小国町を“知る”

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山形県医師会会報 平成29年2月 第786号
小国町を“知る”
小国町立病院 今 孝 志
昨年の10月より小国町立病院へ赴任しました。
システムがありました。病院が健康管理センター、
平成23年に医師になり、県立中央病院で初期研修、
老人保健施設、特別養護老人ホーム、老人福祉セ
後期研修併せて4年間、その後米沢市立病院で1
ンターと密に連携し在宅高齢者が自宅で安心して
年半と県内では比較的人口の多いところで医療に
生活できるよう支援を行い、来院が困難な高齢者
携わったのちに、人口約8000人の小国町立病院へ
には訪問診療を行い、訪問看護と連携をとりなが
と赴任してきました。
ら状態を確認し、緊急時には24時間体制で訪問看
私自身、出身が小国町で中学校までの15年間を
護師が直接患者さんのところに出向くなどして対
過ごしたまさしく地元であり、その後はなかなか
応してくれます。平成の大合併以前は県内一の面
長期休暇がなければ帰ってくることもなく、懐か
積を誇った小国町だけあり、1時間近くかけて診
しい気持ちとまた地元への恩返しをという気持ち
察に出向くこともあります。また院内ではほぼ毎
で赴任しました。小国町を離れるようになって約
日のように健診ドックを行っており、予防医学の
15年、小さな町ではあるにしても変化はあるよう
面からも町民それぞれの健康管理に目を向けられ
で、大手コンビニエンスストアが3軒もできてお
ていました。「
地域の方々と共に歩み医療を通して
り、そのひとつであるセブンイレブンには常にた
安心のある地域作りに貢献します」という施設理
くさんの車が停車しています。噂では県内で上位
念から阿部吉弘院長が築きあげた“THE地域医療”
の売り上げを誇っているということで、町民に
の世界がありました。地域医療については少なか
とってはコンビニエンスストアというよりもスー
らず学生時代に授業で学んだり、卒後臨床研修の
パーのひとつのような位置づけにあるかもしれま
プログラムにも必修化され実際に経験してきたは
せん。
ずでしたが、どうしても地域医療=田舎で行う医
変わりゆく風景もあれば変わらない風景もあり、
療というイメージがありました。この4ヶ月
“THE
小国町が誇る自然、町内を360°取り囲む山々は幼
地域医療”の世界を体験し、地域の方々が必要と
少時と全く変わることのないもので、人の力では
するニーズに応える医療を提供することが重要な
変えようのないものであり、この姿は今後も変
のだと感じさせられました。地域が変わればそこ
わっていくことはないのだろうと改めて地元の自
で必要とされる医療も変わり、必要とされるニー
然の偉大さを感じました。しかし昨今の異常気象、
ズを見つけるには地域の環境や特徴、そこにすむ
温暖化の影響か、小国町の雪もかなり減ったよう
人達のことを“知る”ことが地域医療においての
で、12月ともなれば1m近く雪が積もり、周囲の
第一歩なのかと思います。町立病院で長年院長を
山々が真っ白に雪化粧されていましたが、今年は
され小国町のことを十分に“知り”尽した阿部先
年が明けてもほとんど雪は積もっていませんでし
生だからこそ、町民のニーズを把握し確立された
た。雪国小国町としてはちょっとさみしい気持ち
地域医療を作り上げることができたのかと思いま
も し ま し た が、1月 中 旬 頃 か ら 連 日 の 豪 雪 で、
す。赴任してから小国町の良いところ、悪いとこ
あっという間に白銀の世界へと変わり、安堵した
ろ様々な発見がありました。地元であったが故に
ところでした。
知ろうとしていなかったところもあったかもしれ
赴任する前は田舎の一つの病院という認識でし
ません。地域医療を提供する医療者として、小国
かなかった町立病院でしたが、実際に働いてみて
その考えは覆されました。確立された地域医療の
町の一人の町民として、もっと小国町のことを
“知って”いこうと思います。