リサーチ TODAY 2017 年 2 月 28 日 3Lは転換?低成長・低金利に変化はあるも低インフレ続く 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 グローバル経済は、①ITサイクルの改善、②中国輸入の持ち直し、③資源価格の上昇、④財政政策に軸 足を移したポリシーミックスなどを背景に循環的な回復局面に至っており、こうした状況は2018年に向けて続 く見通しである。2016年以降みずほ総合研究所がストーリーラインとして掲げてきた「3L(低成長・低インフ レ・低金利)」の後遺症は続くが、成長率や長期金利は2016年を底に上昇基調に転じており、「3L」状況に変 化の兆しが見え始めている。当社は、世界経済の循環的な回復に関するリポートを発表している1。今後の見 通しのリスク要因としては、①トランプ政権による保護主義政策やドル安誘導への不安、②欧州を中心とした 政治的混乱や地政学的な緊張状況等があり、留意が必要だ。下記の図表は先進国・新興国の成長率の推 移である。2008年のリーマン・ショックで急落した後、一旦戻ったものの、2010年代以降は低成長トレンドが続 き、サマーズ元財務長官による長期停滞論等の不安が台頭するに至った。成長率の水準は依然としてリー マン・ショック前より下振れしているが、2016年を底に徐々に上昇が見込まれる。仮にトランプ政権の減税や 規制緩和が米国の潜在成長率を押し上げれば、中期的に低成長の罠を脱する可能性もある。 ■図表:先進国・新興国の成長率推移 (注)予想はみずほ総合研究所 (資料)IMF よりみずほ総合研究所作成 次ページの図表は先進国・新興国のインフレ率の推移である。インフレ率についても低下傾向が続き、 2015年には新興国においても低下が顕著になった。足元では資源価格の持ち直しからディスインフレ傾向 1 リサーチTODAY 2017 年 2 月 28 日 に歯止めがかかる兆しがある。ただし、先進国におけるコアインフレ率の上昇はいまだ緩慢であり、グロー バルな低インフレ状態を脱するまでには至っていない。 ■図表:先進国・新興国のインフレ率推移 (%) 12 世界 先進国 新興国 10 世界的なディスインフレ 傾向に変化の兆し? 8 6 4 2 0 -2 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (注)エネルギー・食料を含む総合消費者物価の上昇率。 (資料)IMF "International Financial Statistics"よりみずほ総合研究所作成 このように「3L」に変化が生じた背景には、先に触れたように世界的な経済政策のポリシーミックス転換が ある。下記の図表は世界の主要国の財政政策のスタンスを示す。先の「3L」のトレンドのなか、これらの 国々は金融政策一辺倒で来たために、金融緩和を競う状況が通貨戦争として生じた。2016年には金融政 策の限界が意識され、代替的な政策として財政政策や成長戦略への期待が生じた。今後更なる進展があ るかは、財政緊縮が続く欧州においてスタンスの転換が生じるかに依存する。反EU政党の台頭が財政拡 大のインセンティブになるため、今後の政治情勢には注目が必要だ。これらの状況を総括すると、低成長・ 低金利要因には、2016年を底とした転換が生じたが、低インフレ状況は脱したとは言いにくい。転換は生じ たものの、世界的なバランスシート調整の圧力残存から経済の回復力は限られる。金利は上昇トレンドへの 第一歩を踏み始めたとはいえ、金利はなかなか上がりにくい状況が続くだろう。中央銀行の姿勢も引き締 めを急ぐ状況にはなりにくいなか、金利は比較的低位で株価が上昇するゴルディロックス状況が続いていく だろう。 ■図表:世界の主要国の財政政策のスタンス 財政政策のスタンス 米国 トランプ政権は大型減税を掲げ、歳出面でも国防費やインフラ投資拡大 ユーロ圏全体では 2017 年にかけ中立財政継続。英国はメイ首相に代り財 欧州 政拡張に転換。反EU勢力台頭により財政拡大のインセンティブも。 日本 2016 年秋に決定した経済対策(事業規模 28 兆円)の執行が進捗。 2016 年に引き続き 2017 年も「積極的財政政策をより積極的かつ効率的」に 中国 して景気を下支え。 影響度 ○ ― △ ○ (資料)みずほ総合研究所作成 1 武内浩二 「世界経済は循環的な回復局面」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2017 年 2 月 15 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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