空き家に係る譲渡所得の特別控除の 特例の創設

経 ViewPoint
2017.1.16
営相
談 空き家に係る譲渡所得の特別控除の
特例の創設
谷口敬三
相談部 東京相談室
平成28年度税制改正では、適正な管理が行われていない空き家の発生を抑制する観点か
ら、一定の要件を満たす空き家を譲渡した場合、または空き家とともにその敷地等を譲
渡する場合や、空き家除去後の敷地等を譲渡した場合には、その譲渡益から3,000万円
を控除できることになりました。
今回は、空き家の発生を抑制するための税制上の特例措置について、制度の概要を解説
します。
1. はじめに
わが国では、人口減少や都市部への人口集中が進行しています。それに伴い、例えば、都心で生活
する勤労者の故郷で暮らしていた親が亡くなり、親の自宅を相続で取得したものの、勤労者本人は故
郷に戻ることなく都心で生活を続け、相続した親の自宅が空き家になるなど、特に地方を中心に空き
家が増加しています。その中には、適切な管理が行われず、衛生的にも景観的にも、近隣住民の生活
環境に深刻な影響を及ぼしているケースがあります。そこで対応策として、平成 27 年5月に「空き家
等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、市区町村長はその撤去や修繕等を命令できるように
なりました。
このように、空き家を処分するために譲渡して譲渡益が生じた場合の税務に関し、従来の「居住用
財産を譲渡した場合の 3,000 万円の特別控除の特例」は、譲渡人本人が居住の用に供している財産を
譲渡した場合に、要件を満たせば、3,000 万円までの特別控除が認められるものです。しかし、この
特別控除は、例えば、1人で暮らしていた親が亡くなった後で、その相続人が親から相続した家屋や
敷地等を譲渡したようなケースでは適用されませんでした。
それが平成 28 年度税制改正により、空き家処分を促進させるために、親から相続した空き家を譲渡
した場合、または空き家とともにその敷地等を譲渡する場合や、空き家除去後の敷地等を譲渡した場
合にも、一定の要件を満たせば、譲渡益について居住用財産の 3,000 万円の特別控除が認められるこ
とになったものです。
1
V P
経 営
iew oint
相 談
2017.1.16
2. 特例の概要
[1]居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
(1)概要
この特例は、居住用財産(マイホーム)を譲渡し、一定の要件を満たすときは、所有期間の長短
にかかわらず、譲渡所得から最高 3,000 万円を控除し、所得税額と住民税額を計算することで税額
を軽減するというものです。
■特別控除の計算式
(2)適用要件
①自分の居住する家屋を譲渡するか、家屋とともにその敷地や借地権を譲渡すること。
なお、以前に居住していた家屋や敷地等の場合は、居住しなくなった日から3年目の年の 12 月 31
日までに譲渡すること。
また、居住していた家屋または居住しなくなった家屋を取り壊した場合は、次の要件をすべて満た
すことが必要です。
・当該敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ居住しなくな
った日から3年目の年の 12 月 31 日までに譲渡すること。
・家屋を取壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸付や業務用に供していない
こと。
②譲渡した年の前年および前々年に、この特例またはマイホームの買換えや交換の特例、もしく
はマイホームの譲渡損失についての損益通算および繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
③譲渡した家屋や敷地について収用等の場合の特別控除等、他の一定の特例の適用を受けていな
いこと。
④災害で滅失した家屋の場合は、当該敷地を居住しなくなった日から3年目の年の 12 月 31 日ま
でに譲渡すること。
⑤配偶者、親子等直系血族、生計一親族等特別な関係にある人に譲渡したものではないこと。
(3)適用除外のケース
①この特例の適用を受けることを目的に入居したと認められる家屋。
②新たに居住用家屋を新築する間だけ「仮住まい」として利用した家屋や、その他一時的な目的
で入居したと認められる家屋。
③別荘やセカンドハウスのように、主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋。
2
V P
経 営
iew oint
相 談
2017.1.16
(4)適用を受けるための手続き
以下の書類を添付して確定申告します。
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
・譲渡時、譲渡者の住民票記載住所と譲渡資産所在地が異なる場合等には、戸籍附表写し、その
他これに類する書類で、その者がその資産を居住の用に供していたことを明らかにする書類
[2]空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例(創設)
(1)概要
相続開始の直前において、被相続人の居住の用に供されていた一定の要件を満たす家屋、および
その敷地等を相続または遺贈により取得した個人が、平成 28 年4月1日から平成 31 年 12 月 31 日
までの間に譲渡した場合も、一定の要件の下、居住用財産を譲渡した場合に該当するものとして、
その譲渡益について 3,000 万円の特別控除の適用を受けることができるようになりました。
(2)適用要件
<家屋の建築時期と居住要件>
昭和 56 年5月 31 日以前に建築された家屋で、マンション等の区分所有建物ではなく、相続開始の
直前において被相続人以外に居住していた者がいなかったもの(以下「被相続人居住用家屋」
)
。
<対象となる譲渡>
①「被相続人居住用家屋」
(相続後に行われた増改築、修繕、模様替えを含む)の譲渡では、以下の
(イ)および(ロ)の要件を満たすものに限ります。また、
「被相続人居住用家屋」とともにする
「被相続人居住用家屋」の敷地等の譲渡は、以下の(イ)の要件を満たすものに限ります。
(イ)相続開始時から譲渡時まで、居住の用、事業の用、又は貸付の用に供されていたこと
がないこと。
(ロ)当該家屋が譲渡の時点で、地震に対する安全性に係る規定または基準として、一定の
ものに適合するもの(耐震性のないものは耐震リフォームをしたもの)であること。
②「被相続人居住用家屋」
(以下の(ハ)の要件を満たすものに限る)の取り壊し等の後、その敷
地等の譲渡の場合は、以下の(ニ)および(ホ)の要件を満たすものに限ります。
(ハ)当該家屋は、相続開始時から取り壊し等の時まで、居住の用、事業の用、または貸付
の用に供されていたことがないこと。
(ニ)当該敷地等は、相続開始時から譲渡時まで、居住の用、事業の用、または貸付の用に
供されていたことがないこと。。
(ホ)当該敷地等は、家屋取り壊し等の時から譲渡時まで、建物または構築物の敷地の用に
供されていたことがないこと。
<譲渡価格>
譲渡価格は1億円を超えないこと。
<適用期間>
平成 28 年4月1日から平成 31 年 12 月 31 日までの間に行われた譲渡で、相続の開始があった日
3
V P
経 営
iew oint
相 談
2017.1.16
から同日以後3年を経過する日の属する年の 12 月 31 日までに行われたものについて適用されます。
具体的には、相続発生日が平成 25 年1月2日以後であって、この適用期間の要件を満たす譲渡が
対象となります。
<他の特例との関係>
この特例は、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」との選択適用になります。また、
譲渡者本人の居住用財産に適用されることになる「居住用財産の買換え等の特例等の一定の特例」
とは重複適用が可能です。
①相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(選択適用)
相続や遺贈により土地、建物、株式等の財産を取得した者で相続税額があるものが、その財産を
相続開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後 3 年を経過する日までに譲渡した場
合は、その相続税額のうち一定額を譲渡資産の取得費に加算できるという特例。
②居住用財産の買換え等の特例等の一定の特例のうち一定のもの(重複適用可)
・前項「居住用財産を譲渡した場合の 3,000 万円の特別控除の特例」
(同一年に併用する場合は、
合計 3,000 万円が限度)
・特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例
・住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除
・居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除
・特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除。
(3)適用除外のケース
この特例は、相続開始直前に被相続人が単独で居住していた家屋が対象です。したがって、例え
ば、配偶者が同居あるいは1人住まいの場合で相続開始直前に老人ホームに入居し、空き家になっ
ていた場合は、適用の対象外となります。
(4)適用を受けるための手続き
この特例は、確定申告書に、
「被相続人居住用家屋」およびその敷地等の登記事項証明書、地方公
共団体の長等が本特例の適用要件(前述(2)-②「対象となる譲渡」
)を満たすことを確認した旨
を証する書類、売買契約書の写し等の一定の書類の添付がある場合に適用されます。
内容は2016年9月8日時点の情報に基づいて作成されたものです。
本情報は、法律、会計、税務などの一般的な説明です。個別具体的な法律上、会計上、税務上等の判断や対策などについては専門家
(弁護士、公認会計士、税理士など)にご相談ください。また、本情報の全部または一部を無断で複写・複製(コピー)することは著作権法
上での例外を除き、禁じられています。
みずほ総合研究所 相談部東京相談室
03-3591-7077
/
大阪相談室
06-6226-1701
http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/
4