工 作 機 械 と 運 転 監 視

927
小 特 集
FA(フ
計 測 と 制 御
Vol.22,
No.11
[
ァ ク トリ ー オ ー トメ ー シ ョ ン)
(昭和58年11月)
《解
]
説》
工 作 機 械 と 運 転 監 視
多
表1
1.
島
康
夫*
工作機械進歩発展の主要テ ーマ
工 作 機 械 の基 本 特 性
工 作機 械 に要 求 され る最 も基 本 的 な機 能 は,素 材 の
不 要 な 部 分 を 除 去 し所 望 の 形 状 に 加 工 す る こ とに あ
り,工 作 機 械 に 対 す る一般 的 要求 事 項 は つ ぎの3つ に
絞 られ る.
(1)
作業 者 の 熟練 とは で き るだ け 無 関 係 に,工 作
物 の 形 状精 度,寸 法精 度 お よ び 表面 あ ら さを い つ
で も許 容 範 囲 内 に仕 上 げ る こ とが で きな けれ ば な
らない.
(2)
切 削 速 度 お よ び 切 削 量 は材 料 お よび 工 具 の 最
近 の 進 歩 に適 合 す る よ う に し,高 い 生 産 性 を 確 保
す る機 械 で な けれ ば な らな い ば か りで な く,短 期
工 作 機 械 に必 要 な 静 剛 性,動 剛 性 は,切 削 時 の 負 荷
間 に陳 腐 化 しな い 設 計 で,将 来 の 技 術 の 進 歩 に も
容 量,所 要 の 加 工 精 度,表 面 あ ら さを 決 定 す るた め,
対 処 で き る もの で あ る こ と.
対 象 加 工 方 法 に最 適 な 構 造 と構 造 物 の材 質,切
(3)
り くず
の 形 状 と量 に つ い て も考 慮 の 対 象 とな る.
作 業 能 率 を あ げ る うえ で,技 術 的 に も経 済 的
に も高 い効 率 を 維 持 で き る機 械 で あ り,か つ 操 作
切 削 抵 抗 は工 具 寿 命 お よ び工 具 摩 耗 に よ って 変 化 し
工 作 機 械 各 部 の 固 有 振 動 数,送
上 安 全 で あ る こ と.
工 作 機 械 の主 要 構 成 要 素 は形 式 に関 係 な く共 通 で
摩 擦 抵 抗 の 減 少,バ
り系 と駆 動 系 の 剛 性 ・
ック ラ ッシ ュな どは,加 速,減 速
主軸系
時 や 速 度 に比 例 した力 の 変 化 と し てサ ー ボ系 に対 す る
送 り系,位 置 決 め サ ー ボ系
外 乱 とな るた め,サ ー ボ 系 の 感 度,安 定 性,応 答 性,
工作物支持系
精 度 が 工 作 機 械 の 特 性 を 左 右 す る こ と に な る.
工具支持系
工 作 機 械 の 歴 史 は,よ
構成 要 素 の結 合 部,案
内接 触 部
り高 い 加 工 精 度 で 能 率 よ く部
品 を 加 工 す る とい う 目的 に そ って 進 歩 して きた とい っ
て も よ く,常 に高 精 度 化,高 速 化,強 力 化 お よび 自動
制 御系
ベ ッ ド,コ ラム,サ
ドル は工 作 機 械 の 骨 格 と して機
化 の4つ の テ ー マが そ れ ぞ れ 工 作 機 械 の 進 歩,発 展 の
械 の 剛 性 を 決 定す る重 要 な部 分 で,一 般 に鋳 鉄 製 の 箱
柱 とな っ て い る.
形 構 造 が主 流 で あ る が,最 近 は鋼 板 溶 接 構 造 の も の も
表1に 工 作 機 械 進 歩,発 展 の 主 要 テ ー マ と そ の 効
採 用 され て い るほ か,一 部 に は レジ ンコ ンク リー ト製
果,目 的,向 上 手 段 につ い て示 す.
の ベ ッ ドも 実 用 化 され て い る.
2.
加 工精 度 に 及 ぼ す 工 作 機 械 の 特 性
* 三 井 精 機 工 業(株)
キ ー ワ ー ド:ブ
system),イ
ロ ッ ク ア ン ド ビ ル ド方 式(block
ン プ ロ セ ス 計 測(inprocess
イ ン タ プ ロ セ ス 計 測(interprocess
ス トプ ロ セ ス 計 測(postprocess
測 お よ び 位 置 補 正 装 置(automatic
compensation
and
工 作 機 械 自身 の 母 性 的 特 性 はつ ぎ の3つ が あ り,
build
measurement),
measurement),ポ
measurement),自
measuring
(1)
静的安定性
(2)
動的安定性
(3)
熱 的 安定 性
動 計
and
これ らが 切 削系 の 主 要 構 成 要 素 と加 工 精 度 の 誤 差 の 要
system)
23-
928
昭 和58年11月
計
表2
測
と
御
第22巻
第11号
切削系 の主要構成要素 と加工精度の語差要因1)
因 と密 接 な 関 係 にあ る.
表2は 工 作 機 械 の主 要 構 成 要 素 と 誤 差 の 要 因 を 示
す.
ハ ー ドウ ェア とし て の機 械 精度 と 安定 性 の 向上 に は
工作 機 械 の 幾 何 学 的 運 動 精度 の 確 保,維 持,位
精 度 向 上 に必 要 な 対 策 が,送
制
置決 め
(1)
発 熱 を 極 力 少 な くす る.
(2)
発 生 熱 量 をす み や か に 除 去す る.
(3)
温 度 変 化 に 鈍 感 な 構 造 とす る.
(4)
温 度 状 態 を 機 械 全体 に 均 一 化 す る.
図1に1軸
り駆 動 系 を 含 め た 摺 動 面
の 運 動 と次 元 的 誤 差 要 因,図2に
度 と位 置 決 め 誤 差,図3に
の 構成 や 案 内面 の 支 持 剛 性,主 軸 回 転 系 や その 他 各 部
運動精
相 対2軸 間 の 運 動 誤 差 ・直
角 度 を 示 す.
の 発 熱 源 に 対 す る熱 変 位 対 策 な ど と共 に総 合 的 に施 さ
れ な けれ ば な ら ない.
温 度 対 策 を一 般 論 的 に あ げれ ば つ ぎ の と お り で あ
る.
図2
図1
ピ ッ チ ン グ,ヨ
ー イ ン グ,ロ
ー リン グ の定 義
24-
運動精度と位置決め誤差
図3
相対2軸 間 の 運
動誤差YとXの
直角
が 出て いな い場合EΔ
の誤差 を生ず る
多 島:工 作 機 械 と運 転 監視
3.
変 革 を もた らし た.
工 作 機城 の 最 近 の 傾 向
タ ー ニ ン グ セ ン タ ー(TC)やMCと
切 削加 工 に は,旋 盤 の よ うに 加 工 物 を 回 転 させ て 切
削 速 度 を 与 え る方 法 と,フ ラ イス 盤,中
929
呼ば れ るNC
複 合 工 作 機 械 は,従 来 の専 用 機 群 や トラ ン ス フ ァ ライ
ン の 構成 に も一 部 と り入 れ られ は じめ て い る.
ぐ り盤 の よ う
1968年 にCincinnati
に切 削 工 具 を 回 転 さ せ て 切 削 速 度 を与 え る 方 法 が あ
られ て きた.
が 本 格 的 な シス テ ムの 最 初 とい わ れ,1970年
加 工 方 法 に よ る分 類
a)旋
削
らFMS
Manufacturing
(Flexible Manufacturing
System)
代中ばか
System)が
導入
f)放
電 お よ び電 解 加 工
され は じ めて きた.こ の 種 の 加 工 シス テ ムが 実 用 化 さ
れ る 当 って 中核 と な る工 作 機 械 と工 具 ツ ー リン グ に よ
b)フ
ライ ス 削 り
g)電
子 ビー ム 加工
c)穴
明け
h)レ
ーザー加工
る加 工 能 率 向上 と,セ ン サの 発 達,NC装
d)研
削
i)ブ
ロー チ加 工
化,マ
j)塑
性 加工
御 可 能 レベル と信 頼 性 が 格 段 に 向上 し た こ と と互 い に
e)平
削 りお よ び
形削 り
置のCNC
イ ク ロ プ ロ セ ッサ に よ る各 種 制 御 の 容 易 化,制
密 接 な 関係 に あ る.
工 作 機 械 の シ ス テ ム化 傾 向 は,工 作 機 械 の分 類 上 も
従 来 は これ ら加 工方 法 に よ り工作 機 械 形 式 は そ れ ぞ
れ,フ
Mission
が 発 表 した
り,一 般 的 には 加 工 方 法 に よ り工 作 機 械 の 形 式 が 分 け
(1)
(Variable
Milacron社
VMMS
ライ ス 盤,放 電 加工 機 の よ う に○ ○ 盤,○ ○ 加
使 用 目的 に よ り多 様 化 し て い る こと が わか る.
工 機 な ど,加 工 方 法 に よ り直 接 的 に 分 類 され て きた.
4.
しか し大 量 生 産 に対 す る トラ ンス フ ァラ イ ンの 応 用
は,個 々 の 汎 用 機 や 万 能 機 を 遠 ざ け,構 成 ユ ニ ッ トの
工 作 機 械 の運 転 監 視
工 作 機 械 の 運 転 監 視 と 自動 制 御 に 関 して必 要 な 諸 機
組 合 せ に よ る 特 殊 目的 機 械,専 用 工 作 機 械 を 出 現 さ
能 をMCで
せ,主 要 ユ ニ ッ トを 徹 底 して 標 準 化 し,目 的 に 応 じて
ま と め た 例 を 表3に 示 す.
分 解 再 組 立 て が で き る ブ ロ ック ア ン ドビル ト方 式 の 工
以 下,表3の
中 か ら代 表 的 な 機 能 に つ い て 記 す.
一 般 に 加 工 プ ロセ ス に お け る計 測 に は
作 機 械 を 増 大 させ,か な り高 度 な 自動 化 の 実 績 と大 き
1)
イ ン プ ロ セ ス計 測
な効 果 をあ げた.
一 方 ,1959年
に 出現 した マ シ ニ ン グ セ ン タ ー(MC)
2)
イ ン タ プ ロ セス 計 測
3)
ポ ス トプ ロ セス 計 測
は1980年
代 に入 って 急 激 に 市 場 設 置 台 数 が 増 加 し,
従 来 の 中 ぐり盤,フ
削加 工 に お いて は,排 出切 粉 な ど に よ る
ール 盤 な ど の 加 工分
測 定 環 境 の点 か らイ ン プ ロセ ス 計測 は 現 状 で は 困難 で
りか らの 自動 化,省 人 化,加 工 物 の
あ り,ポ ス トプ ロセ ス計 測 で は 結果 が工 程 の あ とに な
多 様 化 対 応 の要 求 に こた え,機 械 工 場 ライ ン構成 に も
り問 題 が あ るた め,現 状 で は イ ン タ プ ロセ ス 計 測 が最
野 を と り込 み,お
ラ イ ス盤,ボ
が あ るが,切
表3
無人運転MCに
25-
必要な諸機能
930
昭 和58年11月
図4
計
測
と
制
御
第22巻
第11号
温度-補 正機能
図6
実用 的な切削状態監視 セ ンサ
に よ る位 置 決 め 精 度 の変 化 を 温 度-補 正 値 デ ー タテ ー
ブル(図4)と
し,NCの
る方 式 の ほ か,タ
補 正(図5)の
補 正 機 能 に よ り精 度 補 正 す
ッチ プ ロー ブ に よ る 自動 計 測 と位 置
機 能 も実 用 化 され て い る.
最 後 に現 在 実 用 的 と思 わ れ る切 削状 態 監 視 セ ンサ の
図5
代 表例 を図6に 示 す.
自動計測位置補正
これ らの セ ン サ は,各 種 加工 工 程 で 常 時 監 視 の 目的
も適 して い ると い え る.測 定 項 目 と して は,
で 使 用 され る もの で あ り,機 械 各 構 造 部 へ の 組 込 み が
1)真
内 度,同 心度
2)加
工 穴 ピッチ
容 易 で,安 定 性 の あ る こと が 要 求 され,そ の 評 価 項 目
3)内
外径寸法精度
4)加
工 面深 さ
を列挙す ると
これ らの 測 定 値 に 対 す る補 正 動 作 と して は,
1)工 具長 補 正,2)工
具 位 置補 正,3)直
1)安 定性,2)SN比,3)感
径補正
度,6)再
な ど で,測 定 手 段 と して 各 種 の タ ッチ プ ロー ブや 接 触
幅,10)耐
式 が ほ とん どで,接 点 式 と ア ナ ロ グ式 が あ り,位 置 寸
法 の 測定 基準 と し てNC位
線 性,8)ヒ
ノ イズ性,11)耐
参
クパ ル ス を そ の ま ま利 用 す る方 法 と測 定 用 の 検 出ス ケ
ー ル を 別 に用 い る方 式 が あ る.
<工 作機 械 温 度 の測 定 と精 度 補 正>
セ ミク ロー ズ ル ー プ 系 に お け る ボ ール ネ ジの発 熱 に
械温 度 変 化 な ど
26-
考
答 速 度,5)精
ス テ リシス,9)帯
振 性,12)耐
が そ れ ぞ れ あ げ られ る.(昭
置決 め 系 の フ ィー ドバ ッ
よ る伸 長,主 軸 の 発 熱 に よ る変 位,機
現 性,7)直
度,4)応
和58年9月12日
文
域
蝕 性,
受付)
献
1)
岩田一明:工 作機械 の 新技術 に 関 す る 講 習 会,3月
2)
3)
(1978)
伊東 誼:最 近の工作機械技術,マ シニス ト, (1980)
安井外代:最 近のマ シニ ングセ ンタ,機 械の研究 (1983)