リサーチ TODAY 2017 年 2 月 13 日 円安でも輸出低迷、競争力向上は安全とブランド化で 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 2013~2015年までの円安局面における輸出低迷の背景には、世界の経済成長の鈍化や、世界的な投 資停滞、中国の自給率向上に伴う世界の輸入依存度の低下、中国の輸出競争力向上に伴う日本の輸出 シェア低下があった。みずほ総合研究所は、日本の輸出低迷に関するリポートを発表している1。 世界的な景況感回復や、ITサイクル改善から2017年は緩やかな輸出改善を見込むが、中国の構造調 整や世界的な保護主義化の流れが下押し要因として存在する。それだけに、競争優位を保ち得る分野で の日本の輸出シェア拡大が必要になる。先進国が輸出競争力を維持できているのは、安全、ブランド、資 源を差別化要素とする品目である。競争力強化に向け、日本でも産業クラスター形成支援や海外マーケテ ィング支援などの政策強化が必要になる。下記の図表は日本の実質輸出を寄与度分解したものだ。2013 年~2015年にかけて、円安に転じたにも関わらず、輸出が低迷したのは、①世界の成長の伸び鈍化、② 世界の輸入依存度の低下、③日本の輸出シェアの低下が背景にあることがわかる。こうした状況が構造的 な要因によるならば、円安が続いても輸出が増加しないため、これらの要因に対処することが日本として必 要になる。 ■図表:実質輸出の寄与度分解 30 (%、前年比) 20 10 0 日本輸出シェア要因 -10 円安局面でも 日本の実質 輸出は伸び悩み 世界輸入依存度要因 世界実質成長率要因 -20 実質輸出 -30 00 02 04 06 08 10 12 14 (年) (注)2016 年の世界 GDP、世界輸入は IMF 予測値。 (資料)IMF、日本銀行「実質輸出入の動向」よりみずほ総合研究所作成 輸出低迷の第1の要因は世界経済の減速であったが、2017年には世界経済が改善の流れにあることが 1 リサーチTODAY 2017 年 2 月 13 日 プラスファクターだ。第2の要因は、世界の輸入依存度の低下である。中国の供給過剰は残存しており、こ のことが同国の輸入依存度を下押しする要因として今後も働きそうだ。第3の要因は日本の輸出シェアの 低下である。下記の図表に示されるように、日本の輸出シェアは低迷している。円安局面であった2013年、 2014年でもドル建ての日本の輸出シェアは緩やかながらも縮小し、2015年も小幅な伸びにとどまった。この 背景には、中国の輸出シェア拡大があるため、日本としても競争力を回復する必要がある。 ■図表:主要国の世界全体に占める輸出シェア (%) 20 中国 米国 ドイツ 日本 フランス その他(右目盛) (%) 70 16 66 12 62 8 58 4 54 50 0 2012 2013 2014 2015 (年) (資料)UN Comtrade よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は、中国のシェアが拡大する中でも、先進国が輸出競争力を維持強化できている3類型を 示している。先進国が輸出競争力を維持・強化できているのは安全、資源、ブランドの3類型に集中してい る。このうち、第2の資源は日本の優位性を発揮しにくい分野のため、技術や品質面が差別化要素となる。 つまり、第1の安全や第3のブランドが日本の競争力を高める分野だろう。競争力の強化に向けては、①海 外でのブランディングやマーケティングの支援、②グローバルな規格標準化支援、③産業クラスター形成 支援等、での日本側からの一層の取り組みが重要になる。これは、日本にとって不可欠な成長戦略と位置 付けられる。 ■図表:先進国が輸出競争力を維持強化できている3類型 類型(差別化要素) 安全 品目 (技術) 航空機、自動車、医療用品など (品質) 食品、飲料など 資源 ニッケル、銅、亜鉛、鉛、木材、鉱石など ブランド 毛皮、時計、美術品など (資料)UN Comtrade よりみずほ総合研究所作成 1 有田賢太郎 「円安局面での輸出低迷の背景と足元の回復の持続性に関する考察」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2017 年 1 月 26 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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