先輩のともだち訓練 ID:53451

先輩のともだち訓練
炭酸的歌唱奴
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︻あらすじ︼
いろはすが八幡を誘ってお出かけするお話です
!
第
第
第
第
4
3
2
話 ││││││││││││
後輩のお誘い │││││││││
37 31
24
19
15
8
1
目 次 第
5
番外編 クリスマス ││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
第
6
44
7
文字群から逸らし顔を上げると、見知った顔がそこにあった。
手にしている本の文面が全く頭に入ってこず、一度頭の中をリセットしようと視線を
つあることは否めない。
なのだが、今は何処ぞの意識高い系男子で言うところのネイティブシンキングになりつ
者と言われ続けた兄だが、そのベクトルはあくまでもポジティブに捻くれていたつもり
最近はこんな事ばかりが頭の中を渦潮の如くぐるぐると回っている。小町に捻くれ
だが、間違え続けてきた自分の何を根拠に断言できようか。
俺にはそう見えた。
人間関係をその関係の枠の外から眺め観察し、分析することをパッシブスキルとする
の一言があってから、二人は前よりも仲良くなったように見える。
なけなしの勇気と、あったかも分からないプライドとも言えない何かを振り絞ったあ
二人揃っていないということは、恐らく二人でお出かけでもしているのだろう。
い犬の如く雪ノ下にじゃれている由比ヶ浜も居ない。
ある日の放課後、いつもの様に静かに本を読んでいる雪ノ下の姿はなく、その隣で飼
後輩のお誘い
1
﹁あぁ一色、あいつらなら今日は休みだぞ﹂
﹁知ってますよ、先輩。結衣先輩から連絡ありましたし﹂
最近よくこの部室に訪れる一色いろはがそこにいた。
それよりも女子だけでグループが出来ちゃってるんですかそうですか。
ぼ っ ち と し て は い か な る 集 団 に も 属 さ な い の は こ れ 以 上 な い ポ テ ン シ ャ ル で あ る。
よって問題はない。
強いていうのであれば部員ですらない一色に連絡があって部員である俺に連絡が無
いことがおかしいと思うぐらいか。
そうか、と小さく返事をしておき視線を本へ戻そうとすると、ていっと可愛く本を略
奪された。
盗られた本は一色の胸元にひしっと抱きしめられており、年相応には成長しつつある
のであろう双丘に自然と目がいってしまう。
これは一色が悪い。あざとエロい。このエロはすめ。
しばらく視線を逸らさずにいると、さすがに声が掛かった。
普段通り普段以上に﹂
?
﹁先輩酷いです∼﹂
﹁いや、今のはエロは・・・いろはすが悪い﹂
﹁先輩、キモいですよ
後輩のお誘い
2
この後輩との会話も大分慣れてきた。
俺が喋ることのできる数少ない厳選された人物の内、唯一の後輩と言える人物だろ
う。
何故かは分からないが、生徒会が忙しくない時などに奉仕部の部室に居座っている。
由比ヶ浜はもちろん、あの雪ノ下までもが一色には甘く、残る俺はといえば八幡式お
兄ちゃんスキルという小町専用のパッシブスキルが誤作動してしまうため、言うまでも
ない。
甘いだけならばいいのだが、一色の場合、その立場を完全に使いこなしているためタ
チが悪い。
彼女らが不在ということは﹁先輩と二人きり﹂イベントが発生することは分かってい
﹁で、どうかしたか﹂
たはずだ。
﹂
こちらがそう切り出すことを予め予測していたかのように反応があった。
﹁どうもしませんよ∼あ、もしかして先輩期待しちゃったりしました
﹁うへぇ、さらっとシスコンアピールしてくる所あれですよ先輩。ただでさえあれなの
高﹂
﹁うるせぇ、つい小町に話しかけるお兄ちゃんスキルが発動したんだよ。ようは小町最
?
3
に﹂
あれってなんだあれって。私、気になります
そうなのね
?
前に座った。
いつもと場所が違う気がするのは気のせいですかね。あ、妖怪のせい
!
俺の呟きは聞き止められることはなく、ガラガラと椅子を引きずってきた一色が目の
﹁言葉にしたらいいのか⋮﹂
ますすいません﹂
ズですかそうですかでもそういうのちゃんと言葉にして欲しいのでまた今度お願いし
﹁は、はぁ・・・あ、もしかして俺が言わなくたって俺の愛は伝わってるだろ的なプロポー
ないまである﹂
﹁大事なことだからって2回言う必要は無いんだぞ。むしろ大事なことだからこそ言わ
!
八幡が一人なのは妖怪のせいなんだよ ︵戸塚ボイス︶を脳内再生する。妖怪のせい
でいい気がしてきたよ
戸塚の可愛さは妖怪級。
!
!
﹁せっかく三人で過ごす時間が出来て、一緒の部に居るのにどんどん二人だけが仲良く
﹁何が﹂
﹁先輩はなんとも思わないんですか﹂
後輩のお誘い
4
なってる・・・ように見えます。少なくとも私には﹂
らねば。
﹂
って。可愛い後輩からのお誘いですよ
﹁だから、私とお出かけしましょう
ってなんですかは
﹁は
?
!
きっとそうですそうに違いありません﹂
?
﹂
﹁は
?
ントかも知れませんよ
?
?
もう二度とないイベ
断言されてしまった。八幡シンキングはそんな簡易なものではないことを教えてや
かー﹂
﹁素直じゃないですねー。先輩もどうせ一緒に過ごすなら楽しい方がいいじゃないです
﹁仲良くしたいのが目的ではないんだが・・・一緒に過ごしたいとは思って、る﹂
ていった。
れてか、昔の自分ならば引っくり返しても出てこなかったであろう言葉が口をついて出
一色には理不尽な何かに反抗するんだ、という意気込みが見て取れた。勢いに気圧さ
ね﹂
﹁でも、出来ることならもっと関わりたい、一緒に過ごす時間が欲しいとは思ってますよ
じゃ﹂
﹁別にいいんじゃねーの。俺は二人と仲良く過ごしたいとかそういうのを求めてるわけ
5
可愛い後輩って﹂
﹁自分で可愛いとか言っちゃうあたり可愛くない﹂
﹁先輩が言ったんですよ
けです
﹂
僕として連れて回るのも心が踊らないでもないですが、今回は対等な友達同士のお出か
﹁先輩はすぐそうやって下手に下手に出るからダメなんですよー。個人的には先輩を下
﹁で、なんでお出かけとやらに俺がついていかなきゃならん。下僕か何かなの﹂
ブーメランが帰ってきた。
選挙の時にメリットを提示する際口にした覚えがある。
そんなことを言った先輩が居るのか誰だそいつ。
?
﹁一色、前提が間違ってる。俺に友達はいない﹂
!
顔出したら校門で待ってるのでー﹂
流れるような動作でこちらが反対意見を出す前に去っていった。
八幡という人間の扱いに慣れた人間のやり口である。
約束をすっぽかせない純情な男の子を弄んだ挙句利用するなんて酷い
て無いよ
!
特に予定も無かったし構わないか、と小町に遅くなるという旨のメールを送ってお
!
こんなのっ
﹁だからその練習をするんですよ。なんでもいいから用意してくださいねー。生徒会に
後輩のお誘い
6
7
く。
人生が苦い分コーヒーぐらいは甘くていい、と思っていたがどうやら後輩に対する対
応もいい加減甘くていいやと思えるようになってきたものである。
第
話
﹁先輩って友人と呼べる友人って居るんですか
﹂
いや違う。あれは知り合いの枠に辛うじて滑り込めているか込めていない
?
考えるまでもなく、友人と呼べる人は居なかった。
う。ちなみにこれは普段から至って大真面目に考えていることである。
戸塚は天使だ。人という枠組みを超えているあたり友人と呼べるものでは無いだろ
できる。
本人に境界線上の人物等と言えば気持ち悪い反応が返ってくるのは目に見えて想像
かの境界だ。
材木座
では、他に誰か居るだろうか。
ねる。
せぼっちを極めた身である俺としてはあの関係が友人と呼べるものなのかは判断しか
友人、と言われてすぐに頭に浮かぶのは今日部室に居なかった彼女達の顔だが、なに
校門から歩き始めた途端、横並びに歩く後輩は分かりきった質問をぶつけてきた。
?
2
﹁いねぇな﹂
第2話
8
﹁じゃあ友人一号を立候補してもいいですかね
﹂
﹂
?
﹂
?
ですねー﹂
?
いだけだ﹂
﹁分からない言葉をわざわざ使うなよ・・・つーか俺はチキンじゃない、損得勘定が上手
﹁先輩はチキン
﹁いや、誘ってないから。ていうか付き合うのはいいのか﹂
表情からは心の底から引いているという意志が見て取れる。
早口でまくし立てるようにいつもの反応が返ってきた。
ので付き合い始めてからお願いしますごめんなさい﹂
﹁せ、先輩もしかして誘ってますか・・・付き合ってもいないのにそういうことはダメな
今度は即答である。
﹁家﹂
ありますか
﹁うわぁやる気ないなーこの先輩。なんでもいいですけど、先輩、今から行きたいところ
﹁勝手にしてくれ﹂
あまり質問の意図を理解していない段階で答えを口にした。
唐突な質問に即答出来ない。
﹁は
?
9
誘って欲しいのか欲しくないのかはっきりしない奴だ。
誘って欲しくないことは言わずともはっきりしているのだろうが。
たいところ無いんですか
﹂
﹁で、話戻りますけど、このまま歩いていくと駅付近に着くじゃ無いですか。何処か行き
すよ
﹂
﹁だから言ったじゃ無いですか先輩。今日は先輩に友人と過ごす練習をしてもらうんで
﹁別に・・・俺に選択権があるのが意外なんだが﹂
?
﹂
結局こちらが提案する辺り前回と変わらないのではないか。
友人同士に置けるという前提は想像もつかない。
﹁よくわからんがそうなんだろうな﹂
﹁友人同士なのに片方ばかりがリードするのはなんか違う気がするじゃないですか﹂
りまたそうなるのかと思ってたわ﹂
﹁友人ね・・・この間二人で出かけた時はリードしろーって感じじゃ無かったか。てっき
!
?
りながら答えた。
すると一色は、らしくもない少し照れくさそうな表情を浮かべて駅の方向に視線をや
友人同士という前提があるのであれば、これは許されるはずだ。
﹁じゃあ、一色は何処に行きたいんだ
第2話
10
﹁今行きたい所、ありますけど・・・先輩と行くのはなんというか・・・﹂
﹁いや、いいです
﹁お、おう﹂
ついてきて下さい
﹂
!
﹁こ、ここですよ
先輩
﹂
!
一色が立ち止まった店には大人びた雰囲気のある黒や白を基調とした衣服が並んで
﹁おう、やっとついたか・・・﹂
!
自然な流れでいけば、買い物をする事になるのだろう。
ない。
普段から何を考えているのか分からないこの後輩だが、今日は普段にもまして分から
いった。
一色の言う通り駅付近に到着すると、こっちですよーとショッピングモールに入って
位に立っている後輩という立場からの喋り方が出来ず困っている様子だ。
俺が距離感に悩んでいるのは言うまでもないが、彼女もまた、いつもの少し先輩の優
一色との会話でここまでやりづらいのは初めてだ。
な空気が二人を包んでいる。
友人同士という変な前提があるせいか、お互いに何処か距離感を測りつつある、そん
!
﹁俺が居るとまずいとこなら入らずに一人で待ってるぞ﹂
11
いる。
ふわふわピンクないろはすからは想像のつかないようなファッションである。
すけど﹂
﹁いつも友達と買い物する時にはなかなか近寄れなくて・・・前々から興味はあったんで
﹁まぁ確かにこういうのは一色らしくはないな﹂
﹁他人から言われるとなんだかいらっと来るものがありますね﹂
﹁らしくなくても似合いはするだろ﹂
おっと失言。余計な一言とは正にこのことである。
﹁なっ・・・﹂
いつもの何故か振られる台詞が飛んでくると思いきや、反応は意外なものだった。
﹁お、お世辞でもありがとうございます・・・﹂
﹁そ、そうか﹂
一式は頬をほんのり染めて居心地が悪そうにしている。
こっちまで居心地が悪くなってくる。
この後輩のやろうとしている俺の友人練習という目標には背く形になるが、提案せざ
る終えなかった。
﹁友 人 同 士 振 る 舞 い っ て の も 練 習 は し た 方 が い い の か も 知 れ な い が、今 日 は 振 る 舞 い
第2話
12
﹂
じゃなくて行動を目的にしないか﹂
﹁どうゆうことですか
やめて
八幡のライフはもうゼロよ
!
うございますとかあざとすぎじゃないですかね。恐ろしい娘
﹁なんで一色が小町の口癖を知ってる・・・つーか小町以外に言われたら違和感が半端な
﹁はあ、これだからごみぃちゃんはって言われるんですよ﹂
う行為は間違っているまである﹂
﹁そうだな。慣れないことはするべきじゃない。人間そういった点では家から出るとい
!
素の自分を、ということは先程までの反応は全部素なのか。頬を染めながらありがと
舞ってたんですけどやっぱり慣れないことはするべきじゃないですねー﹂
﹁良 く 分 か ら な い で す け ど、だ い た い わ か っ た と 思 い ま す。素 の 自 分 を 出 来 る 限 り 振
ことには動じないと自画自賛していたのだが。
ぼっちのメンタルはある種鋼を超越してダメージを受けないメンタルなので大抵の
!
このままの状態が続くとライフポイントが0になってしまう。
正直、今の状態はとてもじゃないが耐え難い。
よ﹂
﹁だから、俺もお前も普段通りで、友人同士がやりそうな行動だけを練習するってことだ
?
13
いからやめてくれ﹂
自分自身の表情を上手く操れる一色のジト目とごみぃちゃん発言に何かが目覚めて
しまう気がした。
﹁どこまでもシスコンですね・・・ていうか口癖なんですかこれ﹂
﹁ああ、最近はその台詞に愛を感じてる﹂
﹁シスコンも行くとこまでいけばむしろ凄いと思えるようになるんですね﹂
一色は呆れた表情のまま、店先に視線を移した。
﹂
こちらに振り向いて一言添えていく。
﹁試着するので感想をお願いしますね
良さげなものはどんどんこちらに預けてくる。
楽しみだったのだろう、店に入っていった一色は様々な衣服を手に取っては吟味し、
!
渡された服を眺めていると、また二、三着ほど手に持つ一色が駆け寄ってきた。
﹂
!
かかっている個室の目の前に着いた。
試着室というのが何処にあるのか分からないのだが、一色についていくとカーテンの
﹁試着室に持っていってください
第2話
14
第
話
3
﹁どうですかね、先輩
﹂
カーテンを見ていると、ちょうどカーテンがまくられた。
向いてしまう。
一色がきたらそれはそれで、と思考が後輩の方へ向かってしまい、嫌でも音に意識が
あの服胸元ガバッと空いてて由比ヶ浜が来たらやばそうだなぁ・・・
付近に吊るされているオシャレな服に意識を集中する。
カーテン越しに聴こえてくる布が擦れる音のせいで煩悩が持ち上がってきそうだが、
いった。
試 着 予 定 の 服 を 手 に し た 一 色 は 少 し 緊 張 し た 面 持 ち で カ ー テ ン の 向 こ う に 消 え て
﹁はーい﹂
﹁気の所為気の所為。長居してると倒れそうだから早くしてくれ﹂
﹁妙に信用出来ますね・・・ていうか何気失礼じゃないですか﹂
﹁安心しろ、自分に得の無いことはしない主義だ﹂
﹁先輩、覗いたら通報しますよ﹂
15
?
﹂
先輩、可愛
計算づくされたいつもの一色ではなく、慣れていないデザインの衣服に包まれて何処
か初々しさを醸し出しており、表情も不安げである。
上目遣いがあざといことを除けば凄く可愛い。
可愛いですよね
﹂
?
﹁まあ、似合ってるんじゃないか﹂
いですか
﹁そんな目を逸らしながら言われても・・・あ、もしかして恥ずかしいとか
﹁さぁなてかあざとい﹂
﹁可愛いか可愛くないかなら
﹁早く見たいならそう言ってくれればいいのにー﹂
﹁うるせぇ次着ろよ次﹂
﹁先輩も素直になれば楽なのに﹂
﹁・・・可愛い﹂
?
?
?
可愛い後輩の姿を見れると思えばこれはこれでいいのだろうと思うようにすること
これがあとこの手にかかっている衣服の分だけ繰り返されるのか。
入っていった。
ニヤニヤしながら棒立ちの俺が持っていた服を1着手にとってまたカーテンの中に
﹁なっ﹂
第3話
16
にした。
一色のプチファッションショーが終わったあと、どれが一番良かったかという会話を
しばらくして、八幡の残念センスをお披露目すること無く何とか終える事が出来た。
意外にも買ってくれとせがまれる事はなく、友人同士がやりそうなことを二人で相談
した所、またまた卓球をすることになった。
前回デートの練習の時は何かしら理由をつけられてやったと思うのだが、今回は特に
あれから結構練習したんですよー﹂
理由はなく何となくという一色曰く友人らしい理由でやる事になった。
﹁先輩、今回は負けませんから
﹂
﹁意外に負けず嫌いなんだな﹂
﹁買ったら奢りですし
どんなものでも持ってると就職面で有利そうだが実際はそうではないと聞くので、八幡
この後輩、俺の事をよく分かっている。八幡検定準二級ぐらいは出せそう。検定って
﹁先輩のはただ相手が居ないだけです﹂
﹁奇遇だな、俺もよくする﹂
﹁イメトレですが﹂
むしろそれだけのモチベーションでよく練習出来たと思う。
﹁現金な奴だな・・・﹂
!
!
17
﹂
検定もそうはならないようにしたいものだ。
﹁じゃあかかってきてください
!
﹁あ、あぁ・・・って玉お前が持ってるだろ﹂
﹁・・・えっと、てい﹂
﹂
!
く考えながら返す。
その笑みを見て、こんなことを彼女達と共有する事が出来るのかな、などと柄にもな
一色は満面の笑みでスマッシュを叩き込む。
結果、不意を突かれた様な滑稽な玉が返っていった。
力で返そうとするが前回の事を思い出して接待卓球に切り替える。
なんてな。ずるいろはすの手元は確認済みだった上、行動も予測できていたため、全
﹁ちょっ、おま
第3話
18
第
話
4
﹁何か食べるか
﹂
﹁お、意外にも察しがいいですねー。私的にポイント高いです
全然見てないですし
ご飯にがっつく女の子とかそん
﹁さっきから露骨にご飯屋さん見てたろ。誰でも分かる﹂
﹂
﹁そ、そんなことはないですよ
なの全くないので
!
!
?
!
いろはすが動揺しているのはなかなかにレアだ。
いつもの振られる時の早口で捲し立てられた言い訳はどうやら本当の事らしい。
!
﹂
何か察しろよという視線に戸惑いながらも、可能性の一つを述べてみる。
て、こちらをちらっと見てきた。
えへへと勝ち誇った微笑みを浮かべる後輩は卓球場の壁に吊るされている時計を見
﹁んなっ﹂
﹁これからも荷物持ち頑張ってもらえますねー超運動系ですし﹂
﹁知らなかったのか俺は超運動系だぞ﹂
﹁また負けましたー先輩って実は運動系なんですか﹂
19
﹂
あざとい可愛らしさからあざとくない可愛らしさになって・・・結論可愛いじゃねえ
かなんだこれ。
素のこの子基本的に怖いからなぁ⋮
﹂
!?
﹁お腹すいたならすいたで素直に言えばいいのに﹂
﹁女の子が仮にも男の人にご飯にがっつく姿を見せるとか死ねというのですか
先輩はとことん鈍いですね
﹁そこまでの事なのか・・・いや、だとしても相手俺だし気にするなよ﹂
﹁気にしますよ
!
カンナイ
なんで気遣う言葉をかけてあげたはずなのに罵倒されてるんですかね。八幡イミワ
あれーおっかしいなー。
!
﹂
?
﹁いやそこはせっかく友人らしくなんですから二人で考えましょうよ﹂
﹁で、何食べたいの
めてしまうのである。
そういう趣味はないのでいくらこの後輩が可愛かろうと罵倒されたら素直に受け止
!
﹂
?
安くて美味しい、それだけではない。
ファーストフード店しか知らないぞ
﹁とは言われてもなぁ・・・友人と食事ってのを経験した事がないから安くて美味しい
第4話
20
注文してから出てくるまでの時間が短い。
つまり自動的に食べる時間が短くなる。
ということは人が沢山いる食事店で長居しなくてすむというサービス特典までつい
てくるのだから。
ファーストフード店こそコストとパフォーマンス、つまりコストパフォーマンスがイ
友人同士なら普通そんなおしゃれな所にわ
ンフレーションしてハピネスをプレゼンしているグレイトな空間では無いだろうか。
おっと意識が高くなってしまった。
﹁今回に限って言えばそれでもいいですよ
ざわざ行きませんし。
変態さんですね﹂
?
﹁やめてくれそのセリフ言われるとなんかあれだから﹂
﹁そうですか
﹁そういう反応があった方が普段らしくて楽だな﹂
さいとお願いします﹂
うのはちゃんと女の子として扱ってくれる時じゃなきゃ嫌なのでまた今度にしてくだ
﹁言うと思いましたけどって友人同士って設定なら連れ込めるとか思ってますかそうい
﹁じゃあ家﹂
普通はお互いが楽に過ごせる空間を選ぶ筈です﹂
?
21
はい
何言ってるんですか頭打ったんですかと言いながら一色は少し考える素振り
﹂
そこまで考えてひとつの案が浮かび上がった。
﹁一色、お前ってコーヒーとかいけるか
子供とか思ってません
?
?
だからどうなんだろうって思ってさ﹂
﹁先輩もしかして馬鹿にしてますか
﹁いやお前って甘い物好きだろ
?
すると、一色が黙った。突然の沈黙に思考が止まる。
?
?
﹁いえ、なんというか先輩も結構あざといですよね﹂
俺があわあわしはじめた所で少し視線を落とした一色がようやく反応した。
え、なにか地雷踏みました
﹂
頭の中をリセットしたいな。ブラックのコーヒーを飲みたい気分だ。
どうするかが頭の中をぐるぐると回ってしまう。
友人同士の食事。どうしても頭をよぎるのは彼女達との食事だ。彼女達と行くなら
今頷いたのはなんだったのか。
﹁やっぱり先輩が考えてください。先輩が考える友人同士っていうのも気になります﹂
をして一つ頷いてからもう一度こちらに向き直った。
?
この間も言われた気がする。
﹁唐突にどうした・・・﹂
第4話
22
﹂
私は甘い物大好きです
でもコーヒーだっていけますよ
!
どこに行くん
本人は何がそう言われるきっかけなのかよくわかっていないんですけどね。
ですか
﹁そうですよ
﹂
!
やけにテンションの高い一色に付いて行く様にして卓球場を出た。
﹁いいですねー行きましょう
﹁スタバにしようかと思ってさ﹂
?
!
!
23
第
話
﹂
?
ける﹂
﹁上がらないから。俺ほどの人生経験をもってすればそれぐらい、冗談なのはすぐ見抜
﹁言ってみれば先輩のポイント上がるかなぁと思ったんですが﹂
あざといセリフだが、それだけ惹きつけられる魅力があった。
そのセリフはどう言う意味なのだろうか。
同じもの飲みたいなぁとか﹂
﹁それはそうなんですが、こういう時ぐらいブラックに挑戦してみたいなぁとか、先輩と
きなんだろ
﹁わざわざブラックにしなくても普通に飲みたいものにしたらいいと思うぞ。甘いの好
﹁えっと私はですねー、んん・・・﹂
﹁ブラックと・・・一色、どうする﹂
5
見ると呼んでおいて未だに注文しない男女にイライラしている店員の姿があった。
そこでごほんという声が聞こえた。
﹁一年も変わらないのに何先輩ぶってるんですかキモいですよ﹂
第5話
24
俺が同じ立場だったら同じようにイライラするだろう。
店員を早く帰してやるため、一色の許可も得ずに注文する。
﹁そ、そんな私は子供みたいなことしないですし
﹂
いらないならブラッ
だいたいなんでフラペチーノなんで
すか先輩もしかして私の事子供とか思ってますか酷いですよ
﹁説明書きに大人のって書いてあるから・・・甘いの好きなんだろ
クと交換してやるから﹂
﹂
!
!
﹁フラペチーノとブラックじゃ飲み比べじゃないだろ⋮一色がそうしたいなら構わない
てことで
﹁ま、まぁいいですけど・・・じゃあこうしましょう お互いの飲み物を飲み比べするっ
?
!
!
かったんじゃないの﹂
﹁い や、お 前 さ っ き か ら ち ら ち ら 見 て た だ ろ チ ョ コ レ ー ト ク ラ ン チ な ん と か。頼 み た
すしどういうつもりなんですか﹂
﹁なんで勝手に注文しちゃうんですか先輩は親か何かですかしかもブラックじゃないで
目が合うと、途端にジト目に変わった。
目の前には驚いた様な顔をしている一色がいる。
かしこまりましたと店員は早々去っていった。
﹁ブラックとチョコレートクランチフラペチーノで﹂
25
が﹂
勝手に注文しちゃったのは何を隠そう俺だからね。
責任感強い人間なので責任を感じるわけで。
八 幡 パ ワ ー が 人 に 与 え る ネ ガ テ ィ ブ な オ ー ラ に も 責 任 を 感 じ て い る の で 普 段 家 に
篭っている訳ですよ。
責任感のある人間ってかっこいいよね
﹁良く言われる。主に小町に﹂
﹁先輩性格悪いですよ。あと目も﹂
いる。
どうやら笑っている事が気づかれた様で恥ずかしいのか頬を染めながら睨んできて
チーノを見ている一色を見て少し笑えてきた。
勝手に頼みやがってこの先輩というオーラは何処へやらキラキラ輝いた目でフラペ
数分すると、二つのドリンクが運ばれてきた。
!
に近い。
一色のフラペチーノはクリームやクッキーが乗っていて飲み物というよりは食べ物
軽く言葉を交わしつつもそれぞれの飲み物に口をつける。
﹁妹に罵倒されてる事を自慢げに言う兄って・・・﹂
第5話
26
と顔に出しながら口を開いた。
クリームを口に含んだ一色は幸せそうな顔をしている。
すると、こちらを見て引いています
!
味方ならいないけど﹂
?
口をつけた瞬間、一色と目が合った。
はい先輩とコーヒーが返ってきた。反射的に手にして特に何も思わず一口飲む。
﹁たまにはな。日頃はまっ缶じゃないと落ち着かないが﹂
﹁苦いのも意外といけますね﹂
口から離してからしばらくコーヒーを眺めていた一色は、ぽつりと言った。
両手で持って少し間を置いてから恐る恐る口をつける。
と言いながら可愛く略奪された。
くださいよー﹂
﹁色々突っ込みたい所ですがややこしいのでもういいです。それより先輩、私にもそれ
﹁味方
﹁それは先輩の見方が悪いだけですよ﹂
﹁流石にそこまで現実を甘いとは思ってねぇよ⋮実際現実は俺に厳しすぎるまである﹂
からもう一度お願いしますごめんなさい﹂
うとしてますか食べ物で釣られるほど私は甘くないので現実は甘くない事を理解して
﹁女の子の食べたい物が当たったからってドヤ顔しないでください、もしかして口説こ
27
﹂
﹁関節キスですね、先輩﹂
﹁っ
﹂
スプーンをねじ込んだ本人である一色はニヤニヤしながら言う。
ブラックを口に含んだ後だとその甘さ達がより強く舌を撫でまわす。
だ。
口に広がるのはチョコ特有の甘みのある苦みとそれを柔らかく包むクリームの甘さ
開いた口にスプーンがねじ込まれた。
﹁お、おまー﹂
あざとい。いろはすあざとい。
初めて飲み物を吹くという経験をしかけた。
!?
?
どのゲームも全部外したのに下着が残るのはなんでなんですかね。
備である。
耐性が無さすぎてロールプレイングゲームの初期装備どころかこれではまるで裸装
弄ばれているが特に嫌な気分にはならないから不思議である。
この後輩男心を弄ぶのがうますぎじゃないですかね⋮
やけに強調されたわたしのという言葉に先ほどの関節キスという単語が頭をよぎる。
﹁わたしの、フラペチーノは美味しいですか
第5話
28
口からスプーンが抜かれて、ようやく口が動き出す。
﹁あざとい﹂
﹁後輩からこんなことしてもらって第一声がそれですかひどいですよ
﹂
﹁先輩がそんな風に心配してくれるのは嬉しいですが、女の子というのはただ一途なだ
とこちらの目を見つめると、優しく呟いた。
一色はしばらく唖然として固まると、何故か笑顔というよりは微笑みを浮かべてじっ
そんなものは単なる押しつけで、身勝手な妄想かもしれないのだが。
い。
可愛く振舞う以上の事は決してしない、そうであって欲しいという感情からかもしれな
あざと可愛く振舞う一色いろはという人物は、葉山に対しては一途で、他の生徒には
何故だろうか。俺には関係ない筈なのに。
冷たいトーンの言葉が自然と放たれていた。
﹁なんつーか、あれだよ。好きな人いるのにそんなことほかの男にしてもいいのかよ﹂
しか言えなかった。
少なくともそのどちらでもない俺には対応できるスキルが無いのであざといの一言
然と対応できる奴がいたらたぶんそいつは葉山レベルの聖人か、ただのアホかだろう。
こんな事をされたら反応に困るのが近頃の男子高校生である。むしろこの状況に平
!
29
けじゃないんですよ﹂
心に引っかかるその言葉の真意を探ろうとすると、その前に一言付け足された。
らないですよー﹂
﹁それに、先輩は先輩ですし、こんな事ぐらいした所でその辺の犬に餌を上げたのと変わ
﹁まぁそれは分からないでもない﹂
彼女のせい、否、お陰で真意を探る事はなく。
一瞬流れた冷たい空気など無かったかのように明るい雰囲気が戻ってきた。
﹁せめてそれぐらいは否定しましょうよ﹂
第5話
30
第
話
﹁帰えー﹂
﹁どうしましょうか
6
もう日も落ちかけてますけど﹂
!
かった。
そう、友人が居なくてもスマブラで相手を飛ばす楽しみは知っているのだ
ばされたらむっとして怒ってくる小町の顔はいつ見ても可愛い。
俺の家で﹂
そんな事を考えていたからだろうか、不意にこんな事を呟いていた。
﹁ゲームでもするか
?
あと、飛
ぼっちを極めている俺だが、その手のゲームは小町という相手がいた為困ることは無
に集まってゲームでもするというのが定番だったはずだ。
友人でするとこという前提が良く分からないのだが、俺がよく読む小説だと誰かの家
あのあと、飲み物以外も少しお腹に入れた為、夕飯にはまだ早いだろう。
﹁友達、か。食べ物は食べたしな⋮﹂
思い付かないんですよね⋮﹂
﹁帰るのは無しで、と言いたいところですが先輩と出来そうな友達らしいことって中々
?
31
﹁え﹂
目の前に居る後輩はぽかんとしていた。
いつものコイツ何言ってるのという顔ではなく、コイツ今なんて言ったのという顔が
わかり易く見えている。
しばらくすると、一色はこほんと一息入れてか視線を落としつつ答え始めた。
﹁別にゲームするぐらいなら構わないですけど・・・どうせ先輩の事だから友達と自分の
家でゲームとかしたこと無いでしょうし﹂
意外にも断られなかった事に驚くが、そういう日も有るのだろうと深くは考えない事
﹁俺には小町が居るからな。わざわざ友達なんて呼ばなくて良かったんだよ﹂
にした。
交渉の時ならいざ知らず、一色いろはという人物が普段何を考えているかなどぼっち
である俺にはわかりようが無いのだから。
じゃあ早速先輩の家に行きましょう
﹂
﹁先 輩 の シ ス コ ン 発 言 に は も は や 何 も 思 う こ と は 無 く な り ま し た が ⋮ ま ぁ い い で す。
﹁ここが先輩の家ですか⋮普通ですね﹂
!
﹁いえ、先輩をこんな人にしてしまったのはひょっとしたら環境のせいかなと思ったん
﹁普通の男子高校生にお前は何を求めてるんだ⋮﹂
第6話
32
と心の
ですけど先輩は根が腐ってるから環境なんて関係ないんだなって再確認してましてっ﹂
てへっと舌を出す後輩を見て酷いこと言うな八幡だって人権はあるんだぞ
中で訴えるも小心者なりの努力は虚しく彼女は取っ手に手を掛ける。
﹁お邪魔しますっ﹂
﹂
物凄く不安そうな顔でこちらを見てくる。
勢いよく入っていった一色は玄関で足を止めた。
めないが。
という前提の元、家に招くのは初めてなので俺もこころなしかワクワクしているのは否
勢いよく扉を開けて入っていく後ろ姿は何処か楽しそうだ。自分の知り合いを友人
!
﹁ま、まだ帰ってきていないと思うが⋮そ、そのわざとじゃないんだすまん。俺も小町が
つまりこの家には一色と俺しかいないという事になる。
まだ家には帰ってきていない。
小町は受験勉強の為学校で先生に分からないところを聴いてくると言っていたので、
だがその前提は残念ながら間違っている。
彼女の中では小町が既に家に居て俺と小町と3人になる予定だったのだ。
そこでやっと彼女の意図していることがわかった。
﹁あの先輩、小町ちゃんは
?
33
帰って来てるもんだと思ってて⋮﹂
すると目の前の彼女ははぁとため息をついた後、微笑みながら言った。
ねー借りにしておきましょう
それで手を打ってもいいですよ
﹂
﹁別にいいですよ。先輩がそんなことわざわざするとは思えないですし。ただそうです
?
﹂
ただ、それで構わないと思う自分が居るのだからそれでいいのだろう。
い。
小町との生活で鍛えられたお兄ちゃんスキルなのか、一色の才能なのかは分からな
う。
ないとは言い切ることが出来ないが、断る事が出来そうなお願いでも聞き入れてしま
彼女のお願いには弱い。それは雪ノ下達からも指摘された事だ。弱みを握られてい
﹁借り⋮じゃあそれで頼む﹂
女に現れていた。
普段あざとく可愛く振舞うことに振り分けられているあざとさがここに来て素の彼
相変わらずあざとく計算高い彼女らしい提案だった。
!
?
まらない一色さんマジ尊敬っす。
いつの間にかリビングへ移動していた一色は家を物色し始めていた。人の家でも固
﹁せんぱ∼い、ゲームどこなんですかー
第6話
34
彼女の態度は固まる固まらない以前に自然体過ぎる気がするが。
﹂
釣られて小町に普段している様な対応をとってしまう。
﹁あぁ、テレビの下。飲み物何飲む
?
先輩と同じで
﹂
目を丸くした一色はこちらを見てボーッとしているが、はっとしてテレビの方を向い
た。
﹁なんでもいいですよ
!
﹂
!
﹂
?
﹁お、そこはちゃんと考えてるんですね﹂
﹁じゃあさっさとやろうぜ。あんまり遅くなったらまずいだろうから﹂
流石いろはすそう簡単には流せなかったか。
﹁あ、ありがとうございますって先輩﹂
﹁はい、コーヒー﹂
﹁なんか失礼な事考えてません
いのせいであざとさが隠しきれて居らず、ある意味その方が年相応に見えた。
ビシッと敬礼する一色は上目遣いが無ければ子供っぽいのだろうが如何せん上目遣
﹁用意できました
お湯を沸かしていると、いつの間にか一色が台所に来ていた。
同じと言われると少し困る。とりあえずコーヒーでいいかと用意をする。こちらが
!
35
まさか一色がその相手になるとは思いも寄らなかったが。
八幡初の小町以外との対戦が遂に始まった。
﹁まぁな﹂
第6話
36
第
話
フィールドもランダムでいいですよね
!
クターでやろうとしたら、
﹁お互いランダムで
﹂
キャラクター以外への対抗力がない事をすぐに察知し、せめて自分が慣れているキャラ
自分は対人戦に慣れているものだと勝手に思い込んでいたのだが、小町が普段使う
しなかった。
一色は意外にもゲームが上手く、小町との対戦で鍛えたゲームスキルがなかなか通用
7
なにはともあれ、気が付けば小町が帰ってきていた。
りともどぎまぎしてしまったのもありますね、はい。
後はあれですね、小町と同じ様な距離感ですぐそばで一喜一憂している後輩に多少な
対。
ゲームしてるんだから操作してるキャラクターで殴り合おうね。暴力、よくない、絶
だってあの娘、ゲームしながら本体に攻撃してくるんだもん⋮
た。
という一色の提案に乗ってしまった為、初心者同然の一色と同格の戦いをしてしまっ
!
37
﹁ただいまー⋮あれ、お兄ちゃん
女の人来てるの
ゆいさん
?
ゆきのさん
?
﹂
?
会長さんですよー。
の姿を見てこの人誰
とアイコンタクトをとってくる。君の目指している学校の生徒
一色の発言に誤解の無いように答えているとリビングまで小町がやってきた。一色
んだことないが﹂
﹁どういう関係だよ、まず呼んだことないから。あの二人だけじゃなくてほかの奴も呼
﹁先輩ってあの二人とそういう関係なんですか﹂
できた。
小町の声を聴いてか、動きが止まった一色は隣で見上げる様にこちらの顔を覗きこん
!?
らないのも無理は無いが。
﹁先輩、この娘が例の小町ちゃんですか
﹁あーそうだ。俺の自慢の妹の小町だ﹂
﹂
宜しくお願いしますね
小町ちゃんかわいいねー先輩
!
﹁どうもお兄ちゃん自慢の妹の小町です
と兄弟とは思えないぐらいというか思えないです﹂
!
?
!
﹁あ、先輩の学校の生徒会長をやってる一色いろはです
﹂
実際問題受験する学校の生徒会長など覚えている人はごく少数の物好きだろうし、知
?
﹁悪いな、よく言われる﹂
第7話
38
﹁悪いと思っていたことが意外です・・・﹂
一色は本当に兄妹かどうかを確かめるためか小町と俺の顔を交互に見ている。
主に気になるのは目なのだろう。そんなに見つめられたら勘違いしますよ
﹁で、いろはさんはごみぃちゃんのなんなんですか
が。
﹂
いや、見つめられただけで勘違いとか俺のボッチスキルとかいうレベルじゃないんだ
!
考えていると一色がすらっと答えた。
﹁学校の後輩なんだよー先輩の﹂
!
﹁先輩・・・私が、先輩・・・先輩、なんだか私今めちゃくちゃ気分がいいです﹂
﹁なるほど、、、じゃあ未来の小町の一つ上の先輩さんになるということですね
﹂
プに所属しているわけではない。果たしてそれを後輩と言っていいものなのか。
簡潔に言ってしまえば後輩ということになるのだろうが、直属の何かの共通のグルー
るようでその実関係は示していない。
すぐに頭に出てくるのはあざといという単語だ。だがそれは彼女のことを表してい
八幡にとってなんなのか。
は伝えているし時々そのことを話している。ではこの一色いろはという人物は比企谷
小町が気になるのはそこなのだろう。雪ノ下や由比ヶ浜は部員ということを小町に
?
39
﹁それはよかったな、短絡すぎだろ・・・﹂
﹂
﹂
夜の外道は危な
小町はほうほうといつもの思わせぶりな仕草をした後、時計を見て思いついたように
聞いてくる。
﹁いろはさんは何時まで居るんですか
﹁んーと、先輩、私って何時まで居るんですかね
﹁それって俺が決めることなのか・・・﹂
﹂
﹁あんまり女の子を夜遅くまで家に連れ込んだら駄目だよお兄ちゃん
いんだから﹂
﹁それもそうだな。一色そろそろ帰るか
﹁じゃあ先輩、また学校でー﹂
﹁お兄ちゃんおく││││﹂
わざわざ送ってもらわなくても﹂
﹁一色駅まで送ってくから夕飯先に食っててくれ小町﹂
﹁先輩別にいいですよ
!
?
??
いうが早いかすでに一色は片づけを始めていた。
?
だからな﹂
﹁いや、これでお前に何かあったら俺が罪悪感やばいしそれでさらに借りを作るのは嫌
?
﹁素直じゃないですねえ﹂
第7話
40
﹁うるさい﹂
うだうだと言い合いながら玄関を出ていく。
後ろから何かを呟いたような声が聞こえた。
﹁意外と先輩やってるじゃんお兄ちゃん﹂
駅までの道は意外にもそう長く感じられなかった。
楽しかったのかと言われればどうなのか悩むところではあるが、いろいろあったが嫌
な時間ではなかったのかもしれない。一色に形だけでも先輩と認められた気がして少
しうれしかったのかもしれない。
普段の一色からは先輩として見ている先輩というのが全く感じられない。
﹂
彼女たちだけでなく随分この後輩とも関わるようになったものだ。
﹁先輩、少しは友達らしいことできましたか
﹁結局振り回されただけな気もするな﹂
﹁酷いですよーせっかく頑張ったのにー﹂
という一色の反応にはいつものあざとさが戻っている。
?
たのだろうか。
一色の唐突で強引な提案で起こった今日のこの出来事だが、結局一色は何がしたかっ
ふえ
﹁そういえば一色のそういう態度久々に見た気がするな﹂
?
41
﹁先輩もちょっとは友達っていうのを雰囲気だけでも感じ取ることができましたか
﹁未だによくはわからんが少しは・・・たぶん﹂
駅はもうすぐそばだ。解散するならここで解散することになるだろう。
ントになりましたか
﹂
﹂
て短絡的に考えたりはしません。でも少しは先輩の追い求める本物に近づくためのヒ
﹁私は本物というのがなんなのかはわかりませんし、友達というものがその答えだなん
?
!
り考える﹂
﹂
﹁先輩にしては素直ですねーじゃあ今日はこのあたりで
たよ
先輩にしては楽しい時間でし
﹁悪い、そんな風に気を回してもらってるとは気づかなかった。帰ってからまたゆっく
た。
この後輩がそんな意図をもってこんなことをしてくれていたとは思いもよらなかっ
不意に出てきた本物という言葉に息が詰まる。
?
今度はまたあのラーメン屋さんに連れて行ってくださいね
﹂
改札を抜けていく一色の後ろ姿は確かに小さいはずなのだが、どこか大きく見えた。
﹁そりゃどうも﹂
!
!
どうやら、また彼女には借りができてしまったらしい。
﹁先輩
!
第7話
42
43
前回のなりたけのことを言っているのだろう。今回はあまりお腹にくるような大き
なものを食べていないからかもしれない。
改札口で大きな声を出すのはぼっちには無理があるので、大きくうなづいておく。
今度はギタギタ食べさせるからな、と心に誓いながら。
1週間後に思い出されたらしい。気の毒な兄である。
に休みも取れない両親がその日だけはと休みを取る程だ。ちなみにその兄の誕生日は
比企谷家では当然の如くそれはもう盛大に小町の誕生日を祝う。普段忙しくまとも
うすれば少しは誕生日というのも祝いがいのあるものである。
かと願わんばかりである。むしろ自分の誕生日は学校も会社も休みにして欲しい。そ
それよりも天皇の誕生日が国民の休日である様に、クリスマスも休みにしてくれない
の意識は薄れ、男女が愛を誓い合う日という認識が広がっている。
多種多様な宗教や神がスクランブルエッグの様に混ざって定着している日本ではそ
い人間でも知っているであろうイエス・キリストの生誕祭である。
12月25日、所謂クリスマスというやつだ。キリスト教徒なら勿論、世間に興味の無
だがしかし、そんな行事の中で数少ない賛成派と反対派が拮抗する日がある。それが
今日だけだと批判的な声には誰も耳を傾けないものだ。
万国共通、祭りは盛大に執り行われ、近所迷惑や些細ないざこざは、全て祭りだから、
人間は行事というものに敏感だ。
番外編 クリスマス
番外編 クリスマス
44
当の本人も忘れていて当日に天使戸塚の一言で思い出したのだから、誕生日もあって
良かったと思えた。喋りかけるだけで人を幸せに出来る戸塚こそ生誕祭が行われるべ
きだと思いました。
さてさて、そのクリスマスがやって来てしまった訳だが、比企谷八幡とってはただの
冬季休業期間の1日である。
いつもと変わらない日常、素晴らしい。
クリスマスの朝、インターホンを鳴らす音がした。
この家をこの時期に訪れるのは、消去法から導き出される。小町は冬期講習、受験生
のため当然その周りの人間も小町に会いには来ないだろう。両親は家に居ないため、両
親関係だった場合先に連絡があるはずだ。俺に関しては勿論、冬休みに遊びに来るよう
な友達は居ない。万が一にもあるとして材木座ぐらいだろう。
導き出される答えは宅配。もしくは勧誘。どちらにせよわざわざ出るまでもなく、宅
配だった場合は小町に寝てましたてへぺろっとでも言っておけば何とかなるだろう。
よって比企谷八幡が移す行動は一つ。居留守である。
息を殺して時間が過ぎるのを待つ。こう言うと凄そうだが、実際はぼーっとしているだ
普段から余り声も音も出さない生活をしているが、不自然さを出さないためにも更に
﹁・・・﹂
45
けだ。
すると、二回目のピンポンがなった。続いて三回目。四回目、五回目と続いていく。
流石にうるさいので一言言ってやろうと玄関に出てしまった。これが今日全ての元
凶となる選択だった。
扉を開けるとそこには少し低い位置に頭があった。クリスマスを意識しているのか、
肩から掛けているポーチが赤と白のボタンで作られており、サンタになるのではなくサ
ンタをファッションとして扱っている様だ。だが、格好そのものはサンタという訳では
小町ちゃんからきっとする
なく、暖かそうなブラウンのコート、暖色を使ったチェックのミニスカートに身を包ん
でいる。
﹁先輩、遅いですよ∼﹂
﹁すまんちょっと手が離せない状態だったからな﹂
﹁先輩の事だから居留守しようとしてたんじゃないですか
から連打するといいよって言われたんですけど﹂
?
流石我が妹、兄の行動を完璧に把握している。将来が期待出来そうだ。把握している
ピンポンダッシュ
じゃあお帰りはあちらですよ﹂
対象がこんな兄の時点で必要の無いスキルではあるが。
?
?
﹁さらっと誤魔化さないでくださいよ・・・しかも御丁寧に帰る指示とか要らないんで﹂
﹁・・・で、何しに来たの
番外編 クリスマス
46
すると目の前のピンポン連打犯、一色いろははお邪魔しまーすとずいずい家に入って
いった。余りにもナチュラルだったので反応できなかった。
家にお邪魔するスキルなんて磨く機会などない。勿論だが対応するスキルも無い。
﹂
すぐそばを横切って家に入ったが、直ぐに脱ぎにくそうなブーツを脱ぐ工程で玄関で
足止めを食らった一色に声をかける。
﹁で、ほんとに何しに来たんだよ﹂
﹁いや、先輩の事だからクリスマスは暇だろうなと思ったので﹂
﹂
﹁それは答えになってない﹂
﹁私も暇だったので
死んだの
﹁だから葉山先輩は塾の講習に行く事で回避してるらしいですよ∼流石葉山先輩って感
﹁・・・﹂
﹁クリスマスなんか沢山の女子がチャンスと思って誘うわけですよ、先輩と違って﹂
﹁・・・﹂
﹁葉山先輩はモテるじゃ無いですか、先輩と違って﹂
い後輩がクリスマスなんて機会を有効活用しないとは思えない。
確か目の前にいる後輩は葉山という先輩に猛アタックしているはずだ。このあざと
?
!
﹁他人の事言えねぇじゃねぇかよ・・・葉山はどうしたの
?
47
じですね、先輩と違って﹂
﹁なるほどな。モテる人はモテるなりの苦労があるわけだ﹂
﹂
少し考えれば分かった事である。あの葉山がクリスマスに特定の女子と過ごすわけ
がない。葉山なりの誰も傷つけない方法なのだろう。
﹁あーまぁこたつにでも入るか椅子に座るなりなんなりしてくれ﹂
グに出た所でちらっとこっちを見てきた。
ブーツを脱ぎ終わった一色は再度お邪魔しますと言って奥に入っていった。リビン
﹁あざとさすらなくて単純に怖ぇ・・・﹂
思ったので﹂
﹁先 輩 を 卑 下 す る こ と で そ ん な 先 輩 に 絡 ん で く れ る い い 後 輩 っ て い う の も あ り か な と
?
﹂
﹁先輩苦労とかしてるんですか
?
いろはすは冷たくなくても美味しいよ
﹁なんか今日の一色冷たくない
?
居ない主な理由なのだろう。
そこが生徒会長として一年生ながら仕事をこなし、生徒会内に批判するような人間が
礼儀は守る人間である。
ピンポン連打はマナーとしてどうなのかと言いたい所だが、基本的に彼女はマナーや
﹁じゃあ失礼しますねー﹂
番外編 クリスマス
48
﹂
だがしかし、それとこれとは話が別である。
﹁先輩もこたつ入ったらどうですか
﹁あぁ・・・﹂
﹂
?
がいるボードゲームは全くない﹂
﹁でも小町ちゃんと二人でできるものならあるんじゃないですか
やりましょうよー﹂
﹁あー、一応あるな。オセロとか﹂
﹁オセロいいですね
!
人生ゲームとか、人数
﹂
?
?
﹁わざわざ来てもらって悪いがこの家には大したものは無いぞ
う家に入れてしまった時点で手遅れだろう。人間、諦めも肝心である。
少しずつ論点がずれて一色と過ごすクリスマスというのが確定していっているが、も
﹁まぁ先輩がお家で後輩と過ごすクリスマスがいいなら私もそれでいいですけど﹂
﹁家﹂
﹁じゃあ何処に行きますか
﹁心配しなくてもクリスマスは独りで楽しめてるから大丈夫だ﹂
おうという可愛い後輩なりの配慮です﹂
﹁さっきも言いましたけど、葉山先輩はあれなので、先輩にもクリスマスを楽しんでもら
一色の向かいに座り、こたつの温もりに気が緩む。
?
49
ごく自然にこの場に居ることを許してしまっているが、小町以外とこうして家でこた
つを囲むのは初めてだ。
﹂
不思議と違和感は無い。きっと人に積極的に関わっていくが、嫌がられる事の少ない
一色だからなのだろう。
﹂
オセロを持ってきてこたつ机の真ん中に置く。
﹁先輩は何色が良いですか
﹁あー、黒で﹂
﹂
?
﹁毎回思うけど一色ってほんと勝負事好きだよな﹂
特に異性と勝負して損になる
﹁勝った方が負けた方に一つ言う事を聞かせるって事でどうですか
へーそうですか、と一色は軽く流しながら盤の準備を終えた。
﹁いや、一色は白を選ぶんじゃねぇかと思ったから消去法で﹂
﹁先輩って黒好きなんですか
?
﹁そういう先輩こそぼっちのわりに対人の勝負事好きですよね﹂
ゲームだって本気で考える﹂
﹁安心してくれ、俺は異性にも後輩にも妹にだって勝負事で手を抜くことは無いし、罰
事は基本的に無いですし﹂
?
?
﹁女の子はいつだって勝ち負けをつけたがるものですよ
番外編 クリスマス
50
﹁馬鹿言え俺の相手はいつだってゲスト様だ﹂
先手は私で、と一色が可愛らしい手つきでくるっとひっくり返す。その後も続いて交
﹂
互に進めていき、後半になると一色の表情が険しくなってきた。
﹁んー先輩、ここの石ひっくり返してくれませんか
﹂
?
目の前にいる後輩は遠慮なく、既にこちらが取っていた角の黒石を裏返した。それま
ば、そう思っていたのだが。
の指していた石は後からでも裏返せる位置にあるし、それを考えた上で次の手を考えれ
とルール完全無視の妹とやり合っていた兄としては大したものではない。現に一色
﹁お兄ちゃん、小町はここの石が欲しいなぁ﹂
だがこれぐらいのハンデならば事ある事に
やったーと一色は嬉しそうな声を上げた。
﹁はぁ・・・いいよ1枚ぐらいひっくり返しても﹂
したら大丈夫ですよね
﹁じゃあ偶然ひっくり返ったって事なら意図してないですし、お互い気付いて無い事に
﹁一色、オセロに自分の石を意図的に相手にプレゼントするなんていう機能は無いぞ﹂
まで考えて彼女の言っていることが理解出来た。
指さしているのは黒石。ひっくり返す事が出来るのは一色の方だと思うのだか、そこ
?
51
で角付近を染めていた黒が一斉にひっくり返る。
﹂
﹂
﹁おい、ていうかひっくり返るのかよ﹂
﹁男に二言は無いですよね
﹁絶対に勝つ﹂
?
後半に不正があったものの普段から小町やCPU改めゲストさんと指しているだけ
て一色を煽る。
勿論ぼっちの俺にはそんな周りは居ないし、かっこよさなど求めていないので、勝っ
存在という人物像が生まれる。
逆境についても触れないからだ。本人が触れなければ周りが触れ、周りから認められる
のだ。世の中の逆境系主人公が何故あんなにもかっこいいのか、それは相手をけなさず
ものではなく、圧倒的なハンデから負けたという事実に悔しがる一色が見たいというも
さながら逆境系主人公だが、理由はただひとつ。逆境からの勝利でかっこいいなんて
たい事が無いわけでは無いが、ここはあえてこの上で勝つ事に意味がある。
小町ですらやらなかった角取りからひっくり返す所までやりきるという暴挙に言い
﹁お、先輩が珍しく燃えてる
!
あって、難なく勝ってしまった。
﹁負けました・・・﹂
番外編 クリスマス
52
どんな言葉をかけてやろうかと考えていたが、目の前で素直に悔しがる一色を見てい
たら、失礼な気がして罪悪感が芽生えてしまった。
かといってこんな時にどう反応すればいいかなどわかるはずもなく、
る。
﹂
﹁ちなみに一色のお願いは何だったんだ
﹁ケーキ作りです﹂
﹁買って来いじゃなくて
﹂
?
スマスケーキを一緒に食べるっていうのも距離を近付けるのに有効ですけど、それだけ
!
?
﹁先輩の中の私のイメージが気になりますけど、買うんじゃなくて作るんですよ
クリ
えっへんと胸を張る一色にあざといサンタが居たものだと思いつつ、お願いを考え
﹁折角ですし何かひとつ可愛い後輩がなーんでも聞いてあげますよー﹂
﹁俺の必死のフォローを返してくれ﹂
﹁いえ、どうしてもして欲しい事があったので勝ちたかったなぁって﹂
﹁小町で慣れてるしあれぐらいなら全然気にしないし、別にそこまで落ち込まなくても﹂
ど・・・﹂
﹁先輩、フォロー下手すぎて逆効果です。不正した上で負けちゃった私が悪いんですけ
﹁まぁそういう時も・・・あるんじゃねえか﹂
53
じゃ押しが弱いかなぁと思いまして﹂
手作り﹂
﹁まぁ葉山だけじゃなく男は手作りって言葉に弱いもんなぁ﹂
﹁先輩も弱いんですか
﹂
!
た事をぽろりと零すと、
グはあったが、大きな失敗もなくプチカップケーキが完成した。ホールと思い込んでい
れていてこたつのすぐそばに置いていた食材が少し温くなっていたりと多々ハプニン
エプロン姿の一色が思いの外あざとさの無い可愛らしさで驚いたり、冷蔵庫に入れ忘
かっただろうし、これはこれでいいだろう。
自然な流れで勝者のお願いは無かった事になっているが、どちらにせよ思い付かな
﹁そうと決まれば台所へレッツゴーですよ
﹁用意周到だな・・・始めからやる気満々じゃねえか﹂
﹁ケーキの材料は買ってきてるので一緒に作りましょうよ、先輩﹂
からだが、あれは厳密には自分に向けた手作りではないのでほぼノーカウントだろう。
ないと言い切らなかったのは頭の中に由比ヶ浜の黒焦げたクッキーが思い浮かんだ
﹁弱いよちょー弱い、貰った事なんてほとんどないがな﹂
?
と考えてなさそうで考えている一色に馬鹿にされてしまった。幾つかを小町や家族
﹁小さい方が可愛らしくていいんですよー。大きいと重いと思われるじゃないですか﹂
番外編 クリスマス
54
の分に置いておき、二人で二個づつ食べる事になった。
﹂
?
ぜひ料理スキルを伸ばすことをお勧めしますねー﹂
!
﹁いや、これは俺なりの相手が帰りやすい気遣いだ﹂
﹁先輩って相手するの面倒臭いオーラほんと隠しませんよね﹂
﹁そうか、じゃあさっさと帰ってくれ﹂
﹁あ、そろそろ帰らないと家族でクリスマスパーティーするので﹂
会長である。
一色は何故かうんうんと嬉しそうにうなづいている。後輩ながら面倒見のいい生徒
﹁料理なら家でできるし暇な時にやってみるか・・・﹂
﹁一応褒めてはいますよ
﹁振ってるんだか褒めてるんだかわからねー﹂
どまだ無理ですごめんなさい﹂
﹁そうですけど・・・ってなんですか口説いてるんですか確かにその点は結構好みですけ
﹁一色もそうなのか
女子の中には一緒に料理が出来る男の人がいいって子結構いますし﹂
﹁うわぁ・・・あ、でも料理ができる男の人って女子から見たらポイント高いですよー。
﹁専業主夫希望だからな、イメトレぐらいはしてる﹂
﹁先輩って料理しないというわりに手際は良いですよね﹂
55
﹁どっちでも良いですけど・・・﹂
﹂
喋りつつ帰りの支度も終わり、玄関に着いたところで一色が振り返った。
﹁じゃあ先輩、また学校で
!
比企谷八幡の家族以外と初めて過ごすクリスマスはこうして幕を閉じたのである。
そうしてあざとくうるさい後輩サンタは帰っていった。
﹁おう﹂
番外編 クリスマス
56