BIOHAZARD ~東方繁殖悪~ ID:112021

BIOHAZARD ~東方繁殖悪~
ホーシー
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︻あらすじ︼
明ける事がない絶望。
目 次 BIOHAZARD ∼東方繁殖悪∼ │││││││││││
1
BIOHAZARD ∼東方繁殖悪∼
どうしてみんな私を嫌うの
血の涙を流し、そう訴えた哀れな少女がいた。
少女は、ただ家族が欲しかった。
家族を欲し、友達を欲し、愛情を欲した。
その手段はどうあれ、許されざる悪虐非道な行いとはいえ、その行
動原理は、少女の願いはよくある願い。
子供ならば誰もが求む﹃家族愛﹄。普通の愛情、友情、日常を望んで
いた。
だが、もう少女は﹃少女﹄ではなくなっていた。
少女ならば、その誰しもが持っている願いは許されるだろうが、
﹃化
け物﹄となってしまった﹃奴﹄は、そんな願いは許されない。
なぜなら、﹃化け物﹄は死ぬべき存在だからだ。
なぜなら、﹃化け物﹄は人類の敵だからだ。
なぜなら、﹃化け物﹄は嫌われ者だからだ。
そうして、﹃化け物﹄は殺された。
とある組織や、なんの関係も無い一家、一般人を巻き込んだバイオ
ハザードは終わった。
﹃カビ﹄は、駆除されたのだ。
夜明けは訪れた。
人々は目を覚ます。
非現実の夢から覚め、日常へと目を向ける。
朝だ。
新しい日の始まりだ。
だが、やはりなのか。﹃化け物﹄にはそんなものはなかった。
暗い暗い闇の中、ひとりぼっち。
騙されて騙されて、そして最後は見捨てられて。
それでも、﹃化け物﹄は諦めてなかった。
﹃家族﹄を、未だに、性懲りも無く欲していた。
私を嫌わない、受け入れてくれる家族を。
1
?
それが幸運だったのだろうか
いや、或いは不幸なのだろうか。
それは叶えられた。
幻想は、夢は非現実である。
非現実は、現実ではない事にある。故に、現実を否定するあらゆる
ものを受け入れる。
それが例え人類を脅かす巨大な悪だったとしても。
人が人を呼ぶように、化け物は化け物を呼び起こす。
縁というものだろう。それとも運命というのだろうか。
いずれにせよ、﹃化け物﹄は呼ばれた。﹃化け物﹄に。
人ならざるものに。
﹃化け物﹄は歓喜した。なぜなら、相手も自分と同じく﹃化け物﹄だか
らだ。
同じ﹃化け物﹄ならば、きっと私を嫌わない。家族になってくれる。
そう、
﹃化け物﹄は信じて疑わなかった。寧ろ、確信したと言える。
もしも、幻想が忘れ去られた非現実を呼ぶのなら、これは有り得る
話なのかもしれない。
誰だって、悪夢と言うものは忘れたいものであるし、必要がないも
のだ。
そして、これはその悪夢が繰り返される絶望だ。
幻想は犯される。
受け入れるが故に、抵抗できず、繁殖は続く。
念のため、もう一度言うとしよう。
﹃化け物﹄は、歓喜した。
BIOHAZARD ∼東方繁殖悪∼
博麗霊夢は1人で庭の掃除中、ずっともやもやした気持ちだった。
別にそれが恋なんて甘酸っぱい話なんかではない。
2
?
そもそもの話、彼女の周りは女性ばっかしで、男性なんて1人ぐら
いしかいない。しかも、彼女の性癖は至ってノーマルで、同性愛にな
んか興味はない。周りは知らないが。
そんな彼女がなぜ、もやもやしてるかと言うと、何となくに嫌な予
感がする。という抽象的な、感覚的なあれである。
虫の知らせみたいなものだ。
そんな何処があれで、何が起こるから心配。なんて具体例は分から
ず、でもなんか嫌な予感がする。それが今の彼女である。
﹁⋮⋮⋮イライラする﹂
﹁いや、開口一番にそんなこと言われても困るぜ霊夢﹂
﹁⋮⋮⋮魔理沙か﹂
﹁おいおいなんだよその反応。遊びに来てやったのに﹂
﹁別に頼んでなんかないわよ。⋮⋮⋮お茶なんて出さないわよ﹂
3
﹁ブー、霊夢のケチ∼﹂と魔理沙は口を可愛く︵霊夢からすればウザく︶
膨らませながら近寄って来る。
そしてそのまま、霊夢の隣に立つ。
どうせ箒あるなら手伝えと言いたいが、どうせ彼女のことだ。手伝
うなんて三文字、欠片もないのだろう。
用がないなら帰って。若しくは手伝え。というか手伝え﹂
霊夢はため息1つつき、魔理沙に向き合った。
﹁で、何
﹁面倒事ね。了解了解。じゃっ、後は頼んだわよ﹂
りから森の様子が可笑しいんだよな﹂
﹁まぁ、用がないってわけじゃないんだ。実はと言うと、何か昨日あた
転してる癖によく言うわと、霊夢は心の中で愚痴る。
﹁箒が痛むし﹂と最後に付け足す魔理沙。よくアクロバティックな運
﹁用がないなら来ちゃいけないのかよ。後、手伝う気は無いのぜ﹂
?
﹁ちょっ、待て待て待て待て
﹂
面倒事と分かった瞬間即座に踵を返し戻ろうとする霊夢。汚い流
石巫女汚い。
そんな仕事放棄巫女を急いで止める魔理沙。
その表情は本当に焦っている顔で、ただ事ではないと長年の付き合
いである霊夢にはわかった。
﹂
動物はいないし、キノコも生えてない。
ついでに嫌な予感が当たったと、自分の勘の良さに自己嫌悪した。
﹁本当に何か可笑しいんだよ
あと、何ていうか⋮⋮⋮やばいんだ
てくれるわよ﹂
!
﹁巫女が糞とかいっていいのか
﹂
﹁やっぱ具体性も糞もないのね﹂
めると﹃森がやばい﹄とのことだった。
魔理沙の語彙力故にいまいち、というか普通にわかりにくいが、纏
嫌々ながら話を聞く霊夢に、魔理沙はもう一度説明した。
﹁わかったわかった。わかったから耳元で騒がないで。五月蝿い﹂
﹁だぁーー巫山戯てる場合じゃないんだぜ霊夢
﹂
﹁もうちょっと語彙力鍛えてから来なさい。慧音なら懇切丁寧に教え
!
﹁で、これがアンタの言ってた森
話がまったく違うんだけど﹂
この後むちゃくちゃ夢想封印した。
﹁そうだよな∼。だから万年金欠なんだもんな、霊夢って﹂
﹁いいのよ。別に人なんて来ないし﹂
?
臭くなかった﹂
﹁いや⋮⋮こんなカビみたいなの生えてなかったぜ。それに、こんな
?
4
!
!
あの後、結局魔理沙に連れてこられた霊夢は目の前にある森の現状
に、顔を顰める。
はっきり言って気持ちが悪い。
木々には至る所にカビみたいなのが生えており、それは地面まで侵
食してるかのように見える。
太陽からの陽射しは途絶えていつも以上に暗いことから、余計気持
ち悪さと、寒さが強調され、霊夢の気分を悪くさせる。
魔理沙曰く、こんなに酷くなかったらしいので、魔理沙が家を出て、
魔 法 の 森 全 体 が こ う な ら、や ば い ん
今の間でここまで侵食したということになるのだろうか。
﹂
﹁こ れ ア リ ス と か 大 丈 夫 な の
じゃない
行ってない﹂
﹁それはなんでよ
﹂
チルノ達は今日は元から人里に用があるらしい。紅魔館は⋮⋮その、
﹁一応、アリスと霖之助には人里の方に言ってくれとは伝えといた。
?
きてるだろうし﹂の言葉で、気持ちを取り直した。
魔理沙は慌てて霊夢を止めるが、霊夢の﹁見つけるわよ。どうせ生
いた後にさっさと森へ入っていく。
そんな小さくなっている魔理沙に霊夢は見ていられず、ため息をつ
己嫌悪と罪悪感に魔理沙は駆られている。
もしかしたら自分は紅魔館を見捨てたのかもしれない。そんな自
たのだろう。
今日来た時の態度は自分の気持ちを紛らわそうとした空元気だっ
罪悪感で押しつぶされそうな顔で小さく呟く魔理沙。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮あっそ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮もう、こんな感じだったからだ﹂
?
﹁やっぱ霊夢は霊夢だな﹂
5
?
﹁何よそれ。気持ち悪い﹂
森の中を進んでいく霊夢と魔理沙。
森は奥に進んでいく事にどんどん汚染されているように見える。
﹃カビ﹄は既に木を丸ごと一本分覆い尽くすまで侵食してるものもあ
れば、地面そのものが﹃カビ﹄になっている箇所もあった。
それは葉っぱの先まで侵食し、入口では若干ながら陽が射していた
が、今では完全に遮断されており、それこそ夜の森と変わりはない。
これなら飛んで行くべきだったと後悔する霊夢だったが、もし飛ん
でいたら森に入れないので、どの道変わりはなかっただろう。
﹁カビの上を歩くなんて日が来るとはね⋮⋮⋮﹂
﹁やめてくれよ霊夢。せっかく意識しないようにしてたのに﹂
﹁そんなの意味無いでしょ。こんな視界いっぱいに生えてちゃ﹂
霊夢は忌々しくカビを踏みつける。まぁ、これはただの八つ当たり
みたいなものなので特に意味は無い。
なぜ、こんな﹃カビ﹄が発生して、そして一夜にしてここまで侵食
しているのか、原因は全くの不明。
これまた厄介な異変だなぁ。と、霊夢の気は段々滅入っていく。
﹁一先ず、今日は紅魔館の連中を見つけて、連れ帰りましょう。その後
に永遠亭か、紫に相談するのがいいわ。ぶっちゃけこれは私じゃ手に
負えない﹂
﹁そうだな。悔しいけど、これは私達だけじゃ無理だ﹂
魔理沙は素直に引き下がった。
もう事態が事態である。ここで、変に拘って1人でやっても何も意
味がないとわかっているのである。というか、わからざるおえない。
こんな異変、異常すぎるからだ。
6
いくら非常識が跋扈する幻想郷とはいえ、この﹃カビ﹄は何か可笑
しい。
今のところ自分たちに害はないが、何があるかわからない。
魔理沙は、こんな意味不明な森から一刻も早く帰りたかった。
そんな魔理沙の頭に上から何か降ってきた。
雨のような液状のものでなく、泥のようなものだった。
そ の 泥 み た い な も の は 一 瞬 で 魔 理 沙 の 顔 色 を 真 っ 青 に 染 め 上 げ、
みっともない悲鳴をあげさせた。
身の毛もよだつ、そんな泥みたいなものだ。
﹂
そんな悲鳴を隣で聞いた霊夢は耳を抑えて露骨に不機嫌と表情に
出しながら魔理沙を睨む。
私の頭に泥がぁぁぁ
﹁何よ五月蝿いわね。何があったのよ﹂
﹁ど、泥がっ⋮⋮
﹁うぅ⋮⋮気持ち悪い⋮⋮⋮﹂
い﹂
﹁うわぁ、これもう完全におじゃんね。帽子全体に拡がってるじゃな
えることができた。
あげそうになったが、霊夢が睨みを効かせたのですんでのところで抑
初めて降ってきた存在の招待に気づいた魔理沙は、またもや悲鳴を
そこには、森を汚染してる﹃カビ﹄が魔理沙の帽子に付着していた。
両者とも見えないので、魔理沙が魔法で明かりを照らす。
し出してくる。
﹁て、何が降ってきたのよ﹂と、霊夢が訊くと魔理沙は自分の帽子を差
から﹂
﹁頭って⋮⋮⋮あんたには帽子があるでしょ。まったく五月蝿いんだ
!
これ私のお気に入りなんだぞぉ
﹂
﹁ほら、さっさと捨てなさいよそれ。もしくは燃やせ﹂
﹁あのなぁ
!
7
!
﹁お気に入りも何も、あと何個あるのよそれ。それにそんな汚染され
!
たの持ちたい
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮持ちたくない﹂
魔理沙はまた小さくなって帽子を捨てる。
帽子は既に触れたところから拡がって、完全に﹃カビ﹄の塊と化し
ている。
霊夢は忌々しく上を見て、舌打ちをした。
﹁これは迂闊に触れるとやばそうね。結界張っとくか。ほら魔理沙、
あんたの分も張ってあげるからこっち来なさい﹂
﹁⋮⋮⋮⋮頼むぜ﹂
簡易的に自分たちの体の周りを結界で包む霊夢。一応だが、超一流
の彼女ならば、仮に簡易的とはいえ、中級以下の妖怪の攻撃すら防ぐ
ことができる代物だ。
そんなすぐに腐
これで上から降ってくる﹃カビ﹄には対策できただろう。
﹁にしても酷い臭い。何か腐っているのかしら﹂
﹂
﹁腐るって言ったって森の異変は昨夜辺りからだぜ
るか
?
霊夢は苛立ちながら言う。
いくらなんでも腐った臭いなんてものは嗅ぎたくないのだ。
それにどんどん酷くなっていく。
これはもう本格的に、というか、もう手遅れかもしれない。
すぐにでも戻って紫に相談するべきかと方針を変えようとする霊
夢に、魔理沙が声をかけた。
あれ見れよ
﹂
﹁何よ魔理沙、今考え中ーーー﹂
﹁霊夢あれ
!
!
8
?
﹁森がこんなんになるんだから、腐っても可笑しくないでしょ﹂
?
魔理沙が指を指す先、そこには苦しそうに倒れる妖精達がいた。
見た事ない妖精たちなので、名前は知らないが、皆何かに怯えるよ
うに、苦しんでいた。
この汚染された森で初めての相手だ。それに、まだ生きている。
﹂
随分と苦しそうだけど﹂
霊夢と魔理沙は情報を聞き出そうと急いで近寄った。
﹁ちょっと、大丈夫
﹂
﹁ひぃっ、く、来るなぁ
﹁
﹂
﹁おいちょっと待て
だけだ
﹁嘘だ
私達は敵じゃない
﹂
そしたら皆⋮⋮う
一体何が起きたか訊きたい
あの人間も言ってた ﹃家族﹄なろうって
わあああああああああああ
﹂
﹂
恨んでなんか
見ればわかるでしょ
﹁ちっ、もう駄目ね。眠ってもらいましょう﹂
﹁でも霊夢
﹂
﹂
恨んでなんかいない
﹁もうあの妖精達は正気じゃない
﹁それでもっ
﹁待 っ て、待 っ て エ ヴ リ ン
﹂﹂
⋮⋮⋮あああああああああああああああああああ
﹁﹁っ
!
!
ないのか、はたまた、どうしても殺したいのか、弾幕を撃ち続ける。
結界があるので霊夢たちは無傷なのだが、妖精達はそれに気づいて
それは弾幕ごっこのルールを無視した、完全に殺す気の弾幕。
妖精達は酷く錯乱しながら弾幕を撃ってくる。
!!
?
!
妖精達は涙を、あらゆる体液を漏らしながら、死にゆく恐怖と、絶
体中から﹃カビ﹄が生えてきた、徐々に体を蝕んでいく。
突如、妖精達の体に異変が生じた。
!
!!! !
!
!!
!
!
!
!!!
! !!
!?
9
!?
望、そして苦痛に犯され、血反吐を吐く。
だが、その血反吐には血はほぼなく、何方かと言えば﹃カビ﹄が大
半を占めていた。
その異常な光景にいよいよやばいと確信したのか、霊夢と魔理沙は
言い争いをやめ、焦燥に駆られながら空へと飛ぼうとする。
﹂
だが、空への道は﹃カビ﹄によって硬く閉ざされており、飛び上が
る事はできなくなっていた。
兎に角逃げないと
マスタースパーーーー﹂
﹁ちっ、一体何が起こってるって言うのよ
﹁分からないぜ
!!
﹁魔理沙ぁ
﹂
ちまち敗北し、魔理沙は吹き飛ばされる。
それは大木となんら変わりなく、その純粋な質量の暴力に結界はた
を汚染していた﹃カビ﹄が束となり、魔理沙を襲う。
魔理沙の切り札であるマスタースパークを撃とうとした瞬間、木々
!
止まった頃にはピクリとも動かず、倒れ伏せる。
腕はあらぬ方向に曲がり、頭部からは大量の出血が遠目からでも確
認できる。
明らかに致命傷。
霊夢は急いで魔理沙へと駆け寄るが、それは訪れることはなかっ
た。
﹁なっ、あんたはーーー﹂
﹁貴女も﹃家族﹄です﹂
霊夢の意識はそこで絶たれた。
10
!
2度、3度と地面に転がり飛んでゆく魔理沙。
!!
﹁気分はどう
救世主さん﹂
男の意識が覚醒して、一番に聞こえた声は、そんな自分を気遣う声
だった。
そんな事を言ってきた声の主は、扇子で口を隠し、謎めいた︵胡散
臭いとも言える︶雰囲気を纏い、全身紫色主体の服を着た美人だった。
﹁突然だけど、幻想郷は今、窮地に立たされている。人間の殆どが死亡
し、妖怪と神の力は激減した。それに加え、私達にはあの﹃カビ﹄に
対抗する手段がない。お願い、貴方の力を貸して欲しいの﹂
美人はそう、男の目を見詰め、言ってくる。
その表情は余裕がなく、とても焦っている。
今にも泣き出しそうな、絶望も含まれていた。
男は訳が分からなかった。
目が覚めたら見知らぬ土地にいて、目の前には初対面の美人。
完全に混乱状態であった。
ふと周りを見る。
周りも美人ばかりで、寧ろ男性が1人もいなかった。
どんな状況なのかは分からない。
どんな世界かも知らない。
だが、男にとって、﹃カビ﹄は因縁深いものでもあった。
﹃カビ﹄によって全てを失った。
全ては3年前の妻の失踪から始まり、地獄のような、悪夢のような
体験をし、そして残ったのは深い深い虚無感だけ。
彼にとって﹃カビ﹄は、人生最大の敵だった。
左手首が痛む。
11
?
これは、あの悪夢でできた痛みだ。
だから、まず男は訊く事にする。
﹁誰だお前は﹂
12