Aハ Bダ とAナ ノハ Bダ の違 いが 特 に問題 にな るの は、述語 と して そ の節 か ら
取 り出 された成文 が節 の述語名詞句 で、分裂文 と して実現 された主 語 が節 の主語 とな って
い るに9の よ うな場合 と60と の違 いであることがわか る。
49 今 日の当番 な の は私 だ。
60
今 日の 当番 は私 だ。
3.名 詞述語文 の類型 と分裂文
本節 で は、名詞述語文 とナ分裂文 の関係 につ いて考察 す る。砂川 。今 田 の名詞述語文 の
類型 にお いて とナ分裂文 と置 き換 え可能 なのはどの タイプ の文 で あろ うか。 Aハ Bダ か ら
作 られ る分裂文 は理 屈 の上 で は6D62の よ うに 2と お りの可能性 があ る。
6動
[[Aガ Xiダ ]sノ ]NPハ [Bi]ダ → Aナ ノハBダ
62 [[Xiガ Bダ ]sノ ]NPハ [Ai]ダ → Bナ ノハAダ
しか し、名詞述語文及 びハ分裂文 の焦点 が後項 にあ る ことか ら考 え ると、 Aハ Bダ の焦
点 はBダ にある ことか ら、Bナ ノハAダ は もとの文、Aハ Bダ とは焦点 が異 な る。 とす ると、
焦点 とい う観 点 か らAハ Bダ に対 応す るの はAナ ノハBダ であることになる。
6) [[今 日の当番 がXiだ ]sの ]NPは [私 ]iだ → 今 日の当番 なの は私 だ
60 [[Xi私 だ]sの ]NPは [今 日の 当番 ]iだ → *私 な の は今 日の当番 だ
役割・ 値解釈 の同定文 Aハ Bダ は、 Aの 名詞句 の意 味 によ って は6D60よ うにAナ ノハB
ダと意 味的 に近接す る ことがわか る。
6励
60
今 日の 当番 は私 だ。
今 日の 当番 なのは私 だ。
ただ し、 Aハ Bダ で あれば常 にAナ ノハBダ にな るわ けで はな く、名詞 によ って は60C0
のよ うに不 自然 となる場合 もある。
60
山田 はあの人 だ。
60?山 田な の はあの人 だ。
69 -シ ドニ ー は大 ?
-7-
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第 5号
― ううん、犬 は ロキ シー。
-シ ドニ ー は大 ?
一 ?う うん、大 な の は ロキ シー。
この場合、 Aが 役割 を表 す名詞句 である場合 は比 較的 自然 にな る。 一 方個人 や種 の場合
には不 自然 とな る。 Bは どの タイ プの名詞句 で も問題 な い。 これ は、倒置指定文 と同様 で
あ るが、特 にナ分裂文 の場合、変項 Xを 含 む命題 が主 語 とな り、 そ の変項 Xに 値 (こ の場
合 はB)を 割 り振 る機能 を果 た して い るとい う特性 か ら、 Aは 外延 を列挙可能 な名詞 であ
る必要性 が特 に強 い ことにな る。
6D 社長御 な の は田 中は さんだ。
60 ペ ッ トの王様 役割な の は大 種だo
69
今回議長悧 なの はフラ ンス大統領倒 だ。
ただ し、 Aが 役割 であれば いつ も適格 な文 になるとい うわ けで はな く、 Aが なん らか の
事情 で強調 され る必要 が あ るときによ り自然 になる。 これ は例 えばAと Aで な い ものAや
Bと Bで ない ものBが 対 比 的 にとらえ られて い ると想 定 で きる状況 である。
60 -山 田 さん は先生 だ っけ ?
― ううん、先生 な の は田 中 さん。 山田 さん は大学院生。
俗
D
60
―山田 さん は先生 だ っけ ?
― ううん、先 生 な の は山田 さん じゃな くて 田中 さん。
この グループには学 生 と先生 が 1人 ず つい ます。学 生 な の は山 田 さんで、先 生 な
の は田中 さん。
次 に、倒置同定文 (同 一 認定解釈 を表す同定文 )も 後方焦点文 であるとされ るが、 この
タイプの 同定文 はAナ ノハBダ にな りに くい。
この人 はあ の時 の太郎君 だ。 (例 文 は砂川)
6つ
60*こ の人 な の はあ の時 の太郎君 だ。
69
あ のキ ャプテ ンは村 上 です よ。 (例 文 は砂川 )
00?あ のキ ャプテ ンな の は本寸上 で す よ。
今 田 によれば、倒置同定文 は属性 を与 え る ことによ って、未同定 の対象 を同定す るとい
う機能 を持 つ 。 Aハ Bダ にお いて、 Aは Bと い う属性 を与 られ る ことで初 めて 同定 され る
対象 で あ る。 Aに あたるだれか が いて、 それがBだ と同定 して い るわ けではな い。 一 方 の
ナ分裂文 は変項 Xを 含 む命 題 が主語 で、述語部分 が焦点 とな ってお り、焦点情報 を提示す
る ことでその変項 Xに 値 (こ の場合 はB)を 割 り振 る機能 を果 た して い る文 であ る。倒置
同定文 か らはナ分裂文 が成立 しな いのは両者 の このよ うな機能 の差 による ものであ ると言
えよ う。
次 に、倒置同一 性文 か ら作 った ナ分裂文 は、文脈 がな い と不 自然 にな る ものが多 い。
CD ハ リネ ズ ミはヤ マ ア ラ シだ。 (例 文 は今 田)
Ca?ハ リネ ズ ミなのはヤ マ アラシだ。
CЭ
ハ リネ ズ ミなのはヤ マ ア ラ シだ。 モ グラじゃな い。
これ は、ぐDが 、 ハ リネ ズ ミで あるなにかが いて、 それに当 てはまるの が い ろ い ろな可 能
性 の中 か ら選 ばれたヤ マ ア ラ シだ とい うわけではな く、 ハ リネ ズ ミの別名 が ヤ マ ア ラ シで
-8-
静岡大学国際交流 セ ンター紀要
第 5号
あ る ことを述 べ た文 だか らである。 このよ うな タイプ の同定文 は単独 でナ分裂文 にす ると
1721の よ うに据 わ りが悪 い場合 が 多 いが 、例 えば否定 とい う形 であれ、 ハ リネ ズ ミと同 じ動
物 であ る可能性 の あ るい くつ かの種 が想定 され、 そ の 中 か ら該 当す るのが ヤ マ ア ラ シだ と
い う文脈 があ るぽЭのよ うな場合 には適格性 が増す。
一 方、ぼ
うは、 ハ イ ド氏 と同一 人物 である可能性 の あ る何人 かが想定 され、 そ の 中 か ら ジ
キ ル博 士 が選 ばれた ことを表す適格 な文 となる。 1721に 比 べ て仔Dの 方 が適格性 が高 い と感 じ
るの は、 ジギ ル博士 と同 じ範疇 に属 す る可能性 の ある複 数 の人 がヤ マ アラ シ と同 じ範疇 に
属 す る動物 よ り想定 しや す い こと及 び、 ハ イ ド氏 が まだ 同定 されてお らず 、 あ る人 Xが ハ
イ ド氏 で あ り、 そ のXが ジキル博士 であ ることを表す文 と して、 それだ け ジキル博 士 の情
報価値 が高 くな るか らで あろ う。即 ち、 Bが 意味的 または文脈上 Aに 当 て はまる可能性 の
あ るい くつ か の 中 か ら選 ばれた ことが 含意 され る場合 にはAナ ノハBダ が 自然 にな るわ け
である。 このよ うな場合、倒置同一 性文 は変項 Xを 含 む命題 が主 語 とな り、焦点情報 を提
示 す ることでその変項 Xに 値 を割 り振 る機能 を果 た して い る分裂文 と類似 の機能 を もつ た
めで あろ う。用 い られ る名詞句 はABと もに個体・ 種・ 役割 のいず れ も可能 であ る。
174 ハ イ ド氏 は ジキル博士 だ。注
5
79
ハ イ ド氏 な の は ジキ ル博 士 だ。
最後 に一 般記述文 のAハ Bダ につ い て は、 170の よ うにAナ ノハBダ が不 自然 な文 とな る
ものが多 い。
仔
0 私 は学生 だ。
1771*私 な の は学生 だ。
そ もそ も、 一 般記 述文 は、 Aに 当 て はまるの は何 かを問題 に して い るの で はな く、 Aの
性質や状況 などを記述す る文 であ るため、変項 Xを 含 む命題 が主 語 とな り、述語部分 で変
項 Xに 値 を割 り振 る機能 を果 たす分裂文 の機能 とは相容 れな いか らであ る。
以上 の考察 か ら、 Aハ Bダ で表 され る名詞述語文 の うち、名詞句 の意味 によ って は意 味
が近 くな るの は役割 0値 解釈 の同定文 と倒置同一 性文 の一 部 であ ること、 ただ しナ分裂文
を用 い る何 らか の必然性 が要求 され ることが明 らかにな った。
4.ABの 関係 と分裂文
今 日 (2009)は 名詞述語文 は非常 に多様 なXと Yの 関係 を表 す ことがで きる ことを考察
し、隣接 関係 を表す事例 と して1781の 名詞述語文 を挙 げて い る。 この中 で は、 い わゆ る措定
文 にあた るaか ら gは 、 Aを 前項名詞句 に したナ分裂文 にな りに くい。
ぼ
3a.警 察署 は消防署 の隣 だ。 (場 所 一場所)
b。
私 は沖縄 です。 (人 一出身地 )
c.新 婚旅行 はマチ ュ ピチ ュ遺跡 だ った。 (旅 行 一 目的地 )
d.同 社 の設立登記 は十 四 日だ った。 (出 来事 ―時間)
e.柏 レイソル は現在 15位 だ。 (チ ー ム ー順位 )
f.盛 りつ けは一番最 後 だ (手 順 ―順序 )
g.プ ラ トンは右 か ら 2番 目だ。 (事 物 ―場所 )
h.15位
は柏 レイ ソルズだ。 (役 割 一値文 )
-9-
静岡大学国際交流 セ ンター紀要
第 5号
一 方、 いわゆ る倒置指定文 のhは 99の よ うにナ分裂文 に して も適 格 とな る。
99h'.15位 な の は柏 レイ ソルズだ。
逆 に、 述部名詞句 を主 語 と して取 り出 したa'か ら g'は 80の よ うにす べ て倒置指定文 に
注6_方 いわゆる措定文 に近 づ いて しま うh'は 不適格
近接 したナ分裂文 として適格 とな る。
とな る。即 ち、 このよ うな隣接関係 を表 わす名詞 述語文 が ナ分裂文 になるか どうか は、 そ
の文 が措定文 か倒置指定文 かによ って決 まるが、倒置指定文 であれば、 ほぼ問題 な くナ分
裂文 にす ることが可能 である ことになる。
80a'.消 防署 の隣 な の は警察署 だ。
b'.沖 縄 な の は私 です。
c'.マ チ ュ ピチ ュ遺跡 なの は新婚旅行 だ。
d'.十 四 日なの は同社 の設立登記 だ。
e'.現 在 15位 な の は柏 レイ ソル だ。
一 番最後 なのは盛 りつ けだ。
f'。
右 か ら 2番 目な の はプ ラ トンだ。
h'.*柏 レイ ソル ズな の は15位 だ。
g'。
このよ うな隣接文 の倒置指定文 をナ分裂文 と した場合、 a"か らg"の よ うに、 Aと Bの 関
係 を明確 にす るた めにa"(場 所 が)や b"(出 身 地 が)な どを補 って考 え る ことがで きる。
その場合 Aは 明 らか に節 とな り、単 な る名詞 とは異 な って「 Aで あ る」 とい う意味 を強 く
獲得す る。 これが単純 な同一・ 帰属関係 を表 わす場合 に比 べ、隣接 関係 を表 わすAと Bの
場合 の方 が ナ分裂文 にな りやす い理 由 で はな いか と思 われ る。 一 方 h"は このよ うな補語
を想 定す る ことはで きな い。
80a"。
(場 所 が)消 防署 の隣 な の は警察署 だ。
b"。
(出 身 が)沖 縄 な の は私 です。
c"。
(目 的地 が)マ チ ュ ピチ ュ遺跡 なのは新婚旅行 だ。
e"。
にちが)十 四 日な の は同社 の設立 登記 だ。
(順 位 が)現 在 15位 なの は柏 レイ ソル だ。
f"。
(順 序 が)一 番最後 な の は盛 りつ けだ。
g"。
(場 所 が)右 か ら 2番 目な の はプ ラ トンだ。
(日
d"。
h''.*(φ が)柏 レイ ソルズ な の は15位 だ。
隣接文 の他 の例 と して は以 下 のよ うな もの がある。 80は 花子 が仕事 か休 みか とい う状 況
を表 わす。 89は そ の前項名詞句 と後項各詞句 を入れ替 えた もので あ る。 80も いわゆ るうな
ぎ文 89の 前項名詞句 と後項名詞句 を入 れ替 えた倒置指定文 で あ るが、 これ らも1801871の よ
うにナ分裂文 にす る ことがで きる。
80
89
花子 は夏休 みだ。
夏休 みは花子 だ。
m
夏休 みな の は花子 だ。
僕 はうな ぎだ。
89
80
8つ
うなぎは僕だ。
うなぎなのは僕 だ。
-10-
静 岡大学 国際交 流 セ ンタ ー紀要
第 5号
80の よ うにAハ Bダ の関係 が い わゆ る同一 や包含 でな い隣接 関係 を表 わす倒置指定文 の
場合、帰属関係 や 同一 関係 の場合 と比 べ て 直接 的 な関係 でな いほ ど89の よ うにAで な い も
の やBで ない もの との対 比 な どを通 じてAと Bと を強 く結 びつ ける必然性 が高 くな る こと、
後項 の情報価値 が高 くな りBが 焦点 にな りやす い ことな ど も関係 して い るので はな いか と
考 え られ る。 逆 に言 えば、 Aと Bが 同一 や包 含 の関係 で ある場合 には、 ODの よ うなナ分裂
文 を使 わず、 00の よ うにAハ Bダ で十分 であ る場合 が 多 いわ けであ る。
80
89
00
00
学校 は花子 だ。
学校 な の は花子 だ。
先生 は田中 さんだ。
先生 な の は田 中 さんだ。
5.前 項名詞旬 の性質
5。
1 形容詞的な名詞句
00の よ うに、 ナ分裂文 の前項 に用 い られ る名詞 は意 味的 に形容詞 的 な ものが 多 い。例
えば0000は そ の例 である。 この 中 には「 問題 の学 生」
「 問題 な学 生」 のよ うに、名詞 で は
あるが、名詞接続 の場合 にNナ にな り得 る、 いわゆ るナ形容詞 に近接 す る名詞 も多 く見 ら
れ る。 この場合 Aハ Bダ も可能 で はあ るが、 多 くの場合 Aナ ノハBダ の方 が よ り自然 で あ
る。
00
形容詞 的意味 を持 つ前項名詞句 の例
Aの 特徴
形容詞 的意味
00
00
09
00
例
問題 アメ リカ
マニ ア
∼が ち
日本語読 み 美人
低脳 負 け犬 4洵 心者 苦戦続 き 猫舌 有料
旬 同一人 物 ∼以
す ごす ぎ いい男 お似合 い エ リー ト 年 上
下 ブス 悪 人気
イケメ ン ∼ 向 き ツボ 女 の子 正 解 お勧 め 山崎 適役 (工
事 etc。 )中 バ カ売 れ ∼ マ ニ ア 省 エ ネ 話 題 ∼ 向 き 脅威 etc.
欲求不満
病気
欲求不満 な の はあなただ。
欲求不満 はあなただ。
病気 な の はあなただ。
病気 はあなただ。
さ らに、前 に も触 れたよ うに0つ や(mは ゃゃ不 自然 とな るが、 そ こに形容詞 をつ けた001m
は多少容認度 が高 くな るよ うであ る。 つ ま り、形容詞 によ って修飾 された名詞 は名詞 で は
あ るが、形容詞 が つ くことで、 09ω 鋤104つ よ うに、 別 の そ うで はな い対象 が想 定 しやす く
な り、分裂文 を用 い る必然性 が高 くなるためであると考 え られ る。
00*山 田さんなのはあの人 だ。
00?意 地悪 な山田 さん なの はあの人 だ。
09 -あ の人 が意地悪 な 山田 さん ?
-11-
静岡大学国際交流センター紀要 第 5号
伽0
―意 地 悪 な 山 田 さん な の は あ の人 。 あ の 人 は親 切 な 山 田 さん 。
あ の 人 は親 切 な 山 田 さん だ 。 意 地 悪 な 山 田 さん な の はあ の人 だ 。
lm)一 ?大 な の は ロキ シー。
10" 一大 きい大 な の は ロキ シー。
(03)一 大 きい犬 な のは ロキ シー。大 きい猫 な の は シ ドニー。
(00 -大 きい犬 な の は ロキ シー。小 さい犬 な の は シ ドニ ー。
5.2
後項名詞句 とメ トニ ミー的 関係 にある名詞句
と ころで、名詞述語文 の 中 には、 lll1 106つ よ うな文末名詞文 (新 屋 ,1989)と 呼 ばれ るも
のがあ る。 これ は文 中 の述語 が主 語 の性格 や状況 を表 してお り、主語 と述語 の間 にメ トニ
ミー的 な関係 がある (今 田,2008)も ので あ る。 この よ うな文末名詞文 に用 い られ る名詞
を新屋 はllllの よ うに分類 して い る。
伽D 川 田君 はす なおで朗 らかな性 格 で す。 (例 文 は新屋 )
00 梓川 は、 この春 とは少 し異 な った感 じだ った。 (例 文 は新屋)
lm
新屋 (1989)の 文末名詞文 の分類 よ り
A
種類 ,類 ,た ぐい,タ イプ,方 ,部 類 ,ク ラス,階 層 ,系 統 ,パ ターン
B
性 質 ,性 格 ,気 質 ,気 性 ,性 分 ,た ち,体 質 ,人 柄 ,立 場 ,構 成 ,構 造 ,仕 組 み ,形 式
,
様 式 ,顔 立 ち,人 相 ,体 格 ,匂 い,形 ,趣 ,体 裁 ,運 勢 ,身 分 ,出 身
C
感 じ,様 子 ,模 様 ,状 態 ,風 ,有 様 ,形 ,風 情 ,格 好 ,空 気 ,気 配 ,気 色 ,態 度 ,素 振 り
言 い方 ,日 調 ,日 振 り,表 情 ,調 子 ,具 合 ,勢 い
D-1
感 じ
,
D-2
D-3
D-4
意見 ,考 え ,印 象 ,考 え方 ,認 識 ,見 方 ,解 釈 ,判 断
E
塩梅 ,具 合 ,次 第 ,道 理 ,話 ,理 屈 ,わ け,顛 末 ,始 末
F
ところ,近 辺 ,近 く,そ ば ,隣 ,寸 前 ,最 中 ,途 中 ,頃 ,直 前 ,直 後 ,後 ,時 分
G
こと,話 ,噂 ,評 半」
,由
この文末名詞文 は述 語名詞句 が必ず修飾語 を伴 い、 そ の述語名詞句 の修飾語句 だ けが焦
点 にな るのが特徴 であ る。例 えば100は 、 ピー ターが何 らか の性格 を持 ってい る ことが 問題
にな って いるので はな く、 どのよ うな性格 かが問題 にな って い る。
110 ピー ター はや さ しい性格 だ。 (例 文 は今 田)
興味深 い ことに、 このよ うな文末名詞文 の主題 を述 語 と して取 り出 してみ ると、側か ら
注
い)の よ うに、す べ てNナ ノハ の形 の分裂文 になる。
6
0"
す なおで朗 らかな性格 なのは川 田君 です。
-12-
静 岡大学 国際交流 セ ン ター紀要
1動
第 5号
注
この春 とは少 し異 な った感 じな の は梓川 だ。
や さ しい性格 な の は ピー ターだ。
7
はD
これ は、 一 体 どう してであろ うか。筆者 は述語名詞句 の修飾語句 だけが焦点 とな るとい
う文末名詞文 の特徴 に関係 が あ ると考 え る。焦点 とい うの は、 そ の文 にお ける重要 な情報
であるか ら、焦点 でな い部分、即 ち この場合 は被修飾語 であ る名詞 は、情報的 にはそれ ほ
ど重 要性 はな い とい う ことで あ る。 それ故、 t呻
と して形 を整えた10か ら10は 10め
(06)100と
0い の名詞 を削除 して、修飾語句 を述語
〔
情報量 とい う点 で はほとん ど変 わ らな い。
10ω
m 川 田君 はす なおで朗 らかだ。
m)梓 川 は、 この春 とは少 し異 な って い る。注
但0 ピー ター はや さ しい。
8
同 じよ うに、分裂文 であ る(1"か ら但りの前項名詞 を削除 し、修飾語句 を ノで 名詞化 して
分裂文 に したllllか ら10も (mか らODと 情報量 とい う点 で はほとん ど変 わ らな い。
m すなおで朗 らかな の は川 田君 です。
この春 とは少 し異 な って い るの は梓川 だ。
但り や さ しいの は ピー ターだ。
このよ うに、文末名詞文 で用 い られ る名詞句 は主 語 とメ トニ ミーの関係 にあ るため、実
1動
質的 には重要 な情報 を もたず、全体 と して は属性 を表す修飾部 が主 に情報 を担 って い る こ
とか ら、名詞句 であ って も全 体 と して形容詞句 の機能 を も って い ることによるので はな い
か と思 われ る。 とす ると、 この現象 もまた、 5。
1に 含 まれ ることにな る。
3 最上級の意 味 を表わす名詞句
また、 ナ分裂文 で は前項名詞句 に一 番 や トップ、最 速 、最強、 基 本 など、何 らか の形 で
最上級 の意味を表わす表現 を伴 う こと も多 い。
5。
1動
最 上 級的意味 を持 つ前項名詞句
Aの 特徴
最 上 級的意味
m
1動
例
最高 最年長 最古 の部類
プ 基本 拠点 激安 etc.
最速
最強
最難関
最下位
一番
トッ
漫画家 の奥 さんで一 番美人 な の は ?#
Sun認 定 」ava資 格 で一 番簡単 とい うか基 本 なの はどれなんですか ?#
ψO ネ ッ トで最強 なの はどの サイ ト?#
これ は、 このよ うな名詞句 が、意味的 に形容詞 に近 いの と同時 に、情報伝達 とい う観点
か らも、 そ の特性 を もつ複数 の候補 の中 で も っ ともその程度 が高 いの は何 かを焦点 と して
述 べ る ことが きわ めて 自然 であることによると言 え るので はな いか と思 われ る。
5.4
範囲 を示す語句 との共起
十デ
や範 疇 十ノ中 デな ど、 範囲 が示 され る例 も多 く見 られ た。 そ の場合い 側 の よ
場所
うに、最上級 を伴 う こと もあれば、 001励 のよ うに、 そ うでな い例 もある。
-13-
静岡大学国際交流センター紀要 第 5号
ネ ッ トで最強 なの はどのサイ ト?#(最 掲 )
(23)× ×× (ア イ ドル グルー プ名 )で 一 番Loveな の は ?#
側 善 玉菌 の増 や し方 で人気 な の は天然 オ リゴ糖 #
1鋤
鰤 この 中 で ××× (ス ポ ー ツ選手 )と お似合 い なのは ?#
いずれ の場合 で あれ、範囲 を示す とい うことは、 内包 を明確 に した うえで、 そ の条件 に
当 て はまる対象 を指定 す るとい う分裂 文 の特徴 と合致す る。同時 に、前件 で範囲 を限定す
るとい うことは、 それだけ相手 の関心 を後件 に引 きつ けやす いとい う効果 を もつ と言 え る。
さ らに、 2節 で述 べ たよ うに、前項 が節 らしさを獲得 して い る こと もその理 由 の一 つ であ
ると言 え よ う。
5.5
「 」 つ きの名詞句
名詞句 の 中 には「 」 や"
"な どをつ けて、「 いわゆ る」 とい う意味 を表す もの も観察
され た。 (20の オ トナは、普 通 の大人 とい う意味 で はな く、大人買 い をす る人 とい う意味
で用 い られて い る。 ただ し、 引用符 つ きの場合 はナ ノハ を用 いず、 `N'ハ と して も自然 で
あ る。 引用符 をつ ける ことで、名詞 の みであ って も「 い わゆ るN」 の意味 にな るた めで あ
ると思 われ る。 とす ると、 ナ分裂文 で用 い られ る名詞句 自体 が「 いわゆるN」 の意味 を表
わ し、節 にな りやす い とい う ことに なる。
オ トナ"な の は21歳 ∼25歳 一#
もっとも “
1動
m もっと もオ トナなの は21歳 ∼25歳 ―
側 ?も っ ともオ トナは21歳 ∼25歳 一
オ トナ"は 21歳 ∼25歳 ―
(20 もっ とも “
5.6 N+助
詞 ナノハ
「 か ら」 などの助詞 を伴 う例 も多 く見 られ る。
分裂文 の 中 には、前項名詞句 が「 まで」
側 釣 り好 きの多 い剣道部 で も、 ここまでな の はYと 」だ けだよね。 (実 際 の会話 )
醐 『 ××× (漫 画名 )』 13∼ 16巻 。 途 中 か らな の は予算 の関係 :#
これ は、本稿 の考察 の対象 であ るAナ ノハBダ の範囲 を越 えて い るが、 ナ分裂文 の前項
が単 な る名詞 で はな い ことの一 つの証拠 と言 え るか もしれな い。
6.ナ 分裂文 の機能
6.1 -般
の名詞述語文 との違 い
砂川 (2005)は 、 Aハ Bダ を「 後方焦点文」 と呼 んで い るが、先 に も触 れた とお り、 こ
の後方焦点文 は、後項「 ∼だ」 で新情報 を導入 し、 その新 たな情報 がそれ以 降談話 主題 と
して 引 き継 がれて い く用法 が圧 倒的 に多 い とされ る。同 じよ うに後方 に焦点 があるとされ
るハ分裂文 にあたるナ分裂文 とこれ らの後方焦点文 は、 どのよ うな違 いがあるのだ ろ うか。
書籍 や イ ンター ネ ッ トの用例 をあた った ところで は、 ナ分裂文 の機能・ 用法 には大 き く
分 けて以 下 のよ うに① か ら③ の 3つ が認 め られた。 この 中 には後項 の名詞句 Bが 主題 と し
て 引 き継 がれて い く場合 もあるが、 そ うでな い場合 もあ った。
二
14-
静岡大学国際交流 セ ンター紀要
第 5号
①対比 による強調
この うち、 最 も多 く見 られた のが対 比 の用法 である。 これ もい くつ か に分 け られ る。
ア.Aな のはBで な くて B
「 Bで はな くてB」 の よ うな形 で、 あ る後項名詞句 を否定 す る ことによ り、別 の後項名
詞句 Bを 対 比 的 に述 べ るの が これで あ る。 例 えば側 は、「 あなた」 を否定 して、対 比 的 に
「社会 の方」 で あると述 べ ることで、両者 が 強調 され る。 18珈 ま掲示板 か ら採 った例 であ る。
県内 で どこが一 番都会 か とい う トピ ックで書 き込 みが続 いて い るが、前 の人 の発言 を「 愚
かな り」 と否定 し、 ナ分裂文 を用 いて別 の意見 を述 べ て い る。 このよ うに、 ナ分裂文 の焦
点 は後項名詞句 であることによ って、 こち らでな くこち らと、 そ の対 比 を強調的 に述 べ る
効果 を もつ こ とがわか る。単 に最初 か らAハ Bダ と述 べ るよ りもず っ とイ ンパ ク トが 強 く
な る。 自分 でBを 持 ち 出 して 否定 す る こと もあれば、 他 の人 が 述 べ たBを 否定 してBを 持
ち出す こと もあ る。 そ の際Bが 語 り継 がれ る場合 もそ うでな い場合 もあ った。
1鋤
病気 な の はあなたで はな くて社会 の方 #
側 一や っぱ り×× (地 名)が 東海 の 中心 だよね。 (後 略)
130
一愚 か な り。東部 で都会 で拠点 な の は ××× (地 名 )だ よ。 #
-(前 略 )左 側 に行 くと ドイ ツ側 の ライ ンフェル デ ン駅 に出 ます。 (現 在 は工 事
中 のよ うですが)ま っす ぐ線路 を くぐる と、 ドイ ツ側 の ライ ンフェル デ ンの街
が見 えて きます。 (中 略)
一工 事 中 な の は道 路 で す ドイチ ェバ ー ンの ライ ンフェル デ ン駅 は普通 に利用 で
きます。 #(下 線筆者 )
イ。 本質的 にはAで はな いことを示す用法
あ る主題 につ いて は じめににAで あ る ものが 多 く出 て きて、 あたか もAで あ るよ うに感
じるが 、 その後 Aナ ノハ Bダ ケ ダの よ うな形 で、 そ の主題 は本質 的 にはAで はな い ことを
示す用法 で ある。
030 国 の 名前 × × は もち ろん × ×× (あ る名詞 )か ら来 て い る。 首 都 の 名 前 ○○
(都 市名 )も ××第 5代 大統領○○○ が 由来。 憲法 も国家 の仕組 み も ××、解放奴
隷 も××訛 りの△△ (言 語 )を 喋 る。見 た 日 は黒人 の ミニ × X。 見 た 目は・・ ・ ?
そ う、 ××なのは見 た 目だ け。 #
ttt Barな のは看板 だ け ?#
このよ うな場合、 それ以 降 の談話 にはいか にAで あ る例 が 次 々 に挙 げ られて い く。 つ ま
り、 それ以 降 の主題 はAと な る。逆 に、 Aが 最初 に出 て きて、最後 にAナ ノハ Bダ ケ ダの
形 でま とめ られ る場合 もある。
例 えば鰤 で は、 い ろ い ろな物 が 他 国 の製 品 であ る こ とが 述 べ られ 、 X× は商人 だ けで
ある ことを強調す る用法 である。 それ以 降 もAの 話 が続 く。
側
彼 らは『 ××』 の兵器 なんか には見 向 き もしな い。 世界 で最 も使 わ れて い る、
地雷・ 小銃・ ロケ ッ ト弾 は ×××製 と○○ ばか り。 この映画 の予告編 に 出て くるの
は何処 の国 の兵器 か ?△ △ 製 の 自動小銃、 旧 ソ連製 の戦車
-15-
××な の は商人 だ け。#
静岡大学国際交流センター紀要 第 5号
ウ。 Aで ある の はBだ けである ことを示す用法
イに似 た例 と して は、 Aで あ るものの例 が 続 い たあ と、 ナ分裂文 を用 いて、本 当 にAな
の はBだ けだ とい う03の が あ る。 Aな の はBだ けであ るとい う点 で は、 イ と同 じであ るが、
イ は本質的 にはAで あ る ことを述 べ るのが主 眼 であ るの に対 し、 この ウはBだ けが真 にA
で あ る ことを述 べ て い るとい う違 いがある。 これ らの用法 の場合、 Aが 語 り継 がれ る場合
もBが 語 り継 がれ る場合 もあ った。
130 本 当 に鉄道 マ ニ アな の はマ イケル・ ペ イ リン#
これ と関連 して い るが、後項名詞句 Bに はダケ・ ソノ モ ノ・ 自体 などが付加 されて、 A
ナ ノハBダ ケ/ソ ノモ ノ/自 体 ダのよ うにな る こと も多 い。
m
t411
あ と、行 く予定 な の は東側 だ けな ので、 (後 略)#
公式 な の は ここだ け。#
-番 問題 なの は、「 そ うい う体質」 その ものだ#
但0
これ は、 ハ分裂文 の機能 は文末 を焦点 にす る ことで あるが、特 にこのよ うな語 を付加 し、
暗 にほか の候補 の存在 を示 しつつ、 ほかの もの で はな くこれだ とBを 取 り立 て る ことで、
焦点 をさ らに際 立 たせ ることがで きるか らであろ う。 この点 が一 般 の名詞述語文 との大 き
な違 いであろ う。
工.Aで ある の はBだ けで はないことを示す用法
この用法 で はまず、 Bが Aで あ ることが語 られ、次 いでB以 外 の もの もAで あ ると述 べ
る。例 えば0で は、 そ の店 の ビール が手作 りであ る ことが説明 された後、 Aナ ノハ Bダ ケ
デハ ナイ の形 で、 Bも Aで ある ことが述 べ られて い る。
14の
手作 りな の は ビールだ け じゃな い。
この用法 の場合、 これ以 降Aが 語 り継 がれ る場合 とBが 語 り継 がれ る場合 があ った。
疑問詞 による興味 の喚起
加 えて、 ナ分裂文 は、 (4め か らllllの よ うに、後件 に「 どれ」、「 ど うして」、「 だれ」 のよ
うな疑 問詞 を伴 う例 も多 い。 さ らに、 Aナ ノハ ?の 形 で疑問詞 である後件 が省略 された側
②
のよ うな例 も見受 け られ る。
140 正解 な の はどれ ?#
141 ATM手 数料 が有料 な の は何故 です か ?#
価)休 みな の はいつ ? #
側 最近 の漫画 で、大 人 にお すす めなの は ?最 近 の ××で、 大人 が じっ くり と堪能
で きる × Xを 教 えて くだ さい。 (後 略)#
これ は分裂文 が変項名詞 Xに あた る特定 の指示対象 を求 め るとい う機能 を持 って い る こ
とか ら生 まれた用法 であ り、通常 それ以 降 の談話 の 中でそ の答 えが 出て くる。他者 に対す
る問 いか けの場合 もあれば、 自分 でそれに答 え る場合 もある。 このよ うな例 は、掲示板 や
HPの タイ トル な どに も多 く見 られ る。 同 じ内容 が文 中 で は分裂文 以外 の形 で表現 されて
い る こと も多 い。
これ も、単 にAハ Bダ と述 べ る場合 に比 べ、「 え、 なん だろ う」 と読者 の興 味 を 引 き、
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静 岡大学 国際交 流 セ ン タ ー紀要
第 5号
読 んで もらいやす い と同時 に、 も っ と も重要 な情報 に 目を向 かせ るとい う効果 を生 む。 こ
の場合、 自問 自答 であれば話者 が、質問 であ る場合 には、質問 の受 け手 が 、 Bを 導入 し、
それ以 降 の談話 で このBが 主題 と して語 り継 がれ ることが多 い。
③ 一応の まとま りをつける
この ほか に、話題 にな ってい る状況 の原因 や背景 をナ分裂文 で表 わす こと もある。例 え
ば10で は、前 に「 私」 が部屋 に感 じる違 和感 につ い て 書 き、 そ の違和感 の原 因 が ナ分裂
文 で説 明 されて い る。 しか し、 それ以降 はこの違和感 につ いて も原因 につ いて も語 り継 が
れ る ことはな く、部屋 に飾 ってあ る写真 の話題 に移 って い る。 これ は、 この例 の場合、 違
和感 の原因 その もの でな く、部屋 の特徴 を描写 す る ことに主 眼 が あるた めで あるが、場合
によ って はそ の原因 そ の ものが主 題 に変 わ る ことは充分 に可能 で あろ う。
14つ
私 は部屋 の 中 を見 まわ した。 ここに来 る といつ も感 じる この違和感 の正 体 を、考
えてみ るの だ けれ どわか らな い。 なん とな くど こかが歪 んでいるのだ。 (中 略)問
題 な の は籐製 の揺 り椅子 か もしれな い し、レースの カ ー テ ンか もしれな い。 (『 なつ
の ひか り』)
いず れ に して も、 この用法 は対比 を表 わす① やBを 焦点 と して取 り上 げて強調す る② の
用法 と異 な り、前 に述 べ た ことの状況 や原因 などを説 明 し、話 の流れ に一 応 の まとま りを
つ ける機能 を も って い ると言 え るであろ う。 ただ し、 Bは 主題 にな る場合 もあ る しそ うで
な い場合 もあ り、主題 として語 り継 ぐとい う機能 とは異 なることがわか る。
6.2
まとめ
以上 の 3つ のパ ター ンの うち、 Aナ ノハ ドレ?の よ うな質 問 に 自分 あ る い は他者 がAナ
ノハBダ と答 え る場合 にはBが それ以降 の談話 で主題 とな って語 り継 がれ る ことも多 いが、
それ以外 の場合 にはむ しろAや Aま たはBで あ る対象 につ いて語 り継 がれて い くこと も多
か った。 これ はハ分裂文 につ いての砂川 に指摘 と異 な るが、 Aナ ノハBダ やそ のバ リエー
シ ョ ンがBを 焦点 と しなが らも、 Aや Bの 存在 を前提 と した表現 であ り、 あ る場合 には こ
うであ ることを強調 す る ことで、逆 にそれ以 外 の場合 にはそ うで はな い ことを印象的 に表
現 しうる ことに起因す ると思 われ る。
ただ し、今回 は用例 が少 なか ったため、詳細 につ いて は今後 さ らに多 くの用例 に当 た っ
て検討 す る必要 があ る。
7. おわ りに
以上、 Aナ ノハBダ で表 わ され るナ分裂文 を前項 の節 らしさとの関係 や名詞述語文 の類
型 との異 同、 ABの 関係 あ るい はAの 性質 とい う観点 か ら分析 す るとともに、 そ の機能 に
つ いて考察 した。 そ の結果、前項 の節 らしさが明確 な場合 ほどナ分裂文 にな りやす い こと、
Aで な い もの やBで な い もの との対 比 とい う条件 の もとに、役割・ 値解釈 の同定文 や倒置
同一 性文 との近接 が 見 られ る こ と、 ABが 単 な る帰属・ 同一 の関係 で はな く隣接 関係 であ
る場合 の倒置指定文 の場合 にナ分裂文 にな りやす い こ となどがわか った。
また、 Aが 形容詞的 な意 味や機能 を もつ場合 に もナ分裂文 にな りやす い。 これ にはAが
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第 5号
後項名詞句 とメ トニ ミー的関係 であ る場合 も含 まれ る。 さ らに、 Aが 最 上 級 または何 らか
の意 味 で 限定 された範囲 を表 わす名詞句 であ る場合、 あるい は後件 が疑間詞 であ る場合 な
ど、特 に後件 が なんであるかが焦点 とな る場合 に もナ分裂文 にな りやす い。
こ うした性質 か らナ分裂文 は見 出 しな どで も多 く用 い られて い るが、 Aや Bの 存在 を前
提 とす ることで対 比 的 にBを 焦点 と して相手 の注意 を引 きつ け る機能 や これ まで述 べ て き
た ことに一 応 の まとま りをつ ける機能 な どが観察 され、必 ず しもそれ以 降 の談話 にBを 主
題 と して導入す る機能 を もたな い ナ分裂文 も見 られた。 いず れ に して も、単 にAハ Bダ と
述 べ る場合 に比 べ、 Aや Bと の対 比 に よ リイ ンパ ク トの強 い表現 とな る こ とが この文 型 を
用 い る最大 の動機 であ ると言 えよ う。
本稿 で はAナ ノガBダ につ いて は考察 しなか ったが、 この形 との違 い も含 め、 さ らに考
察 を続 けて い くことが今後 の課題 である。
[注 ]
1)① ∼⑦ の番号 は筆者。
2)た だ し、砂川 (2007)は ガ分裂文 に も格助詞 を伴 う例 が全 くな い とい うわ けで はな い
と して い る。
3)#は イ ンター ネ ッ トか ら採 った用例 であることを示 して い る。 また、 ×××は メーカー
名。注筆者。 イ ンター ネ ッ トか ら採取 した例 について はプ ライバ シーなどの問題 もあ
り、以後 も固有名詞 な どにに変 えて ×××を用 い ることがある。 なお、該 当 の名詞 が
一 つ の例 で複数回 が 出 て くる場合 は ××、 ×××は別 の対象 を指す。必要 に応 じて○
や△ も用 い る。
4)ニ ュースよ り (http://biZmakOto.jp/bizid/artiCles/0810/24/news015。 html)
5)今 田は これ とは逆 の「 ジキル博 士 はハ イ ド氏 だ」 の例文 を用 いてい るが、謎 の人物 ハ
イ ド氏 を見 て、 ジキル博 士 と同一 人物 であると同定 す る方 が 自然 だ と思 われ るので、
ここで はハ イ ド氏 を主題 に した もの を用 いた。
6)た だ し、 Aハ Bダ とBハ Aダ とが意 味論 的、機能 的 に同 じ意 味 を表す とい うわ けで は
な い。
7)本 来 は過 去形 な ので「 感 じだ ったの は」 となるべ きであるが、本稿 で は現在形 に統 一
した。
8)「 異 なる」 は名詞修飾語 として用 い られ る場合 には「異 な った」 とな り、文末 で用 い
られ る場合 には「 異 な って い る」 の形 で用 い られ ることが多 い。
[参 考文献 ]
天野 み ど り (1995a)「「 が」 による倒置指定文 ―「 特 にお すす めなのが これです」 とい
う文 につ いて 一」『人文科学研究』八 十 八輯 、新潟大学
―― (1995b)「 後項焦点 の「 Aが Bだ 」文」『 人文科学研究』八 十九輯、新潟大学
今 田水穂 (2008)「 日本語 述語文 の記述的分類 の再分析」『筑波 応用 言語学研究』 15
-― (2009)「 日本語名詞述語文 の意味論的 0機 能論的分析」 筑波大学博士
学位請求論文
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(言 語学 )
静岡大学国際交流 セ ンター紀要
第 5号
新屋映子 (1989)「 “
文末名詞 "に ついて」
『 国語学』 195、 国語学会
砂川有里子 (1995)「 日本語 にお ける分裂文 の機能 と語順 の原 理 」『複文 の研究 (下 )』
くろ しお 出版
―― (1996)「 日本語 コ ピュ ラ文 の談話機能 と語順 の原理 一「 Aが Bだ 」 と「 Aの が Bだ 」
構文 をめ ぐって 一」
『 文藝言語研究 言語篇』 30、 筑波大学
―― (2005)『 文法 と談話 の接点 一 日本語 の談話 にお ける主題展 開機能 の研究 一』、 く
ろ しお出版
―― (2007)「 分裂文 と文法」
『 日本語文法』 7巻 2号 、 日本語文法学会、 くろ しお 出版
西山佑 司 (2003)『 日本語名詞句 の意味論 と語用論 :指 示 的名詞句 と非指示 的名詞句』 ひ
つ じ書房
[参 考資料]
『 なつの ひか り』 (江 國香織、集英社文庫 )
『 みんな の 日本語』 Ⅱ 本冊、翻訳・ 文法解説、 ス リーエー ネ ッ トワー ク
『 中級 日本語』東京外国語大学留学生 日本語教育 セ ンター、凡人社
On Cleft Sentences Anu nou;a Bda
KUMAI, Hioroko
The purpose of this paper is to find out what kind of Japanese nominal
predicate sentences Awa Bda can be replaced with l/a bunretsubun, or IVa cleft
sentences, Ananowa Bda and the meaning and functions of such l/a bunretsubun
in contrast with other nominal predicate sentences. The author argues that l/a
bunretsubun can be replaced with certain types of specificational sentences
(yalzuwari-atai lzaishalzuno doteibun and tochidoitsusebun) especially when there
is a contrast between A and A and/or B and B u. well as when the antecedent
I{P keeps the characteristi.cs of a clause. In addition, when the relation between A
and B is regarded as not ascriptive nor identical but adjacent or when A has a
meaning and function close to an adjective, Na bunretsubun can be used. This
includes when A is a Bunmatsu doshi, or Sentence F inal Nouns, metonymical to
B. Moreover, when B is a focus of the sentence within which (1)A has a meaning
of the superlative degree andfor accompanies an expression of a range or (2)B is
an interrogative, ltla bunretsubun is often used. Reflecting these characteristics,
this type of sentence tends to be used as a title. It is chosen mainly because it has
a much stronger impact than ordinary nominal predicate sentences, with a
contrast between A and A o. B and B.
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