Technical Report 熱分解GC/MSおよびMALDI-MSと

C146-0366
Technical
Report
熱分解GC/MSおよびMALDI-MSと
サイズ排除クロマトグラフィー分取システムを
用いた高分子材料の組成・構造解析
Compositional and structural analysis of polymer materials using a size-exclusion
chromatography fractionation system for pyrolysis-GC/MS and MALDI-MS
大谷 肇 1、志村 礼司郎 1、工藤 恭彦 2、山崎 雄三 2、中川 勝弘 2、宮川 治彦 2
Abstract:
高分子材料の品質管理や性能向上のために、その成分の組成や構造の詳細な解析がしばしば必要とされ、熱分解 GC/MS(Py-GC/MS)
やマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)が有効な手段として用いられている。しかし、複雑な配合成分により
構成された高分子材料の分析では混在した成分をまとめて分析することとなり、個々の成分の情報を正しく取得することが困難な場合が
あった。
本テクニカルレポートでは、サイズ排除クロマトグラフィー(Size-exclusion chromatography、SEC)により分離された溶出溶液を自動
分取するスポッティング装置 AccuSpot を用い、得られたフラクションを上記の分析装置で分析する手法を構築した。煩雑な操作を必要と
せず、混在した成分を分離して分析できるこの新手法を用いて、塗料原料材料の組成・構造解析を行った結果、成分が複雑に混合された
当該試料を詳細に分析することができた。
Keywords: SEC、AccuSpot、Py-GC/MS、MALDI-MS、塗料、高分子、構造解析
1. はじめに
高分子材料の品質管理・性能向上のために樹脂成分の組成分
析や構造解析がしばしば必要とされ、熱分解 GC/MS(Py-GC/MS)
や マトリックス 支 援 レ ー ザ ー 脱 離 イ オ ン 化 質 量 分 析 法
(MALDI-MS)はその有効な分析手法としてよく用いられている。
Py-GC/MS は樹脂を熱分解して生成する化合物を GC/MS で分析
する手法で、主に低分子(分子量 1,000 以下)の生成物が測定対
象となる。熱分解物の解析により樹脂の部分構造の解析や、添加
剤の分析が可能である 1)、2)。一方、MALDI-MS は主に分子量 500
∼10,000 程度のより高分子の試料を対象とし、成分の分子量をそ
のまま測定でき、樹脂の重合体の繰り返し構造や末端構造の解析
は、SECで分離された試料を分取して、サンプルカップやサンプル
プレートに自動スポッティングする装置 AccuSpot を開発した。
SECとAccuSpot を組み合わせて、煩雑な分取操作を行うことなく
複 雑 な 試 料 か ら 分 離 し た 各 フ ラ ク ショ ン を Py-GC/MS や
MALDI-MS で 容 易 に 分 析 で き る よう に す る 分 取 シ ス テ ム
SEC-AccuSpot を構築した(Fig. 1)
。MALDI-MS 分析時には溶出
液は AccuSpot にてマトリックス溶液と混合しつつ MALDI-MSプ
レートに滴下される。Py-GC/MS 分析時には AccuSpot 専用プレー
トにパイロライザー(Py)のサンプルカップをセットし、溶出液を
直接分画する。この装置を用いて、直接分析することが困難な塗
料配合原料の精密組成分析を行った。
が可能である 3)。
SECカラム
現在使用されている高分子材料は複数の樹脂を混合して機能
検出器
AccuSpot
性を高めたブレンドポリマーや多様な添加剤を配合したものもあ
り、組成が複雑な場合が多い。そのため、これらの手法を用いて
ポンプ
も複数成分からなるマススペクトルが得られ、その解析が困難と
なり、詳細な情報を得られない場合があった。
こうした問題を解決するためには、複雑な成分をできるだけ個
別に分離した後 Py-GC/MS や MALDI-MS 測定することが有効と考
充填材表面
大きい分子は速く
小さい分子は遅く溶出
えられる。低分子から高分子まで幅広く成分が混合された試料の
分離には、分子のサイズによって構成成分を分離する(大きいサ
MALDI-MSプレートまたは
Py-GC/MS用サンプルカップに滴下
イズの分子ほど早く溶出される)
、サイズ排除クロマトグラフィー
(Size-exclusion chromatography、SEC)が有効である。そこで我々
1 名古屋工業大学
2 島津製作所 分析計測事業部
Fig. 1 SEC-AccuSpot の構成と機能
1
なお、使用する溶媒が有機溶媒であることから、配管は耐溶媒性
2. 実験
の材質で構成されており、また、揮発した溶媒を排出するための
2-1. 試料調製
排気機能も備えている 4)。Py-GC/MSではマトリックス不要なので、
測定試料として脂肪族ウレタンアクリレートを主成分とする塗料
マトリックス溶液は使用せず溶出液のみを Py 用サンプルカップに
原料樹脂材料を用いた。この試料は実際にコーティング剤に使用
分取する。
されるもので、低粘度、速乾燥性、無色透明・無黄変などの特徴
を持つ。この試料をクロロホルムに溶解し、20 mg/mLとした溶液
2-3. SEC-AccuSpotによる分取操作
100 µL を SEC 分取に供した。
SEC の ポンプ は LC-20AD(島 津 製 作 所)
、カラムオーブン は
CTO-20AC(島津製作所)、カラムは有機溶媒系 SEC(GPC)用充
2-2. SEC-AccuSpotについて
填カラム GPC-K803(昭和電工)、GPCK-860M(昭和電工)とガー
SEC-AccuSpot は SEC-MALDI-MS 分 析 を自動 化 する目 的で、
ドカラム GPC K-G(昭和電工)を直列に連結したもの、検出器は
日産化学工業と島津製作所が共同で開発した。通常の分取 SEC を
示差屈折率検出器 RID-10A(島津製作所)を用いた。移動相溶媒
用いた場合、分取した各試料を MALDIプレートに滴下し、それぞ
にはクロロホルムを用い、流量は 1.0 mL/minとした。SECで分離
れにマトリックスの滴下を行うため、かなりの時間と労力を必要と
し た 試 料 成 分 を 含 む フ ラクション の 一 部 を 自 動 分 取 装 置
する。
AccuSpot NSM-1(島津製作所)を用いて、測定開始から20 ∼ 26
AccuSpot は SEC を用いて分離された溶出液を数 µL ずつ、マト
分の間に 30 秒ごとに分取した。Py-GC/MS 測定用には試料カップ
リックス溶液と自動で混合しつつ MALDIプレートに滴下できるた
に 20 µL ずつ直接滴下し、MALDI-MS 測定用にはカラム溶出液と
め、大幅に時間と労力を削減できる。Py-GC/MS に適用する場合
後述するマトリックス溶液の比率が 10:1となるように AccuSpotで
は、専用プレートに Py 用のサンプルカップを並べることで自動で
マトリックス溶液と混合した後、MALDI-MS 測定用のサンプルプ
分画できる(Fig. 2)。
レートに 0.55 µL ずつ滴下した。Py-GC/MS 測定用には成分濃度が
SEC-AccuSpot のプレートに接近する先端は 2 層構造になって
希薄なフラクションについてはこの操作を最大 10 回繰り返し、
おり(Fig. 3)、中心からは溶出成分が、2 層目からはマトリックス
MALDI-MS 測定用にはすべてのフラクションについて同じ位置に
溶液が溶出し、ノズル先端で混合されつつプレートに滴下される。
5 回繰り返しスポットすることによって、測定に必要な試料量を確
保した。
MALDI-MS
SEC
AccuSpot
オフライン
オンライン
MALDI用
SUSプレート
Py-GC/MS
熱分解GC/MS用
プレート
Fig. 2
SEC-AccuSpot/MALDI-MS または Py-GC/MS の装置構成
マトリックス溶液が
外側の層から溶出
溶出液が
中心の層から溶出
スポット直前
スポット中
Fig. 3
2
AccuSpot の配管先端
スポット後
2-4. Py-GC/MSの分析条件
2-5. MALDI-MSの分析条件
AccuSpotで試料カップに分取したフラクションを Py-GC/MSで
MALDI-MS 用のマトリックス溶液は、マトリックス:22.6 mg/mL
分析した。測定には熱分解装置として加熱炉型パイロライザー
ジスラノール(THF 溶液)1 mL、イオン化補助剤:1 mg/mLトリフ
PY-2020iD(フロンティア・ラボ)を GCMS-QP2010 Plus(島津製
ルオロ酢酸ナトリウム(THF 溶液)1 mL、質量校正用標準物質:1
作 所)に 装 着し た シス テム を 用 い た。分 離 カラム に は Ultra
mg/mLシマソーブ 119FL(第一同位体イオンピーク
ALLOY-5[長さ30 m、内径 0.25 mm、膜厚 0.25 µm]、金属キャピ
THF 溶液)100 µL を混合したものを用いた。MALDI-MS 測定には
ラリーカラム(フロンティア・ラボ)を用いた。
2285.61;
飛行時間型質量分析計 AXIMA-CFR plus(島津製作所)を使用し、
リニアポジティブモードで分析した。
各操作過程における詳細な分析条件は Table 1 に示す。
Table 1 SEC、AccuSpot、Py-GC/MS および MALDI-MS の分析条件
AccuSpot
SEC
[Instrument]
Pump
Column Oven
Detector
Degassing Unit
:
:
:
:
LC-20AD
CTO-20AC
RID-10A
DGU-20A3
[SEC]
Columns
Mobile Phase
Flow Rate
Injection Vol.
Oven Temp
: PY-2020iD (Frontier Laboratories)
: GCMS-QP2010 Plus
[Pyrolyzer]
: 600 °C
: Manual (300 °C)
[GC]
Column
Injection Temp.
Column Oven Temp.
Injection Mode
Carrier Gas
Flow Control Mode
Purge Flow
Split Ratio
AccuSpot NSM-1
20-26 min
30 s
0.1 mL/min
20 μL/cup
0.55 μL/well (Fraction:Matrix=10:1)
:
:
:
:
:
:
AXIMA-CFR plus
Linear Positive
40–80
m/z 0–5000
10
100
MALDI-MS
[Instrument]
Furnace Temp.
Interface Temp.
:
:
:
:
:
:
: Shodex GPC-K803 (8.0 mm I.D. × 300 mm,
6 mm, Showa Denko) + Shodex GPC K-806M
(8.0 mm I.D. × 300 mm, 10 mm, Showa Denko)
+ Shodex GPC K-G (Showa Denko)
: Chloroform
: 1.0 mL/min
: 100 μL (20 mg/mL in Chloroform)
: 40 °C
Py-GC/MS
Pyrolyzer
GC/MS
Instrument
Fraction Collection Time
Spot Interval
Martix Flow Rate (MALDI-MS)
Loadage (Py-GC/MS)
Loadage (MALDI-MS)
: Ultra ALLOY-5 (30 m × 0.25 mm I.D.,
df = 0.25 μm, Frontier Laboratories)
: 320 °C
: 50 °C (10 min) → (5 °C /min) → 300 °C (20 min)
: Split
: He
: Pressure (84.4 kPa)
: 3.0 mL/min
: 30
Instrument
Analysis Mode
Laser Strength
Mass Range
Shots
Profiles
[Mixture of matrix, cationizing reagent and mass calibration standard]
Matrix
Cationization Reagent
Mass Calibration Standard
: 22.6 mg/mL Dithranol in THF 1mL
: 1 mg/mL Na-TFA in THF 1 mL
: 1 mg/mL Chimassorb 119FL in THF 100 μL
THF: Tetrahydrofuran, TFA: Trifluoroacetic acid
[MS]
Interface Temp.
Ion Source Temp.
Measurement Mode
Scan Mass Range
Scan Event Time
Scan Speed
:
:
:
:
:
:
250 °C
250 °C
Scan
m/z 40–600
0.5 sec
1250 u/sec
3
パイログラム
3. 結果・考察
O
イソホロンジイソシアネート 25.5∼26.0 min
(IPDI)
OH
アクリル酸
Fig. 4 に、塗料原料試料全体の SECクロマトグラムおよび各フ
O
O
C
27.5
O
O
N
O
O
O
O
O
O
ラクションのパイログラムとMALDI マススペクトルを示す。試料
25.0
全体のSECクロマトグラムには、大きく2つのピークが観察された。
22.5
また、各フラクションの Py-GC/MS 分析により得られたパイログラ
20.0
ムは SECクロマトグラム上の 2 つのピークにほぼ対応して、それ
17.5
N
2-メチル -2-プロペナール
PETTA
C
O
ぞれ異なるパターンを示した。パイログラム上の 35 分付近に現
15.0
れるピークは高分子量フラクションにおいては主成分ピークであ
12.5
min
0
10
5
15
20
Fig. 5
min
35
30
40
298
45
50
55
MALDI マススペクトル
n=0
25.5∼26.0 min
375.2
n=1
673.3 n=2
971.2
500
1000
1500
るが、低分子量フラクションでは微小なピークとして観察された。
また 45 分付近のピークは低分子量フラクションのみで観察され
25
3000
2000 2500
m/z
4000
3500
25.5∼26.0 分間のフラクションの解析結果 1:ピーク●の検出
た。一方、MALDI マススペクトルではフラクションの分子量に対
応して、観察されるピーク群の
値が徐々にシフトしていること
O
が分かる。
O
SECクロマトグラム
パイログラム
MALDIマススペクトル
27.5
OH
O
O
O
O
O
O
O
O
O
:
O
OH
O
H
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
n
ペンタエリスリトール ペンタエリスリトール
トリアクリレート
テトラアクリレート
(PETA)
(PETTA)
分子量(+Na)
:
375.1
25.0
O
O
+ n
O
分子量:
298.1
分子量(+Na)
(n=1)
:673.2
(n=2)
:971.3
22.5
Fig. 6
20.0
ピーク●の推定される分子構造の一例
17.5
15.0
また、パイログラムの 35 分のピークはイソホロンジイソシア
12.5
ネ ート(IPDI)と同 定 され た。MALDI マスス ペクトル で は
10.0
841 が検出されたことから、これは IPDE のイソシアネート基に
7.5
PETA 2 分子がヒドロキシ基を介してウレタン結合したウレタンア
5.0
クリレート成分であると推定される。また
2.5
0 min
0 5
15
25
min
35
45
0
1000
2000
m/z
3000
841 から
298
の間隔で一連のピーク群(■)が観察されたことから、PETA が
重合した一連のウレタンアクリレート成分が存在することが分
Fig. 4
試料全体の SECクロマトグラムおよび各フラクションの
パイログラムとMALDI マススペクトル
かった(Fig. 7、8)。
パイログラム
O
3-1. 低分子量領域のフラクションの解析
アクリル酸
20.0
17.5
ンの MALDI マススペクトルにおいてもPETTA の分子量(+Na)に
15.0
対応する
12.5
min
375 か
ら298 の間隔で一連のピーク群(●)が観察され、この質量間隔
4
O
O
O
PETTA
C
O
22.5
アクリル酸、2-メチル-2-プロペナールが検出された。同フラクショ
一致したことから、PETTA に PETA が重合した成分が存在している
O
O
N
2-メチル -2-プロペナール
25.0
ルテトラアクリレート(PETTA)と同定され、その熱分解物である
ことが分かった(Fig. 5、6)。
O
O
N
O
O
Py-GC/MS のパイログラムの 45 分のピークはペンタエリスリトー
はペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)の分子量 298と
O
C
27.5
25.5 ∼ 26.0 分 の 最 も 低 分 子 量 の フ ラクション に つ い て、
375 が主ピークとして検出された。また
イソホロンジイソシアネート 25.5∼26.0 min
(IPDI)
OH
Fig. 7
0
5
n=0
841.1
10
15
20
25
min
30
35
40
45
50
MALDI マススペクトル
298
25.5∼26.0 min
n=1
1139.3
n=2
1437.4
500
1000
55
1500
2000 2500
m/z
3000
3500
4000
25.5∼26.0 分間のフラクションの解析結果 2:ピーク■の検出
O
C
N
OH
+2
N
C
O
O
O
O
O
O
C N
O
O
O
O
O
O
O
H
N
O
C
O
H
O
O
O
O
O
:
O
O
O
PETA
ウレタンアクリレート
分子量(+Na)
:
245.1
分子量:
298.1
分子量(+Na)
:
841.3
O
O
O
O
O
C N
H
N
O
O
OH
C
O
O
H
O
O
O
O
O
O
O
+n
O
N
H
O
:
O
O
O
O
O
O
O
N
O
O
分子量(+Na)
:
841.3
分子量:
298.1
O
N
C
O
O
O
O
O
+
O
O
O
O
O
O
O
O
C N
O
O
O
HO
O
O
O
H
OH
O
O
O
O
O
O
O
HO
C N
H
O
N
C
O
O
H
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
n
H
O
N
OH
C
O
O
H
O
O
O
O
O
O
+n
O
O
O
O
分子量(+Na)
:
913.3
分子量:
72.0
O
O
O
PETA
分子量(+Na)
(n=1)
:1139.4
(n=2)
:1437.5
分子量(+Na)
:
913.3
分子量:
298.1
O
N
H
O
Fig. 8
O
O
O
OH
O
分子量(+Na)
:
841.3
O
PETA
O
H
H
アクリル酸
O
O
O
O
ウレタンアクリレート
C N
O
O
H
O
O
O
O
n=0
イソホロンジイソシアネート
(IPDI)
:
O
:
ピーク■の推定される分子構造の一例
O
O
N
O
O
O
H
O
O
O
O
O
O
O
O
O
HO
H
OH
O
O
O
O
O
n
O
O
分子量(+Na)
(n=1)
:1211.4
(n=2)
:1509.5
24.0∼24.5 分のフラクションでは、25.5∼26.0 分のフラクション
Fig. 11 ピーク▲の推定される分子構造の一例
と比較してPy-GC/MS のパイログラム中の PETTA のピークの強度
が SECクロマトグラムのピーク強度に対応して増加しており、パ
イログラム全体の中での割合が大きくなった。同フラクションの
MALDI マススペクトル上では 25.5∼26.0 分と同様に●、■のピー
ク群(いずれもn=0、1、2)が検出されたが、さらに
447、913
にもピークが出現した(Fig. 9)。
また、
447 のピークは PETTA{分子量(+Na)375.1}にア
クリル酸(分子量 72.0)が結合したものと推定される。この
298 間隔のピーク群が観察されたことから(★)、
447 からも
この成分に PETA が重合した成分も含まれることが示唆された
パイログラム
(Fig. 12、13)。
24.0∼24.5 min
O
C
O
N
27.5
O
O
O
N
O
O
C
O
O
n=0
O
25.0
0
22.5
5
20.0
n=0
17.5
15
10
20
25
30
min
35
15.0
45
50
55
n=1
n=2
24.0∼24.5 min
913.3
1043.2
n=1
n=2 n=2
500
12.5
min
1000
1500
2000
2500
3000
3500
500
4000
m/z
Fig. 9
24.0∼24.5 min
745.2
MALDI マススペクトル
447.1
n=0
n=1
40
MALDI マススペクトル
298
447.1
1000
Fig. 12
24.0∼24.5 分間のフラクションの解析結果 1:
ピーク●、■と
447、913 の検出
O
913 のピークは前述の IPDIとPETA 2 分子が結合したウレ
:
タンアクリレート{分子量(+Na)841.3}にアクリル酸(分子量
72.0)が結合した成分と推定される。この
913 からも
1500
O
O
O
O
+
O
PETTA
アクリル酸
分子量(+Na)
:
375.1
分子量:
72.0
OH
O
HO
O
O
O
O
O
MALDI マススペクトル
1211.3
n=2
1509.4
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
O
O
O
+n
分子量(+Na)
:
447.1
O
O
O
O
O
O
分子量(+Na)
:
447.1
PETA
分子量:
298.1
O
:
n=1
O
O
O
O
n=0
O
O
O
重合した成分も含まれることが分かった(Fig. 10、11)。
913.3
HO
OH
O
298
24.0∼24.5 min
4000
3500
O
間隔のピーク群が観察されたことから(▲)、この成分に PETA が
298
3000
2500
m/z
24.0∼24.5 分間のフラクションの解析結果 3:
ピーク★の検出
O
O
O
2000
HO
O
OH
O
O
O
O
O
O
O
O
O
H
O
O
O
O
n
分子量(+Na)
(n=1)
:745.2
(n=2)
:1043.3
m/z
Fig. 13 ピーク★の推定される分子構造の一例
Fig. 10
24.0∼24.5 分間のフラクションの解析結果 2:
ピーク▲の検出
5
これらのことから、低分子領域のフラクションには「PETTA」、
一方、MALDI マススペクトルでは、より高分子量領域のフラク
「IPDIとPETA 2 分子」、「IPDIとPETA 2 分子とアクリル酸 1 分子」、
ションになるにつれて高質量側にピークがシフトした。IPDIと
「PETTAとアクリル 酸 1 分 子」の 4 種 類 の 共 通 構 造 に、さらに
PETA からなるウレタンアクリレート(■)では PETA が最大 6 つま
PETA が重合された成分が含まれていることが分かった。最も主
で重合した成分が検出された(Fig. 15)
。図には示していないが、
要な成分は PETTA で、副成分は PETTA および PETA からなるオリ
PETTAとPETA のオリゴマー(●)については PETA が最大 4 つま
ゴマー(3∼4 量体程度)および IPDI を一単位有するウレタンアク
で重合した成分が検出され、IPDIとPETAとアクリル酸からなるウ
リレート重合体である。
レタンアクリレート(▲)については PETA が最大 4 つまで重合した
成分が検出された。
3-2. 中間領域のフラクションの解析
24.0∼24.5 分のより低分子量領域と比較して、23.0∼23.5 分の
27.5
中間領域のフラクションでは、Py-GC/MS のパイログラムはほぼ
22.5
ピーク強度が減少していた。22.0∼22.5 分のフラクションでは
20.0
Py-GC/MS のパイログラムの 45 分の PETTA のピークは消失し、
17.5
:
内部標準
1139.3
22.0∼22.5 min
N
H
O
O
O
N
O
O
O
O
O
H
OH
O
O
O
O
O
n
21.0∼21.5 min
分子量(+Na)
(n=2)
:1437.5
(n=3)
:1735.6
n=3
1735.8
20.5∼21.0 min
分子量(+Na)
n=4
2033.5 n=5
(n=4)
:2033.7
n=6
2331.3 2629.4
(n=5)
:2331.8
20.0∼20.5 min
7.5
は、低分子量領域に比べ、ウレタンアクリレート構造を含む PETA
O
O
O
10.0
▲)の割合が増加した(Fig. 14)
。これより中間領域のフラクション
O
O
O
n=2
1437.5
12.5
ウレタンアクリレート
(■、
375(●n=0)は消失し、
O
O
H
O
15.0
IPDI のピーク強度が増加した。MALDI マススペクトルでもPETTA
単体のピーク
n=1
25.0
同様であったが、MALDI マススペクトルでは PETTA のピークのみ
分子量(+Na)
(n=0)
:841.3
(n=1)
:1139.4
n=0
841.1
5.0
の重合体の割合が多いことが分かった。
2.5
500
1000
1500
2000
m/z
0 min
3000
2500
3500
4000
パイログラム
O
27.5
23.0∼23.5 min
O
O
O
O
Fig. 15
O
O
O
高分子量フラクションの MALDI マススペクトル 1:ピーク■の検出
(図には示していないがピーク●、▲も検出されている。)
25.0
22.5
O
O
C
17.5
N
C
O
0
5
10
15
20
25
10.0
Fig. 14
35
40
45
50
55
MALDI マススペクトル
ジ アクリレ ートPEDA 1 つ とIPDI 2 つ とPETA 2 つ( )」ま た は
「PEDA 2 つとIPDI 3 つとPETA 3 つ(◆)」からなる成分、およびそ
23.0∼23.5 min
n=1
n=1
n=0n=2
n=1 n=2n=2
n=0
れらにさらに PETA が重合した成分と推察されるピーク群も検出さ
れた(Fig. 16)。このことから、高分子量側のフラクションには、
n=0
22.0∼22.5 min
IPDI を複数単位含むウレタンアクリレートオリゴマーがかなり含ま
n=1
n=1
n=1n=0
n=2 n=1n=2
n=2
2.5
0 min
30
n=0 n=1 n=0
7.5
5.0
min
また、21.0∼21.5 分、20.5∼21.0 分および 20.0∼20.5 分の最も
高分子量側のフラクションでは、新たに「ペンタエリスリトール
O
15.0
12.5
22.0∼
22.5 min
N
OH
20.0
500
1000
1500
れていることが分かった(Fig. 17、18)。
2000
m/z
2500
3000
3500
4000
23.0∼23.5 分間と22.0∼22.5 分間のフラクションの解析結果
22.0∼22.5 min
27.5
25.0
3-3. 高分子量領域のフラクションの解析
n=1
1605.4
20.0
高分子量領域のフラクションの解析結果を Fig. 15、16 に示す。
n=0
1307.4
17.5
図中には示していないが、この領域の Py-GC/MS のパイログラム
n=1
2071.9
n=2
n=2
1903.7 2370.2
n=3
n=3
2201.6 2668.5
15.0
は中間領域の 22.0∼22.5 分のフラクションと基本的に同じであり、
n=4
2499.5
12.5
PETTAのピークは消失しており、IPDIのピークが大きく検出された。
10.0
IPDI を含むウレタンアクリレートは、重合度に関わりなく熱分解に
5.0
2.5
0 min
Fig. 16
21.0∼21.5 min
20.5∼21.0 min
n=4
2966.3 n=5
3264.5
20.0∼20.5 min
n=5
2798.8 n=6
n=6
3095.2 3562.6
7.5
よりIPDI を生成するためと考えられる。
6
内部標準
22.5
500
1000
1500
2000
m/z
2500
3000
3500
4000
高分子量フラクションのMALDIマススペクトル2:ピーク 、
◆の検出
4. 結論
O
C
OH
O
O
O
HO
OH
N
+2
O
+2
N
C
O
O
O
O
O
O
今回解析対象とした塗料原材料試料については、SEC のクロマ
O
ペンタエリスリトール
ジアクリレート
(PEDA)
IPDI
PETA
分子量:
222.1
分子量:
298.1
分子量(+Na)
:
267.1
O
トグラム 上 に 主として 2 本 の ピ ークが 観 測 され た。これらの
AccuSpot による分画および各フラクションの解析により、25 分付
O
O
C N
O
O
H
N
C
O
O
H
O
O
O
O
近の低分子量領域のピークの主成分は、PETTA および PETTAと
O
O
O
O
C
O
:
O
O
O
N
H
C N
O
O
O
O
O
O
(n=0)
領域にかけて幅広く存在し、高分子量側にもう1 つのピークを形
O
O
O
成していることが分かった。また、高分子量になるほどPETAと
O
O
O
O
O
O
O
O
O
C
H
O
O
C
N
H
O
PETA の重合体であり、それ以外の成分が高分子領域から低分子
H
N
C
H
N
OH
+n
H
N
O
C
O
O
分子量(+Na)
:
1307.5
O
O
O
O
O
IPDI で構成されるウレタンアクリレートオリゴマーの存在割合が
O
高くなることが確認された。
O
O
O
O
PETA
分子量:298.1
O
分子量(+Na)
:
1307.5
(PEDA + IPDA × 2 + PETA × 2)
このように SECと自動スポッティング装置 AccuSpot を用いた
N
O
O
分取システムとPy-GC/MS や MALDI-MS などの質量分析装置を
O
O
O
O
O
O
H
O
O
O
H
N
O
O
O
O
O
組み合わせることで、これまで分析が難しかった複雑な組成を持
H
N
:
O
N
H
O
O
O
O
O
O
OH
H
つ高分子材料について、幅広い分子量領域の成分組成を詳細に
O
O
O
解析できる。高分子材料の品質管理や高機能化に向けた新規開
O
O
O
O
n
発のための精密組成分析やポリマー中の不純物解析、添加剤分
分子量(+Na)
(n=1)
:1605.6
(n=2)
:1903.7
析など様々な分野での応用が期待される。
Fig. 17 ピーク の推定される分子構造の一例
参考文献
1) Y. Taguchi, Y. Ishida, S. Tsuge, H. Ohtani, K. Kimura, T. Yoshikawa, H.
O
C
OH
+
O
O
OH
N
O
O
HO
+
N
C
O
Matsubara,
2) K. Takeuchi, H. Aoi, H. Ohtani,
O
3) H. Ohtani, T. Iura,
O
IPDI
PETA
分子量:
222.1
分子量:
298.1
山崎雄三 pp. 249‒262
O
O
O
O
O
O
O
O
C N
O
O
H
O
N
C
O
O
O
H
+
O
O
O
OH
O
O
O
O
O
OH
O
O
C
O
O
N
H
O
O
O
OH
分子量:
764.3
O
O
O
O
O
O
O
C
O
C
H
O
O
N
O
N
H
C N
O
O
N
, 113 (2015) 22‒26
., 3 (2014) S0041
4) 合成高分子クロマトグラフィー, 大谷 肇 , 寶崎 達也共編 , オーム社 (2013);
PEDA
分子量:
244.1
O C
., 83 (2004) 495‒499
O
O
O
O
H N
C O
O
O
O
O
O
O
分子量:764.3
(PEDA + IPDA + PETA)
O
分子量(+Na)
:
1307.5
(PEDA + IPDA × 2 + PETA × 2)
O
N
N
O C
C
O
O
O
O
O
O
O
O
O
OH
O
O
O
C
O
O
N
N
O
N
H N
O
O
OH
O
O
O
H
O
O
O
O
C
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
N
N
O C
C
O
O
O
O
O
O
O
O
O
OH
O
O
(n=0)
O
C
O
O
O
O
O
N
分子量(+Na)
:
2071.9
(PEDA × 2 + IPDA × 3 + PETA × 3)
O
N
O
O
N
H
O
O
O
O
C
O
O
H N
O
OH
O
O
+n
OH
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
分子量(+Na)
:
2071.9
O
O
PETA
分子量:
298.1
O
N
O C N
OH
O
H
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
n
OH
O
O
O
O
O
O
O
N
O
O
O
N
H
O
O
O
O
O
N
O
O
H N
O
OH
O
O
O
O
O
O
O
O
分子量(+Na)
(n=1)
:2370.0
(n=2)
:2668.1
Fig. 18 ピーク◆の推定される分子構造の一例
7
合成高分子中の微量成分解析、高分子構造解析
SEC AccuSpot-AXIMA システム
AXIMA Performance
ミクロ LC
SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)により分離・分取した溶出液を、
AccuSpot
MALDI プレート用スポッティング装置 AccuSpot により自動でサンプ
ルスポットし、同時に MALDI イオン化に必要なマトリックス試薬等を
混合します。スポットの終わったプレートはただちに MALDI-TOFMS
AXIMA シリーズで分析できます。
SEC
MALDIプレート
微量成分の検出・構造解析が容易
SEC による分離により、ポリマーを直接 MALDI-TOFMS で分析する方
システム構成例
(A)
法と比較すると主成分によるイオン化抑制を受けにくく、副反応生成
物や添加剤などの微量成分の検出・構造解析が容易になります。
また全体としての分子量分布のみでなく、ポリマー中のモノマーの
構成など詳細な構造解析情報を得ることが可能です。ポリマー解析
ソフトウェア(オプション)を用いることで、単純なホモポリマー成分
(B)
だけでなく、複雑なコポリマー成分も容易に解析できます。
11 分 18 秒後のフラクション
分離前後のマススペクトルの比較
(A)SEC による分離前 (B)SEC による分離後
合成高分子中の微量成分解析、高分子構造解析
SEC AccuSpot-Py-GC/MS システム
SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)により分離・分取した溶出液を、
ミクロ LC
MALDI プレート用スポッティング装置 AccuSpot を用いて、専用プ
AccuSpot
サンプルカップ
AS-1020E
EGA/PY-3030D
レートに設置した Py-GC/MS 用サンプルカップに自動で添加します。
サンプルカップに添加された試料はただちに Py-GC/MS で分析でき
ます。
専用プレート
GCMS-QP2020
SEC
SECとGC を組み合わせた高分離、
マススペクトルライブラリーを用いた定性解析
システム構成例
Py-GC/MS はポリマーの熱分解物の分析による構造解析や不純物、
添加物等の微量成分の検出・同定に有効です。SEC による分離と組
み合わせることで、分子量分布を反映したブレンドポリマーの解析
や、ポリマーと添加剤等の低分子量成分を分離した詳細解析が可能
になります。NIST や Willey などのマススペクトルライブラリーを用
いることで様々な成分の定性解析が可能です。
ブレンドポリマー(PC+PMMA)の分析
本資料の掲載情報に関する著作権は当社または原著作者に帰属しており、権利者の事前の書面による
許可なく、本資料を複製、転用、改ざん、販売等することはできません。
掲載情報については十分検討を行っていますが、当社はその正確性や完全性を保証するものではあ
りません。また、本資料の使用により生じたいかなる損害に対しても当社は一切責任を負いません。
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初版発行:2016 年 12 月
© Shimadzu Corporation, 2016
3218-10602-10ANS