"繊維機械へ進出することになったプリンス自動車で は、繭から糸を紡ぐ手作業を自動化する操糸機をつ くった。自動化された操糸機は、世界シェア約80% を占める大成功となり、繊維機械の開発へとつな がった。 当時、繊維機械業界では杼を使った有杼 (シャットル)織機をつくっていた。しかし、重量 のある杼を往復させる機械では、高速化に限界が あった。1960年頃から、プリンス自動車では、杼を 使わない無杼(シャットルレス)織機の開発をはじ めた。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "無杼織機として登場したのが、水で使ったウォー タージェットルームである。普及の背景には、合成 繊維の登場がある。1938年、アメリカのデュポン社 が合成繊維のナイロンを開発。1951年から日本でも 本格的な生産がはじまっていた。ナイロンは水に濡 れても切れることはなく、その点、ウォーター ジェットルームの特質とあっていた。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "――ウォータージェットルームの開発 プリンス自 動車では、当初は空気を使ったエアジェットルー ムの開発を考えていた。ウォータージェットルー ムは水を使うため、濡れたら織物にならないと考え ていたのだ。しかし、当時の技術力では、空気で糸 を飛ばしたとしても、空気が拡散してしまい織物に ならなかった。 水の収束性のよさに着目し、より実 現の可能性の高いウォータージェットルームの開発 がはじまった。すでに1955年にはチェコスロバキア のコボ社が開発していたが、実用化はされていな かった。プリンス自動車はコボ社が開発した織機を 実用化するため、革新的な技術を考案し、1964年頃 から販売がはじまった。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "プリンス自動車は1966年頃に日産自動車と合併 し、販売を継続したが、その後、日産テクシス (100%日産の子会社)へ織機生産を移行。さらに 1999年4月、豊田自動織機製作所(現、豊田自動織 機)にウォータージェットルーム部門が営業譲渡さ れ、現在も販売は続いている。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "ウォータージェットルームの開発に取り組んだの は、プリンス自動車だけではなかった。 遠州織機で は一時、開発に取り組んだが、採算があわずにあき らめた。1959年から競って開発がはじまったウォー タージェットルームだったが、多くの企業は、エア ジェットルームへと移行していった。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "1974年頃から、石川県にあるフィラメントの織 機メーカーである津田駒が、フィラメント織機のノ ウハウを活かして「ZW」を販売。現在では、豊田 自動織機と津田駒の2社が、世界の主要市場で販売 している。 販売先は、以前はアメリカやヨーロッパ が多かったが、この20年間は台湾、韓国、中国、イ ンドネシア、タイなどのアジアで80%以上を占めて いる。台湾から韓国、中国へと販売先が移り、今後 は中国での販売が伸びると考えられている。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "合成繊維ではないスパン糸でつくる織物には、織 物のふちに耳とよばれる横糸を折り返す部分がなけ ればだめで、房状になった耳房があってはいけな い。それは長い歴史のなかで当たり前になってい た。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "新しい分野であったフィラメントの織物は、耳房が あっても、断片繊維でもいいとされ、古い習慣に縛 られることがなかった。そのためウォータージェッ トルームの市場を育てた。さらに高度経済成長 期に合成繊維メーカーが企業規模を拡大したこと や、ナイロンの普及、ポリエステルといった新素材 の登場も、ウォータージェットルームの成長を後押 しした。洋服の裏地や絹の代わりとしてポリエステ ルが使われるようになり、女性のブラウス素材やア ウター(外衣)としてなど、ポリエステルの活用範 囲が広がると、さらにウォータージェットルームの 需要は伸びた。1975年当時、10年後にはウォーター ジェットルームはなくなると予想されていたが、現 在でもエアジェットルームと同じくらいの台数が販 売されている。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機 "――電子化への期待 ウォータージェットルームの 原理は、開発当時からほとんど変わっていない。ポ ンプから高圧の水を水鉄砲と同じ原理で飛ばし、飛 ぶ水の勢いで糸を運ぶという発想である。残された 技術革新は、水を飛ばし糸のよこ入れをする工程を どれだけ電子化できるかである。電子化されていな いため、人間のカンやコツを利用しながら1台ずつ よこ入れ調整をしている。エアジェットルームはデ ジタル制御で誰もが同じように設定することができ るが、ウォータージェットルームは人によってバラ ツキがでやすい。この技術が電子化されれば、現 在、合成繊維に限られている需要も、広がっていく 可能性が高い。 " ウォータージェットルーム開発への挑戦 株式会社豊田自動織機
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