日本統計学会誌, 第45巻, 第2号, 247頁-271頁

日本統計学会誌
第 45 巻, 第 2 号, 2016 年 3 月
247 頁 ∼ 271 頁
順序制約のある場合のすべての平均相違に対する
Bartholomew の検定に基づく閉検定手順
白石 高章∗ ,松田 眞一∗
Closed Testing Procedures Based on Bartholomew’s Tests
for the Differences Among Mean Responses
Under a Simple Ordered Restriction
Taka-aki Shiraishi∗ and Shin-ichi Matsuda∗
分散が同一で平均母数に傾向性のある多群の連続モデルを考える.このとき,正規分布モデル
でのすべての平均相違に関するシングルステップの多重比較法が Hayter (1990) によって提案さ
れている.このシングルステップの多重比較法を優越する Bartholomew の検定に基づく閉検定
手順について論述する.ノンパラメトリックバージョンとして,順位に基づく閉検定手順も提案
する.提案したこれらの手法は標本サイズが異なる場合も適用可能となっている.
Under the assumptions of continuous distribution and homogeneous variance, we consider
multiple comparisons tests for the differences among mean responses in k samples. Hayter
(1990) proposed single-step procedure as all-pairwise comparison test between ordered treatments in k samples under assuming normality. We propose closed testing procedures based
on Bartholomew’s tests. The proposed procedures are superior to Hayter (1990). Furthermore nonparametric closed testing procedures are discussed based on ranks. The closed testing
procedures proposed in this paper are applicable for the models with unequal sample sizes.
キーワード: 多重比較法,正規分布論,標本分布論, 漸近理論, 順位検定
はじめに
1.
分散の等しい正規分布を仮定した多群モデルにおけるすべての平均相違の多重比較法が,
Tukey (1953) と Kramer (1956) によって提案され,現在ではテューキー・クレーマー法
(Tukey-Kramer 法) とよばれている. 2 群間の t 検定統計量を tii0 とするとき,maxi<i0 |tii0 |
√
の分布が,スチューデント化された範囲の 2 倍の統計量の分布によって下から抑えられる
ことを,Hayter (1984) は示した.maxi<i0 |tii0 | の分布を上から抑える分布が,白石 (2006)
∗
南山大学理工学部:〒 466-8673 名古屋市昭和区山里町 18.
248
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
によって与えられた.白石 (2006) は,これらの不等式と数値積分を利用して,テューキー・
クレーマー法の保守度を調べることができた.正規分布の下でのテューキー・クレーマー型
多重比較検定を発展させた手法として,Hsu (1996) で紹介されている REGW (Ryan/Einot-
Gabriel/Welsch) 法が閉検定手順として知られている.これらの閉検定手順よりも一様に
検出力が高い閉検定手順を白石 (2011a) は論述した.
分散の等しい k 群正規モデルで,位置母数に傾向性の制約
µ1 5 µ2 5 · · · 5 µk
(1.1)
のある場合に,標本サイズが等しい
n1 = · · · = nk
(1.2)
の 条 件 の 下 で す べ て の 平 均 相 違 の 多 重 比 較 検 定 と し て Hayter (1990) は ,統 計 量
maxi<i0 (−tii0 ) を基にした手法を論じた.この多重比較法はシングルステップの方法であ
る.マルチステップ法として,白石 (2014) は maxi<i0 (−tii0 ) に基づく閉検定手順を提案
し,次の (i)–(iii) の結果を得た. (i) 白石 (2014) の閉検定手順が Hayter (1990) のシングル
ステップ法を優越していることを数学的に示した.(ii) 計算機シミュレーションによって,
総対検出力において,白石 (2014) の閉検定手順が Hayter (1990) のシングルステップ法を
40% 優越する場合があることを検証した.(iii) 白石 (2014) の閉検定手順が平均母数に制約
のない場合のすべての平均相違に対する白石 (2011a) で述べた閉検定手順を優越すること
を, 計算機シミュレーションにより検証した.白石 (2014) の閉検定手順を実行するために
必要な maxi<i0 (−tii0 ) の分布の上側 100α? % 点 (α? = 1 − (1 − α)`/M , 2 5 ` 5 M 5 k) を
求める計算アルゴリズムを,白石・杉浦 (2015) は sinc 近似法を使って論述した.
傾向性の制約 (1.1) と正規分布の下での一様性の帰無仮説に対する尤度比検定が
Bartholomew (1959) によって導かれた.尤度比検定法のより詳しい説明が Barlow et al.
(1972) や Robertson et al. (1988) に掲載されている.本論文では,尤度比検定法で用いら
れた Bartholomew (1959) が用いた検定統計量を基に正規母集団でのマルチステップの多
重比較検定法として 2 つの閉検定手順を提案する.そのうちの 1 つの閉検定手順は,白石
(2014) の閉検定手順をおおよそ優越していることを計算機シミュレーションによって検証
する.Hayter (1990) のシングルステップ法と白石 (2014) の閉検定手順では標本サイズが
等しいとする条件 (1.2) を必要とするが,提案される閉検定手順は,標本サイズが異なった
データに対しても適用が可能である.
さらに 2 標本順位統計量を基に分布に依らないノンパラメトリックバージョンも論じる.
249
順序制約のある場合の閉検定手順
2.
モデルと多重比較法によって推測される母数
ある要因 A があり,k 個の水準 A1 , . . . , Ak を考える.水準は群ともよばれる.水準 Ai
における標本の観測値 (Xi1 , Xi2 , . . . , Xini ) は第 i 標本または第 i 群とよばれ,平均が µi で
ある同一の連続型分布関数 F (x − µi ) をもつとする.すなわち,
P (Xij 5 x) = F (x − µi ) , E(Xij ) = µi
∫∞
である.f (x) ≡ F 0 (x) とおくと, −∞ xf (x)dx = 0 が成り立つ.さらにすべての Xij は互
いに独立であると仮定する.総標本サイズを n ≡ n1 + · · · + nk とし,k 群モデルの表 1 を
得る.位置母数に片側の制約 (1.1) がある場合での未知母数 µi の多重比較法について論じ
る.便宜上,平均の一様性の帰無仮説を,
H0 : µ 1 = · · · = µ k
(2.1)
とする.
(1.1) の制約の下で,k 個の水準の平均母数のすべての比較を考える.
i, i0 を 1 5 i < i0 5 k とする.1 つの比較のための検定は
A
帰無仮説 H(i,i0 ) : µi = µi0 vs. 対立仮説 H(i,i
0 ) : µi < µi0
となる.帰無仮説のファミリーを,
H ≡ {H(1,2) , H(1,3) , . . . , H(1,k) , H(2,3) , . . . , H(2,k) , . . . , H(k−1,k) }
= {Hv | v ∈ U}
(2.2)
とおく.ただし,
U ≡ {(i, i0 ) | 1 5 i < i0 5 k}
表1
(2.3)
k 群モデル.
群 サイズ
データ
平均
分布関数
第1群
n1
X11 , . . . , X1n1
µ1
F (x − µ1 )
第2群
n2
X21 , . . . , X2n2
µ2
F (x − µ2 )
..
.
..
.
..
..
..
. . .
..
.
..
.
第k群
nk
Xk1 , . . . , Xknk
µk
F (x − µk )
総標本サイズ: n ≡ n1 + · · · + nk (すべての観測値の個数)
µ1 , . . . , µk はすべて未知母数であるが µ1 5 µ2 5 · · · 5 µk の
制約を置く.
250
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
とする.
定数 α (0 < α < 1) をはじめに決める.
X ≡ (X11 , . . . , X1n1 , . . . , Xk1 , . . . , Xknk ) の実現値 x によって,任意の Hv ∈ H に対して
Hv を棄却するかしないかを決める検定方式を φv (x) とする.
µ ≡ (µ1 , . . . , µk ) とおく.すべての 1 5 i < i0 5 k に対して,µi < µi0 のときは,有意水
準は関係しないので,
Θ0 ≡ {µ | 1 つ以上の帰無仮説 H(i,i0 ) が真 }
= {µ | ある i < i0 が存在して, µi = µi0 }
とおき,µ ∈ Θ0 とする.このとき,正しい帰無仮説 H(i,i0 ) は 1 つ以上ある.また,確率は
µ に依存するので,確率測度を Pµ (·) で表わす.
このとき,任意の µ ∈ Θ0 に対して
Pµ (正しい帰無仮説のうち少なくとも 1 つが棄却される) 5 α
(2.4)
を満たす検定方式 {φv (x) | v ∈ U} を,H に対する水準 α の多重比較検定法とよんでいる.
(2.4) の左辺を,(µ を固定したときの) 第 1 種の過誤の確率またはタイプ I FWER (type I
familywise error rate) とよぶ.また,(2.4) の右辺の α は全体としての有意水準である.
正規母集団でのパラメトリック法
3.
Xij ∼ N (µi , σ 2 ) とする.すなわち第 2 節の表 1 のモデルで F (x) は N (0, σ 2 ) の分布関
数である.
3.1
一様性の検定統計量
(2.1) の一様性の帰無仮説 H0 vs. 対立仮説 H A : µ1 5 µ2 5 · · · 5 µk (少なくとも 1 つの
不等号は < である ) に対する検定統計量について紹介する.順序制約 (1.1) があるので,帰
無仮説 H0 vs. 対立仮説 H A は,
帰無仮説 H0 : µ1 = µk vs. 対立仮説 H A : µ1 < µk
と同値である.µ̃∗1 , . . . , µ̃∗k を
k
∑
i=1
(
)2
λni µ̃∗i − X̄i· =
min
u1 5···5uk
を満たすものとする.ただし,X̄i· ≡ (1/ni )
∑ni
j=1
k
∑
(
)2
λni ui − X̄i·
i=1
Xij , λni ≡ ni /n (i = 1, . . . , k) とする.
µ̃∗1 , . . . , µ̃∗k は順序制約 (1.1) の下での最尤推定量でアイソトニック回帰と呼ばれている.σ 2
を既知としたときの帰無仮説 H0 vs. 対立仮説 H A に対する尤度比検定統計量が
∑k
ni (µ̃∗i − X̄·· )2
2
χ̄ ≡ i=1
σ2
251
順序制約のある場合の閉検定手順
で与えられることを Bartholomew (1959) は示した.ただし,X̄·· ≡ (1/n)
とする.P (L, k; λn ) を,µ̃∗1 , . . . , µ̃∗k
∑k ∑ni
i=1
j=1
Xij
がちょうど L 個の異なる値となる H0 の下での確率と
する.ただし,λn ≡ (λn1 , . . . , λnk ) = (n1 /n, . . . , nk /n) とする.このとき,Robertson et
al. (1988) の定理 2.3.1 により,H0 の下で,t > 0 に対して
P0 (χ̄ = t) =
2
k
∑
(
)
P (L, k; λn )P χ2L−1 = t
(3.1)
L=2
が成り立つ.ただし,P0 (·) は H0 の下での確率測度を表し,χ2L−1 は自由度 L − 1 のカイ 2 乗
分布に従う確率変数である.P (L, k; λn ) の値を求めるアルゴリズムが Miwa et al. (2000)
に記述されている.以下,我々の記号にそって記述する.
P (k, k; λn ) = P0
(√
nX̄1· < · · · <
√
)
nX̄k· = P (Y1 < Y2 < · · · < Yk )
(3.2)
を Hayter and Liu (1996) により 1 次元の数値積分を繰り返すことによって得ることがで
きる.ただし,Y1 , . . . , Yk は互いに独立で,各 Yi は N (0, 1/λni ) に従うものとする.
{I1d , I2d , . . . , ILd } は {1, 2, . . . , k} の直和分割で,次の性質 (D1) を満たす.
(D1) 各 Isd は連続した整数の値からなる ∅ でない集合とする.さらに,L = 2 のとき,
d
の要素の最小値よ
1 5 s 5 L − 1 となる任意の整数 s に対して,Isd の要素の最大値は Is+1
りも小さい.
#(Isd ) を Isd の要素の個数とし,Λ(Isd ) ≡
∑
i∈Isd
λni で定義し,Isd = {i, i + 1, . . . , j} の
とき λn (Isd ) ≡ (λni , λni+1 , . . . , λnj ) で定義する.このとき,Robertson et al. (1988) の定
理 2.4.1 により,L = 2, . . . , k − 1 に対して
P (L, k; λn )
=
∑
L
(
)∏
P L, L; Λ(I1d ), Λ(I2d ), . . . , Λ(ILd )
P (1, #(Isd ); λn (Isd ))
d}
{I1d ,I2d ,...,IL
(3.3)
s=1
が成り立つ.ただし,和は,{I1d , I2d , . . . , ILd } が (D1) を満たす {1, 2, . . . , k} の直和分割全
体を動く.(3.3) の #(Isd ) は k − 1 以下となる.
さらに,余事象の関係から
P (1, k; λn ) = 1 −
k
∑
P (L, k : λn )
L=2
が解る.初期値は
P (1, 1; λni ) = 1
(1 5 i 5 k)
P (1, 2; λni , λnj ) = P (2, 2; λni , λnj ) =
(3.4)
1
2
(1 5 i < j 5 k)
(3.5)
252
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
である.
λn1 = · · · = λnk = 1/k のとき,すなわち,サイズが等しいとする条件 (1.2) のとき,
P (L, k; λn ) は L, k だけに依存するので,これを簡略化して P (L, k) と書くことにする.こ
のとき,Barlow et al. (1972) により次の漸化式を得る.
1
,
k
1
P (L, k) = {(k − 1)P (L, k − 1) + P (L − 1, k − 1)} ,
k
1
P (k, k) = .
k!
P (1, k) =
(2 5 L 5 k − 1)
σ 2 が未知のときの尤度比検定統計量は
∑k
ni (µ̃∗i − X̄·· )2
χ̄2
2
Ē ≡ i=1
=
(n − 1)σ̃02
(n − 1)σ̃02 /σ 2
と表される.ただし,σ̃02 ≡ {1/(n − 1)}
∑k ∑ni
i=1
j=1 (Xij
− X̄·· )2 とする.σ̃02 は H0 の下で
の σ 2 の不偏推定量である.H0 の真偽に関係なく,σ 2 の不偏推定量は
i
1 ∑∑
(Xij − X̄i· )2
m i=1 j=1
k
VE ≡
n
(3.6)
で与えられ,多重比較検定統計量の分母や分散分析の F 統計量の分母に使われている.た
だし m ≡ n − k とする.Ē 2 の分母にある (n − 1)σ̃02 を VE に置き換えた統計量は
∑k
B̄ 2 ≡
i=1
ni (µ̃∗i − X̄·· )2
χ̄2
=
VE
VE /σ 2
と表される.χ̄2 と VE が互いに独立であること,mVE が自由度 m のカイ 2 乗分布に従う
ことと (3.1) を使って,2 重積分の変数変換の公式により,t > 0 に対して
P0 (B̄ 2 = t) =
k
∑
)
(
L−1
=t
P (L, k; λn )P (L − 1)Fm
(3.7)
L=2
L−1
を導くことができる.ただし,Fm
を自由度 (L − 1, m) の F 分布に従う確率変数とする.
同様に,t > 0 に対して
P0 (Ē 2 = t) =
k
∑
(
)
P (L, k; λn )P B(L−1)/2,(n−L)/2 = t
(3.8)
L=2
を得る.ただし,B(L−1)/2,(n−L)/2 を自由度 ((L − 1)/2, (n − L)/2) のベータ分布に従う確
率変数とする.(3.7) と (3.8) はそれぞれ,Miwa et al. (2000) と Robertson et al. (1988)
に記述されている.
n → ∞ の漸近理論を考える.次の条件 (c.1) を仮定する.
253
順序制約のある場合の閉検定手順
ni
= λi > 0 (i = 1, . . . , k)
n
この条件の下で,n → ∞ として,VE は σ 2 に確率収束するので,t > 0 に対して
(c.1)
lim λni = lim
n→∞
n→∞
lim P0 (B̄ = t) = lim P0 (χ̄ = t) =
2
2
n→∞
n→∞
k
∑
(
)
P (L, k; λ)P χ2L−1 = t
(3.9)
L=2
が成り立つ.ただし,λ ≡ (λ1 , . . . , λk ),i = 1, . . . , k に対して Zi は互いに独立で,各 Zi
が N (0, 1/λi ) に従い,µ̂∗1 , . . . , µ̂∗k を
k
∑
λi (µ̂∗i − Zi ) =
2
i=1
min
u1 5···5uk
k
∑
λi (ui − Zi )
2
i=1
を満たすものとしたとき,P (L, k; λ) は,µ̂∗1 , . . . , µ̂∗k がちょうど L 個の異なる値となる確
率である.
3.2
閉検定手順
U を (2.3) で定義したものとする.H の要素の仮説 H(i,i0 ) の論理積からなるすべての集
合は
{
∧
H≡
}
Hv ∅ $ V ⊂ U
v ∈V
∧
で表される. v ∈U Hv は一様性の帰無仮説 H0 となる.さらに ∅ $ V ⊂ U を満たす V に
対して,
∧
Hv : 任意の (i, i0 ) ∈ V に対して, µi = µi0
v ∈V
は k 個の母平均に関していくつかが等しいという仮説となる.論理積と積集合の詳細は,
Enderton (2001) に説明されている.
I1 , . . . , IJ (Ij 6= ∅, j = 1, . . . , J) を,次の性質 (D2) を満たす添え字 {1, . . . , k} の互いに
素な部分集合の組とする.
(D2) ある整数 `1 , . . . , `J = 2 とある整数 0 5 s1 < · · · < sJ < k が存在して,
Ij = {sj + 1, sj + 2, . . . , sj + `j } (j = 1, . . . , J),
(3.10)
sj + `j 5 sj+1 (j = 1, . . . , J − 1) かつ sJ + `J 5 k が成り立つ.
Ij は連続した整数の要素からなり,`j = #(Ij ) = 2 である.同じ Ij (j = 1, . . . , J) に
含まれる添え字をもつ母平均は等しいという帰無仮説を H(I1 , . . . , IJ ) で表す.このとき,
∅ $ V ⊂ U を満たす任意の V に対して,(D2) で述べたある自然数 J とある I1 , . . . , IJ が
存在して,
∧
v ∈V
Hv = H(I1 , . . . , IJ )
(3.11)
254
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
が成り立つ.さらに仮説 H(I1 , . . . , IJ ) は,
H(I1 , . . . , IJ ) : µsj +1 = µsj +2 = · · · = µsj +`j (j = 1, . . . , J)
(3.12)
と表現できる.順序制約 (1.1) があるので (3.12) は
H(I1 , . . . , IJ ) : µsj +1 = µsj +`j (j = 1, . . . , J)
と同等である.U を全集合とし ∅ $ V0 ⊂ U を満たすある V0 に対して,v ∈ V0 ならば帰無
仮説 Hv が真で,v ∈ V0c ならば Hv が偽のとき,1 つ以上の真の帰無仮説 Hv (v ∈ V0 ) を
棄却する確率が α 以下となる検定方式が水準 α の多重比較検定である.この定義の V0 に
∧
対して,帰無仮説 v ∈V0 Hv に対する水準 α の検定の棄却域を A とし,帰無仮説 Hv に対
∧
する水準 α の検定の棄却域を Bv とすると,帰無仮説 v ∈V0 Hv の下での確率
(
(
))
∪
P A∩
Bv
5 P (A) 5 α
(3.13)
v ∈V0
が成り立つ.
上記の V0 が未知であることを考慮し,特定の帰無仮説を Hv 0 ∈ H としたとき,v 0 ∈ V ⊂ U
∧
を満たす任意の V に対して,帰無仮説 v ∈V Hv の検定が水準 α で棄却された場合に,Hv 0
を棄却する方式を,閉検定手順とよんでいる.
(3.13) より,閉検定手順による多重比較検定のタイプ I FWER が α 以下となる.
j = 1, . . . , J に対して,µ̃∗sj +1 (Ij ), . . . , µ̃∗sj +`j (Ij ) は
∑
)2
(
λni µ̃∗i (Ij ) − X̄i· =
i∈Ij
min
∑
usj +1 5···5usj +`j
(
)2
λni ui − X̄i·
i∈Ij
を満たすものとする.ただし,Ij , sj , `j は (D2) によって与えられたものとする.
∑
B̄ (Ij ) ≡
2
i∈Ij
(
)2
ni µ̃∗i (Ij ) − X̄·· (Ij )
VE
,
(3.14)
(
)2
ni µ̃∗i (Ij ) − X̄·· (Ij )
Ē (Ij ) ≡ ∑
)2
∑ni (
i∈Ij
t=1 Xit − X̄·· (Ij )
∑
2
i∈Ij
を使って閉検定手順を行う.ただし,
∑
∑ni
X̄·· (Ij ) ≡
i∈Ij
t=1
N (Ij )
Xit
,
N (Ij ) ≡
∑
(3.15)
ni
(3.16)
i∈Ij
とする.P (L, `j ; λn (Ij )) を,µ̃∗sj +1 (Ij ), . . . , µ̃∗sj +`j (Ij ) がちょうど L 個の異なる値となる
H0 の下での確率とする.このとき,(3.7),(3.8) より,t > 0 と (3.11) の H(I1 , . . . , IJ ) の
255
順序制約のある場合の閉検定手順
下で
P (B̄ (Ij ) = t) = P0 (B̄ (Ij ) = t) =
2
2
`j
∑
(
)
L−1
P (L, `j ; λn (Ij ))P (L − 1)Fm
=t
(3.17)
L=2
P (Ē 2 (Ij ) = t) = P0 (Ē 2 (Ij ) = t)
=
`j
∑
(
)
P (L, `j ; λn (Ij ))P B(L−1)/2,(N (Ij )−L)/2 = t
(3.18)
L=2
が成り立つ.ただし,λn (Ij ) ≡ (nsj +1 /n, nsj +2 /n, . . . , nsj +`j /n) とする.
0 < α < 0.5 となる α に対して,
方程式 P0 (B̄ 2 (Ij ) = t) = α を満たす t の解を b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α),
(3.19)
方程式 P0 (Ē 2 (Ij ) = t) = α を満たす t の解を ē2 (`j , λn (Ij ), N (Ij ); α)
(3.20)
とおく.便宜上,
∑
χ̄2 (Ij ) ≡
i∈Ij
)2
(
ni µ̃∗i (Ij ) − X̄·· (Ij )
σ2
とおくと,条件 (c.1) の下で,t > 0 に対して
j
(
) ∑
(
)
lim P0 χ̄2 (Ij ) = t =
P (L, `j ; λ(Ij ))P χ2L−1 = t
`
n→∞
(3.21)
L=2
が成り立つ.ただし,λ(Ij ) ≡ (λsj +1 , . . . , λsj +`j ) とおき,i = 1, . . . , `j に対して Zi は互い
に独立で,各 Zi が N (0, 1/λ`j +i ) に従い,µ̂∗1 , . . . , µ̂∗`j を
`j
∑
λsj +i (µ̂∗i − Zi ) =
2
i=1
min
u1 5···5u`j
`j
∑
2
λsj +i (ui − Zi )
i=1
を満たすものとしたとき,P (L, `j ; λ(Ij )) は,µ̂∗1 , . . . , µ̂∗`j がちょうど L 個の異なる値とな
る確率である.
ここで,(3.9) と同様の議論により,条件 (c.1) の下で,t > 0 に対して
(
)
(
)
lim P0 (B̄ 2 (Ij ) = t) = lim P0 (N (Ij ) − 1)Ē 2 (Ij ) = t = lim P0 χ̄2 (Ij ) = t (3.22)
n→∞
n→∞
n→∞
が成り立つ.0 < α < 0.5 となる α に対して,
(
)
方程式 lim P0 χ̄2 (Ij ) = t = α を満たす t の解を c̄2 (`j , λ(Ij ); α)
n→∞
(3.23)
とおく.
(3.11) の H(I1 , . . . , IJ ) に対して,M を
M ≡ M (I1 , . . . , IJ ) ≡
J
∑
j=1
`j
(3.24)
256
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
とする.さらに, J = 2 のとき,` = `1 , . . . , `J に対して
α(M, `) ≡ 1 − (1 − α)`/M
で α(M, `) を定義する.
このとき,水準 α の帰無仮説
∧
(3.25)
v ∈V Hv に対する検定方法を具体的に論述することがで
きる.
[1] B̄ 2 に基づく閉検定手順
手順 1 J = 2 のとき,1 5 j 5 J となるある整数 j が存在して b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) <
∧
B̄ 2 (Ij ) ならば帰無仮説 v ∈V Hv を棄却する.
手順 2 J = 1 (M = `1 ) のとき,b̄2 (`1 , λn (I1 ), m; α) < B̄ 2 (I1 ) ならば帰無仮説
∧
v ∈V Hv
を棄却する.
∧
上記の手順 1,2 の方法で,(i, i0 ) ∈ V ⊂ U を満たす任意の V に対して, v ∈V Hv が棄
却されるとき,多重比較検定として,H(i,i0 ) を棄却する.
このとき,次の定理 3.1 を得る.
定理 3.1
[1] のパラメトリック閉検定手順は,水準 α の多重比較検定である.
証明 手順 2 の検定の有意水準が α であることは自明であるので,手順 1 の検定の有意
水準が α であることを示す.一般性を失うことなく一様性の帰無仮説 H0 が成り立つと仮
定する.さらに,一般性を失うことなく σ 2 = 1 と仮定する.fχ (s|m) を VE の密度関数と
する.VE , χ̄2 (I1 ), . . . , χ̄2 (IJ ) は互いに独立より,
(
)
P0 B̄ 2 (Ij ) 5 b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) , j = 1, . . . , J
)
∫ ∞ (
=
P0 B̄ 2 (Ij ) 5 b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) , j = 1, . . . , J VE = s fχ (s|m)ds
0
)
∫ ∞ (
=
P0 χ̄2 (Ij ) 5 s · b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) , j = 1, . . . , J fχ (s|m)ds
0


∫ ∞ ∏
J

( 2
)
=
P0 χ̄ (Ij ) 5 s · b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j ))
· f (s|m)ds (3.26)

 χ
0
j=1
が導かれる.Hsu (1996) の Corollary A.1.1 を適用すると,
(3.26) =
J ∫
∏
j=1
0
∞
(
)
P0 χ̄2 (Ij ) 5 s · b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) · fχ (s|m)ds
(3.27)
順序制約のある場合の閉検定手順
257
を得る.(3.19) 使って,
∫ ∞
(
)
P0 χ̄2 (Ij ) 5 s · b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) · fχ (s|m)ds
0
∫ ∞
{
(
)}
=
1 − P0 χ̄2 (Ij ) = s · b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) · fχ (s|m)ds
0
(
)
= 1 − P0 B̄ 2 (Ij ) = b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j ))
= 1 − α(M, `j )
= (1 − α)`j /M
(3.28)
を導くことができる.
(3.27),(3.28) を使って,
(
)
P0 ある j が存在して, B̄ 2 (Ij ) > b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j ))
(
)
= 1 − P0 B̄ 2 (Ij ) 5 b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) , j = 1, . . . , J
J {
}
∏
51−
(1 − α)`j /M
j=1
=α
∧
v ∈V Hv に対する手順 1 の検定は,有意水準 α である.
以上により,定理の主張が導かれた.
が成り立つ.ここで,帰無仮説
Miwa (1998) の第 3 節に,Ryan-Einot-Gabriel-Welsh の方法によって調整した基準値に
よる B̄ 2 統計量に基づくステップダウン法が述べられている.(3.24) の M と ` = `1 , . . . , `J
に対して
1 − (1 − α)`/M = 1 − (1 − α)`/k
の関係により,Miwa (1998) のステップダウン法で棄却される帰無仮説は,[1] の B̄ 2 に基
づく閉検定手順で棄却されることとなる.これにより,k = 4 に対しては,[1] の閉検定手
順の方が Miwa (1998) のステップダウン法よりも検出力が高い.k = 3 の場合には,[1] の
閉検定手順と Miwa (1998) のステップダウン法は一致している.
[2] B̄ 2 に基づく漸近的な閉検定手順
[1] の B̄ 2 に基づく閉検定手順の手順 1 で,b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) < B̄ 2 (Ij ) を
c̄2 (`j , λ(Ij ); α(M, `j )) < B̄ 2 (Ij ) に替え,手順 2 で,b̄2 (`1 , λn (I1 ), m; α) < B̄ 2 (I1 ) を
c̄2 (`1 , λ(I1 ); α) < B̄ 2 (I1 ) に替える.
∧
替えられた手順 1,2 の方法により,(i, i0 ) ∈ V ⊂ U を満たす任意の V に対して, v ∈V Hv
が棄却されるとき,多重比較検定として,H(i,i0 ) を棄却する.
このとき,[2] の閉検定手順は,水準 α の漸近的な多重比較検定である.
258
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
[3] Ē 2 に基づく閉検定手順
[1] の B̄ 2 に基づく閉検定手順の手順 1 で,b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α(M, `j )) < B̄ 2 (Ij ) を
ē2 (`j , λn (Ij ), N (Ij ); α(M, `j )) < Ē 2 (Ij ) に替え,手順 2 で,b̄2 (`1 , λn (I1 ), m; α) < B̄ 2 (I1 )
を ē2 (`1 , λn (I1 ), N (I1 ); α) < Ē 2 (I1 ) に替える.
∧
替えられた手順 1,2 の方法により,(i, i0 ) ∈ V ⊂ U を満たす任意の V に対して, v ∈V Hv
が棄却されるとき,多重比較検定として,H(i,i0 ) を棄却する.
このとき,次の定理 3.2 を得る.
定理 3.2
[3] のパラメトリック閉検定手順は,水準 α の多重比較検定である.
証明 Ē 2 (I1 ), . . . , Ē 2 (IJ ) が互いに独立であることを使って,定理 3.1 の証明よりも容易
な証明を行うことができる.
(3.11) より,
H=
{
H(I1 , . . . , IJ )
J
∪
ある J が存在して,
Ij ⊂ {1, . . . , k},
j=1
Ij は (3.10) を満たし, #(Ij ) = 2 (1 5 j 5 J),
}
J = 2 のとき Ij ∩ Ij 0 = ∅ (1 5 j < j 0 5 J)
となる.ただし,#(A) は集合 A の要素の個数を表す.(i, i0 ) ∈ U に対して,
{
}
H(i,i0 ) ≡ H(I1 , . . . , IJ ) ∈ H 1 5 j 5 J となるある j が存在して, {i, i0 } ⊂ Ij
とおく.H(i,i0 ) は,帰無仮説 H(i,i0 ) を [1]–[3] の閉検定手順により多重比較検定する場合に
検定される帰無仮説 H(I1 , . . . , IJ ) からなる集合である.このとき,
H=
∪
H(i,i0 ) ,
H(i,i0 ) , H0 ∈ H(i,i0 )
(i,i0 )∈U
が成り立つ.さらに,定義から,1 5 i1 5 i2 < i02 5 i01 5 k に対して
H(i1 ,i01 ) ⊂ H(i2 ,i02 )
(3.29)
である.
k = 4 とした場合を例として考える.これらの閉検定手順により多重比較検定として,特
定の帰無仮説 H(i,i0 ) が棄却される場合に,検定される帰無仮説 H(I1 , . . . , IJ ) を表 2–7 と
して挙げている.
表 2 で挙げられた帰無仮説を以下に詳しく書くと
順序制約のある場合の閉検定手順
259
H({1, 2, 3, 4}) : µ1 = µ2 = µ3 = µ4 ; J = 1, s1 = 0, `1 = 4
H({1, 2}, {3, 4}) : µ1 = µ2 , µ3 = µ4 ; J = 2, s1 = 0, `1 = 2, s2 = 2, `2 = 2
H({1, 2, 3}) : µ1 = µ2 = µ3 ; J = 1, s1 = 0, `1 = 3
H({1, 2}) = H(1,2) : µ1 = µ2 ; J = 1, s1 = 0, `1 = 2
である.表 2 は,H(1,2) の中の帰無仮説をすべて載せていることになっている.この表か
ら,H(1,2) が多重比較検定として棄却されるためには 4 個の帰無仮説を棄却しなければな
らない.[2],[3] の閉検定手順の場合も同様であるので,以下で,[1] の閉検定手順を例に
とって説明する.
B̄ 2 ({1, 2, 3, 4}) = B̄ 2 > b̄2 (4, n1 /n, n2 /n, n3 /n, n4 /n, m; α),
( 2
B̄ ({1, 2}) > b̄2 (2, n1 /n, n2 /n, m; α(4, 2))
)
または B̄ 2 ({3, 4}) > b̄2 (2, n3 /n, n4 /n, m; α(4, 2)) ,
B̄ 2 ({1, 2, 3}) > b̄2 (3, n1 /n, n2 /n, n3 /n, m; α),
B̄ 2 ({1, 2}) > b̄2 (2, n1 /n, n2 /n, m; α)
の 4 つすべてが成立するならば,[1] の閉検定手順により水準 α の多重比較検定として,帰
無仮説 H(1,2) が棄却される.
H の中の H(1,3) の帰無仮説が多重比較検定として棄却される場合,検定される帰無仮説
H(I1 , . . . , IJ ) は,表 3 から 2 個である.
(3.29) より,1 5 i1 5 i2 < i02 5 i01 5 k の関係が成り立つとき,水準 α の多重比較検定
として [1] の閉検定手順を使った場合,H(i2 ,i02 ) が棄却されるならば H(i1 ,i01 ) は棄却される.
具体的な例として,k = 4 のとき,表 2–4 より,[1] を使って H(1,2) が棄却されるならば,
H(1,3) , H(1,4) が棄却される.
サイズが等しいとする条件 (1.2) のとき,b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α) と ē2 (`j , λn (Ij ), N (Ij ); α)
は λn (Ij ) に依存せず `j を通して Ij に依存するので,この場合の b̄2 (`j , λn (Ij ), m; α) と
ē2 (`j , λn (Ij ), N (Ij ); α) を,それぞれ,b̄20 (`j , m; α),ē20 (`j , N (Ij ); α) で表記する.α = 0.05
のときの 2 5 ` 5 M ,2 5 M 5 10 とした場合の b̄20 (`, 60; α(M, `)) の数表を表 8 に載せ,
α = 0.01 のときの数表を表 9 に載せている.
さらに,上記の ` と M の範囲で,α = 0.05,ni = 16 のときの ē20 (`, 16`; α(M, `)) の数表
を表 10 に載せ,α = 0.01 のときの数表を表 11 に載せている.
また,サイズが等しいとする条件 (1.2) のとき,すなわち,λ1 = · · · = λk = 1/k のとき,
2
c̄ (`j , λ(Ij ); α) は λ(Ij ) に依存せず `j を通して Ij に依存するので,この場合の c̄2 (`j , λ(Ij ); α)
を,c̄20 (`j ; α) で表記する.α = 0.05 のときの c̄20 (`; α(M, `)) の数表を表 12 に載せ,α = 0.01
のときの数表を表 13 に載せている.
260
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
k = 4 のときの H(I1 , . . . , IJ ) ∈ H(1,2) .
表2
M の値
H(I1 , . . . , IJ )
4
H({1, 2, 3, 4}),
3
H({1, 2, 3})
2
H({1, 2})
k = 4 のときの H(I1 , . . . , IJ ) ∈ H(1,3) .
表3
M の値
H(I1 , . . . , IJ )
4
H({1, 2, 3, 4})
3
H({1, 2, 3})
k = 4 のときの H(I1 , . . . , IJ ) ∈ H(1,4) .
表4
M の値
H(I1 , . . . , IJ )
4
H({1, 2, 3, 4})
k = 4 のときの H(I1 , . . . , IJ ) ∈ H(2,3) .
表5
M の値
H(I1 , . . . , IJ )
4
H({1, 2, 3, 4})
3
H({1, 2, 3}),
2
H({2, 3})
表6
表7
H({1, 2}, {3, 4})
H({2, 3, 4})
k = 4 のときの H(I1 , . . . , IJ ) ∈ H(2,4) .
M の値
H(I1 , . . . , IJ )
4
H({1, 2, 3, 4})
3
H({2, 3, 4})
k = 4 のときの H(I1 , . . . , IJ ) ∈ H(3,4) .
M の値
H(I1 , . . . , IJ )
4
H({1, 2, 3, 4}),
3
H({2, 3, 4})
2
H({3, 4})
H({1, 2}, {3, 4})
261
順序制約のある場合の閉検定手順
α = 0.05,m = 60 のときの ` = `j (j = 1, . . . , J) に対する b̄20 (`, m; α(M, `)) の値.
表8
M \ `
2
3
4
5
6
7
8
10
5.673
6.362
6.652
6.795
6.867
6.898
9
5.472
6.144
6.424
6.559
6.624
6.650
6.372
8
5.249
5.902
6.170
6.296
6.354
∗
7
4.999
5.630
5.884
6.000
∗
6.064
5.702
6
4.713
5.319
5.557
∗
5
4.379
4.955
∗
5.265
4
3.978
∗
4.712
3
∗
3.963
2
2.791
9
10
6.904
∗
6.876
∗
6.639
∗ : ` = M − 1 は起こり得ない.
表9
α = 0.01,m = 60 のときの b̄20 (`, m; α(M, `)) の値.
M \ `
2
3
4
5
6
7
8
10
8.953
9.887
10.335
10.595
10.759
10.868
9
8.732
9.651
10.089
10.342
10.501
10.604
8
8.487
9.388
9.816
10.060
10.212
∗
10.374
7
8.210
9.092
9.507
9.743
∗
9.979
6
7.893
8.753
9.153
∗
9.514
5
7.522
8.354
∗
8.949
4
7.072
∗
8.232
3
∗
7.256
2
5.713
9
10
10.940
∗
11.019
∗
10.717
[4] F 検定統計量に基づく閉検定手順
順序制約 (1.1) のない場合の閉検定手順として白石 (2011b) は F 統計量に基づく閉検定
手順を提案している.順序制約がある場合にも F 統計量に基づく閉検定手順を提案するこ
とは可能である.以下にその方法を示す.
手順 1 J = 2 のとき,` = `1 , . . . , `J に対して α(M, `) を (3.25) で定義する.
TS (Ij ) ≡
∑
(
)2
ni X̄i· − X̄Ij /VE
i∈Ij
とおく.ただし,
X̄Ij ≡
∑
i∈Ij
ni X̄i· /
∑
ni
i∈Ij
` −1
とする.1 5 j 5 J となるある整数 j が存在して Fmj (α(M, `j )) < TS (Ij )/(`j −1)
∧
`
ならば帰無仮説 v ∈V Hv を棄却する.ただし,Fm
(α) は自由度 (`, m) の F 分布
の上側 100α% 点とする.
262
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
α = 0.05,ni = 16 のときの ē20 (`, 16`; α(M, `)) の値.
表 10
M \ `
2
3
4
5
6
7
8
10
0.167
0.125
0.098
0.080
0.068
0.059
9
0.161
0.121
0.095
0.078
0.066
0.057
0.048
8
0.156
0.117
0.092
0.075
0.063
∗
7
0.149
0.112
0.088
0.072
∗
0.052
0.057
6
0.141
0.106
0.083
∗
5
0.132
0.099
∗
0.063
4
0.121
∗
0.071
3
∗
0.081
2
0.088
9
10
0.051
∗
0.041
∗
0.044
α = 0.01,ni = 16 のときの ē20 (`, 16`; α(M, `)) の値.
表 11
M \ `
2
3
4
5
6
7
8
9
10
10
0.245
0.183
0.145
0.119
0.102
0.088
0.078
∗
0.063
9
0.240
0.179
0.142
0.117
0.099
0.086
∗
0.068
0.074
8
0.234
0.175
0.138
0.114
0.097
∗
7
0.228
0.170
0.135
0.111
∗
0.082
0.091
6
0.221
0.165
0.130
∗
5
0.212
0.158
∗
0.103
4
0.201
∗
0.119
3
∗
0.140
2
0.168
M −1
手順 2 J = 1 (M = `1 ) のとき,Fm
(α) < TS (I1 )/(M − 1) ならば帰無仮説
∧
v ∈V Hv
を棄却する.
∧
上記の手順 1,2 の方法で,(i, i0 ) ∈ V ⊂ U を満たす任意の V に対して, v ∈V Hv が棄
却されるとき,多重比較検定として,H(i,i0 ) を棄却する.
第 5 節で,この方法よりも [1] のパラメトリック閉検定手順が優れていることをシミュ
レーションによって示す.
4.
ノンパラメトリック法
(3.11) によって与えられた Ij に対して,{Xi` | ` = 1, . . . , ni , i ∈ Ij } の中での Xi` の順
位を Ri` (Ij ) とし,
R̄i· (Ij ) =
ni
1 ∑
Ri` (Ij )
ni
`=1
(i ∈ Ij )
263
順序制約のある場合の閉検定手順
表 12
α = 0.05 のときの ` = `j (j = 1, . . . , J) に対する c̄20 (`; α(M, `)) の値.
M \ `
2
3
4
5
6
7
8
10
5.376
6.022
6.302
6.445
6.521
6.558
9
5.194
5.825
6.095
6.231
6.301
6.334
6.088
8
4.991
5.606
5.865
5.993
6.056
∗
7
4.762
5.359
5.606
5.724
∗
5.800
5.460
6
4.499
5.075
5.307
∗
5
4.192
4.740
∗
5.049
4
3.820
∗
4.528
3
∗
3.820
2
2.706
9
10
6.572
∗
6.560
∗
6.339
∗ : ` = M − 1 は起こり得ない.
表 13
α = 0.01 のときの c̄20 (`; α(M, `)) の値.
M \ `
2
3
4
5
6
7
8
10
8.277
9.118
9.532
9.779
9.939
10.048
9
8.086
8.916
9.322
9.562
9.717
9.822
8
7.873
8.690
9.087
9.320
9.470
∗
9.638
7
7.632
8.434
8.821
9.046
∗
9.284
6
7.355
8.139
8.514
∗
8.865
5
7.028
7.792
∗
8.356
4
6.630
∗
7.709
3
∗
6.823
2
5.412
9
10
10.124
∗
10.216
∗
9.945
とする.R̄s∗j +1· (Ij ), . . . , R̄s∗j +`j · (Ij ) を
∑
∗
λni (R̄i·
(Ij ) − R̄i· (Ij ))2 =
i∈Ij
min
usj +1 5···5usj +`j
∑
λni (ui − R̄i· (Ij ))2
i∈Ij
を満たすものとする.
b j) ≡
Z(I
)2
∑ (
12
N (Ij ) + 1
∗
ni R̄i·
(Ij ) −
N (Ij ) {N (Ij ) + 1}
2
i∈Ij
b j ) (j = 1, . . . , J) を使って
とおく.ただし,N (Ij ) は (3.16) で定義されたものとする.Z(I
ノンパラメトリック閉検定手順が行える.
[5] ノンパラメトリック閉検定手順
表 1 のモデルで,分布関数 F (x) は未知であってもかまわないものとする.(3.11) の
H(I1 , . . . , IJ ) に対して,M を (3.24) で定義する.
手順 1 J = 2 のとき,` = `1 , . . . , `J に対して α(M, `) を (3.25) で定義する.1 5 j 5 J とな
264
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
b j ) ならば帰無仮説
るある整数 j が存在して c̄2 (`j , λ(Ij ); α(M, `j )) < Z(I
∧
v ∈V Hv
を棄却する.
b 1 ) ならば帰無仮説
手順 2 J = 1 (M = `1 ) のとき,c̄2 (`1 , λ(I1 ); α) < Z(I
∧
v ∈V Hv を棄
却する.
∧
上記の手順 1,2 の方法で,(i, i0 ) ∈ V ⊂ U を満たす任意の V に対して, v ∈V Hv が棄
却されるとき,多重比較検定として,H(i,i0 ) を棄却する.
このとき,次の定理 4.3 を得る.
定理 4.1
[5] のノンパラメトリック閉検定手順は,水準 α の漸近的な多重比較検定で
ある.
証明 手順 2 の検定の有意水準が α であることは自明であるので,手順 1 の検定の有意
b 1 ), . . . , Z(I
b J ) は互いに独立より,
水準が α であることを示す.Z(I
(
)
b j ) 5 c̄2 (`j , λ(Ij ); α(M, `j )) , j = 1, . . . , J
lim P0 Z(I
n→∞
=
J {
∏
j=1
=
(
)}
b j ) 5 c̄2 (`j , λ(Ij ); α(M, `j ))
lim P0 Z(I
n→∞
J
∏
{1 − α(M, `j )}
j=1
=1−α
を得る.この等式を使って,
(
)
b j ) > c̄2 (`j , λ(Ij ); α(M, `j ))
lim P0 ある j が存在して, Z(I
n→∞
(
)
b j ) 5 c̄2 (`j , λ(Ij ); α(M, `j )) , j = 1, . . . , J
= 1 − lim P0 Z(I
n→∞
=α
が成り立つ.ここで,帰無仮説
∧
v ∈V Hv に対する手順 1 の検定は,有意水準 α である.
以上により,定理の主張が導かれた.
5.
シミュレーションによる検出力の優越性
[1] の B̄ 2 に基づく閉検定手順を (B1),[3] の Ē 2 に基づく閉検定手順を (E2),白石 (2014)
の閉検定手順 I を (S3),[4] の F 統計量に基づく閉検定手順を (F4) とする.
Ramsey (1978) の「母平均間に差があるすべての対を検出する確率」である総対検出力
(all-pairs power) に基づいて議論する.α = 0.05, k = 4, n1 = · · · = n4 = 16 に設定する.
順序制約のある場合の閉検定手順
表 14
265
H A1 に対する多重比較検定法の総対検出力の値 (k = 4).
手法
表 15
∆
(B1)
(E2)
(S3)
(F4)
3
0.0505
0.0465
0.0505
0.0112
4
0.2920
0.2764
0.2920
0.1294
5
0.6372
0.6190
0.6372
0.4418
H A2 に対する多重比較検定法の総対検出力の値 (k = 4).
手法
∆
(B1)
(E2)
(S3)
(F4)
3
0.3353
0.3250
0.3187
0.2419
4
0.5990
0.5880
0.5605
0.4691
5
0.8180
0.8091
0.7817
0.7070
この場合,m = 60 となり,表 8,10 および白石・杉浦 (2015) の表 2 を用いて水準 5%の
多重比較検定が行える.H に対する多重比較検定法として (B1),(E2),(S3),(F4) の総対
検出力をシミュレーションにより比較する.分散を 1 として,平均の対立仮説を 2 通り準
備した.
H A1 : µi = i∆/5
(i = 1, 2, 3, 4)
H A2 : µ1 = µ2 = 0, µ3 = µ4 = ∆/5
∆ = 3, 4, 5 のときの総対検出力の結果を表 14,15 に載せている.
シミュレーションの繰り返し数を 100,000 回とした.表 14 より,総対検出力の大小関
係は
(B1) = (S3) > (E2) > (F4)
であり,表 15 より,総対検出力の大小関係は
(B1) > (E2) > (S3) > (F4)
である.他の対立仮説でも確認したが,(E2) は常に (B1) より劣っていて,(B1) と (S3) の
順序は確定しない.(B1) は (S3) に劣る場合もあったが,3 番目に落ちることはなかった.
(S3) は上述のように 3 番目の結果も見られた.仮説のみを工夫して順序制約に対応させた
(F4) は常に他の手法より劣っている結果となった.
なお,対立仮説 H A2 においてはタイプ I FWER の値を確認することができるが,若干
保守的な数値を示すところもあるもののどの手法もおおよそ 0.05 であった.
各対ごとの検出力は ∆ = 2 に対して表 16,17 のように得られた.
266
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
A1 に対する多重比較検定法の検出力の値.
H(i,i
0)
表 16
帰無仮説
手法
H(1,2)
H(1,3)
H(1,4)
H(2,3)
H(2,4)
H(3,4)
(B1)
0.2057
0.6815
0.9539
0.2664
0.6834
0.2086
(E2)
0.2001
0.6803
0.9558
0.2609
0.6827
0.2036
(S3)
0.1961
0.5921
0.8903
0.2295
0.5938
0.1986
(F4)
0.1275
0.4852
0.8395
0.1589
0.4869
0.1292
A2 に対する多重比較検定法の検出力の値.
H(i,i
0)
表 17
帰無仮説
手法
H(1,2)
H(1,3)
H(1,4)
H(2,3)
H(2,4)
H(3,4)
(B1)
0.0213
0.2383
0.3852
0.1312
0.2401
0.0212
(E2)
0.0210
0.2359
0.3873
0.1255
0.2373
0.0212
(S3)
0.0187
0.2087
0.2989
0.1385
0.2084
0.0183
(F4)
0.0203
0.1476
0.2223
0.0950
0.1485
0.0197
個別の対ごとの検出力では基本的に (B1) が一番優れている結果となった.表 17 の対
(2, 3) のようにちょうど段差に当たる部分の検出においては (S3) がよいこともあった.こ
れは ∆ が小さいときにのみ見られる現象である.
なお,表 17 の対 (1, 2) と (3, 4) は帰無仮説が成り立つ場合であるが,その値は 1 − (1 −
0.05)2/4 = 0.0253 より若干保守的である.∆ がもっと大きい場合はおおよそその値と同じ
になることが確認されている.
α = 0.05, k = 5, n1 = · · · = n5 = 13 の設定でも行った.((E2) の閉検定手順を実行する
にあたっては表 10 と同様の ni = 13 の場合の表が必要であるが,ここでの提示は割愛し
た.) 平均の対立仮説は以下の 2 通りである.
H A1 : µi = i∆/5
(i = 1, 2, 3, 4, 5)
H A2 : µ1 = µ2 = µ3 = 0, µ4 = µ5 = ∆/5
∆ = 4, 5, 6 のときの総対検出力の結果を表 18,19 に載せている.こちらも k = 4 とおお
よそ同じ傾向であるが,表 19 において
(B1) > (S3) > (E2) > (F4)
となっているところがある.
表 14,表 18 より,線形対立仮説 H A1 に対して,
((B1) の総対検出力) = ((S3) の総対検出力)
(5.1)
267
順序制約のある場合の閉検定手順
表 18
H A1 に対する多重比較検定法の総対検出力の値 (k = 5).
手法
表 19
∆
(B1)
(E2)
(S3)
(F4)
4
0.0744
0.0632
0.0744
0.0156
5
0.3476
0.3133
0.3476
0.1565
6
0.6780
0.6445
0.6780
0.4763
H A2 に対する多重比較検定法の総対検出力の値 (k = 5).
手法
∆
(B1)
(E2)
(S3)
(F4)
4
0.3957
0.3721
0.3810
0.2989
5
0.6294
0.6041
0.5994
0.5109
6
0.8174
0.7966
0.7915
0.7172
となっている.k = 4, 5 に対して,この節の述べたサイズ ni の設定と α = 0.05, 0.01 の下
で,一般に,µi < µi+1 (1 5 i 5 k − 1) のとき (5.1) が成り立つ.k = 5 のときは同様に示
すことができるので k = 4 のときに (5.1) を示す.
}
{
Ci ≡ B̄ 2 ({i, i + 1}) > b̄20 (2, m; α) (1 5 i 5 k − 1),
√
}
{
Ck ≡ max(B̄ 2 ({1, 2}), B̄ 2 ({3, 4}) > b̄20 (2, m; 1 − 1 − α)
とおく.X ∈
∩k
i=1
Ci のとき,表 8,9 の値から
B̄ 2 ({i, i + 1, i + 2}) > 4b̄20 (2, m; α) > b̄20 (3, m; α)
B̄ 2 ({1, 2, 3, 4}) > 9b̄20 (2, m; α) > b̄20 (4, m; α)
が成り立つので,表 2–7 の帰無仮説はすべて棄却される.ここで,
(k
)
∩
((B1) の総対検出力) = P
Ci
(5.2)
i=1
を得る.
√
{
}
Di ≡ {Ti > td1 (2, m; α)} (1 5 i 5 k − 1), Dk ≡ max(T1 , T3 ) > td1 (2, m; 1 − 1 − α)
とおく.ただし,Ti =
√
√
n1 (X̄i+1· − X̄i· )/ 2VE とし,td1 (2, m; α∗ ) は白石・杉浦 (2015)
の表 2,3 の値である.表 2–7 と白石・杉浦 (2015) の表 2,3 の値から,(5.2) を導いた方
法と同様の議論により
(
((S3) の総対検出力) = P
k
∩
i=1
)
Di
(5.3)
268
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
を得る.
さらに,B̄ 2 ({i, i + 1}) > 0 のとき B̄ 2 ({i, i + 1}) = (Ti )2 の関係が成り立つので
Ci = Di (1 5 i 5 k)
(5.4)
である.ここで,(5.2)–(5.4) により,(5.1) を得る.
6.
おしまいに
平均母数に順序制約のない分散の等しい正規分布を仮定した多群モデルにおけるすべて
の平均相違の多重比較法が,Tukey (1953) と Kramer (1956) によって提案され,現在では
テューキー・クレーマー法 (Tukey-Kramer 法) とよばれている.2 群間の t 検定統計量を
tii0 とするとき,maxi<i0 |tii0 | の分布は,標本サイズが等しいという条件の下で,スチュー
√
デント化された範囲の 2 倍の統計量の分布 A(x) に等しく,2 重積分で表現できる.標本
サイズが異なる場合には,maxi<i0 |tii0 | の分布が,A(x) によって下から抑えられることを,
Hayter (1984) は示した.この不等式の証明によって,標本サイズが異なる場合にもテュー
キー・クレーマー法が水準 α の多重比較検定である正当性が示された.すなわち,テュー
キー・クレーマー法は保守的な多重比較検定である.白石 (2006) は maxi<i0 |tii0 | の分布を
上から抑える分布を導き,テューキー・クレーマー法の保守性が小さいことを論述した.
テューキー・クレーマー法はシングルステップの多重比較検定法である.白石 (2011a) は,
テューキー・クレーマー法やそれまでの閉検定手順を優越する maxi<i0 |tii0 | に基づく閉検
定手順を提案した.統計量 maxi<i0 |tii0 | に基づく多重比較検定は,標本サイズが不揃いで
あるかぎり,Hayter (1984) の不等式と白石 (2011b) の補題 5.2 の不等式を使って水準が保
証される保守的な手法となる.すなわち,2 回の不等式による保守が起こっている.これに
対し,maxi<i0 |tii0 | の代わりに F 検定統計量を使った閉検定手順が白石 (2011b) の第 5.5.1
節で論述されている.F 検定統計量を使った閉検定手順が水準を保証している証明に白石
(2011b) の補題 5.2 の不等式のみが使われる.このため F 検定統計量を使った閉検定手順
も検出力が高い多重比較検定法となる.maxi<i0 |tii0 | 統計量を使って同時信頼区間を導く
ことができるが,残念ながら F 検定統計量を使って同時信頼区間を導出できない.正規分
布を仮定した分散が一様でない多群モデルにおけるすべての平均相違の多重比較法として,
Games and Howell (1976) は Welch (1938) の検定統計量を基にして,シングルステップの
多重比較検定法を提案した.現在ではゲイムス・ハウエル (Games-Howell) 法とよばれて
いる.白石・早川 (2014) は,マルチステップ法として閉検定手順を提案し,この閉検定手
順がゲイムス・ハウエル法を優越することをシミュレーションによって論証した.すべて
の平均相違の分布に依存しないノンパラメトリック多重比較検定法として,Steel (1960) と
Dwass (1960) は k(k − 1)/2 個の 2 群間の順位統計量の最大値に基づくシングルステップの
順序制約のある場合の閉検定手順
269
方法を提案している.このシングルステップの方法を漸近的に優越するノンパラメトリッ
ク閉検定手順が白石 (2011b) の第 5.5.2 節で論述されている.すべての平均差の分布に依
存しないノンパラメトリック同時信頼区間が Critchlow and Fligner (1991) と白石 (2008)
によって提案されている.
平均母数に順序制約のある分散の等しい正規分布を仮定した多群モデルにおけるすべて
の平均相違の多重比較法として,maxi<i0 (−tii0 ) を使った手法が Hayter (1990) によって提
案され,白石 (2014) は maxi<i0 (−tii0 ) に基づいた閉検定手順を提案し,次の (i)–(v) の結
果を得た.(i) 提案した閉検定手順が Hayter (1990) の方法を一様に優越することを数学的
に示した.(ii) 閉検定手順が平均母数に制約のない場合のすべての平均相違に対する白石
(2011a) で述べた閉検定手順を優越することを,計算機シミュレーションにより検証した.
(iii) 閉検定手順から導かれる µ に対する信頼係数 1 − α の信頼領域はシングルステップの
同時信頼区間と同値である.(iv) 付加的に k(k − 1)/2 個の 2 群間の順位統計量の最大値に
基づくノンパラメトリック多重比較法として,シングルステップの多重比較検定,閉検定手
順,同時信頼区間を提案した.(v) (iv) のノンパラメトリック閉検定手順がシングルステッ
プのノンパラメトリック多重比較検定を漸近的に優越している.統計量 maxi<i0 |tii0 | と同
様に maxi<i0 (−tii0 ) の従う分布は標本サイズが等しい場合しか導出できない.また,保守性
を与える不等式も見つかっていない.このため,maxi<i0 (−tii0 ) を基にした白石 (2014) の
手法は,標本サイズが等しい条件が必要である.白石・杉浦 (2015) は maxi<i0 (−tii0 ) の従
う分布の 100α% 点を求めるための sinc 関数を使った精度の良いアルゴリズムを紹介した.
本研究では,正規分布を仮定した分散分析法で用いられる F 検定に対応して,順序制約
(1.1) のある場合に,水準 α の多重比較検定として [1] の B̄ 2 に基づく閉検定手順と [3] の Ē 2
に基づく閉検定手順を構築した.検出力に関して,次の (I),(II) の結果をシミュレーショ
ンによって検証した.(I) B̄ 2 に基づく閉検定手順が maxi<i0 (−tii0 ) を基にした白石 (2014)
の閉検定手順をおおよそ優越している.(II) B̄ 2 に基づく閉検定手順は Ē 2 に基づく閉検定
手順と F 検定に基づく閉検定手順を優越している.順序制約のある場合に,水準 α のノン
パラメトリック多重比較検定として漸近的に χ̄2 分布に従う順位検定統計量に基づく閉検定
手順を構築した.本論文で提案した閉検定手順は標本サイズが不揃いであってもデータ解
析に使用することができる.
B̄ 2 統計量を使って,すべての平均差の同時信頼区間を構築することはできない.順序制
約 (1.1) のある場合に,正規分布を仮定した分散が一様でない多群モデルにおけるすべて
の平均相違の多重比較法を論じることは難しく,現在のところ満足できる結果は得られて
いない.
270
日本統計学会誌 第45巻 第2号 2016
謝辞
本論文の修正にあたり,貴重なご指摘と有益なご助言をいただいた 2 人の査読者に大変感
謝致します.本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究 (C)(課題番号 24540148)
及び 2015 年度南山大学パッヘ研究奨励金 I-A-2 の援助を受けたものである.
参 考 文 献
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