職務発明制度の概要(テキスト)

平成28年度知的財産権制度説明会(実務者向け)テキスト
職務発明制度の概要
平成28年度
職務発明制度の概要
特許庁 総務部 企画調査課
1.
平成27年改正特許法第35条の概要
2.
特許法第35条第6項に基づく指針(ガイドライン)
1
―1―
1.1
職務発明制度とは
• 「職務発明」とは、従業者等がした発明であって、その性質上使⽤者等の業務範囲に属し、
かつ、その発明をするに⾄った⾏為がその使⽤者等における従業者等の現在⼜は過去の職
務に属する発明。 【特許法第35条第1項】
• 「職務発明制度」とは、職務発明についての権利や報酬の取扱い等を定める制度。
利益調整
発明についての権利
使⽤者等
従業者等
発明についての報酬
安定した環境を提供することで、
使⽤者等による研究開発投資を促進
従業者等が使⽤者等により適切に
評価され報いられることを保障すること
で、発明のインセンティブを喚起
発明を奨励
産業の発達に寄与
1.2
2
平成27年改正前の職務発明制度
平成27年改正前の我が国の「職務発明制度」の柱は次のとおり。
① 特許を受ける権利は発明者に帰属し、使⽤者等が特許出願をするには、その権利を
譲り受ける形となる(いわゆる「発明者帰属」)。
② 発明者は、特許を受ける権利等を使⽤者等に承継等させた場合、相当の対価の⽀
払を受ける権利を有する(いわゆる「相当対価請求権」)。
使
⽤
者
等
職務発明
職務発明について
特許を受ける権利
当該特許を受ける権利等
契約、勤務規則等に基づき、使⽤者等に承継等
相当の対価
契約、勤務規則等に基づき、従業者等に⽀払
従
業
者
等
3
―2―
1.3
職務発明制度の⾒直し(平成27年改正)
【条⽂要綱】
① 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあら
かじめ使⽤者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を
受ける権利は、その発⽣した時から使⽤者等に帰属するものとすること。 【第35
条第3項】
② 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使⽤者等に
特許を受ける権利を取得させた場合には、相当の⾦銭その他の経済上の利益を
受ける権利を有するものとすること。 【第35条第4項】
③ 経済産業⼤⾂は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意⾒を聴いて、相当
の⾦銭その他の経済上の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使
⽤者等と従業者等との間で⾏われる協議の状況等について指針を定めるものと
すること。 【第35条第6項】
4
1.4
原始使⽤者等帰属(平成27年改正後の新制度)
契約、勤務規則等においてあらかじめ使⽤者等に特許を受ける権利を取得させることを定めた
場合には、
① 特許を受ける権利は、発⽣した時(発明が⽣まれた時)から使⽤者等に帰属する
(いわゆる「原始使⽤者等帰属」)。
② 従業者等は、特許を受ける権利を使⽤者等に取得させた場合、相当の⾦銭その他
の経済上の利益を受ける権利を有する(いわゆる「相当利益請求権」) 。
使
⽤
者
等
職務発明について
特許を受ける権利
職務発明
契約、勤務規則等に基づき、
発⽣した時から使⽤者等に帰属
相当の利益
ガイドラインに従って策定した契約、勤務規則等に基づき、従業者等に付与
従
業
者
等
5
―3―
1.5
原始従業者等帰属(平成27年改正後)
契約、勤務規則等においてあらかじめ使⽤者等に特許を受ける権利を取得させることを定め
ていなかった場合には、
① 特許を受ける権利は従業者等に帰属し、使⽤者等が特許出願をするには、その権
利を譲り受ける形となる(いわゆる「原始従業者等帰属」) 。
② 従業者等は、特許を受ける権利等を使⽤者等に承継等させた場合、相当の⾦銭そ
の他の経済上の利益を受ける権利を有する(いわゆる「相当利益請求権」) 。
使
⽤
者
等
職務発明について
特許を受ける権利
職務発明
当該特許を受ける権利等
契約、勤務規則等に基づき、使⽤者等に承継等
相当の利益
ガイドラインに従って策定した契約、勤務規則等に基づき、従業者等に付与
従
業
者
等
6
1.6
平成27年改正により期待される効果(共同研究における課題)
•
平成27年改正前の制度下では、企
業が、⾃社の従業者から特許を受け
る権利を承継する場合、他社の従業
者の同意も得る必要があるため、権
利の承継に係る⼿続負担が課題。※
•
共同研究の途中で、従業者(共同
発明者)の⼈事異動が発⽣した場
合は、再度、同意を取り直す等、権
利の承継に係る⼿続がより複雑化。
•
共同研究の必要性が⾼まる中、企業
のスピーディーな知財戦略実施の阻
害要因の1つとなっていた。
① 共同研究契約
③
予
約
承
継
③
予
約
承
継
→ 特許を受ける権利を初めから使⽤者
等に帰属させることにより、この問題を
解決。
② 共同発明
※特許法第33条第3項
7
―4―
1.7
平成27年改正により期待される効果(⼆重譲渡問題)
第三者
使⽤者
②ʼ 譲渡
② 予約承継
① 権利は従業者に帰属
平成27年改正前の制度下では、発明者たる従業者が、⾃分の職務発明を⾃社に報告せずに、第
三者にその特許を受ける権利を譲渡した場合において、当該第三者が使⽤者より先に特許出願をし
たときは、第三者が権利者となる問題があった。※
•
→ 特許を受ける権利を初めから使⽤者等に帰属させることにより、この問題を解決。
※特許法第34条第1項
8
1.8
平成27年改正特許法第35条第3項の適⽤基準
平成28年4⽉1⽇以降に発⽣した職務発明
→ 平成27年法適⽤
平成28年4⽉1⽇前に発⽣した職務発明
→ 旧法適⽤
平成28年4⽉1⽇
あらかじめ使⽤者等に
取得させることを
契約等に規定
旧法適⽤
職務発明完成
あらかじめ使⽤者等に
取得させることを
契約等に規定
平成27年法適⽤
職務発明完成
あらかじめ使⽤者等に
取得させることを
契約等に規定
(権利帰属に関する定めなし)職務発明完成
―5―
平成27年法適⽤
職務発明完成
平成27年法適⽤
使⽤者等に
取得させることを
契約等に規定
(ただし、当該職務発明
に同法第35条第3項は
適⽤されない)
9
1.9
平成27年改正特許法第35条第4項、5項、7項の適⽤基準
平成17年4⽉1⽇前に権利承継
→ 昭和34年法適⽤
平成17年4⽉1⽇以降から
平成28年4⽉1⽇前に権利承継
→ 平成16年法適⽤※
平成17年4⽉1⽇
職務発明完成
平成28年4⽉1⽇以降に権利承継
⼜は平成27年法第35条第3項適⽤
→ 平成27年法適⽤
平成28年4⽉1⽇
昭和34年法適⽤
権利承継
職務発明完成
平成16年法適⽤※
権利承継
職務発明完成
※(参考) 平成20年改正による仮専⽤実施権制度の創設に伴い、第2項及び第3項
(現第2項及び第4項)に技術的な修正が加えられた。権利承継に関する同
項の規定に変更はない。平成21年4⽉1⽇施⾏。
権利承継
職務発明完成・
原始使⽤者等帰属
(第35条第3項適⽤)
平成27年法適⽤
平成27年法適⽤
10
参考① 権利の取得等に係る規程の例
① 平成27年改正特許法第35条第3項が適⽤される規程例
職務発明については、その発明が完成した時に、会社が発明者から
特許を受ける権利を取得する。
② 平成27年改正特許法第35条第3項が適⽤されない規程例
1. 発明者は、職務発明を⾏ったときは、会社に速やかに届け出る
ものとする。
2. 会社が前項の職務発明に係る権利を取得する旨を発明者に通
知した時に、会社は当該職務発明に係る権利を取得する。
11
―6―
参考② 主要国における職務発明の取扱い
国
ドイツ
職務発明における特許を受ける権利の帰属・承継
•
•
対価・補償等に関する
法律上の規定の有無
従業者に帰属。
使⽤者の請求により使⽤者に移転。
(※従業者から使⽤者への職務発明に係る通知到達後、4か⽉が経過するまでに
請求権を放棄しなければ、使⽤者が請求したものとみなし、使⽤者に移転。)
有
⽶国
•
•
従業者に帰属。
契約により使⽤者に承継。
無
イギリス
•
使⽤者に帰属。
有
フランス
•
使⽤者に帰属。
有
スイス
•
使⽤者に帰属。
無
韓国
•
•
従業者に帰属。
契約、勤務規則等により使⽤者に承継。
有
中国
•
使⽤者に帰属。
有
⼀般財団法⼈知的財産研究所による職務発明制度に関する調査研究報告書(平成26年2⽉)に基づき作成
1.
平成27年改正特許法第35条の概要
2.
特許法第35条第6項に基づく指針(ガイドライン)
12
13
―7―
2.1
指針の⽬的・概要
指針の⽬的
本指針は、使⽤者等及び従業者等が⾏うべき⼿続の種類と程度を明確にし、特許法第35条
第5項の規定により不合理であると認められるか否かの判断に係る法的予⾒可能性を⾼めるこ
とにより、発明を奨励することを⽬的とする。
指針の概要
• 特許法第35条第5項の「その定めたところにより相当の利益を与えること」とは、契約、勤務
規則その他の定めにより、職務発明に係る⾦銭その他の経済上の利益として与えられる相
当の利益の内容が、決定されて与えられるまでの全過程を意味する。
• その中でも特に同項に例⽰される⼿続(下記①〜③)の状況が適正か否かがまず検討
され、それらの⼿続が適正であると認められる限りは、使⽤者等と従業者等があらかじめ
定めた契約、勤務規則その他の定めが尊重されることが原則。
①
②
③
相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使⽤者等と従業者等との間で
⾏われる協議の状況
策定された当該基準の開⽰の状況
相当の利益の内容の決定について⾏われる従業者等からの意⾒の聴取の状況
14
2.2
協議、開⽰及び意⾒の聴取
基準案の
策定
相当の利益
の決定
基準案の
協議
基準の
確定
「協議」とは(指針第⼆ ⼀ 1(三))
基準を策定する場合において、その策定に関して、
基準の適⽤対象となる職務発明をする従業者等
⼜はその代表者と使⽤者等との間で⾏われる話合
い(書⾯や電⼦メール等によるものを含む)全般
を意味。
基準の
開⽰
「開⽰」とは(指針第⼆ ⼀ 1(四))
策定された基準を当該基準が適⽤される従業者
等に対して提⽰すること、すなわち、基準の適⽤対
象となる職務発明をする従業者等がその基準を⾒
ようと思えば⾒られる状態にすることを意味。
意⾒の聴取
「意⾒の聴取」とは(指針第⼆ ⼀ 1(五))
職務発明に係る相当の利益について定めた契約、
勤務規則その他の定めに基づいて、具体的に特
定の職務発明に係る相当の利益の内容を決定す
る場合に、その決定に関して、当該職務発明をし
た従業者等から、意⾒(質問や不服等を含む。
)を聴くことを意味。
15
(含異議申⽴⼿続)
相当の利益
の確定
―8―
2.3
基準案の協議(指針第⼆ ⼆)
協議の対象
 基準が適⽤される従業者等
協議の⽅法
 特定の⽅法をとらなければならないという制約はない。
 従業者等が代表者を通じて話合いを⾏うことも協議と評価される。
 代表者がある従業者等を正当に代表しているとは、従業者等が代表者に対して使
⽤者等との協議について委任していることをいう。
協議の程度
 話合いの結果、合意をすることまで求められてはいない。
 協議の状況としては、実質的に協議を尽くすことが望ましい。
16
2.4
基準の開⽰(指針第⼆ 三)
開⽰の対象
 基準が適⽤される従業者等
開⽰の⽅法
 特定の⽅法をとらなければならないという制約はない。
 適正な開⽰としては、例えば、次に掲げる⽅法が考えられる。
1.
2.
3.
4.
5.
従業者等の⾒やすい場所に掲⽰する⽅法
基準を記載した書⾯を従業者等に交付する⽅法(電⼦メールや社内報等による配信を含む。)
従業者等が常時閲覧可能なイントラネットにおいて公開する⽅法
インターネット上のウェブサイトにおいて公開する⽅法
基準を記載した書⾯を、社内の特定部署に保管し、従業者等の求めに応じて開⽰する⽅法
開⽰の程度
 相当の利益の内容、付与条件その他相当の利益の内容を決定するための事項が
具体的に開⽰されている必要がある。
17
―9―
2.5
意⾒の聴取(指針第⼆ 四)
意⾒聴取の対象
 基準が適⽤される従業者等(特定の職務発明をした従業者等)
意⾒聴取の⽅法
 特定の⽅法をとらなければならないという制約はない。
 意⾒の聴取の時機は、以下のいずれであってもよい。
①
②
あらかじめ従業者等から意⾒を聴取した上で相当の利益の内容を決定する場合、
⼀旦基準に基づき決定した相当の利益を従業者等に与えた後に、当該従業者等に対して意⾒を求め、⼜は意⾒表明の⽅法を
伝えて、意⾒が表明されればそれを聴取する場合
 同⼀の使⽤者等に係る複数の従業者等が共同発明をした場合における意⾒の聴取の状
況は、当該共同発明をした従業者等ごとに不合理性の判断がなされる。
意⾒聴取の程度
従業者等からの意⾒に対して使⽤者等は真摯に対応する必要がある。
相当の利益の内容の決定について合意がなされることまで求められてはいない。


18
参考③ 指針で定める「その他」の概要 1/2
⾦銭以外の「相当の利益」(指針第三 ⼀)
 「相当の利益」には、⾦銭以外の経済上の利益も含まれる。
条件
 経済上の利益については、経済的価値を有すると評価できるものである必要があり、経済的価値を有す
ると評価できないもの(例えば、表彰状等のように相⼿⽅の名誉を表するだけのもの)は含まれない。
 相当の利益の付与については、従業者等が職務発明をしたことを理由としていることが必要である。した
がって、従業者等が職務発明をしたことと関係なく従業者等に与えられた⾦銭以外の経済上の利益をも
って、相当の利益の付与とすることはできない。
 使⽤者等は、協議、開⽰、意⾒の聴取といった⼿続を⾏うに当たっては、⾦銭以外の相当の利益として
与えられるものを従業者等に理解される程度に具体的に⽰した上で、当該⼿続を⾏う必要がある。
具体例
1.
2.
3.
4.
5.
使⽤者等負担による留学の機会の付与
ストックオプションの付与
⾦銭的処遇の向上を伴う昇進⼜は昇格
法令及び就業規則所定の⽇数・期間を超える有給休暇の付与
職務発明に係る特許権についての専⽤実施権の設定⼜は通常実施権の許諾
19
― 10 ―
参考③ 指針で定める「その他」の概要 2/2
基準を改定する場合の⼿続(指針第三 ⼆)
 実質的に改定される部分及び改定により影響が⽣ずる部分について、使⽤者等と
従業者等との間で協議を⾏うことが必要である。
新⼊社員等に対する⼿続(指針第三 三)
 新⼊社員に対して、話合いを⾏うことなく策定済みの基準を適⽤する場合には、当
該新⼊社員との関係では協議が⾏われていないと評価される。
退職者に対する⼿続(指針第三 四)
 退職時に相当の利益を⼀括して与える⽅法も可能である。
中⼩企業等における⼿続(指針第三 五)
 企業規模に応じた⽅法で、協議、開⽰、意⾒の聴取といった⼿続をそれぞれ⾏うこ
とが考えられる。
⼤学における⼿続(指針第三 六)
平成二十七年法
(職務発明)
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体
(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人
の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業
者等」という。)がその性質上当該使用者等の業
務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行
為がその使用者等における従業者等の現在又は過
去の職務に属する発明(以下「職務発明」とい
う。)について特許を受けたとき、又は職務発明
について特許を受ける権利を承継した者がその発
明について特許を受けたときは、その特許権につ
いて通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職
務発明である場合を除き、あらかじめ、使用者等
に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許
権を承継させ、又は使用者等のため仮専用実施権
若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、
勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3 従業者等がした職務発明については、契約、勤
務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等
に特許を受ける権利を取得させることを定めたと
きは、その特許を受ける権利は、その発生した時
から当該使用者等に帰属する。
4 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めによ
り職務発明について使用者等に特許を受ける権利
を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若し
くは使用者等のため専用実施権を設定したとき、
又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明
について使用者等のため仮専用実施権を設定した
場合において、第三十四条の二第二項の規定によ
り専用実施権が設定されたものとみなされたとき
は、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び
第七項において「相当の利益」という。)を受け
る権利を有する。
5 契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利
益について定める場合には、相当の利益の内容を
決定するための基準の策定に際して使用者等と従
業者等との間で行われる協議の状況、策定された
当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定
について行われる従業者等からの意見の聴取の状
況等を考慮して、その定めたところにより相当の
利益を与えることが不合理であると認められるも
のであつてはならない。
6 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構
造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮
すべき状況等に関する事項について指針を定め、
これを公表するものとする。
7 相当の利益についての定めがない場合又はその
定めたところにより相当の利益を与えることが第
五項の規定により不合理であると認められる場合
には、第四項の規定により受けるべき相当の利益
の内容は、その発明により使用者等が受けるべき
利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負
担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮
して定めなければならない。
平成二〇年法
(職務発明)
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体
(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人
の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業
者等」という。)がその性質上当該使用者等の業
務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行
為がその使用者等における従業者等の現在又は過
去の職務に属する発明(以下「職務発明」とい
う。)について特許を受けたとき、又は職務発明
について特許を受ける権利を承継した者がその発
明について特許を受けたときは、その特許権につ
いて通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職
務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に
特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は
使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権
を設定することを定めた契約、勤務規則その他の
定めの条項は、無効とする。
(新設)
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めによ
り職務発明について使用者等に特許を受ける権利
若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等の
ため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務
規則その他の定めにより職務発明について使用者
等のため仮専用実施権を設定した場合において、
第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が
設定されたものとみなされたときは、相当の対価
の支払を受ける権利を有する。
4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対
価について定める場合には、対価を決定するため
の基準の策定に際して使用者等と従業者等との間
で行われる協議の状況、策定された当該基準の開
示の状況、対価の額の算定について行われる従業
者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その
定めたところにより対価を支払うことが不合理と
認められるものであつてはならない。
(新設)
5 前項の対価についての定めがない場合又はその
定めたところにより対価を支払うことが同項の規
定により不合理と認められる場合には、第三項の
対価の額は、その発明により使用者等が受けるべ
き利益の額、その発明に関連して使用者等が行う
負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考
慮して定めなければならない。
― 11 ―
20
 ⼤学とその従業者等である教職員との関係においても、教職員のした発明が職務
発明であれば法第35条の規定は当然適⽤される。
(職務発明)
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体
(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人
の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業
者等」という。)がその性質上当該使用者等の業
務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行
為がその使用者等における従業者等の現在又は過
去の職務に属する発明(以下「職務発明」とい
う。)について特許を受けたとき、又は職務発明
について特許を受ける権利を承継した者がその発
明について特許を受けたときは、その特許権につ
いて通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職
務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に
特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は
使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権
を設定することを定めた契約、勤務規則その他の
定めの条項は、無効とする。
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めによ
り職務発明について使用者等に特許を受ける権利
若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等の
ため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務
規則その他の定めにより職務発明について使用者
等のため仮専用実施権を設定した場合において、
第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が
設定されたものとみなされたときは、相当の対価
の支払を受ける権利を有する。
4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対
価について定める場合には、対価を決定するため
の基準の策定に際して使用者等と従業者等との間
で行われる協議の状況、策定された当該基準の開
示の状況、対価の額の算定について行われる従業
者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その
定めたところにより対価を支払うことが不合理と
認められるものであつてはならない。
5 前項の対価についての定めがない場合又はその
定めたところにより対価を支払うことが同項の規
定により不合理と認められる場合には、第三項の
対価の額は、その発明により使用者等が受けるべ
き利益の額、その発明に関連して使用者等が行う
負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考
慮して定めなければならない。
平成二〇年法
(職務発明)
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体
(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人
の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業
者等」という。)がその性質上当該使用者等の業
務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行
為がその使用者等における従業者等の現在又は過
去の職務に属する発明(以下「職務発明」とい
う。)について特許を受けたとき、又は職務発明
について特許を受ける権利を承継した者がその発
明について特許を受けたときは、その特許権につ
いて通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職
務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に
特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は
使用者等のため専用実施権を設定することを定め
た契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効と
する。
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めによ
り、職務発明について使用者等に特許を受ける権
利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のた
め専用実施権を設定したときは、相当の対価の支
払を受ける権利を有する。
平成十六年法
(職務発明)
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体
(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人
の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業
者等」という。)がその性質上当該使用者等の業
務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行
為がその使用者等における従業者等の現在又は過
去の職務に属する発明(以下「職務発明」とい
う。)について特許を受けたとき、又は職務発明
について特許を受ける権利を承継した者がその発
明について特許を受けたときは、その特許権につ
いて通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職
務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に
特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は
使用者等のため専用実施権を設定することを定め
た契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効と
する。
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めによ
り、職務発明について使用者等に特許を受ける権
利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のた
め専用実施権を設定したときは、相当の対価の支
払を受ける権利を有する。
4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対
価について定める場合には、対価を決定するため
の基準の策定に際して使用者等と従業者等との間
で行われる協議の状況、策定された当該基準の開
示の状況、対価の額の算定について行われる従業
者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その
定めたところにより対価を支払うことが不合理と
認められるものであつてはならない。
5 前項の対価についての定めがない場合又はその
定めたところにより対価を支払うことが同項の規
定により不合理と認められる場合には、第三項の
対価の額は、その発明により使用者等が受けるべ
き利益の額、その発明に関連して使用者等が行う
負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考
慮して定めなければならない。
平成十六年法
(職務発明)
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体
(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人
の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業
者等」という。)がその性質上当該使用者等の業
務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行
為がその使用者等における従業者等の現在又は過
去の職務に属する発明(以下「職務発明」とい
う。)について特許を受けたとき、又は職務発明
について特許を受ける権利を承継した者がその発
明について特許を受けたときは、その特許権につ
いて通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職
務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に
特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は
使用者等のため専用実施権を設定することを定め
た契約、勤務規則その他の定の条項は、無効とす
る。
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、
職務発明について使用者等に特許を受ける権利若
しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専
用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を
受ける権利を有する。
4 前項の対価の額は、その発明により使用者等が
受けるべき利益の額及びその発明がされるについ
て使用者等が貢献した程度を考慮して定めなけれ
ばならない。
昭和三十四年法
4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対
価について定める場合には、対価を決定するため
の基準の策定に際して使用者等と従業者等との間
で行われる協議の状況、策定された当該基準の開
示の状況、対価の額の算定について行われる従業
者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その
定めたところにより対価を支払うことが不合理と
認められるものであつてはならない。
5 前項の対価についての定めがない場合又はその
定めたところにより対価を支払うことが同項の規
定により不合理と認められる場合には、第三項の
対価の額は、その発明により使用者等が受けるべ
き利益の額、その発明に関連して使用者等が行う
負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考
慮して定めなければならない。
― 12 ―
○経済産業省 告示第百三十一号
特 許法 (昭 和 三 十四年 法 律第 百 二 十 一号 )第 三 十五 条第 六項 の 規定 に基 づき 、 発明を 奨 励す るための相 当
の金 銭そ の他の 経済 上の 利益 につ いて定 め る場合に考 慮すべき使用者 等と 従業者 等との間で 行わ れ る協議の
状 況 等 に関 す る 指 針 を 次 の よ う に定 め た ので 、 同 項 の 規 定 に基 づ き 、 公 表 す る 。
平成二十八年四月二十二日
経済産業大臣
林
幹雄
める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われ る協 議の状況等に関する指針
第一
本指針策定の目的
一
-1-
特許法 第 三 十五 条第 六項 に基 づ く発明を 奨励す るための 相当の金銭その 他の経済上の利 益 について 定
本 指 針 は 、 特 許 法 ( 以 下 「 法 」と いう 。) 第 三 十五 条第 五 項 の 規定 によ り 不 合 理で あ る と 認 め られ る
か否か の 判断( 以下 「不合 理性の 判 断」と いう 。) において は、同項 に例 示す る手続 の状況が 適正か 否
かが まず 検 討 され 、そ れ ら の手続 が 適 正で あ ると 認め られ る限り は、使用者 等( 同 条第一項 に規定す る
使用者 等を いう 。以下同 じ。)と従業者 等(同項に規定す る従業者等をいう。以下同 じ。)があらか じ
め定 めた 契約 、勤 務規則そ の他の定め が 尊 重 され ると いう原則 に鑑 み、適正 な手続の具体的 内容を明ら
か に す るこ と に よ り 、 使 用 者 等及び 従 業者 等 が 行う べ き手続の種 類と 程 度を明 確 にし、不 合 理性 の 判断
に 係 る法的 予 見 可 能 性を 高め 、 も って 発明 を 奨 励す るこ と を 目 的 と す る。
二
本 指 針 は 、 幅 広 く 有 識 者 の 意 見 を 聴 い て 専 門 的 な 知 見を 踏 まえ た 内 容 と す るこ と で 、 不 合 理 性 の 判 断
に 係 る 法 的 予 見 可 能 性 を 高 め る と と も に、 研 究 活動 に 対す るイ ン セ ン ティ ブにつ いて 創意 工 夫が 発揮 さ
れ るよう 当事 者の 自 主 性を尊 重す る観 点か ら、 産業構造審議会の 意 見を聴いて 定 められたもので あ る。
るとと も に、こ れ によ り 発明が 奨 励 さ れ 、 我が 国 のイノ ベー シ ョ ンが 促進 され るこ と が 期待 され る。
第二
適正な手続
総論
1
法第 三十五 条第五項から第 七項 まで の 具体的な意味
(一)
一
法第三 十五条第 五項は、同 条第 四項 に規定する相当の金銭その他の経 済上の利益(以下「相当の
利 益 」 と い う 。 ) を 契 約 、 勤 務 規 則 そ の 他 の 定 め にお いて 定 め るこ と が で き るこ と 及 び そ の 要 件 に
つ い て 明 ら か にし た も ので あ って 、 そ の 定 め たと こ ろ によ り 相 当 の 利 益 を 与 え るこ と が 不 合 理で あ
― 13 ―
-2-
本 指 針 の内 容が 使 用 者 等及 び 従 業者 等を はじめ と す る関 係 者間 にお いて 最 大 限尊重 され るこ と が 望 ま れ
ると 認め られ る も ので あ って はな らな いと し て いる。 一方、同 条第 七 項 は、契約 、 勤務規則その 他
の 定 め にお いて 職 務発 明 ( 同 条 第 一 項 に規 定 す る職 務発明を いう 。 以下 同じ 。) に係 る 相 当の 利益
につ いて 定めて い な い 場合、 又 は 定 め て い るがその定 めたとこ ろ によ り相当の 利 益を 与え るこ と が
同 条 第 五 項 の 規定 によ り不 合 理で あ ると 認め られ る場合 に 適 用 され る。
し たが って 、 同 条第五 項 に規 定 す る要 件を 満たす場 合 には、同 条第 七項は適用 されない。また 、
同 条第 五 項 に 基づ き、 契約、 勤務 規則 そ の 他の定め に お いて 定め たとこ ろ によ り 相当の 利益を 与え
るこ と が 不 合 理で あ ると 認 め ら れ る 場 合 に は 、 同 条第 七項 の 規定 によ り 定 め られ る内 容 が 相 当 の 利
-3-
契約、勤務規則その他の定 めにおいて職務発明に係る相当 の利益について 定めて いない場合、又は
(二)
益とな る。
法 第 三 十 五 条第 五 項 に い う 「 そ の 定 め た とこ ろ によ り相 当 の 利 益を 与え るこ と 」と は、 契 約 、 勤
務規則 そ の 他 の定 め に よ り 与え ら れ る 利益 の内 容 が 、職 務発明 に 係 る経済上 の利 益として 決 定 され
、与え られ るまでの全過程を意 味す る。例え ば、相当の利 益の内容を決定す るための 基準(以下「
基準」という 。) を策定し、それ に基 づいて 決定 された相当の利益を与え る場合には、当該基準の
策定 手続 からそ の 基 準を 適用 して 相 当 の 利益 の内容が 決定 されて 与え られ るまで の全 過程(相当 の
利 益の 付 与 後 に 「相 当 の 利 益 の 内 容 の 決定 に つ いて 行 わ れ る 従 業 者 等 か らの 意見 の 聴 取 」 を 行 う 場
合には、これを 含む。 以下同 じ。)を意味す る。また、個々の職務発明ごと に契 約を締結し、それ
に 基づ いて 相当 の 利益が 与え ら れ る 場合 に は 、そ の契約の締 結手 続から 相当の 利益が 与え られ るま
での全過程を意味する。
わ ち 、 契 約、 勤務 規則 そ の 他 の定 め に 基 づ いて 職 務発 明 に係 る相 当の 利益の内 容 が 決定 されて 与 え
ら れ る まで の 全 過程 が 総 合 的 に 判 断 さ れ るこ と と な る。 全 過 程 に お け る 諸 事 情 や 諸 要 素 は、 全 て 考
慮 の 対象 と な るが 、 そ の 中 で も 特 に同 項 に 例 示 さ れ る手 続 の 状 況 が 適正 か 否 かが まず 検 討 さ れ るこ
と が 原 則で あ る 。な お 、 そ の 定 め た とこ ろ に よ り相 当 の 利 益を 与え るこ と につ いて の 不 合 理 性の 判
(三)
断は、 個々の職務発明 ごと に行わ れ る。
法第 三十五条第五項の「相当の利益の内 容を決定するための基 準の策定 に際して使用者等と従業
者等と の間で 行わ れる協議の状況 」の 「協 議」( 以下「協議」と いう。)と は、基準を策定する場
― 14 ―
-4-
し た が って 、 不 合 理 性の 判断 で は、 「そ の 定 め たとこ ろ によ り相 当 の 利 益を 与え るこ と 」、 す な
合において、その策定 に関して、基準の適用 対象とな る職務発明をす る従業者等又はその代表者と
使 用者 等と の間で行わ れ る 話合 い( 書面や 電 子メール等によ るものを含む。 以下同じ。)全般を意
(四)
味する。
法第 三十五 条第五項の「策定された当該基準の開示の状況」の「開 示」(以下「開示」と いう 。
) と は 、 策 定 さ れ た 基 準 を 当 該基 準が 適 用 され る 従 業 者 等 に 対 し て 提 示す るこ と 、 す な わ ち 、 基 準
(五)
意味す る。
法第 三 十 五 条第 五項 の 「 相当 の 利益 の内 容の 決定 に つ いて 行わ れ る従業者等か らの意 見の 聴 取 の
-5-
の 適 用 対象 と な る職 務 発明 をす る 従 業 者 等が そ の 基 準を 見 よ うと 思え ば 見 られ る状態 に す るこ と を
状況 」の 「意 見の 聴取」( 以下「意見の聴取」と いう。)とは、職務発明に係る相当の利益につい
て 定め た契 約、 勤務 規則そ の 他 の定 め に 基づ いて 、 具体的 に特定の職 務 発明 に係る相 当の 利益の内
容を 決定す る 場合 に、 その 決定 に関して、 当 該職 務発明をした従業者等から、意 見(質問や不服等
(六)
を含む。以下同 じ。) を聴 くことを意味す る。
法第三 十五条第 五項の協議、開 示及 び意 見の聴取の「状況」と は、こ れらの手続の 有無、すなわ
ちこ れ ら の手 続 が な され た か 否 か と い う 二 者 択 一的 な 判断の みで はな く、こ れ ら の手 続が 行わ れ た
場 合 におけ るそ の 手 続 の 状 況 全 般が 考 慮 要 素 と な るこ と を 意 味す る。
(一)
基準の策定並びに形式及び内容
基 準 は必ず 策定 し な け れ ば な ら な い わ け で はな い。 例え ば 、 職 務 発 明が され る 頻 度が少 な い 等 の
理 由 によ り 、 相 当 の 利 益 の 内 容 を 決定 す る た め の 基 準 を あ ら か じ め 定 め るこ と な く 、 個 々 の 職 務 発
(二)
できる。
基 準 は 一 つで あ る必 要 は な く 、 同 一 の 使 用 者 等 が 複 数 の 基 準 を 策 定 す るこ と も で き る。 例 え ば 、
管理職と 非管 理職、研究職と非研究職、研究分野が相違する者、事業所が相違す る者等のように性
質 の 異 な る 従 業 者 等 の 区 分 が 存 在 す る 場 合 、 そ れ ぞ れ の 区 分 に応 じて 、 異 な る 基 準 を 策 定 す るこ と
もで き る。 ま た 、 同 一 の 従 業 者 等 が し た 異 な る職 務発 明 に つ いて 、 発 明 の 内 容等 に応 じて 、 異 な る
基 準を 策 定 して 適 用す るこ と もで き る。
基 準は、それ が ど のよ うな 形式で 策 定 さ れて いるのかについて 特に制 約があ るわけで はな く、ま
― 15 ―
-6-
明 ごと に、 相 当 の 利 益 の 内 容 を 使 用 者 等 と 発 明 者で あ る 従 業 者 等 と の 間 の 契 約 で 取 り 決 め るこ と も
(三)
2
た 、 必 ず し も職 務 発明 に 係 る 権 利 を 使 用者 等 が 取得 す る 旨 につ いて の 定 めと 同 一 の 契 約 、 勤 務 規 則
そ の 他 の 定 め の 中で 定 め な け れ ば な ら な い わ け で は な い 。 例 え ば 、 職 務 発明 に係 る 権 利 を 使 用 者 等
が 取 得す る旨 に つ いて の み勤 務 規 則で 定 め 、基 準 につ いて は 別途契 約 で 定 め るこ と もで き る。 ま た
(四)
、基 準の一部を別の契約、勤務 規則その他の 定めで定め ること もで き る 。
法第三十五条第五 項に規定されて いる契約、勤務規則その 他の定めの 中には、労働協 約や就業規
規則 が 有 効 に 成 立 して いれ ば 、こ れ ら の基 準 に定め ら れ た内容 に つ いて 労 働法上 の 効力が 発生す る
が、そ のこ と を もって不合 理性の判断においても直ちに不 合理性が否定 され るわけで はない。不合
-7-
則 も 含 まれ るた め 、 基 準 を 労 働 協 約 や 就 業 規 則 で 定 め るこ と もで き る 。 こ の 場 合 、 労 働 協 約 や 就 業
理性の 判断は、基準の労働法上の有効 性と は別に、同項に基づいて 判断され る。
例え ば、 労働協 約 において 基 準を定 め、 そ の基 準によ り 決定 された内 容の相当の利 益を与え る場
合 、 不 合 理 性 の 判 断 は 、 協 議 の 状 況、 開 示 の 状 況 、 意 見 の 聴 取の 状況 等 を 考 慮し て 行 わ れ る 。 し た
が って 、基 準を 含む 労 働 協約が 、 労 働組 合法 (昭和二十四 年法律第 百七 十四号)第 十 四条に規定す
る労 働 協 約 の 効 力 発生 要 件 ( 書 面 に作 成 し 、 両 当 事 者が 署 名し 、 又 は記 名押 印す るこ と ) を 満 たし
て い るこ と を も っ て 、 直 ち に 不 合 理 性 が 否 定 され るも ので はな い 。 も っと も、 労 働協 約 は、 労 使 に
よ り 対 等な 立 場 で 締 結 され るこ と を 前提 と し て い るこ と か ら 、 労 働 協 約 の締 結 に 至 る まで の 過程 に
おいて は、使用 者 等と 従業者 等と の立 場の 相違に起因す る格差が相当 程度是正された状況において
、 使 用 者 等 と 労 働組 合 の 代 表者 と の 間で 話 合 いが 行わ れ るこ と が 多 いと 考え られ る。こ の よ う な 場
合には、 労働組合の代 表者に話合 いをすることを委ねて いる従業者等と使用者等との関係において
ま た 、 例 え ば 、 就 業 規 則 にお いて 基 準 を 定 め 、 その 基 準 によ り 決定 され た 内 容 の 相 当 の 利 益を 与
える場合においても、不合 理性の判断は、協 議の状況、開 示の状況、意 見の聴取の状況 等を考慮し
て行われ る。したがって、基準を含む就業規則が 、労働基準法(昭和二十二年法 律第四十九号)第
九 十 条 第 一 項の 規定 (使 用 者 は 、 就 業 規 則 の 作 成 又 は 変 更 に つ いて 、 当 該事 業 場 に、 労 働 者 の 過半
数で 組 織す る 労 働 組 合 が あ る 場 合 にお いて はそ の 労 働 組 合 、 労 働 者 の 過半 数 で 組 織す る労 働 組 合 が
ない場 合において は労働 者の過半 数を代 表す る者の意見を 聴かなければ ならない。) により作成 さ
れ て い るこ と を も って 、 直 ち に 不 合 理 性 が 否 定 さ れ る も の で はな い 。
― 16 ―
-8-
は、 協議の状況として は不合理性を否定する方向に働く。
相当の利益の内容の決定方法
(一)
3
基 準 には、 あ る 特定 の 具 体的内 容が 定め られて いる必 要があ るわけ で はな い。基 準 の内容 は、 使
用者 等の 利益に 対す る 発明の 貢献 度や 発明 によ る利益 に対す る発明者であ る従業 者等の貢献度を 考
慮 して 相当 の 利 益の内 容を 決定 す ると いう も の にも、こ れ ら を 考慮す るこ と な く相当の 利益の内容
を 決 定 す ると いう もの にもで き、 また 、 職 務発明 に 係 る相当 の 対 価 の内容 を め ぐ る訴訟 の 裁 判例 を
相 当の 利 益 の 内 容 が 売 上 高 等 の 実 績 に 応 じ た 方 式で 決定 さ れ な け れ ば 、不 合 理 性の 判 断 にお いて
不 合 理 と 認 め ら れ る と いう わ け で は な い 。 例 え ば 、 特許 出 願 時 や 特許 登 録時 に発明 を 実 施す るこ と
-9-
(二)
参 考 にして 定 め るこ と も、こ れ を 参 考 にす るこ と な く定 め るこ と もで き る。
によ る期 待利 益を 評価 し、 その評 価 に応 じ た相当 の 利益を 与え ると いう方 式で あ って も、直 ち に不
合 理 性を肯 定 す る方 向 に働 くこ と はな い 。
こ の場 合、当 該 期待利 益と 実際 に使 用者等が得 た利益が結果的 に乖離したとして も、そのことの
(三)
みを も って 、不 合 理 性の 判 断 にお いて 、 直 ち に不 合 理 性を 肯 定す る方 向 に働 くこ と は な い。
基 準 に 上 限 額 が 定 め ら れて い るこ と の み を も って 、不 合 理性の 判断 に お いて 、直ち に不 合 理性を
(四)
肯 定 す る方 向 に 働 くこ と は な い 。
使 用 者等と 従業者等との間で 個 別の 合意 をし、かつ、その合意が 民法(明治二十九 年法律第八十
九号)そ の他の 法 令の 規定 により 無効と されない限り、基準と異なる方法で 相当 の利益の内容を 使
用 者 等 と 当 該 従 業 者 等 と の 間 で 個 別 に 決 定 す るこ と もで き る 。こ の 場 合 に お いて も 、 不 合 理 性 の 判
断は、あ く まで 協 議の 状況、開示の状 況、意見の聴取の状況等を 考慮して 行われ る。
協 議 につ いて
協議の対象者
(二)(一)
1
協議の対象と な る従業者等と は、基準が 適用され る従業 者等で あ る。
基 準は、 それ が 適用 され る職 務 発明 の完成 前に策定 され るこ とが 一 般 的で あ り、使 用 者等は、基
準を策 定す る段 階で 、当該基準の適 用を 想定 して いる従業 者等と協議を 行う必要があ る。なお、実
際 の 事 案にお け る 協 議 の 状 況 の 適 正 性 につ いて は 、使用者等と職 務発明をし た従 業者等との 間 の 具
体的な協議の状況に基づいて個別に判断される。
2
協議の方法
― 17 ―
-10-
二
(二)(一)
協 議の方 法 について は、 特定の方法 をと らなければ な らな いと いう 制約 はな い 。
協 議は、必ずし も従業者等一人一人と個別に行う必 要はない。例え ば、使用者等が、一堂に会し
た 従 業 者 等と 話 合 いを 行 っ た り、 社内 イ ン トラ ネ ット の 掲 示板や 電 子 会 議 等を 通 じて 集 団的 に 話 合
い を 行 っ た りす るこ と も 、 協 議 に 該 当 す る 。 た だ し 、 集 団 的 な 話 合 い に 参 加 し た 従 業 者 等 に つ いて
、当 該従 業者 等が 発言しようとして も、実 質的 に発言の機会が全 く与え られて いなかった等の特段
(三)
働くものと 考えられ る 。
協議 は、 研究職 の 従 業者 等と それ 以 外の 従業者等と で 分けて 行 う必要はない。 したが って 、不 合
-11-
の事情があ る場合には、不 合理性の 判断 における協議の状況として は、 不合理性を肯定する方向に
理性の判断において、 研究 職の従 業者 等が それ以 外の従業者等と 一緒に使用者等との協議を 行った
事実を もって 、 直ち に不合 理性を肯 定す る方 向に働くわけで はない。た だし、研究職 の従業者等が
そ れ 以 外 の 従 業 者 等と 一 緒 に使 用 者 等 と 話 合 いを 行 っ たこ と によ り、 結果 と して あ る研 究 職 の 従 業
者等が 発言しようと して も、実質的に発言の 機会が全く与えられなかった等の特段の事情がある場
合には、当該研究 職の 従業者等に係る不合 理性の 判断におけ る協 議の状況と して は、不合理 性を肯
(四)
定す る方向 に働くものと 考え られ る。
従 業 者等が 代 表 者を 通 じて 話合 いを 行うこ と も、使 用者等が 代 理人 を通 じて 話合い を行うこ と も
、協 議と 評価で き る。 例え ば 、基 準の 策定 に関し使 用 者等と 話合 いを 行うこ と に つ いて 、労 働組 合
の代表者が 当該労働組 合に加入 して いる従業者等を正当に代 表して いる場合には、その代表者と使
用者 等と の 話合い は、 当該労 働組 合に 加入 して いる従 業者等と使 用者等との間の 協議と評価 され る
等と の間 の協 議と は評 価 され な い 。こ の場 合、協 議が あ ったもの と 評価 され るた め には、通常は 、
代表者 によ って 代 表 されて いな い当 該従 業者 等の求め に応 じて 個別に話合いが行われ ることが必要
(五)
と 考え られ る。
従業者等が代表者を通じて 話合いを行う 場合に、その代表者がある従業者等を正当に代表して い
ると は 、 当 該 従 業 者 等 が 、 当 該代 表 者 に 対 して 使 用 者 等と の 協 議 に つ いて 委 任し て い るこ と を いう
。こ れ は、 明 示 的 な 委 任 の みな ら ず、黙 示の 委 任で あ って もよ いと 考え られ る。例え ば 、あ る代 表
者が 特定の従 業者 等を 代表して使 用者 等と 協議を 行うこと について、当該従 業者等が事 前に通知を
― 18 ―
-12-
。代表者がある従業者等を正当 に代 表して いない場合には、その話合いは、当該従業者等と使用者
受けていながら異 論を唱えなかった場合には、当該従業者等が協議す る権限を黙 示的に委任して い
(六)
ると 評価で き る場 合もあ るもの と 考え られ る 。
代表者を 選任す ること に反対し た従業 者等 は、当該代表者 に対して 協議を 行うことを 委任して い
な いと 考え られ るので 、原 則と して 、 当 該 従 業者 等と の関 係 にお いて 協 議は行わ れて い な いこ とと
な る 。 た だ し 、 多 数 決 等の 方 法 に よ り 選 任 され た 代 表 者 に協 議 に 係 る 権 限を 委 任 す るこ と を 各 従 業
しな か っ た 従 業者 等と の関 係 にお いて も、 当 該代 表者 は正 当な代 表者で あ ると 評 価で き るため、 当
該代 表 者と 使 用 者 等 と の 話 合 い は、 各 従 業者 等と使 用 者 等 と の間 の 協 議 と 評価 され るも のと 考え ら
-13-
者 等が 了承 し た 上で 、 多数 決等 の方 法 に よ り 代 表者を 選出 し た 場合 には、 当 該代 表者の 選出 に賛成
(七)
れる。
使用者等と従業者等との間の協議は、使用者等又はその代理人と、従業者等又は従業者等から委
任を 受け た代 表者 と の 間で 行われ るこ と が 原 則で あ るが 、 従業者 等か ら委 任 を受け た代 表者 と の 協
議につ いて 、仮 に一 部の 従業者 等 の 個別の委 任が なかった 場合で あ って も、使用者等と当該代 表者
との間で十分 な利益調 整が なされ、当事者間の交渉格差が払拭されたときは、当該一部の従業者等
に係 る不 合理性の 判断におけ る協 議の 状況 に ついて 、 不合理性が肯定 され る方向 に働くものと は必
ず し も 言え な い と 考 え ら れ る 。 例 え ば 、 使 用 者 等 に お い て 多 数 の 従 業 者 等が 加 入 す る労 働 組 合 が 存
在し、当 該労働組合が 従業者等の利益を代 表して誠実かつ公正な交渉を行ったような場合には、非
組 合員 で あ る従 業 者 等 と の 協 議 の 状 況 につ いて 不 合 理 性が 否 定 され る方 向 に働 くこ と が あ り得 る。
協 議 は、使 用者 等と 基準が適 用され る従 業者等又は 従業者等の代表者との間で 行われ る話合いを
意味す るが、その 話合 いの結果、 使用者等と従業者等又は従業者 等の代表者との間で、策定され る
基 準 に つ い て 合 意 を す るこ と まで 含 んで い る もので はな い 。し たが って 、 合意 に 至 らな か っ たと し
て も 、そ のこ とだ け を もって 、直 ち に不合 理性の 判断におけ る協 議の状況 について 不 合 理性を肯定
す る方 向 に働くこと はない 。こ のよ うな 場合で も、使用者 等と当該従業 者等と の間 において 、実質
的に協 議が尽 くされたと評価で き ると き には、そ の協議の状況と して は不合 理性 を否定する方向に
働くものと 考え られ る。
協 議の結果と して、使 用者等と 従業者等又は従業者等の代表者との間で合意に至って いる場合に
― 19 ―
-14-
(一)
協議の程度
(二)
3
は、 その事実自体は、不 合理性の 判断 におけ る協議の 状況としては、不合理性をより強く否定す る
(三)
方向 に働く。
使用 者等が予 め設定し た時間 の 経過により協議を打ち切った場合で あって も、設定された時間内
に、使 用者 等と 従業者 等と の間で 実 質的 に協 議が尽くされたと評価でき る場合には、そ の協議の状
況と して は、 不合 理性を否定 す る方向 に働 くものと 考えられ る。 また、設定され た時間内 に十分 に
べ るこ と がで き 、 使 用 者 等が こ れ に回 答す ると いう 仕 組 みが 設け られて い る場 合 は、協 議が 尽 く さ
(四)
れた と 評価で き る場 合 もあ ると 考え られ る 。
-15-
話 し 合 うこ とが で き な か っ た 場 合で あ って も 、 そ の後に書 面や 電子メー ル等で 従業者等が意見を述
協 議 にお いて 、 使 用者 等が 自ら の 主 張を 繰 り 返す だけで 、 そ の 主張の 根拠(資 料又 は 情報)を 示
さない等、 十分な話合いを 行わ ずに協議を打ち切った場合 には、不合理性の判断における協議の状
況として は、不 合 理性を肯定す る方 向 に働くもの と 考え られ る。
同様 に、協議において、 従業者等から意 見が提出された にもかかわらず、使用者等が回答を全く
行わ ず、真摯 に対応し なか った場 合には、不合理 性の判断におけ る協議の状況として は、不 合理性
(五)
を肯定す る方向に働くものと 考え られ る。
使 用 者等と 従業 者等との 間で 、 実質的な 話合いが 十分に尽 くされた にもかかわらず 、意見の相 違
が 解 消されず、 そ れぞ れ の主張が 対立 した まま協議が 行き詰まって い るような場 合 には、使用者 等
か らそ の時 点で 協 議を 打ち 切っ たと して も 、 不合理性の 判断 におけ る協 議の状況として は、必ずし
使用者等が 従業者等 に話合いを求め意見を述べる機会を与えて いるにもかかわ らず、当該従業者
等が 話合 いに応じなか った場 合には、 不合 理性の判断 におけ る協 議の状況として は、不合理性を 否
(七)
定す る方向に働 くものと評価で き る。
イ
そ の 他、 集 団的 話 合 い によ る 適 正な 協 議と して は、 例 え ば 、 次 に掲 げ る方 法が 考え ら れ る 。
使 用者 等か ら協 議への 参加の 案内が 対象 者全員 にな され、参加した 当 該対象者 に 対して 基 準案
の内容が 説明 され、協 議の 場において 又はその 後に、当該基準 案に対して 当該対象者から意見が
提出 され (協議 の場 にお け る 欠席 者 につ いて は、別途、 当 該基準案に 対して意見を 提出す る機会
を 確保 ) 、こ れ につ い て 使 用 者 等が 当 該 意 見 に 対す る回 答 を 必 要 に応 じて まと めて 当 該 対 象 者 に
― 20 ―
-16-
(六)
も不 合 理 性 を肯定す る 方 向 に働くこ と はな い。
提 示して 説明し 、 必 要 に 応 じて 当 該 対象者 か らの再 意 見 に 対して も 同 様 の 対応 を 行 う 方 法
ロ
使 用者 等が 各発明 部門 にあ る委 員会等 に当該基準案を提 示して 説明 した 後、当該委 員会等の委
員が 当該発明部門の従業者等 に対して 当該基準案を 説明し、当該従業者等から 当該基準案に対す
る意 見が当 該委 員を 通じて使用 者等 に提 出された場合には、当該意見 に対す る回答を 使用者等が
当 該委員 に提 示して 説明した 後 、当該委員が当該従業者等に対して 当該回答を提示して 説明し 、
使 用者等が従業者等と 協議をす る際、提示する資料及び情報として は、例えば、次に掲げるもの
が考えられる。
イ
使 用者等の作成し た基準案の内容
ロ
研究開発に関連して行われ る従業者等の処遇
ハ
研 究開発に関連して 使用者等が 受けて いる利 益の状況
ニ
研究開発に関す る使用 者等の費用負担 やリスクの状況
ホ
研 究開発の内 容・環境の充実 度や自由度
ヘ
公開されている同業他社の基準
-17-
(八)
必 要 に応じて 当 該従業者等か らの再意見 に 対して も同様 の対応を行う 方法
な お 、 使 用 者 等 そ の 他関 係者 の 営 業 秘 密 等 の 情 報 を 従 業 者 等 に 対 し て 提 示す るこ と が 問 題 と 判断
され る場合 、そ の 情 報 を提 示す る必 要 はな いと 考え ら れ る。
開 示 に つ いて
開示の 対象者
(二)(一)
1
開 示を受け る 対象者は、基準が 適用され る 従業者等で あ る。
開 示は、 基 準を外 部 へ 公表し な ければ なら な いわけで はな い。もっと も、基 準を外部 へ公表す る
こと は、潜在的な従業者等(例えば、採用内定者。)に対する開示にな り得る。
(二)(一)
開示の方法
開 示の方 法 に つ いて は、 特定 の方 法 をと らなけ れ ばな ら な いと いう 制 約 はな い。
従 業者 等が基 準を見よ うと 思え ば見 られ るような措置が とられて いれ ば、不合理性の 判断におけ
る開示の状況と して は、不 合理性を否定す る方向に働く。
(三)
2
職 務発 明 に 係 る 権 利が 使 用 者 等 に帰 属 す る時 まで に開 示 されて いれ ば 、 そ のこ と は 不 合 理 性をよ
― 21 ―
-18-
三
(四)
り強く否定 す る方 向に働く ものと 考え られ る。
イ ン トラ ネ ットで 開 示す る場合 、 個 人 用 の 電子機器 を 与え られて い な い従業者等で あ って も、 共
用 の 電 子 機 器 を 使 用 し て 容 易 に当 該イ ン ト ラ ネ ッ ト を 閲 覧 す るこ と が で き る環 境 にあ る 等 、 当 該 従
業 者等 が 基 準を 見よう と 思え ば 見ら れ るよ う な 状況 にあ ると 認め られ る 場合 には、不 合 理性の 判断
3
従業者等に行 う適正な開示と して は、例え ば、次に掲げ る方法が 考え られ る。
イ
従業者等の見やす い場所に掲示す る方法
ロ
基 準を 記載 した 書面を 従業 者等 に交付す る方法(電子 メールや社内 報等によ る配信 を含む。)
ハ
従 業者 等が 常時 閲 覧可 能なイ ントラ ネ ット に お いて 公開す る方 法
ニ
イ ンタ ー ネ ット 上 の ウ ェ ブ サ イ ト にお いて 公 開す る方 法
ホ
基 準を 記載 し た 書 面を、 社内 の 特定部 署 に 保 管 し 、 従 業 者 等 の 求 め に応 じて 開 示す る方 法
-19-
(五)
におけ る開 示の状況と して は、不合理 性を否定す る方 向に働く。
開示の程度
基準が 開示されて いると言え るため には、 相当の 利益の内容、付 与条件その 他相当の利益の内容を
決定するための事項が具体的に開示されて いる必要がある。
四
意 見 の 聴 取 に つ いて
1
意見の 聴取の対象 者
意見 の聴取の対象で あ る従業者 等と は、基準が 適用され る 従業者等で あ る。
意 見の 聴 取の 方 法 につ いて は 、 特定 の方 法 をと らなけれ ば な らな いと いう 制 約 はな い 。
意 見の 聴 取 に 際 し て 、 従 業 者 等 が 必 ず し も 意 見 を 持 って い な いこ と も あ るた め 、 相 当 の 利 益の 内
容の決定について、 発明者であ る従業者 等か ら意見が 表明 されなかったとして も、使用者等から当
該従業者 等に対して意 見を求めたと評価で きるよ うな事実があれ ば、意見の聴取がなされたと評価
され る。
意 見の 聴 取の 時 機 につ いて は、 あ ら か じめ 従業者等から 意 見を 聴 取し た上で 相当の 利 益の内容を
決定す ると いう 場合であ って も 、 使 用者 等において 一旦基 準に基づき決定した相当の 利益を従業者
等に与えた後 に、 当該従業者等に相当の利益の内 容の決定 について意見を求め、又は意見表明の方
― 22 ―
-20-
(二)(一)
意見の 聴取の方法
(三)
2
法 を 伝え て 、 意 見 が 表明 され れ ば そ れ を 聴 取 す ると い う 場 合で あ って も、 意 見 の 聴 取が な され た と
(四)
評価 される。
相 当 の 利 益 の 内 容 の 決 定 につ い て 、 使 用 者 等 か ら 従 業 者 等 に 対して 積 極 的 に意 見 を 求 め るこ と を
し な くて も 、基 準等 によ り 決定 され た相当 の 利益の内容 につ いて 一定 期間意 見を 受け 付 け る制 度が
用意 され 、使 用者 等か ら従業者等 に対して 実質的に意 見を求めたと評価できるよ うであれば、意 見
共同 発明 をし た従 業者 等( 以下こ の
及び次の
(六)
同一 の使 用者等 に係 る複 数の 従業者 等が 共同発明を した場合におけ る意見の聴 取の状況は、当 該
(五)
(五)
とが前提となる。
-21-
の 聴 取 が な され たと 評 価 さ れ る 。 た だ し 、 そ の 場 合 に は 、 当 該 制 度が 従 業 者 等 に周 知 さ れ て い るこ
において 「共同 発明者」という 。)ごと に不合理
性の 判断が な される。意見の聴 取の 方法として は、共同発明者にそれぞれ意見を聴取する方法のみ
な ら ず 、 共 同 発 明 者 か ら ま と めて 意 見 を 聴 取す る方 法 や 、 共 同 発 明 者 の 代 表 者を 通 じて 意 見 を 聴 取
す る方 法 も 含 ま れ る 。 た だ し 、 各 共 同 発 明 者 か ら意 見 を 聴 取す るこ と な く、 代 表者 を 通 じて 意 見 を
聴取す る場合 には、代 表者が各共同発明者を正当 に代表して いるとき又は各 共同発明者に代 表者を
(六)
通 じ な いで 意 見 を 表明す る 機 会が 担 保 されて い ると き は、意 見 の 聴 取 が な され た と 評 価 され る。
共 同 発明 者 間で 意 見 が 食 い違 う よ う な 場 合 にお いて 、 共同 発明 者間 で 意 見 を まと め て 一 つ の 意 見
にし な い 限 り正 式 な 意 見と し て 聴 取す るこ と はし な い と されて い ると き は、 共 同 発明 者 はそ れ ぞ れ
の 意 見 を 自 由 に 表明 す るこ と が 拒 絶 さ れ て い る に 等 し い 状 況 又 は 実 質 的 に 困 難 な 状 況 に 置 か れ て い
ると 認め られ る。こ のようなとき は、 当該共同発明者 からの意見 の聴取はなされて いない、又は 形
性を肯 定 す る方 向 に働 く も のと 考え ら れ る。
(一)
意見の聴取の程度
意 見の聴 取に つ いて は 、 従 業者 等か らの意 見 に対して 使用 者等は真摯 に対応す る必 要 があ る。例
え ば 、 従業 者 等 か ら 使 用 者 等 に 対し て 提 出 さ れ た意 見 に 対 して 使 用 者 等 が 回 答を全 く 行 って いな い
場合 に は、不 合理 性の 判断 に係る意見 の聴 取の状 況として は、不 合 理性を肯 定す る方 向に働 くもの
と 考え られ る。
(二)
3
意 見の 聴 取は 、 そ の 結 果と して 相当 の 利 益の内容の 決定 につ いて 使 用 者等と 従業者 等と の間で 個
― 23 ―
-22-
式的に行われた に過ぎ ないと評価され、不合 理性の判断に係る意見の聴 取の状況として は、不合理
別 の 合 意 が な さ れ るこ と まで を 求 めて い る も の で は な い 。こ の た め 、 合意 に 至 ら な か っ た と し て も
、 そ のこと だけ を もって 、 直ち に不 合理性の 判断に係る意見 の 聴取の状 況について 不 合 理性を肯定
する方向 に働くこ とはない。例え ば、 従業者等からの意見に対して使 用者等が真摯に対応して い る
場 合 に は、 意 見 の 聴 取 の 結 果と して 合意 に 至 って いな くて も 、不 合 理性 の 判断 に係 る意 見の 聴 取の
意 見 の聴取の結 果と して 、使 用者等と 従 業者等との 間で 合意 に至って いる場合 には、その事実 自
体は、不 合理性の 判断 に係る意見の聴 取の状況として は、不合理性をより強く否 定する方向に働く
(四)
もの と 考え られ る。
-23-
(三)
状況として は、不合理 性を否定す る方 向 に働くものと 考え られ る。
従業者等からの内容が 類似す る複数 の意見 に対して、使用 者等の考え を まとめて 提示した場合で
あ って も、 各 従 業 者 等 に 対 して 実 質 的 に 回 答 し た も の と 評 価で き る 場 合 が あ り 得 る 。 そ の 場 合 は、
不 合 理 性の 判 断 に 係 る 意 見 の 聴 取 の 状 況と して は 、 不 合 理 性を否 定 す る方 向 に働 く も のと 考 え られ
(五)
る。
従業者 等から 聴 取した意見 につ いて は、 使用者等にお いて 真摯 に検 討し、必要に応 じて再度相当
の利益の内容を 決定し直すこ とが 望ましい。 また、意 見の聴取の方法の一つとして、使用者等と 従
業 者 等 と の 間で 相当 の 利 益 の内 容 の 決定 に つ いて 見 解の 相 違 が 生 じた 場 合に 備えて 、 相 当 の 利 益の
内 容 の 決 定 につ い て 社 内 の 異 議 申 立 制 度を 整 備す るこ と が 考え られ る 。な お 、 相 当 の 利 益の 付 与 に
関 す る 通知 を 従 業者 等 に送 付す る際 に異 議 申 立 窓口 の連 絡 先 も 併せて 通 知す る等、 従業 者 等 に周 知
徹 底 す るこ と は、 社内 の 異 議 申 立 制 度 が 有 効 に 機 能す るこ と を 担 保す るこ と と な り、 不 合 理 性の 判
意 見の 聴 取に 当た って 使 用者 等が 従業 者等 に提 示して 説明 す る資 料及 び 情報と して は 、職 務発明
に係る相当 の 利 益の 内容の 決定 の際 に用 いられ る資料及び 情報が 考え ら れ る。こ の資料 及び情報と
しては、例えば、次に掲げるものが考えられる。
例1
相当の 利益の内容を決定す るため の基準として、 期待利益を採用す る場合
イ
当 該職務発明に係 る製品の市場規模予測
ロ
当該職務発明に係る製品の利益率予測
ハ
利益に対する当該職務発明 に係る特許権の寄与度予測
― 24 ―
-24-
(六)
断 に係 る意 見の 聴取の 状況として は、不 合理 性をより強く否定す る方向 に働くものと 考え られ る。
例2
相 当の 利益 の内容 を 決定す るた めの 基 準として 、 売上高等の 実績に応 じ た方式を採用す る
場合
イ
当該職 務発明 に係 る売上高に関す る資料
ロ
当 該職 務 発 明 に係 るラ イ セ ンス 契 約 の 概 要と 使 用 者 等が 受け た 実施 料そ の 他の 利 益 の内 容
ハ
利益に対する当該職務発明 に係る特許権の寄与度及び寄与度の根拠
得 税 の 取扱 い に つ いて も明 確 にす るこ と が 望 まし い 。
た だ し 、 使 用 者 等そ の 他 関 係 者 の 営 業 秘 密 等 の 情 報 を 従 業 者 等 に 対し て 提 示す るこ と が 問題と 判
-25-
な お 、こ う し た 資 料 及び 情報 にお いて は 、 従 業者等が 受けた経済上の 利益に対して 課 せられ る所
断され る場合、その情報を提示する必 要はな いと 考え る。
基 礎 資 料 につ いて
法 第 三 十五 条第 五 項 に 基づ いて 契 約 、 勤務 規則 そ の 他の定め に お いて 相当 の 利益 につ いて 定め る場合
に は、 そ の 定 め たと こ ろ によ り 相 当 の 利 益を 与え るこ と が 不 合 理で あ ると 認 め られ る か 否 か によ って 、
従業 者等 に与え ら れ る べき 相当の 利益 の内 容が 異 な り得 ると 考え られ る。し たが って 、使 用 者等は、こ
の 不 合 理 性の 判 断 の 基 礎 と な る資 料 を 可 能な 限 り管 理 し 、 保管して お くこ と が 望 まし いと 考え ら れ る。
こ の 基礎資料について は、例え ば、次に掲げ るものが 考えられ る。
例1
基 準の策定 に 係る基礎資料
イ
基準の策定に至る経緯を示す資料
ロ
使用者等と従業者 等との間で 、基 準の策定について協議が行われた場合には、その議事録、協
議 に用いた資 料、協議への参 加者名簿 等
ハ
基準の策定に際し、又は基準の策定後 に、従業者等に対す る説明会を開催し た場合には、その
議事録、説明 に用いた資料、 説明会への 参加者名簿等
ニ
基 準 につ いて 、 使 用 者 等と 従 業 者 等と の間で 合意 に 至 った場 合 には、 そ の 合 意 の内 容 を 示す 資
料
ホ
例2
イ
基 準の開示が行われて いる場合には、その日時、開示の方法、開示の状況を示す資料
相当の 利益の内容 に係る基礎資料
相 当の利益の内容 を決定す る際に用いた資料
― 25 ―
-26-
五
ロ
相当 の利益の内容の 決定 につ いて 、各従業者等へ何らかの説明を 行 った場合 には、それ に関 す
る通知書、説明 資料その他の 資料
ハ
相当 の利益の内容 について、 使用 者等と各従業者 等との間で 合意 に至った場 合には、その合意
の内容を示す 資料
ニ
相当 の利 益の内容 の決定 につ いて 、各 従業者等か ら意見を聴 取した場合には、その意見の内 容
ホ
各 従 業者 等か ら 聴 取し た 意 見 につ いて 、検 討を行 った場 合 に は、そ の検 討の 過程及び 結 論を 示
す資料
ヘ
-27-
を 示す資料
各 従 業者 等か ら聴 取し た意見 につ いて 、 社内 の異議申立制度 等 に基づいて 判 断がな され た場合
には、その経緯及び結論を示す資料
第三
その他
一
金銭 以外 の「相当の 利益」を与え る 場合の手続 につ いて
1
職務発明をした従業者等に与えられる相当の利益には、留学の機会やストックオプション等、金銭
以外 の経 済上 の利 益も含 まれ る。こ の 経済上 の利益 について は、経 済的価値を 有す ると評価で き るも
のであ る必 要が あ り、経 済的価 値を 有す ると 評価できないもの(例えば 、表彰状等のよ う に相手方の
名誉 を 表 す る だけ の も の ) は 含 ま れ な い。 な お 、 相 当 の 利 益の付 与 につ いて は 、 従 業 者 等が 職 務発明
を し た こ と を 理 由と して い るこ と が 必 要 で あ る 。 し た が って 、 従 業 者 等 が 職 務 発 明 を し たこ と と 関 係
な く 従 業 者 等 に 与 え ら れ た 金 銭 以 外 の 経 済 上 の 利 益 を も って 、 相 当 の 利 益 の 付 与と す るこ と はで き な
2
契約 、勤 務規則 そ の他の 定め によ り相 当の利益を 従業者等に 与え る際、使用 者等は、金銭以 外の相
当の利 益 を 従業 者 等 に与え る 場合 に は、 金銭 以外の相当 の 利益と して 具 体的 に何が 従業 者 等 に与え ら
れ るこ と と な るの か 、 従 業 者 等 に 理 解 され る程 度 に 示す 必 要が あ る。す な わ ち 、 使 用 者 等 は、 協 議、
開 示、 意 見の 聴 取と いっ た手 続を行 う に 当た って は、金 銭 以外の相当の 利益と して 与え られ るもの を
従業者等に理解され る程度に具体的に示した上で、当該手続を行う必要が ある。
金銭 以外の 相当の利益の付与として は、例えば、以下 に掲げ るも のが 考え られ る 。
(一)
3
使用者等負担 による留学の機会の付与
― 26 ―
-28-
い。
(五)(四)(三)(二)
金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格
法令及び 就業規則所定の日数・期間 を超え る有給休 暇の付与
職 務発明に係 る特許権についての専用実施 権の設定又は通常実施権の 許諾
基準を改定する場合の手続について
1
基 準の 改定 は、改 定 さ れ る 部分 につ いて は 新たな基 準 を策 定す るのと 同様で あ る。し たが って 、 不
合 理性の 判断 にお いて 、不 合 理性が 否 定 さ れ る方向 に働 くよう にす るため には 、基 準の改 定に 際して
も 従業 者 等の意 見が 踏 まえ ら れ るよ う、 実質的 に改定 さ れ る部分及び改 定 によ り影響が 生ず る部分 に
-29-
二
ストックオプションの付 与
つ いて 、使 用 者 等と 従 業 者 等と の 間 で 協 議 を 行 うこ と が 必 要で あ る 。
2
職 務発 明 に 係 る 権利が 使 用 者 等 に帰 属 し た 時 点で 相 当 の 利 益 の 請求 権 が 当 該職 務 発 明 を し た 従 業 者
等 に発生す るため 、そ の時 点以後 に改定された 基準は、改定 前 に使用者等 に帰属した職務 発明につい
て、原則として 適用されない。ただし、 使用者等と従業者等との間で、改定された基準を改定 前に使
用 者 等 に帰 属 し た 職 務 発 明 に 適 用 し て 相 当 の 利 益を 与え るこ と に つ いて 、 別途 個 別 に 合 意 し て い る 場
合 に は、 改定 後の 基 準を 実 質 的 に 適 用 す るこ と は可 能で あ ると 考え られ る。 ま た 、改定 後 の基 準を改
定 前 に 使 用 者 等 に帰 属 し た 職 務 発 明 に つ いて 適 用 す るこ と が 従 業 者 にと って 不 利 益と な らな い 場 合 は
、 改 定 前 に 帰 属 し た 職 務 発 明 に 係 る相 当 の 利 益 に つ いて 、 改 定 後 の 基 準 を 適 用 す るこ と は許 容 さ れ る
も のと 考え ら れ る 。
新入 社 員 等 に対す る手 続 につ いて
1
既 に策 定 さ れて い る基 準 に 基 づ いて 、使 用 者 等と 雇 用 関係 を 結 ぶ 前 に 基 準が 策定 され て いたため に
協 議の相 手方 と は な って いな かっ た 従 業者 等( 以下 「新入 社員 」と いう 。)と の間で 使用 者等が 当 該
基準に関する話合いを行 った場合には、 不合 理性の判断 に係る当該新入 社員との協議の 状況について
は、不合 理性を否 定す る方 向に働 く 。また 、そ の 話合いの結果 、使用者等と 新入社員との 間で 、既 に
策 定 さ れ て い る 基 準 を 適 用し て 相 当 の 利 益の 内 容 を 決定 す るこ と につ い て 合意 す る に 至 っ た 場 合 に は
、 不 合 理性の 判断 に係 る協 議の状 況 について は 、不 合 理性をよ り強く否定 す る方向 に働 く 。なお、従
業 者 等 と の 協 議 を 通 じて 策定 し た 基 準が 社内 で 既 に運 用 されて い ると い う 実態 及 び 当 該基 準が 安 定 的
に運 用 され るこ と が 社 内 の 従 業 者 等 全 体 にと っ て 有 益で あ るこ と に鑑 み る と 、 当 該基 準を そ の ま ま適
― 27 ―
-30-
三
用 す るこ と を 前提 に使 用 者 等 が 新 入 社 員 に 対 して 説 明 を 行 う と と も に、 新入 社 員 か ら 質 問が あ れ ば 回
答す ると いう方 法も 、使 用者等が 新入社員と の間で 基 準に関 して 行う 話 合いの一形態で あ り、当 該新
入 社員と の協 議の状 況 について 不 合 理性が 否定 され る方 向 に働 くものと 考え ら れ る。
2
既 に策 定 さ れて い る基 準 に 基 づ いて 、 使 用 者 等が 新入 社員 と の間で 当 該基 準 に関す る 話合 いを行う
場 合 、 新 入 社 員 は 年 間 を 通 し て 様 々 な 時 点 で 入 社す るこ と も 考 え られ るた め 、 事 務 効 率 等の 観 点 か ら
新 入 社員 に 対 し 、 入 社 前 に基 準が 公 表 され て お り、 当 該 新入 社 員 は当 該基 準が 適 用 され ること を 承認
して入 社したと 評価でき るよ うな 特 別の 事情があ る場合 には、基準につ いて 合意して い る場合と同 様
-31-
、 例え ば、 異な る時 点で 入 社 した 新入 社 員 に 対して まと めて 当 該話合い を行うこ と もで き る。なお 、
に評価 され る可 能 性 もあ ると 考え ら れ る。
3
新入社員に対して、話合いを行うこ となく策定済みの 基準を適用す る場合には、 当該新入社員と の
関 係で は協 議 が 行 わ れ て い な いと 評 価 され るも のと 考え られ る 。 も っと も 、 基 準策定 当時 は 従業者 等
の 地 位 に な か っ た 新 入 社 員 と 個 別 的 に協 議が な され な い こ と は当 然で あ るため 、こ のよ う な 場 合 に 、
基 準策 定 に関 す る 協 議 が な か っ た こ と だ け を も って 、 直 ち に不 合 理 性の 判 断 におけ る協 議 の 状 況が不
合理性を 肯定する方向に働くわけで はない。
4
従 業者 等と の間 に お いて 協 議を 行わな か っ た 理由等 について も、不 合 理 性の 判断 にお いて 考慮要素
とな り得 る。 例え ば、 一 般的 には 、基 準を 策定した 時 点で 従業者等 の 地位にあ った にもかかわ らずあ
えて協議が行われなかった場合と、基準の策定後に従業者等の地位を得 たため協議が行われなかった
場 合と を 比較 すれ ば、 前者の 方が 不 合 理性 をよ り強 く肯定す る方 向 に働くもの と 考え られ る。 後者の
益 調 整が な さ れ 、 当 事 者間 の 交渉 格差 が 払 拭さ れた と き に は、 当 該 新入 社員と の協 議の 状 況に つ いて
不 合 理 性が 否 定 され る方 向 に 働 くこ と が あ り得 る。
5
新入 社員 に対す る 基 準 の 開 示 につ いて は、 職 務発明 に 係 る 権 利の 取得時 まで に当 該基 準 を 見 るこ と
ができ る状況にあること を周知して いれ ば、不合理性の 判断に係る開示の状況として は、不合理性を
否 定す る方 向 に働 く。 な お 、 例え ば 、入 社 前に 基 準の提 示が 行 われて お り 、 当 該新入 社員 は当 該基 準
が 適 用 さ れ るこ と を 承認 して 入 社 し たと 評 価 で き るよ う な 場 合 に は、 不 合 理 性を よ り 強 く否 定 す る 方
向に働く。
― 28 ―
-32-
場 合 に お い て は 、 基 準の 策定 に際 し て 、 使 用 者 等と 新入 社員 以 外 の 従 業 者 等と の 間 の 協 議で 十分 な 利
6
派 遣 労 働者 につ いて は、 職 務発 明 の 取扱 いを明 確 化す る観点から 、派 遣元 企 業、派 遣先企業 、派 遣
労 働者 と い った 関 係 当事 者間で 職 務 発明 の 取 扱 い につ いて 契 約 等の 取 決 め を定めて お くこ と が 望 まし
い。
四
退 職 者 に 対す る手 続 に つ いて
1
基 準 に定 め る相 当 の 利益 の内 容が 特定 の方 式で 決定 されなけ れ ばな らな いと いう 制約がな いこ と に
相当の 利益を一括して 与え る方法も可能であ る。
2
退 職 者 に対 す る意 見の 聴 取 につ いて は、退 職後だけで はな く、退職時 に行うこ と も可 能で あ る。 例
-33-
鑑 みると、退職 者に対して相当の利益を 退職後も与え続ける方法だけで なく、特許登録時や退職時 に
え ば、退 職時 の相 当の 利益 の 扱 い に つ いて あ ら か じめ基 準 に定 め られて い る場 合 にお いて 、当 該基 準
によ る相 当の利 益の 内容 の決定 に際 して 、退 職時 に、 従 業者等から意見 を聴取し、 それを踏 まえて 相
当の利益の内 容を 決定して 与えた 場合には、当 該従業者等に対する意見の 聴取はなされたと評価され
る。
五
中 小 企 業 等 に おけ る手 続 に つ いて
1
従業 者等の 数が 比較 的 少 な い中 小 企業等 において は、事務効率や 費用等の観 点から、その企 業規模
に応 じ た方 法で 、協 議、 開 示、 意見 の聴 取と いった手続をそ れぞれ行うこ とが 考え られ る。なお、こ
れ らの手 続 を 書 面や 電子 メー ルで 行 うこ と も可 能で あ る。
具 体的 には 、 中 小 企 業 等 に おけ る協 議 につ いて は、 右 記 「 第 二
2
協議の方法
適正な手続
二
協 議 につ いて
(二)
2
」に示した方法のうち、事務効率等の観点か ら、例えば、従業者等の代表者 を選任
られる。
中 小企 業等 にお け る基 準の 開 示 につ いて は 、右 記 「第 二
示の方法
適正な手続
三
開 示 につ いて
2
開
(五)
3
」 によ る方 法のうち、 費 用等の 観点から、例えば、 イ ントラ ネ ットで はなく、 従業者等の
見 やす い 場 所 に書 面で 掲 示す る方 法 によ るこ と が 考え ら れ る。
2
意見の聴取の方法
及び
適正な手続
四
意 見 の 聴 取 につ いて
(四)
中小 企業 等におけ る意 見の聴 取について は、右記「第二
(三)
4
」 に示し た方 法のうち、事務効率等の観点から、例えば、発明者で あ
る 従業 者等か ら聴 取し た意 見につ いて 審 査を行 う 社内の異議申立制度が 整 備されて いなくとも、発明
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し て そ の 代 表者 と 協 議す る方 法で は な く 、 従 業 者 等 を 集 めて 説明 会 を 開 催す る方 法 によ るこ と が 考 え
者で あ る 従業 者等 から意 見を 聴取した 結果、 使用者 等と当該従業者 等との間で 相当の利益の内 容の決
定 につ いて 見 解の 相 違が 生 じ た 場 合 は、 使 用 者 等が 個 別 に 対 応 す る方 法 によ るこ と が 考 え られ る。
六
大 学 に お け る手 続 につ いて
1
法 第 三 十五 条第 一 項で は使 用者 等 につ いて 大 学と 企業を 区 別して お ら ず、大 学と そ の 従業者等で あ
る 教職員 と の 関 係 にお いて も 、 教 職員 のし た 発明が 職 務発明で あれば同 条の 規定 は当 然適用され る。
た と こ ろ に よ り 相 当 の 利 益 を 与 え るこ と が 不 合 理で あ る と 認 め ら れ る 場 合 に は 、 同 条 第 七 項 の 規 定 に
よ り定 め られ る 内 容 が 相 当 の 利益と な る 。大 学と そ の 教 職 員と の関 係 に お いて 、 同 項 の 適 用を 避け る
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し たが って 、相 当の 利益 につ いて 契 約、 勤務 規則そ の 他 の定めが 整備 さ れて いな い場合 や、そ の定 め
ためには、同条第五 項の要件を満たす必要があ る。
2
大学の各学部や研究所等において従業者等から選出された代表者が職 務発明 に関 する基準の策定 に
関 して 大 学 側 と 協 議を 行 う こ と に つ いて 、 各 教 職員 を 正 当 に代 表して い る 場 合 には、各 教 職 員と の間
で 協 議 が 行 わ れ た も の と 評価 され る。 例 え ば 、 協 議 の 過 程 にお いて 、 そ の 内 容 に つ いて 、 各 学 部 や 研
究 所等 において 従 業者 等か ら選出 された代表者が会議等を通じて各教職員の意見を聴取し ながら協議
を進 めて いる場合 や、教職員が代 表者 を選出す る際 に、選出された 代表者が基 準の策定 について大学
側と協 議を行うこと を 了承した 上で 選出 を行 ったような場合 には、その代表者は、各教職員を正当に
代 表して い ると 評価 で き ると 考え ら れ る。
法第三十五 条第一項において、職務発明は、「その性質上 当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、
そ の発明 をす るに至った行為 がそ の使 用者 等におけ る従業者等 の現在又は過去の職務に属す る 発明」
と 規定 されて い る。 大 学と雇 用関 係 にな い学 生 について は、一般的 には、 従業者等には 該当しな い た
め 、こ の よ う な 学 生が し た 発 明 は 、 職 務発 明 に は該 当し な いと 考え られ る。た だ し 、 特定 の研 究 プロ
ジェ ク ト に参加 す る 学 生 の 中 には、 大 学 と 契 約 を 締 結し 、 雇 用関 係が 生 じて い る場 合 も あ り得 る。こ
のように大学と雇 用関 係が 生じて い る学生が当 該研究プロジェ クトの中でした 発明は、職 務発明に該
当す ると 考え ら れ る 。し たが って 、 教職 員の 職 務発明と 同様 に、相当の 利益について 契約、 勤務規則
そ の 他 の 定め が 整 備 さ れて いな い 場 合や、 そ の 定 め たとこ ろ に よ り相当の 利 益を 与え るこ とが不 合 理
であると 認められる場合 には、同 条第七項の 規定 により定められる内容が相当の利益となる。大学と
雇 用関 係のあ る学生と の関 係にお いても、同項の適用を避けるためには、同条第五項の要件を満たす
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3
必要があ る。
職 務 考 案及び 職 務 創作意 匠 におけ る準用 につ いて
本指 針は、職 務考 案( 実用新 案法 (昭 和三 十四年法 律第百二十三号)第十一条第三項)及び職 務創作
意匠(意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第十五条第三項)に準用する。
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第四
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<本テキストの内容に関するお問い合わせ先>
特許庁総務部企画調査課企画班
内線2154
E-mail: PA092[email protected]
電話:03-3581-1101