金融政策は限界、金利も転換

リサーチ TODAY
2017 年 1 月 17 日
金融政策は限界、金利も転換
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
時はすでに2017年、1月20日に米国トランプ次期米大統領の就任を待つばかりになった。筆者が昨年
後半からストーリーラインとして語っているのは、2016年は歴史的に大きな節目の年ではなかったかとの意
識である。それは、トランプ・ショックという想定外のサプライズとして象徴的に語られやすい。同時に、その
底流には世界的バランスシート調整における閉塞感がある。TODAYでも昨年に何回か論じた「3L」、すな
わち、低成長・低インフレ・低金利の現実からの逆バネがトランプ・ショック、つまり世直しとしてのサプライズ
を生じさせたと考えてきた。さらに、極まった閉塞感への処方箋として金融政策に極限まで依存した状況が
出現し、現象面として金利水準が歴史的なボトムを付けるに至った。また、金融政策への過度な依存から
の代替政策の模索も生じたと認識している。下記の図表は日米独の10年国債利回りの長期推移を示す。
これらの利回りは1980年代初に歴史的ピークを付けたあと、長期にわたる傾向的な低下を30年以上続け、
2016年にボトムを付けた。2016年の半ばに記録された米国10年金利の1.358%、日本の▲0.295%、ドイツ
の▲0.189%がそのボトムにあたるものだ。その後は、依然として先述の「3L」の後遺症が残り、「V字型」上
昇にはならないだろう。その道筋は「L字型」か、せいぜい底が長い「U字型」かもしれない。いずれにしても
金利が再び、2016年のそのボトムにまで至ることはないのではないか。同様に、1970年代の金融の自由化
と緩和以降、金融政策に過度に依存してきた大きな潮流にも転換が生じたのではないか。
■図表:日米独10年国債利回りの長期推移
18
(%)
16
14
米国
ドイツ
日本
12
10
8
6
4
2
0
-2
1970
1975
1980
1985
1990
1995
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
1
2000
2005
2010
2015 (年)
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2017 年 1 月 17 日
下記の図表は先述した経済政策の潮流の長期的な変遷を示した概念図である。そもそも、1930年代の
世界大恐慌という未曾有のバランスシート調整による閉塞感が、世直しとしてそれまでの正統的な経済政
策を打ち破り、財政政策を重視したケインズ経済学の台頭を生んだ。戦後もしばらくは、ケインズ経済学の
潮流が続いたが、1970年代に高インフレ、高失業率というスタグフレーションのジレンマが生じたなか、正統
的ケインズ経済学とは異なる、マネタリストが台頭して経済学は金融政策を重視した潮流に転換した。この
潮流のもと、30年以上も金融政策に依存した経済運営が続き、それがマイナス金利政策も含めて極限まで
達したのが2016年となる。
■図表:政策に影響を与えた経済学派の変化
< 経済環境 >
< 重視される政策 >
(1936年)
ケインズ:一般理論
世界大恐慌(1929年)
財政政策
重視
(1970年代)
スタグフレーション
(高インフレ・高失業率)
フリードマン:第2次マネタリスト革命
金融政策
重視
(1972年)
ルーカス:合理的期待仮説
リーマン・ショック(2008年)
(2000年代)
3L(低成長・低インフレ・
低金利)の世界
財政重視
物価水準の財政理論(FTPL)
(金融・財政の一体運営)
(資料)みずほ総合研究所作成
当社は年初に「金融市場ウィークリー新春特別号別冊資料集1」の形で2006年から2016年までの主要市場
動向を発表している。過去10年近くを振り返ると、2007年以降それまでの日本に加え米欧でもサブプライム
問題からバランスシート調整が顕現化した。こうした大恐慌以来の「100年に一度」とも称された危機のなかで、
様々な処方箋が模索された10年間(decade)であった。10年に渡るバランスシート調整に伴う危機が繰り返さ
れるなか、金融政策において劇薬が益々投与された結果、マイナス金利が出現するまでに至った。しかし、
金融緩和を行っても内需回復が実現できず、外需に依存する「近隣窮乏化」の側面をもつ通貨戦争を強め
る結果となった。ただし、先進国の通貨戦争は本来ゼロサムゲームであり、この現実に対峙したことが、その
代替策としての財政への依存や、成長戦略等への期待を生じさせた。2017年になって財政を重視した物価
水準の財政理論(FTPL)が再び脚光を浴びているのは、このような背景があるためだ。先の図表のように、こ
の潮流は1930年代、1980年前後、さらに2010年代と、30から40年の大きなサイクルで生じている。
今日のトランプノミクスもこの閉塞感が生んだものと考えられる。遡れば、20年近く前からバランスシート調
整にあった日本が4年前から既に取り組んでいたアベノミクスも、バランスシート調整に伴う同じような閉塞
感の発想から出発していると評価することもできる。将来振り返れば、2017年は2016年の転換後、新たな潮
流が始まった年になるのではないか。
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「2016 年の回顧と 2017 年の展望 (新春特別号 別冊資料集)」 (みずほ総合研究所 『金融市場ウィークリー』 2017 年
1 月 5 日)
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