⼒学 第8回 剛体の⼒学(2) 回転運動 担当: 明愛国,杉正夫 1 剛体の回転運動 前回授業で説明したように,剛体の⾃由度は 位置の⾃由度(=並進運動の⾃由度) 姿勢の⾃由度(=回転運動の⾃由度) で表される よって剛体の運動は,並進運動と回転運動の 重ね合わせによって表現できる まずは簡単な場合として,「剛体が並進運動 せずに回転していて,なおかつ 回転軸の向きが固定」である場合を扱う 2 角運動量と運動⽅程式 前回(第7回)授業で,連続体剛体の 重心を求めるときに まず連続体を微⼩質量要素に分割する 「微⼩質量要素の⾜し合わせ」を積分に変換 という⽅法を取った 連続体剛体の角運動量についても,同様 の⽅法で考える 3 剛体が 平面内を回転 回転軸は 点まわりで 軸⽅向, 角速度を とする 微⼩質量要素 が 位置 にあり,速度 を持つ と を極座標形式に直す (1) (2) ↑ , , を利⽤ 4 ここで剛体の 全角運動量 を考える (多質点系の全角運動量 →第5回授業資料参照) 回転軸が 軸⽅向なので, であることは⾃明, よって以下では のみ考える は 外積の定義と前ページ(1)式,(2)式から となる. 5 (前ページより) 全角運動量 の 成分 は となる. ここで新たに 慣性モーメント という量を導⼊すると,上式の は と簡単に表すことができる. 6 剛体回転の運動⽅程式 第5回講義で示したように,多質点系では 全角運動量 に対して となる ( : 外⼒のモーメントの総和) ここで多質点系が,xy平面内を回転する 剛体(→4〜6ページ参照)の場合, となる.これが剛体回転の運動⽅程式 7 回転運動と直線運動の対応関係 剛体の回転運動 (角運動量 ,慣性モーメント , 角速度 ,外⼒のモーメントの総和 ) 直線運動(簡単のため1個の質点とする) (運動量 ,質量 ,速度 ,⼒ ) 回転運動における慣性モーメントは, 直線運動における質量に対応する 8 例題 点まわりに回転する円板 O 点まわりの慣性モーメント 角速度の初速 時刻 に,円板にブレーキを の⼒で押し付けた 円板とブレーキの動摩擦係数 ブレーキは固定(動かない) 円板の角速度 の時間変化を求めよ 9 例題 回転の運動⽅程式(7ページ) O これを当てはめると運動⽅程式は ( ) ( ) ,整理して , 積分して ( :積分定数) 初期条件 より, ,よって 10 剛体回転のエネルギー 連続体剛体の角運動量を導出 した時(p.3-6)と同様に,微⼩ 質量要素ごとの運動エネルギー を求めて,その総和を取ればよい = 微⼩質量要素ごとの運動エネルギー: よって剛体全体の回転運動エネルギーは は慣性モーメント の定義そのもの (→p.6) 11 回転運動と直線運動の対応関係 (再) 8ページでも述べたように,回転運動と直線運動 との間で変数の対応関係がある.下表の通り. 直線運動 回転運動 質量 慣性モーメント 速度 角速度 ⼒ ⼒のモーメント 運動量 角運動量 運動⽅程式 運動⽅程式 運動 エネルギー 運動 エネルギー 12 慣性モーメントの計算 前回授業で,多質点系の重心の式を 連続体剛体の重心の式に拡張した 連続体を多数の微⼩質量要素へと分割し, 「微⼩質量要素に関する和」の極限値を取り, 和を積分へと置き換える 慣性モーメントについても,同様の考え⽅ で連続体剛体の場合に拡張可能 以下,具体例を挙げながら 慣性モーメントの計算法を説明 13 最も簡単な例 ⼩物体と細い棒 ⼩物体の重さ ,大きさは無視できる 棒の重さは無視できる 回転軸から⼩物体までの距離: 慣性モーメントの定義式(6ページ) 上式を当てはめると, この系の慣性モーメントは 14 2つの⼩物体 先ほどと同じだが, ⼩物体が2つある場合 慣性モーメントの定義式 に当てはめると,この系の 慣性モーメントは 15 輪 (連続系) 輪(円環)が中心まわりに回転 輪の重さ ,半径 輪の線の太さは無視できる 回転軸の向きは輪の作る面に対して垂直とする 輪の線密度を仮に とし,微⼩質量要素を とする 定義式に当てはめると Δ 16 ,ここで角度の刻み幅 を⼩さくするように極限を取ると, 和を積分に変換できて → を Δ 積分範囲は,円周を一回りするような 範囲とする. あるいは などに すればよい. よって " " ところで線密度 は,輪の半径 と重さ から のはずなので,これを上式に 代⼊すると, 17 備考 重さ の質点(→p.14)でも, 重さ の円環(→p.16-17)でも, 慣性モーメントはどちらも 同じ になる. 一般に,合計 の質量がすべて回転軸から 等距離 に存在していれば, になる. 慣性モーメントは 18 均一な細い棒 (1) ⻑さ ,質量 ,左端が回転軸 線密度 と置く 棒に沿って 軸を取り,微⼩質量要素を とする.微⼩質量要素の慣性モーメ ントは となる. 後は を で積分すれば棒全体の慣性 モーメントが求まる.積分範囲は と すればよい. # 19 均一な細い棒 (2) 先ほどの棒と質量・⻑さは同じ ただし回転軸が左端ではなく中央 前ページと積分範囲だけ変えれば求まる 前ページの積分範囲は 今度の積分範囲は % $ & % ' & # # だが, となる % $ & % ' & 20 備考 同じ棒でも慣性モーメントが変わる 端で回す場合(p.19): 中央で回す場合(p.20): つまり 端 中央 同じ物体でも,慣性モーメントは 回転軸の位置や向きによって変わる 野球のバットやテニスラケットなどを,一杯に ⻑く持つより握りを余らせて短く持つ⽅が 軽く振れるのは,このため 21 均一な薄い板 幅 ,高さ ,質量 面密度 ( とおく 回転軸に沿って 軸を取る [幅 ×高さ ] の微⼩質量要素を考える. この微⼩質量要素の慣性モーメントは, p.20 の結果が利⽤できて ( となる これを で積分(積分範囲 )すれば 板全体の慣性モーメントが求まり, ( 22 備考 細い棒の慣性モーメント (p.18)と,薄い板の慣性 モーメント(p.20)は同じ値に なった どちらも 質量分布が回転軸と平⾏な⽅向に広がって いても,慣性モーメントには影響しない 23 均一な円板 半径 ,質量 面密度 ( とおく 微⼩質量要素を,右図のような 「内径 ,厚み の輪」にすると, p.16-17の結果が利⽤できて, この微⼩質量要素の慣性モーメントは ( 上式を で積分(積分範囲 ( ( )すればよい ) 24 均一な円筒 半径 ,高さ , 質量 21ページで述べたように, 回転軸⽅向に質量分布が広がっても 慣性モーメントには影響しない. よって円筒の慣性モーメントは p.22の円板の場合と同じになる. 25 その他の形状の慣性モーメント いずれも,微⼩質量要素を適切に決めて 積分すれば求まるが,導出は略 質量 の物体の慣性モーメント 形状 回転軸 慣性モーメント 球 (半径 ) 中心 * 球殻 (半径 ) 中心 円錐 底面の中心と頂点とを結ぶ線 (半径 ,高さ任意) + + + 26 平板状の剛体に関する定理 P.21で述べたように,同じ剛体でも, 回転軸の位置や向きによって 慣性モーメントは変わる 特に薄い平板状の剛体については, 平板に垂直な回転軸( 軸とする)の慣性モーメント 平板に含まれる回転軸( 軸, 軸とする)の慣性モーメント の間に一定の関係が成り⽴つ. これを⽤いると, 軸まわりの慣性モーメントを より簡単に求めることができる 27 平板状剛体に対して, 面に垂直な向きに 軸, 面内に 軸・ 軸を取る 微⼩質量要素 の 軸まわりの 慣性モーメントは よって平板全体の 軸まわりの 慣性モーメントは 三平⽅の定理から なので, は,平板の 〃 よって 軸まわりの慣性モーメント 軸 〃 となる 28 /2 例題 − 2 幅 ,高さ ,質量 の⻑⽅形 軸まわりの慣性モーメント を求めよ -2 −/2 軸まわりと 軸まわりの慣性モーメント , p.22の結果から は , ここで前ページの通り なので 29 平⾏軸定理 ここでは,回転軸が剛体の重心からずれて いるような場合を考える 重心からずれた回転軸まわりの慣性モーメ ントは,重心を通る軸まわりの慣性モーメ ントとどのような関係があるか調べる 30 0 原点 重心 ,その座標 微⼩体積要素 の 絶対座標 重心からの相対座標 O ( ( ( 2 0( G ( 回転軸: 軸 (原点 を通り画面に垂直) 31 微⼩体積要素 の原点 慣性モーメントは ( まわりの 0 より上式は O 2 0( G ( ( ( 剛体全体の慣性モーメント は ( ( ( ( 32 剛体全体の原点 まわりの 慣性モーメント は 0 ( O 2 0( G ( ここで, (全質量), ( 3 (重心 まわりの慣性モーメ ( ント)であり,また (第5回授業 資料のp.6参照) であるので,結局 は となる. 3 これを平⾏軸の定理という. 33 平⾏軸の定理の意義 重心まわりの慣性モーメントが わかっていれば,重心から ずらした軸のまわりの 慣性モーメントも簡単に求まる 例えば右図の場合, A点まわりの慣性モーメント 4 は 3 4 5 4 3 重心からずらした軸まわりの慣性モーメント は,距離だけで決まり,⽅向によらない 右図の場合, 5 3 4 重心まわりの慣性モーメントが最⼩である 34 例題 おもり:質量 滑⾞: 慣性モーメント ,半径 重⼒加速度 時刻 のとき おもりの初期変位 (下向き正), 初速 とし, 滑⾞の回転角の初期値 (左回り正), とする 角速度の初期値 おもりの変位 ,速度 ,加速度 , 滑⾞の変位 ,角速度 ,角加速度 を それぞれ求めよ. 35 ひもの張⼒を として 運動⽅程式を⽴てると, 以下の通り & おもり: 滑⾞ : & & & (1) (2) 36 滑⾞の回転角 とおもりの変位 の関係は 上式の両辺を2階微分すると & & & & これを(1)式に代⼊して & & & を消去して整理すると & ,よって & 上式を(2)式に代⼊して & & & を消去すると , よって 時間 で2回積分して初期値 ( & & 6 7 6 &$ )に合わせると,次ページの通り 37 おもりの各変数の解は以下の通り 変位 6 &7 6 &$ 速度 6 &7 6 &$ 加速度 6 &7 6 &$ 滑⾞の各変数の解は以下の通り 回転角 角速度 角加速度 6 7 6 &$ 6 7 6 &$ 6 7 6 &$ 38
© Copyright 2024 ExpyDoc