発達障害を理解するために -ASNの実践から

相談支援人材育成研修 テーマ別研修
障害のある子どもと向きあう
家族への支援
~子どもの特徴と発達を踏まえて~
NPO法人 東京都自閉症協会
尾崎 ミオ
■自己紹介
• 東京都自閉症協会 副理事長
高機能自閉症・アスペルガー部会スタッフ
• 世田谷区「みつけば」代表代行
• 不登校・高校中退の経歴アリ
• 医療・福祉が得意分野の編集ライター
自身の経験から、主にASD当事者と
家族の支援について考察していきたい。
■世田谷区で行ったアンケート
(平成27年8月実施)
世田谷区の発達障害の子を持つ親、当事者に、
関係機関を通じ、約1500配布。
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発達障害児相談・支援センター「げんき」
発達障害就労支援センター「UNI」
「東京都自閉症協会」 世田谷区在住会員
LD親の会「にんじん村」
etc・・・
■世田谷区で行ったアンケート
(平成27年8月実施)
• 有効回答件数595件。年齢は2歳から57
歳まで幅広く、平均年齢は12.4歳。
高校生,
33人, 7%
成人期,
88人, 15%
乳幼児期,
97人, 16%
乳幼児期
中学生, 53人,
9%
小学生
中学生
小学生,
313人, 53%
高校生
成人期
■世田谷区で行ったアンケート
(平成27年8月実施)
・未診断が183件(31%)と多い
その他
。
91
学習障害
33
知的障害
38
アスペルガー
66
ADHD
72
自閉症
88
広汎性発達障害
162
未診断
183
0
50
100
150
200
■発達障害とは?
• 発達障害の診断には「生物学的な指標」
はない(医療モデルの不確実性)。
環境とのミスマッチにより、障害が生ま
れる(ICF生活機能分類モデル)。
• 「コミュニケーションの困難」、「社会
性の障害」といった表現は、当事者を傷
つけ、自信を喪失させる原因になる。
■発達障害とは?
• 発達障害は、脳のメカニズムの違いによ
るものではないかと考えられている。
• 情報のインプットの方法、整理の仕方、
アウトプットの方法が多数派と異なる。
多数派とは違う文化、違う表現方法、違う
発達プロセス、ライフスタイルをもつ可能
性がある子ども・人たち。
■特性によるメリット
・感覚や認知の特性が、絶対音感、
カメラアイ(驚異的な視覚記憶)など、
優れたスキルにつながる場合もある。
・認知の特性により、多くの人が気づかない
部分に着目したり、間違いに気付くことも
少なくない。また、興味のあるテーマに並
はずれた関心と集中力をもつ人が多い。
■特性によるデメリット
• 認知の構造や感覚機能が違うため、
マジョリティの文化の中では「ハンディ
キャップが生まれやすいリスク」をもっ
ていると考えられる。
性格のせいにされ、
周囲(親や先生)、本人が
状態を把握できていないこともある。
■発達障害の生きづらさ
新しい三つ組み(オザキ案)
・感覚機能の特殊性
・自律神経系の脆弱性
・情動と認知
コミュニケーションや社会性以前に、
社会生活において、身体的(生物学的)に
不利益な場面が多い。
■発達障害の生きづらさ
・感覚機能の特殊性
(体がうまく使えない)
「縄跳びができない」「ブランコがこげない」
「ダンス・体操などが難しい」
「姿勢を保てない」「座っていられない」
(感覚過敏・鈍麻)
「音が響く場所を怖がる」「大きい音が苦手」
「蛍光灯が苦手」「LEDで疲れる」
「聴覚・視覚情報の取捨選択が難しい」
■発達障害の生きづらさ
・自律神経系の脆弱性
「睡眠のリズムが乱れがち」
「気圧の変化が苦手」「季節の変わり目が苦手」
「体温調節が難しい」「暑さ寒さを感じにくい」
「ずっと倦怠感がある」「痛い・痒い」
「ホルモンバランスが悪い」
「PMS(月経前症候群)」
「下痢・嘔吐・腹痛などを起こしやすい」
「頭痛・肩こり・耳鳴り」「過呼吸」
■発達障害の生きづらさ
・情動と認知
「ミスでぱにくる」「テンションがあがりすぎる」
「不安が強い」「被害妄想にとらわれる」
「ひとつの考えに固執する(ぐるぐる思考)」
「正確じゃなきゃダメ」「配置にこだわる」
「木を観て森をみず」「重要な情報が拾えない」
「記憶の構造が違う」「エピソードが苦手」
「言葉の意味を誤解する」「情報共有できない」
「指示がわからない」「ルールがわからない」
■発達障害の生きづらさ
• わたしたちは言語をもったことによっ
て、目に入るものをつねにカテゴリー化
し「何か」として見ようとする記号的な
見方をしている。 つまり目に入るものを
そのまま認識しているつもりでも、無意
識に言語のフィルターを通して世界を見
ているのだ」
『ヒトはなぜ絵を描くのか
――芸術認知科学への招待』
■生きづらさへの支援
【感覚からくる困難】
・苦手な音・光、場所がある
・情報過多で混乱してしまう
・人とコミュニケーションがとれない
まずは、生活環境の改善。
その後、コミュニケーションがとれる
状況のセッティングが必要。
■生きづらさへの支援
【脆弱性からくる困難】
・ストレスマネジメントができない
・リラックスできない
・大事な場面で不調になりやすい
・不安になる悪循環
適度に休ませながら
大事なところで「キメる」場面設定
■生きづらさへの支援
【認知特性からくる困難】
・重要な情報をピックアップできない
・ヒトと違うところが気になる
・言葉の意味を誤解している
・比喩や曖昧な表現がわからない
情報を共有できているか、誤解がないか
丁寧に確認していく。
■生きづらさへの支援
【認知特性からくる困難】
・自分の感情に気づきにくい
・言いたいことを言語化できない
・情報の整理がむずかしい(ぐるぐる)
・言っていいこと悪いことの判断ができない
メールや文章でコミュニケーションをとる。
マインドマップを使うなどサポート
■世田谷区で行ったアンケート
(平成27年8月実施)
「今後の発達障害支援で充実してほしいことは何ですか?」
1.日常の困り事を気軽に相談できる場
246
2.保育園や学校の先生等の理解促進、対応スキルの…
324
3.相談・療育機関と保育園・学校等との連携
220
4.専門職によるアドバイス
164
5.関係機関や支援のコーディネート
116
6.保護者の学びや交流の場
116
7.地域社会の理解促進
114
8.生活スキル(家事、金銭管理)向上のための支援
100
9.就労に向けた支援
117
10. 当事者が集い活動できる居場所
117
0
n=595
※複数回答あり
200
400
19
■支援の課題
・誤診の問題
統合失調症、うつ病など他の精神疾患
と診断されている中にも、相当数の発達
障害が含まれている。
・過剰投薬(多剤投薬)
薬に過敏な人も多く、副作用で苦しむ人
も少なくない。重ね着症候群。
■支援の課題
• 発達障害をわかる専門職の不足
発達障害に詳しい専門家は、
まだまだ圧倒的に不足している。
・東京ならではの課題も!
放課後等児童デイ&就労支援への株式会
社の参入。にわか専門家の倍増・・・
■支援の課題
• 家族の崩壊、家庭内暴力
• 学校では、いじめ、不登校、不適応
• 社会に出たら、派遣切り、ワーキングプア、
パワーハラスメント、ひきこもりなど
社会状況と「発達障害支援」が、
どんどん乖離していく状況がある。
ますます発達障害系の人たちが
生きづらさを感じている。
■支援の課題
「自分が何とかしなければならない」
という親の強い責任感
↓
本人にとってはプレッシャー
親の不安が伝染し、本人の不安が強まる
過干渉・共依存のリスクが高い。
「自立とは依存先を増やすこと」
(熊谷晋一郎さん)
■支援の課題
・「なんとか健常に近づけたい」と、
行動を矯正することに注目してしまう。
・問題行動のバックボーンにある感覚過敏
や発達の凹凸、認知の特性に視点がいか
ないこともある。
主観的になりがちな親には、
適切な助言をくれる支援者が必要。
■どんなサポートが?
支援のキモは、子育て支援!
• ガス抜きの場を確保する
• 発達障害に関する情報提供
• 親の文化圏や視野を拡げる
• 価値観の転換
親が変われば、子どもも変わる!
正しい親&熱心な親より、楽しい親。
■当事者主体の支援
• 何が、どこが治療の対象なのかの線引き
が難しい。(※現在の薬物治療の問題)
• 特に子どもは自ら治療を選択しない。
• 多数派に属する支援者の価値観から、A
SDの治療が進められてしまう、現状が
ある。
■当事者主体の支援
・危険な「熱心な無理解者」
・「SST」「社会性の教育」を語る暴力
・何かが違う。自閉症支援パターナリズム!
「定形は無駄な努力
(要するに苦痛を味わえということ)を
させるのが大好きだから、気をつけよう」
■当事者主体の支援
「彼らの認知構造は変わらないという前提
で、多数派の認知の仕方を知識として学ん
でもらう」
「それを学んでほしいのは彼らが間違って
いるからではありません。そのほうがお互
いにとって不都合が少ないからです」
(2003,吉田)
■当事者主体の支援
・子どもの世界観や思考回路を尊重する。
(自分の意見を押し付けない)
・社会とつなぐ、通訳になる。
・一般的なルールや、最低限のマナーを
わかりやすく伝える。
・苦痛や不安の原因をとりのぞく。
■どんなサポートが?
「ゲゲゲの鬼太郎タイプ」
「妖怪ニンゲンベムタイプ」
「勝手に目標を決めてしまうレベルになっちゃう
と怖い。私なんかは、人生を山に例えるなら
ば、寄り道を途中で楽しむ人、ものすごい植
物ばっかり観て楽しんでる人とか、いろんな
人がいて当然だと思う」 (2007,高森)
■健常者モデルからの脱却
・自閉症的な感性を、表現できること
・自分の空間をもつこと
・自分の意思と、社会性の整理
過剰な「社会性」を求める環境は、
自閉症の個性を奪い、
「障害」を生むので、注意!
■健常者モデルからの脱却
• 日本社会は「かなり」生きづらいけど、
「人生は楽しい」「世界は広い!」
長い目でみれば、学校に適応するより、
人生を楽しむために必要な、
スキルを身につけることが大事。
■健常者モデルからの脱却
・発達障害の子はモデルをもたないまま
手探りで成長してきている。
(自分を使いこなせない)
・自分の得手・不得手を捉えながら、
チューニングを整えていくには、
モデルや情報が必要!
■健常者モデルからの脱却
• 他者評価と自己評価
※「ほめて伸ばす」のリスク
• ぴあサポートとセルフサポート
• 時には自己完結が必要
※他者との関係の中で、考えすぎない
■健常者モデルからの脱却
人生を楽しむために必要なことは…
・健やかであること(無理しない)
・
・自分が使いこなせていること
・多数派の価値観に惑わされない
・貢献できていると感じられる
・自己評価ができること
ありがとうございました!
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