1 イラク医療情報 以下は必ずしも最新の医療事情ではありません

イラク医療情報
以下は必ずしも最新の医療事情ではありません。詳細(特に緊急時対応や予防薬の
服用方法など)については現地医療事情に詳しい医療専門家から常に最新のアドバ
イスを受けるようにしてください。
最新更新履歴:2016 年 12 月
1.赴任前の準備
(1) 予防接種
入国時に義務付けられている予防接種は特にないが、長期滞在の際は A 型肝炎、
B 型肝炎、狂犬病ワクチン、破傷風の接種を勧める。 このうち狂犬病は、2013 年以
来、バグダットやバスラで発生件数の増加が報告され、危険性の高い疾病である。
イラクでは、治安の悪化から、外国人が利用できる医療施設は限られており、現地
でのワクチン流通も限定的であることから、現地での予防接種の実施は困難である。
(2) その他の準備
① 医薬品について
バグダッド及びエルビルに薬局は多数あり、一般薬や衛生材料、処方薬等が販売
されている。 しかし、治安悪化に伴う物流の制限や邦人の外出可能地域の制限な
どがあり、薬品の入手は容易でない上、品質・管理状態に不安がある。
常用薬は、日本から十分な量を持参する事。また、常備薬として、風邪薬、解熱鎮
痛剤、胃薬、整腸剤等、使い慣れているものを日本から持参することを奨励する。
② 眼鏡、コンタクトレンズについて
医薬品同様の理由で、現地での作成や入手は困難である。砂漠気候で砂埃が多
い国であるので、コンタクトレンズ使用時には角膜障害等に注意が必要である。
コンタクトレンズ使用が不可能となる場合もあるため、併せて眼鏡を持参することを強
く勧める。
③ 歯科治療
バグダッド及びエルビルに歯科はあるが、邦人の外出制限等により通院治療とな
る疾病への対応は困難である。また、緊急対応処置についても、衛生材料の物流や
加工手技が十分といえないため、現地での治療は奨励できない。
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2. 医療事情
長引く紛争に加え、近年の ISIL によるテロリズムの影響を受け、イラクに居住する
外国人の医療環境は非常に厳しい状況である。
多くの外国人は、バグダッドの IZ 1に居住し、その地域内の医療施設を利用すること
になるが、安全対策上、長時間の滞在が不可能であり、容易に外来受診は出来ない。
エルビルは、バグダットに比べて市内行動域が広く、受診可能な病院が数件あるもの
の、警備チーム同行での移動となるので、計画的な行動が必要となる。
いずれの地域も、医療施設や医師の技術とも十分なレベルとは言えないため、現地
での継続的な治療は現実的ではない。
(1) 医療機関
(1)-1. バグダッド(Bagdad)
① 施設名: Ibn Sina Hospital (公立)
所在地:International Zone / Al Tashree
電話:0964-5372982, 07901870581
診療時間: 9:00~13:00 金土曜休み 救急外来は 24 時間対応。
診療科目: 内科・外科・耳鼻科・眼科・婦人科・泌尿器科・皮膚科・歯科
検査部門: 血液検査室・超音波・X 線・CT・MRI
備考: IZ 内にある公立総合病院。MRI 完備。
② 施設名: RMSI バグダッド簡易クリニック
所在地: Control Risk 社/CRG 施設内(CBC 2)
備考: ドバイ拠点の RMSI(Rapid Deployment Medical and Rescue Service)
の経営するクリニックである。ファーストエイドに対応するパラメディックが
交代制で駐在し、原則契約者を対象に支援を行っている。キャンプ内住人
に対する支援は可能であるが、治療や処方は出来ず、助言や病状アセス
メントは支援可能。ECG、AED、酸素ボンベ、救急キット完備。
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International Zone;バグダッド市内の特別警備課におかれた地域
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Carman Business Centre;IZ 内 CRG コンパウンド 宿泊施設
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(1)-2. エルビル(Erbil)
① 施設名: Par Hospital
所在地: 60m St.Mamostayan Qr.
Erbil Kurdistan Region
電話:
00964-0-662107001/002
診療時間: 24 時間対応
診療科目: 総合病院(小児科、歯科を除く) 120 床。
備考: 原則企業契約者対象だが、契約外の外国人、救急も受け入れ可能。RMSI と
の医療契約有。外科手術(腹腔鏡術)、開胸手術の実績もあり、緊急症例に対
応可能。
② 施設名: Zeen International Hospital
所在地: Erbil Kurdistan Region, Iraq
電話: 00964 7504460096/97、0662274455/88
診療時間: 24 時間対応
診療科目: 総合病院(精神科除く)
105 床。
備考: 原則企業契約者対象だが、契約外の外国人、救急も受け入れ可能。CRG と
の医療契約有。生体腎移植実施病院。
③ 施設名: RMSI クリニック (エルビル)
所在地: Erbil Kurdistan Region, Iraq
診療時間: 9:00 – 17:00
診療科目: 応急処置のみ (処置用ベッド、救急蘇生機器のみ)、救急車 2 台所有
備考: CRG 社契約クリニックであるが、応急処置後、他院への搬送(Zeen 病院提携)
(2) 緊急時の対応措置
安全管理上の制約が大きいバグダットにおいては、中等度の病状であっても、でき
るだけ早期に受診し、必要な治療を開始することで、重症化予防を図ることが肝要で
ある。入院加療が必要な病状の場合、市内施設の利用は短時間に留め、第三国や
本邦での治療を考慮する。 エルビルでは、比較的質の良い医療体制にあるが、安
全面の懸念は同様であるので、現地での入院、手術等は可能な限り避ける方が良い。
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3. 医薬品、衛生用品
(1) 携行することが望ましい医薬品
既往症治療薬は必ず十分な量を持参する事。加えて日頃常用している、感冒薬、
解熱剤、胃腸薬、外用薬や湿布薬等は日本から持参すると良い。乾燥対策の保湿
クリーム、リップクリームや目薬等の持参も奨励する。販売される薬品は輸入製品で、
物流量や種類は限定的で高額である。
(2) 現地で調達できる医薬品
基本的な薬剤の入手は可能ではあるが、処方を必要とする医薬品の入手は、病院
受診に行動制限があり、容易ではない。加えて、一般薬でも、日本で市販されている
風邪薬や胃腸薬とは成分や規定量が異なることがあるので、特定の薬を必要とする
場合は、必ず持参すること。
(3) 現地で調達できる衛生用品
包帯やガーゼ、消毒薬などの衛生材料は、入手可能である。生理用ナプキン、シャ
ンプーや石鹸、洗剤、殺虫剤や虫よけ薬の購入は可能である。
4. 妊娠及び出産の対応
前述のとおり、厳しい医療環境にあり、十分な産前後医療を受ける事は困難である
ため、妊娠中の渡航は勧められない。また、現地で妊娠が判明した場合、専門医受
診は困難なため、安全な第三国または本邦での医療受診を奨励する。
5. 手術等緊急対応にかかる処置
救命・緊急事態に対応可能な施設は存在するものの、外国人の利用について、安
全管理や医療設備機能において制限が大きいので、第三国または本邦での治療が
望ましい。渡航に際しては、緊急対応時の移送費用を含め、十分な補償を確保した
保険への加入を奨励する。
6. 現地での傷病
(1) 一般の疾病
砂漠気候であるため、通年乾燥環境で、気温の日内差が激しく、6 月~9 月は気温
上昇により、室内生活でも熱中症を引き起こす可能性があり、注意が必要である。
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疾病に関しては、通年風邪などの上気道炎が多い。また、砂嵐によるアレルギー性
結膜炎、鼻炎、感染性眼病なども見られる。消化器系疾患は、気温上昇にともない病
原菌の繁殖が活発化する時期に、サルモネラ、病原性大腸菌などの感染性胃腸炎な
どが見られる。
(2) 風土病、感染症
腸チフス:主に汚染された食物により感染する。潜伏期間は 1 週間から 3 週間。腹痛、
下痢、血便等の症状を起こす。不適切な治療により重症化し、腸穿孔や腹
膜炎を併発する。
A 型肝炎:食べ物(主に生もの)や水から感染し、全身倦怠感、発熱、食欲不振や黄
疸が現れる。A 型肝炎抗体が陰性の場合は、ワクチン接種による積極的
な予防を勧める。
リーシュマニア症:広範囲にサシチョウバエによって媒介される。皮膚に潰瘍や結節
が生じ、治療しても酷い瘢痕が残り、稀に内臓リシューマニア症状
を呈する。防虫対策を心がける。
住血吸虫:河川や湖沼での水泳や洗濯等の作業時、淡水にいる巻貝の体内で増殖
したセルカリア(有尾幼虫)が皮膚より侵入して感染する。河川での水遊
びは避け、活動においては防水対策を行い、水の接触を回避する事。
狂犬病: 狂犬病に感染した動物咬傷により感染し、発症時は、100%の死亡率であ
る。医療事情の問題で、国内での狂犬病ワクチン接種は困難であるので、
赴任前の予防接種を奨励する。
中東呼吸器症候群(MERS):2012 年の初発例報告以来、特にサウジアラビア、イエメ
ンなどアラビア半島で、多くの症例が報告されている新型
コロナウィルス感染症。高齢者や基礎疾患の有る人で重
症化する事があり、現在有効な治療薬がない。ラクダとの
接触やラクダ製品摂取が原因と推察されていることから、
日常生活での保清と食事に注意が必要である。
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(3) 有害動物、病害虫
砂漠にはサソリ、毒蛇が生息しており、移動時のみならず、宿舎での出現もある。
その他、夏場にさしかかるとダニやノミが発生し、刺された後の皮膚炎に悩まされるこ
とがある。ダニアレルギー等がある場合は、本邦からダニ対策グッズや防虫剤、かゆ
み止め等の持参を勧める。
7. 保健衛生
(1) 飲料水
水は硬水であり、日本の軟水とは異なるため、味の違和感や下痢等を発症する者
がある。また、蛇口から出てくる水は建物のタンクに貯水されたもので、消毒はなされ
ているものの、タンク・パイプの老朽化や汚染による、ゴミや細菌の混入が懸念される
ため、直接飲料水としては適さない。止むを得ず飲料水として使用する場合は、煮沸
が必要である。ミネラルウォーターはどこでも購入可能であるが、やはり硬水である。
(2) 生活環境
IZ 内での移動は、常に事前計画に基づく、警備員同行の防弾車両による移動で、
自由外出はできない状況となる。市内でのテロ・爆弾騒動などは継続的に発生してお
り、安全管理は常に優先課題である。日常生活上の制限が多い為、厳しい生活環境
である。
(3) 精神衛生
厳しい生活環境にあるためのストレスは、多大であると想像され、長期滞在におい
ては、各自のストレス対策が重要な健康維持要因となる。安全対策上、行動範囲の
制限があることを踏まえ、心身の安定を図るための工夫が必要となる。
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