リサーチ TODAY 2017 年 1 月 18 日 2017年もユーロ圏は問題含み 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 ユーロ圏については、2017年も不安材料が語られることが多いが、10~12月期の景気は回復を続けて おり、その回復ペースは前期よりやや加速した模様だ。成長率との連動性が高いユーロ圏合成PMIは12月 に54.4と3カ月連続で上昇し、10~12月平均(53.9)は7~9月平均を上回った。みずほ総合研究所は、『み ずほ欧州経済情報』で12月の景気判断として「ユーロ圏景気は回復が続く」としている1。2017年は先進国 のうち、米国と日本では2016年を上回る回復が予想され、ある程度明るい展望が見込まれる年となる。一方、 ユーロ圏については鈍化が予想され、しかも回復の糸口を探ることが困難な状況にある。さらに、ユーロ圏 では政治的な不安が経済面の不安定さを加速させやすいことにも留意する必要がある。2017年は欧州が 様々な側面で不安の中心になりそうだ。 ■図表:ユーロ圏PMI推移 55 合成PMI 製造業 サービス業 54 ← 拡 張 (Pt) 53 景 52 気 → 51 縮 小 50 49 2014/12 15/12 16/12 (年/月) (注)50 が好況・不況の境目の目安。 (資料)Markit よりみずほ総合研究所作成 先述のように足元のユーロ圏の数字には回復が見られるが、2017年を展望すると、次ページの図表に示 した3つの理由からユーロ圏の景気回復ペースは鈍化すると考えている。第1は、個人消費の減速が見込 まれることだ。油価の持ち直しに伴い家計の実質賃金が下押しされやすいことがその要因である。第2に、 固定投資の低調さである。これについては英国とEUの関係の不確実性拡大が原因となる。第3には、財政 面からの景気押し上げが期待できないことがある。この点は、日米が金融政策への過度な依存から財政政 1 リサーチTODAY 2017 年 1 月 18 日 策に傾斜し始めていることと大きく対照的である。 ■図表:2017年のユーロ圏景気見通しの論点 【景気見通し上のメインシナリオ】 個人消費は減速 油価の持ち直しに伴うインフレ率上昇が、実質賃金を下押し。労働需 給がタイトなドイツでさえ企業が賃上げに慎重なため、名目賃金の拡 大に期待できず 固定投資は低調 英国とEUとの将来関係を巡る不確実性が残存するため、企業は投資 への慎重姿勢を維持する公算大 財政は景気に中立的 各国の予算案を踏まえると、2017年はユーロ圏全体で中立財政の計 画。2016年のような財政面からの景気押し上げは見込めず (資料)各種資料よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は、2017年のユーロ圏の選挙スケジュールを示す。ユーロ圏にとって今年は選挙イヤーであ り、そこではEU懐疑政党の議席拡大が予想される。現段階での世論調査等から判断して、図表に示したよ うに、オランダ、フランス、ドイツのいずれかにおいてEU懐疑勢力が台頭しても、政権を握るまでには至らな いと予想される。ただし、実際には、2016年のBrexitやトランプ現象等でみられたように、世論調査に表れ ない「隠れ懐疑派」が存在する可能性はある。そのため2016年同様、選挙が想定外の結果になるリスクに は十分留意が必要であろう。2017年のリスクは引き続き欧州にあるのではないか。 ■図表:2017年のユーロ圏選挙スケジュール 2017年 選挙とそのメインシナリオ オランダ下院選挙 EU懐疑政党「自由党」が比較第1党となる可能性。ただし、単独過 半議席の獲得は困難、選挙後の組閣に時間がかかる見込み フランス大統領選(初回投票) 4月 EU懐疑政党「国民戦線」ルペン党首が決選投票に進む公算大 フランス大統領選(決選投票) 5月 反ルペン票が結集、極右大統領の誕生が阻止される見込み ドイツ下院選挙 8~10月 反ユーロ政党「ドイツのための選択肢」は躍進も、メルケル首相率 いる「キリスト教民主同盟」が比較第1党となる見込み イタリア総選挙 年内? 下院選挙制度に関する憲法裁の判断(1月中)の内容次第で、年 内に前倒し選挙の可能性も 3月 (資料)各種資料よりみずほ総合研究所作成 1 『みずほ欧州経済情報』 (2016 年 12 月号 2016 年 12 月 27 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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