Ⅲ 特に重点施策化を検討すべき事項 1 学校教育における消費

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特に重点施策化を検討すべき事項
学校教育における消費者教育の推進
生涯にわたって学ぶことが求められる消費者教育において、その基礎となる知識や技術を習得し、
学習を続けていくための基盤を培うのが小学校、中学校、高等学校等の学校教育です。この時期に
児童・生徒は将来必要となる「生きる力」を育むこととなり、学んだ知識や技術を活用して様々な
危険やリスクを回避しながら、トラブルに巻き込まれても速やかに対処できるだけの判断力や思考
力を身に付け、日々の消費行動が持続可能な地球環境や貴重な資源の有効活用にも貢献することを
意識しながら、その後も学習を続けるという態度を養うのです。
また、大学等においては、これまで行われてきたような学生の生活支援、あるいは単なる情報提
供というだけの消費者教育ではなく、将来、わが国の経済社会を支える自立した社会人・職業人の
教養としての専門的な消費者教育が行われることが必要です。
こうしたことを踏まえ、各学校における消費者教育の推進にあたっての重点化すべき施策を以下
のとおり提案いたします。
(1) 教職員の指導力向上
小学校、中学校、高等学校等においては、特に消費者教育推進の担い手となる教職員の果す
役割は大きく、その指導力向上が求められます。市は、教職員向けの研修や学習機会の充実を
図るべきです。
具体的には、独立行政法人国民生活センターなどで実施されている教職員向け研修プログラ
ムへの定期的な派遣や消費生活センター職員(消費生活相談員等)やその他の消費者問題の専
門家(弁護士、大学の研究者、消費者団体・企業関係者など)が講師となっての専門講座を開
催、さらには、教職員と消費生活センター職員等が現状における課題や他都市の先進事例等を
共同で調査・研究する情報交換会や研究会の開催などが考えられます。
専門研修機関への派遣と専門家による教員向け講座の開催に関しては、消費生活センターな
どの行政部門が主導して教育委員会や学校現場に働き掛けることにより実現は可能ですし、教
職員と消費生活センター職員等との共同での調査・研究、情報交換に関しては、複数教科の横
断的な連携や学校間(小・中・高)の連携なども重要となってくることから、教育委員会等が
主導してその実施を目指すことが効果的です。
(2) 教育教材・教具の研究開発
教科書以外の教育教材や教具を用いた学習は消費者教育において非常に有効なものであり、
これまでも行政や消費者団体、NPO、事業者・事業者団体などによって作成されたものが教
育現場で活用されてきました。
学校教育で活用する教材・教具のさらなる充実を図っていくためには、教科担当の教職員で
組織される「教科別研究会」やモデル校の教職員と市が協力して学習指導要領等の趣旨を反映
し、その時に学校現場で使用されている教科書や教職員の授業の進め方、子ども達の興味関心
などを考慮して新たなものを研究開発する必要があります。これらは、学校における消費者教
育の定着と児童・生徒の理解を深める上で大きな効果が期待されます。
また、児童・生徒の興味関心を引き付けるためには、テキストや書籍等の紙媒体だけでなく、
ゲームをしながらの授業であったり、パソコン等の電子媒体を効果的に活用するなどした自由
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な発想の授業展開が必要であり、受動的な授業ではなく参加型の授業スタイルが消費者教育に
おいてはとても重要になってきます。
(3)「批判的思考」と「分析力」の消費者教育への導入
「批判的思考」とは、多くの情報を探求することで論理的にその情報が信頼できるものであ
るかを考え、一切の偏見や先入観にとらわれず、客観的に判断し意思決定するというものです。
その思考プロセスは、常に多くの情報を探究し、論理的にものごとを見て、証拠に基づき偏
見や先入観にとらわれない客観的思考能力を身につけるという点で、消費者教育に求められて
いる「自ら考え自ら行動する自立した消費者」の姿と重なるところも多いと言えます。この意
味で学校における消費者教育、特に中学校から高等学校にかけては、従来からの知識重視の学
習ではなく、主体的に学び、自ら考え判断し、行動できる人材を育成するためにも「批判的思
考」や「分析力」が必要となります。
(4) 法教育の充実
消費生活の前提となる身近な法律知識として、「私法」の基本的な考え方を理解させること
は非常に重要です。これを学校教育の早い段階で取り入れて児童・生徒に理解させることは自
立した消費者の育成には必要です。
この点に関しては、市には、現在、高等学校で学ぶ消費者の権利と責任、中学校では契約に
関する基礎的な知識を独自に社会科(公民分野)などに取り入れ、「私法」を中心とした法教
育の充実・強化を図ることが求められています。
(5) 大学における消費者教育の必須化
大学生等は、その多くが消費者として保護される未成年年齢から自立した成人年齢へと変わ
る過渡期の世代であり、こうした若者がトラブルに巻き込まれるケースは少なくありません。
しかし、大学等では、学生の生活支援の一環として消費生活に関する情報提供や消費者被害に
遭ったときの対処などは行っているものの、消費者教育をすべての学生に対して行っているわ
けではありません。
こうしたことから、生涯を通じて学ぶはずの消費者教育は高等学校卒業後に中断することに
なり、いわゆる「20歳問題」と言われる大学生等の消費者被害の増加がみられます。成人年
齢引き下げ問題もあり、若者をターゲットとした消費者被害の対策を早急に講じる必要があり
ます。
また、こうした消費者教育を受けることで若者が、将来、自立した消費者として行動するこ
とが期待されるのです。それは、わが国の経済社会の担い手の育成に直結することを考えても、
その優先順位は高いものとなります。
したがって、市には、大学等が一般教養として必須科目に消費者教育を早期に取り入れるよ
う、文部科学省や学校側に強く働き掛ける取り組みを行うことが求められています。
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事業者との連携・協力による消費者教育の推進
滋賀県には近江商人の「三方よし」というすばらしい思想が残っています。この「売り手よし、
買い手よし、世間よし」は、売り手と買い手の公正な取引関係に加えて、それに伴う社会的影響に
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も配慮をすることを伝える、まさに今言われている「消費者市民社会」の実現や消費者教育推進の
考え方につながるものです。
事業者は、自らが作り出した商品やサービスを販売することで利益を上げることを目的としてま
すから消費者の志向や動向には大きな影響を受けます。買い手のない商品やサービスでは事業者は
その目的が達成できないわけですから、常に消費者の動向は気になるもので、消費者からの苦情や
要望は商品やサービスの改良・改善の大きなヒントとなり、その結果、消費者と事業者の良好な関
係が維持されれば消費者にとっても事業者にとっても有益なマーケットがそこに形成されます。こ
うした安定した市場経済が定着していけば、その下では持続可能な資本主義社会が形成されること
になります。
こうした考え方から、事業者にとっても、「消費者志向経営」の推進やそのための消費者教育の
推進は重要な取り組みであり、市に対しては、以下のような事業者向け施策を早期に実践すること
が求められています。
(1) 市内事業所における従業員向け消費者教育の推進
現在、市内事業所において従業員向けの消費者教育が行われていることはほとんどありません
が、事業所における消費者教育の推進が進めば、従業員もまた消費者教育を生涯を通じて受ける
ための新たな機会が確保されることになり、その効果には大いに期待ができます。
特に、採用直後から30歳前後の若い従業員に対する消費者教育は極めて重要と考えられ、
「20歳問題」といわれる成人直後の社会経験の少ない若者が詐欺や悪質商法の恰好のターゲッ
トとなっている現状や投機性の高い不動産や金融商品にまつわる消費者被害が青年層や壮年層に
多いといった現状からは、消費者の自主性に頼った学習や情報収集だけでなく、雇用主がその責
任において消費者市民社会を目指すための消費者法教育を含む従業員教育を含む従業員教育に取
り組むことは企業の社会的責任とも考えられます。
したがって、市は、事業所において積極的にこうした消費者教育が推進されるよう、事業所内
に消費者教育推進担当を選任させるなどして、事業所ごとに消費者教育推進の目標設定や年間研
修計画の策定などを促し、それに従って従業員向けの研修が実際に実施されるようその制度設計
を進めるべきです。
その場合、市は、協力事業所に対して社内体制の整備のための支援や年間研修計画作成の指導
・助言を行うなどの必要があり、さらに、市には、研修用資料の提供や教材・教具の貸し出し、
講師派遣などの支援をすることが求められています。
また、大津市の産業構造を考えたとき、地域経済を支える中小零細企業や個人商店においては、
こうした従業員教育を単独で実施することは難しく、その実現性が薄いことから、こうした小規
模事業所や個人商店に対しては、市主催で事業所従業員向けの合同消費生活講座を開催したり、
市がこれまで定期的に開催してきた消費生活講座への事業所従業員の積極的な参加を呼び掛ける
ことなどでその対応を図ることが適切です。
こうした制度を義務化するか任意協力に留めるかはまだまだ一考を要しますが、多くの事業所
で実施されるためには、協力事業所に対して市が「消費者支援宣言事業所」などといった認証を
与えることや市のホームページなどにおいて事業所名を公表する、その活動実績を公の場で顕彰
するなどの試作も検討に値します。
また、従業員も一人の消費者であり、社内での消費者教育の成果は、自社製品や提供するサー
ビスを消費者目線で見る能力や態度の開発にもつながるものであり、「消費者志向経営」を進めて
いく上では効果的な従業員教育、社内の人材育成としての効果が期待できることを事業主に理解
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してもらうことが必要となっているのです。
(2) 業種や事業活動の特性を活かした消費者支援・消費者啓発への参加
事業者の中には、常に多くの消費者と直接接点を持つ業種や事業内容の者もあり、そうした
事業者の協力が得られれば、効果的に消費者の年齢層や生活様式、嗜好などの情報を把握する
ことができ、これらの事業特性を活かして消費者支援や消費者啓発を効率的に行うことが可能
となります。
例えば、振込め詐欺や電子マネー、プリペイド式カードによる詐欺事件に利用される銀行や
コンビニエンス・ストア、大手スーパーなどとの連携では、利用者に対する注意喚起や声掛け
が直接可能となりますし、高齢者の利用が増えている弁当や給食の宅配サービス事業者との連
携では、配達時の「見守り」や相談の取次ぎなどができます。また、郵便や宅配荷物を取扱う
運送業者との連携では、配達物と一緒に啓発チラシを配布したり「見守り」や情報提供などが
行えます。さらに、近年増加傾向にある携帯電話やスマートフォンを介した消費者トラブルに
対しては、携帯端末等を販売する事業者との連携で、フィルタリング機能の積極的な活用の推
奨や携帯端末購入時に正しい情報モラルの啓発、使い方の説明に加えてそこに潜む危険やリス
クについての注意喚起を行うことも可能です。
これまで市は、基本的には広報紙やリーフレットなどの紙媒体、あるいは電子メールやSN
Sなどの電子媒体を使った情報発信を行ってきました。しかし、これらはすべて受け手を絞り
込まない不特定多数の対象に対する伝達型情報提供という性格をもつものであったため、情報
の伝達状況や効果の把握は容易ではありませんでした。これが事業者との連携によってピンポ
イントに対象を絞り込んだ啓発や消費者教育が可能となるのです。
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消費者団体の育成・支援
消費者団体の性格は多様です。日々の消費行動を通して環境や資源問題を考えようとする団体も
あれば、家庭生活や家計管理を通して豊かな生活や人生を考える団体もあり、食品の生産から流通、
販売などを調査・研究することで食の安全や安心、食育や健康増進を考える団体もあります。これ
らは、消費者の行動が現在及び未来の社会や経済、環境等に大きな影響を及ぼすということを考え
て活動しているという点での共通性はあるものの、当然、その目標や手段、行動は千差万別ですが、
こうした団体は、消費者個人としてはなかなか解決できない問題や放置すれば深刻な問題に発展す
る可能性を含んだ事案を取り上げ、その解決に向けて主体的に行動することで、消費者間での問題
の共有が進み、そうした問題の解決を導くという役割を担っています。市には、こうした様々な消
費者団体との連携を大切にし、その活動の趣旨や内容を十分に把握した上で、協調できる団体とは
積極的に協力関係を構築することが求められています。
また、消費者団体の中には、その財政基盤が脆弱で活動範囲の拡大や取り組む活動の周知・広報
等が思うようにできない団体もあります。そうした消費者団体に対しては、事業共催や事業後援な
ど様々な形での活動支援が必要となります。
なお、平成18年の「消費者契約法」の改正で、消費者全体を代表してその利益擁護のために差
し止め請求権を行使することもできる団体として「適格消費者団体」が規定され、その後、全国に
14団体(平成28年2月末現在)が内閣総理大臣の認定を受けて法的活動を行うようになりまし
た。県内にはこの「適格消費者団体」はまだ存在しませんが、市内には平成22年に県内の消費者
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と消費者組織を結ぶ団体として結成された「消費者ネット・しが」という団体があり、平成23年
にはNPO法人となって消費者向けの啓発活動や政策提言、自治体の消費者行政の現状調査などを
積極的に行っています。
市は、こうした消費者団体がさらに活動を活発化できるように、また、将来的には「適格消費者
団体」となることができるように支援しながら、まずは、これらの消費者団体との連携をより一層
深めることで、消費者の権利擁護に向けてより積極的に取り組むことができるような環境を整備す
る必要があります。市には、そのための具体的な施策を実施することが求められているのです。
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