人間と人工知能が生み出す傑作 第8回 浜口 昌也

◆ 子供の描く絵
あるクイズ番組で、70 億円の絵画と小学生が描い
た絵が複数並べられ、どれが 70 億円の絵かを当てる
クイズをやっていた。すべて印象派のようなタッチで、
有名な画家の作品だと紹介されれば、納得してしまい
そうな雰囲気の絵ばかりだ。
小学生が印象派のような絵を描くのは、印象派の
技法を自分で編み出したわけではなく、1 つの書き方と
して指導されたか、展覧会などで見たからだと考えら
れる。絵を描くという行為は直感的である一方、1 つ
の経験の枠組みのなかで行われる活動だといえる。
彼らは成長するなかで大量の情報に触れ、それら
を咀嚼し、再解釈することで自分のものにしていく。
第8回
子供は可能性のかたまりだが、今までの莫大な歴
人間と人工知能が生み出す傑作
史や経験を再生産する装置でもある。大体が真似で
終わってしまうが、稀にまったく新しいものを生み出す
こともある。
クイズ番組に出た小学生の誰かが、未来の大芸術
家になるかもしれない。
浜口 昌也
◆ 人工知能の描く絵
JB アドバンスト・テクノロジー株式会社
先進技術研究所
所長
Googleの人工知能が描いた絵が、夢に出てきそう
著者プロフィール
1985 年、
日本ビジネスコンピューター(現 JBCC)入社。ハー
ドウェア保守サポート、UNIX 系アプリケーション開発、マー
ケティングでの Linux 事業を推進。世の中に先立って仮想化
を推進し、JB グループ社内 IT の仮想化統合も企画・実施。
2013 年度より先進技術研究所所長に就任し現在に至る。
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なほど怖いと評判だ。詳細は実際に見ていただくよう
お勧めするが、かなり怪奇趣味的な絵を生み出して
いて、自動的に生成したとは思えないものが多い。
また画家のレンブラントを学習して、レンブラントの新
作を生み出すことを目的としているようなプロジェクトも
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ある。
ち合わせてはいない。しかし機械ならば、すべての
人工知能が絵を描くのと、子供が自分で絵を描くの
情報を活用できる。
と、どこが同じで、どこが違うだろうか。
人工知能がこれらの情報をフル活用して絵を描いた
同じなのは「指導」を受けて、いろいろな「経験」
とき、人とは異なる観点で、鑑賞するに値する何かが
をし、
「評価」されることで作品を生み出すことだ。違
生まれるのではないだろうか。
うのは、子供は絵以外の人生や歴史の莫大な情報
きっと絵のなかに、見たことのないデータの結晶のよ
の影響を受けていることである。
うなものが現れるはずだ。
だから子供に限らず、人が描いた絵は鑑賞する価
値があるように思える。絵のなかに、
「人」が現れる
からである。
◆ 人が機械をのみ込む
チェスの当時の世界チャンピオンであるガルリ・カス
◆ データ量の爆発
パロフが、IBMのスパコン「ディープ・ブルー」に敗
れてから来年で20 年になるが、そのあとチェスの世
2020 年には、デジタル世界の規模は40ゼタバイト
界は衰退したかというと、そんなことはない。
に達し、世界の全人口1 人当たり約 5247ギガバイトの
ガルリ・カスパロフは、コンピュータと人間が協力
データを保有するという推計がある。
してチェスのゲームに臨む競技である「Advanced
たった4 年後にはものすごい量になる、と思えるが、
Chess」を創始し、新たな境地を切り拓いた。
自分の写真でもデジタルデータだけで年間 100ギガバ
同様に未来の偉大な画家は、人工知能を使い、
イトぐらいにはなることを考えると、それほど驚く数字で
絵のなかに「人」を見せると同時に、
「データの結晶」
もない。
を表現するのではないかと思うのである。
写真が大量データになるのは、カメラの性能が上
がって高解像度となり、なおかつ秒間何コマの連射を
しているからだ(今の写真の撮り方は、数多く撮影し
て、そのなかからよいものを1枚選ぶ)。
この解像度の上昇は、写真以外のあらゆる分野で
起きる可能性があり、今後、私たちが行う記録という
作業ではさらに加速化していくだろう。
あらゆる領域でデータが爆発的に増えるなか、人は
これらの情報をすべて吸収するような時間や能力をも
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