ロボットがホームスチールする時代 が来たら 第9回[最終回] 浜口 昌也

◆ 最終回のホームスチール
少年野球に関わって数年たつが、今年も6 年生最
後の地区大会があった。この日は選手やコーチのOB
が集まり、参加しているチーム全員で豚汁を食べる。
最後の試合は毎年ドラマがあるが、終わったあとはい
つもみんなで昔の話をする。
一昨年の試合。4 点差の最終回。1アウト、
ランナー
3 塁。ランナーはうちの息子。もう勝てないかな、とみ
んなが思っていたとき、キャッチャーの返球が手を離れ
た瞬間、3 塁ランナーがホームスチール。相手もこち
らも一瞬何が起こったかわからなかった。ここからピッ
チャーは崩れ、逆転で勝つことができた。
第 9 回[最終回]
ロボットがホームスチールする時代
が来たら
息子に聞いてみると、試合が始まったときからホー
ムスチールを狙っていたという。ピッチャーの態度、視
線、キャッチャーの視線、ボールの握り、返球スピード、
3塁手の動き。これらの条件がそろえば、
絶対にスチー
ルできると確信していたという。
◆ ニヤけた表情の思いをくめるか
浜口 昌也
昨今、人工知能が話題になると、いつの日か人間
JB アドバンスト・テクノロジー株式会社
先進技術研究所
所長
をロボットが支配するのではないかという話になる。し
著者プロフィール
1985 年、
日本ビジネスコンピューター(現 JBCC)入社。ハー
ドウェア保守サポート、UNIX 系アプリケーション開発、マー
ケティングでの Linux 事業を推進。世の中に先立って仮想化
を推進し、JB グループ社内 IT の仮想化統合も企画・実施。
2013 年度より先進技術研究所所長に就任し現在に至る。
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かし、人工知能が発達し、ヒト型ロボットに搭載され
た高性能のセンサーによって状況を把握、判断、動
作できたと仮定して、息子のようにホームスチールがで
きるだろうか。
現在の技術で人の動き、視線、ボールの動き、スピー
ドを一瞬で把握するのは可能だろう。息子によれば、
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ホームスチール実行の最後の決め手は、キャッチャー
や判断、労働力の供給などが考えられる。機能補
が一瞬ニヤけたことだったそうだ。
助具を付けた人のオリンピックも企画されているようだ。
このニヤけた表情には、どんな気持ちがあったのだ
いろいろと意見もあるようだが、どれも創造的で同意で
ろうか。勝ったなという気持ち、自分たちは強いという
きる。
気持ち、相手を見下すような気持ち……。どちらにせ
しかし悪いほうに考えると、さまざまな想像ができる
よ緊張が緩んだことは間違いないだろう。
のではないだろうか。もしかすると原子力と同じように、
表裏一体の大変な事象が起こるのではないかと心配
でもある。
◆ 人間の機能の代替へ向かうが
技術は技術であって、使う人によって、良いことに
も悪いことにもなる。人間を補助するのは良いことだ
最近のカメラには人を認識し、笑顔を検知して自動
が、それに甘えて人間が退化していくのは非常に危
的に写真を写すものもある。どのようなロジックで判断
険だ。
しているかはよくわからないが、画像から判断してい
技術がさらに進化していく時代、人間 1 人 1 人がしっ
る。コミュニケーションロボットでは、
話し相手の声のトー
かり成長するように、私たちおじさんたちがしっかりし
ンから感情を判断できる。メールの文章の言い回しか
ないといけないと思う。
ら、相手が好意的かどうかも判断できる。
とはいえ、ロボットがホームスチールできる時代がき
どれもAI 系の技術で実現できている。技術はここ
たら、きっと野球は面白くなくなるだろう。
まで進んだかと、いつも感心するが、まだどの判断も
単機能で、何でもできるわけではないようだ。
ITはもともと人間のやっていたことを代替したり補助
したりしてきた。その後、人間ではできないスピードや
効率を実現した。現在は、人間の機能の代わりを実
現しようとしている。
◆ 使う人によって良し悪しが決まる
この「代わり」という言い回しは難しい。良いほう
にとれば、これからの少子高齢化時代に向けて、老
齢者や障がい者の補助、人間の能力を超えた認知
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